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崔, 文姫 CHOI, Moonhee
本稿は,日本語学習者(以下,「学習者」)の発話に対する日本語教師(以下,「教師」)と非日本語教師(以下,「非教師」)の評価の因果関係を明らかにすることを目的とし,共分散構造分析の因果モデルによる検証を行う。その結果,教師は『個人的親しみやすさ』『言語能力』『社会的望ましさ』『待遇性』『活動性』『パラ言語能力』,非教師は『個人的親しみやすさ』『言語能力』『社会的望ましさ』『パラ言語能力』『話し手の方略』『活動性』という異なった観点を基に評価を行うことが分かった。また,それぞれの評価の観点は互いに影響し合い,複雑に絡み合い,学習者への印象につながることが確認された。とりわけ,両者ともに,学習者の『言語能力』が『パラ言語能力』と『個人的親しみやすさ』および『活動性』という印象の評価につながり,特に『パラ言語能力』に与える影響が一番大きいことが明らかになった。さらに,その『パラ言語能力』が,母語話者が学習者に対して抱く印象すべてに大きく影響を及ぼすことも,両者に共通している。教師のみに現れた特徴は,学習者の『待遇性』に関わるパスである。『待遇性』が学習者の『パラ言語能力』と『社会的望ましさ』の印象に影響を与え,『言語能力』とは互いに影響し合う関係(正の相関)が現れた。一方,非教師のみに現れた特徴は,学習者の『話し手の方略』に関わるパスである。学習者の『話し手の方略』が,『言語能力』との間で高い負の相関を見せ,学習者の『パラ言語能力』と『社会的望ましさ』や『個人的親しみやすさ』の印象に弱い影響を与えていることが判明した。
Goya Hideki 呉屋 英樹
近年、文科省の推し進めるアクティブラーニングは多くの研究者や教育関係者の注目を集めている。本研究は外国語として英語を学ぶ日本人大学生の批判的思考能力と言語能力の育成に目標を定めたプロジェクト型学習を行い、両方の能力におけるその教育的効果を調べた。対象となった授業は英語ライティングの入門講座で、1 6週間に渡り、英語母語話者との交流を通じて議論を行いながら、自らで選択したトピックについて調べ、発表し、議論し、そしてエッセとしてまとめた。事前事後テストの結果より、全体的に言語能力の成長が見られ、特に中級程度のレベルの学習者では、上級レベルの学習者では見られなかった言語能力の向上が見られた。その結果をもとに教育的示唆と理論的示唆が示された。
蒙, 韫(韞) 中井, 陽子 MENG, Yun NAKAI, Yoko
本研究では,外国人材の日本語による会話能力の実態を探ることを目的に,中国人社員が日本人上司に許可を求めるロールプレイ会話を例とし,インターアクション能力の観点から問題点を分析した。その結果,調査対象者となった中国人社員役2名のうち,1名に言語能力・社会言語能力・社会文化能力ともに問題点が多く見られたが,母国である中国の社会文化的規範の影響は2名とも観察された。また,相手の雑談への受け答えについて,2名とも困難を感じていたことが分かった。さらに,日本人上司側による調整が,円滑なインターアクションを促す不可欠な要素であることも示唆された。これらをもとに,教育現場への提案を行った。
向山, 陽子 MUKOUYAMA, Yoko
本研究は学習者の適性として言語分析能力,音韻的短期記憶,ワーキングメモリを取り上げ,それらが第二言語としての日本語学習に与える影響を縦断的に検証することを目的とする。初級から学習を開始した中国人日本語学習者37名を対象として,(1)学習開始前に適性を測定する3つのタスク(2)学習開始後から15ヶ月後までの間に,3ヶ月ごとに計5回,学習成果を測定する文法(筆記産出),読解,聴解テストを実施し,適性と学習成果との関連を相関と重回帰分析によって検討した。分析の結果,音韻的短期記憶は初期に重要,言語分析能力は一貫して重要,ワーキングメモリは学習が進んだ段階で重要であることが示された。また,学習成果の測定方法,測定時期によって異なるが,学習成果は言語分析能力,音韻的短期記憶によって説明された。これらの結果から,学習成果に関与する適性は学習段階,スキルによって異なることが示された。
Goya Hideki 呉屋 英樹
“formulaic sequences” (定型連鎖)は重要な言語知識であり(Wray、 2002)、 第二言語(外国語)による円滑なコミュニケーションを行うためには必要不可欠な知識である(Pawley & Syder 1983)。その重要性にも関わらず,その能力の発達,特に適切な定型表現の使用を身につけるまでには長い時間を要する(Laufer & Waldman、 2011)が,多くの研究では学習言語のインプットに十分に触れることでformulaic sequencesは熟達すると指摘されている。本研究では,学習言語を教授言語とする教室環境において日本人英語学習者(n = 27)の“lexical bundles” (単語連鎖)の使用とその変化について調査した。調査は参加者の産出したライティングのコーパスを構築し,AntConcを用いて語彙の分布と頻度,およびサイズの異なる単語連鎖を抽出した。分析の結果,参加者は高頻出語彙を多用するようになり,2語からなる単語連鎖 (2-gram lexical bundles)の使用が増加するともに,その他のサイズの単語連鎖の使用は減少した。このことから,学習言語を教授言語とするEFL環境では産出的スキル向上への効果は限定的ではあるが,phraseological competence(定型表現能力)の向上への影響の可能性を示した。
多和田 稔 平田 永哲 Tawata Minoru Hirata Eitetsu
学習障害が疑われる児童6名について、読字・書字指導を小学校通級指導教室で行った。言語性LDの場合、言語能力が低いため本児らの得意とする視覚教材を媒介として言語能力を育てていくことに主眼がおかれた。具体的には教科書の写本や挿し絵、フラッシュカード、絵カードなどを活用した。読む力については、逐次読みでは身に付かないので、文字を常に言葉や単語として意識させ、大意をつかむように指導した。10ヵ月間の指導の結果、指導開始当初と終了時点のITPAの結果は、言語学習年齢で2ヵ月から1歳8ヵ月の伸びが見られ、6名の平均では10.2ヵ月の進歩が認められた。この子達にとって個別指導の場としての通級による指導の有効性が確認された。
柳町, 智治 YANAGIMACHI, Tomoharu
大学院研究留学生が指導教員から実験の手順について指示説明をうけている場面の相互行為分析をもとに,数をかぞえる,あるいは指示や説明を理解するという認知的活動が社会的に組織化されている様子を示す。また,第二言語話者が日常的実践を行っていく能力をどのように捉え評価したらいいのかという問題を,近年広がりを見せている能力記述文に準拠した評価方法と関連させて検討していく。
宮田, 剛章 MIYATA, Takeaki
本稿の目的は,中国人・韓国人日本語学習者を対象に敬語動詞における中間言語を数量化し,その結果を基に,第二言語としての敬語動詞の習得状況を量的中間言語という観点から解明することである。概して,日本語学習者は日本語運用能力が日本語母語話者に近づくにつれ,量的中間言語が発達することが確認されたが,それを構成する正用的および誤用的中間言語の発達は学習者の属性により異なる。また,母語の影響については,韓国人学習者の謙譲語の一部に確認されたのみであった。言語的転移以外に心理言語的・社会心理的転移も考えられたが,どの敬語種・対応群でも心理言語的・社会心理的転移の可能性が低いと思われる。
山口, 昌也 YAMAGUCHI, Masaya
現在,新聞・小説などのテキストデータベースや言語研究用に構築されたコーパスなどの言語資料が利用できるようになっている。しかし,言語資料を検索・閲覧するための手段が提供されることは少なく,言語資料が有効に活用されていないという問題がある。本稿の目的は,言語資料を有効に活用するため,全文検索システム『ひまわり』を用いて,言語資料の検索環境を構築する方法を示すことである。特に,検索環境構築時の実際的な事柄(文字コードなど)にも配慮し,既存の言語資料をどのような形式に整形すれば,どのような検索環境が構築できるのかを,実例に基づいて説明する。本稿では,まず,『ひまわり』の機能概要,および,検索能力を説明したのち,それに基づいて,(1)生テキストに近い言語資料,(2)形態素情報が付与された言語資料,(3)画像データと関連づけられた言語資料,の3種類の言語資料に対する検索環境を構築する。
柳町, 智治 副田, 恵理子 平塚, 真理 和田, 衣世 YANAGIMACHI, Tomoharu SOEDA, Eriko HIRATSUKA, Mari WADA, Kinuyo
本稿では,非漢字圏からの初級学習者を対象とした漢字辞書検索能力の養成を目指す漢字カリキュラムをもとに,漢字の構造と用法に関する体系的な理解と言語運用能力の養成を重視する授業の理念と実践例を紹介する。本漢字カリキュラムは, 1)初級初期段階で扱い可能な漢字語彙と教材の範囲の拡大, 2)タスク中心の機能的で実践的な漢宇学習への転換, 3)会話や文法など他の技能や知識との有機的な連携, 4)自立的学習者の養成など,様々な肯定的変化を現場の教授者と学習者にもたらす可能性がある。
葦原 恭子 塩谷 由美子 島田 めぐみ Ashihara Kyoko Shiotani Yumiko Shimada Megumi
近年,日本企業においては,高度人材としての外国人社員の需要が高まっており,その育成・教育・評価に資する枠組の構築は、 喫緊の課題となっている。本研究チームは、「ビジネス日本語フレームワーク」の構築・確立を目指している。構築にあたり,CEFR 2001年度版をはじめとする既存の尺度の例示的能力記述文をビジネスタスクとして書き換え,追記し,例示的能力記述文バンクに約800項目を登録している。2018年には,CEFR 2001年度版の補遺版が発表され、「Online interaction」スキルについて,新たな定義と例示的能力記述文が加えられた。このことは,複言語・複文化社会におけるオンライン上のやりとりの重要性を示していると言えよう。折しも,世界は「コロナ禍」にあり,高度外国人材にとっては,テレワークを始めとするオンライン業務に携わる機会が増加している。しかし,日本語を使用するオンライン活動の例示的能力記述文に関する研究は,管見の限り見られない。そこで,CEFR 2018 補遺版のオンライン上のやりとりに関する例示的能力記述文47項目を、 ビジネスタスクを含む例示的能力記述文の20項目として書き換え、 ビジネス日本語フレームワークの例示的能力記述文項目バンクに登録した。
阿波連 憲太 西本 裕輝 Aharen Kenta Nishimoto Hiroki
本研究の目的は,動機づけ,学習方略,言語能力という視点から,沖縄県の国語科における低学力問題の課題を考究することであった。調査対象は,小学6年生177名,公立・私立中学1年生251名であった。調査の結果,以下の3点が示唆された。すなわち, (1)沖縄県以外で行われた先行研究との平均値を比較すると,沖縄県の児童生徒は学力と関連性が高いと指摘されている同一化的調整において有意差はないが,柔軟的方略やプランニング方略,そして作業方略といった学習方略使用の頻度は有意に低いことが確認された。(2)沖縄県の児童生徒は男女とも,同一化的調整が学習方略全般と関連する傾向にあったが,唯一,公立中学生女子において,人的リソース方略との間に有意な相関はなかった。(3)言語能力は小学生では,国語科における動機づけと学習方略の両方との間に関連性があったが,公立・私立中学生では学習方略との間に有意な相関はあるものの,学習動機づけとはあまり有意な関連性が見出されなかった。議論は,学力向上に向けて児童生徒が効果的な学習方略使用を促すためにはどのような方策が必要なのかを中心に行った。
滕, 越 小磯, 花絵 TENG, Yue
本研究では、日中バイリンガル家庭で育つ幼児の中国語の発達について検討する。バイリンガル児の言語発達については、音韻や語彙、統語面からの分析があるが、養育者とのコミュニケーションの中でどのように言語発達が進むかについての研究は不十分である。本研究では、一事例として、日本語母語話者の母親と中国語母語話者の父親の間に育つ女児1名(1歳7か月から2歳0か月)の「谢谢(ありがとう)」の使用を分析した。その結果、(1)相互行為上、「谢谢」は主に養育者から物を受け取った後に使用されるが、物を渡した後や受け取る前にも産出されることがある、(2)構文の面では、成人の典型的な用例以外にも、「谢谢+物を受け取った側」、「物を渡した側+谢谢+物を受け取った側」など、多くのバリエーションがある、(3)養育者は中国語能力にかかわらず女児の「谢谢」使用に対し肯定的であるが、中国語能力に応じて異なる役割を担っていることが明らかになった。
大石 太郎 Oishi Taro
この小論では、カナダの英語圏都市におけるフランス語系住民の社会的特性を、ノヴァスコシア州ハリファクスを事例に、質問紙調査に基づいて検討した。その結果、ハリファクスのフランス語系住民は、高校卒業時点までは出生した州内に居住している割合が高く、高学歴であり、二言語能力を義務づけられたポストについている例が比較的多く、就業を主な要因としてハリファクスヘ移住している、という社会的特性をもつことが明らかになった。ケベック州出身者が多く、帰還移動の意思を持つ人も多いという点はコミュニティ発展の不安定要素といえるが、現時点ではフランス語系住民のこうした社会的特性が少数言語維持に対する制度的支援をより効果的にしており、カナダの英語圏都市における二言語話者の増加につながっていると考えられる。
渡辺, 雅子
本稿では、日米仏のことばの教育の特徴を比較しつつ、その歴史的淵源を探り、三カ国の「読み書き」教育の背後にある社会的な要因を明らかにしたい。まず日米仏三カ国の国語教育の特徴を概観した後、作文教育に注目し、各国の書き方の基本様式とその教授法を、近年学校教育で養うべき能力とされている「個性」や「創造力」との関係から比較分析したい。その上で、現行の制度と教授法、作文の様式はどのように形作られてきたのか、その革新と継続の歴史的経緯を明らかにする。結語では、独自の発展を遂げてきた各国の国語教育比較から何を学べるのか、日本の国語教育はいかなる選択をすべきかを、「国語」とそれを超えたグローバルな言語能力に言及しながら考えたい。
長谷川 裕 Hasegawa Yutaka
本稿の課題は、中内敏夫の教育理論が「能力主義」をどう捉えそれとどう向き合おうとしてきたのかを検討することである。中内は、能力主義は、教育領域にそれが浸透すると、教育による人間の発達の可能性の追求を断ち切ってしまうものとして捉えこれを批判し、一定水準の能力獲得をすべての者に確実に保障するための教育の実践と制度の構築をこれに対置して提起した。1990年頃中内は、近代になり〈教育〉という特殊な「人づくり」の様式が誕生・普及したが、そこには能力主義的・競争的性格が根源的に抜き難く刻み込まれているという論を押し出すようになるが、しかしその後も、上記のようないわば〈教育〉の徹底による能力主義への対峙という主張を基本的に変えていない。すなわち、〈教育〉は能力主義社会・競争社会に生きる人間の自立を助成する営みであらざるを得ないとの前提に立ち、その上で、「義務教育」としての「普通教育」においては、その社会を渡っていけるだけの「最低必要量」の能力獲得の保障を徹底させる、そのことが可能になるように〈教育〉の効力を向上させる―これが中内の能力主義に向き合う際の基本的スタンスである。本稿はこのように論じた上で最後に、中内の教育論とビースタのそれとを比較対照し、それを踏まえて〈教育〉がどのように能力主義と対峙すべきかについての筆者自身の見解を述べた。
糸満 裕 道田 泰司 Itoman Yutaka Michita Yasushi
本研究の目的は、小学校の国語における記述式問題の正答・無回答と関連する要因について検討することであった。そのために予備研究では、平成19年度から平成25年度までの全国学力学習状況調査B問題の記述式問題を詳細に分析することで、本研究の問題セットを作成した。その過程と、石井(2009) の結果を参考に記述式問題解決に求められる能力を5つに分類することができた。本研究においては、予備研究で作成した問題セットを児童に実施し、その結果の正答率と無回答率から5つの能力の難易度と各能力間の関連を検討した。その結果、相対的に正答率が高いにも関わらず無回答率が低い能力は「情報の取り出し」、正答率が低く無回答率の高い能力は「統合」と「統合+自分の考え」であることが明らかになった。また正答率全体との相関が高い能力は「統合」であることが明らかになった。
與那原 建 Yonahara Tatsuru
企業の競争優位の持続可能性についての捉え方は2つある。ひとつは、企業組織には慣性があるため、大きな環境変化には対応できず、そうした変化にうまく適応できたところに取って代わられてしまうという見方に立つ。もうひとつの立場では、環境変化の中でも新たな組織能力を創出する能力(ダイナミック能力)を備えておれば、企業は競争優位を持続させることができるととらえ、そのような能力こそが企業の持続的競争優位の源泉になるとみなしている。後者は「ダイナミック能力論」とよばれる分析視角であるが、それは新たに「両利き」というコンセプトを導入することで、競争優位の持続可能性の議論を進化させている。そうした観点で企業の持続的競争優位を論じている代表的研究者にオライリー&タッシュマンがいる。本稿では、かれらのダイナミック能力論と両利きの実現可能性についての諸命題を検討していくが、こうした議論は企業の持続的競争優位の源泉の解明を進めていく上で有望な方向のひとつと考えられる。
Yamauchi Susumu 山内 進
本稿は,琉球大学の総合英語「英語1」の指導が,学習者のリスニング能力の養成に及ぼす効果,及びそれに影響を与えると考えられる動機づけや高校時の英語学力など外的要因との関わりを論じたものである。英語1の13クラスの学生356人を被験者として,4月下旬に事前テストを,約2ヶ月後の7月上旬に事後テストを実施し,そのテスト結果を考察した処,以下のような結論が得られた。(1) リスニング能力の伸びにおいては,13クラス中,10クラスにおいて有意な結果が得られ,全体では2.14点(40点満点)の伸びがみられたことから,英語1の指導効果が有効なものである,と結論できる。(2) 英語に対する「動機」の度合が高くなればなるほど,英語1の学習開始時点のリスニング能力が高く,また伸び率も高い。(3) 高校時の英語の評価が高いグループは,そうでないグループよりもリスニング能力の伸びが顕著である。(4) 二次試験で英語のテストを受験した学生(英語・英文専攻をのぞく)は,他の学生よりも,より高いリスニング能力の伸びを示した。(5) 女子学生は男子学生よりも,事前・事後テストにおいて高い能力を示し,伸び率もはるかに高い。(6) 各学部間また各学科間において,リスニング能力や,伸び率に著しい違いがみられる。
Goya Hideki 呉屋 英樹
定型表現(formulaic sequences)は自然なことばの使用の大部分を占めており(Foster、 2001)、 第二言語学習者にとって第二言語の定型表現の習得は 、 流暢性に関わる必要不可欠な知識である。特にいくつかの単語の組み合わせからなる表現 、 いわゆる単語連鎖(lexical bundles もしくは n-grams)は 、 学習者の習熟度によってその使用は異なり(Waldman & Laufer、 2013)、 同じ定型表現であるコロケーションとも異なる発達の様相を示していて(Paquot & Granger、 2012)、 その発達には目標言語へ十分に触れる必要があるとされる(e.g.、 Boers& Lindstromberg、 2012)。本研究では 、 英語のみで運営される日本の大学におけるライティングコースで 、 日本人英語学習者(n= 26)が産出した英文エッセイに見られる単語連鎖の総語数や種類の変化について調査した。調査方法は、参加者が講義を受ける前と(第 3 週)、 受けたあと(第 15 週)に産出したエッセイから構築された学習者コーパスを用いて 、 コーパス分析ツールの AntConc(Anthony、 2019)を使いサイズの異なる単語連鎖を抽出し、 高い習熟度のグループとそうでないグループの単語連鎖を受講前と受講後に分け 、 それぞれの値をいくつかのカイ二乗検定を用いて分析した。分析の結果 、 両グループとも英語による講義を 12 週間受講したところ短い単語連鎖の使用の割合が増加し 、 長い単語連鎖の使用の割合が減少した。加えて 、 習熟度の低いグループでは2語からなる単語連鎖の種類が増加したが 、 これは習熟度の高いグループには見られなかった。このことから 、 学習言語を教授言語とする EFL 環境では 、 定型表現能力の発達は習熟度によってその影響は異なることが示唆された。
及川 卓郎 新城 明久 Oikawa Takuro Shinjo Akihisa
黒毛和種産肉能力検定直接法成績を用い、 BLUP法により全国の検定場にわたる種雄牛の遺伝的評価および検定雄牛の遺伝的評価を行った。種雄牛と検定雄牛の順位相関は同じ傾向を示し、 1日平均増体量とTDN要求率間には高い相関、 1日平均増体量とTDN要求率間では中位の相関、 TDN要求率と365日齢体重間では低い相関がみられた。各形質について種雄牛および検定雄牛の上位牛をみると365日齢体重では鳥取系の牛が高い能力を示し、 1日平均増体量では鳥取系の牛および系統間交雑系の牛が高い能力を示した。一方、 TDN要求率では系統間交雑系の牛が特に高い能力を示し、 TDN要求率などの効率に関する形質については、 ヘテローシスの効果が大きいことが示唆された。
孫, 愛維 Sun, Ay-wei
本研究では,第二言語及び外国語として日本語を学ぶ台湾人学習者における現場指示用法の習得について,学習環境が及ぼす影響を質問紙調査により探った。その結果,「独立的現場指示のコ」及び「相対的現場指示の対立型のコ」は,JSLとJFLとの間で習得のされ方に差は見られなかったが,それ以外は,JSLはJFLより現場指示の習得が早く進むことがわかった。JFLはJSLより母語の知識と教室指導に影響されやすく,「誤用のコ」と「誤用のソ」を多く産出した。また,日本語総合能力も併せて検討したところ,JSLにおいては,下位レベルの学習者において既に高い正用率を示しており,上位レベルとの間には有意差が見られなかったが,JFLにおいては,下位レベルの学習者には誤用が多く見られ,完全に習得されるとは言えないことがわかった。以上から,目標言語圏で勉強することは現場指示の習得を促進することが示唆された。
長谷川 裕 Hasegawa Yutaka
能力主義は、能力・努力に基づく業績に応じて地位・報酬を配分することを、またそうした能力・努力に基づく業績を基準に人の価値を判断することを是とする考え方である。それは、近現代社会の、地位・報酬に関わる点での社会構成原理=正統化原理であるとともに、人間観・人生観をも含む人びとの価値意識でもある。本稿は、こうした能力主義を肯定する意識を現代日本の若者がどの程度もっており、かれらの様々な意識や行動全体の中でそれがどのような位置を占めているか、またそれがどのような変化の傾向性を孕んでいるかを把握することを目的とした調査研究の一環として、筆者が2007 年に行った高校生対象の意識調査のデータに対して、上記の目的の視点から再分析を試みるものである。
吉葉 研司 吉田 安規良 中尾 達馬 Yoshiba Kenji Yoshida Akira Nakao Tatsuma
本研究の目的は、2013年度の教職実践研究・教職実践演習(沖縄こどもの国と連携して実施した「ドリームフェスティバル2013」という行事の企画・運営)を通して、受講生たちが教員として求められる資質・能力を習得しているかどうかを明らかにすることであった。今回の実践を通して、受講生22名は、行事運営能力や対人関係能力、使命感や責任感、子どもや大人さらには社会に対する理解、特別活動としての指導力等を定着し得ていたことが確認できた。
奥野, 由紀子 リスダ, ディアンニ OKUNO, Yukiko RISDA, Dianni
本研究は,日本語学習者を対象として収集したストーリー描写の「話す」課題と「書く」課題のデータに違いが見られるか,その要因は何かを探索的に分析するものである。作業課題による中間言語の変異性(variability)は70年代から調査されており,Tarone(1983)は,中間言語の作業課題による共時的な変異の原因は,注意量の差であると主張している。今回使用するデータは,現在進行中の学習者コーパス構築のためのプロジェクトの調査データの一部であり,5コマ漫画の描写を使用する。日本語能力に差のないインドネシア語,英語,タイ語,中国語,ドイツ語を母語とする5か国の学習者15名ずつ計75名を対象として分析する。分析の結果,対象箇所の描写には,大きく以下の4パターンが見られた。(犬に食べ物を)(1)「食べられてしまいました・食べられてしまった」など「受身+しまった」を使うパターン,(2)「食べられました」と受身を使用するパターン,(3)「食べてしまいました」と「動詞+てしまう」を使うパターン,(4)「食べました」と単純過去を使用するパターン。また,「話す」課題と「書く」課題でそれらのパターン使用にどのような違いがあるかを分析し,「書く」課題で「話す」課題よりも複雑なパターンになるケースが多いものの,違いがないケースもほぼ同数存在したこと,また,複雑な形式であるがゆえに正確さが落ちる場合もあること,正確さを高めるためにより単純な形式を使用する場合もあることなどが明らかとなった。これらの事例を通し,課題の違いに見られる中間言語変異性には学習者の言語的知識,自らの運用を客観視するメタ言語的知識,運用に至る構成的処理過程を支える心理言語学的知識という各知識レベルが関与している可能性を指摘する。
村山 盛一 Murayama Seiichi
イネにおけるヘテロシスの程度と一般、 特定両組合せ能力の検定、 さらに正逆交雑における差異について検討するために日本稲7品種を用いて二面交配を行なった。調査は収量・穂数・粒数・千粒重・稈長について行なった。1.収量における特定組合せ能力については41組合せ中11組合せで有意に中間親をしのぎ、 うち7組合せでは20%以上の増加をみた。一般組合せ能力についても品種間に差異がみられた。また、 2、3の組合せでは正逆交雑における差異もみられた。2.穂数においては組合せ能力は低く、 また正逆交雑における差異もみられなかった。3.粒数においては収量構成形質中ヘテロシス程度は最も高く、 5組合せで10%以上のヘテロシスを示し、 これらの組合せはいずれも有意であった。一般組合せ能力についても品種間に差異があり、 さらに2、3の組合せでは正逆交雑における差異もみられた。4.千粒重においては全組合せでF_1は中間親より重く、 15組合せでは有意であった。しかしヘテロシスの程度は概して低く、 最も高いものでも9%のヘテロシスを示したに過ぎない。一般組合せ能力については品種間に大差はなく、 また2、3の組合せでは特定の正逆交雑間に有意差がみられた。5.稈長においては24組合せで有意なヘテロシスを示しているが、 その程度は概して低く、 最も組合せ能力の高いものでも13%高くなっているに過ぎない。またヘテロシスの程度は短稈品種間におけるF_1では高く、 長稈品種間におけるF_1では低くなる傾向がみられた。6.Hayman(2)の二面交配分析法に従って収量・穂数・粒数・千粒重について分散分析を行なうと一般および特定両組合せ能力についてはこれら全ての形質において有意差がみられたが、 正逆交雑の差については千粒重の特定な正逆交雑間に有意差を生じたに過ぎない。
山元 淑乃 金城 尚美 Yamamoto Yoshino Kinjo Naomi
本研究は、ハワイ在住の沖縄県系人に焦点を当て、日本語学習意欲と学習目的、留学に対する意識、沖縄文化に対する関心度を調査することにより、沖縄県系人にとっての日本語学習ニーズ、継承言語または外国語としての日本語学習の位置づけ、沖縄文化に対する興味と留学希望との係わりを明らかにし、沖縄県系人の沖縄留学促進のための課題を探った。アンケート調査により、世代の推移に伴い日本語運用能力の低下がみられる反面、日本語学習や沖縄留学に対する意欲は若い世代の方が高くなる傾向があるという結果が得られるとともに、今後の沖縄留学促進に向けた課題が浮き彫りになった。
深澤 真 Fukazawa Makoto
本研究は, 2020年に小学校で導入される教科としての英語(以下小学校英語)に向け,評価に対する教員の意識が外国語活動に比べどのように変化するかを調査し,小学校英語教育の一助とすることを目的としている。この目標のもと国公立の小学校12校の教員を対象に,外国語活軌,および小学校英語における9つの評価項目の重要度や活用する評価方法に関するアンケート調査を4件法で行った。調査結果の記述統計を検討するともに,外国語活動における評価の意識と小学校英語に対する評価の意識の変化を見るため平均値の比較も統計的に行った。その結果,小学校英語では,外国語活動に比べて,読む能力,書く能力,文法の知識の重要度が高くなる傾向にあることがわかった。また,活用する評価方法に関しては,筆記テストや小テストなど読む能力や書く能力を測る評価方法や,話す能力を測るパフォーマンステストなどの活用を考えていることもわかった。これらの結果を基に,小学校英語を評価していく上での教育的示唆を行う。
松田, 陽子 前田, 理佳子 佐藤, 和之 MATSUDA, Yoko MAEDA, Rikako SATO, Kazuyuki
本稿は,日本で大きな災害が起きたとき,日本語に不慣れな外国人住民に,必要な情報をどう提供すべきかについての検討を進めてきた研究成果の一部である。95年に起きた阪神・淡路大震災以来,社会言語学や日本語教育学を専門とする言語研究者が集まり,日本語にも英話にも不慣れな外国人居住者に対して,災害時には「どのような情報を」「どう流すのか」について考えてきた。本稿は,最後の課題である「どういう手段で」について論じたものであり,「簡単な日本語での日常会話ができる程度の外国人にも理解できる日本語を用いた災害情報の表現のしかた」および「その有効性」について記した試論である。今回提案したやさしい日本語の表現を用いて,日本語能力が初級後半から中級前半程度の外国人被験者へ聴解実験を行ったところ,通常のニュース文の理解率は約30%であったが,やさしい日本語を用いたニュースでは90%以上になるなど,理解率の著しく高まることが確認された。
神園 幸郎 Kamizono Sachiro
神園(1983)は,年長児(7歳児,8歳児)における体制化能力の向上は,概念構造の精緻化に加え,カテゴリ数やカテゴリサイズといった記憶内情報の効果的なモニタリングの能力によると指摘した。この指摘をうけて,本研究では概念構造の検出やその使用能力に限界を示す年少幼児(4歳児と6歳児)に,カテゴリ数やカテゴリサイズの手がかりを与えることによって,記憶の体制化能力を高めることができるのではないかとの予想のもとに実験を行った。実験は,記銘時と検索時の手がかり付与の組み合わせによって5条件を設定し,実施した。その結果,6歳児は,検索時に手がかりを提供されることによって,分類作業で精緻化された概念構造を有効に利用することが可能となり,体制化能力が高まることがわかった。一方,4歳児は,記銘時と検索時の両事態で手がかりを付与しても,体制化率は上昇するものの,再生数の増加はみられなかった。しかしながら,課題遂行に先立って,実験者が示範する自己の記憶状態の確認や記銘リストの数量的構造を強調する具体的で,かつ,実際的な記憶方略を模倣した被験児は,6歳児と同水準の体制化率や再生数を示した。こうした結果は,従来,体制化の促進が困難であると指摘されていた6歳児はもとより,4歳児においても体制化能力の促進が可能であることを物語っている。
小林 稔 小橋川 久光 宮城 政也 栗原 知子 横山 善実 Kobayashi Minoru Kobashigawa Hisamitsu Miyagi Masaya Kurihara Tomoko Yokoyama Yoshimi
体力・運動能力に関しては,毎年,文部科学省が調査を行っており,その結果は総じて年々低下\nしていると言える。これまで,体力・運動能力が低下している原因を究明する研究は,環境を含む\n生活スタイルに着目したのものがほとんどであり,運動意欲に視点をあてた研究は皆無に等しかっ\nた。本研究では児童期を対象とする標準化された運動意欲テストを用い,児童期における1990年と\n2000年の運動意欲に関する実態を比較検討した。結果は運動能力の変容と同様の傾向で,ほとんど\nの下位尺度で低下していると判断され,今後の研究のための基礎的なデータが得られた。
金, 宥暻 KIM, Yu-kyeong
本研究の目的は,「日本語と韓国語の文構成は杉田(1994b)が主張するように異なっているかどうか」と「韓国人日本語学習者の日本語能力と日本語の文構成能力の関係」を明らかにすることである。そのため,日本人16名,韓国人64名を対象に12の論説文を配列する課題を課す方法で調査を実施した。その結果,次のことが明らかになった。(i)杉田(1994b)の研究とは違って日本語と韓国語の文構成はよく似ている。(ii)韓国人は日本語能力の向上につれ日本人と非常によく似た文構成パターンを示すようになる。(iii)習得に関しては,結論部より冒頭部の文構成の習得が容易である。
長谷川 裕 Hasegawa Yutaka
研究概要:(平成18年度時点)本研究の目的は、一方で(ア)教育における「能力主義」とはいかなるものなのかを、改めて原理的に社会理論的に考察すること、他方で(イ)今日の教育の実態の中では、能力主義の原理がどのような顕れ方をしているかを社会調査の方法によって把握すること、である。昨年度は、これらのうちとりわけ、教育における能力主義の原理論である(ア)に関わる作業に専心したが、今年度も、一方でこの作業を継続して行った。昨年度はその研究成果の一部として、日本の教育研究における能力主義論の重要な論者の一人である黒崎勲の諸説を検討する論考を執筆したが、今年度は特に、その黒崎が依拠する政治哲学者J・ロールズをはじめとするリベラリズムの理論・思想と、それに対抗する諸潮流の理論・思想との検討作業を行った。 (イ)は、教育における能力主義の実態論である。本研究ではとりわけ、子ども・若者の意識・行動が、教育における能力主義によって、教育領域外のそれとも絡み合いながら、どのように規定されているかを、主として調査票調査の方法によって、実証的に明らかにすることを計画している。本年度は、その調査を実施する準備として必要な文献・資料(類似したテーマに関する調査の報告書など)を収集し読み込み、それを踏まえて調査票を作成する作業を行った。年度当初は、そのようにしていったん仕上がった調査票を用いてプリテストを行う計画であったが、そこまでは到達できなかった。新年度は、その作業から開始する予定である。
杉戸, 清樹 塚田, 実知代 SUGITO, Seiju TSUKADA, Michiyo
言語ないし言語行動について言及する言語表現としてのメタ言語表現は,その内容や形式において広範な広がりをもつ。この中で,表現主体がいま行おうとする(ないし,いま行ったばかりの)言語行動について,その言語行動としての種類や機能を明示的に表現するメタ表現も日常的にしばしば観察される。
かりまた しげひさ Karimata Shigehisa / 狩俣 繁久
琉球列島全域の言語地理学的な調査の資料を使って、構造的比較言語地理学を基礎にしながら、音韻論、文法論、語彙論等の基礎研究と比較言語学、言語類型論、言語接触論等の応用研究を融合させて、言語系統樹の研究を行なえば、琉球列島に人々が渡来、定着した過程を総合的に解明できる。言語史研究の方法として方言系統地理学を確立することを提案する。
中山 睦子 丹野 清彦 Nakayama Mutsuko Tannno Kiyohiko
本稿の目的は,基礎的・汎用的能力のアンケートを通して,沖縄の公立中学校のキャリア教育の課題を検討することである。アンケートの調査は,宮古島市,那覇市,沖縄市の3地区,公立中学校で行った。3地区それぞれ規模や地域の特色の違いもあるが,共通するプラスの傾向と課題が浮き彫りとなった。プラスの傾向として人間関係形成・社会形成能力が挙げられる。一方,ストレスマネジメントや忍耐力と言った自己理解・自己管理能力は低い傾向を示し課題であると言える。那覇市の1校は,6月と12月の2回実施することで変容の分析を試みたが,さほど変化は見られなかった。それは何を意味するのか。教育的な意図の必要性とPDCAサイクルで実践するキャリア教育の重要性を論じた。
福嶋, 秩子 FUKUSHIMA, Chitsuko
アジアとヨーロッパの言語地理学者による各地の言語地図作成状況と活用方法についての国際シンポジウムでの発表をもとに,世界の言語地理学の現状と課題を概括する。まず,言語地図作成は,方言境界線の画定のため,あるいは地図の分布から歴史を読み取るために行われてきた。さらに言語学の実験や訓練の場という性格もある。地図化にあたり,等語線をひいて境界を示すこともできるが,言語の推移を示すには,記号地図が有用である。また,伝統方言の衰退もあって社会言語学との融合が起き,日本ではグロットグラムのような新しい調査法が生まれた。情報技術の導入により,言語地図作成のためのデータは言語データベースあるいは言語コーパスという性格が強まった。コンピュータを利用した言語地図の作成には,1.電子データ化,2.一定の基準によるデータの選択・地図化,3.他のデータとの比較・総合・重ね合わせ・関連付け,4.言語地図の発表・公開,という4段階がある。最後に,言語地図作成の課題は,言語データの共有・統合,そして成果の公開である。
及川 卓郎 新城 明久 Oikawa Takuro Shinjo Akihisa
1976年度から1981年度まで6年間の黒毛和種産肉能力直接検定成績から、 検定開始時および終了時体重、 1日平均増体量、 粗飼料摂取率、 TDN要求率、 産肉能力得点の主要6形質について分散分析により遺伝的パラメータを推定した。用いたデータは、 全国10検定場における911頭の検定雄牛のものである。統計モデルの変動因は、 父牛の系統、 系統内父牛、 検定場、 検定雄牛の出生年次とその季節、 母牛の年齢、 雄牛の検定開始時日齢および雄牛の健康状態とした。分散分析の結果、 検定場の効果、 検定雄牛の出生年次、 季節の効果がほとんどの形質で有意となった。母牛の年齢の効果は検定終了時体重でのみ有意であった。健康状態の効果は、 検定開始時体重と産肉能力得点を除くすべての形質で有意であった。検定開始時および終了時体重、 粗飼料摂取率、 TDN要求率の遺伝率は、 それぞれ0.33、0.40、0.49、0.43と中位からやや高い遺伝率であった。しかし1日平均増体量および産肉能力得点の遺伝率は、 それぞれ0.17、0.24と低い推定値であった。検定開始時体重、 終了時体重、 1日平均増体量および産肉能力得点間には正の高い遺伝相関がみられ、 粗飼料摂取率と検定開始時、 終了時体重間には中位の正の遺伝相関がみられた。1日平均増体量の遺伝率が低い原因としては検定期間の短いことおよび検定開始前の環境の差異による効果が考えられ、 また検定場、 年次および季節の効果が大きく、 検定雄牛を遺伝的に評価する場合には、 これらの環境要因による補正が不可欠であると考えられる。
江藤 真生子 Eto Makiko 三田 沙織 Mita Saori 奥平 勝一 Okuhira Katsuichi 山里 拓哉 Yamazato Takuya
本研究の目的は,琉球大学教育学部(以下,本学部と示す)の卒業時の最終段階を見据え,教員養成カリキュラムにおける各プログラムにおいて育成を目指す小学校体育授業(以下,体育授業と示す)の指導に関する資質能力の試案を作成することであった。作成した試案の各観点及び項目の内容について,本学部の最終到達目標との対応及び各プログラムの関連性,現職教員の資質能力との繋がり,プログラム受講経験学生の評価のそれぞれの視点から検討を行った。<br/>作成した試案を表2に示した。本学部において育成を目指す体育授業の指導に関する資質能力(試案)は,【内容理解】,【授業計画・構想】,【授業実践・評価】,【授業研究・改善】の4つの観点に整理でき,全13項目となった。
白尾 裕志 Shirao Hiroshi
次期学習指導要領では,教育内容としてのコンテンツの上位に目指すべき資質・能力としてのコンピテンシーを掲げる教育課程の構造を示している。中でも「アクティブ・ラーニング」は,資質・能力の目標を達成するための有効な手段として注目されている。アクティブ・ラーニングは汎用的な能力を育成するための能動的な学習であり,これまでも実践されてきた。本論ではこれまでの優れた教育実践の中から鈴木正氣による小学5年生の社会科授業実践「久慈の漁業」を取り上げ,アクティブ・ラーニングの視点から分析することで,汎用的な能力の育成を可能にする授業実践に必要な条件を明らかにすることを試みた。「久慈の漁業」で討論が成立した理由について,子どもの認識を使った授業方法,学級集団づくり,教材構成の視点,指導計画づくりの視点から分析を行った。それらは教師の先行した社会認識と深い教材研究に基づく教科の特質を踏まえた教材構成と集団づくりを通した学級経営が共通の基盤となっていた。最後に,「書く」ことによってより明確になった自らの社会認識に基づいて討論の授業を組ことで,より活発で主体的な討論の授業が成立することを示した。こうした条件のもとで社会科実践「久慈の漁業」が成立して,討論を通して思考力を高め合う汎用的な能力の育成につながった。
Shibata Miki 柴田 美紀
2008年1月25日より2月2日まで香港大学、香港中文大学、香港教育大学を訪問し、教員養成プログラムに携わる教員へのインタビューや授業参観を行った。香港政府は、教科に関する専門知識、英語力、授業運営能力をバランスよく身につけた英語教員の養成に力を入れている。英語教員になるためには大学で英語教育を専攻し、言語、語学教育、指導理論を徹底して学び、同時に政府が課している語学能力試験に要求される英語力もつけなければならない。私が視察した3大学では入学時に英語力による選抜が行われるため、学生はある程度の英語力を持って入学してくる。英語専攻においては大学の授業は全て英語で行われ、授業でのペアあるいはグループワーク、全体のディスカッションもほぼ全てが英語で行われる。専門の授業は、「ライティング指導法」「教室でのインタラクション」「英語の指導法」など専門知識をつけるには必要不可欠な講義が1年次から提供されている。講義時間は2時間程度であり、学生は学習した知識や理論を自分たちの経験に照らし合わせ、クリティカルな視点から検討する時間が十分にある。さらに、教育実習は1年次から行われ、3年次、4年次では8週間の教育実習が課せられている。香港での視察は、これからの日本の英語教員養成課程がどうあるべきかを考えるよい機会となった。
前原 武子 稲谷 ふみ枝 金城 育子 Maehara Takeko Inatani Fumie Kinjo Ikuko
教職希望学生が教師の適性をどう認知するのか,その適性を自分がどれほど保有していると認識するのか,そして,どのような自己特性が,将来の教師像としての教師効力感につながるのか検討した。その結果,教師の適性として認知される対人関係能力と,運動能力(男子),勤勉さ(女子)を自己の特性として認識することが教師効力感につながることを見出した。
ホイットマン, ジョン WHITMAN, John
本プロジェクト(日本列島と周辺諸言語の類型論的・比較歴史的研究)の目的は,日本語とその周辺の言語を主な対象とし,その統語形態論的・音韻的特徴とその変遷を,言語類型論・統語理論・比較歴史言語学の観点から解明することによって,東北アジアを1つの「言語地域」として位置付けることである。統語形態論の観点からは「名詞化と名詞修飾」に焦点を当て,日本語においても見られる名詞修飾形(連体形)の多様な機能を周辺の言語と比較しながら,その機能と形と歴史的変化を究明する。歴史音韻論の観点からは,日本語周辺諸言語の歴史的再建を試み,東北アジア記述言語学における通時言語学研究を推進する。本稿では,この共同研究プロジェクトを紹介しながら,日本語,厳密にいうと日琉語族がどの言語地域に属するかについて検討する。
村上 呂里 Murakami Rori
幼小のなめらかな接続のために、まず幼稚園教育要領「言葉」と小学校学習指導要領「国語」の内容について比較考察し、前者が内言領域の耕しに重きを置き、後者が社会的実用的な「言葉の教育」に重きを置いていることを導き出した。この断層が学びの「つまずき」へとつながらないために、保育者と小学校教員がどのような「言葉の教育」観を共有すべきか、浜本純逸の提起する「言語化能力」概念や谷川俊太郎らによって編まれた入門期教科書『にほんご』(福音館書店、1979年)を手がかりに考究した。『にほんご』は、言葉の本質や働きへの「気づき」(メタ認知)を生むことによって「一次的なことば」から「二次的なことば」への離陸を支えようとして編まれている。この成果を幼児教育にも生かし、幼小のなめらかな接続を具現化するものとして、⑴言葉が生まれる〈場〉を体験し、言葉と体の関わりについて気づく、⑵言葉と気持ちの関わりについて気づく、⑶音韻意識を育み、文字と楽しく出会う、⑷想像し、物語が生まれる楽しさを味わう、⑸多言語に親しむ、の5つの活動プランを提案した。
松川 理恵 川満 芳信 村山 盛一 Matsukawa Rie Kawamitsu Yoshinobu Murayama Seiichi
本研究は、 培養条件下での環境制御を通して光合成能力を高め、 培養期間の短縮化を図るための基礎資料を得ることを目的として実施した。特に、 パインアップル培養植物の光合成能力の違いを明らかにするために培地の糖含量との関係を調べた。得られた結果の要約は以下の通りである。1. 培養植物の光合成は午前中で最大値を示し、 その後は低下した。2. 気相型酸素電極を用いた培養植物の測定条件は、 流量1L・min^&lt;-1&gt;、 CO_2濃度3%、 光強度900μmol・m^&lt;-2&gt;・s^&lt;-1&gt;、 葉ディスク面積は2.5(cm)^2以上が最適であった。3. パインアップル培養植物は、 培養の初期段階で光合成能力を有し、 成長と共に高まった。4. パインアップル培養植物体のリンゴ酸含量は昼夜変化を示し、 成長に伴ってリンゴ酸含量のピーク値が増加した。5. 培養条件下では、 培地の糖含量が光合成能力の抑制因子であった。6. 培養条件下では、 パインアップルの培養植物はC_3型光合成的ガス交換とCAM植物に特異的なリンゴ酸の日変化がみられ、 CAM cycling状態であることが明かとなった。
西川 宏昌 Nishikawa Hiroaki
フランク・ジャクソンはその知識論証において、今では周知の思考実験により物理主義が誤りである事を論証しようと試みた。それは多くの反響を呼び、物理主義者からのさまざまな反論が提示されたが、その主なものの一つが「能力仮説」である。この小論ではこの仮説を批判しているマイケル・タイの議論を取り上げ、彼の批判の問題点を指摘することを通じて、タイとは異なった論拠に基づいて能力仮説自体が誤りであると論じる。さらに、新たな観点からジャクソンの知識論証がその意図に反して不成功に終わる理由を提示する。
小山 治 Koyama Osamu
本稿の目的は、弁護士に対する質問紙調査によって、法科大学院修了者において社会人経験にはどのような意義があるのかという聞いを明らかにすることである。本稿では、社会人経験が①所得、②仕事満足度、③能力アイデンティティ(能力の自己評価)に対してもたらす効果を分析した。本稿の主な知見は、次の3点にまとめることができる。第1に、社会人経験は所得と無相関であったという点である。第2に、社会人経験は仕事満足度と無相関であったという点である。第3に、社会人経験は能力アイデンティティとほぼ無相関であったという点である。本稿の知見は、法科大学院を修了後、新司法試験に合格し、弁護士になった者においては、社会人経験には明確な意義がみられないということを示唆している。
井上, 史雄 INOUE, Fumio
この論文では,言語の市場価値を計最する手段を,日本語を例にして論じる。言語は現実に世界で売買されており,言語の市場価値を計算することができる。言語が市場価値を持つ適例は,「言語産業」に見られる。辞書・入門書・教科書などの出版物や,会話学校が手がかりになる。また多言語表示も,手がかりになる。戦後の日本語の市場価値上昇の説明に,日本の経済力(国民総生産)発展が指摘されるが,いい相関をみせない。外国の側の条件が,むしろ重要である。多言語活動の隆盛,実用外国語教育の成長,高等教育の普及である。言語の市場価値の基本的メカニズムに関する理論的問題をも論じる。言語の市場価値は特異な性質があって,希少商品とは別の形で決定される。ただ,言語はもう一つ重要な性質を持つ。市場価値の反映たる知的価値以外に,情的価値を持つ。かつ相対的情的価値は知的価値と反比例する。世界の諸言語には格差があり,そこに経済原則が貫徹するように見える。しかし一方で,言語の感情的・情的側面を見逃してはならない。
杉戸, 清樹 塚田, 実知代 SUGITO, Seiju TSUKADA, Michiyo
そのつどの言語行動の種類について明示的に言及するメタ言語的な言語表現類型について,杉戸・塚田1991で書きことばの専門的文章を検討したのに引き続き,話しことば,とくに公的なあいさつを対象とした記述分析を行なった。公的あいさつには,表現のあらたまりを目指したと解釈されるレトリカルな言い回し(動詞そのものも文末形式も)によって,くりかえされる場合も含めて一つのあいさつに平均して3~4回,相当のバラエティの言語行動を説明するメタ言語表現が現れる。書きことば資料で優勢であった意志や希望を明示する文末形式は公的あいさつでは少数である一方,文末の敬語要素はあいさつのメタ言語表現には相当豊富である。また,当該の言語行動を直接的に表現する直接表現は,メタ言語表現に比べて少ない。これらの事実は,あいさつのあらたまり性を目指して表現の直接性を避けた結果と解釈される。発話行為論で言う発語内行為が明示的に言語化される実態を記述し,それが語用論で言う言語表現における対人的なあらたまり(丁寧さの一種)と深く関連しているという解釈を,本稿では言語行動研究の観点から指摘した。
福永, 由佳 FUKUNAGA, Yuka
在日パキスタン人は人口規模こそ小さいものの,中古車輸出業をはじめとするエスニック・ビジネスの展開,宗教施設の設立など,自立的な社会活動を展開する活力の高いエスニック集団である。また,彼らは生活のなかで複数の言語を使用する多言語使用者でもある。彼らの多言語使用の実態と言語使用に関わる社会文化的要因をEthnolinguistic Vitality Theoryにもとづき明らかにすることを目指して,本稿では(1)多言語使用に関する諸理論を検討するとともに,(2)参与観察と言語意識調査で得られた定性的データを用いて,Ethnolinguistic Vitality Theoryの適応可能性を検討した。分析の結果,彼らは母国の言語事情や社会構造および日本における社会文化的文脈から形成された言語意識をもとに,複数の言語(日本語,英語,ウルドゥー語,アラビア語,民族語)を使い分けている様相が明らかになった。また,データに見られた言語意識はEthnolinguistic Vitality Theoryの枠組みで説明しうることが示唆された。
アンガー, J. マーシャル UNGER, J. Marshall
日本語はこれまで,韓国語や満州語,タミール語などの言語と比較されてきたが,これらの言語と日本語との間の系統関係について説得力のある説はこれまでに提示されていない。このことを,日本語には「同じ系統に属する言語がない」という意味にとらえれば,日本語は孤立言語であるということになる。孤立言語とは,共通祖語から共に発達した他の言語が全て絶滅してしまい,一つだけが生き残ったと考えられる言語のことである。日本語を孤立言語として扱ったとしても,例えば日本語話者の祖先がいつどこからこの地域にやってきたのか,というような,日本語の発達経緯に関するさまざまな疑問を解明することにはならない。だが,日本語と他の言語との系統関係を探り続けることで得られる知識は,たとえ不完全なものであるにしろ,日本語が孤立言語であると結論づけてしまうよりも,言語学的に貢献するところが大きい。多様性に富み規模が大きないくつかの言語族(例えば,インド・ヨーロッパ語族,オーストロネシア語族,中国語族)は,その共通祖語が話されていた年代がいつごろであるかについてかなり正確にわかっているが,これらの言語の存続が五千年を超えるものは一つもない。それゆえに,日本語が厳密な意味での孤立言語であるという主張は,同時に,日本語が非常に古い言語であるということ,また,日本語が発達してきたと考えられるその途方もない長い時間の中で,同じ祖語から派生した日本語以外の全ての言語が絶滅する運命をたどったのだと主張することになる。そのような状況に至った経緯をさまざまに想像するのはたやすいが,本論文において詳しく検証するように,いかなる仮定的状況についても,言語学的あるいは非言語学的側面から立証することは難しい。日本の先史について言えば,関連する言語以外の情報がかなり豊富に存在するので,言語の発達経緯の研究過程で,そのような情報を,言語学的仮説の範疇を特定したり修正してゆくために大いに利用すべきである。
李, 勝勲 倉部, 慶太 品川, 大輔 Lee, Seunghun J. Kurabe, Keita Shinagawa, Daisuke
大言語を対象とした様々なデジタルアーカイブに基づく研究が進展する一方で、少数言語を対象としたデジタルアーカイブの構築とその利活用はまだ充分に進んでいるとはいいがたい。本稿では少数言語を中心に著者らが構築したデジタルアーカイブを紹介し、少数言語を対象としたアーカイブ化に関して議論する。一つ目はチベット・ビルマ系の5言語に関する資料を公開するアーカイブサイト 'PhoPhoNO'、もう一つはバントゥ系の5言語の資料をアーカイブ化したサイト 'Bantu Language Digital Archive (BantuDArc)' である。各サイトは言語に関するメタデータ、地図、そして言語資源から構成される。音声資料を含む個別のデータ項目には固有のIDが付与され、申請によってアクセスを認められれば、利用者はそれらデータを研究資源として利活用することができる。
下地 敏洋 城間 盛市 Shimoji Toshihiro Shiroma Seiichi
本報は、教職科目である「教職指導」の指導項目に工夫改善を図ることが、教員を希望する学生にどのような効果があったのかについて実践報告することが目的である。「教職指導」において、学生は教員の資質である教科指導能力の基礎・基本を養成することに加えて、学校現場で実施される「学校一日体験プログラム」を通して、教科指導、学級経営、部活動などを総合的に関連させながら学ぶことができる。これらの内容を通して、教育に対する視点が学生から教員としての立場へ意識が変容することで、将来の教師像を客観的に見つめる機会となっていることが明らかになった。昨今の教育基本法の改正、学習指導要領の全面改定などに象徴されるように教育環境は常に変化しており、教師に求められる力量量も実践的コミュニケーション能力や組織マネジメントなど変化に対応した多様なものとなってきている。そのため、教職科目においても教育環境を取り巻く変化を見据えながら、いつの時代でも教員に求められる資質能力やこれからの時代に求められる資質能力など、教員としての力量を高めるために寄与する指導内容となるよう一層の工夫改善が必要である。
三田 沙織 Mita Saori 砂川 力也 Sunagawa Rikiya 高橋 桃香 Takahashi Momoka 村井 梨紗子 Murai Risako 江藤 真生子 Eto Makiko 増澤 拓也 Masuzawa Takuya
本稿の目的は、宮古島市の子どもたちの体力・運動能力の実態を把握することにあった。対象は、宮古島市の幼稚園に在園する年長児114名(男児56名、女児58名)とその保育者8名(女性保育者8名)であった。年長児には、握力及び立ち幅跳びの測定を実施し、保育者には、保育中に行われている子どもたちへの運動支援の方法や動的環境の現状、保育者自身の動的活動への興味・関心等について聞き取り調査を実施した。分析対象者は、月齢不明者を除く、全ての項目を測定した年長児112名(男児55名、女児57名)と保育者8名であった。本稿によって収集された知見を整理することにより、現時点における宮古島市の子どもたちの体力・運動能力に対する現状を把握することができ、今後子どもたちの体力・運動能力の向上、促進に向けたプログラムを考案する際の一助としていくこととする。
パルデシ, プラシャント PARDESHI, Prashant
述語構造の意味範疇に関わる重要な言語現象の一つに「他動性」がある。本プロジェクトは意味的他動性が(i)出来事の認識,(ii)その言語表現および(iii)言語習得(日本語学習者による日本語の自動詞と他動詞の習得)にどのように反映されているのかを解明することを目標とする。日本語とアジアの諸言語を含む世界の約40言語を詳細に比較・検討し,それを通して,日本語などの個別言語の様相の解明だけでなく,言語の多様性と普遍性についての研究に貢献することを目指す。
小林, 雄一郎 KOBAYASHI, Yuichiro
コーパスに基づく言語研究の利点は,広範な言語項目を分析対象とすることで,言語データを包括的に記述できることである。しかしながら,複数のデータにおける多数の言語項目を効率的に分析するためには,多変量解析などの統計手法に関する知識が求められる。本稿では,言語研究で活用することができる複数の多変量解析の長所と短所を比較検討し,ヒートマップと階層型クラスター分析を組み合わせて用いることの有効性を論じる。それに加えて,R言語を用いた解析方法と,その解析結果を解釈する方法を提示する。
田中, 弥生 小磯, 花絵 大武, 美保子 TANAKA, Yayoi KOISO, Hanae OTAKE-MATSUURA, Mihoko
本研究は,高齢者の認知機能を補完しうる言語能力の指標として,脱文脈化観点が適用可能かを明らかにすることを目的に,その第一段階として,共想法によって収録された,高齢者による談話の性質を,脱文脈化の観点から明らかにするものである。共想法とは高齢者の認知的健康につながる会話を支援する手法で,脱文脈化の観点からの分析には,選択体系機能言語理論の枠組みの談話分析手法である修辞ユニット分析の分類法を用いた。修辞ユニット分析では,メッセージ(概ね節)という分析単位毎の修辞機能と脱文脈化指数を知ることができる。2種類のテーマに基づく共想法談話各3セッションを分析した結果,テーマ毎に多用される修辞機能が異なること,こうしたテーマ毎に多用される修辞機能が,複数のセッション,セッション内の「話題提供」と「質疑応答」の両パート,複数の参加者に共通して観察されることから,テーマに依存した基本的な修辞機能が存在することが分かった。また,「話題提供」ではテーマに依存しない個人特有と見られる修辞機能の使用も見られることや,個人として「話題提供」であまり用いない修辞機能を,他の参加者とのやりとりが生じる「質疑応答」の中で使用するケースもあることが分かった。
高嶋, 由布子 TAKASHIMA, Yufuko
危機言語としての言語研究が国際的に行われるようになって以来,手話言語はその枠組みに入れられてきていなかった。2006年,国連の障害者の権利条約で,手話も言語であると定義され,その重要性が認知され,手話研究の重要性は高まっている。これと同時に,重度難聴者への補聴を可能とする人工内耳などの技術も高まっており,手話を第一言語として習得する者が減少してきている。
村杉, 恵子 MURASUGI, Keiko
本稿は,言語獲得の論理的問題を整理した上で,wh島制約に関する研究と「の」の過剰生成に関する研究を紹介する。普遍文法の特性が言語獲得の早期から獲得されている一方で,幼児の「誤用」は,普遍文法の制限の範囲内で起こることを理論的実証的に示す。このことにより,幼児の「正用」も「誤用」も,自然言語の特性が表出した現象であることを示し,人間に備わる生得的な言語知識の実在性を,言語理論と言語獲得研究から裏付ける。
與那原 建 Yonahara Tatsuru
本稿では、ダイナミック能力によって破壊的イノベーションを実現するための打ち手に関する2つの対立する見解についての比較を試みている。具体的には、クリステンセンの隔離論の主張をレビューしてその問題点を抽出したうえで、これとは逆に、知の活用と探索の両立は既存組織の中でも可能だと捉えるオライリーやタッシュマンたちの両利きのマネジメントの有効性について確認していく。すなわち、組織内部における分化と統合をともに重視する両利きのマネジメントを実践することができれば、隔離論の問題点をカバーして、ダイナミック能力により破壊的イノベーションを実現すると同時に、持続的イノベーションも可能になると考えられる。
林 璋 Lin Zhang
本文は中国福建師範大学における日本語教育の現状と今後の変革の方向を紹介するものである。これまでの日本語教育は中国における外国語教育の縮図と見ることができ、語学能力の向上だけを目標とし、しかも読み書きの練習が中心であった。これからの変革の方向としては、学習者の「聞く、話す、読む、書く」の語学能力を偏りなく向上させ、その上で専門的知識をも学べるようにカリキュラムを編成する方針である。
コムリー, バーナード Comrie, Bernard
言語類型論は日本語等の個別言語を通言語的変異に照らして位置づけるための1つの方法を提供してくれる。本論では個々の特徴の生起頻度と複数の特徴の相関関係の強さの両方を検証するために,WALS(『言語構造の世界地図』)を研究手段に用いて言語間変動の問題を考察する。日本語と英語は言語類型論的に非常に異なるものの,通言語的変異を総合的に見ると,どちらの言語も同じ程度に典型的であることが明らかになる。また,日本語が一貫して主要部後続型の語順を取ることは,異なる構成素の語順に見られる強い普遍的相関性の反映であるというよりむしろ,日本語の偶発的な性質であると主張できる。最後に,WALSの守備範囲を超えた現象として,多様な意味関係を一様に表す日本語の名詞修飾構造,および類例がないほど豊かな日本語授与動詞の体系に触れ,それらを世界の他の言語との関係で位置づけることで本稿を締めくくる。
Yuki Masami 結城 正美
本稿は、森崎和江の作品におけるディアスポラ的な言語実践を分析するものである。自己と他者を分け隔てる境界を、両者をつなぐインターフェイスとしてとらえ直そうとする森崎の文学的試みは、具体に根づいた(土着の)言語を称揚するのでも、抽象世界で自己完結している言語を単に批判するのでもなく、異質な言語をつなぐ新たな言語の希求というかたちで展開する。確たる参照点を持たず欠落の意識を手だてとする森崎のディアスポラ的言語探求を、森崎作品における三つの重要なトポス―沖縄/与論、朝鮮、炭坑―に着目し分析する。
林, 直樹 田中, ゆかり
本稿では,異なる研究者によるデータをWeb上で共有・統合することを目的に構築された「日本大学文理学部Web言語地図」の概要を報告する。最初にWeb言語地図の利用方法のうち,言語地図の描画方法を説明する。次に,Web言語地図にデータを追加するために,個人がどのようにデータを管理するのかを述べ,作成したデータをWeb上で管理するための方法を解説する。最後に.Web言語地図の理念である研究資源の共有という試みにおける今後の課題について言及する。
葦原 恭子 奥山 貴之 塩谷 由美子 島田 めぐみ Ashihara Kyoko Okuyama Takayuki Shiotani Yumiko Shimada Megumi
日本政府は,近年,外国人留学生が高度外国人材として日本企業へ就職し,活躍することを促進している。しかし,高度外国人材に求められるビジネス日本語能力の習熟度の判定は難しく,その評価基準も定まっていないのが現状である。本研究は,汎用的な評価基準となる「ビジネス日本語フレームワーク」の構築を目的としており,このフレームワークは高度外国人材の育成・教育・評価に資する枠組みとなる。ビジネス日本語フレームワーク構築のプロセスには「直観的手法」,「質的調査法」,「量的調査法」があり,本稿では,「直観的手法」について述べる。本研究では,既に存在する尺度(CEFR,JF 日本語教育スタンダード,TOEIC Can-Do Guide 等)からCan-do 項目を抽出し,基準を設定した上で能力記述文をビジネス日本語のCan-do 項目として書き換えた結果,約800 項目が能力記述文バンクに登録された。
加納, 千恵子 KANO, Chieko
非漢字圏の初級レベルの学習者がどのような漢字に関する知識や運用力を身につけているのかを分析的にテストし,効率的な漢字習得のための形成的評価として使用することを目的とした漢字語彙処理能力テストを開発中である。漢字および漢字語彙を処理するために必要な能力として,字形の識別,意味理解,読み処理,書き処理,用法処理,音声処理などの能力を想定し,それらを測るためのテスト問題を作成して,筑波大学留学生センターおよび米国カリフォルニア大学において実施した。このテスト開発の経緯,2つの教育機関におけるテストの実施結果,その分析から得られた知見について報告し,このような成果をどのような形で実際の教育方法の改善などに生かしていくことができるかについて考察する。また,教育現場における実践研究のあり方についても考える。
大西, 拓一郎 ONISHI, Takuichiro
言語地理学は,その学術的展開とともに語形分布の2次元空間的配列関係を基盤とした歴史的解釈に目的を焦点化させるに至ったが,そのような方法では,例えば待遇表現のように地域が持つ社会的特性と言語が関連を持つ事象の分析に十分対処することができない。また,配列関係に基づく解釈においても,その背景にある地理的情報を検討することは必要である。本来,言語地理学は言語外の情報と言語情報を空間的に照合することで,言語=方言と人間の実生活との関係を見ていくことに,そのダイナミズムがあった。そのような出発点に立ち戻るなら,地理情報システム(GIS)は,言語地理学を再生させるための大きなキーとなるものである。
知念 秀美 廣瀬 等 Chinen Hidemi Hirose Hitoshi
本研究では、小学生の角度概念の獲得の全体構造について検討し、さらに、重要な関連要因と考えられる、空間認知・構成様式と計算能力と角度概念との関連についても検討した。まず、予備調査の結果にもとづき、角度概念をどこまで獲得しているかを調べる調査テスト作成・実施して、角度概念の全体構造モデルについて検討し、5段階からなる角度概念の全体構造モデルを作成した。さらに、角度概念の獲得状況と空間認知・構成様式と計算能力との関連性を、全体、男女別、テストの高群・低群別に詳細に検討して、それぞれの特徴を明らかにするとともに、それらの特徴について考察した。
前川, 喜久雄
話しことばは書きことばよりも多くの種類の情報を伝達している.音声は論理的な言語情報の他に感性的なパラ言語情報を伝達している.この発表では標準的な日本語を対象として,代表的なパラ言語情報がどのような音声的特徴によって伝達されているかについて報告し,あわせてパラ言語的情報がどの程度正確に伝わるかという問題にも触れる。
森, 大毅 MORI, Hiroki
Fujisaki (1996)は,音声に含まれる情報を言語的情報・パラ言語的情報・非言語的情報の3つに分類した。藤崎の定義では,転記可能性と話者の意識的な制御の有無が分類の要になっている。このため,話者の意識的な制御の有無が明確でない現象に関しては分類上の問題を生ずる可能性がある。特に,感情の扱いはしばしば問題となっていた。本研究では音声によるコミュニケーションの図式を整理し,話し手により意識的に制御された感情表出を適切に位置付けるために,メッセージ性をもって生成された感情表出と不随意的に生成された感情表出とを区別した。また,話者の言語的メッセージおよびパラ言語的メッセージと,聞き手が得る言語的情報およびパラ言語的情報とを区別し,それらの違いを明確に述べた。
大村, 舞 浅原, 正幸
自然言語処理の分野では多言語かつ言語横断的な言語研究が盛んに取り組まれている。その言語横断的な言語研究の取り組みとしてUniversal Dependencies(UD)がある。UDでは品詞や係り受け構造の標準・スキーマを定め,多言語のコーパスを提供している。本論文では,日本語コーパスである現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)をUDのスキーマへと変換したコーパスについて紹介をする。BCCWJでは日本語における文節単位の係り受け情報がすでに付与されている。この係り受け構造を基にしてUDへと変換するプログラムの開発を行った。しかし,文節単位はUDの単語単位には沿っていない。そのため,BCCWJで提供されている短単位と長単位というふたつの言語単位を単語の単位をして認定したコーパスを構築する。短単位と長単位についてUDのスキーマに当てはめた場合,どのような係り受け構造ができるのかを示す。
村上 呂里 梶村 光郎 Murakami Rori Kajimura Mitsurou
研究概要:(平成15年度時点)2003年8月20日〜27日、タイグェン師範大学(北部山岳少数民族の拠点師範大学)Nguyen Van Loc学長他2名が琉球大学教育学部を訪問した際、少数民族言語教育が抱える課題(学力問題、バイリンガル教育の方法をめぐる課題、ドイモイ政策以降の言語教育の変化等)についてインタビューを行い、その詳細と考察について、両輪の会『両輪』42号(2004)に報告した。2003年12月下旬、ベトナム国立人文社会科学センター言語学院とタイグェン師範大学を訪問し、第1回調査を行った。12月23日、言語学院研究員Ta Van Thong氏ら2名に、ベトナム語の「国家語」化をめぐる問題、少数民族言語政策の変化と課題等について、インタビュー調査を行った。12月25日、タイグェン省ボーニャイ郡クックドゥオン小学校およびその分校の識字学校を訪問、校長のTran Thi Loan先生や識字学校のUyen Van Thanh先生および学習者にインタビューを行った。12月26日、タイグェン師範大学の少数民族学生にインタビュー調査を行った。2004年2月28日〜3月6日、タイグェン師範大学からLuon Ben語学文学科教授ら3名を「多言語社会における言語教育研究会」のために招聘し、3月2日、村上が「日越比較言語教育のために日本近代言語教育の出立-地域語・民族語を視座に-」を発表、3月4日、Luon Ben教授が「ベトナム少数民族言語教育の歴史と課題」を発表、宮城信勇氏が「『石垣方言辞典』完成への道のりと思い」を発表、各々質疑応答を行った。今年度は第1年目であり、調査報告と関係論文の翻訳・考察に重点をおき、中間報告書を作成した。ベトナム言語教育史の解明とともに、ドイモイ政策以降ベトナム語の社会的機能の高まりを背景とした、多言語社会ベトナムが直面する言語教育の課題が浮かびあがってきた。
パルデシ, プラシャント 今村, 泰也 PARDESHI, Prashant IMAMURA, Yasunari
述語構造の意味範疇に関わる重要な言語現象の一つが「他動性」である。基幹型プロジェクト「述語構造の意味範疇の普遍性と多様性」では,意味的他動性が,(i)出来事の認識,(ii)その言語表現,(iii)言語習得(日本語学習者による日本語の自動詞と他動詞の習得)にどのように反映するかを解明することを目標に掲げ,日本語と世界諸言語を詳細に比較・検討し,それを通して,日本語などの個別言語の様相の解明だけでなく,言語の多様性と普遍性についての研究に貢献することを目指し,2009年10月から共同研究を進めてきた。さらに,日本語研究の成果を日本語教育に還元する目的で,基本動詞の統語的・意味的な特徴を詳細に記述するハンドブックを作成し,インターネット上で公開することを目指して研究・開発を進めてきた。本稿ではプロジェクトで企画・実施した共同研究の理論的および応用的な成果を概観した。理論的な成果としては,(1)地理類型論的なデータベースである「使役交替言語地図」(WATP),(2)日本語と世界諸言語の対照言語学的・類型論的な研究をまとめた論文集『有対動詞の通言語的研究:日本語と諸言語の対照研究から見えてくるもの』を紹介した。応用的な成果としては日本語教育に役立つ「基本動詞ハンドブック」の見出し執筆の方法とハンドブックのコンテンツについて紹介した。
西島, 光洋 NISHIJIMA, Mitsuhiro
本研究では、アジア言語母語およびヨーロッパ言語母語の中級日本語学習者(以下それぞれアジア/ヨーロッパ言語母語話者)による各品詞の使用量の差異を調査した。計11母語の日本語学習者それぞれに対して、I-JAS のストーリーライティング(SW)タスクとエッセイ(E)タスクそれぞれにおける、各品詞(大分類・細分類)のトークン数とタイプ数の頻度を計算した。その結果、対象とする母語数を増やすと、先行研究で指摘されていたアジア/ヨーロッパ言語母語話者間の差異が確認されなくなる場合があることが分かった。また、タスクによって、アジア/ヨーロッパ言語母語話者間の差異が確認できる品詞は異なることも分かった。特に、ヨーロッパ言語母語話者はアジア言語母語話者と比べて、SWタスクでは終助詞を多用する一方で、Eタスクでは口語的な助詞を豊富に使用することが判明した。この結果を基に、ヨーロッパ言語母語話者が書く文書には、文書のジャンルに依らない、文体上の共通点が存在する可能性を指摘した。
大村, 舞 浅原, 正幸
自然言語処理の分野では多言語かつ言語横断的な言語研究が盛んに取り組まれている。その言語横断的な言語研究の取り組みとしてUniversal Dependencies(UD)がある。本論文では、日本語のコーパスであるUD Japanese-BCCWJについて紹介をする。UD Japanese-BCCWJは現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)に付随する係り受け情報などを組み合わせて、UDへと変換、構築したBCCWJのUniversal Dependencieである。これは日本語のUDの中でも1980文章、57,256文、約126万単語を含む最大規模また複数のレジスターを内包したデータセットである。UD Japanese-BCCWJの特徴について説明する。またUD Japanese-BCCWJの構築手順について説明し、現状における問題点について議論する。
岡崎, 敏雄 OKAZAKI, Toshio
外国人年少者に対する日本語教育への本格的取り組みは近年開始されたばかりである。現場の教師は手探りでこれに当たり,その中で言語教育観が形成されつつある。本研究は,形成されつつある教師の言語教育観に焦点を当て,日本語教育が必要な金国の外国人年少者の在籍する公立小・中学校の日本語教育に関わる全教師に対して質問紙による言語教育観の調査を行った。クラスター分析,分散分析の結果,全体として(日本語教育と共に)母語保持を重視する言語教育観が教師によって高く支持され,カナダのイマージョン・プログラムに典型的に見られる継続的二言語併用型の言語教育観が形成されつつあることが示された。しかしながら他方,日本の諸条件を反映して,同時に「少数散在型」「受容型」「滞在エンジョイ型」「短期滞在者への注目型」「現行制度枠内型」という性格を備えたものであることが示され,教育制度の異なるカナダのイマージョン・プログラムでの継続的二言語併行型言語教育との相違も明らかにされた。
吉岡, 泰夫
国立国語研究所の方言研究は,「現代の言語生活」を課題として,話しことばをめぐる言語問題をタイムリーに探索し,問題解決のための科学的調査研究を,独自に開発した方法で実施してきた。言語政策の企画立案に資する基礎研究資料を提供するとともに,日本語研究の中枢的機開として学界の発展と充実にも寄与してきた。特に,社会言語学,言語地理学の分野においては,先進的研究の開拓によって,戦後の日本語研究にリーダーシップを発揮してきたところである。
葦原 恭子 小野塚 若菜 Ashihara Kyoko Onozuka Wakana
近年,日本国内の日本語教育機関には卒業・修了した外国人留学生の日本国内での就職を促進させることが求められている。また企業は、優秀な外国人留学生を確保し高度外国人材として活用するために、外国人留学生を対象としたインターンシップの実施を促進する必要がある。インターンシップでの就業の実体験は、参加学生に雇用可能性への自信を与えるという報告もあるが、 本研究では、インターンシップ参加学生のビジネス日本語能力に焦点を当て、琉球大学によって実施された沖縄県内での企業におけるインターンシップでの業務経験が参加学生のビジネス日本語能力に対する自己評価に変化をもたらすかどうかを探った。調査はビジネス日本語Can-do statementsを使用した。その結果,インターンシップ参加学生のビジネス日本語能力に関する自己評価は,参加前と後で変化しており,特にインターンシップ先で経験した内容について自己評価を上げる傾向が見られた。
藤井, 聖子 佐々木, 倫子
日本語教育センター第二研究室では、現在、英語、スペイン語、ポルトガル語、フランス語それぞれの言語に関して、日本語との対照研究を進めている。日英対照としては、現時点では、談話・語用論上の対照を押し進めるため、会話スタイルの分析を行っている。日西では、統語現象と意味の問題を取り上げている。日葡対照としては、ブラジル人と日本人との言語接触の局面を、社会言語学的アプローチで調査している。日仏では、音声、特にアクセント、イントネーション、音声言語コミュニケーションに付随するジェスチャーを取り上げ、音声及びパラ言語の領域における対照を進めている。
小林, 隆 KOBAYASHI, Takashi
文献国語史と言語地理学の提携により語史を構成するための基礎資料の一つとして,『日本言語地図』(国立国語研究所,昭和41~49年)の関連意味項目の全国方言分布を明らかにしようとした。語史研究は,文献国語史と言語地理学とが提携して進められることが望ましく,その資料として,言語地理学では主に『日本言語地図』が利用されてきた。ところが,『日本言語地図』の解釈を文献国語史と対照すると,両者の間で語の意味が対応しない場合があり,この点について詳しく考えるために,例えば〈眉毛〉に対する〈まつ毛〉など『日本言語地図』の関連意味項目の方言分布をあらたに調査した。項目は主に身体名称の50項目であり,通信調査法により全国1400地点分の資料を収集した。本稿は,この調査の目的と方法について論じたものである。
熊谷, 智子 KUMAGAI, Tomoko
同じ目的をもつ言語行動でも,その実現の仕方はさまざまであり得る。本稿では,言語行動の行われ方を記述し,その特徴を多角的にとらえるための分析の観点を提案する。観点の収集にあたっては,大量調査資料を用いて同一場面におけるさまざまな話者の言語行動を分析し,バリエーションがあらわれる諸側面を考察した。そして,その所見をもとに,言語行動一般の特徴分析に有効と思われる以下の観点を抽出した。
国立国語研究所は,1988年12月20日(火)に創立40周年をむかえた。それを記念して,同日,「公開シンポジウム『これからの日本語研究』」が国立国語研究所講堂でひらかれた。本稿はそのシンポジウムの記録である。 (ただし,集録にあたっては,本報告集の論文集としての性格を考慮し,あいさつ,司会の発言は省略し,発表内容に関する発言のみを集録した。)ひとくちに「日本語研究」といっても,その研究対象は多様であり,また研究の視点・方法も多様である。そして,近年その多様性はますます拡大する傾向にある。このような状況をふまえ,今回のシンポジウムでは,(1)理論言語学・対照言語学,(2)言語地理学・社会言語学,(3)心理言語学・言語習得,(4)言語情報処理・計算言語学という四つの視点をたて,それぞれの専門家の方に日本語研究の現状と今後の展望を話していただき,それをもとにこれからの日本語研究のあり方について議論するという形をとった。
親川 志奈子 Oyakawa Shinako
ハワイがルネッサンスに湧く1970年代、琉球では日本を「祖国」と呼ぶ「復帰」運動が起こっていた。「復帰」40年目にあたる2012年現在、琉球諸語はその特徴である豊かな多様性を残しつつも、若い世代への継承が行われておらず、ユネスコの危機言語レッドブックには琉球諸語のうち六つの言語が登録されている。2006年には「しまくとぅばの条例」が制定され、琉球弧各地においてしまくとぅば復興のための草の根の言語復興運動が展開されており、県庁所在地の那覇では「はいさい運動」など行政の取り組みも起こっているが、政府レベルでの言語政策は存在しない。また言語復興の現場には多文化共生というフレームワークが敷かれており、言語とアイデンティティを同時に語らせるが、インディジニティという自己認識に到達させない仕組みが存在する。本稿では日本が国家=民族と定義し教育してきた背景と「復帰」 に至るプロセスとその結果としてディスエンパワメントされた琉球人の民族意識や言語意識に対するトラウマについて、インディジネスの権利回復運動の中で言語復権を強めたハワイと比較し議論する。
道田 泰司 Michita Yasushi
本研究では,日常的な題材に対して大学生が,批判的思考能力や態度をどの程度示すのか,それが学年(1年・4年)や専攻(文系・理系)によってどのように異なるかを明らかにすることを目的とした。大学生80名に対して,前後論法という論理的に問題のある文章3題材を読ませ,その文章に対する意見を自由に出させることで批判的思考態度を測定した。その後で,「論理的問題点を指摘せよ」というヒントに対してさらに意見を求めることにより,批判的思考能力を測定した。分析の結果,全240の回答のうち,批判的思考能力の現れと考えられる意見は88回答(36.7%),その中で批判的思考が要求されていない場面でも批判的思考態度を発揮していたものは20回答(22.7%)と少なかった。一貫した学年差や専攻差は見られなかった。多くの学生は,情報の持つ論理よりも内容のもっともらしさや自分の持っている信念の観点から文章を読んでおり,この点を踏まえて批判的思考が育成されるべきであることが示唆された。
川満 芳信 比屋根 真一 野瀬 昭博 Kawamitsu Yoshinobu Hiyane Shin-ichi Nose Akihiro
サトウキビ属内における光合成特性およびその関連形質を詳細に調べ、各品種・系統間における光合成能力に変異が見られるかどうか調べた。さらに、サトウキビ属の光合成能力の支配要因について形態的特性、特に気孔について着目し比較・検討を行った。結果は以下の通りである。1.各品種・系統間のガス交換形質、及びその関連要因において1%水準の有意差が認められた(第1表)。2.サトウキビの気孔特性を各形質との間で比較した結果、1%水準の有意差が認められた。また、気孔密度の裏表比は、S. spontaneumが約3と他と比べても高い値を示した(第2表)。3.気孔密度は光合成速度との間に1%水準で有意な負の相関関係を示し(第1図)、気孔伝導度は0.1%水準で正の有意な相関関係を示した(第2図)。従って、サトウキビの光合成能力を支配しているのは気孔開度であることが明らかとなった。
木部, 暢子 KIBE, Nobuko
西南部九州2型アクセントのうち,長崎アクセントと鹿児島アクセントについては,これまでの調査研究により,その詳細がかなり明らかになった。その結果,両者の共通点や相違点も次第に明確になってきた。本稿で取り上げる熊本県天草市の方言は,地理的にも言語的にも,長崎市と鹿児島市の中間に位置しており,西南部九州2型アクセントの成立過程を解明する上で,重要な位置を占めている。本稿では,天草市本渡方言のアクセントについて,以下のことについて報告する。(1)天草市本渡方言のアクセント体系は2型アクセントで,A型は最初から数えて2拍目が高く,その後で下がる型,B型は高く始まり平らな型である。(2)アクセントの及ぶ範囲は,基本的には文節である。動詞句では,動詞+サスル(使役),動詞+バッテン(逆接)などは,1つのアクセント句を形成するが,動詞+トル(結果),動詞+キル(能力可能)などは,2つのアクセント句を形成する。
田中, ゆかり 早川, 洋平 冨田, 悠 林, 直樹 TANAKA, Yukari HAYAKAWA, Youhei TOMITA, Haruka HAYASHI, Naoki
言語景観研究に基づく地域類型論の構築を目指した事例研究として,本稿では,外国人来訪客の多い地域でありながらサブカルチャーの街としても知られるJR秋葉原界隈,通称アキバをとりあげ,2010年に行なった調査結果に基づき報告を行なう。調査対象は実店舗の掲示類,並びに店舗運営のWebサイトである。実店舗・Web調査結果からは次の点が明らかになった。(1)「日本語」「英語」以外の言語として,「中国語(簡体字)」への対応が手厚い。一方,「韓国語/朝鮮語」は単言語としても併用言語としても出現頻度が低い。(2)家電系や免税系は多言語傾向が顕著だが,サブカル系は「日本語」単言語が主流。上記結果から,アキバは他地域における“標準タイプ”化と異なる多言語化の状況にある特異性をもつことが確認された。また,この背景には外国人来訪者の傾向性や店舗分野の違いといった,アキバの街を構成する要素が関係していることを指摘した。
鑓水, 兼貴 YARIMIZU, Kanetaka
首都圏の言語は,構成員の多様さのため非常に複雑であるとされる。しかし現代の共通語は,東京の言語を基盤としており,東京における言語変化の影響を受けている。そのため東京および周辺地域における言語動態の調査は,共通語形成過程の解明にとって不可欠である。首都圏若年層の言語の地域差を把握するための調査には,大量のデータを必要とする。そのためには授業場面での学生を対象とした調査が実施しやすい。しかし学生の回答意欲の低下や,授業時間の圧迫といった問題が考えられる。本研究では,そうした問題を解決する方法を検討し,携帯メールを用いた「リアルタイム携帯調査(RMS)システム」を開発した。RMSシステムは,首都圏若年層の言語形式の収集に適しており,大量データから,詳細な分布状況を明らかにすることが可能となる。
Onaha Hiroko 小那覇 ひろこ
第2言語習得者の中間言語は習得あるいは学習した言語環境によって質的に異なるという研究報告が近年数多く発表されている。言語(英語)環境の違いは大きく2つに分けられている。第1のグループは,英語教育を受けずに英語が話されているコミュニティーで自然に英語(中間言語)を習得する場合で,第2のグループは,各機関での英語教育によって学習者が英語を学習・習得する場合である。本稿では,琉球大学短大部英語学科に入学した社会人学生(米軍雇用員)の中間言語を被験者が1年次の時,テープ録音したものを文字化し,分析を試みた。米軍雇用者の英語習得は3つに分類される。(1)中・高校の教育歴で,英語習得は職場のアメリカ人との接触による場合,(2)大学か大学院教育をアメリカ合衆国で受けた場合,(3)日本の大学で英語教育を受け,職場でのアメリカ人との接触によって,さらに英語を習得した場合である。被験者の英語教育歴は中学校と高校に限られており,言語習得環境は,第1グループに属し,(1)の分類に入れられると思われる。分析方法は,KrasbenやPica等の研究で用いられたSOC(Supplied in Obligatory Contexts Analysis of Morpheme)の方法で,英語の機能語(Engllsh grammatical morpheme)の習得状況を調査することによって被験者の中間言語の特徴を明らかにするものである。分析の結果,SOCテストによる機能語の習得状況だけでは,第1グループに属する被験者の中間言語の特徴を明らかにすることはできないという結論に達した。被験者の中間言語には第2グループに属する短大英語学科3年次の学生の中間言語には見られない discourse strategy が頻繁に用いられていた。本稿の結果は,被験者が3年次に達した段階で,同様な方法により再度テープ録音された中間言語と比較される予定である。
福本 晃造 宮国 泰史 杉尾 幸司 古川 雅英 Fukumoto Kozo Miyaguni Yasushi Sugio Koji Furukawa Masahide
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が支援する次世代人材育成事業の採択事業「ジュニアドクター育成塾」における琉球大学の取り組みとして,「美ら海・美ら島の未来を担う科学者養成プログラム(通称名:琉大ハカセ塾,以下,本事業とする)」が,平成29年度より開講された。本事業では,理科や科学に高い意欲・才能を有する全国の小中学生を対象として勢集を行い,「旺盛な科学的探究心」,「科学的問題解決力」,「研究実践力」,「豊かなコミュニケーション力」,「自己学習能力」の5つの観点・能力の伸張を促す科学教育プログラムを行なうとともに,いくつかの評価軸・技法を用いて,各受講生能力の計測や評価方法の開発を目指している。平成29年度は90名の小中学生について一次選抜試験を行い,選抜された44名を対象に,教育プログラムを実施し,その中からさらに,8名の受講生を二次選抜した。本報告では,受講生の評価方法を開発する上での基礎資料となりうる,応勢者および受講生の類型について報告する。
Yogi Minako 與儀 峰奈子
会話分析あるいは談話分析とよばれる研究領域には様々なアプローチが存在し、それぞれの手法でいわゆる文法を越えたより広いレベルを研究対象にしている。特に組会言語学者や言語人類学者の行う会話分析/談話分析では、実際の会話が録音され、その詳細が言謎・分析される。そして会話参加者によるコミュニケーション活動がどのような特質を持ち、いかなる影響を受け、どのような効果を生み出すのか、などが研究される。会話/談話に対するこのようなアプローチは多くの成果を上げ、母国語話者(特に英語母国語話者)の談話能力及び談話構造の解明に多大な貢献をしてきた。本稿では、英語を母国語としない話者の英語による会話の記述・分析を行った。分析対象としたのは日本人女性同士の会話と、日本人女性と台湾人男性による会話、及びアメリカ人男性同士の会話で、いずれも1991年に米国ミシガン州にて録音されたものである。協力して頂いた日本人女性2人と台湾人男性は、録音当時3年から5年のアメリカ滞在経験を持つ大学院生で、比較的高い英語運用能力を有する話者であった。会話における個々の発話(utterance)はそれぞれ重要な機能を担っている\nと考えられるが、本稿では特に話題変換のbpic Change)、割り込み(interruption)/重複(overlap) 、会話物語(narrative) の3つの観点に絞り考察を行った。話題変換が生じているところでは、漸進的話題権移(topic shade sequence)や相互交渉的及び一方的話題推移(collaborative and unilateral topic transitions)が観察された。 また、話題変換を示すために格言的結論(aphoristic conclusion)や沈黙(silence)が使用されている例もあった。割り込み(interruption)/重複(overlap)は多くの研究では同時発話(simultaneous speech)の一種と捉えられ形式面を重視した定義がなされているが、本稿ではMurray (1985) の心理的側面を重視した特徴付けを採用した。分析したデータの中には、2人の会話参加者が全く同時に同じことを発する例や、先行発話の終了を待たずに次の話題に移行する割り込みの例等が観察された。会話物語に関してはLabov (1972)の分類に従って分析した。Labovによると会話物語は、話の概要(abstract)・話の場、時、登場人物(orientation)・話の中に出てくる出来事(complicating action)・その出来事の評価(evaluation)・その出来事の結末(resolution)・話の終結(code)の6つの要素から構成される。最初にどのような話であるか宣言され、いつ、どこで誰が登場するかが提示され、実際どのような出来事が起こり、どう決着がついたのかが述べられ、最後に終結の表現が加えられる。今回分析した会話物語にも同様の要素が観察された。本稿で取り上げた3点に関する限り、英語を母国語としない話者でも運用能力が比較的高ければ、英語母国語務者の会話と同じような特徴が観察された。この結果に基づき、さらにより効果的なコミュニケーショシ活動を可能にするため、会話分析・談話分析で得られた知見を英語教育でも活用すべきであることを示唆する。
舩橋, 瑞貴 FUNAHASHI, Mizuki
日本語と韓国語の口頭発表における修復(注釈挿入と言い直し)を取り上げ,修復を実現する際の言語的手段が異なることをみる。助詞の言い直しにおいては,選択される言語的手段が助詞と名詞の膠着度の異なりとかかわっている可能性を示す。さらに,助詞と名詞の膠着度が低い日本語に関しては,言い直しの開始位置と関係があることを示す。従来の対照研究では,言語体系内の要素を対照単位とするアプローチが多くとられるが,日本語教育のための対照研究においては,ある言語行為を行う際の言語的手段の選択というアプローチも必要であることを主張する。
杉戸, 清樹 塚田, 実知代
(1)社会言語学・言語行動研究の領域で敬語や待遇表現の調査研究を進めていると,一般の回答者が,狭義の敬語だけでなく,より幅広い範囲の敬意の表現を意識しているらしいことがしばしば観察される。
Shimabukuro Moriyo 島袋 盛世
本稿はアイヌ語、韓国語、日本語の超音節的特徴を類型論的に共時的そして通時的観点から比較分析したものである。アイヌ語、韓国語、日本語は高低音調を分別するピッチアクセント言語であると言われているが、本論文ではそれらの言語の方言がすべてピッチアクセント言語ではなく、音調の高低が分別的機能を持たない方言も存在することを指摘する。さらに、ピッチアクセントではない言語・方言間の超音節的特徴を上げ、アイヌ語、韓国語、日本語間で相違点を比較考察する。
後藤, 斉 GOTOO, Hitosi
本稿は,コーパス言語学をもっとも発達させたイギリスにおける事情と日本におけるコーパス研究の位置づけとを対比しつつ歴史的に概観して,その発展の違いの要因を探り,あわせて今後に対するなにがしかの見通しを得ようとするものである。イギリスにおいてコーパス言語学が発達したことには,主要因としては言語研究の流れに沿うものであったことが挙げられ,ほかにもいくつかの言語内的および言語外的要因が挙げられる。それに対して,日本では,計算機利用の言語研究の歴史は長いが,コーパスの概念の精緻化には至らず,現在,代表性を備えていて,人文系の研究者が共有できるようなコーパスが存在しない。現在の不十分なコーパスでも意味論の研究などに利用することが可能ではあるが,国立国語研究所が「現代日本語書き言葉均衡コーパス」の構築に着手したことの意義は大きい。ただし,それを十分に生かすためには,利用考の側にも主体的な努力が求められる。
曹, 大峰 CAO, Dafeng
多言語コーパスに焦点を絞って,まずこれまで多言語コーパスを分類するための基準が不足していたことを指摘する。さらに,多言語コーパスというものにおいては異なる言語がさまざまな関係によって関連付けられていることを示し,その関係を分類するための基準を提案する。その上で,多言語コーパスをどのように選定し,使い分けるべきかについての目安を示す。また,「中日対訳コーパス」の作成と利用経験を踏まえて,訳文データの特性に気付かず原語と対等に使うなどの利用上の問題点を指摘したうえ,筆者が提示した利用モデルを説明し,「可能だ」という可能表現,終助詞「だろう」の意味用法,日中同形語である「基本」の意味用法などに関する日中対照研究の事例を通して,対訳コーパスを適正に利用する方法とその効果を示す。
竹田, 晃子 鑓水, 兼貴 TAKEDA, Koko YARIMIZU, Kanetaka
痛みを表す言語表現のうち動詞ウズクの使用実態について,約18万人を対象に行ったアンケート調査「慢性痛とその言語表現に関する全国調査」をもとに,地域差を中心に世代差・用法差を明らかにし,その背景を考察する。
益岡, 隆志 MASUOKA, Takashi
複文構文プロジェクトの目的は,日本語複文構文研究のさらなる発展の可能性を提示することである。考察対象に連用複文構文と連体複文構文の両方を掲げるとともに,歴史言語学,コーパス言語学,対照言語学などからの広範なアプローチを試みる。本報告では,複文構文プロジェクトの研究成果のなかから,2つの話題を紹介する。1つは連用節と連体節における接続形式の現れ方に関する言語類型の問題であり,もう1つはテ形節の定形性/非定形性の問題をめぐる話題である。
熊谷, 康雄 KUMAGAI, Yasuo
『日本言語地図』のデータベース化(『日本言語地図』データベース,LAJDB)の概略を説明し,3年間の本プロジェクト期間中に整備を進め,利用可能となった項目(119項目)の一部を利用した計量的な分析の事例として,標準語形の使用数の地理的な分布を示した。これにより,『日本言語地図』がデータベース化されることの意味とこれが生み出す新しい研究の広がりの一端に触れた。
金城 尚美 玉城 あゆみ 中西 朝子 Kinjo Naomi Tamaki Ayumi Nakanishi Asako
杉戸(2005等)は「日常われわれが行っている言語活動の中では『配慮』を常に行っており,その対人的な配慮は『メタ言語行動表現』の明示により示される」(杉戸 1998)と述べている。相手への配慮を示すことがよい対人関係を築くために必要な要素の1つであるとすれば,円滑な対人関係を築いている学習者は相手への配慮を適切に行っていることになる。具体的にはメタ言語行動表現を適切に使用していると考えることができる。そこで本研究では「言語行動における配慮」(杉戸 2001等)という観点から,円滑な人間関係を築いている日本語非母語話者の発話データを基に「メタ言語行動表現」が使用されているかを調査した。その結果,「メタ言語行動表現」の使用実態が明らかになり,また,「意識的配慮」(一二三 1995等)も行っている様子も観察された。これらのことから,「メタ言語行動表現」の使用と「意識的配慮」が日本語非母語話者の印象の良し悪しを決める要素になっている可能性があり,円滑なコミュニケーションの遂行に大きく関わっているのではないかということが示唆された。
酒井 彩加 Sakai Ayaka
「共感覚的比喩」の「一方向性仮説」(五感内の意味転用にみられる左から右への一方向性)は、これまで人間が生理学的に普遍であること等を論拠に、世界の言語共\n通に認められる「言語普遍性」の現象のひとつとされてきた。しかし研究が行われたのは英語と日本語のみであり、日本語の調査についても不十分なものである。従って、英語と日本語をはじめ他の言語についても本当に言語の違いを越えて共通に認められる現象であるのかどうか、十分に調査し検証する必要がある。酒井(2003)では、現代日本語における共感覚的比喩について多数の実例に基づき検証し、日本語においては比喩の一方向性が認められないという結論を得た。そこで本調査では、この酒井(2003)での結果を踏まえ、7つの言語(中国語、アラビア語、英語、スペイン語、韓国語、タガログ語、ロシア語)を対象とし「各言語の共感覚的比喩体系には、様々な多様性が認められる」という仮説を立て検証した。要点は、以下の5点にまとめられる。1.今回の調査で最も多く一方向性仮説に反する例が認められたのはタガログ語である。しかし、2番目に多い日本語、そして3,4番目の中国語、英語までは数値的に大きな差は無く、日本語だけでなく複数の言語においても多数の反例が存在することが明らかになった。2.「視覚→触覚」表現については、日本語と韓国語が7言語中、最も少ないのに対し、中国語においては多くの反例が存在する可能性がある。しかし「視覚→味覚」および「視覚→嗅覚」表現と比較すると、「視覚→触覚」表現は他の言語においても用例数が少ない可能性がある。3.「視覚→味覚」表現については、日本語が目立って多い。次いでタガログ語、英語、中国語にも比較的多くの反例が存在するが、スペイン語とアラビア語を除く他の言語においても、多くの反例が存在する可能性がある。4.「視覚→嗅覚」表現については、タガログ語および日本語に多く用例数が認められる。英語、中国語、アラビア語、ロシア語、韓国語にも用例が認められるが、スペイン語だけは極端に少ない可能性がある。5.7言語中、「うすい」「こい」「あわい」に相当する語においては、どの言語においても多数の転用例が認められる。一方、「あかるい」「くろい」「うつろな」「くうどうの」「ピンクの」といった語においては、今回の調査ではどの言語にも全く用例が認められなかった。本稿全体の結論として、日本語以外の7つの言語においても数多くの反例が認められる。従って、今後他の言語についてもさらに調査すべき必要性があることが確認できた。なお本調査は、今後予定されている20言語を対象とした言語調査に先立つ予備調査である。
山元 淑乃 Yamamoto Yoshino
本研究は、文型積み上げ式シラバスにより初級日本語学習を修了した学習者の課題遂行能力を測定し、その教育効果や問題点を検証することを目的とする。文型積み上げ式シラバスによる4ヶ月間の初級日本語集中コース修了生20名に対し、「JF 日本語教育スタンダード準拠ロールプレイテスト」を実施し、その課題遂行能力を評価した。また質問紙とインタビューにより、受講生たちの学習に対する態度や志向を調査した。ロールプレイテストの結果、20名の研究参加者のうち、5名がB1レベル、9名がA2レベル、5名がA1レベル、A1に達しない者が1 名という判定であった。質問紙の回答結果とインタビューの質的分析からは、【学習目標の変質】【全理解志向】【知識と実践の乖離】【媒介語の希求】【絶対的文法理解】といった受講生達の志向や心理が浮き彫りになった。
窪薗, 晴夫 KUBOZONO, Haruo
日本語諸方言のアクセント体系が高さ(ピッチ)にもとづく「ピッチアクセント体系」であることは日本語音声研究の中で常識とされていることであるが,日本語以外の言語から見ると必ずしも自明のこととは言えない。実際,「ピッチアクセント体系(言語)」という類型概念そのものを否定する研究者も数多い。本稿は,2010年に本プロジェクトが主催した国際シンポジウムISAT 2010の成果(Lingua 122特集号)の一部を報告する形で,日本語の研究が一般言語学や言語類型論に貢献できる可能性を指摘する。
宮島, 達夫 小沼, 悦 MIYAZIMA, Tatuo ONUMA, Etu
言語情報処理研究の分野ではシソーラスが活用されているが,それらは特定科学分野の概念間の関係をとりあげることが多い。一般用語のシソーラスは表現辞典の一種として利用されるのが大部分であるが,これも言語研究に役立つ面がある。
春遍, 雀來 HALPERN, Jack
情報交流の国際化に伴い多言語情報の充実は今や喫緊の課題である。特に固有名詞やPOI (points of interest)は膨大な数量に加え頻繁な名称変更にも対応する必要があるため,正確で充実した多言語辞書データ資源が必須だ。そこで,機械翻訳の作業効率と精度を格段に向上させる,超大規模辞書データ資源(Very Large Scale Lexica: VLSL)の構築例として,固有名詞・専門用語等を含む日中韓英辞書データベースや多言語固有名詞辞書データベースを紹介する。VLSLは情報検索・形態素解析・固有表現認識・用語抽出等,自然言語処理の幅広い分野に応用が可能で更なる展開が期待される。
影山, 太郎 Kageyama, Taro
世界諸言語の中で日本語は特殊なのか,特殊でないのか。生成文法や言語類型論の初期には人間言語の普遍性に重点が置かれたため,語順などのマクロパラメータによって日本語は「特殊でない」とされた。しかし個々の言語現象をミクロに見ていくと,日本語独自の「特質」が明らかになってくる。本稿では,世界的に見て日本語に特有ないし特徴的と考えられる複合語(新しいタイプの外心複合語,動作主複合語など)の現象を中国語,韓国語の対応表現とも比較しながら概観する。
吉田 安規良 小田切 忠人 Yoshida Akira Kotagiri Tadato
2013年から4年制大学で本格実施される「教職実践演習」に先立ち、沖縄こどもの国と連携しながら「ドリームフェスティパル2012」という行事の企画・運営を主とする、特別活動の運営をモチーフとした試行実践を行った。受講した学生は「対人関係能力」や「協働体制の構築」の重要性を理解し、これらに代表されるこれからの教員として必要な資質能力を修得していたと判断できる。学生にとってこの取り組みそのものは達成感や充実感を味わえるものであり、今回の試行実銭は「教職実践演習」 の一形態として有効であると判断できる。しかし、とりわけ卒業研究との両立に際して負担感があることもわかった。
Flint, Lawrence S Flint, Lawrence S
近年、食料、水、繊維、エネルギーの需要拡大を満たすため、人々はいまだかつてない供給を生態システムから求めるようになった。これらの需要は生態系のバランスに圧力を与え、自然環境が許容量を取り戻す能力を減少させ、大気・水の浄化作用、廃棄物の処理、アメニティ等の生態系サービスを供与する能力を弱体化させた。社会経済開発と環境持続可能性との間に明らかな緊張関係が存在している。生態系の財とサービスの減少を引き起こした直接的な原因は、生息地の変化、外来種の侵入、過度の収奪、汚染や気候変動と変化などである。これらのプロセスは社会生態的レジリアンス喪失の脅威を与え、環境と社会経済変化の双方に対する感受性を高める。
ウェイ諸石, 万里子 WEI MOROISHI , Mariko
本稿では,助詞「に」「で」と四つの推量助動詞「ようだ」「そうだ」「らしい」「だろう」の習得における明示的学習条件と暗示的学習条件の効果について考察する。42人のアメリカの大学生の日本語学習者が二つの実験群(明示的グループ,暗示的グループ)と対照群に無作為に分けられ,易しい言語型式(助詞),複雑な言語型式(推量助動詞)についてそれぞれ学習した。明示的学習グループは簡潔で系統だった文法説明を受けた後,聞き取りや読解などの意味中心の教室活動を行った。暗示的学習グループも全く同じ教室活動を行ったが,文法説明は受けなかった。そのかわり視覚的に学習者の注意を目標言語型式に向けさせるように助詞「に」「で」と4つの推量助動詞には全て下線が引かれていた。五種類のテストを用いて事前テスト,直後テスト,遅延テスト(九週間後)を行い,テストのスコアを統計分析した結果,明示的グループは暗示的グループ,統制群をはるかに上回り,その差は統計学的に有意であった。暗示的グループは易しい言語型式においてのみ統制群との差が有意であった。明示的学習条件は助詞「に」「で」や推量助動詞のように意味論的制約を含んだ言語型式の習得の場合その難易度に関わらず有効であったと言える。また手短かな文法説明は意味重視の活動と組み合わされて行われた場合言語習得を促進するようである。まとめとして,どのような指導がどんな言語型式に有効かについて考察し,学習者の気付きを促す言語活動の適切な明示性の度合について論じる。
張, 守祥 ZHANG, Shouxiang
本研究は「残留孤児・残留婦人の里」と呼ばれている中国黒龍江省方正県における言語景観の実態・特徴について考察するものである。方正県の事例によって示されるように,言語景観のすべてが市場経済の原理に従って構成されているわけではなく,行政主導型の言語景観も存在しているのである。現在,日本人の投資者や居住者が存在しない方正県で地方政府の行政命令による日本語を中心とする言語景観が主流なのは何故なのか。それは目先の商業利益としてではなく,むしろイメージアップを目的とした未来志向の日系企業誘致のための宣伝広告なのである。
田中, 卓史 TANAKA, Takushi
日本語のように語順のゆるい言語を形式的に取り扱うための第一段階として,語順を全く持たない言語(集合型言語)を定義し,その言語を計算機上で生成・解析することのできる確定節文法DCSGを提案する。 DCSGを用いると論理プログラミングにおいて陥るある種のループの問題を構文解析の問題に帰着して容易に解決することができる。次にDCSGを集合の変換規則としてとらえ,逆変換のためのオペレータを導入する。このオペレータは確定節文法の下降解析の過程において部分的な上昇解析を可能にする。DCSGはデータ集合の中に構造を見出す種類の問題や事象に従って状態が変化するような問題を一般化された構文解析の問題に帰着して効果的に取り扱うことができる。
新井, 庭子
「教科書は知識体系を伝えるためにどのような言語表現を用いており,それらは教育段階に応じてどのように変化するのか」というリサーチクエスチョンをたて,それに答えるために小学校5年生から中学校2年生の理科教科書を実証的に分析した。学校教育で主要な教材である教科書は,ある専門分野の概念体系を理解させることを意図して,しかもそれを可能にするように書かれたテキストと位置付けられている。しかし,教科書の言語表現が実際にどのような様態であるかを知識を伝えるという役割を考慮して実証的に示した研究はない。分析に際して,知識を構成する言語表現という観点から,概念体系の示され方(前提,概念,概念同士の関係)に着目して分析を行った結果,小・中間で概念体系に関する言語表現の構成が大きく異なるとわかった。前提に関する言語表現が中学で激減し,概念や概念同士の関係に関する言語表現が顕著に増加することが観察された。
梶村 光郎 村上 呂里 Kajimura Mitsuro Murakami Rori
研究概要:本研究は、「言葉」、「教育」、「文化」、「地域」、「国家」というキーワードを手がかりにしながら、日本本土とは異なる歴史を歩んできた沖縄の言語教育(国語教育を含む)の歴史を示して、従来の国語政策を背景とする本土中心の国語教育史像の相対化を試みようとするものである。報告書に収録した5本の論文は、いずれも新しい資料を発掘しながら、地域沖縄の言語文化や言語教育の実態を解明するという成果があり、従来の沖縄の言語教育史研究に新しい知見を加えたり、先行研究に訂正を求めるものでもある。5本の論文名は、次のとおり。 1.村上呂里「地域の言語文化と近代学校 -八重山地域における近代学校出立の頃-」 2.梶村光郎「沖縄の標準語教育史」 3.梶村光郎「宮良當壮と『日本の言葉』」 4.梶村光郎「沖縄の作文教育運動 -沖縄作文教育協議会を中心に-」 5.村上呂里「戦後沖縄『学力問題』における『言語問題』 -上村(1978)を中心に-」これらの論文によって、沖縄の言語教育史の全体像への接近が進み、従来の国語政策を背景とした本土中心の国語教育史像の相対化の試みが、今後なされていくであろう。
長屋, 尚典 鈴木, 唯 榎本, 恵実 NAGAYA, Naonori SUZUKI, Yui ENOMOTO, Emi
国立国語研究所における移動事象に関する通言語的プロジェクト(Motion Event Descriptions Across Languages,略称:MEDAL)は,移動事象表現の通言語的および個別言語的なバリエーションを研究する共同研究プロジェクトである。このプロジェクトの目的の1つは,ビデオを使った産出実験を行うことで,移動の経路が通言語的にどのようにコード化されているのかを解明することである。本論文では,典型的な経路主要部表示型言語といわれてきたトルコ語を対象にその実験を行った結果を報告する。この論文のもっとも重要な発見のひとつは,トルコ語が経路をコード化するときに経路の種類に応じてコード化のバリエーションを示すことである。経路FROM, TO.OUT, TO.IN, THROUGH, PAST, VIA.UNDER, VIA.BETWEEN, AROUND, ACROSS, UP, DOWNにおいては経路主要部表示型の表現パターンが支配的であるものの,経路ALONG, TO, TOWARDにおいては経路主要部外表示型の表現パターンが優勢である。こうして,本論文は,トルコ語の経路表示のパターンについてより細やかな一般化が必要であると指摘し,経路が違えば経路表示も異なるという事実に注目するべきであると主張する。この論文ではさらにトルコ語と他の言語の対照言語学的な違いについても言及する。
Miyahira Katsuyuki 宮平 勝行
民族誌学によるコミュニケーション研究に基づいて,本稿では言語行動にあらわれる文化的シンボルがどのような働きをするのかを考察する。特に,言語行動がどの様に社会変化もしくは文化変容を促すのか,事例研究の比較分析を通して変化構造の一端を解明することが本論の目的である。ウエスタン・アパッチ(米国)とサプラ(イスラエル)の言語行動を事例として挙げ,奥深い意味を持つ文化的シンボルが深層で複雑に相互作用する過程を詳しく調べてみた結果,言語共同体に特有な「話しことば」は社会変化あるいは文化変容の重要な媒体であることがわかった。社会の変化は言語共同体に特有なコミュニケーション行動による第一次テクストと代替テクストの相互作用や,それに基づくアイデンティティーの再認識と創出の繰り返しの中で遂行される。こうしたコミュニケーション行動の具体例としては,コードの切り替え(Code-Switching)や話しことばの儀式(Communicative Rituals)が挙げられる。従って,コードの切り替えや話しことばの儀式に注目してコミュニケーション行動を分析すれば,特定の言語共同体における話しことばの文化的意味を発見する大きな手がかりが得られることを本稿では論証する。
Palanisami, K. Ranganathan, C. Senthilnathan, S. 梅津, 千恵子 Palanisami, K. Ranganathan, C. Senthilnathan, S. UMETSU, Chieko
インドの農業は気象、特に降水量の変動に大きく影響を受ける。インド亜大陸の降水量の80%は6月から9月の3ヶ月間に起こり、南西モンスーンとなる。旱魃がある地域で問題となる一方、洪水も別の地域で人間生活と農業にとって被害を及ぼし、平均的に氾濫しやすい土地の約3分の1は農地である。洪水となる過剰な雨量、不作をもたらす旱魃、財産に損害を与えるサイクロン等、気候の負の影響へは迅速な対応が求められる。その時々に気候の影響に対する社会の対処能力が試される。歴史的に社会の対処能力は地域的に試されてきており、社会は気候の変動にレジリアンスを持つ様に適応してきた。
中渡瀬, 秀一 加藤, 文彦 大向, 一輝
言語資源データの引用情報調査に基づいて、そのデータを活用した研究文献の発見可能性について論じる。このために言語処理学会年次大会発表論文集を対象として「現代日本語書き言葉均衡コーパス」などの引用情報を調査した。本稿ではその結果と今後の課題について報告する。
金城 克哉 Kinjo Katsuya
本論文は、近年注目を集めているコーパス言語学の概要を示し、同時に言語教育への応用とフリーソフトウェアを用いた分析方法を紹介するものである。コーパス言語学は、コーパスを利用して言語分析を進める研究方法の分野として近年盛んに議論され、様々な論考もすでに多くある。ここでは短いながらもどのような研究分野があるのか、それが日本語教育と英語教育にどのように応用できるのか、また実際の分析はどのようにすればよいのかを論じる。★description追加で→ この論文は「欧米文化論集」(第58号2014年p27-49)に掲載された論文を査読し、「九州地区国立大学教育系・文系研究論文集」Vol.2、 No.1(2014/10)に採択されたものである。
山崎, 誠 鈴木, 美都代
1.コーパスとは元来,言語分析のために集められた言語資料を意味するが,近年の日本語研究においては,とくに,コンピュータで取り扱うことを前提にした大規模な電子化データをさすようになってきた。
川端, 良子
対話において、相手が知っているかどうか不確かな対象に言及する際、話し手はどのようにその対象を対話に導入するのだろうか。本研究では『日本語地図課題対話コーパス』を用いて、特定の対象が最初に対話に導入される際の言語活動の分析を行った。本稿は、(1)発話機能、(2)相互行為、(3)言語形式の3つの観点からその言語活動の特徴を報告する。
長田, 俊樹
小論の目的はこれまでのムンダ語族の比較言語学研究を概観することである。まず、ムンダ語族の分布と話者人口、およびそれぞれの言語についてのこれまでの研究を紹介する。そして比較言語学研究のうち、さいしょに音韻論について述べる。とくに、母音についてはいろいろと議論されてきたので、母音を中心にみる。次に形態論、統語論、語彙論について述べる。その際、インドの他の語族との関連を中心に論ずる。さいごに、オーストロアジア語族とムンダ諸語について、ドネガンらの研究を中心に述べる。
Miyahira Katsuyuki 宮平 勝行
普遍的な発話行為のひとつとして唱えられた依頼行為(directive)については、多くの言語共同体における比較談話研究から、その表現上の多様性が明らかにされてきた。言語共同体に特有な依頼行為から推察される、文化的に規定された自己、対人関係、そして権力構造などについても多くの論考が存在する。異文化コミュニケーションにおいては、このような文化的特色を持つ総体が複数存在することから、談話を通して依頼行為の表現と意味の違いに関する相互調整が必要となる。そこで本稿では、従来の比較談話研究の結果を考察することによって、異文化コミュニケーションにおける依頼行為の研究の理論的立脚点をまとめてみた。考察の結果は四つの論点にまとめられる。(1)異文化コミュニケーションの研究では、発話者と聞き手の能力や態度、権利、義務などに関する語用論上の条件を当然のものとして受け止めず、意識的に分析することによってまず依頼に関する異文化間の類似点と相違点が明らかになる。(2)依頼行為の最も基本的な誤用論的特徴はその直接性と間接性にある。(3)依頼表現を直接-間接という連続体の上で捉えることによって、顕著な依頼表現の特徴を見出すことができる。このようにして明らかにされた依頼表現の誤用論的特徴は、背景にある文化特有の意味を発見し、それを的確に解釈する手がかりとなる。(4)異文化コミュニケーションで必要な依頼行為の相互調整の方法とそこから推察できる自己や対人関係の文化的な解釈には、直接-間接という連続体での駆け引きを考察することがひとつの有効な方法である。
安元 悠子 Yasumoto Yuko
本研究では、沖縄県のある国語教師へのインタビューデータを事例に、現在消滅の危機に瀕している琉球諸語について、言語イデオロギーという観点から帰納的に捉えることを試みた。インタビューによって個人の明示的な言語イデオロギーを引き出し、それを質的手法によって分析することにより、標準語イデオロギーと地域言語への帰属意識がどのように交差し、矛盾や葛藤を生み出しているのかを明らかにした。
荘司, 響之介 曹, 鋭 白, 静 馬, ブン 新納, 浩幸 Syouji, Kyonosuke Cao, Rui Bai, Jing Ma, Wen
文書分類のタスクを教師あり学習で解く場合、大量のラベル付きデータ(教師データ)が必要であり、このデータの構築コストが高いという問題がある。ただし、英語などのメジャーな言語に対しては、ラベル付けされたデータが既に存在していることも多い。この場合、英語側では分類器を学習できるため、その学習できた知識を、タスクの対象となっている言語側へ転移できれば、ターゲット言語での教師データを利用せずに、分類器を構築することができる。本論文ではそのような転移を行うためにBERTを用いる。具体的には、英語BERTを用いて英語の訓練文書をベクトル化し、それをもとに分類器を学習する。次に、ターゲット領域の文書となる日本語の文書を、日本語BERTを用いてベクトル化する。あらかじめ学習しておいた2言語間のBERTの変換器を用いて日本語の文書ベクトルを英語のベクトル空間に埋め込み、先の分類器によって識別する。これによって、ターゲット言語である日本語の訓練文書を利用せずに、日本語の文書の感情分析が可能となる。
長嶋, 祐二 原, 大介 堀内, 靖雄 酒向, 慎司 渡辺, 桂子 菊澤, 律子 加藤, 直人 市川, 熹 WATANABE, Keiko KATHO, Naoto
手話は言語であるにもかかわらず、音声言語と比べて言語学、工学を含む関連諸分野での研究が進んでいない。本稿では、各個分野における手話研究および学際研究の推進を目的とした、様々な分野の研究者が共通に利用できる汎用的な日本手話の語彙データベース作成について報告する。言語学者の望むデータ形式と、工学や認知科学の分野で望むデータの形式は異なることが予想される。多分野での利用を可能にするためには、分析や解析内容に応じて手話の多視点の画像、3次元動作データ、深度画像など様々なデータ形式を含むことが望まれる。さらに、時間軸上で同期したこれらのデータを、各分析者が得意とするデータ形式で解析することを可能にする。データベース上の様々な形式データを同期解析できるアノテーション支援システムも開発する予定である。これにより、様々な視点からの同一手話の解析が可能となり、手話言語に関する新たな知見が得られることが期待できる。
Goya Hideki 呉屋 英樹
心的辞書に関する研究において、我々の語彙知識は意味的に結びついていると言われている。またプライミングに関する研究では、word-sense (Finkbeiner、2002)は母語話者の語彙使用に影響を与える事が分かっている。このことより、心的辞書における語彙は、word-sense が共有される事によって結びついていると考えられるが、これまでの意味判断実験において、word-sense は十分に研究されているとは言えない。その上SLAに関する研究では、母語話者の語彙知識は十分に熟達しているので、意味判断実験において統計的な差異を示さないと考えられたまま、word-sense を含まない実験結果において第二言語話者の語彙知識の熟達度の基準となっていた。本実験ではword-senseを統制した語彙のベアを用い、母語話者(n = 20)の意味判断実験での意味処理を観察した。被験者はコンピューターによる反応速度を測る実験(オンライン実験)で、同義語の組み合わせ(n = 39)が意味的に似ているかどうかの判断を行った。結果として被験者の意味判断の正確さに統計的な差は観察されなかったが、意味的に似通ったペアに対しては意味判断が統計的に遅かった。以上の結果はword-senseに関する実験の方法論的発展を示唆している。それは、(1)心的辞書内の語彙は意味的に組織され、(2)共有されるword-senseの数の差は、母語話者の意味判断の語彙処理に影響を及ぼさない、という事であった。以上の結果は意味判断実験を用いる母語研究と第二言語習得研究において、被験者の語彙能力を評価する際の基準となるであろう。
浅野, 恵子 陳, 森 Asano, Keiko Chen, Sen
同じ音声的及び音響的特徴をもちながら、文化や気候風土によって変化する音声行動があり、無意識に行われているものが少なくない。その一つとして、/m,n/などの有声鼻音の音声特徴は自然発話としては一般的であり、それをさらに上咽頭に響かせる音の「ハミング」がある。日本語では「鼻歌」と呼ばれている。他言語が理解できなくても音声行動としては個別言語の域を超えて普遍的に発せられる声音である。日常の発声時行動様式が文化的・言語別にどのように呼ばれているか、またいつから使われているかを日・中・英・米語の各言語のコーパスを比較し、初めて使用された時期や当時の意味などから推移を分析する。
與那原 建 Yonahara Tatsuru
競争戦略論の発展については、持続的競争優位の源泉として何に注目しているかという軸と、アプローチの性格という軸で分類・整理することができる。本稿では、これらの軸にしたがって区分された競争戦略論の主要なアプローチを概観するとともに、競争戦略論の統合化に向けた有望なアプローチとされるダイナミック能力論の代表的研究を検討することで、その学問的可能性を探っている。
Yoshii Koichi 吉井 巧一
主としてアメリカのオハイオ・ペンシルバニア両州を中心に、現在およそ十万人程の「アーミッシュ(Amish)」と呼ばれる人々が集団生活をしている。宗教的迫害を避けるため、遠くスイスあるいはドイツから集団で新天地を求めアメリカ大陸に渡ってきた彼等は、現在も聖書の教義を厳守し、自動車やテレビを所有せず、広大な農場を16世紀さながらに馬で耕しながら、厳格なキリスト教徒として質素な生活を営んでいる。そのライフスタイル・価値観・世界観等は、一見正にアナクロニズムそのものに見えるが、我々現代文明人(?)が失いつつある「人間としての生活に必要不可欠なもの」とは何か、という素朴な疑問へのヒントが彼等の生活から窺える。\n彼等は聖書の言語としてドイツ語を、日常コミュニケーション言語としていわゆるペンシルバニア・ダッチ(Pennsylvania Dutch/German)を、更に自分たちのコミュニティー外の人々(Auslaender)とは英語を話す、3言語併用社会を形成している。いわゆる正書法を持たない、話し言葉としての機能中心言語であるペンシルバニア・ダッチを考慮し、当初は音声面の言語調査を意図していたが、予想通り厳格なOld Order Amishのインフォーマントからは録音機器使用の了解を得ることはできなかった。そこでそれぞれの言語をどのように修得し、使い分けているのか、また互いの言語干渉の度合はどの程度のものかを中心課題に、彼等の独特な文化を探りつつ、聞き取り及び筆記による調査方法でのフィールド調査を行った。
迫田, 久美子 SAKODA, Kumiko
第二言語習得研究には,学習者の言語データが不可欠である。「学習者の言語環境と日本語の習得過程に関する研究」のサブプロジェクトでは,日本語学習者の言語コーパス,C-JASを開発した。本稿は,C-JASの特徴とC-JASによって観察された動詞の発達について報告するものである。C-JASの特徴は,中国語母語話者3名,韓国語母語話者3名の3年間の縦断的発話コーパスであり,形態素タグと誤用タグが付与され,システム検索できる点にある。C-JASで動詞「思う」と「食べる」の時期ごとの初出形を分析した結果,日本人幼児の第一言語習得と類似した現象と異なった現象が観察された。前者では,動詞の基となる形(例「思う」)に新たな要素が付加され,新しい形(例「思うから」)が使われること,後者では初出形に日本人幼児は普通体,学習者は丁寧体が多く使用されることがわかった。また,動詞の発達段階で,学習者特有の「動詞普通体+です」(例「思ったです」)の中間言語形が出現し,「動詞普通体+んです」(例「思ったんです」)の過渡的段階の形式であると推測された。
永田, 良太 NAGATA, Ryota
複文とあいづちをはじめとする聞き手の言語的反応に関しては,文(発話)を産出する話し手と文(発話)を理解する聞き手の観点からそれぞれ研究が行われ,その構文的特徴や談話における機能がこれまで明らかにされてきた。本稿においては,そこでの研究成果に基づきつつ,談話の中で観察することにより,次の2点を明らかにした。Ⅰ.従属節末と主節末とでは聞き手の言語的反応が異なる。Ⅱ.従属節末における聞き手の言語的反応は従属節の従属度と密接に関わる。従属節末に比べて,主節末では情報の充足を前提とした聞き手の言語的反応が多く生起する。また,同じ従属節末でありながら,B類のタラに比べてC類のケドやカラの従属節末には多くのあいづちが見られ,その中でも理解や共感を示すあいづちが特徴的に見られる。これには複文という文の形やC類の従属節が持つ情報の完結性という特徴が関わっており,複文発話に対する聞き手の言語的反応は発話の構文的特徴と密接に関わると考えられる。
新城 直樹 蔡 梅花 金井 勇人 Arashiro Naoki Cai Meihua Kanai Hayato
本稿では中韓母語話者が執筆した日本語作文における比喩表現の特徴を検討し,日本語教育ではどのような点に留意すべきかについて考察した。具体的には「中韓母語話者による逐語訳つき日本語作文コーパス」から抽出した作文データを資料に,指標比喩・結合比喩・文脈比喩という3分類に基づいて,比喩表現について分析した。一般に,比喩は母語に根差した性質を持つと考えられ,他の言語の母語話者にも問題なく理解されるとは限らない。このような理解不可能性を「言語間ハードル」と呼ぶとすると,指標比喩・結合比喩には「言語間ハードル」を乗り越える性質が内在している一方,結合比喩はそうではない,ということを明らかにした。その結合比喩のうち,特に「言語表現は同じだが,概念基盤が異なる」ケースに誤用が起きやすい。したがって他言語で比喩を書く場合には,特に結合比喩に留意すべきである,と本稿では結論した。
鑓水, 兼貴 YARIMIZU, Kanetaka
「首都圏の言語」を考えるうえで,関連する概念や用語は多くあるが,類似したものが多く複雑である。そのため本論文では用語整理は志向せず,考察に必要な観点を中心にまとめた。1980年代以降,伝統方言形が衰退し,新しい方言形が注目されるようになると,単純な共通語化モデルから,修正モデルが提唱されるようになった。研究背景として社会言語学の概念の導入や,社会における人口構造の変化などが影響している。東京における言語現象を考える場合,かつての「江戸」である「東京」の中心地域は非常に狭い範囲である。従来の山の手・下町と呼ばれる地域も,隣接地域に拡大している。そのため「東京」よりも「首都圏」と考えるのが適当である。言語的特徴についても東京とその隣接地域は連続的である。移住者の多い首都圏では,人口構成上,伝統方言が継承されにくい。こうした「首都圏の言語」を理解するための観点として,「標準語・共通語」「公的・私的」「方言・俗語」「意識・無意識」「理解・使用」の5つがあげられる。これらの観点をふまえ,新しい方言形を説明する術語として提唱された「新方言」と「ネオ方言」の考えを,「首都圏の言語」に適用することにより,より深く考察することが可能になる。
笹澤 吉明 Sasazawa Yosiaki 喜屋武 玲菜 Kyan Reina 姜 東植 Kang Dongshik 小林 稔 Kobayashi Minoru
沖縄県女子サッカー選手の競技力向上に向けて,全国強豪校とのスポーツキャリア・競技環境・心理的競技能力の三点の相違を明らかにすることを目的とする。対象は沖縄県予選大会の過去5年間に上位成績を収めた6校130名及び,全日本高等学校女子サッカー選手権大会の過去5年間に上位成績を収めた5校195名である。オンラインによるアンケート調査を行い,スポーツキャリア,競技環境,心理的競技能力(DIPCA.3)のデータを収集した。その結果,スポーツキャリアにおいては,沖縄は61%が高校からサッカーを開始しているのに対し,全国は97.5%が小学校からサッカーを開始し,中高と継続していた。競技環境は,沖縄は94%が土のグラウンドで練習を行っているのに対し,全国は43%が芝で練習を行っており,リーグ戦の試合数も沖縄は年間5~10試合が66.1%に対し,全国は10~15試合が32.1%,15~20試合以上が40.1%と公式戦も含め年間の試合数に大きな差がみられた。心理的競技力は,DIPCA.3の総合得点,競技意欲,自信については全国が沖縄より高得点を示したが,リラックス能力を含む精神の安定においては全国よりも沖縄が高得点だった。沖縄県女子サッカー選手の競技力向上には,小学校から継続できるサッカークラブの普及,芝のグラウンドでの練習環境の整備,競技意欲,自信などの心理的競技力の向上が示唆される。
Yamauchi Susumu 山内 進
クローズ法は読解力あるいは総合的語学能力を容易に、しかも客観的に測定できる可能性を持つテスト方式として最近日本でも論議されるようになったが、日本人英語学習者を対象とした実験報告はまだ十分とはいえない。本論文では特にクローズ法の文章難易度識別力及び受験者の英語能力識別力という二種類の識別力について、琉大生一年次の学生81名を対象として行った実験結果を報告し、クローズ法の持つ特性について論じた。クローズテストは初級、中級、上級のテキストから5語毎に単語を消去するスタンダード型でそれぞれ50のクローズ項目を作成、適語法により採点を行った。これらのクローズテストの信頼性係数は、KR-20の公式では平均 .80でありKR-21では平均 .71であった。上記の三つのテストを総合して信頼性係数を算出したところ、KR-20では .90で、KR-21では .86という非常に高い数値が得られた。更に基準関連的妥当性として大学入試センターテスト(英語)との相関を調べたら、三つのクローズテスト間とは平均で .56であり、全体との相関は .62というかなり高い相関関係が見られた。文章難易度識別力については、三つのテストの平均はそれぞれ、33.56、30.37、20.40でありこれらの平均値の差は、初級と中級でp<.05レベルで有意、初級と上級、中級と上級間ではp<.01で有意であり、クローズ法が高い識別力を持つことが判った。又、受験者の英語能力識別力についてもきわめて満足すべき結果が得られた。即ち、受験者をセンターテストの得点で上、中、下位のグループに分け、それぞれのグループが上記の三つのテストで得た点数を分析したら、初級、中級、のテストではp<.01で各グループ間に有意差が見られ、上級のテストでは3グループのうち2グループ間でp<.01レベルで有意差があった。従って、クローズ法は、受験者の英語能力を極めて高い確率で識別できるという結果が得られた。
宇佐美, 洋 USAMI, Yo
日常の社会生活において,他者の言語運用を評価する際,個人が準拠している価値観は人によって千差万別であり,このため同一の言語運用に接した時でも,その評価の結果は大きくばらついている。異なる言語的・文化的背景を持つ者同士が円滑な人間関係を作っていけるようになるためには,自らが準拠する評価価値観のあり方を自覚すると同時に,他者の価値観を尊重できる態度が重要であり,そうした態度を養成するための教育システムの開発が求められている。本論ではそのための基礎研究のひとつとして,日本語母語話者が非母語話者の言語運用を評価するという場面を取り上げ,そこに見られる評価プロセスをモデル化して表現する,という試みを紹介した。
東条, 佳奈 黒田, 航 相良, かおる 高崎, 智子 西嶋, 佑太郎 麻, 子軒 山崎, 誠 Tojo, Kana Kuroda, Kou Sagara, Kaoru Takasaki, Satoko Nishijima, Yutaro Ma, Tzu-Hsuan Yamazaki, Makoto
医療記録データには、複数の単語が連結された合成語が多く存在する。そのため、自然言語処理を効率的に行うためには、合成語の語構成や、それらの構成要素の意味に着目し、合成語の構造を明らかにする必要がある。しかし、医療記録は非公開という資料的特質のため、言語学的な調査があまり行われてこなかった。また、医療関係者における意味のある言語単位も定まっておらず、整理の必要があった。こうした背景に基づいて作成した言語資源が『実践医療用語_語構成要素語彙試案表 Ver.2.0』である。本試案表は、『実践医療用語辞書ComeJisyoSjis-1』より抽出した合成語より作成した『実践医療用語_語構成要素語彙試案表Ver.1.0』を更新したもので、7,087語の合成語について、それぞれを構成する語構成要素6,633種と、語構成要素に付与した意味ラベル41種を収録している。本発表では、Ver1.0からの変更点と、本言語資源の特徴、意味ラベルに注目した語構成要素について概観を行った。
児玉, 望
筆者は十五年間、ドラヴィダ語学を学んできた。そこでドラヴィダ言語学の立場から、大野説を検討した結果、次のような問題点が明らかとなった。
簡, 月真 CHIEN, Yuehchen
宜蘭クレオールは台湾で話されている日本語を語彙供給言語とするクレオール語である。台湾東部の宜蘭県においてアタヤル人及びセデック人の第一言語として使われているが,若い世代では華語へシフトしつつあり,消滅の危機に瀕している。本稿は,この言語の格表示に焦点をあて,その特徴を記述するものである。宜蘭クレオールでは,語順及び後置詞を格表示として用いている。具体的には,主語と直接目的語は語順,間接目的語とその他の項は5つの格助詞「ni, de, to, no, kara」によってマークされている。これらの格標識は上層言語である日本語由来のものであるが,そこには異なった用法が存在し,単純化への変化が認められる。また,niの意味用法の拡張なども見られ,独自な格表示のシステムが作り上げられている。
長野, 泰彦
ギャロン語は中国四川省西北部に話されるチベット・ビルマ系の言語である。
国立国語研究所 The National Language Research Institute
戴, 庆厦 田, 静
土家というエスニックグループの言葉は,危機に瀕している言語である。
大西, 拓一郎 ONISHI, Takuichiro
方言の分布は時間の流れの中で変わるものなのだろうか。方言が言語である以上,方言も変化する。そのような言語変化が発生すれば,分布もそれに応じて変化する。その変化は徐々に中央から周辺部に拡大するものと考えられてきた。ところが,実際にとらえられている分布変化は,急速で一気に拡大するものである。その一方で時間を経てもなかなか変化が起こらないこともある。これらは伝達の道具としての言語の性質ゆえのことと考えられる。このように分布変化を追うことで方言の形成という方言学の究極の目標に迫る。
鄭, 惠先 JUNG, Hyeseon
本稿では,方言を役割語の一種として定義した上で,日韓両国での方言意識調査を通して,役割語としての両言語方言の共通点と相違点を具現化した。最終的には,日韓・韓日翻訳の上で,両言語方言を役割語として有効活用することが本研究の目的である。考察の結果,以下の4点が明らかになった。1)両言語母語話者の方言正答率から,韓国の方言に比べて日本の方言のほうで役割語度が高いことが予想される。2)「共通語」対「方言」の対比的な役割語スタイルは,両言語母語話者の方言意識の間で共通している。3)「近畿方言」と「慶尚方言」の間には共通する役割語スタイルが見られる一方で,一部のステレオタイプの過剰一般化が役割語度アップを促進していると推測される。4)「東北方言」と「咸鏡・平安方言」の間には共通する役割語スタイルが見られる一方で,「東北方言」に比べて「咸鏡・平安方言」の役割語度がきわめて低い可能性がうかがえる。以上の結果をもとに,両言語方言の役割語としての類似性を巧く生かすことで,より上質の日韓・韓日翻訳が実現できると考える。
吉満 昭宏 浜崎 盛康 Yoshimitsu Akihiro Hamasaki Moriyasu
本稿は、L. ライトの「診断的論証」を紹介し、そこでの非言語的要素について論じる。まずは論点を設定し、背景としての彼の哲学について触れる(第1 節)。次に、彼独自の診断的論証について紹介し(第2 節)、そこでの非言語的要素の扱いについて見ていく(第3 節)。最後に、診断的論証の哲学的意義を考察し、今後の展望を提示して論文を締めくくる(第4 節)。
宇佐美, まゆみ
「談話(discourse)」という用語がよく聞かれるようになってかなりの年月が経つ。「談話研究(discourse studies)」という用語は、1970年代頃でも、言語学のみならず、心理学、哲学、文化人類学などの関連分野でも使われてきたが、最近では、学際的研究のさらなる広がりの影響を受けて、政治科学、言語処理、人工知能研究などにおいても、それぞれの分野における意味を持って使われるようになっている。本稿では、まず、「談話」という用語が言語学に比較的近い分野においてどのように用いられてきたかを、1960年代頃に遡って、7つのアプロ―チに分けて、概観する。また、「談話分析」や「会話分析」と「第二言語習得研究」、「語用論」、「日本語教育」との関係について簡単にまとめる。さらには、1980年代以降のさらなる学際的広がりを受けての「政治科学」や「AI(人工知能)研究」における用語の用いられ方にも触れ、それらの分野との連携の可能性についても触れる。
野田, 尚史 NODA, Hisashi
このサブプロジェクトは,(i)のような考えから出発している。(i)本当の意味で日本語教育を言語の教育からコミュニケーションの教育に変えるためには,日本語教育のための研究も言語の研究からコミュニケーションの研究に変える必要がある。 日本語教育のためのコミュニケーション研究というのは,具体的には(ii)から(iv)のような研究である。このサブプロジェクトでは,これからこのような研究を進めていく。
大石 太郎 Oishi Taro
この小論では、カナダ東部ノヴァスコシア州におけるフランス語系住民アカディアンの居住分布と言語使用状況を現地調査とカナダ統計局のセンサスに基づいて検討した。その結果、農村地域に古くから存在するアカディアン・コミュニティでは英語への同化に歯止めがかかっているとはいえない一方で、郁市地域であるハリファクスでフランス語を母語とする人口や二言語話者が増加していることが明らかになった。これまで教育制度の整備などの制度的支援の重要性が指摘されてきたが、カナダの場合、農村地域に古くから存在するフランス語系コミュニティには遅きに失したと言わざるをえない。その一方で、都市地域が少数言語集団にとって必ずしも同化されやすい地域ではなくなりつつあることが示唆された。
八木, 公子 YAGI, Kimiko
教師の言語教育観は,自身の教育実践に反映されるとともに,教師が自己の教育実践を振り返る際の自己評価の基準としても働く。その意味で,教師が自己の言語教育観を客観的に把握し,検討し続けることは重要である。本稿では,119名の現職日本語教師に対する質問紙調査の結果をもとに,現職日本語教師の良い日本語教師像とそこに見られる言語教育観,自己評価基準を分析した。因子分析の結果,「授業技術」「学習者支援」「関係知識」「授業への意欲」「授業直結知識」の5因子が抽出されたことから,これらが,現職日本語教師の考える良い日本語教師像の枠組みであり,また,自己の教育実践を評価する際の基準であると考えられる。
松田, 謙次郎 MATSUDA, Kenjiro
Seifart et al.(2010)およびSeifart(2011)は名詞・代名詞・動詞の談話中における相対頻度数(NTVR)が言語内で,また言語間でも大きな分散を示し,類型論的に興味深い分布を示すものであることを明らかにした。ここでは岡崎敬語調査(国語研1957, 1983, 阿部(編)2010, 西尾他(編)2010, 杉戸2010a, 2010b, 松田他2012, Matsuda 2012, 松田他2013, 井上・金・松田2013)の回答文に形態素解析を施したデータを分析することで,(1)NTVR が回答者の加齢に影響を受けずほぼ一定の値を保っており類型論的指標として信頼しうる安定性のある数値であること;(2)NTVR には性差が見られ男性の値の方が女性の値より高いこと;(3)この性差が敬語補助動詞の使用頻度の性差によるものであると考えられること,の3点を主張する。NTVRは生涯変動を見せない安定した指標であるが,NTVR算出を目的とした談話データの使用に際しては,当該言語の社会言語学的変異にも配慮する必要がある。また,この研究は形態素情報付き岡崎敬語調査発話データの有用性の一端を示すものであり,こうしたデータの活用によって,岡崎敬語調査のデータは計画当初考えられていたものよりも遙かに多くの多種多様な言語学的問題に解答を与えることが期待される。
国立国語研究所 The National Language Research Institute
廣瀬 等 廣瀬 真喜子 Hirose Hitoshi Hirose Mkiko
大学生を被験者として、漢字の読みの記憶における認知スタイルの影響を検討した。認知スタイルは、漢字の読みに深く関係していると思われる、Richardson(1977)において提案された言語型-視覚型を取り上げ、認知スタイルと漢字の読みの記憶量の関係をみた。漢字の読みの記憶については、直後再生と50分後に遅延再生を行わせ、それぞれの記憶量、およびその変化を考察することにした。分析の結果、視覚型と言語型の被験者では、直後再生時の読みの記憶量にはそれほどの違いはないものの、遅延再生時の記憶量は、視覚型では低下し、言語型では保たれていることが示された。これらの結果は、被験者の記憶方法の自由記述からも、視覚型では視覚的な全体イメージから漢字を捉えて読みを記憶しようとするのに対し、言語型では部首などに着目して分析的に漢字を捉え読みを記憶しようとした記憶方法の違いが反映したものであると考えられた。そして、遅延再生時において視覚型の「全体的なイメージ」は薄れてしまったのに対し、言語型の「分析した情報」は有効に機能し続けていたものと考えられた。
西原, 鈴子 NISHIHARA, Suzuko
談話のまとまり,自然な流れを形成する言語的手段である結束性とは具体的にどのようなものであるか,異言語間のコミュニケーションにおいてそれがどのように移行するかを検討した。結束性の表出手段として提案されている五点の中から,(1)指示,(2)省略,(3)語彙,の三点を選び,日本語と英語の相互翻訳例を資料としてそれぞれの表出方法の差異を知ると共に,伝達の問題点を指摘した。
松下, 晶子 丸山, 岳彦 MATSUSHITA, Shoko
現在、「日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアム」により、1950年代以降のテレビドラマの脚本を収集し、それらを体系的に保存・アーカイブ化する活動が進められている。脚本は、「話されることを前提とした書き言葉」という点で特徴的な書き言葉であるが、これまでの言語研究の中で顧みられることは少なかった。収集した脚本をコーパス化して定量的に分析することにより、新たな言語学的利用の可能性が開かれると考えられる。そこで本発表では、脚本のテキスト化・コーパス化を試験的に実施した経緯を述べ、そのデータを使ってどのような言語研究が可能になるかについて論じる。故市川森一氏による、1970年代から2010年代までの脚本、32作品をテキスト化し、パイロットスタディを実施した。このような分析は、近現代における言語の短期的な変化の研究、ある作家の作品に関するコーパス文体論的研究などにつながると考えられる。
熊谷, 智子
言語行動をストラテジーの組合せとしてとらえる観点に立ち、国立国語研究所の調査による資料をもとに、ある依頼の場面に関する分析を行った。その結果、以下の所見が得られた。
名嶋 義直 Najima Yoshinao
日本語教育は,「他者と共に生きる人」の育成を目指す民主的シティズンシップ教育にいかなる貢献をすることができるだろうか。民主的シティズンシップ教育を視野に入れた日本語教育が可能かどうかに焦点を当て,政治的な内容のテクストを使ってケーススタディを行った。宜野湾市長選をめぐる新聞記事を批判的談話研究の姿勢で分析したところ,字義的な表面的意味を理解するだけでは見えてこない特徴を明らかにすることができた。分析や考察において中立性を保つことも可能であった。教室活動として行えば,批判的な読解力・批判的な思考力などが育成されるであろう。留学生と日本人学生とが共習する授業であればお互いの読みを共有し,共に考え議論することで相乗効果も見込める。それは「他者と共に生きること」を目指すために必要な調整能力,政治能力を伸ばすことにつながる。批判的談話研究の視点を取り入れた活動は民主的シティズンシップ教育に貢献できる。日本語教育にも取り入れるべきである。
岩橋 法雄 Iwahashi Norio
ニュー・レイバーは、弱者への援助としての能力向上施策を強力に遂行してきた。これが教育を第1のプライオリティとしたブレア労働党政権の教育政策である。しかし、その本質は、あるがままの弱者に対する社会的公正の観点からの富の再分配的支援というよりは、富を自分で勝ち取らせるための支援の推進である。このいわゆるハンズ・アップ (hands-up) 支援は、機会の提供という「支援」を通じて自助を費用効果において組織しようとするものであり、結果としての「到達」の不平等の存在は自己責任というイデオロギーを必然として伴うものである。こうしてサッチャーからの「旅立ち」に映ったブレアの被剥奪者への配慮の思いは、そのレトリックとは裏腹に、教育を通じて被剥奪者の内の「有能」者を能力主義的価値観の社会に「包摂」する(「動員」する)側面にますます転化し始める。よって、その「社会的包摂」は、公正を旨とする平等と決して同じものではない。
仲原 美奈子 神園 幸郎 Nakahara Minako Kamizono Sachiro
知的障害児は言語の発達の遅れを伴うが、重複して聴覚に障害がある場合、言語発達の遅れは顕著になる。しかし、聴覚障害の感覚の補助手段として補聴器等を装用することにより、保有する聴力を活用することができる。そこで、本研究では、知的障害を含め様々な障害を有する聴覚障害児において、聴覚補償のひとつとして補聴器装用を支援し、聴覚の活用を促すことで言葉の発達へと繋がった事例を報告する。実践においては、聴力を含めた実態把握や保護者の心情理解を踏まえ、対象児の心の動きや思いを大切にしながら周りの状況や行動を常に「言語化」して言葉かけをする「生活の言語化」を指導の基本方針として取り組んだ。また、スムーズな補聴器の装用につながるよう適切な聴力評価と聴覚活用の工夫に配慮した。補聴器装用前は、理解言語の語彙数も少なく1語文での表出が主だった対象児が、補聴器装用後は、多語文で表出するようになってきた。また、保護者からは、「よく言葉がわかるようになった。」「おしゃべりになってきた。」との報告があり、補聴器装用前と装用後の変容から、補聴器装用が対象児にとって有効だったとの結果が得られた。
Delbarre Franck
本論はビュジェー地方に位置するヴァルロメー地域で現在まだ話されている危機言語であるフランコプロヴァンス語のヴァルロメー方言の所有詞と不定詞についての考察である。今回は『ヴァルロメー方言』という書物(2001年出版)のコーパスに基づき、とりわけ該当方言の不定詞の形態とシンタックスを中心に述べる。フランコプロヴァンス語の諸方言については19世紀末から様々な研究が行われたが、戦後はむしろ研究の対象から外れる傾向にあり、現在話されているフランコプロヴァンス語の諸方言についての実態(その話者数や言語使用についてだけではなく、その言語的な発展についてでもある)はあまり知られていない。ここ20年で発行された書物(特に Stich と Martin)は形態論においては様々な情報を与えているが、シンタックス論においては大きく不足しているので、あまり話題にされていないヴァルロメー方言の形態とシンタックスのあらゆる面において研究を始めることにした。『ヴァルロメー方言』におけるヴァルロメー方言の不定詞の形態をまとめて、時折フランス語(本論の執筆者の母語でもあり、言語的にはフランコプロヴァンス語に最も近い言語でもある)の観点からも見ながらその方言の形態とシンタクスについて述べる。このような現代ヴァルロメー方言のシンタクスと形態の記述が試みられたのは初めてであろう。
リュッターマン, マルクス
小論では先行研究を伝授史料と合わせて、非言語的な記号群に限定して日本書札礼の一特徴となる傾向を考察している。一五九四年に布教者ザビエルと日本人パウルスとがインドで出会い、文面を譬喩に、文化の相違点を巡って懇談した。その会話に触発されて、二人がそれぞれ教授された西洋と東洋の伝承を遡って、書簡や文通における非言語的なコミュニケーションの作法史分析を試みる。この分析によって、文化の「面」や型がどのように形成し、とりわけ「行」の縦と横の譬喩はいかなる意味を秘めているか解明してみる。ひいては形式的な場において日本書札礼の非言語的な記号はどのように、且つどれほど人と人との位置の「差」を儀礼的に表現しているか示したい。
相澤, 正夫 AIZAWA, Masao
2007年10月に中国北京日本学研究センターで開催された国際シンポジウムにおいて,最近の日本語研究の新動向の一つとして,「言語問題への対応を志向する日本語研究」の事例を紹介した。国立国語研究所の「外来語」言い換え提案を取り上げることにより,日本語の体系や構造,あるいは日本語の使用実態に関する調査研究を基盤としながらも,さらにその先に日本語の現実の問題を見据えた総合的・実践的な「福祉言語学」の一領域が既に開拓されていることを示した。
Yogi Minako 與儀 峰奈子
アメリカ合衆国ではアフリカ系アメリカ人を巡る様々な問題が存在する。彼等の言語を巡る問題もその1つである。本稿ではアフリカ系アメリカ人英語の音韻的・統語的特徴を考察し、その規則性を明らかにする。そして、アフリカ系アメリカ人が自分達の言語と標準英語の両方を深く理解するためにも、教師がそれぞれの特徴を把握しクラスルームで紹介する必要性があることにも触れる。
長田, 俊樹
筆者は、ムンダ人の言語であるムンダ語を研究するために、インド・ビハール州ラーンチー市に六年あまり滞在した。ムンダ語はビハール州南部、およびそれに隣接するオリッサ州に約七五万人の話者を有する。筆者は在印中、言語データばかりでなく、ムンダ人の民俗誌に関するデータをも収集する機会があった。そこで、できるだけ詳細な民俗誌データを記述するのが本稿の目的である。
Hiratsuka Takaaki 平塚 貴晶
教師主導的実践研究、特に探究的実践活動(EP) (Allwright &amp; Hanks、 2009) が言語教師の教育活動や研究活動にどのような影響を与えるかはあまり知られていない。本研究では、独自に開発されたEPプロジェクトがEFLティームティーチング環境下で働く言語教師の活動、特に彼らのエージェンシーにどのような影響を与えるかを検証した。データは2つの高等学校で働くティームティーチングペア2組から授業観察、ペアデイスカッション、グループディスカッション、EPストーリー、そしてインタビューといった質的手法を通して収集された。その結果、そのEPプロジェクトは先生方の教師・研究者としての主体性を促し、責任感を増幅すること、つまり彼らのエージェンシーを高めることが判明した。本論では最後に言語教師教育に関する提言を行う。
Yogi Minako 與儀 峰奈子
子供の談話力(narrative skill)をつける学習はまず家庭で始まり、正式には学校に入学後 Show &amp; Tell授業のような発話事象(speech events)の中で身につけるものである。Show &amp; Tell 授業は幼稚園から小学校低学年児対象に行われる授業の形態で、他の教室内で行われる言葉のやりとり(classroom interaction)とは異なる。その形態の授業は教師が一人の子供を指名し、次にその子供が教室の前方中央に出て行き、自分の経験したことや家から持って来たある特別な物について話をする。その子供にいろいろと質問をして更に情報を引き出したり、話しを引きのばしたり、子供の話したことについてコメントをする。最後に全員で拍手をして一人の発表は終る。本稿では、Show &amp; Tell 授業における教師の問いかけ(teacher&#39;s questions)と発話のくりかえし(repetitions)を検討し、更に礎づくり(scaffolding)としての Show &amp; Tell Session についても言及する。最後に教室内での言葉のやりとりや Show &amp; Tell 授業が子供達の伝達能力(communicative competence)やその場にふさわしい社会的ルールに基づく能力(social competence)の習得に寄与することについても論じる。
木暮, 律子 KOGURE, Ritsuko
本稿は,母語場面と接触場面の会話における話者交替について,日本語母語話者と日本語学習者が,どのように発話権を取得しているのかをターン冒頭部に見られる発話の重なりから考察したものである。発話権取得時に見られた発話の重なりを,ターンが重なる位置と発話内容から6種類に分類し,その出現傾向と学習者に見られる特徴を日本語能力との関連において分析した。分析の結果,終了見なし型の不一致,割り込み型の調整系と独立系の3つの重なりで母語話者と学習者に量的な違いが見られた。また,重なりが生じた要因は,学習者の日本語能力レベルによって異なり,不一致による重なりは,初級学習者では母語話者が発話の調整を行うため,中・上級学習者では,倒置や言葉の付加を行うために生じていること,調整系の重なりは,初級学習者では確認や訂正を行うため,中・上級学習者では,情報の追加や関連する質問を行うために生じていることが明らかになった。
簡, 月真 CHIEN, Yuehchen
花蓮県在住の8人の自然談話データを分析した結果,その日本語には西日本方言の要素が取り込まれ,否定辞にはナイとンの使用が観察された。一段・カ変・サ変動詞ではナイが専用されているが,五段動詞ではナイとンの両方がみられる。ンは五段動詞の中では特にラ行に使われやすい。個人間の使用実態から,ナイとンが競り合った結果ンは消滅に向かうことがわかり,ンが使用されなくなる順は「一段・カ変・サ変動詞→ラ行以外の五段動詞→ラ行五段動詞」であると推測される。また,日本語がリンガフランカとして用いられるドメインではンの使用がみられ,日本人調査者と話すドメインになるとナイへの切換えが行われることからは,ンがもともと持っていた方言的性質がインフォーマル形式に転換し活用されていることがわかる。そういった切換え能力の有無はインフォーマントの日本語能力とかかわっている。ンは台湾で独自の体系を発達させているのである。
南部, 智史 朝日, 祥之 相澤, 正夫 NAMBU, Satoshi ASAHI, Yoshiyuki AIZAWA, Masao
本稿では,国立国語研究所が札幌市,富良野市で実施した社会言語学的調査(1986-1988)のデータを利用し,ガ行鼻音の衰退過程とその要因について定量的観点から議論する。分析にはロジスティック回帰を採用し,ガ行鼻音の使用に関わる言語外的・内的要因を統計的に検証した。その結果,東京におけるガ行鼻音の衰退と同様に,札幌市と富良野市でもガ行鼻音の使用率の減少が見られた。また,ガ行鼻音の使用に関わる要因について時系列的な観点から分析を行ったところ,個々の要因の制約に従いながらガ行鼻音が衰退していく過程(「秩序ある異質性」'orderly heterogeneity', Weinreich et al. 1968)が観察された。さらに,Hibiya(1995)が指摘する東京都文京区根津におけるガ行鼻音の衰退現象との比較を行い,札幌と富良野でのガ行鼻音衰退という言語変化の動機について,両地域のガ行鼻音に関わる言語体系とその社会的側面という2つの観点から説明を試みた。1つは,言語機能的に余剰と見られるガ行音の鼻音性が,余剰を解消する方向への変化によって消失した(「下からの変化」,'change from below')と見る立場であり,もう1つは,Hibiya(1995)が指摘する根津におけるガ行鼻音衰退の要因と同様,社会的な意味(威信)を伴って非鼻音のガ行音の獲得が起きた(「上からの変化」,'change from above')と見る立場である。
丹野 清彦 Tanno Kiyohiko
詩を書かせる目的は,子どもたちが詩を書き,その交流を通して相互理解を図ることである。子どもたちは教師との間に,あるいは子ども同士の間にどのような関係が成り立てば,詩を書き表現するのだろうか。本研究は書くことの意味を問い直し,能力主義・競争主義によって傷ついた子どもたちを受容するケア的アプローチとしての側面から,詩を書く活動を考察した。
李, 昌煕 Lee, Chang-Hee
日韓両地域における鉄器の出現は,燕国の鉄器生産能力の増大,それによる東方への普及に伴ったものと考えられてきた。その時期は戦国末から前漢初にあたると考えられているために,出現年代は紀元前3世紀をさかのぼることはない。しかしその根拠は明確ではなく,燕国における鉄器の普及は紀元前300年よりも古かった可能性が説かれつつある。
竹内, 孔一 TAKEUCHI, Koichi
含意認識タスクなど言語処理での文間の表現を取り扱う際,名詞の意味的な関係を捉える必要がある。言語学の分析から名詞の中には名詞の意味を補完する外部情報が必要なものが分かっており,生成語彙における特質構造(クオリア構造) として記述することが提案されている。また言語資源ではNomBank に代表されるように名詞の項構造を事例とともに構築されている。本研究では,先行研究で提案された特質構造を利用した名詞の項構造データを基に言語処理の観点からより形式化した構築法を提案する。具体的には名詞の項構造の例文を構築するとともに,項を同定し,述語との関係を項構造を通して結び付ける記述枠組である。述語のデータとして述語項構造シソーラスを利用し,NTCIR のRITE-2 で出現した名詞を対象に項構造の例文および対応する述語と項の関係を記述したデータを構築した。本稿では,記述枠組,および具体的に構築した名詞項構造データの事例を説明すると共に,付与での問題点や現状について記述する。
横山, 詔一 YOKOYAMA, Shoichi
言語変化の経年調査データから将来の言語変化を数量的に予測するモデル(横山・真田2010)について紹介した。このモデルは「臨界期記憶+調査年効果 → 共通語化」という図式にしたがって共通語化を説明・予測する。国立国語研究所が山形県鶴岡市を定点観測フィールドとして経年的に約20年間隔で過去3回実施した共通語化調査の大量データを,このモデルで解析した結果,アクセント共通語化などにおいて予測値と観測値が精度よく一致することが示された。
石川, 慎一郎 ISHIKAWA, Shin'ichiro
『多言語母語の日本語学習者横断コーパス』(I-JAS)を初めとする大型の日本語学習者コーパスの整備が進んだことで,母語話者と学習者の言語運用を比較し,学習者の逸脱性を明らかした上でL2教育の質的改善を図る可能性が拓かれつつある。しかしこうした研究を実践する際には,母語話者データおよび学習者データの性質を十分に理解し,得られた結果を慎重に解釈する必要がある。本研究では,日本語学習者コーパスの教育応用を考える際に留意すべき問題点を概観した後,とくに母語話者によるL1産出データの安定性の問題を取り上げ,I-JASを使った検証を行う。検証の結果, 母語話者のL1産出であっても,その正確性や言語特性については想像以上の多様性が存在することが示された。
相澤, 正夫 AIZAWA, Masao
方言と地域共通語とでは,捉え方の方向性,観点が基本的に反対である。方言が,地域差すなわち変異の観点からみた各地の日本語であり,区画論的に言えば,ある言語的基準に関する差異性をもとに,広い地域から狭い地域へと日本語を地域区分した結果であるのに対して,地域共通語は,個人や地域ごとに多様な日本語を何らかの均一性の観点から見直し,その通用範囲の広がりによって統合していく過程の中に認知されるものである。本稿では,北海道の富良野・札幌における社会言語学的調査の資料にもとづき,主として後者のようなことばの共通性の視点から,両地点における都市化の程度差に注目しつつ,いわゆる北海道共通語の使用状況と,その背後にある話者の言語使用意識との関係について分析・報告する。
迫田, 久美子 小西, 円 佐々木, 藍子 須賀, 和香子 細井, 陽子 SAKODA, Kumiko KONISHI, Madoka SASAKI, Aiko SUGA, Wakako HOSOI, Yoko
本稿は,共同研究プロジェクト「多文化共生社会における日本語教育研究」が進めている多言語母語の日本語学習者の横断コーパス(通称I-JAS)について概説した。
島袋 恒男 大城 房美 Shimabukuro tsuneo Oshiro fusami
高校教師が現在受け持っている「勉強ができる生徒」の抱く気持ちや考えを推測学習・対人・進路CAMI尺度を使って予測させた。その因子分析の結果、第1因子「未知の原因・運・他者の援助」、第2因子「努力・他者の援助」、第3因子「能力・運」、第4因子「未知の原因」を見出した。各因子と教師の成長性との相関分析の結果、勉強のできる生徒の、「教師の援助」や生徒自身の「努力」を強調する教師は、「教育指導への自信」や、「同僚・先輩・職場の雰囲気・生徒との関係や幅広い人間としての成長」の高いことがわかった。反対に、「教育指導への悩み」を感じている教師は、勉強のできる生徒に対して、なぜ勉強ができるのかその「原因がわからない」し、「運や能力や教師の援助」で説明しており、生徒自身の「努力」の過程を理解することができないということがわかった。そして性別、教職経験年数毎の分析を通して教師の予測する勉強のできる子の「推測CAMI」 と「教師の成長性」についての考察が行われた。
窪薗, 晴夫 KUBOZONO, Haruo
2009年10月に始まった共同研究プロジェクト「日本語レキシコンの音韻特性」の中間報告を行う。このプロジェクトは,促音とアクセントを中心に日本語の音声・音韻構造を考察し,世界の言語の中における日本語の特徴を明らかにしようとするものである。促音については,主に外来語に促音が生起する条件およびその音声学・音韻論的要因を明らかにすることにより,日本語のリズム構造,日本語話者の知覚メカニズムを解明することを目指している。アクセントについては,韓国語,中国語をはじめとする他の言語との比較対照を基調に,日本語諸方言が持つ多様なアクセント体系を世界の声調,アクセント言語の中で位置づけることを目指している。本論文では本プロジェクトが明らかにしようとする問題点と近年の研究成果を総括する。
森, 篤嗣 内海, 由美子 MORI, Atsushi UTSUMI, Yumiko
「生活のための日本語:全国調査」における山形県の回答者の中から結婚移住したアジア女性を抽出し,首都圏(新宿・千葉)と全国の同回答者を比較対象に,生活状況と日本語使用について分析した。その結果,首都圏・全国の定住アジア女性に比べて,山形は滞日年数が長く学習の場を持たずに日本語を自然習得している人が多い,「書く」に対する自己評価が低く強い学習ニーズを抱いている等の傾向が見られた。滞日年数に従い日本語でできる言語行動が増える一方,「書く」に対しては不全感を抱いている。また,「地域交流」「幼稚園・学校」場面での言語行動の頻度が高く日本語でできる人が多かった。つまり山形の定住アジア女性にとっては,地域の日本人ネットワークで人間関係を築く・維持するための言語行動の必要性が高い。以上から,地域日本語教育には,「書く」に対する学習支援とともに,高度な言語行動を視野に入れた学習支援が求められていることがわかった。
Kyan Seiki 喜屋武 盛基
いわゆる万能デイジタル計算機(general purpose digital computer)は文字通り万能でありあらゆる種類の演算から言語の翻訳などに至るまで適当なプログラミングにより行なうことができる。しかしこの型の計算機はある種の計算にはまったく不向きで,その驚くべき早さの演算能力をもってしても相当長い時間を必要とすることが知られている。整数論の二次不定方程式やその他の平方剰余の問題を解くのに使はれる連立合同式の解法がその一つである。この種の計算を万能計算機に行なわせるには経済的に不可能なことなので,この計算だけを行なわせる特殊目的のデジタル計算機の開発が数年前から試みられている。この論文では“数ふるい”と称する連立合同式を解くことのみを目的とする電子計算機の論理設計と回路試作について論じている。この計算機の記憶装置(メモリ)としてはLC遅延線路を主体として20.5μsの長さの遅延線路に21ビットのパルスをたくわえまた1ビットの記憶にはフリップフロップを用いて行なった。演算をコントロールする主要部分である計数回路には遅延線路を用いた特殊な設計のビート計数回路を用いて信頼度を高めることができた。このため高価な電子管式計数器の使用をはぶくことができた。試作機の全記憶容量は240ビットである。この容量の範囲で可能な種々の連立合同式の計算を行なわせて正しい結果を得ることができた。最後に誤動作自動検出装置について論じ,その論理設計も行なった。
相澤, 正夫
話しことばコミュニケーションの模様を第三者の立場から描写するとき,「『私は怒ってなんかいません』とふるえる声で言った」「『そうですか』とがっかりした口調で言った」のように,引用符の中に話された内容を示し,引用符の外にそのときの話し方の特徴を補うという方法がしばしばとられる。音声による言語行動を忠実に捉えようとするならば,引用符の中の言語形式として再現しきれない要素をひろいあげ,必要に応じて補足するというかたちで全体を再構成しなければならない。
大滝, 靖司 OTAKI, Yasushi
本研究では,子音の長さが音韻論的に区別される6つの言語(日本語・イタリア語北米変種・フィンランド語・ハンガリー語・アラビア語エジプト方言・タイ語)における英語からの借用語を収集してデータベースを作成・分析し,各言語における借用語の重子音化パタンを明らかにする。その結果から,語末子音の重子音化は,原語の語末子音を借用語で音節末子音として保持するための現象であり,語中子音の重子音化は原語の重子音つづり字の影響による現象であることを指摘し,純粋に音韻論的な現象は語末子音の重子音化のみであることを主張する。
西内, 沙恵 NISHIUCHI, Sae
本稿では多義語が有する複数の意味をどのように確認できるか,言語学的な方法に焦点をあてて検討する。多義語は同一の音形に意味的に何らかの関連を持つ二つ以上の意味が結びついている語と定義される。多義語の語義の粒度は研究の目的や研究者の立場によって異なるため,多義性を認める方法も言語学的なアプローチと心理実験的アプローチからさまざまに考案されてきた。本稿では先行研究で提案されてきた,多義性を認める言語学的な方法を,語彙テスト・文法テスト・論理テストに区分して一覧し,その有効性を検討する。それぞれのテストがどのような仕組みによって成り立っているかを分析し,どの程度の粒度で語義が認められるかという観点から各テストの特徴を論じる。現代日本語の名詞・形容詞・動詞を対象にそれぞれのテストが有効に働く品詞を検討し,その適用範囲を示す。
鈴木, 博之 丹珍曲措
本稿では、中国雲南省徳欽県雲嶺郷で話されるカムチベット語諸方言(sDerong-nJol 方言群雲嶺山脈西部下位方言群)において観察される歯茎破擦音と歯茎摩擦音のゆれについて、佳碧、八里達、査里頂、査里通、永支の5か村で話される変種に認められる音声現象を簡潔に記述し、そこに認められる記述言語学、歴史言語学上の問題を議論する。
沖本, 与子
本研究は,助詞と動詞を組み合わせた項目における学習者の解答時間と誤答率の傾向及び,同一の項目における誤答率の推移を分析し,日本語学習者の解答特徴を把握することを目的とする。研究に使用した言語資源は,松下(2011)と沖本(2019)であり,これらの言語資源から抽出した282 動詞を用い,5種類の異なる項目を作成し5週間のオンライン学習コンテンツを構築した。
吉田 安規良 前花 日和 Yoshida Akira Maehana Hiyori
生徒が科学的に探究するために必要な指導の工夫や授業づくりの考案につなげるために,沖縄島中南部に所在するA中学校に2019 年度(平成31・令和元年度)に在籍していた生徒の科学的に探究する能力に関する実態や傾向を把握した。生徒の実態の特徴として,疑問に思った時は仮説を立てようと意識している生徒は多いが,すぐには仮説を思いつけない生徒が多い。また,他者の仮説や考えを理解することの大切さを感じているものの,自分の立てた仮説に自信がない生徒が多く存在していた。生徒の多くは仮説を確かめるための実験方法を提案しているとは強く思っていない。探究の過程のうち「検証計画の立案」について,仮説の根拠,大まかな検証計画,検証した結果の予測を記述しようとする意識は低い。検証計画を立案する際の独立変数の値を設定する能力の多くの生徒の実態として,独立変数の個数設定根拠が不明確で,0に設定した時の実験を考えていないが実現可能な形で設定していた。この結果を踏まえて,「生徒から引き出したい問いが,生徒が解決を目指す疑問の答えと正対するものであること」,「生徒の生活経験を整理すること」,「既習事項,学習のつながりを整理すること」の関係性を簡単に整理することを狙ったワークシートを試作した。
滝浦, 真人 TAKIURA, Masato
「ことば遊び」のコミュニケーション上の機能を,ヤーコブソンの〈詩的機能〉とグライスの会話理論を媒介にしながら論じる。それ自体としての〈詩的機能〉は,語の音的/意味的連想を範列軸から連辞化して展開する自動機械的な言葉の"生成装置"であり,それによって生成されるという点では「詩的言語」も「病的言語」も同じである。ヤーコブソンは,両者の類似については論じたが,差異については論じなかった。「詩的言語」を「病的言語」から分かつ一線は〈文脈〉の質にある。そして,〈文脈〉の質の問題は,「ことば遊び」において最も典型的に現れる。グライスの会話理論に当てはめてみると,ことば遊びは「協調の原理」からの逸脱であり,しかもそれは「会話の含み」を生じさせる"見かけ上の逸脱"ではないことがわかる。そのかぎりにおいて,ことば遊びは「レトリック」ではないのであり,文字どおり,"伝えない"コミュニケーションであると言わなければならない。ことば遊びは,様々な仕方で語の意味的連関としての文脈を脱線させるが,今度はそのことが,言葉の流れそのものとしての文脈に対する注意を喚起し,結果的に,ある種の発見的な感覚を伴った強い印象を生じさせることに成功する。その意味で,ことば遊びの固有性は,ヤーコブソンの〈メタ言語的機能〉の体現者でもあるところに求められなければならない。
名嘉村 盛和 Nakamura Morikazu
研究概要:大規模分散システムにおけるタブーサーチ、シミュレーティッドアニーリング、遺伝アルゴリズムの効率的な並列処理手法を研究開発した。タブーサーチ、シミュレーティッドアニーリングの並列処理では、複数の探索プロセスが協調する事によって有望な解空間を効果的に見つ\nけ出すことにより効率良く探索を進められる。また、並列遺伝アルゴリズムでは、プロセッサ能力の不均一性および通信遅延が進化計算における解の改善に大きな影響を与えることが分かった。
島袋 恒男 廣瀬 等 Shimabukuro Tsuneo Hirose Hitoshi
本研究は,キァリアCAMIを用いて,大学生・専門学校生の「就職への統制感」と「就職への無力感」がどのような就職・職業に向けての自己理解に由来するかというパターンの解明を中心として分析・考察してきた。\n主な結果は,\n1.就職への統制感は能力と適性の保有感のみに由来し,努力や能力,他者の支援の理解から来ている。\n2.就職への無力感は,努力の非保有感,運の非保有感,他者の支援の非保有感に由来し,その背後には一般的な他者の就職は運次第,分からないという考え方から発生してきている。\n3.サンプルクラスター分析の結果,はっきりと1のパターンを示すグループは,全体の20%と予測され,反対に2のパターンを示すのも約20%であった。\n4.大学生・専門学校生の持つ「就職への統制感」「就職への無力感」は,職業的発達の「目標・達成志向」「勤労効果の検討]の発達・未発達と関係する。\n5.努力の非保有感,運の非保有感は職業的発達の「目標・達成志向」「勤労効果の検討」と負の相関を示す。しかし「能力・適性の保有感」は「目標・達成志向」とのみ正の相関を示す。\n以上の結果から,大学生・専門学校生の持つ「就職への統制感」は主に目標形成に関わっており,職業の性質や活動の特徴の理解には関わりの弱いことが指摘できる。また「就職への無力感」は「目標・達成志向」「勤労効果の検討」の未熟さに関係している。その未熟さは一般的な職業の性質,目標達成する過程に関する無理解に由来していることがうかがえる。そのような意味で学生に職業や就職に関する情報提供を中心とした進路指導・就職指導が必要になってくると言える。
勝吉 慎也 田中 敦士 Katsuyoshi Shinya Tanaka Atsushi
知的障害のある人は、知的発達のみにとどまらず、運動発達においても問題がみられることが\nしばしばある。そこで、本研究では知的障害者の運動能力に関し、(1)これまでの研究動向、(2)\nspeed-accuracy trade-offの法則、(3)人間の身体運動制御、(4)知的障害への指導の現状と今後の\n展望、の4つに関して文献的検討を行った。
谷部, 真吾 Yabe, Shingo
現在,「祭礼研究」あるいは「都市祭礼(祝祭)研究」と呼ばれている分野を開拓した研究者に,中村孚美がいる。彼女は,精力的に数多くのモノグラフを記してきたが,これらの研究における特徴として,祭りと日常生活という両場面において,必要とされる能力に関連性があるとする語り口を挙げることができる。この刺激的な視点は,その後のこの分野における研究で,積極的に用いられることはなかったように思われる。そこで,本稿では,中村と同じ視点に立って,静岡県周智郡森町で行なわれる森の祭りを分析してみた。
西本 裕輝
本稿の目的は、2020 年4月に実施した大学院生調査をとおして、大学院教育の成果、特に高度専門教育プログラムの成果を把握することである。調査項目としては、「満足度」「スキル・能力の修得度」等であったが、すべての項目において、8割を超える肯定的な回答が得られた。よって結果から、高度専門教育プログラムに限らずすべてのプログラムにおいて成果があがっていると判断できた。
山下, 博司
国語学者大野晋氏の所謂「日本語=タミル語同系説」は、過去十五年来、日本の言語学会やインド研究者たちの間で、センセーショナルな話題を提供してきた。大野氏の所論は、次第に比較言語学的な領域を踏み越え、民俗学や先史考古学の分野をも動員した大がかりなものになりつつある。特に最近では、紀元前数世紀に船でタミル人が渡来したとする説にまで発展し、新たなる論議を呼んでいる。
朝日, 祥之 吉岡, 泰夫 相澤, 正夫
行政から提供される情報には,外来語・略語・専門用語が増加し,自治体は住民に対して分かりやすい行政情報を提供することが求められている。国立国語研究所では,行政情報の発信者である自治体職員と受信者である住民とのコミュニケーションに関する意識調査を実施した。その結果,語彙的特徴やパラ言語的特徴,非言語的特徴よりも,方言と共通語の使い分けに関する意識に地域差が認められることが明らかとなった。
野山, 広 NOYAMA, Hiroshi
本稿では,独創・発展型共同研究プロジェクト「定住外国人の日本語習得と言語生活の実態に関する学際的研究」で企画・実施された縦断調査研究の成果を紹介した。最初に,研究目的と実施された調査の設計(方法・姿勢等)について述べた。その後,研究期間中に実施されたさまざまな調査のうち,秋田県A市で実施された調査結果と群馬県B町で実施された調査結果を取り上げた。また「話し合いの場(多人数会話の場面)」作りの試案を提示し,その提供の方法,試案の有用性,反省点を示した。最後に,今後の当該分野に関する課題の提示や展望を行った。
Hijirida Kyoko 聖田 京子
ハワイ大学東アジア言語・文学科では2004年秋学期より新講座「沖縄の言語と文化」を開講した。それに先立つ2年間の準備期間中に,担当教員2人(聖田京子,Leon Serafim)が,ハワイ大学及びハワイ地域社会の支援を得て,沖縄へ赴き資料収集を行った。琉球大学等とのネットワークを形成すると共に,豊富な資料・教材を収集することができ,講座開講に向けて,教材作成を中心とするカリキュラムの準備を順調に進めることができた。 コース内容は文化を中心にした楽しい沖縄学と,聞き,話し,読み,書きの4技能の習得及び基本的な言語構造を理解する沖縄語の初級レベルを設定した。言語学習には,まず表記法と,言語と文化の教科書を決めることが重要な課題であったが,琉球大学と沖縄国際大学の関係者の支援により解決することができた。 文化に関するコース内容は,年中行事,諺,歴史上の人物,民話,歌(琉歌を含む)と踊り,料理,ハワイの沖縄コミュニティーなどの領域を取り上げた。特に,沖縄の文化的特徴や価値観などを表すユイマール,イチヤリバチョーデー,かちゃーしーなどは,クラスのプロセスで実践による習得を目指した。 基本的な学習が終わると,学生は各自のテーマで研究し,ペーパーを書き,発表することとし,それによりクラス全員が更に沖縄学の幅と深みを加え,沖縄理解に至ることを目指した。 学生の取り上げた研究テーマは,沖縄の基地問題や平和記念館,平和の礎,ひめゆり部隊,沖縄の祭り,行事,観光,エイサー,歌手,空手,三線,紅型,ムーチー(民話),紅芋など多岐にわたっており,学生の沖縄に対する関心の幅広さがうかがわれた。 当講座の全体の教育目標は以下のように設定した。1)沖縄語の言語研究上の重要性を理解すると共に,基本文法を習得し,初級レベルでのコミュニケーション実践をタスクで学ぶ。2)沖縄文化を理解し,その価値観や考え方をクラスでの実践を通して学ぶ。3)ハワイにおける沖縄県系人コミュニティーの文化活動に気軽に参加し,かつ楽しめるようになる。 当講座は,開講以来,受講希望者がコースの定員を上回る状況であり,当大学の学生の沖縄の言語や文化への関心の高さを示している。かちゃーしーやユイマール,沖縄料理などの文化体験は大変好評で,講座終了後のコース評価では,沖縄語をもっと学びたい,沖縄文化をもっと知りたいという学生からの声が多く寄せられた。
崎原 正志 Sakihara Masashi
ハワイのシマクトゥバであるハワイ語の言語復興以後、NEO Hawaiian と呼ばれる第二言語話者が話すハワイ語が普及しており、伝統的なハワイ語 TRAD Hawaiian を圧迫している。琉球列島におけるシマクトゥバにおいても沖縄島中南部を中心に新しいかたちのシマクトゥバNEO Okinawan が生まれつつある。大学などの学校教育におけるシマクトゥバ教育がそれぞれの地域に存在する多様なシマクトゥバたちの標準化・画一化を助長する可能性があるため、シマクトゥバの最大の魅力である多様性を残しながらのシマクトゥバ教育でなければならない。
角田, 太作 TSUNODA, Tasaku
日本語には,前半が動詞述語文などと同じであり,後半が名詞述語文と同じである文がある。まるで人魚のような文であるので,これらの文を人魚構文と名付けた。名詞の中には,人魚構文で使う場合に文法的な意味・働きを持つもの,即ち,文法化しているものがある。人魚構文は世界的に見ても珍しいようだ。日本語以外には,アジアの七つの言語とアフリカの一つの言語にしか見つかっていない。
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