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小林, 隆 KOBAYASHI, Takashi
文献国語史と言語地理学の提携により語史を構成するための基礎資料の一つとして,『日本言語地図』(国立国語研究所,昭和41~49年)の関連意味項目の全国方言分布を明らかにしようとした。語史研究は,文献国語史と言語地理学とが提携して進められることが望ましく,その資料として,言語地理学では主に『日本言語地図』が利用されてきた。ところが,『日本言語地図』の解釈を文献国語史と対照すると,両者の間で語の意味が対応しない場合があり,この点について詳しく考えるために,例えば〈眉毛〉に対する〈まつ毛〉など『日本言語地図』の関連意味項目の方言分布をあらたに調査した。項目は主に身体名称の50項目であり,通信調査法により全国1400地点分の資料を収集した。本稿は,この調査の目的と方法について論じたものである。
辻垣, 晃一
本報告は、函館市中央図書館と国立国会図書館で発見された新出の森幸安地図について調査した成果をまとめたものである。函館市中央図書館所蔵分(七点)からは、地図での校合方法や幸案に地図を提供した人物などを確認できた。国会図書館所蔵分(八十五点)からは、幸安が同形同内容の地図を二部ずつ大量に作成していた事実が判明した。
加藤, 祥 浅原, 正幸 山崎, 誠
『現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)』に分類語彙表番号を付与する作業を開始した。『分類語彙表増補改訂版』(2004)の分類語彙表番号を,短単位と長単位のそれぞれにアノテーションする。作業にあたり,人手でUniDic語彙素IDに対応させたデータ(近藤・田中,2017)を用い,該当可能性のある番号を列挙する。作業者は,該当する意味分類が選択可能であれば選択し,選択できない場合や対応のない場合には,新たに適切な番号を付与する。本発表では,番号付与作業基準と作業状況,作業結果を用いた調査例を報告する。
竹田, 晃子 三井, はるみ TAKEDA, Koko MITSUI, Harumi
国立国語研究所における「全国方言文法の対比的研究」に関わる調査資料群のうち,調査I・調査IIIという未発表の調査資料について,調査の概要をまとめ,具体的な言語分析を行った。調査I・調査IIIは,統一的な方法で方言文法の全国調査を行うことによって,方言および標準語の文法研究に必要な基礎的資料を得ることを目的とし,1966-1973(昭和41-48)年度に地方研究員53名・所員4名によって行われ,全国94地点の整理票が現存する。具体的なデータとして原因・理由表現を取り上げ,データ分析を試みることによって資料の特徴を明らかにした。3節では,異なり語数の比較や形式の重複数から,『方言文法全国地図』が対象としなかった意味・用法を含む幅広い形式が報告された可能性があることを指摘し,意味・用法については主節の文のタイプ,推量形への接続の可否,終助詞的用法の観点から回答結果を概観した。4節では,調査時期の異なる他の調査資料との比較によって,ハンテ類の衰退とサカイ類の語形変化を指摘した。「対比的研究」の調査結果は興味深く,現代では得がたい資料である。今後,この調査報告の活用が期待される。
福嶋, 秩子 FUKUSHIMA, Chitsuko
アジアとヨーロッパの言語地理学者による各地の言語地図作成状況と活用方法についての国際シンポジウムでの発表をもとに,世界の言語地理学の現状と課題を概括する。まず,言語地図作成は,方言境界線の画定のため,あるいは地図の分布から歴史を読み取るために行われてきた。さらに言語学の実験や訓練の場という性格もある。地図化にあたり,等語線をひいて境界を示すこともできるが,言語の推移を示すには,記号地図が有用である。また,伝統方言の衰退もあって社会言語学との融合が起き,日本ではグロットグラムのような新しい調査法が生まれた。情報技術の導入により,言語地図作成のためのデータは言語データベースあるいは言語コーパスという性格が強まった。コンピュータを利用した言語地図の作成には,1.電子データ化,2.一定の基準によるデータの選択・地図化,3.他のデータとの比較・総合・重ね合わせ・関連付け,4.言語地図の発表・公開,という4段階がある。最後に,言語地図作成の課題は,言語データの共有・統合,そして成果の公開である。
下野, 裕之 宮嵜, 英寿 真常, 仁志 菅野, 洋光 櫻井, 武司 Shimono, Hiroyuki Miyazaki, Hidetoshi SHINJO, Hitoshi Kanno, Hiromitsu SAKURAI, Takeshi
ザンビア南部州のトウモロコシの生産性に作期移動が及ぼす影響を 2008/09 年に評価した。いずれの地点でも作期を遅くすることで収量の低下が認められたが、その程度がB地点とC地点でA地点より大きかった。両地点では播種から開花までの日数が、作期を遅くすることで延長が認められた。
林, 直樹 田中, ゆかり
本稿では,異なる研究者によるデータをWeb上で共有・統合することを目的に構築された「日本大学文理学部Web言語地図」の概要を報告する。最初にWeb言語地図の利用方法のうち,言語地図の描画方法を説明する。次に,Web言語地図にデータを追加するために,個人がどのようにデータを管理するのかを述べ,作成したデータをWeb上で管理するための方法を解説する。最後に.Web言語地図の理念である研究資源の共有という試みにおける今後の課題について言及する。
上野, 善道 UWANO, Zendo
岩手県と青森県の,旧南部・津軽両藩の5地点6人に調査をした北奥方言の外来語400語余りのアクセント資料を提示する。そのアクセントと語音構造の「弱」との関連を述べながら,モーラ数+1の対立を持つ体系であることを明らかにした後,地域差にも言及する。
吉永 安俊 Yoshinaga Anshun
本文では沖縄地方7地点の短時間降雨強度式型について検討したが、 これらの結果を示せば次のようである。那覇 : 久野型 久米島 : Sherman型 宮古島 : 久野型 石垣島 : Sherman型 与那国島 : Talbot型 南大東島 : Talbot型 名護 : 久野型これらの結果からすると沖縄地方7地点に関してTalbat型が適用できる地点は与那国島と南大東島の2地点であり、 各地で現在用いられているTalbot型onlyは問題がある。全く不規則に降る雨を厳密な意味で一つの式型で表わすことのできないのは当然であるから、 設計計画に用いる雨資料はそれぞれの地点の最適式型で算出するのが望ましい。那覇における最適式型は喜納氏(8、9)の結果と異なるが、 それは資料の統計期間の相違が原因と考える。水文諸量の時系列変化は短時間的性格の水文諸量には少ない(7)にしてもやはり新しく長期間の資料が望ましい。
大西, 拓一郎
『方言文法全国地図』作成の手順を図などを提示しながら説明します。
朝日, 祥之 ASAHI, Yoshiyuki
本稿では,独創・発展型共同研究プロジェクト「接触方言学による『言語変容類型論』の構築」で企画・実施された調査研究の成果を紹介した。最初に,研究目的と実施された調査の設計を述べた。その後,研究期間中に実施された様々な調査のうち,北海道札幌市と釧路市で実施された実時間調査と愛知県岡崎市で実施された敬語と敬語意識調査で取り扱われた「道教え」場面調査の調査結果,ならびに国内4地点における空間参照枠に関する調査結果を取り上げた。また「言語変容類型論」構築の試案を提示し,その提示の方法,試案の有用性,反省点,今後の当該分野に関する展望を行った。
上野, 善道 UWANO, Zendo
岩手県と青森県の,旧南部・津軽両藩の6地点で約千項目からなる動詞のアクセント調査をした報告を行なう。今回はその(1)として,2~3拍動詞の603語を対象とする。アクセント情報と並んで,その語音情報および必要に応じて意味に応じた語形の違いを付け加える。
熊谷, 康雄 KUMAGAI, Yasuo
『日本言語地図』のデータベース化(『日本言語地図』データベース,LAJDB)の概略を説明し,3年間の本プロジェクト期間中に整備を進め,利用可能となった項目(119項目)の一部を利用した計量的な分析の事例として,標準語形の使用数の地理的な分布を示した。これにより,『日本言語地図』がデータベース化されることの意味とこれが生み出す新しい研究の広がりの一端に触れた。
今村, 啓爾 Imamura, Keiji
ランヴァク遺跡は,ベトナムのゲアン省に所在するドンソン文化期,紀元前1~2世紀頃の遺跡である。この時代は,ちょうど日本の弥生時代のように,個性的な青銅器が発達し,鉄器の製作,使用も開始され,稲作を基礎とした社会が国家形成に向けて大きな変化を見せた時代である。1990~1991年ベトナム日本共同調査隊が行った発掘調査では,現在水田となっている谷をはさんで,東側の墓地遺跡(ランヴァク地点)と西側の集落址(ソムディン地点)が調査された。青銅器との関連で重要なことは,墓地遺跡で砂岩製の斧の鋳型が出土し,集落址では鋳型片や溶けた青銅の付着した土器から青銅器鋳造に使われたとみられる炉址が発見されたことである。ランヴァク遺跡はドンソン文化の広がりのなかではかなり南に位置し,ベトナム北部,中国南部ばかりでなく,ベトナム中・南部のサフィン文化やタイのバンチェン文化など周辺の広い地域との関連が見られる。
加藤, 祥 浅原, 正幸
比喩表現類型に意味情報を付与し,意味的な要素の結合を比喩表現の指標とした用例収集を試みた。まず,日本語比喩表現の類型を『分類語彙表増補改訂版』に基づく意味分類で整理した。具体的には,国立国語研究所報告57『比喩表現の理論と分類』に挙げられた結合類型(5,537種類)に含まれる要素の自立語すべてに人手で分類語彙表番号を付与し,比喩表現類型を意味分類において整理したデータを作成した。次に,意味分類の結合を比喩表現の指標として,分類語彙表番号を付与した「現代日本語書き言葉均衡コーパス」のコアデータの一部(約19万短単位)を調査した。本発表では,本手法によって取得できたBCCWJの比喩表現例を示すとともに,意味分類結合としての日本語比喩表現の使用傾向を確かめる。
渡嘉敷 義浩 金城 和俊 佐藤 一紘 Tokashiki Yoshihiro Kinjyo Kazutoshi Sato Kazuhiro
マングローブ群落は沿岸部の陸地化にも大きな役割を果たすと考えられる。ここでは、西表島相良川のマングローブ群落を選定し、干潮時におけるマングローブ群落の縁および群落内部の表層堆積泥の化学性および鉱物性に関連する知見を得る目的で行った。表層堆積泥は最表層(0~0.5cm程度)と表層(0~10cm)のいずれも海側、陸地側および両中間地点におけるマングローブ群落の縁および内部付近から採取した。表層堆積泥のpH は約3~6で陸地側ほど低く、ECは海側で若干高く、中間地点で約10~13mS/cmでいずれも海水の影響が示唆された。有機態炭素含量は約1~5%で全炭素含量(約2~6%)の8割程度を占める中間地点で高かった。化学性はいずれも最表層堆積泥で高い傾向を示した。中間地点では粘土やシルトが多く、その傾向は最表層で高い特徴も示した。シルト画分の一次鉱物はいずれの地点も石英が主体を示した。二次鉱物はいずれの地点でもカオリナイトが主体でイライト、バーミキュライトが随伴した。以上のことから、地形要因や潮の干満による影響も加わり、海側に近い中間地点の最表層ほど粘土画分と有機物が堆積して陸地化が進行しやすく、正・負荷電に富む粘土のバーミキュライトや腐植の機能による寄与が示唆された。
廣瀬 孝 大城 和也 Hirose Takashi Oshiro Kazuya
本研究では、沖縄島に分布する古期石灰岩地域6地点、第四紀琉球石灰岩地域9地点の湧水・河川水において調査を行い、電気伝導度(EC)の値から、両地域の溶食速度を推定した。その結果、溶食速度は、古期石灰岩地域では75.4mm/1、000年、第四紀琉球石灰岩地域では101.7mm/1、000年であり、大きな差がみられ、空隙率の大きさと水と岩石との接触面積の違いなどが影響していると考えられる。また、秋吉台で水質から求められた溶食速度(51mm/1、000年)よりも速く、亜熱帯気候に属している沖縄島の豊富な降水量や高い二酸化炭素(C02)濃度との関係が示唆される。また、沖縄島でも、カメニツァなどの溶食が進んでいる地点で求められた溶食速度に比べるとはるかに小さい値を示し、水の流出から求められた本研究の結果は、その地域全体の平均値を示しているものと考えられる。
山瀬 敬太郎 関岡 裕明 谷口 真吾
スギ林を中心に,異なる9地点から森林表土を採取し,実生出現法によって森林表土中に含まれる埋土種子の種構成を調査した。その結果,スギ林分から採取した埋土種子は,緑化に用いるのに十分なポテンシャルを有している可能性が高いことがわかった。また,集落や伐採地など人為的攪乱を強く受けた場所に近接する森林表土中の埋土種子は,移入種を多く含む可能性が示唆された。
竹中, 千里 TAKENAKA, Chisato
ドンクワーイ村の井戸水および土壌の化学的特徴を明らかにすることを目的として調査を行なった。ドンクワーイ村では10 ~ 40 mの深部からくみ上げている井戸水を利用している。その水質は、乾季と雨季で異なり、乾季では、重炭酸イオンを多く含む水質で井戸による違いがほとんど見られないのに対し、雨季では塩化物イオンが多くなり、井戸によってばらつきが認められた。これは、雨季の井戸水が、乾季に土壌中に集積した塩類の影響を受けているためと推察された。また土壌については、村に近い地点で栄養塩類が多く、米の収量と関係づけることができる地点があることが明らかとなった。
辻 雄二 Tsuji Yuji
研究概要:沖縄県内4地点において、それぞれ民俗誌的記述の完成に向けた予備的調査及び一部先島地域での悉皆調査をおこなった。その結果宮古地域の伊良部島佐良浜と石垣市川平では、動物供犠祭祀が境界祭祀に動物供犠を伴うもので、御嶽信仰とも深い関わりをもつことが明らかとなった。この成果については平成20年11月に言語文化研究会において発表をおこない、動物供犠関連資料のデータベース化については継続し随時公開していく予定である。
大西, 拓一郎
文法は,体系的性質を強く持つ。したがって,ひとつひとつのことがらの背景にはそれを支える構造の存在を考えることが必要である。『方言文法全国地図』を見るにあたってもこの観点は,不可欠で,1枚の地図から読み取ることができる情報は少なくないものの,それだけでは多くの場合,ある程度のレベルでの推測をまじえた判断しか下せないことが多い。関連する項目の持つ構報を総合的に整理し,その中から分析することが求められる。その一方で,総含的観点から分析しようとしても,実際上,調査項目に盛り込まれていない限りは,必要な情報が得られないという,はがゆい事実がまちかまえている。新たな情報の収集が求められるわけである。このようなことがらについてサ変動詞「する」の東北地方における分布とその解釈をめぐって考察する。
岡, 雅彦 OKA, Masahiko
国文学研究資料館所蔵の堤朝風著「福聚談」(請求番号「ナ5 86」)を翻刻し略解題を付す。
志茂 守孝 渡嘉敷 義浩 Shimo Moritaka Tokashiki Yoshihiro
読谷村残波岬の海岸線の植生および土壌調査を行なった。その結果は、次のように要約できる。1)海岸線に近く、標高も高い地点では、海洋環境の影響を強く受け、一般に、海浜の前面に分布する植物が優先した。そして、土壌のpH、交換性カルシウム、マグネシウム、カリウム、塩基飽和度、保水量および透水係数は高い値を示した。2)海洋環境の影響を強く受けているその環境の因子(潮風や塩分)の土壌構造の発達に及ぼす影響が推察された。3)海岸線より内部に入り、標高が低く、周辺が植物で囲まれている地点では、海洋環境の影響は弱いことが推察された。4)本土壌の施肥では、塩基バランスの調整をはかりながら、下層土までリン酸を施肥し、有機物を施肥するのが望ましい。
上野, 善道 UWANO, Zendo
岩手県と青森県の,旧南部・津軽両藩の6地点で調査をした北奥方言動詞のアクセント報告の続稿として,4~7拍動詞の374語を対象とする。基本は無核型と次末核型の2つからなるが,動詞の全体としてはn拍にn個の区別があるアクセント体系である。3拍までの基本的な動詞35語について,それぞれ8つの活用形のアクセント資料も掲げ,その地域差も指摘する。
近藤, 明日子 田中, 牧郎 KONDO, Asuko TANAKA, Makiro
日本語の大規模コーパスへの網羅的・体系的な語義情報付与を目的として,語義の体系的な分類を示す大規模な現代日本語のシソーラス『分類語彙表増補改訂版データベース』の見出しと,各種大規模コーパスの構築に利用されている電子化辞書UniDicの見出し(語彙素)との同語関係による対応を表す表形式データの構築を行った。同語判別の作業は分類語彙表・UniDic両者の見出しの表記・読み・類の対応に基づいて人手により行い,その結果,『分類語彙表』の64,759見出しとUniDicの50,795語彙素との同語関係による多対多の対応を表す「分類語彙表番号-UniDic語彙素番号対応表」を構築した。本対応表を活用して大規模コーパスへの網羅的な語義情報付与作業が始まっており,また,形態素解析結果に分類語彙表番号を付与する機能を実装した形態素解析ツールも開発された。一方で,本格的な大規模コーパスへの語義情報の網羅的付与に向けて,対応表の拡張や多義語の語義選択といった課題への対処も必要である。
市川, 隆之 Ichikawa, Takayuki
長野県北部にある善光寺平には条里型地割が認められる地点がいくつかある。そのひとつ更埴条里遺跡において初めて埋没条里型水田が確認されたが,その後,石川条里遺跡や川田条里遺跡でも同時期の埋没条里型水田跡や古代の水田跡の存在が明らかにされた。何れも千曲川沿岸の後背低地に立地する遺跡であるが,近年,これらの遺跡が高速道路・新幹線建設に伴って大規模に発掘調査されたことから新たな知見がもたらされた。本稿ではこれらの発掘調査成果を中心に善光寺平南部の古代水田の様相を紹介するものである。
麻生, 玲子 セリック, ケナン 中澤, 光平 ASO, Reiko CELIK, Kenan NAKAZAWA, Kohei
本論文では,過去40年間の南琉球の語彙研究を事例に,従来の調査方法や成果に対して詳細な評価を行い,それに基づき,日琉諸語を対象に多地点で詳細な語彙研究を行うという目的を達成するための効果的な研究方法について論じる。過去40年間に行われた南琉球の語彙研究成果を収集および評価した結果,研究者と母語話者が協力して行うハイブリッド型研究が,質と量の両面から最も有効な研究手段であることが分かった。このため,今後の語彙研究にとってハイブリッド型の研究形態を積極的に活用していくことが大きな可能性を秘めていると主張する。一方で,南琉球諸語は消滅危機言語であるため研究期間に制限があるにもかかわらず,語彙研究が行われている地点には激しい偏りが存在していることも指摘する。この問題に対して,ハイブリッド型研究であっても面接調査のみに頼ることは非現実的であることを明らかにし,語彙収集に関わる作業を一部遠隔化することで解消できると指摘する。以上の結果を踏まえ,我々が実施している事例を参照しながら,作業を細分化・分担し,各自が居ながらにして作業を効率的に行うハイブリッド遠隔型の語彙研究を提案する。
Hamamoto Kohei
ナマコ類は沿岸域において生態学的に重要な生物であるが、その食品としての需要の高まりから近年乱獲にさらされている。こうした現状に対し、有効な保全ルール策定のための基礎的な生態学的情報は世界的に不足しがちである。本稿の第2章では、極端に個体数の少ない一部地域(糸満市大度海岸)を含む、ナマコ類の比較的低い個体群密度が沖縄島から初めて報告された。一方、国立・国定公園地域では個体群密度が高いこともわかった。第3章では、第2章において最も多数の地点から発見されたクロナマコを用いて集団遺伝学的解析を行った。結果、中・南琉球列島においていくつかの分断された遺伝的集団が存在すること、また国立・国定公園地域で遺伝的多様性が高く保たれていることがわかった。第4章では同じくクロナマコの糞便を用いた腸内細菌叢推定を行った。結果、糞便内には周辺堆積物と有意に異なる細菌叢が含まれており、クロナマコ腸内でのエンリッチメントの結果であると考えられた。さらに、サンゴの多く見られた地点とそうでない地点との間でも有意差が見られ、今後真核生物のメタバーコーディングを含む追加調査が望まれた。総じて、沖縄島周辺におけるナマコ個体群の早急な保全が必要であることが浮き彫りになった。今後、本研究により得られた成果をもとに、官民一体となった対応が取られることを強く望む。
酒井 一彦 Sakai Kazuhiko
研究概要:(平成18年度時点)サンゴがよく生存し、周辺地域では唯一配偶子を大量に生産できる個体群が存在している慶良間列島でのサンゴ群集の維持力と、サンゴが激減している沖縄島でのサンゴ群集の回復力を推定するために、慶良間列島で2地域、沖縄島で3地域を選定し、階層的に合計22の地点を設定し調査研究を実施した。各地点でサンゴの放卵放精がある5月の満月までに幼生定着基盤を設置し、2ヵ月後に回収した。また回収時に各地点でサンゴ群集の調査を行った。その結果、以下の点が明らかとなった。1.沖縄島ではサンゴ群集の回復は極めて局所的で、調査地点の10%程度サンゴの被度が30%を超えるたのみであった。一方慶良間列島では、オニヒトデの捕食により全体的にサンゴが減少し、座間味地域のオニヒトデ駆除区域ではサンゴ群集が良好に維持されていたが、渡嘉敷地域ではサンゴ被度の著しい低下が認められた。2.沖縄島と慶良間列島ともに、幼生供給源であった慶良間列島でのサンゴの減少に伴い、サンゴ幼生供給量が減少していることが、過去の調査結果との比較で明らかとなった。3.繁殖様式が放卵放精型で幼生の浮遊期間が長いミドリイシ科について、親サンゴから幼生が分散する距離は、200km以内に限られていることが示唆された。4.沖縄島でサンゴ回復が進んでいる場所で、ミドリイシ属サンゴの群体サイズと性的成熟の関係を調査した。その結果、枝の短い種では直径が12cm、枝の長い種では直径が17cmを超えると成熟が始まることが明らかとなった。5.ミドリイシ属サンゴが大型海藻と接触すると、成長率が低下しかつ配偶子生産量も減少することが明らかとなった。これはサンゴが大型海藻との接触で受けた傷の修復に、資源を使うために起こると考えられる。
山盛 直 平田 永二 新本 光孝 砂川 季昭 安里 昌弘 Yamamori Naoshi Hirata Eiji Aramoto Mitsunori Sunakawa Sueaki Asato Masahiro
与那演習林および西表島の熱帯農学研究施設に設定された択伐試験地ならびに西表国有林内で林分調査を行ったオキナワウラジロガシ林の森林土壌の調査を行った。土壌型の異なる場所で代表的地点を選んで試孔を掘って断面調査を行った。また、 各層位から試料を採取し、 土壌の理化学性の分析を行った。分析結果は表1および表2に示したとおりである。調査結果および文献調査から、 沖縄の森林に主として分布する赤黄色土は、 褐色森林土と比較して容積重が大きく、 透水性が悪く、 粗孔隙量が小さい特徴がみられた。また、 土壌断面にみられた堅密度は堅∿固結が多く、 堅密な土壌であることがいえる。土壌の化学性も褐色森林土に比べて劣るが、 黄色土の一般的性質がみられた。与那と西表の森林土壌のちがいは、 土性によく表れていた。これは母材のちがいによるものと考えられる。この研究をとりまとめるに当たって、 特に土壌の分析に林学科学生下地輝史君の協力を得た。記して深謝の意を表する。
浅原, 正幸 南部, 智史 佐野, 真一郎
本稿では日本語の二重目的語構文の基本語順について予測する統計モデルについて議論する。『現代日本語書き言葉均衡コーパス』コアデータに係り受け構造・述語項構造・共参照情報を悉皆付与したデータから、二重目的語構文を抽出し、格要素と述語要素に分類語彙表番号を付与したうえで、ベイジアン線形混合モデルにより分析を行った。結果、名詞句の情報構造の効果として知られている旧情報が新情報よりも先行する現象と、モーラ数が多いものが少ないものに先行する現象が確認された。分類語彙表番号による効果は、今回の分析では確認されなかった。
米田, 正人 YONEDA, Masato
国立国語研究所では昭和25年度と昭和46年の2度にわたって文部省科学研究費の交付を受け,山形県鶴岡市において地域社会に於ける言語生活の実態調査を実施した。それにより,戦後四半世紀の急激な社会変化の中で方言が共通語化していく過程について,その実態や社会的な要因を明らかにした。本研究は,これらの成果を受け継ぎ,鶴岡市において約20年間隔の第3次調査を実施するとともに,言語変化を将来に向けて経年的に調査記述していくための基礎構築を目的として行われた。また,本報告は平成3年度および4年度の文部省科学研究費補助金(総合研究(A)),研究課題名「地域社会の言語生活-鶴岡市における戦後の変化-」(課題番号03301060)(研究代表者 江川清)の交付を受けて行った調査研究のうち,音声,アクセントの共通語化について一部をまとめたものであり,平成5年8月,カナダのビクトリア大学で行われたMethods Ⅷ (方言研究の方法論に関する国際会議)で口頭発表した内容に加筆訂正したものである。
宮良當整(筆写) 2021/9/8 16:09
本史料は、宮良殿内文庫文書番号41「諷(うたい)」と同じく謡本である。前欠であるので前半部は確認できないが、「竹生鴫(たけおしぎ)」と「蝉丸(せみまる)」が収められている。
宮良當整(筆写) 2009/6/5 16:45
本史料は、宮良殿内文庫文書番号41「諷(うたい)」と同じく謡本である。前欠であるので前半部は確認できないが、「竹生鴫(たけおしぎ)」と「蝉丸(せみまる)」が収められている。
三井, はるみ
方言の条件表現についての研究をすすめて行くための手がかりとして,青森市方言の順接仮定条件表現を例に取り,『方言談話資料』を主な資料として,共通語との対照による体系記述を試みた。その結果,この方言の接続形式バについて,(1)後件の反期待性という制約が効かない,という特徴が見出され,(2)前件の確実性に関する制限が緩やか,(3)事実的用法を持つ,という可能性がうかがわれた。また,接続詞的用法,提題・対比用法においても共通語との異なりが見られた。最後に『方言文法全国地図』所収(予定を含む)の順接仮定条件表現項目の地図を提示し,方言の条件表現形式の分布状況を紹介する。
遠部, 慎 宮田, 佳樹 小林, 謙一 松崎, 浩之 田嶋, 正憲 Onbe, Shin Miyata, Yoshiki Kobayashi, Kenichi Matsuzaki, Hiroyuki Tajima, Masanori
岡山県岡山市(旧灘崎町)に所在する彦崎貝塚は,縄文時代早期から晩期まで各時期にわたる遺物が出土している。特に遺跡の西側に位置する9トレンチ,東側に位置する14トレンチは調査当初から重層的に遺物が出土し,重要な地点として注目を集めていた。彦崎貝塚では土器に付着した炭化物が極めて少ないが,多量の炭化材が発掘調査で回収されていた。そこで,炭化材を中心とする年代測定を実施し,炭化材と各層の遺物との対応関係を検討した。層の堆積過程については概ね整合的な結果を得たが,大きく年代値がはずれた試料が存在した。それらについての詳細な分析を行い,基礎情報の整理を行った。特に,異常値を示した試料については,再測定や樹種などの同定を行った。
国際日本文化研究センター, 資料課資料利用係
京都東部に位置する岡崎。美術館・図書館・動物園・平安神宮など、さまざまな文化施設や観光名所があり、いつも賑わいを見せています。1895(明治28)年の第4回内国勧業博覧会以来、徐々に開発が進んで現在の形へと近づいていきます。古地図と絵はがきでその歴史をたどります。
山崎, 誠
「政財界」「国内外」などの漢字 3 字で構成される「略熟語」と呼ばれる形式は,先行研究が少なく実態が明らかでない。国語辞書にも掲載されることが少ない。本発表では,現代日本語にはどのような略熟語が存在するかを『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(以下,BCCWJ)と『分類語彙表』を使って自動的に抽出することを試みた。具体的には,BCCWJから,前後が非漢字という条件で漢字 3 文字連続を抜き出し,それらを構成する漢語の頻度および分類語彙表における意味番号を付与したデータを作成した。そこから,出現頻度が一定以上で,構成要素となる漢語の分類番号が一致するものとして 874 語を抽出した。内訳は「政財界」タイプ 656 語,「国内外」タイプ 297 語,重複が 79 語であった。
小林, 謙一 Kobayashi, Kenichi
縄紋時代の居住活動は,竪穴住居と呼ばれる半地下式の住居施設が特徴的である。竪穴住居施設は,考古学的調査によって,主に下部構造(地面に掘り込まれた部分)が把握され,その構造や使用状況が検討されている。竪穴住居のライフサイクルは,a構築地点の選定と設計から構築(掘込みと付属施設の設置)→b使用(居住・調理・飲食などの生活)→c施設のメンテナンス(維持管理と補修・改修・改築)→d廃棄として把握される。住居廃棄後は,そのまま放置される場合もあるが,先史時代人のその地点に対する係わりが続くことが多く,d’廃棄住居跡地を利用した廃棄場・墓地・儀礼場・調理施設・石器製作などに繰り返し使用され,最終的にはe埋没(自然埋没・埋め戻し)する。以上のような,ライフサイクルのそれぞれの分節が,どのくらいの時間経過であったかは,先史時代人の居住システム・生業・社会組織の復元に大きな意味を持つ。住居自体の耐用年数または居住年数,その土地(セツルメント)に対する定着度(数百年の長期にわたる定住から数年程度の短期的な居住,季節的居住地移動を繰り返すなど),背景となっている生業(採集狩猟・管理栽培や焼畑などの半農耕)や社会組織(集落規模,階級など)の復元につながる。
渡嘉敷 義浩 志茂 守孝 大屋 一弘 Tokashiki Yoshihiro Shimo Moritaka Oya Kazuhiro
真平原造成地の土壌は赤黄色を呈し、 粘板岩や国頭礫層を母材とする強酸性の国頭マージで、 約60%の分散係数(率)を示す受食性土壌の特徴を有した。土性は粘土含量37%のLiCを示し、 CECは約7.5me/100gで置換性Mg量はCa量より約4倍多く、 塩基飽和度は約8%を示した。粘土鉱物組成は養分保持力の小さい鉱物が主で、 Ktが主要鉱物をなし他にCh/It、 Vt-Chが随伴し、 Itも附随した。造成地近くを流れる久志オー川に沈積した流出赤土は、 土壌侵食の初期段階においていずれもpHはほとんど中性を示した。粒径組成は最上流地点以外では粗砂が85∿95%で、 いずれもLSの土性を示し、 3カ月後には上流寄りの中間地点から同様の土性が見られた。CECはほとんど1me/100g前後を示し、 上流ほど造成地土壌のCECに近似した。流出赤土には置換性Caがかなり供給され、 塩基飽和度は50%以上に高まった。粘土鉱物組成はItやKtが主体で、 Ch/Itが随伴し、 中間および最下流地点ではChも附随した。造成地土壌の粘土鉱物組成とは異なり、 流出赤土の粘土部分には混層鉱物が相対的に減少し、 Vt-Chが消失する傾向が示唆された。
加藤, 祥 森山, 奈々美 浅原, 正幸 MORIYAMA, Nanami
コーパスに付与されたジャンル情報を用いることにより,ジャンル毎の語彙分布の傾向が確認される。しかし,レジスタによる文体差の影響や,ジャンルの分類基準の問題が考えられる。そこで,本稿は,文章内容情報が付与された文体的な影響の少ないコーパスを用い,品詞分布・語彙分布・語義分布に内容別の傾向が見られることを確認する。具体的には,『現代日本語書き言葉均衡コーパス』の新聞サブコーパス(PN,1,473サンプル)に含まれるサンプルを記事単位(5,585記事)に分割し,記事ごとの内容情報や種別情報を付与した(加藤ほか2020)データを用いる。分類語彙表番号の付与されたBCCWJ-WLSP(加藤ほか2019)と重ね合わせることにより語義分布も調査する。
吉永 安俊 Yoshinaga Anshun
本文は特性係数法によって沖縄地方7地点の短時間降雨強度をTalbot型、 Sherman型、 久野型の3式型について算出し、 各地でのそれぞれの式型の適合度を調べ、 最適式型を決定した。それらの結果は那覇 : Talbot型 石垣島 : Sherman型 宮古島 : 久野型 久米島 : Sherman型 与那国島 : Talbot型 南大東島 : Talbot型 名護 : Sherman型となる。
- 2009/6/5 16:48
本史料は八重山諸島の地図であり、八重山諸島の中心である石垣島と竹富島(たけとみじま)・黒島(くろしま)・新城島(あらぐすくむら)・小浜島(こはまじま)・波照間島(はてるまじま)といった周辺離島と、西表島(いりおもてじま)の一部が描かれている。また各島の面積が記されており、石垣島には面積とともに津口名(つぐちめい)も記載されている。
- 2021/9/8 16:09
本史料は八重山諸島の地図であり、八重山諸島の中心である石垣島と竹富島(たけとみじま)・黒島(くろしま)・新城島(あらぐすくむら)・小浜島(こはまじま)・波照間島(はてるまじま)といった周辺離島と、西表島(いりおもてじま)の一部が描かれている。また各島の面積が記されており、石垣島には面積とともに津口名(つぐちめい)も記載されている。
翁長 謙良 池原 健一 Onaga Kenryo Ikehara Kenichi
国頭マージ地帯は全般にミクロ的には谷密度が高く急峻な山地をなしている。このような地形条件を改変して造成された圃場は、元の地山のもつオリジナルな土壌・土層特性の殆どが変わっている。島尻マージは一般に段丘や緩傾斜に分布し、熟畑化した所が多いが、整備された圃場では若干の変化があるものと考えられる。主な調査結果をまとめるとつぎのようになる。1) 国頭マージは、今回の調査地点では重埴土、軽埴土に分類されるが、島尻マージは砂質植壌土に属するものもあり、粒度組成からはいわゆる島尻マージ的ではない。2) 保水性に関しては、ジャーガル、島尻マージ、国頭マージの順に水分保持力は大きい。3) 分散率、pH試験の結果より、国頭マージが最も受食性の高いことが確認された。4) 久米島の国頭マージには、分散率、pH値に特異性がみられた。母材が他の国頭マージと異なることによると思われる。
- 2009/6/5 16:41
八重山側の首脳による首里王府派遣の在番(1名), 在番筆者(2名)に対する招宴の次第を記した文書。接待の詳細な内容を伝える。 この時の在番・仲真里之子親雲上(首里士族)は1876年の赴任。 筆者は崎浜筑登之親雲上(那覇士族),宮里里之子親雲上(首里士族)であった。 文庫資料整理番号121に続く招請。
- 2021/9/8 16:10
八重山側の首脳による首里王府派遣の在番(1名), 在番筆者(2名)に対する招宴の次第を記した文書。接待の詳細な内容を伝える。 この時の在番・仲真里之子親雲上(首里士族)は1876年の赴任。 筆者は崎浜筑登之親雲上(那覇士族),宮里里之子親雲上(首里士族)であった。 文庫資料整理番号121に続く招請。
川端, 良子
対話において、相手が知っているかどうか不確かな対象に言及する際、話し手はどのようにその対象を対話に導入するのだろうか。本研究では『日本語地図課題対話コーパス』を用いて、特定の対象が最初に対話に導入される際の言語活動の分析を行った。本稿は、(1)発話機能、(2)相互行為、(3)言語形式の3つの観点からその言語活動の特徴を報告する。
金城 光子 Kinjo Mitsuko
舞踊の記録,表記はむずかしい多くの課題を含んでいるようである。これまで,老人踊り「かぎやで風」と女踊り「諸屯」の2つの作品の踊り像を描き,踊りの展開がある程度わかるように図示してきた。今回は,同じく男踊り「高平良万歳」の舞踊の踊り像を描写したものを図示することにしたい。この踊りに関する解説および,分析検討は本紀要『沖縄の踊りの表現特質に関する研究[3]~古典舞踊「高平良万歳」(男踊り)について』に記したので本稿では割愛することにした。研究の方法は,(1) 8ミリ,16ミリ,35ミリフィルムに踊りの全形を収録したのち,(2) 1~10コマ毎の踊り像をプロフィールプロジェクターで拡大し,舞踊の全体像を描いた。(3) 作品の総コマ数をかぞえ,踊り動作のまとまりに区切りをつけてコマ数を記し時間を概算した。(4) 図を踊り順にならべ,図の下にコマ数を数字で記入したのち約3cmの高さに像を縮少した。(5) 踊り順序にならベた図に動作や一連の踊りの区切りがわかるように番号を付した。この踊り番号は,踊りのコマ数と時間の表に書いた番号と同一である。(6) (5)と対応するようにコマ数と時間,歌詞を示す表を作成。(7) (5)と(6)と対応させつつ"踊り方"の概説を記した。(8) 踊り手は,琉球舞踊家の島袋光裕。(9) 撮影は昭和50~51年まで,那覇市民会館大ホールで行なった。
相澤, 正夫 AIZAWA, Masao
方言と地域共通語とでは,捉え方の方向性,観点が基本的に反対である。方言が,地域差すなわち変異の観点からみた各地の日本語であり,区画論的に言えば,ある言語的基準に関する差異性をもとに,広い地域から狭い地域へと日本語を地域区分した結果であるのに対して,地域共通語は,個人や地域ごとに多様な日本語を何らかの均一性の観点から見直し,その通用範囲の広がりによって統合していく過程の中に認知されるものである。本稿では,北海道の富良野・札幌における社会言語学的調査の資料にもとづき,主として後者のようなことばの共通性の視点から,両地点における都市化の程度差に注目しつつ,いわゆる北海道共通語の使用状況と,その背後にある話者の言語使用意識との関係について分析・報告する。
浅井 玲子 Asai Reiko
1)教員養成課程の大学生80人の高等学校における家庭に関する科目の履修内容と学習方法すべてについて明らかにした。「食生活について」「衣生活について」は9割,「家族と家庭生活」「乳幼児の保育と親の役割」は8割,「住生活」については7割,「家庭経営・消費生活」6割を超える学生が学んでいた。しかし「ホームプロジェクト」「学校家庭クラブ」については3割にも満たない履修であった。\n学習方法は,衣生活と食生活を除けば講義形式がほとんどであり,問題解決学習の経験者は,延べ人数でも1割にも達していない。\n2)教員養成課程家政教育の専門科目「生活環境論」に問題解決の手法を取り入れ,互いに学びあう場として発表,メタ認知ツールとして認知地図を書かせた。予想以上の認知的広がりが見られた。\n認知地図を書くことによって,「物事の関連性に気づいた」「頭の中が整理できた」「振り返り再考できた」「楽しかった。今後活用したい」などの評価があった。認知地図作成は,良い方法として,受け入れられた。\n3)問題解決学習についての評価は,自由記述の文章を分析すると,約72%が「楽しかった」「充実していた」「実感できた」等と記述し,約78%が「自分の学習過程で学んだ」「他の人の発表から多くを学んだ」と答え,約56%は「授業に取り入れたい」「意欲が湧いた」と記述している。「授業に取り入れたいかどうか」を問うての記述ではないので,過半数は大きな成果と捉えたい。\n4)「生活環境論」受講前後の学生の行動は,①ごみに関すること②リサイクルに関すること③省資源,省エネルギーに関すること④水質保全に関すること⑤有害物質に関することのすべての面でポジティブな変化が見られた。\nこれらの事より,家庭科教員養成課程において「生活環境論」を問題解決学習で学ばせ,お互いに発表,意見交換しあい,認知地図によって自分の学びを確認することは,情意面,知識面,意欲面更には行動変化の面でも有効であった。\n上記のことより家庭科教員養成課程において「生活環境論」を問題解決学習の手法で学ばせ,認知地図を書かせ,メタ認知を促することは,有効な方法であり,問題解決学習の良さを学ばせる事ができる方法であると考えることができた。
園田, 英弘
近世の京都図の分析を通して、「洛中」と「洛外」の関係や、「洛外」のより詳細な性格などを明らかにすることを目的としている。「洛外」は、性格の異なる緑地とのうちが存在し、近世の京都図の中では農地の部分が極端に縮小されて描かれていた。また神社仏閣・池・野原・丘・川などを中心とする緑地の部分は、京都が近世後期に古都化するのに対応して、しだいに拡大する傾向にある。近世以前から「洛中」と「洛外」は一組のものと考えられてきたが、それは密集した「洛中」の都市生活と、それを補完する不可欠の部分としての緑地のことであった。そして、「洛中」のすぐ外に広がる農地は、あたかも存在しないような空間として地図上には位置付けられていた。このような地図上の歪みこそが、ミヤコ意識の空間構造を表現しているのである。
下野, 裕之 宮嵜, 英寿 真常, 仁志 菅野, 洋光 櫻井, 武司 Shimono, Hiroyuki Miyazaki, Hidetoshi SHINJO, Hitoshi Kanno, Hiromitsu SAKURAI, Takeshi
ザンビア南部州のトウモロコシの生産性に作期移動が及ぼす影響を2008/09年,2009/10年に評価した。いずれの地点でも作期を遅くすることで収量の低下が年次を超え認められ,平均で19%低下し,その低下程度と播種直後30日間の気温また風速の間で密接な関係があった。農家が選択する植付時期が最適であることが示された。
水口, 幹記 Mizuguchi, Motoki
本稿で対象とするのは、名古屋市蓬左文庫が所蔵する『天文図象玩占』(請求番号110‐12)という名の漢籍である。本書は、全四冊(不分巻)で構成されている天文関係の占書であり、文庫では「子部・術数類」に分類されている。本書の最大の特徴は、蓬左文庫本と同名の書名を持つ本が管見の所未発見であるという点にある。
落合, 雪野 横山, 智 OCHIAI, Yukino YOKOYAMA, Satoshi
ポンサリー県コア郡フエイペー村において総延長15.8km の 4 ルートを3 名のアカ・ニャウーのインフォーマントと歩き,有用植物インベントリーおよびGIS を利用した有用植物村落地図を作成した。その結果,134 ヶ所からインフォーマントが利用したことがある植物123 種類を採取し,104 点の腊葉標本を作製した。生態的空間と有用植物の生育位置との関係をみると,集落近傍の小道や幹線道路沿い,休閑年数の短い休閑地,河川わきに生育するの植物など,人間の活動による攪乱の程度や頻度が比較的高い場所の植物が多く利用されていた。
山中, 延之 YAMANAKA, Nobuyuki
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01885)の助成を受けたものである。
小山, 順子 KOYAMA, Junko
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01886)の助成を受けたものである。
平野, 多恵 HIRANO, Tae
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01879)の助成を受けたものである。
城間 理夫 Shiroma Michio Chunkao Kasem
タイ国中部では降雨量の大部分は雨季のみに集中するが、 雨季においてさえ降雨量だけではイネやその他の作物の栽培に必ずしも十分でない場合がある。さらに、 雨季の各月の雨量は年による変動が大きい。これらの原因による水不足は、 この地域を支配する河川の上流域から流入する自然溢水やカンガイ水によって補われている。近年、 上流域にいくつかの巨大なダムが出来たため、 中部では乾季においてさえある程度のカンガイが可能になった。本報告は、 この地域におけるカンガイ計画に利用するために、 農業上の水収支に関連のある2、3の点について研究結果をまとめたものである。結果は次のとおりである。1.雨季の入りと明けの日は、 中部では表1のとおりである。2.各地において、 雨季の各連続30日間の少雨ひん度を求めるとその時間的分布は図4のとおりである。3.各地における少雨量の非超過確率は表2のとおりである。4.自然降雨で不足する分を補うための水田補給水量を推定できるように、 各地の水不足の確率を推算した。その結果は表6のとおりである。また、 サトウキビ畑の水不足の確率も推算した。その結果は表7のとおりである。5.雨季最盛期の8月と9月の合計降雨量について、 中部と上流域との間の単純相関係数を求めた。これは中部3地点と上流域4地点のそれぞれの地点平均雨量を使って計算したが、 その値は-0.56になった。t-分布検定によると、 かなり高い有意性を示す値である。これは、 両地域でこのころの雨量にかなり高い負の相関があることを示している。中部における水収支からみて望ましい傾向である。
福田, 智子 FUKUDA, Tomoko
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01880)の助成を受けたものである。
小林, 一彦 KOBAYASHI, Kazuhiko
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01882)の助成を受けたものである。
石井, 倫子 ISHI, Tomoko
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01884)の助成を受けたものである。
入口, 敦志 IRIGUCHI, Atsushi
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01877)の助成を受けたものである。
阿尾, あすか AO, Asuka
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01883)の助成を受けたものである。
山下, 則子 YAMASHITA, Noriko
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01878)の助成を受けたものである。
国際日本文化研究センター, 資料課資料利用係
日本には27000以上の泉源と3000を超える温泉地があります。 古来より人々は温泉を求め旅をしました。 そのため、地図・旅行案内・絵葉書が多く作られてきました。 今回は有名な3つの温泉を取り上げました。豊臣秀吉に愛された有馬温泉(兵庫)。 『古事記』において、軽太子の流刑先として日本の文献で初めて記された道後温泉(愛媛)。 家康によって幕府直轄領となり、その後も文豪や著名人に愛される熱海温泉(静岡)。 普段はなかなか目に触れない資料なのでぜひご覧ください。
彦坂, 佳宣 HIKOSAKA, Yoshinobu
九州での活用体系は,上一段型・上二段型のラ行五段化,下二段型の保持,ナ変の五段化の傾向が強く,サ変・カ変を除けば五段と二段の二極化とされる。本稿は『方言文法全国地図』の関連図を,(1)活用型によるラ行五段化率の序列,(2)二極化に関する諸事象,の組み合わせから分析し,従来の研究に加え九州に特有の音変化傾向も二極化と地域差の形成に強く関与したことを論じた。また,近世以降の方言文献を参考に,これが近世末辺りから生じたことを推測した。
田邊, 絢 古宮, 嘉那子 浅原, 正幸 佐々木, 稔 新納, 浩幸 TANABE, Aya
日本語歴史コーパス中の単語には、現代語と同様の意味で扱われている単語と、古語特有の意味を持つ単語がある。本研究では、この現代語にはない古語特有の単語の語義(言葉の意味)を未知語義と定義して、日本語歴史コーパス中から、未知語義を検出するシステムの提案を行う。具体的には、日本語歴史コーパス中の単語を、(1)現代の分類語彙表でその単語の分類番号として登録されている語義をもつ語、(2)現代の分類語彙表にある語義をもつが、現在その語義は、その言葉の語義として分類語彙表は登録されていない語、(3)その語義の定義が現代の分類語彙表にないため、分類番号が振られていない語、の3種類にクラス分けする。実験では、各単語について、出現書字形や見出しなどの8要素を基本素性として用いた。また、別の日本語歴史コーパスからword2vecを用いて、3種類の単語の分散表現のベクトル(50次元、100次元、200次元)を作成し、素性として加えた。それぞれSVMを用いて正解率を比較したところ、日本語歴史コーパス中の未知語義の検出において、単語の分散表現のベクトルが正解率を向上させることが分かった。
小山, 順子 KOYAMA, Junko
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01875)の助成を受けたものである。
久保木, 秀夫 KUBOKI, Hideo
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01876)の助成を受けたものである。
大西, 拓一郎 ONISHI, Takuichiro
私たちのプロジェクトは方言分布を対象にして,経年調査を実施し,方言の形成過程を明らかにしようとしている。全国500地点において,実際に30年から50年程度の比較を可能にする方言分布のデータを得た。その中から現実に発生している言語変化をとらえることができた。新たに発生していることが確認されたナンキンカボチャは50年前にナンキンとカボチャが分布していた境界にあり,両者の混交で生まれたことを示している。動詞否定辞過去形のンカッタは自律的に発生した形で,複数箇所において別々に発生しており,30年前と比べると近畿地方中央部に広がるとともに,中国地方西部や新潟県ではすでに分布領域が確定していたことがわかる。名詞述語推量辞のズラは中部地方の代表的な方言形式であるが,静岡県を中心にコピュラ形式を内包するダラに変化しつつあることが明らかになった。ただし,経年比較を通して言語変化が多数見つかるからといって,現実のことば全体が変動し続けているわけではないことには注意が必要である。
松田, 美香 MATSUDA, Mika
井上(編)(2014)は,電話による4つの場面のペア入れ替え式ロールプレイ会話で,首都圏の高年層と若年層の談話比較を行った結果と分析である。調査は日本各地で行われたが,本研究ではその中の九州4地点の高年層ペアの依頼談話を比較した。その結果,談話構造はAの依頼→Bの断り→Aの説得(→Bの事情説明→Aの説得)→Bの受諾→AあるいはBの調整→Aの対人配慮・念押しと,ほぼ共通していることがわかった。構造内部の「依頼の話段」の中でAがどのような配慮表現をするか,「説得の話段」ではBに受諾させるための提案や再度の依頼をするか否か,そして,全体的に配慮や念押し等の言語行動,定型表現の使用についても比較した。その結果,都市性の比較的高い熊本県熊本市・鹿児島県(日置市他)では,「配慮性」につながる特徴が優勢で,都市性の低い大分県(由布市)・熊本県人吉市では,「積極性」につながる特徴が優勢であることがわかった。依頼談話におけるこのような特徴の分布は,「働きかけに対する姿勢」の異なりを明らかにしたといえ,地方発の方言文法現象等の発生のしくみを解明する手掛かりになると考える。
野入 直美 倉石 一郎 中島 智子 松尾 知明 山ノ内 裕子 Noiri Naomi Kuraishi Ichiro Nakajima Tomoko Matuso Tomoaki Yamanouchi Yuko
研究概要:平成18年度は、研究成果報告書の作成のための議論、研究うちあわせ、追加調査とデータ整理、分析、執筆を行った。その成果は、『多文化教育における「日本人性」の実証的研究』(課題番号16530333 平成16年度から18年度科学研究費補助金基盤研究(C)(1)研究成果報告書、研究代表者・野入直美)にまとめられている。\n(1)公立学校の生徒たちが共生や人権について学ぶ人権フォーラム、朝鮮文化研究会、そして複数の学校の外国人生徒たちが集い、交流する全国外国人生徒交流会を、日本人生徒と外国人生徒が学びを共有する学びの場として焦点化した。2000年から2003年までに在校し、その学びの場を体験した高校卒業生たち十数名を対象として、インタビュー調査を行った。そこからは、学校文化と学びの形、仲間関係が相互に影響を及ぼしていること、日本人生徒と外国人生徒が、さまざまな学びの場を共有しながら、関係性の中で学びを深めていることが明らかになった。\n(2)日本人が少数派である学びの場、例えば民族学校やエスニック・スクールに勤務する日本人教師の経験をインタビュー調査によって類型化し、分析を行った。\n(3)ブラジルにおける日本語教育を題材として、正統な日本語をめぐるヘゲモニー争いの過程を詳細に検討することで、「日本らしさ」の構築についての分析を行った。\n(4)アメリカのホワイトネス研究の動向と課題を整理し、日本人性の研究に有益な示唆を明らかにした。
小林, 謙一 Kobayashi, Kenichi
縄紋時代・弥生時代・古墳時代・古代(北海道では続縄紋・擦文文化期)における居住活動は,主に竪穴住居と呼ばれる半地下式の住居施設が用いられている。竪穴住居施設は,考古学的調査によって,主に下部構造(地面に掘り込まれた部分)が把握され,その構造や使用状況が検討されている。竪穴住居は,a構築地点の選定と設計から構築(掘込みと付属施設の設置)→b使用(居住・調理・飲食などの生活)→c施設のメンテナンス(維持管理と補修・改修・改築)→d廃棄→e埋没(自然埋没・埋め戻し)の順をたどる。それぞれの行為に伴う痕跡が遺構として残されており,その時間的変遷はライフサイクルと整理される。ライフサイクルのそれぞれの分節が,どのくらいの時間経過であったかは,先史時代人の居住システム・生業・社会組織の復元に大きな意味を持つ。その一端として,ライフサイクル分節ごとにその程度の時間経過があったかを,出土試料の年代測定から推定したい。
富士ゼロックス京都, CSRグループ・文化推進室 Fuji Xerox Kyoto.Co,Ltd., CSR group, Cultural Promotion Office
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01881)の助成を受けたものである。
上里 賢一 Uezato Kenichi
研究概要(和文):琉球王国時代に琉球で作られた漢詩(琉球漢詩)は、日本、中国、朝鮮、安南等の地域と密接な関係を持っている。琉球の詩人がこれらの地域を実際に訪れて作品を作ったり、詩人との贈答をしたり、琉球を訪れた中国や日本の詩人が、琉球を題材にした作品を残したりしている。本研究では、中国とベトナムの調査を実施して多くの漢文資料を入手した。中国蘇州市では、琉球最初の漢詩集『中山詩文集』の編纂者程順則の父親程泰柞の墓 (蘇州市上方山にある)と、関連地点の調査をした。福建省福州市では、福建師範大学附属図書館で、『琉球詩課』その他の琉球関係資料の閲覧と資料収集に当たった。『琉球詩課』は、清代に琉球から北京の国子監に派遣された留学生の作品を集めて、指導に当たった教師が批評を付し版行した貴重な資料である。ベトナムのホーチミン市・ハノイ市では、ホーチミン図書館とハンナム研究院等において資料の調査と収集に当たった。その資料の一部は、研究成果報告書に収録している。本研究の成果の一部は、台湾大学や台湾中央研究院などにおけるシンポジウムで発表した。研究成果報告書には発表論文の一部を掲載した。本研究によって、中国とベトナムで入手した資料については、引き続き分析・検討し、本研究の課題である「東アジア漢字文化圏の中における琉球漢詩の位置」について、その内容を深めるのに役立てていきたい。
伊波 普猷(筆写) イハ フユウ
題名の『久米島旧記』は伊波自身によるものか。本資料には、「久米仲里間切旧記(くめなかざとまぎりきゅうき)」、「久米具志川間切旧記(くめぐしかわまぎりきゅうき)」、「久米島のおもろ」の資料が書写されている。琉球王府は、1713年(尚敬元)『琉球国由来記(りゅうきゅうこくゆらいき)』を編集したが、その編集の際の基礎資料として各間切に資料の提出をもとめた。そのもとめに応じたのが「久米仲里間切旧記」、「久米具志川間切旧記」である。原本は、両旧記とも当館仲原善忠文庫に所蔵されている。資料中、「久米具志川間切旧記」は、仲原善忠氏所蔵本から書写されてい ることがわかるが、ほかの二資料の写本元についてはまだ確認されていない。 また、久米・仲里由来記に関する新聞記事や久米島の地図が添付されており、鉛筆、朱墨の書き入れがほとんど全頁に見られること、他書からの引用されたと思われるメモ書きが確認されることから、伊波普猷の久米島おもろ、旧記に関する調査・研究ノートではないかと考えられる。
鋤柄, 俊夫 Sukigara, Toshio
中世における都市遺跡研究のひとつのテーマは、遺構と遺物によって再構成される遺跡の空間構造から、各時代における社会の仕組みとその変化過程を説明するところにある。これまで京都の考古学資料は、その量があまりに膨大であったために、筆者を含めて、ヴァーチャルな総体としての京都の検討はおこなわれてきたものの、遺跡の空間構造を復原するために必要な、調査地点個々の特徴は、ほとんど検討される機会がなかった。そこで小論ではこの点に注目して、中世の京都においてどのような遺構や遺物が、いつの時代に、どの場所から検出され、それらは京都全体の中でどのような意味をもつことになるのかを問題の所在とし、一般に京都系「かわらけ」と呼ばれている京都型の土師器皿に注目し、その伝播の背景を考えるところから、中世都市京都が持っていた強い影響力の一端の復原を第➊章とし、第➋章で中世の京都の中でも、おおむね三条以南に焦点をあて、都市の様々な場が果たした役割の意味を、空間構造の視点から考えてみた。
小林, 隆 KOBAYASHI, Takashi
現代方言における東西対立分布が,どのように成立したかを,『日本言語地図』と文献資料により考察した。その結果,東西対立の成立パタンには,東西対立をなす語形の,①放射の中心地,②放射の順序,③伝播の範囲の三つの観点から見て,四つの異なるタイプが想定されることが明らかになった。また,安部清哉氏の方言分布成立における「四つの層」の仮説が,東西対立の成立過程を説明するのに妥当かどうかを検討した。
棚町, 知彌 TANAMACHI, Tomoya
本誌11号に発表した「能順伝資料」のその五 加能連歌壇史藁草・その二(前)ならびに、金子金治郎編『連歌研究の展開』所収のその六 能順時代人の連歌史観・参考資料の両稿を承けて、「その七」として、能順一代の発句集『聯玉集』を翻刻紹介する。本集は古く『北野誌』(明治43年7月、北野神社刊)人の巻のなかに「北野文叢巻九拾五 雑文部 梅のしづく 順師発句」により翻刻されているが、能順伝の最も基本的な資料であるので、小松天満宮伝来の版本乾・坤二冊により、句頭に一連番号を附して翻刻する。
マルチュウコフ, アンドレイ Malchukov, Andrei L.
本稿は分裂他動性を考察する。即ち,ある出来事を描写するのに,他動詞を用いるか,自動詞を用いるかに関する通言語的な傾向を考察する。本稿は,Tsunoda(1981, 1985)の動詞階層を出発点として,この階層を二次元の階層(または二次元の意味地図)に修正すれば,意味的に一貫したものになることを示す。二次元の階層を用いると,一次元の階層の反例を説明できる。更に,諸言語(例えば英語と日本語)の間に見られる違いを一貫した原理で説明できる。
立原 一憲 Tachihara Katsunori
研究概要:沖縄県島の河川調査に加え、西表島、沖永良部島、徳之島、奄美大島、種子島で外来魚を採集した。採集物は10%ホルマリンで固定後、研究室に持ち帰り、同定した。また、南風原ダムで毎月、ジルテラピアを採集し、体長と体重を計測後、生殖腺と耳石を摘出し、産卵期の推定と年齢査定を行った。また、ジルテラピアの仔稚魚の形態を記載した。離島の外来魚分布調査西表島:グッピーが新たに確認された。沖永良部島:カワスズメの生息が確認された。徳之島:カワスズメ、ジルテラピア、オイカワの生息が確認された。奄美大島:ジルテラピアが新たに確認された。種子島:カダヤシとプラティの生息を確認した。今年度までの調査で、琉球列島の外来魚の島ごとの分布地図がほぼ完成した。ジルテラピアの生活史合計2、642個体のジルテラピアを解析した結果、本種の産卵期は、4月をピークとする2〜8月であり、孕卵数(F)はF=1.5615x体長^< 1.4637>で示された。耳石輪紋による年齢査定の結果、本種の成長曲線は、雄:SL=214.4{1- exp[-0.16(t+1.45)]}、雌:SL=97.5{1-exp[-0.61(t+0.08)]}で近似された。雌雄ともに最高齢は6歳であった。本種の孵化仔魚は、脊索長3.4mmで大きな卵黄をもち、頭部に付着器を有していた。日齢15(4.2mm)で眼が黒化し、日齢15(標準体長 6.2mm)で卵黄を完全に吸収し、日齢20(6.7mm)ですべての鰭条が定数に達した。
吉永 安俊 Yoshinaga Anshun
沖縄の4地点(那覇、 名護、 宮古、 石垣)の年最大日雨量についてのReturn Periodを岩井法、 石原・高瀬法、 順序確率法、 Gumbell法の4方法で求め比較してみた。名護を除いてはいづれの方法も実用上問題はないと思われる。しかし名護において各方法の理論計算値をそのまま設計雨量に採用することには疑問がある。資料数が少ないことに帰因すると思われ、 いろいろな方向からの検討が必要である。4方法のうち比較的大きい値のでるGumbell法が沖縄での設計雨量を求める方法としては一番適していると思われる。
瀧, 千春 TAKI, Chiharu
本稿は、フランス海外県公文書館およびフランス国立図書館にて収集されたラオス関連資料を紹介し、本資料がラオスの歴史と生態史を考える上でどのように利用可能であるかを考察することを目的とする。本資料は森林関係、農業関係、行政関係、交通網関係、税・賦役・公共工事関係、地方関係、旅行記と分野も多岐に亘り、資料の形態も書簡・報告書・雑誌記事・地図・商業リストなど様々である。本稿ではこれらの分類と内容を紹介しつつ、今後どういった利用が可能であるかを考えてみたい。
安達, 文夫 Adachi, Fumio
屏風や絵巻,古地図などの比較的大型で対象や文字が細かく記載されている歴史資料の画像を非常に高精細にデジタル化し,これを任意の移動と拡大・縮小が可能で,資料中の対象の解説を表示できるよう研究開発した歴史資料自在閲覧システムに適用した超高精細デジタル資料を,展示や資料研究の場で活用してきた。洛中洛外図屏風の超高精細デジタル資料に関しては,幾つかの企画展示と,総合展示で秋に実物の歴博甲本を展示する際に公開し,2010年4月より常設している。
- 2021/9/8 16:10
新たに墓所を仕立てる場所「自分之新敷場」を中心として、パノラマ状に周辺を描いた絵地図で、家相図のように何本もの方位線が引かれている。墓地の風水の見取り図を示したものと思われる。風水思想が反映された土地の比喩的表現など、興味深い資料である。この図に付随する文 書が発見されていないため、自家の現在の墓所「自分當分墓所」をやや南側の「自分之新敷場」に移設する理由など、詳細は不明であるが、19世紀中半から後 半にかけて作成されたものと推測されている。
- 2009/6/5 16:46
新たに墓所を仕立てる場所「自分之新敷場」を中心として、パノラマ状に周辺を描いた絵地図で、家相図のように何本もの方位線が引かれている。墓地の風水の見取り図を示したものと思われる。風水思想が反映された土地の比喩的表現など、興味深い資料である。この図に付随する文 書が発見されていないため、自家の現在の墓所「自分當分墓所」をやや南側の「自分之新敷場」に移設する理由など、詳細は不明であるが、19世紀中半から後 半にかけて作成されたものと推測されている。
山崎, 誠
『分類語彙表』は初版の刊行以来,日本語研究に利用されてきた。しかし,2004年に増補改訂版が刊行されて以来,さらなる増補は行われていない。本稿は,『分類語彙表』を研究に利用する上で,もっとも重要な課題の一つである,不採録語を減らすという観点から,語彙の拡充の方法を分類体系の見直しを中心に検討し,試案を提示するものである。語彙の拡充の候補は以下のとおりである。(1)助詞・助動詞などの機能語(2)固有名詞(固有表現)(3)外国語(4)メタ言語(5)句読点などの記号類(6)語断片(7)未知語。(1)~(3)は,意味の付与が可能なもの,(4)以降は,意味付与が可能でない(必要が無い)ものである。助詞・助動詞などの機能語は品詞相当と考え,0番台を与える(例えば格助詞「が」に分類語彙表番号0.1000を与えるなど)。固有名詞(固有表現)は,現在の分類体系をできるだけ維持するのであれば,内包的表現の所属する分類項目に位置付けるのが妥当であろう(「アカデミー賞」「グラミー賞」は「1.3682 賞罰」に置くなど)。メタ言語的用法は意味分類には反映させず,「用法」という別フィールドで属性を記述する。また,句読点,語断片,未知語は意味付与が不要という属性を与えて区別することを考えている。以上のような拡張で,ほぼ全ての語に何らかの分類語彙表番号を与えることが可能となる。
近藤, 孝敏 KONDO, Takatoshi
本稿では、中庄新川家蔵『伝受次第』を翻刻・解説する。同書(以下、『伝受次第』と記す)は、「(寛文五年三月以前)伝受次第〔堺古今伝受系図〕」として整理された一紙で、整理番号は一-二一七号。鳥の子で、寸法は二九・四㎝×四四・三㎝である。端裏に「系図」と記し(写真2)、左金吾から盛里に至る古今伝受の系図を記す(写真1)。宗祇から肖柏を経て新川家五代盛里に伝えられた、いわゆる堺伝受の道統を示す資料である。本研究報告では、同書を翻し、その内容について検討を加えたい。
小宮 康明 新城 俊也 宮城 調勝 Komiya Yasuaki Shinjo Toshiya Miyagi Norikatsu
島尻層泥岩地帯の農業・農村整備事業で造成された泥岩切土法面について調査を行い、次のようなことが明らかになった。(1)切土法面には多くの種類の法面保護工が施工されているが、近年では自然環境や景観重視から間知ブロック積工が減り、琉球石灰岩の石積工や法枠工が増える傾向にある。(2)切土法面は勾配が1:0.3~1.4の範囲で直高が20m以内で施工されており、直高3~6mの法面が最も多く造成されている。(3)切土法面では間知ブロック積工の水平あるいは垂直方向の亀裂や植生工の崩落・崩壊が多く発生しており、法面崩壊は施工の古い法面や植生法面のような開放型法面保護工の法面で発生頻度が多いことが認められ、法面の劣化に関係していることが示唆された。(4)法面崩壊は南側向きで湧水のみられる法面で日雨量が100mmを超えると発生しやすくなり、同一地区に集中する傾向がみられた。以上のことから、法面崩壊には小断層等の不連続面の存在と雨水の浸透が強く関係していることが示唆された。そこで切土工事に先立って調査ボーリング孔を削孔し、不連続面の存在とその位置関係を明らかにし、そのボーリング孔は埋め戻さずに法面の地下水状況や変位の観測手段として活用することを提案したい。また、法面の維持管理方法として、梅雨時期や台風等の長雨シーズンの前に点検を行い、排水機能等の法面の状態を把握し異常が発見されれば早急に修復し、また、法面内の湧水の排水処理を行うことが法面崩壊を減らすに有効な方法であると考えられる。本研究は平成13~14年度日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(C)(2)、課題番号13660248)を受けた。また、調査を遂行するにあたり多くの方々からご協力を頂きました。資料調査に際しては沖縄県南部農林土木事務所および沖縄県農林水産部農地建設課に、現地調査に際しては豊見城市、東風平町、糸満市、知念村、南風原町、佐敷町、与那原町等の各市町村の担当課および元学生喜屋武寛淳氏(座波建設)に、それぞれお世話になった。ここに記して謝意を表する。
細田 正洋 赤田 尚史 下 道國 古川 雅英 岩岡 和輝 床次 眞司 Hosoda Masahiro Akata Naofumi Shimo Michikuni Furukawa Masahide Iwaoka Kazuki Tokonami Shinji
岐阜県東濃地域において3″φ×3″NaI(Tl)シンチレーションスペクトロメータを用いた走行サーベイによって空気吸収線量率の測定を行った。逆距離荷重補間法によって東濃地域の空気吸収線量率の等値線図を作成した。土岐花崗岩及び苗木花崗岩地域の空気吸収線量率は領家帯花崗岩地域と比べて相対的に高い傾向を示した。東濃地域の6地点では,3″φ×3″NaI(Tl)シンチレーションスペクトロメータを用いて地表面から1mの高さにおけるγ線波高分布を取得した。得られたγ線波高分布の全てに^<134>Cs及び^<137>Csのフォトピークは観測されなかった。土岐市内の神社境内において最大で552nGy/hの空気吸収線量率,914Bq/kgの^<238>U系列濃度が観測された。
羽田 麻美 乙幡 康之 Hada Asami Oppata Yasuyuki
山口県秋吉台のカルスト台地では,江戸時代以降,山焼きにより草地景観が維持されてきた。しかし近年,山焼きを実施してきた地域住民の高齢化や人手不足により,火入れの作業範囲は縮小し,草地面積は減少傾向にある。草地から林地へと変化し,湿潤環境となったカルスト台地上では,石灰岩の露岩であるピナクルに蘚苔類(コケ植物)群落が成立し始めている。これまで羽田・乙幡(2016)において,秋吉台上の草地から林地へと変化した二つのドリーネを対象に,岩上岩上蘚苔類の空間的な分布と生育特性に関する調査を実施した。本研究では,異なる植生下における蘚苔類群落の種組成の差異を明らかにすることを目的とし,秋吉台の草地ドリーネ内の蘚苔類群落について植生調査を実施し,羽田・乙幡(2016)の林地ドリーネとの比較をおこなった。調査の結果,草地ドリーネにおいては,林地ドリーネとは異なる 6 種の蘚苔類が確認され,林地ドリーネ内の構成種計 18~20 種に比べ,種数が 1/3 以下と少ないことがわかった。草地ドリーネでは湿潤環境を好む種は確認されなかったが,乾燥環境を好む種がドリーネの南向き斜面上部に分布することは,両地域で一致した。またピナクル上の蘚苔類の植被率を比較すると,林地ドリーネ内の植被率は 3~98 %の範囲内で,50 %以上を示すピナクルが多く存在するのに対し,草地ドリーネ内の植被率は,ドリーネの北向き斜面最下部で唯一 100 %を示すのみで,その他の地点では 0~25 %と僅かな被覆にすぎないことがわかった。ドリーネ内の高木植生及び山焼きの有無により,蘚苔類の種組成や種数,岩上の植被率に違いが生じていることが示唆された。その差異は,日射量や湿度などの微気候環境や,それに伴う岩石表面の水分量を反映したものと推察した。
彦坂, 佳宣 HIKOSAKA, Yoshinobu
原因・理由の接続助詞について,『方言文法全国地図』と各地の過去の方言文献とを対照してその歴史を推定した。基本的には京畿から「已然形+バ」→カラ→ニ→デ→ケン類→ホドニ→ヨッテ→サカイの放射があったと考えた。西日本にはこれらの伝播が重なり,東日本ではカラ辺りまでで,西高東低の模様がある。それは京畿からの地理的・文化的距離やカラの接続助詞化の経緯差によるところが大きいと考える。カラの他にデ・ケン類・サカイなどもかなり地域的変容が想定され,上の放射順が必ずしも順当に受容されたとは限らない。また,標準語のカラとノデに似た表現区分をもつ中央部ともたない周辺部とに分析的表現に関わる差異があり,中央語と地方語との性格の違いも認められる。
川端, 良子
会話において特定の対象を最初に参照する際,話し手はしばしば発話の途中にポーズを入れ,聞き手からの反応を誘発することがある。本研究では,この方略を発話の「分割提示」と 呼び,日本語地図課題対話を用いて,発話の分割提示による会話の流れへの影響について分析を行った。その結果,参照する対象を聞き手が知っている場合 (共有条件) と知らない場合 (有無条件) では,聞き手から応答に違いがあることが分った。また,分割提示を行うことで話し手は,聞き手の知識についてより早く想定することができ,効率的な会話が実現できていると提案する。
上野 正実 川満 芳信 Ueno Masami Kawamitsu Yoshinobu
研究概要:本研究では、サトウキビの品質評価用サンプル・ジュースの成分(N、P、Kなど)を近赤外分光分析装置で迅速に測定する方法を確立し、それに基づく生産管理・支援システムとその利用法の開発を目的とし、(1)近赤外分光分析装置によるジュース成分の計測システムの開発、(2)このシステムによる土壌分析および葉片成分分析、(3)これらの分析結果の相互関係の確認、(4)品質データと計測結果からなるデータベースの構築、(5)生産管理・支援システムの構築とその利用法に関する検討、(6)圃場状態を地図上に表示する地理情報システム(GIS)の開発を行った。今年度の主な結果は次の通りである。 (1)近赤外分光分析装置による計測システムを利用したジュース成分、土壌成分の分析 近赤外分光分析装置を用いて開発した十数種類のジュース成分を同時に計測するシステムを用いて、南大東村、北大東村などで採取したジュース成分の分析を行った。カリウム(K)などのミネラル分の測定もできることを示したが、なぜこれらが測定できるのかについて解明を試みた。 (2)分析結果の相互関係の確認各種データの分析により品質に対する因子とその効果を明確にし、蔗汁成分による圃場診断法を検討した。 (3)データベースの解析手法の確立とその利用 データベースを解析し、収量・糖度モデルを作成し、その利用法を検討した。 (4)GISによる生産管理・支援システムの構築とその利用法に関する検討 南大東村、北大東村の圃場地図を作成し、データベースとリンクさせて、単位収量、糖度、作型などのマッピングを行った。
加藤, 祥 浅原, 正幸
『現代日本語書き言葉均衡コーパス』の書籍サンプルにはNDC情報が付与されており,構築当時に情報のなかった書籍などへの増補も行われた(加藤ほか2021)。また,コーパスに付与されたNDCを利用することで,ジャンル別の特徴語の抽出などが試みられてきた(内田・藤井2015)。しかし,一般動詞など,多義的あるいは補助的に使用される語は,語義情報なしでは語彙としての分布傾向が見られにくく,ジャンル横断的な分布となる。そこで,本稿は,増補したNDC(加藤ほか前掲)を用いてジャンルの語彙分布を再確認するとともに,分類語彙表番号の付与されたBCCWJ-WLSP(加藤ほか2019)と重ね合わせることにより,語義分布に内容別の傾向が見られることを確認する。
島田, 泰子 芝原, 暁彦 SHIMADA, Yasuko SHIBAHARA, Akihiko
方言分布形成の解明にとって重要な参照事項である地形情報ならびに各種地理情報を,正確かつ直感的に参照できる方法として,精密立体投影(HiRP = Highly Realistic Projection Mapping)という手法の導入を提言する。DEM(数値標高モデル)に基づく三次元造形物である精密立体地形模型を作成し,その表面に,プロジェクターによる光学投影(プロジェクションマッピング)を行い各種の地理情報を重ね合わせることで,地形・河川の流路・交通網などといった複数の地理情報を,同時に照合することが可能となる。言語地図における言語外地理情報の照合作業は,従来,特殊な鍛錬なしには困難を伴うものであったが,この精密立体投影(HiRP)により,その精度が飛躍的に向上する。本稿では,精密立体投影(HiRP)の技術や装置の詳細を紹介するとともに,具体的な分析事例として,長野県伊那諏訪地方における「ぬすびとはぎ(ひっつき虫)」の分布データにおける経年変化を取り上げ,これを検証する。
酒井 一彦 Sakai Kazuhiko
研究概要:1.沖縄島周辺におけるサンゴ群集回復調査:1998年大規模白化後のサンゴ群集の回復過程を追跡するために、沖縄島西岸中部に10地点を設定し、サンゴ幼生定着基盤設置・回収、およびサンゴ群集調査を実施した。その結果、沖縄島西岸中部のサンゴ礁では成熟したミドリイシ属サンゴがほとんど生育しないが、幼生の新規加入が慶良間諸島に近いほど多い傾向が認められた。この結果、沖縄島でのサンゴの回復は、慶良間諸島で生産された卵の分散によって起こることが示唆された。2.琉球列島におけるサンゴ個体群の集団遺伝学的解析:沖縄島、慶良間諸島、および石垣島/西表島において、イシサンゴ目8種の造礁サンゴについて、アロザイム分析による地域個体群間の遺伝子流の推定を実施した。またあわせて、3種については、飼育によってサンゴ幼生浮遊期間の推定も行った。その結果、幼生浮遊期間の長い放卵放精型の種(コユビミドリシ等)については、上記3地域間に同程度の遺伝子流があること、浮遊期間の短い幼生保育型の種(ショウガサンゴ等)については、沖縄と慶良間間の遺伝子流が、沖縄-慶良間と石垣/西表間の遺伝子流よりも大きいことが明らかとなった。3.白化の程度が異なる地域間での褐虫藻遺伝子型多様性の比較:1998年に白化によるサンゴの死亡が強く起こった地域、白化によるサンゴの死亡が軽微であった地域、およびこれらの中間的な地域で、6種のイシサンゴ目造礁サンゴに共生する褐虫藻の遺伝子型の多様性を、DNA分析によって解析した。その結果、白化によるサンゴの死亡率が高かった地域では褐虫藻の遺伝子型多様性は低く、死亡率が低かった地域では遺伝子型多様性が高く、中間の地域では遺伝子型多様性も中間であった。
李, 勝勲 倉部, 慶太 品川, 大輔 Lee, Seunghun J. Kurabe, Keita Shinagawa, Daisuke
大言語を対象とした様々なデジタルアーカイブに基づく研究が進展する一方で、少数言語を対象としたデジタルアーカイブの構築とその利活用はまだ充分に進んでいるとはいいがたい。本稿では少数言語を中心に著者らが構築したデジタルアーカイブを紹介し、少数言語を対象としたアーカイブ化に関して議論する。一つ目はチベット・ビルマ系の5言語に関する資料を公開するアーカイブサイト 'PhoPhoNO'、もう一つはバントゥ系の5言語の資料をアーカイブ化したサイト 'Bantu Language Digital Archive (BantuDArc)' である。各サイトは言語に関するメタデータ、地図、そして言語資源から構成される。音声資料を含む個別のデータ項目には固有のIDが付与され、申請によってアクセスを認められれば、利用者はそれらデータを研究資源として利活用することができる。
呉, 佩珣 近藤, 森音 森山, 奈々美 荻原, 亜彩美 加藤, 祥 浅原, 正幸 Wu, Peihsun Kondo, Morine Moriyama, Nanami Ogiwara, Asami
『分類語彙表』の見出し語と『岩波国語辞典第五版タグ付きコーパス2004』に含まれる国語辞典見出し語との対応表を作成した。分類語彙表は統語・意味に基づいて見出し語を分類したシソーラスであるが、その語義を規定する語釈文を含んでいない。そこで、岩波国語辞典の見出し語と対照させることで対応表を構築し、統語・意味分類と語釈文を結びつける作業を行った。作業は、見出し語表記による2部グラフを構成し、対応する見出し語対を抽出することによる。本作業は5人の作業者により平行して進めた。本作業結果により、『現代日本語書き言葉均衡コーパス』に付与された2種類の語義情報(分類語彙表番号・岩波語義タグ)との対照比較ができるようになった。本発表では、情報付与作業の方法と基礎情報を報告する。
上野 正実 川満 芳信 菊地 香 岡安 崇史 Ueno Masami Kawamitsu Yoshinobu Kikuchi Koh Okayasu Takashi
研究概要:サトウキビの精密栽培システムを確立するために、対象物-センサ間距離を階層的に変化させて可視域から近赤外域までの"光センシング"技術を適用した。 1)接触計測:サトウキビの栄養診断に必要な葉内のN、 C、 P、 K、 Mg、 Ca、水分などの成分を分光反射・吸光度特性によって迅速に計測する光センシング技術、特にNIR解析技術を開発した。生育段階の個葉について継続的に栄養成分を計測し、検量線の精度が十分にあることを確認した。さらに、茎の細裂試料および搾汁液についても同様の分析を行い、測定可能な栄養構成成分を明らかにした。 2)近接計測:野外観測用可視・近赤外分光装置を用いてサトウキビ葉身の分光反射特性を350nm-2500nmの範囲で測定を行い、水ストレスや窒素養分による分光反射特性の違いを検討した。 3)近距離計測:階層的センシングの一方法として期待される低空からの観測の可能性について検討するために、南大東島でサトウキビ圃場の生育状況の画像を取得した。この画像によってサトウキビの生育状況および雑草などの繁茂状態を詳細に分析できることが明らかになった。 4)中距離計測:ハイパースペクトル画像を取得し、ピクセル単位で栄養成分を求める手順を自動化し、実用的なスケールを模索する手順をまとめた。 5)遠距離計測:高解像度画像QuickBird衛星画像およびIKONOS衛星画像を利用し、北大東島・南大東島の圃場地図の作成、NDVI(植生指数)の解析、かんがい施設の配置状況の解析を行った。これらの結果は圃場地図に地理情報システム(GIS)を用いてマッピングした。 6)これらの結果に基づいて測定対象物と光センサとの距離と測定可能な成分および測定精度との関係を検討した。 7)補完的計測:北大東島に設置した気象観測ロボット3基からのモニタリングデータを用いて圃場の蒸発散量など推定し、光センシング結果との比較を行った。
新城 俊也 Shinjo Toshiya
本報告では沖縄の南風原村の1地点から採取した泥灰岩についての一軸圧縮強度を調べた。自然泥灰岩の一軸圧縮強度特性として次のことがわかった。1)泥灰岩円柱供試体の破壊形式はくさび形の破断面から破壊を起こす。2)一軸圧縮強度は17.40kg/(cm)^2から41.56kg/(cm)^2にまたがっている。3)自然泥灰岩の一軸圧縮強度は自然含水比によって変化し、 自然含水比の低いものほど強度は大きくなる。4)一軸圧縮強度と変形係数の間には一次関係を見い出すことはできないが、 Fig.10に示すような傾向にある。5)自然泥灰岩を水浸すると強度が低下するが、 自然含水比の低いものほど強度の低下が著しい。これは自然含水比の低いものほど水浸すると吸水膨張を起こし、 乾燥密度が低下するからである。
佐藤 茂俊 新城 長有 Sato Shigetoshi Shinjo Choyu
3種の遺伝子(pgl、 Rf_1およびfgl)からなる連鎖地図がShinjo^<18)>により報告されたが、 同連鎖群に染色体的基礎を与える目的で、 第7染色体を含む6種の相互転座系統を用いて、 3遺伝子それぞれについて連鎖分析を行った。その結果を摘録すると以下の如くである。1)3遺伝子はいずれも第7染色体に座位することが明らかとなった。2)3遺伝子と第7染色体を含む6転座点の配列は、 pgl-7-8b-Rf_1-fgl-7-11-6-7-3-7-7-9-7-8aと推定された。3)Nagao and Takahashi^<10)>の連鎖群は第7染色体とは関連がなかったことから、 本連鎖群は併合して欠員となったものにかわる新連鎖群であると考えられる。
木下, 尚子 坂本, 稔 瀧上, 舞 Kinoshita, Naoko Sakamoto, Minoru Takigami, Mai
安達, 文夫 鈴木, 卓治 徳永, 幸生 Adachi, Fumio Suzuki, Takuzi Tokunaga, Yukio
屏風や古地図など大型で対象や文字が細かく描かれた資料を超高精細にデジタル化した画像を適 用し,自由に拡大・縮小,移動して,所望の箇所を見ることができることを目的に歴史資料自在閲 覧システムを既に研究開発してきた。この使われ方と資料画像の閲覧のされ方を知ることは,今後 の展示への適用や,閲覧システムの拡充を行う上で重要となる。このことから,国立歴史民俗博物 館の幾つかの企画展示等で同閲覧システムを公開した際に収集した利用記録を基に,基本機能であ る画像を拡大・縮小,移動する表示制御機能が有効に使用されているか,超高精細な画像を適用す ることの効果があるか,一人の利用者がどれ程の時間閲覧システムを利用しているか,資料中の有 意な箇所が閲覧されているかの観点から分析を行った。
田吹 亮一 野原 朝秀 Tabuki Ryoichi Nohara Tomohide
研究概要:本研究の目的はサンゴ礁域の底生貝形虫の生態分布を明らかにし、未記載種の分類学的記載を行う事にあった。従来、サンゴ礁域の貝形虫の分布はドレッヂにより採取された表層堆積物試料からの主に遺骸(殻)標本を基にする事が多く、その場合、殻は潮流等により容易に本来の生息域から運ばれる事から、生態分布については大まかな結果しか得られなかった。本研究では堡礁型サンゴ礁の石西礁において、1990年9月、SCUBAを用い、15m以浅の海域で実地に海底の様子を確認しつつ、調査、試料採取を行い、礁湖および礁斜面の10地点より合計30サンプルを採取した。各サンプルについて、貝形虫'生体'、200個体以上を目処に拾い出しを行い、結果として、Podocopa目40属76種、Myodocopa目2属2種を同定した。さらに、出現頻度の高いPodocopa目30種については、その分布と底質の種類との関連より、3つの貝形虫種群に大別した。即ち(1)砂底に特有な貝形虫種群(2)岩礁やレキ上に生育する藻類(大型、微小)に特有な貝形虫種群(3)底質の種類に関係なく出現する貝形虫種群の3つである。底質以外の環境要因の内、海水の水温、塩分濃度、溶存酸素量については調査域内の変化の幅が小さい事もあり、貝形虫種の分布との関連ははっきりしないが、水深や水塊が外洋水の影響を受けているかどうか等との関連で分布パターンが変化する種がいくつか認められる。未記載種は50以上あり、その分類学的記載は進行中である。種レベルの記載については化石化しにくいため、通常、古生物研究者が扱わない、いわゆる軟体部-付属肢や雄性生殖器-についても殻とともに検討した。その成果の一例として、石西礁より多産するXestoleberis属の2種が、各々、殻では日本本土近海より報告されてきたX.sagamiensis、X.hanaiiに酷似するものの、軟体部では明らかにこれら既知種とは異る新種である事が判明した事が挙げられる。
国立国語研究所 The National Language Research Institute
清水, 享 SHIMIZU, Toru
本報告は巍山地区における碑文調査の概要である。巍山地区の調査を実施するまでの経緯、生態史研究における碑文資料の有効性と拓本採取・写真撮影・抄録などの調査方法について簡述する。調査地域である巍山地域の地理的歴史的概況と調査日程、補充調査の経過について触れ、調査で収集した主要な碑文をその特徴なども含めて簡単に報告する。また拓本採取・写真撮影・抄録など調査を実施上のさまざまな問題点を整理し、今後の調査の効率化を目指したい。あわせて現地の碑文の保存に関する問題点にも言及し、碑文調査の緊急性を報告する。
尾崎, 喜光
当研究室の任務と,これまでおこなってきた敬語行動関係の調査をまず紹介する。その後で,これまでの敬語行動調査の展開として最近おこなった「学校の中の敬語行動調査」について,調査の方法・観点・データの処理方法を概説し,面接調査の文字化のサンプルとアンケート調査の集計結果の一部を示し,そこからわかることを指摘する。
菊地, 礼 KIKUCHI, Rei
本発表は分類語彙表番号を付与した現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)を用いて収集した比喩表現データを分析・考察する。中村(1977)『比喩表現の理論と分類』によれば直喩の指標は7類82種359号と多岐にわたる。しかし,直喩の典型である「よう」以外の分析はなされていない。本発表ではコーパスを用いた網羅的な用例収集を行い,分析に耐える量を確保する。その一例を本発表は動詞「感じる」によって示す。「感じる」は「AガBヲ」「AヲBト」「AヲBデ」等の10の構文を作るが,「AニBヲ」「AヲBニ」等の8つの構 文で比喩を表わすことが可能である。しかし、直喩と認定できる例はその中から限定される。これは「感じる」が比喩指標として機能することが例外的事例であることを意味する。モダリティ形式としての文法化が比喩指標には求められるが、「感じる」は特定の構文環境においてのみ不完全ながら文法化を果たし、比喩指標と同様の機能を得る。
コムリー, バーナード Comrie, Bernard
言語類型論は日本語等の個別言語を通言語的変異に照らして位置づけるための1つの方法を提供してくれる。本論では個々の特徴の生起頻度と複数の特徴の相関関係の強さの両方を検証するために,WALS(『言語構造の世界地図』)を研究手段に用いて言語間変動の問題を考察する。日本語と英語は言語類型論的に非常に異なるものの,通言語的変異を総合的に見ると,どちらの言語も同じ程度に典型的であることが明らかになる。また,日本語が一貫して主要部後続型の語順を取ることは,異なる構成素の語順に見られる強い普遍的相関性の反映であるというよりむしろ,日本語の偶発的な性質であると主張できる。最後に,WALSの守備範囲を超えた現象として,多様な意味関係を一様に表す日本語の名詞修飾構造,および類例がないほど豊かな日本語授与動詞の体系に触れ,それらを世界の他の言語との関係で位置づけることで本稿を締めくくる。
神澤, 秀明 角田, 恒雄 安達, 登 篠田, 謙一 Kanzawa, Hideaki Kakuda, Tsuneo Adachi, Noboru Shinoda, Ken-ichi
丁, 美貞 JEONG, Mijeong
本稿では,国立国語研究所の経年調査研究である岡崎敬語調査データの「荷物預け」場面を用いて,第1次調査から第3次調査までの反応文を機能的要素について分析した結果について述べる。
岡﨑, 滋樹
本稿は、「畜産」と「台湾」という視点から、戦前農林省による資源調査活動の実態に迫り、政策との関わりによって調査の性格が如何に変わっていたのかを明らかにした。これまでの満鉄や興亜院を中心とした資源調査に関する研究では、調査方法そのものについて詳細な検討が進められてきたが、その調査がいかに政策と関わっていたのかという部分は検討の余地が残されていた。したがって、本稿では、まず調査を左右する政策立案の実態を検討し、その政策が調査に対して如何なる影響を与えていたのか、調査報告が如何に政策に左右されていたのかという、当時指摘されていた「政治的」な調査活動の側面に注目した。
三井, はるみ MITSUI, Harumi
全国規模での文法事象の分布図である『方言文法全国地図』から,順接仮定の条件表現を取り上げ,方言文法体系の多様性を把握するための研究の端緒として,(1)全国における分布状況の概観と結果の整理,(2)青森県津軽方言の「バ」や佐賀方言の「ギー」といった,特定方言で観察されるそれぞれに特徴的な形式を中心とした体系記述の試み,を行った。(1)では,方言特有の形式は少なく,「バ」「タラ」「ト」「ナラ」など共通語と同じ形式が,方言によって用法の範囲を異にして分布している場合が目立つことを述べた。(2)では,共通語で効いている語用論的制約が働かない例,多くの方言で区別されている「なら」条件文の意味領域を,区別せずに同一の形式でカバーする例等を示した。最後に,条件表現および方言の文法体系の多様性の記述に向けての方向性について触れた。
大森 保 Oomori Tamotsu
研究概要:(1)竹富島沖の海底熱水域での試料採集と分析ダイバ-が潜水して、サンゴ礁海底に噴出する熱水およびガスと周辺の堆積物を採集した。これらの試料の地球化学的研究より、この熱水は地下で海水と岩石が相互作用をして、組成変化していることがわかった。堆積物は現生のドロマイトを含む石灰岩であり、鉄、マンガン、ウラン、砒素、水銀、アンチモン、バリウムなどの重金属濃度が高い。これらの金属の異常濃集はおよそ500ー2000年位前の比較的最近におこなわれたと考えられる。炭素と酸素の同位体分析をおこなったが、竹富島沖のドロマイトは溶けやすく、通常のリン酸溶液によってカルサイトと分離溶解することができなかった。ガス分析の結果とあわせて検討すると、この海底温泉の熱源は火山活動もしくは熱水活動に起因する可能性がたかいといえる。平成3年1月23日より、調査区域の西方40Km、深度数Kmの地点で群発地震が発生し、継続中である。竹富島海底温泉との距離が近いことから、今回の地震と海底温泉となんらかの関係が予想される。地下深所にかなり熱いものがあると予想されるので、今後、海底温泉と地震および海底火山との関係を明らかにすることが必要である。 (2)沖縄トラフ熱水域(伊是名、伊平屋海域)での試料採集と分析潜水艇「しんかい2000」「なつしま」による調査に参加し、伊平屋海域で熱水噴出物(炭酸塩堆積物)を採集した。この地域では100℃以下の低温熱水であった。堆積物のX線回折から主要構成鉱物はカルサイトと菱マンガン鉱であった。また、中性子放射化分析により、これにはマンガン、砒素、水銀、銀などが含まれることがわかった(地球化学討論会1990、月刊地球1990で発表)。伊是名海域の試料についてγ線スペクトル分析をおこなった。ウラン系列とトリウム系列のラジウムとその娘核種の放射能がきわめてつよい。しかし放射平衡には達しておらず、堆積物はおよそ10年から60年前かけて生成されたものと考えられる。また、昨年度に、海底より泡状の液体が湧出するのが観察されたが、これは二酸化炭素を主成分とするガスハイドレイトであった(Science 1990)。以上により、熱水活動の影響で生成される炭酸塩の化学的特性を明らかにできた。
村上, 紀夫 Murakami, Norio
本稿に与えられた課題は内なる異文化としての被差別民について論ずるというものであったが,ここでは大坂のかわた村,渡辺村に関する絵図の読解を通じて近世における被差別民の具体像と社会の意識のずれを明らかにすることを目指したい。渡辺村は17世紀後半には渡辺村が下難波村領にあったが,当時の空間構造については先行研究でいくつかの復元が出されているが若干の検討の余地を残している。下難波村領所在時の渡辺村は「由来書」と絵図の景観を対照させると村を南北に走る3本の道を主軸としてE字型をした4町を基準とし,後に2町が接続し南側に拡張した景観をしていたと考えられる。こうした景観は元禄期に木津村領内に移転した後の景観にも影響を与えている。先行研究で指摘されているように下難波村当時の町共同体を維持するため空間的にいくつかの無理を看取することができる。いずれにせよ,渡辺村は移転前後ともに一貫して町としてのまとまりをもち,その景観にも共同体の存在が影響をあたえていたことが知られる。しかしながら,近世に作成された最大・最詳といわれる版行大阪図『増修改正摂州大阪地図』では,町の景観は複雑な道の曲折まで表現しているにもかかわらず,この図では渡辺村を「穢多村」と一括りに身分名で表記するのみで,町の名称まで記載されていない。本図の作成者がこうした情報の取捨選択をした背景には何らかの基準があったはずである。まず想定される地図利用者にとって必要な情報の最大公約数的な部分を掲載すると考えれば,省略された部分は必要ないと判断された情報であるといえよう。つまり,木津村の町名は必要であるが,渡辺村についてはそこが「穢多村」であること,町場を形成していることがわかれば十分である,ということであろう。こうした絵図における情報の取捨選択から,近世大坂における社会の被差別民への視線と意識を読み解くことができるのではないだろうか。
東 清二 Azuma Seizi
1.Cue lureは雄ウリミバエに対して強力な誘引力を有することが知られているが,宮古群島の伊良部島において使用を試み若干の成績を得たので参考までに報告した。2.1%のDibrom 剤を添加した2ccの Cue lure を脱脂綿に浸透させ,trap に備えつけてウリミバエを誘致した成績は第1表の通りであった。1日に1trap で6-239匹も誘致したことから優れた効果のあることがここでも判明した。また誘致虫数は風速により大きく影響されるものと思慮される。3.Markしたウリミバエを Cue lure trap より適当距離の地点において放飼し,それを3日間にわたって回収したところ第2表の成績となった。それによりCue lure は風下500m,風上100m以内の範囲までウリミバエを誘致することが確認された。4.Cue lureによる防除効果については小笠原諸島父島におけるメチルユゲノールによるミカンコミバエ防除と同様,効果が大きいものと思われる。特に宮古,八重山の島々のように隔離された場所において実施すれば防除は比較的効果があるものと考えられる。
田島, 孝治 TAJIMA, Koji
街路の看板や張り紙に書かれた文字・言語が作り出す景観は言語景観と呼ばれ,言語学分野だけでなく,地理学,社会学など社会科学の諸分野で調査・研究が行われてきた。本稿では,著者が開発した調査用のツールを紹介すると共に,動作検証を目的として行った,神奈川県鎌倉市における「稲村ガ崎」の表記調査結果を報告する。開発したツールはスマートフォン用の調査ツールと,パソコン上で動作するデータ確認用のツールに分かれている。調査の道具としてスマートフォンを使うことで,調査結果の整理を簡単に行えるようになった。一方,ソフトウェアの処理結果は専用フォーマットになる部分を可能な限り少なくすることで,データの共有と再利用が容易になるように設計した。動作検証のための調査は約2時間行い,収集したデータは従来型の調査と比べ遜色ない結果を得られた。また,調査結果の分類作業が大幅に短縮されたためツールの有用性も確認することができた。
田中, ゆかり TANAKA, Yukari
文化庁国語課による『国語に関する世論調査』の平成7年度調査から平成10年度調査までの4回の調査結果に基づく報告を行う。報告は,各年度ごとの調査項目において被調査者属性が説明力を持たない/弱い項目を抽出することが中心である。被調査者属性が説明力を持たない/弱い項目とは,地域的・社会的属性などの「被調査者属性による偏りのない項日」ということになる。日本全国16歳以上の男女を対象とした無作為抽出による大規模な調査において,どのような項目が,「偏りを持たない」つまり,「衆目の一致する」項日に該当したか,ということを知ることは,今後の「共通語」あるいは「共通語」的認識を知る上で有効であると考える。典型的な「偏りを持たない」項目は,従来的な言語規範意識に関わる項目,従来「誤用/誤認識」「新形/新認識」とされてきたもののうちすでに「共通語」的位置にある項目,回答数が非常に少ないために偏りが抽出されない項目であることが分かった。また,項目と被調査者属性との関わりだけでなく,項目間における説明力を持たない項目の抽出も行った。
Arakaki Hiroko Sho Hiroko 新垣 博子 尚 弘子
本報は1959年9月9日より同11日に久米島の具志川、仲里の両小学校において4年次児童232名について行なった栄養調査の結果である。私共の健康が毎日の食事の摂り方と密接な関係がある事は周知の通りである。殊に児童の栄養は将来の健康を大きく左右する。児童の栄養調査に就いては黒田氏に依る沖縄学童の栄養状態調査についての報告があるが、これは専ら身体症候調査に依るもので食事調査と医師による精密検査を同時に行なったものがない。ここで今度医療および食事の両面から之を行ない、今後の栄養教育と農業生産指導の一資料とする事を目的とした。調査は医療牡と栄養斑に分れ、夫々数名の助手の協力の下に行なった。医療柾は琉球民政肘公衆衛生部長マーシャル医師とフランセス医師の指導の下に軍病院より2名の医師と那覇保健所の技術員および公衆衛生看護婦の協力を得て本調査を施行した。尚本調査はInterdepartmental Committee on Nutrition for National Defenseの調査方法に基いて施行し、学童227名について身体症候調査を行ない、5名に1名の割で精密検査を行なった。栄養牡に筆者等が当たり琉球大学家政学科職員2名および久米島高等学校家庭科担当教官の協力を得て栄養摂取量の調査を行なった。方法は24時間回顧法を採用し、学童の回顧を助けるため調査地に於ける最も代表的な1日の食事のsample(予備調査により資料を得る)を数種作り面接の際に用いた。身体症候調査および精密検査の結果は第1表、第2表、第3表に、食品摂取状況と実際摂取量は第4表第5表に、栄養摂取量は性別、学校別、全体平均に分けまとめた。これ等の表より身体症候調査による栄養欠乏率と栄養摂取量調査に見られる栄養欠乏率に強度の差はあるが相関関係が見られた。
米盛 徳市 新里 里春 中里 治男 Yonemori Tokuichi Shinzato Rishun Nakazato Haruo
本調査研究は、第1報を踏まえて3年次実習生の実習の意識を4年次との比較でもって特徴を明らかにすることとした。対象は平成2年10月に附属学校で教育実習2を終了した本学部3年次学生である。調査は平成2年12月の事後指導の時限に参加者全員に実施した。調査に協力した学生は、小学校課程男子17名、女子59名、中学校課程男子11名、女子15名であった。調査用紙は第1報と同一のものを用いた。質問項目は第1報を参照。調査は学生に調査目的を述べ、了解を得た上で無記名で実施した。
清水, 享 SHIMIZU, Toru
本報告は中国雲南省紅河州、文山州における碑文調査の概要である。生態環境史研究における碑文調査の有効性と雲南省南部の紅河州と文山州の調査を実施するまでの経緯を簡述する。調査地域の紅河州、文山州の地理的歴史的概況に触れ、調査日程と調査した碑文について、その概要を含め簡単に報告する。また、生態史に関わる碑文の現状を碑文の立地と保存情況および碑文と村落との関わりについて封山護林碑、水利碑、民約碑に分けて概観し、村落内における碑文の価値、文物としての碑文の保護について論じる。
Shimabukuro Shun-ichi Tamori masao 島袋 俊一 田盛 正雄
1.この報文は、琉球列島内の奄美群島に属する徳之島のサビ菌についてまとめたものである。2.この島のサビ菌類については、1955年に、平塚直秀、島袋俊一、新納義馬氏らが10属28種記録したのが最初である。3.その後著者の一人田盛正雄は1961年3月本島に採集して新しく39種を追加したので、結局16属67種のサビ菌を産することが認められた。新しく加わったものは次のとおりである。すなわち、Milesina属1種、Phakopsora属2種、crossopsora属1種、Coleopucciniella属1種、Coleosporium属1種、Hamaspora属1種、Phragmidium属2種、Uromyces属7種、Puccinia属19種、Uredo属2種、Aecidium属2種。4.この報文において、つぎの10種が奄美群島のサビ菌フロラに新しく加わった。すなわち、1)Uromyces galli Dietel,2)Puccinia allii(DC.) Rudolphi,3)Puccinia caricis-macrocephalae Dietel,4)Puccinia lactucae-repentis Miyabe et T. Miyake 5)Puccinia lepturi Hiratsuka,f.,6)Puccinia miyoshiana Dietel,7)Puccinia oahuensis Elliset Everhart,8)Uredo psychotricola Hennings,9)Aecidium elaeagni Dietel,10)Aecidium hornotinum Cummins. 6.有用植物に寄生するサビ菌類は上記67種のうち6種である。(数字は enumeration の菌番号)6―シマグワ、12―ヒイランシヤリンバイ、25―ソウシジュ、37―ニンニク、ニラ、57―ホテイチク。
大屋 一弘 鎮西 忠茂 Oya Kazuhiro Chinzei Tadashige
沖縄島土壌の肥沃度特性を把握し、 肥沃度管理上の土壌グループ設定を行なうために実験を行なった。沖縄島に設定されている18土壌統(うち伊豆味統を除く)の耕土のサンプルを多数採取し、 そのpHCEC、 置換性塩基(Ca、 Mg、 K)含量、 可給態りん酸含量、 および可溶性微量元素(Mn、 Fe、 Cu)などを分析測定したが、 これらの測定項目のうちpH、 CEC、 置換性カリ、 可給態りん酸などを肥沃度指標として選び各土壌肥沃度の相対的等級付けを行なった。肥沃度等級付けには各土壌の水分状態も考慮に入れたこの等級付けに従い類似等級の土壌をまとめて肥沃度管理上の土壌グループとした。その結果沖縄島には5つの肥沃度グループを設定することが適当であると思料された。すなわち肥沃度グループIに属するものには伊集統、 小那覇統、 安慶田統、 稲嶺統土壌など、 グループIIには並里統B、 糸洲統、 摩文仁統、 並里統A土壌などグループIIIには安田統、 中川統、 具志堅、 屋名座統土壌など、 グループIVには東統、 (伊豆味統)、 奥統、 名護統土壌など、 グループVには屋部統、 志喜屋統土壌などである。グループ番号は肥沃度の順位とは関係なく付けられたが、 それぞれのグループの肥沃度特性に従い適当な施肥管理をすることが望まれる。
中尾, 七重 坂本, 稔 今村, 峯雄 永井, 規男 西島, 眞理子 モリス, マーティン 丸山, 俊明 Nakao, Nanae Sakamoto, Minoru Imamura, Mineo Nagai, Norio Nishijima, Mariko Morris, Martin Maruyama, Toshiaki
放射性炭素年代測定を用いた住まいの建築年代調査において,庶民住居である民家と上層住宅の¹⁴C年代調査法の比較研究を行った。民家3棟と住宅4棟の事例報告を行い,年代調査の目的と,¹⁴C年代調査に適した部材選択の条件について検討した。
千田, 嘉博 Senda, Yoshihiro
中世城館の調査はようやく近年,文献史学,歴史地理学,考古学など,さまざまな方法からおこなわれるようになった。こうした中でも,城館遺跡の概要をすばやく,簡易に把握する方法として縄張り調査は広く進められている。縄張り調査とは地表面観察によって,城館の堀・土塁・虎口などの防御遺構を把握することを主眼とする調査をいう。そしてその成果は「縄張り図」にまとめられる。
上野, 和男 Ueno, Kazuo
本稿は「日本歴史における地域性の総合的研究」のうち「民俗の地域差と地域性」班の一調査として、一九八六年以降調査研究を試みてきた奈良県天理市荒蒔の社会構造、とくに村落組織、家族、宮座に関する調査報告である。荒蒔は日本の中央部の村落社会の構造的特徴をよく示している村落であると考えられ、また区有文書、村神主文書など文書記録も数多くのこされており、村落の社会変化を民俗調査と文書調査を併用して明らかにするにふさわしい村落として選定した。
小島, 聡子 KOJIMA, Satoko
近代は「言文一致体」・「標準語」を整備し普及させようとしていた過渡的な時代である。そのため,当時,それらの言語とは異なる方言を用いていた地方出身者は,標準語を用いる際にも母語である方言の影響を受けた言葉づかいをしている可能性があると考え,近代の東北地方出身の童話作家の語法について,彼らの言葉づかいの特徴と方言との関連について考察した。資料としては,宮沢賢治の『注文の多い料理店』,浜田広介の『椋鳥の夢』を全文データ化してコーパスとして利用した。その上で,文法的な要素に着目し,格助詞・接続助詞等の一部について,用法や使用頻度・分布などを既存の近代語のコーパスと比較し,その特徴を明らかにすることを試みた。また,『方言文法全国地図』などの方言資料から,彼らの言葉づかいと方言との関連性を探った。その結果,格助詞「へ」の用法・頻度については,方言の助詞「さ」の存在が関連している可能性があることを指摘した。また,接続助詞の形式,限定を表す表現などにも方言からの影響がある可能性を指摘した。
勝田, 至 Katsuda, Itaru
隈田の共同研究に参加するにあたり、豊富に残されている隈田の中世史料に現れる地名を現在の小字・小地名に比定する作業を行うことになった。中世前期の史料は名(みよう)の名で土地が表されることが多いため残存率は低いが、中世後期の地名はかなりよく残っている。とくに史料の多い境原については、現在宅地造成で景観が一変しているが、開発以前の地図を用いて地名の聞き取りを行い、四至をはじめ主要な地名はほぼ比定できた。小峯寺領の範囲や、近世に堂座が存在した東光寺(薬師堂)が中世には小峯寺近くの東谷川南岸にあったことなどが判明し、葛原家文書に残されている近世の境原絵図も用いることによって、小峯寺周辺の景観はかなり復元できるが、領主葛原氏の屋敷跡の正確な所在地は確定しがたい。紀ノ川以北の北荘については小字レベルの比定を行ったが、高野山文書中に史料が残されている南荘については今回は考証の対象外とした。付図「境原主要部」および「隅田荘大字・小字図」をあわせ参照されたい。後者は南荘および現在五條市域の木ノ原・畑田をふくめ荘域のほぼ全体を含んでいる。
平山 琢二 田崎 駿平 藤原 望 眞榮田 知美 大泰司 紀之 Hirayama Takuji Tasaki Shumpei Fujiwara Nozomi Maeda Tomomi Ohtaishi Noriyuki
西表島周辺におけるジュゴンの定着の可能性について調査する目的で、ジュゴンによる食痕調査およびジュゴンに関する伝聞や目撃情報などの聞き取り調査を行った。食痕調査では4地域を行った。また、聞き取り調査では石垣島およひ西表島で計41名を対象に行った。ジュゴンの食痕調査では、いずれの地域においてもジュゴンによる食痕は確認できなかった。また、ジュゴンの目撃に関する情報は、石垣島およひ西表島ともに全くなかった。伝聞に関しては30件の情報を得た。このようなことから、今回のジュゴンの食痕調査および聞き取り調査から、現在は西表島周辺にジュゴンは定着していないと思われた。しかし、かつてジュゴンが棲息していた地域における海草藻場の広がりは極めて良好であり、南西諸島海洋の生物多様性の面からも非常に重要な地域である。西表島西岸は、定期船の往来も少なく、良好な藻場を有していることから、西表島におけるジュゴン定着の可能性は極めて高いものと推察された。
宮島, 達夫 MIYAJIMA, Tatsuo
国立国語研究所は創立当初から統計的な語彙調査をめざし,新聞・雑誌・教科書・テレビ放送など各種の資料について大規模な調査を行ってきた。それは統計的処理の面で先進的なものだったが,最近の英語圏の調査にくらべると代表性・規模などで問題がある。一方,大量の現代語用例にもとづく記述も国立国語研究所が開拓したものであり,現在開発中の1億語コーパスは,語彙調査と実証的記述の伝統を発展させるものとして期待できる。
金城 宏幸 上里 賢一 前門 晃 野入 直美 鍬塚 賢太郎 比屋根 照夫 中村 完 Kinjo Hiroyuki Uezato Kenichi Maekado Akira Noiri Naomi Kuwatsuka Kentaro Hiyane Teruo Nakamura Tamotsu
研究概要:(平成19年度時点)本研究では、米国をはじめとする海外の沖縄系コミュニティと日本における沖縄社会の多様性・特殊性・普遍性を解明しつつ、その越境的かつ重層的なネットワーク化のダイナミズム、すなわち新たな社会形成と地域活性化の可能性について検証した。具体的には以下の諸点を明らかにした。(1)海外(国内)における沖縄系コミュニティに関する実態調査県人会活動などが活発な北米を主に、南米及びフィリピンなどにおいて沖縄系コミュニティの実態と越境的なネットワーク形成に関する現地調査を実施し、比較研究を視野に入れた分析を行なった。並行して、国内の主要地域における県人会組織や活動の変化について資料収集と聞き取り調査を行った。(2)「第4回世界のウチナーンチュ大会」でのアンケート調査の分析2006年10月に沖縄県において開催された第4回世界のウチナーンチュ大会で実施したアンケート調査や聞き取り調査の集計・検証を継続し、分析結果をまとめた。同時に、沖縄県および他の地域における越境的なネットワークの拠点形成に関する動向を把握した。(3)調査結果の報告及び調査資料集と研究成果報告書の刊行今後の分析や考察、情報の共有などを目的に、各人が行った過年度および今年度の調査データ等をとりまとめ、調査資料集と研究成果報告書を刊行した。また、アンケート調査などに協力いただいた県系人や関係者に成果を還元するため、最終的な成果報告書をまとめる前に英語版の資料集を作成し、ロサンゼルスとハワイにて成果報告会(フォーラム)を実施した。
小田島, 建己 Odajima, Takemi
1997(平成9)年度から1998(平成10)年度にかけて,日本全国の47都道府県を対象に,1960年代前後と1990年代前後の葬送墓制習俗の現状が調査され,その結果は4冊の資料調査報告書『死・葬送・墓制資料集成』にまとめられ,1999(平成11)年に国立歴史民俗博物館から発行された。武田正によって当時調査された山形県東置賜郡高畠町時沢において,2011年に執り行われた葬儀の事例を調査し,約15年前との変化を確認した。
服部, 伊久男 Hattori, Ikuo
古代荘園図と総称される史料群の一例である「額田寺伽藍並条里図」の分析を通じて,8世紀後半の額田寺の構造と寺辺の景観を明らかにすると同時に,寺院景観論の深化を図ることを目的とする。官寺や国分寺については多くの先行研究があるが,史料の少ない氏寺などの私寺の構造と景観については,古代寺院の大部分を占めるものの十分な研究がなされてこなかった。氏寺の寺院景観の一端を明らかにし,多様な寺院研究の方法を提起するために額田寺図を検討する。近年の古代荘園図研究の動向を受けて,考古学的に検討する場合の分析視角を提示し,寺院空間論などの領域論的,空間論的視点を軸として,寺院組織や寺院経済をめぐる文献史学上の論点を援用しつつ,額田寺の構造と景観に言及する。額田寺伽藍並条里図は多様な情報を有する史料体であり,寺領図という性格に拘泥せず様々な課題設定が可能である。本稿では,社会経済史的視点を援用し,本図を一枚の経済地図として読むことも試みる。額田寺をめぐる寺院景観の中では,とりわけ,院地,寺領,墓(古墳),条里をめぐる諸問題について検討する。さらに,近年の考古学的成果を受けて,古代寺院の周辺で検出されている掘立柱建物群について,畿内外の諸例(池田寺遺跡,海会寺遺跡,市道遺跡など)を中心に検討を行う。小規模な氏寺をめぐる景観をこれほどまでに豊富に描き出している史料はなく,その分析結果が今後の古代寺院研究に与える影響は大きい。考古学的に検討するには方法論的にも,また,現地の調査の進捗状況からも限られたものとなるが,考古資料の解釈や理解に演繹的に活用するべきである。とりわけ,これまであまり重要視されてこなかった院地の分析に有効に作用することが確認された。また,近年の末端官衙論とも関係することが明らかとなった。今後,寺領をめぐる課題についても考古学から取り組む必要も強調したい。
村上, 忠喜 Murakami, Tadayoshi
日本民俗学の資料である伝承そのものは,資料として批判することが困難である。それというのも,伝承資料自体の持つ性格と,伝承を取り出す際の調査者の意図や,調査者と伝承保持者との人間関係など,さまざまな因子に影響を受けるからである。フィールドワークを土台とする学問でありながら,資料論や調査論の深化が阻まれていたことは不幸であり,その改善に向けての具体策を模索していくべきである。
松林, 公蔵 奥宮, 清人 石根, 昌幸 鈴木, 健太郎 酒井, 茂樹 石森, 綾子 臼田, 加代子 MATSUBAYASHI, Kozo OKUMIYA, Kiyohito ISHINE, Masayuki SUZUKI, Kentaro SAKAI, Shigeki ISHIMORI, Ayako USUDA, Kayo
2004年2月の一次調査で、ラハナム村在住高齢者の包括的機能評価を含む医学調査を行い、高血糖や貧血を有する高齢者の頻度が高いことを報告した。今回の調査では、ソンコン郡の中心部のパクソン住民に対し、同様の調査を行い、疾患、生活機能と環境の違いについて、ラハナム住民と比較分析を行うとともに、ラハナムとパクソンの高血糖に対し、経口ブドウ糖負荷テストによる、糖尿病の正確な疫学調査を施行し、インスリン分泌能と反応性の分析や経済調査との関連から、発症原因について考察した。糖尿病その他の疾患に関する、住民と現地医療従事者への情報提供を実施した。高血糖の有無による、合併症の発症や死亡に対する予後を今後追跡していく必要がある。
中野, 洋
語彙についての統計的法則がある。本発表では、国立国語研究所が行った9つの語彙調査を用いて、異なる内容の調査対象間にも共通に存在する語彙とその使用率の関係について述べる。
吉村 清 Yoshimura Kiyoshi
昨年本紀要第53号に「FDレポート:大学で蔓延するコピペ文化弊害への解決の糸口」と題して拙文を掲載したが、本稿はその続編であり、2年連続担当の09前期の「基礎演習」に加えて同「17・18世紀イギリス文学」期末レポートについての報告である。これまでレポートに関しては、それぞれの教員が専ら独自に指導し、お互いに情報交換を行い、学生のレポート作成能力の向上をいかに図るかという議論はあまり見られなかったと思う。私たち「基礎演習」担当の教員は共通テキストを使用するのであれば、共通ウェブシラバスを作成・掲載するのが当然であろうとの合意の元で意見交換を行いながら同シラバスの作成・掲載を行った。授業は同シラバスを元にそれぞれが創意工夫して展開したものと考える。以下は前述の2クラスの期末レポートに関する問題点とその打開策を論じ、併せて両クラスの中でも秀逸と思われる学生のレポートを掲載したものである。尚、模範レポートには学籍番号と氏名が記されているが、本人たちの事前了解をえたものであることを断っておきたい。FDの必要性が日常的に問われる現状に対して、建設的なFDの方向性構築のための一助となり、将来的には英語文化専攻独自の「基礎演習」テキスト作成に繋がれば幸いである。
狩俣 繁久 Karimata Shigehisa
平成17-19年度科学研究費補助金基盤研究(C)研究成果報告書 / 研究概要 : 沖縄県石垣市白保集落は、1771年に発生した大地震と津波によって全滅し波照間島からの移住者によって再建されたが、両者の方言が同じ方言であることはよく知られている。しかし、233年間の両者の変化がどの程度か、変化はどんな面にあらわれているかについては明らかではない。2年度目である本年 (18)度には、石垣島白保集落での臨地調査を2回、竹富町波照間島での調査を1回実施した。また、これまでに収集した波照間島方言の語彙資料のパソコンへの入力とデータベース化など研究のための基礎データの整備等をひきつづきおこなった。先行研究がすくなく、代表者自身の所有する既存の調査データに少なかった白保方言の調査、研究を重点的に行なった。今年度は、とくに、周辺方言や日本語標準語からの影響や借用がすくないと考えられる文法事項、とくに名詞に接続する格助辞と係助辞をおおく含ふむ文法調査票を使用して、その形式のみならず、文法的な意味、用法をあきらかにするための例文によって調査した。また、おなじ調査票を使用した臨地調査を波照間島でもおこなった。文法調査でも、調査前の予想を超えて日本語標準語の影響がつよく、また、白保方言の変容に大きな影響をあたえたと考えられる石垣島の中央方言である四箇(石垣、登野城、新川、大川の4字)方言について臨地調査の必要性を感じた。ふたつの方言間の比較研究をおこなうとき、類似の現象が共通祖語(祖方言)にさかのぼるものか、分岐後の別々におきたものなのか、判断にまようケースがあって、単語を個別的に比較するだけでなく、音韻体系の比較、変化の要因の蓋然性や、変化が新しいものなのか、古い変化なのか、音韻変化の体系性、音韻変化の構造についても調査する必要性を感じた。なお、その点については、一部のデータに関して調査と分析を行なった。
田中, ゆかり 林, 直樹 前田, 忠彦 相澤, 正夫 TANAKA, Yukari HAYASHI, Naoki MAEDA, Tadahiko AIZAWA, Masao
2015年8月に実施した,全国に居住する20歳以上の男女約1万人から回答を得たWeb調査に基づく最新の全国方言意識調査の概要と「方言・共通語意識」項目についての報告,ならびにその結果を用いた地域類型の提案を行う。
野山, 広 NOYAMA, Hiroshi
本稿では,独創・発展型共同研究プロジェクト「定住外国人の日本語習得と言語生活の実態に関する学際的研究」で企画・実施された縦断調査研究の成果を紹介した。最初に,研究目的と実施された調査の設計(方法・姿勢等)について述べた。その後,研究期間中に実施されたさまざまな調査のうち,秋田県A市で実施された調査結果と群馬県B町で実施された調査結果を取り上げた。また「話し合いの場(多人数会話の場面)」作りの試案を提示し,その提供の方法,試案の有用性,反省点を示した。最後に,今後の当該分野に関する課題の提示や展望を行った。
西村, 慎太郎 NISHIMURA, Shintaro
本稿は記録史料群の整理・調査方法のうち、段階的整理に則って行われる概要調査あるいは現状記録の方法を振り返り、現在的な課題の中でどのような考え方や方法に基づくべきかを提示するものである。但し、ここでは文書館・博物館・図書館などの資料保存機関に収蔵されている記録史料群ではなく、個人住宅などの民間に所在する資料を対象としたい。最初に概要調査と現状記録の理念について、研究蓄積を振り返り民間所在資料を扱う場合のスタンスについて私見を述べる。次に概要調査と現状記録についての実際の方法について検証する。概要調査にしろ、現状記録にしろ、1980年代に提起されて以降見直されていないため、方法の検証が必要であるものと思われる。次に民間所在資料で求められる概要調査と現状記録の考え方と方法についての筆者の考えを述べ、デジタルカメラを多用する方法を提起する。また、実験段階ではあるがiPadを用いた方法も提起する。
藤田, 盟児 Fujita, Meiji
宮島にある厳島神社の門前町には,オウエという吹き抜けになった部屋をもつ町家群があり,中部・北陸地方の町家形式に酷似する。平成17年度から18年度にかけて実施した伝統的建造物群保存対策調査で,それらの建造年代を形式や技法の新旧関係から推定する編年を行ったが,18世紀後期と推定した田中家住宅と飯田家作業所について¹⁴C年代調査を行ったところ,両方とも17世紀後期の建築である可能性が高まった。このことから,厳島神社門前町の町家建築の編年を見直して,¹⁴C年代調査が民家調査の編年に及ぼす影響について述べた。
Kobayashi Masaomi 小林 正臣
アミタヴ・ゴーシュの『シャドウ・ラインズ』(The Shadow Lines)は、カルカッタ、ダッカ、そしてイギリスを舞台にしており、当時の植民地インドにおいて語られなかった歴史が語られることに重点が置かれている。この点において本作は、典型的な脱植民地的な文学作品である。知られているように、思想化・理論家のガヤトリ・C・スピヴァクは、「サバルタン」(subaltern)を定義することで、語られない歴史における語(ら)れない人々(特に女性)に注目する。しかし同時に、現在は合衆国の大学人として-すなわち現在は発信できる場所にいて地位にある知識人として-彼女自身が批判されることもある。いずれにしても、サバルタンを語ること・代弁することは、発声・発信を可能にする場所にいることと関わっている。ゴーシュの語り手も、語られなかった歴史を語るためには「正確な想像力」(imagination with precision)が必要であることを学習したのち実践する。中流階級に位置する彼は、語る声を奪う者でも奪われる者でもない地点から知識を活用することで「脱植民地」(postcoloniality)を試みる。最後に本論は、その試みを無数の言説に包囲されつつも「間言説性」(interdiscursivity)を実践することの類推として捉え、新たな知の発信地を開拓する可能性を提示する。
岩崎 保道 Iwasaki Yasumichi
本稿は、琉球大学における教員業績評価の改善の検討結果との比較検討を次の展開により行うものである。第一に、本学における教員業績評価の取り組みを紹介する。第二に、国立大学に対する教員業績評価に関するアンケート調査報告を行う。第三に、教員業績評価に関する訪問調査結果を報告する。第四に、アンケート調査結果と本学との比較検討を行う。第五に、本学の教員業績評価の改善方策を示す。
池口, 明子
本稿では、2005 年度におこなった村落世帯悉皆調査について、その研究視点と方法、今後の課題を述べた。近年、自然環境の利用の変化を分析する方法として、世帯調査の重要性が増している。とくに、世帯を均一な社会単位としてではなく、年齢・性やその文化的理解の構成を捉える視点が重要視されつつある。今後の課題として、本調査をもとに多様な資源利用の実態を把握し、その世帯経済におけるその位置づけや世帯差を明らかにすること、そのうえで、2006 年度の資源利用活動調査を進めることをあげた。
木田, 歩 KIDA, Ayumi
人類学・民族学における学術的資料が、2000 年に上智大学から南山大学人類学博物館に寄贈された。これらは、白鳥芳郎を団長とし、1969 年から1974 年にかけて3 回おこなわれた「上智大学西北タイ歴史・文化調査団」が収集した資料である。本報告では、まず、調査団の概要について、白鳥による研究目標をもとに説明し、次に寄贈された資料を紹介する。最後に、今後の調査課題と研究の展望について提示する。
知念 功 幸地 宏子 福渡 七郎 Chinen Isao Kochi Hiroko Fukuwatari Shichiro
沖縄本島内の4製糖工場で産出される甘蔗バガスの脂質を定性、 定量した。またこのバガス中の脂質の構成成分を知るうえからこれらの脂質の脂肪酸組成をガスクロマトグラフィーで求めた。1.甘蔗バガス中の脂質は、 炭化水素(Rf0.95)、 トリグリセリド(Rf0.73)、 遊離脂肪酸(Rf0.40)、 ステロール(Rf0.18)、 リン脂質(Rf0.00)、 未知物質(Rf0.25)からなることを薄層クロマトグラフィーによって知った。2.これらの脂質を定量した結果、 甘蔗バガス1g当り、 総脂質は5.20∿8.85mg、 リン脂質1.72∿2.00mg、 ステロール0.39∿0.66mgであった。3.これらの脂質の脂肪酸組成を求めた結果、 総脂質では、 19の脂肪酸を認めた。そのうちで最も多い脂肪酸は、 C18 : 2であり、 約30%であった。次にC16 : 0、C18 : 1、C20 : 1の順に多かった。炭化水素分画では、 C20 : 1、C16 : 0、C18 : 2等が主成分であった。トリグリセリド分画では、 C16 : 0が最も多く、 次に未知脂肪酸(チャート上のピーク番号16)等が多かった。遊離脂肪酸分画でもC16 : 0が最も多く、 次に未知脂肪酸、 C18 : 1等が多かった。ステロールおよびモノー、 ジグリセリド分画では、 未知脂肪酸とC16 : 0等が特に多かった。リン脂質分画では、 未知脂肪酸が多く、 次にC16 : 0が多かった。未知物質分画では、 未知脂肪酸とC16 : 0が多かった。
横山, 詔一 笹原, 宏之 エリク, ロング 谷本, 玲大 YOKOYAMA, Shoici SASAHARA, Hiroyuki ERIC, Long TANIMOTO, Sachihiro
新聞漢字調査について,豊島(1999)の論考を羅針盤としながら国内の状況を概観し,今後の調査に資する視点の設定を日指した。おもに新聞記事を電子化する際に原紙と電子化テキストの間で齟齬が生じる背景を考察し,メディア変換に伴って必然的に発生する諸問題の整理を試みた。そして,以下の提言を行った。将来,独立行政法人・国立国語研究所が新聞漢字調査を実施する場合は,調査精度と費用のバランスという観点から,大量の原紙を研究所側で電子化する作業は避けつつ,また外部から購入した電子化テキストを無批判に受け入れることもないよう,新聞社等の協力を得ながら原紙の組版に使用された文字データを分析するのが望ましいと考える。
津波 高志 稲村 務 Tsuha Takashi Inamura Tsutomu
民俗調査は人々の「声」の調査であり、生活の実態についての複合的な調査である。しかし、これまでのデータベースはそれぞれの声を文脈がわからない程に分解し、統合するという過程であり、「声」にとって一番重要な文脈を保存できておらず、複眼的な比較もできなかった。本稿ではICレコーダーとコンピュータソフトを使い、従来にないWeb型のデータベースの構築を提唱する。そうすることによって、民俗語彙、視覚情報、個々人の声、研究者の仮説とを有機的にリンクさせたデータベースの構築が可能になることを、奄美諸島の中の与論町における墓地にかんする調査のデータ化と大和村における人々の植物に対する認識のデータ化の事例を用いたデータベース構築を例として示す。
王 怡人 Wang Yi-jen 金丸 輝康 Kanamaru Teruyasu
本稿は,中小製造企業の情報発信の実態に関する質問票調査の結果を整理したものである。中小企業は大手広告代理店を利用しないため,メディア利用状況と情報発信の実態は把握されにくい。その実態を把握するために,中小製造企業に焦点を当て,「メディアの利用状況」,「発信される情報の内容」,「消費者や取引相手(顧客)の反応」という 3 つのカテゴリーにわけて質問票調査を行った。調査結果の詳細を以下に記す。
笹原, 宏之 小沼, 悦
国立国語研究所言語体系研究部第三研究室では、1994年度に刊行された月刊雑誌を対象に、標本抽出に基づく用字・表記の大量調査と、それに対する研究を実施している。また、日本語の名詞の一角を占める固有名詞の用字・表記について、笹原は科学研究費により日本全国の地名の全数調査とスカウト式用例採集調査に基づく研究も行っている。それらの概要をまとめておく。
片岡 淳 Kataoka Jun
研究概要:本研究は、平成5年度から8年度まで沖縄県教育委員会から調査嘱託委員として調査した織物品378点、染物品139点のデータベースの構築を行うことであった。平成10年度・11年度、その情報の入力作業をしていく内に、服装の採寸調査項目の不備、繊維鑑定の見解の相違などがわかった。正確なデータを入力するためにも再検討・再調査を加えた。そして12年度は、繊維の顕微鏡写真の収集に力をいれた。その結果、琉球服装の調査項目を改善し、両身頃を調査した結果、大袖衣について物差を使わない「手度法」であることを確認できた。また、胴衣の袖と脇あきに特色があることがわかった。沖縄県各地の織物組合の素材以外にも、各島々に芭蕉・苧麻・木綿の染織品があることがわかった。その織物技術は、織密度や意匠が優れたものであり、またその多様性は広く今後、公開していきたい。歴代宝案や混効験集に見られる緞・細嫩蕉布・蜻蛉羽衣等、どのような染織布であるか、断定はできないが、資料の収集と拡大写真のデータが得られた。研究対象が神衣装であり、教育委員会や個人の協力により、さらに各島々に残る染織資料を調査研究していきたい。
西内, 沙恵
多義語のプロトタイプ的意味の認定には、意味的出現の高頻度・想起の容易さ・用法上の制約の少なさ・歴史的出現の順序・習得段階など、様々な手法が提起されている。本研究では、意味の移り変わりを前提とした、再調査可能なデザインの量的調査による認定手法を提案する。調査では、多義的形容詞の実例と脱文脈化した語の類似度を調べ、その結果に基づいてプロトタイプ的意味の認定を行う。発表では、この手法の妥当性を多角的に検討する。
前川, 喜久雄
国立国語研究所が山形県鶴岡市で収集した共通語化調査データのうち第1~3回調査の音声項目データを用いて、方言音声共通語化過程の統計モデルを構築した。既に報告した第1回調査データと同様、第2回・第3回調査データも二項分布に基づくロジスティック回帰モデルを適用するには分散が大きすぎる(過分散状態)。そのため、ベルヌーイ分布の成功確率が種々の要因によって変動するベイズモデルを考案した。7種のモデルの性能をF値・平均予測誤差・WAICの三者で評価した結果、回帰直線の切片が話者と語彙の要因によって変動し、傾きが語彙の要因によって変動するモデルが良モデルとなった。このモデルのF値は0.95に達しており、強い説明力を有している。さらにこのモデルにおける話者の個体性情報を「性別・言語形成地域・教育歴」の情報で置換したモデルを評価したところ、第2・第3回調査データについては、良モデルとほぼ同等の性能を発揮するものの第1回調査については性能がかなり低下することが判明した。
石嶺 行男 Ishimine Yukio
沖縄県の基幹産業の首位は依然として糖業によって占められ、 糖業は県経済の安定維持を図る上で極めて重要な役割を果している。イネ科作物のサトウキビは糖業の唯一の原料として県内のほとんど全域にわたって栽培されており、 栽培面積は総耕地面積の70%を超える。サトウキビを栽培している農家世帯は総農家数の85%以上におよび、 その生産は農業粗生産額の30%前後に相当する。他方、 沖縄県は高温多湿な亜熱帯に位置し気候が海洋性であるため雑草の生育に好適な環境が形成されており、 至る処に多種多様の雑草の発生・繁茂がみられ、 植生の様相は国内の他の地方とは著しく異なる。本研究で扱ったサトウキビ畑の雑草は一年生草と多年生草を合わせて233種を数えたが、 このうち最も大型で、 繁殖・散布が極めて旺盛であることから雑草害の大きい草種として注目されるのはイネ科の多年生草タチスズメノヒエとキク科の多年生草タチアワユキセンダングサの2種である。タチスズメノヒエは1、2、3月を除き常時発生し、 タチアワユキセンダングサは周年発生する。このため両草種の防除には多くの時間、 労力、 費用を必要とし、 蔓延が広範囲におよんだ場合は、 サトウキビの栽培上由々しい問題となることが予想される。また、 両草種に関する限り従来の除草剤、 機械力または人力に依存する防除対策には自ら限界があり、 これらの慣行的方法と併せて新たに有効適切な防除体系を組み立てることが強く望まれている。本研究は、 まずサトウキビ畑に発生する雑草群落の実態を把握し、 次に代表的な強害雑草と判断されるイネ科のタチスズメノヒエとキク科のタチアワユキセンダングサの生育と環境要因との関係を追究し、 更に研究の最終段階でサトウキビと両草種の競合関係を検討し、 生理・生態学的観点から両草種の効果的な防除につながる基礎的知見を得ることを目的として1981年から1985年にかけて県内の主なサトウキビ栽培地域と琉球大学農学部附属農場において行われたものである。以下、 その結果を総括し、 結論とする。1雑草群落と雑草相群落調査の結果、 調査地点のサトウキビ畑で確認された雑草は、 18亜種22変種を含む59科181属233種であった。これを科別にみると、 イネ科とキク科が最も多く、 次いでカヤツリグサ科とタカトウダイグサ科が主なものであった。
パルデシ, プラシャント 今村, 泰也 PARDESHI, Prashant IMAMURA, Yasunari
述語構造の意味範疇に関わる重要な言語現象の一つが「他動性」である。基幹型プロジェクト「述語構造の意味範疇の普遍性と多様性」では,意味的他動性が,(i)出来事の認識,(ii)その言語表現,(iii)言語習得(日本語学習者による日本語の自動詞と他動詞の習得)にどのように反映するかを解明することを目標に掲げ,日本語と世界諸言語を詳細に比較・検討し,それを通して,日本語などの個別言語の様相の解明だけでなく,言語の多様性と普遍性についての研究に貢献することを目指し,2009年10月から共同研究を進めてきた。さらに,日本語研究の成果を日本語教育に還元する目的で,基本動詞の統語的・意味的な特徴を詳細に記述するハンドブックを作成し,インターネット上で公開することを目指して研究・開発を進めてきた。本稿ではプロジェクトで企画・実施した共同研究の理論的および応用的な成果を概観した。理論的な成果としては,(1)地理類型論的なデータベースである「使役交替言語地図」(WATP),(2)日本語と世界諸言語の対照言語学的・類型論的な研究をまとめた論文集『有対動詞の通言語的研究:日本語と諸言語の対照研究から見えてくるもの』を紹介した。応用的な成果としては日本語教育に役立つ「基本動詞ハンドブック」の見出し執筆の方法とハンドブックのコンテンツについて紹介した。
﨑山, みき SAKIYAMA, Miki
本稿では米国国立公文書館にRG4の登録番号において現在に至るまで保存されている、第一次世界大戦時アメリカの食糧庁の記録群の管理の歴史をたどるものである。目的は、筆者の研究対象である食糧統制下で行われた銃後の女性たちによる食を通した戦時協力である食糧保存(food conservation)運動の史料収集・分析のためである。今日のアメリカでは史資料のデジタル化が進んでいるため、食糧保存運動に関する史料もウェブ上で入手可能なものも多い。一方でアーカイブズ学的な側面からの史料に関する基礎知識を持たずに個別のデジタル史料を見ても、研究対象とする事象の背景にある大きな歴史の文脈がみえてこないという問題があった。そこで本稿では同記録群の管理の歴史――設立されて間もない国立公文書館による食糧庁文書の受入から分類、その検索手段である『合衆国食糧庁記録群の予備インベントリ1917-1920年:本部機構パート1』が採用されるまで――の過程と同書の編成・記述内容をたどり、そこで得た知見から食糧政策全体を理解した上で、食糧保存運動の位置づけについて論じる。分析手法は同書の編成・記述から食糧庁本部事務所の組織の全容を理解し、記録の階層構造を明らかにすることで女性たちによる食糧保存運動に関する記録を特定する。その上で食糧保存運動が食糧政策全体のなかで果たした役割について分析する。
井上, 史雄 INOUE, Fumio
国立国語研究所がこれまで半世紀以上にわたって継続した調査のうち,岡崎敬語に関して成果を報告する。調査の回答(反応文)の長さを出発点にする。3回の調査結果のグラフの線がこれまで観察されたことのないパターンを示したので,まずその位置付けについて論じる。そのあと敬語関連現象のグラフに解説を加え,相互の論理的つながりについて考える。これまで岡崎の「ていただく」や「丁寧さ」の分析を進める際に,反応文の長さが問題になった。調査次とともに長くなるが,若い人は短い。時勢とともに「ていただく」が増え,丁寧さを示す表現が増えたから,回答文が長くなったと考えられる。敬語の成人後採用と深い関係が認められる。
国立国語研究所第二研究室
- 2021/9/8 16:09
人口調査に関係する文書。作成年代、筆者不明。「壱番」「弐番」「参番」と三つの調査内容が記されているが、全て同じ内容である。年代は不明だが、史料に「酉札改以後」(トリフダアラタメイゴ)とあり、前回調査は酉年だったことが分かる。「真栄里親雲上」(マエザトペーチン)という記述が見られるが、地域は特定できない。この時期の八重山の総人口は「一万五千七拾人」とある。
- 2009/6/5 16:47
人口調査に関係する文書。作成年代、筆者不明。「壱番」「弐番」「参番」と三つの調査内容が記されているが、全て同じ内容である。年代は不明だが、史料に「酉札改以後」(トリフダアラタメイゴ)とあり、前回調査は酉年だったことが分かる。「真栄里親雲上」(マエザトペーチン)という記述が見られるが、地域は特定できない。この時期の八重山の総人口は「一万五千七拾人」とある。
髙橋 美奈子 Takahashi Minako 渡真利 聖子 Tomari Seiko 平良 ゆかり Taira Yukari
本調査では,「外国人児童生徒のための JSL 対話型アセスメント DLA」(文部科学省 2014)で作成された JSL 評価参照枠<全体>をもとに,日本語指導が必要な児童生徒の状況を把握するための調査票を作成し,沖縄県内で比較的日本語支援体制が整備されている北谷町のすべての学級担任を対象に,自身の学級内の外国につながる児童生徒ならびに彼らの学級参加と日本語力を調査した。結果として,学級担任は,文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成 30 年度)」結果の 3 倍以上もの児童生徒に日本語指導等の特別な指導が必要だと認識していること,さらにそのうちの三分の一以上の児童生徒は無支援状態であることが明らかとなった。本調査により、 無支援状態の児童生徒ならびに学級担任の把握と実際の取り出し指導の差に当たる児童生徒については,DLA を実施して支援の要否や支援内容を正確に測る必要性が示唆された。
横山, 詔一 YOKOYAMA, Shoichi
言語変化の経年調査データから将来の言語変化を数量的に予測するモデル(横山・真田2010)について紹介した。このモデルは「臨界期記憶+調査年効果 → 共通語化」という図式にしたがって共通語化を説明・予測する。国立国語研究所が山形県鶴岡市を定点観測フィールドとして経年的に約20年間隔で過去3回実施した共通語化調査の大量データを,このモデルで解析した結果,アクセント共通語化などにおいて予測値と観測値が精度よく一致することが示された。
津波 高志 池田 榮史 町田 宗博 後藤 雅彦 石田 肇 土肥 直美 稲村 務 Tsuha Takashi Ikeda Yoshifumi Machida Munehiro Ishida Hajime Doi Naomi Inamura Tsutomu
研究概要:(平成18年度時点)研究第二年目にあたる本年度は調査対象地を奄美諸島のうち、徳之島と奄美大島に設定した。4月はまず琉球弧において洗骨儀礼が現在観察可能な与論に行き、洗骨儀礼の観察を行った。次に、概念構築のための比較例として沖縄側の墓制の変遷が明確に辿れる久米島を調査した。その後、徳之島・奄美大島に赴き、現地研究者との情報交換や聖地・葬地の踏査を行いながら、前年度に引き続き徳之島伊仙町面縄地区を中心に聖地・葬地の基礎的な調査を実施した。面縄地区は先史時代から近現代の葬地まで確認することができ、本研究の研究課題である聖地と葬地の関りを時間軸の中で捉えることができる地域として重要である。これらを踏まえて平成19年2月に伊仙町面縄地区において8日間の考古学的調査を実施した。考古班(後藤)は面縄の按司墓と伝承される積石遺構の実測と周辺地形の測猛調査を実施し、実測図を完成させた。また、徳之島でアムトと呼ばれている祭祀場において、所有者の了解を得た上でレーダー探査などの初歩的な調査を行った。文化人類学班(津波・稲村)は葬地を中心としたデジタル・データベースの構築と聖地・葬地に関するインタヴュー調査を行った。また、奄美大島では以前から継続調査をしている大和村において葬墓制に関する親族、儀礼、伝承の調査を行い、関連する文献資料の収集も行った。これらの資料はデジタル化された形で整理されている。形質人類学班(石田)は徳之島伊仙町における既知の出土人骨に関する情報を収集・検討を行い、町田は聖地、葬地および現在の集落、墓地などの関連性について航空写真や現地情報をもとに地理情報学的にGISを駆使して分析をすすめた。また、各分野での調査成果の共有と仮説や問題点の検討のために現地での打ち合わせを行い、今後の研究のフレームワークの構築を図った。
山田, 貞雄 中山, 典子
明治初期刊行の英和辞書を資料として,漢語訳語の網羅的調査結果の電子化モデルを作成し,分析を可能にした。また,フリガナつき対訳訳語資料『英和字彙』の訳語について網羅的調査と分析をすすめた。
吉永 安俊 酒井 一人 與名嶺 真徳 Yoshinaga Anshun SAkai Kazuhito Yonamine Shintoku
1. 沖縄の3箇所の下水浄化センターの排水は、 重金属等の有害物質の含有量の観点では、 潅漑用水として十分利用可能な状況にある。しかし、 ウイルスなどの病原体の調査が行われておらず、 潅漑利用にあたっては十分な調査が必要である。2. 処理水の潅漑使用に対する意識は年齢、 性、 地域、 職業別に異なる。たとえば、 高齢者より若年者の方が、 また、 男性より女性が処理水利用には厳しい意識をもっている。職業別では食品販売業が最も寛容で、 飲食業関係者が最も厳しい。また、 水資源の乏しい地域ほど処理水使用には比較的肯定的である。3. 農業者は使用方法を問わなければ、 80%以上が、 処理水の潅漑利用に肯定的であり、 水源水質をそれほど問題にしていない。しかし、 消費者同様、 女性が男性より処理水利用には厳しい意識がある。4. 処理水を潅漑利用することに対する否定的な感情は、 処理水は汚いものという先入観によるものが大きい。なお、 本調査は沖縄開発庁農林水産部土地改良課の「農村環境保全調査報告書・再利用水の農業利用可能性に関する調査」の一環として行われたものであり、 アンケート調査は沖縄県農林水産部が担当した。関係者には感謝の意を表する。
鄭, 毅
「満鉄調査研究資料」は、南満洲鉄道株式会社が、中国東北部を対象に行った長期的かつ大規模な調査の成果であり、日本植民地時代の「満洲文化遺産」として極めて重要な資料である。こうした資料が蓄積された背景として、「調査」「学術」「帝国」という三つの視座の存在を指摘することができるだろう。現在ではそのほとんどが中国の図書館と公文書館に所蔵されている。1950 年代から中国の研究者たちはその価値を認め、整理と研究に取りくみ、実りの多い成果を成し遂げた。
ザトラウスキー, ポリー SZATROWSKI, Polly
本研究は,食べ物を評価する際に用いられる「客観的表現」と「主観的表現」について考察する。そのために食べ物を評価する語句が,語句のみの場合(調査A),食べ物を評価する語句が,文脈なしの発話に置かれた場合(調査B),食べ物を評価する語句が,実際の会話で用いられた場合(調査C)のそれぞれにおいて,その語句/発話が肯定的/否定的な意味を持つかどうかの3種類の調査を行った。資料は試食会のコーパスから取った,20代の女性3人が3つのコースからなる食事を食べながら話している実際の試食会の会話を録音・録画したものである。調査Aでは語句のリスト,調査Bでは(調査Aの語句が含まれている)文脈から切り取った発話のリストをもとに,それぞれの語句や発話が肯定的か否定的かを5段階で被験者に判断してもらった。調査Cでは(調査Bの発話が入っている)試食会のビデオを見せながら,被験者にビデオの参加者が評価していると思う発話に対して,それらが肯定的か否定的かを会話の文字化資料に+,-で記してもらった。その結果,いわゆる客観的な語句であっても,個別の語句もその語句が含まれた文脈なしの発話も肯定的/否定的な意味を持つこと(調査A,B),それが試食会の会話の場合では一層顕著であること(調査C)が分かった。このように,いわゆる客観的な語句で主観的な好みが示される。そして試食会の相互作用の中での使用を分析した結果,参加者は食べ物に関する知識と過去の経験との比較に基づいて評価すると同時に自分のアイデンティティを見せ,ほかの人との意見・考えの異同を確認し合い連携し,親疎の人間関係を作ること,食べ物の評価は動的に作り上げられ,時間とともに展開し,変わっていく社会的な活動であることが確認された。「客観的表現」と「主観的表現」は,従来の意味論の研究においては語句中心か文脈なしの文で考察されてきたが,実際の様々な種類の談話の相互作用の中で考察する必要がある。本研究は,食べ物を評価する形容詞等の意味に関する研究,異文化間の理解,食べ物に関する研究にも貢献できるものである。
平山 琢二 小倉 剛 須藤 健二 上原 一郎 比嘉 辰雄 向井 宏 大泰司 紀之 Hirayama Takuji Ogura Go Sudo Kenji Uehara Ichiro Higa Tatsuo Mukai Hiroshi Otaishi NoriYuki
本調査では、沖縄県の八重山諸島にある西表島の道路交通手段が絶たれている西岸について海草の生息状況、種類およびその分布について行った。調査地は、沖側から水深が5m程度になる付近から岸側に向かって干出する所まで行った。調査は基本的に沖側から岸側に向かってトランセクト状にスノーケリングで行ったが、水深が浅く、船上から海草が確認できる場合にはマンタ法や船上から行った。今回調査した西表島西岸の海草藻場は、沖縄島の嘉陽海岸で調査した海草藻場と比較すると非常に海草の繁茂および被度が高く、広大で比較的良好な藻場であったことから、南西諸島海洋の生物多様性の面からも非常に重要なものと推察される。また、仮に八重山諸島においてジュゴンの個体群の復活がはかられた場合、ジュゴンにとって極めて豊富な餌資源を現在でも擁していると思われる。
金城 克哉 Kinjo Katsuya
今回、MSMの男性が利用する出会い系掲示板の投稿文の分析調査を行った。調査ではさまざまな特徴的な言葉が見られたが、本稿では文末表現(助動詞)「です」の代替表現「す」「っす」に議論を絞る。
竹田, 晃子 鑓水, 兼貴 TAKEDA, Koko YARIMIZU, Kanetaka
痛みを表す言語表現のうち動詞ウズクの使用実態について,約18万人を対象に行ったアンケート調査「慢性痛とその言語表現に関する全国調査」をもとに,地域差を中心に世代差・用法差を明らかにし,その背景を考察する。
上野, 善道 UWANO, Zendo
奄美徳之島浅間方言のアクセント資料の続きを提示する。今回は,上野(1983, 1985)の5~8モーラ語,および上野(1987b)の4モーラ語の2種類の語彙リストを用いて調査をした結果を掲げる。本稿で扱う調査項目は1400語あまりとなる。
吉村, 典子 Yoshimura, Noriko
本論文は愛媛県大洲市上須戒における夫婦共同型出産習俗について、主に一九八四年(昭和五九年)七月〜一九八七年十二月に集中的に調査し、その後二〇〇六年三月まで、数度にわたって補足調査した報告である。
島村, 直己 SHIMAMURA, Naomi
一つ一つの語について児童・生徒の理解程度を調査するのに,児童・生徒にそれらの理解程度を評定させるテストを行うことが多い。本稿は,このようなテストの信頼性・妥当性,理解程度の段階数,1回のテストに提出する語の数を検討することを目的として行った調査の報告である。
小倉, 慈司 Ogura, Shigeji
本稿は,日本古代の史料に押捺された印影を主に収録した摸古印譜(日本古印譜)について,その系譜を明らかにすることを目的とした調査の中間報告である。今回は特に日本古印の研究の基礎を築きその後の日本古印譜作成に大きな影響を与えた藤貞幹が登場する以前の時期に焦点をあてて調査を行なった。
中筋, 由紀子 Nakasuji, Yukiko
本論考は,先祖祭祀をめぐるインタビュー調査において,筆者が出会った二つの異質な場における「語り」のあり方を分析することによって,調査対象となるフィールドにおける,「語り」の構造とその変容について考察するものである。
山村, 規子 YAMAMURA, Noriko
本紹介は、国文学研究資料館の中庄新川家文書調査の一環であり、先の調査研究報告第三六号の鶴﨑裕雄報告、三七号の鶴﨑・小高道子・大利直美報告、本号の鶴﨑・小高報告と一連のものである。
渡久地 健 Toguchi Ken
八重山歌謡「ペンガントゥレー節」は,黒島の村々(集落)の男女がサンゴ礁の生物を中心とする野生の生き物を採集・捕獲する情景(じょうけい)を生きいきと描写した歌謡として人口に膾炙している。このユンタは,歌謡文学だけでなく,民俗学,海洋人類学,生物学の研究者からも注目され,歌調が詳解され,歌に詠まれた生物の種名同定が試みられ,歌の構造が分析されてきた。本稿は,これまでの研究をレヴューしつつ,歌の構造,歌に詠まれた漁場の地形と生物,漁撈活動における男女差について考察した研究ノートである。「ペンガントゥレー節」は,「8-5-7/8-5-7」という音数律で1番から6番まで謡われ,各番は黒島の6つの村と対応している(図1)。歌の流れ(時間)を地図(空間)に落とすと反時計回りの円環をなす。各村で採集・捕獲される生物の大部分がサンゴ礁の動植物であるが,漁場と海洋生物に限って男/女の違いをみると,「女性-サンゴ礁の内側-底棲生物(ベントス)/男性-サンゴ礁の外側-魚類(ネクトン)」という関係が認められる(図2)。この関係は今日のサンゴ礁域の漁撈活動の実態とほぼ同じである。このことから,叙事的歌謡が民俗的事象をストレートに映しだしているものではないが,それらから完全に自由ではないことを物語っているといってよいであろう。
薦田, 治子 Komoda, Haruko
本論文は平成21年度に国立歴史民俗博物館で行われた紀州徳川家伝来楽器コレクションの琵琶の調査の報告と,その結果に関する論考である。今回の調査の対象としたのは,同コレクション内の23面の琵琶のうち,中国琵琶を除く日本の琵琶22面である。
林 泉忠 Lim Chuan-tiong
研究概要:(平成19年度時点)19年度は、本研究プロジェクト「『辺境東アジア』住民のアイデンティティをめぐる国際比較調査研究」の3年目で、予定通り、沖縄での調査をはじめ、台湾政治大学と香港大学の協力を得て、11月に沖縄、台湾、香港、そしてマカオにおいて電話による同時アンケート調査を順調に実施した。過去2年間の質問を踏襲した上で、四地域それぞれの特性を考慮し地元に関する質問を大幅に増やした。調査は、文化的・民族的帰属意識と政治的・国家的帰属意識と大きく二つのカテゴリーに分類して行った。調査結果に関しては、過去2年間のそれに比べ、四地域それぞれ若干の変化が見られると同時に、アイデンティティ構造は四地域共に比較的に安定していることが調査から分かった。すなわち、エスニック・アイデンティティに関する質問群の回答結果から、地元意識の強い順は、台湾・沖縄・香港・マカオとなり、またナショナル・アイデンティティについて、国・中央政府への求心力の強い順は、マカオ・沖縄・香港・台湾になっている。とりわけ、若者の政治的自立志向に関して、台湾は最も強く、最も弱いマカオや沖縄と対照的な結果になった。 3年目の調査結果の一部はすでに11月27日に沖縄県庁にある記者クラブで開かれた記者会見で公表し、台湾と香港の協力機関もそれぞれ現地のマスコミに報告した。沖縄では、沖縄タイムス、琉球新報、RBC(TBS)ラジオ放送、RBCテレビ放送の取材も受けた。また、学術報告に関しては、アジア政経学会、青山学院大学国際研究センター、JICA移民資料館、台湾政治学会、WAPOR Regional Seminar(インド)、北京大学、南開大学(天津)、復旦大学(上海)、上海師範大学などで、調査で得た知見に基づき、研究発表を行った。さらに、三年間の研究成果として報告書をまとめ、「辺境東アジア」地域のダイナミックなアイデンティティ・ポリティクスを呈示している。
Christy Alan クリスティ アラン
ゲイル・プロジェクトとは、米国陸軍大尉チャールズ・ユージン・ゲイルによって1952 年に撮影された一連の写真を通し、アメリカによる初期の沖縄占領(1945 年から1960 年)の実態についての理解を深めようとする日米共同の歴史学的な取り組みであり、今後、アメリカと日本で写真やそれに関連する資料の巡回展を開催することが予定されている。本プロジェクトでは、沖縄における米軍のプレゼンスが形成された時代について、口述歴史調査と文献資料調査という二つの調査方法で、広範囲な歴史調査も行う。本稿では、歴史的証拠としての写真の重要性について述べると同時に、アメリカで行う沖縄の歴史の教育実践において、筆者が写真資料をどのように活用しているのかについて論じる。
多田, 伊織
一九九九年一二月、雲南省昆明市と香港で明治以前の日本書及び文書の調査を行った。これまであまり報告のなかった地域である。この調査では、伊澤蘭軒が校訂を加えた手抄本の「療諸病薬方六十道」(『華氏中蔵経』巻下)を雲南大学図書館善本室で、J. R. MacEwan旧蔵の伊藤仁斎『古学先生別集』稿本第一冊を香港大学平山図書館で目睹し得た。雲南大学の日本書は、旧貴州大学蔵書であり、このコレクションの分割先である西南地域の大学図書館の調査が望まれる。末尾に雲南大学図書館善本室の沈継延先生が作成された「日本書目録」の一部を掲載した。
神田, 邦彦 KANDA, Kunihiko
『方丈記』の諸本については、古本・流布本・略本の関係が長く論争になっているが、一方で、そうした問題を考えるうえで重要な、伝本のまとまった調査・研究は、鈴木知太郎・簗瀬一雄・青木伶子・草部了円ら以来、三十年以上行われていない。この三十年の間には、新たに出現した伝本もあるであろうし、所蔵者が変わったものもあるであろう。そこで、『方丈記』諸本の再調査を略本から進めているが、本稿では三系統ある略本のうち、延徳本系統・最簡略本系統について調査したところをまとめる。
柳村, 裕 YANAGIMURA, Yu
本研究では,岡崎敬語調査資料の分析に基づき,「敬語の使用」と「話者の職業」がどのような関係にあるかを探る。敬語使用の特徴に関わる指標として発話の「丁寧さ」と「長さ」を集計し,話者の職業は「事務系」「接客系」「労務系」の三つを区別した。これらの敬語使用の特徴が話者の職業によってどう異なるかを調べた。また,岡崎敬語調査資料の複数の調査時点での多様な生年・年齢の話者を比較することにより,職業による敬語使用特徴の差異のパターンがどのように変化してきたか,また,個人内でどのように変化するかを調べた。
照屋 晴奈 田中 敦士 Teruya Haruna Tanaka Atsushi
本研究は沖縄県内の特別支援学校の学校図書館の現状を、1.学校図書館としての業務、2.特別支援学校の学校図書館機能、3.学校図書館としての役割の3つの視点から明らかにすることを目的とし、宮古特別支援学校、沖縄盲学校、沖縄ろう学校の3校に対し実態調査を行った。その結果、司書教諭の配置、図書館業務は学校司書が中心であること、圧倒的な予算不足、司書教諭発令に関する基準との矛盾、学校現場の実情と負のスパイラル等が明らかとなった。本研究により、現在、全国で行われている学校図書館を対象とした調査である、文部科学省実施の「学校図書館の現状に関する調査」と、全国学校図書館協議会実施の「学校図書館調査」では明らかにすることができない学校図書館を取り巻く現状や課題が明らかとなった。
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