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相澤, 正夫 AIZAWA, Masao
2007年10月に中国北京日本学研究センターで開催された国際シンポジウムにおいて,最近の日本語研究の新動向の一つとして,「言語問題への対応を志向する日本語研究」の事例を紹介した。国立国語研究所の「外来語」言い換え提案を取り上げることにより,日本語の体系や構造,あるいは日本語の使用実態に関する調査研究を基盤としながらも,さらにその先に日本語の現実の問題を見据えた総合的・実践的な「福祉言語学」の一領域が既に開拓されていることを示した。
青柳, 正俊 Aoyagi, Masatoshi
通商司は、明治新政府の貿易政策を所管する官庁一機関として明治二年に設置され、その後、産業育成、金融など広範な政策領域を担った。その政策展開は、通商会社・為替会社の設立を通じて、会社・銀行という近代資本主義に不可欠な経済単位の創出を目指す取組でもあった。しかしながら、政策は早期に隘路に陥り、短命に終わった。この失敗の要因としては、政策に内在するいくつかの要因とともに、外国からの強い抗議の圧力があったことが指摘されている。
後藤 雅彦 Goto Masahiko
東南中国、中でも沿海地域の新石器文化の形成と展開に焦点をあて、中国新石器文化の中での位置付けを再検討し、その特徴を明らかにした。最近の調査によって、東南中国沿海地域では、紀元前6000 年の新石器文化出現期から貝塚を伴うことが明らかになったが、植物利用の進展が新石器文化の定着に重要な役割を果たしていたと考えられる。その後も、農耕に集約化せず、地域ごとに漁撈・狩猟・採集の生業活動をその環境に応じながら展開したことが東南中国沿海地域の新石器文化の特徴である。
鈴木, 美加 SUZUKI, Mika
本稿では,日本を含む世界各国における教育改革が進む中で,学校教育に位置付けられた日本語教育の目標設定を行う際に,認知領域だけでなく,情意領域と精神運動領域にも目を向ける提案を行った。まず,最近の教育改革を推進するATC21S(Assessment and Teaching of 21st Century Skills)が打ち出した21世紀スキル(Griffin et al. 2012)と,教育心理学において1950年代から続く教育(学習)目標の3領域(Bloom (ed.) 1956, Guilbert 1987)について概観した。次に,日本語教育のCan-doリスト2種から,Can-do記述を例として取り上げ,それらの特性について,ブルーム他の教育(学習)目標の3領域を参考に検討を加えた。検討結果から,各レベルの到達目標としてのCan-do目標は認知領域,精神運動領域に関する記述が見られること,Can-do目標を支える下位Can-doでは認知領域,精神運動領域,情意領域の全領域とのかかわりがあることを示した。結論として,現在のアカデミックな日本語運用能力を育てる意図で行う日本語教育において,その目標設定を教育(学習)目標の3領域を活用して行うことが有用であると述べた。
佐喜真 望 Sakima Nozomi
本論文は、1890年代に成立したいわゆる「新組合」と従来の「旧組合」の力関係を、従来ほとんど注目されてこなかったTUCの議会委員会の構成各組合の申請組合員数及ぴTUCへの拠出額に焦点をあてて解明したものである。「新組合」の意義をどう見るかについては、我が国の研究とイギリス本国の研究との間に重大な見解の相違がある。我が国の研究は新組合の運動に着目し「新組合」意義を重視する。これに対して、本国の研究は「新組合」の組合員数の推移と「旧組合」の組合員数とを比較し、「新組合」の組合員数が伸び悩んだこと、また、主要な大組合の内訳を調べてみると十五大組合中「新組合」はわずか二つに過ぎなかったことなどを根拠として「新組合」が大きな影響力を持ったことを否定する。本稿で考察した新組合が成立する直前の1888年から「労働代表委員会」成立直後の1901年までのTUCの年次報告書の内で重要と思われる8年間の主要組合の申請組合員数及び拠出額の推移を見る限り、確かに、「旧組合」に属する組合の多くが、拠出額及ぴ申請組合員数を着実に増やしているのに対して、「新組合」に属する組合の多くは、消滅したり、拠出額や申請組合員数を設立当時より減少させている。この転については本国の研究の指摘は正しい。しかし、議会委員会のメンバーについて考察してみると1901年の議会員会のメンバーに占める「新組合」出身者は3人となり、1891年の1人から増加している。また、「旧組合」出身の委員の中にも1906年の総選挙で「労働代表委員会」から立候補して当選したメンバーが存在する。また、1902年度の「労働代表委員会」の会計簿を検討してみると「新組合」は一気に存在感を増す。本稿で取り上げた時期は、「新組合」が単なるTUC内の拠出額と申請組合員数とを超えた影響力を持ち、「旧組合」とせめぎあった時期であった。
西口, 正隆 NISHIGUCHI, Masataka
本稿は、現在の埼玉県川越市上新河岸にあたる上新河岸村で、河岸問屋を営んだ遠藤家の文書について構造分析を行うことで、河岸問屋アーカイブズの特質を考察した。
藤尾, 慎一郎 Fujio, Shinichiro
本稿は,ブリテン新石器時代の葬制研究を紹介したものである。ブリテン新石器研究は,近代考古学がはじまって以来,巨石建造物(メガリス)を研究対象にしてきた。巨石建造物が新石器時代の編年をおこなう際の指標として位置づけられてきたこともあるが,何よりもそこからみつかる大量のバラバラになった人骨が人々の関心をひきつけてきたからである。人骨がみつかるために,巨石建造物はしごく当然に墓と考えられ,なぜ,このような状況で大量の骨がみつかるのか,を考えた葬制研究が,ブリテン新石器研究の中心だったのである。
国文学研究資料館古典籍共同研究事業センター National, Institute of Japanese Literature Center for Collaborative Research on Pre-Modern Texts
新日本古典籍総合データベースのクイックガイドです。
井伊, 菜穂子 II, Nahoko
本稿は,人文科学論文で使用された接続詞を対象に,接続詞の出現位置と,接続詞が意味的に結びつける文脈の範囲である連接領域の広さとの関係を論じたものである。分析の結果,以下の三つのことが明らかになった。第一に,接続詞に共通する基本的な特徴として,接続詞が形式段落の冒頭で使用された場合のほうが,内部や末尾で使用された場合よりも,連接領域が広い傾向があること。第二に,前後を対称的に結びつける並列・対比の接続詞は,前後の連接領域が広い場合は段落冒頭で,連接領域が狭い場合は段落内部あるいは末尾で使用される傾向があり,出現位置による連接領域の広狭が二極化していること。第三に,前後が非対称的な構造になる順接・逆接・換言・結論の接続詞は,段落冒頭だけでなく段落末尾で使用された場合も前件の連接領域が広い傾向があることである。
欧, 陽恵子 田中, 裕隆 曹, 鋭 白, 静 馬, ブン 新納, 浩幸 Ou, Yanghuizi Tanaka, Hirotaka Cao, Rui Bai, Jing Ma, Wen
BERTはTransformerで利用されるMulti-head attentionを12層(あるいは24層)積み重ねたモデルである。各層のMulti-head attentionは、基本的に、入力単語列に対応する単語埋め込み表現列を出力している。BERTの各層では低層から徐々に何からの情報を取り出しながら、その文脈に応じた単語の埋め込み表現を構築していると考えられる。本論文では領域適応で問題となる領域情報に注目し、BERTの出力の各層が持つ領域情報がどのように推移するのかを考察する。
日野, 資成
動詞「出す」は「ある領域にあるものをその領域外へ移す動作」を表す。この動詞「出す」が複合動詞中に現れるとき、その意味・用法は、動詞「出す」に比べてどのように変化するのであろうか。
林 弘也 大浦 正嗣 Hayashi Hiroya Ooura Masashi
スギ材をサンプルに圧縮荷重を負荷した試験片に生じたSlip planeを偏光顕微鏡で検出し、 負荷荷重と材の構造との関係を検討して次の結果を得た。1、Slip planeは弾性領域では早材部の仮道管壁に多く発生するが、 塑性領域では晩材部の仮道管壁に多く発生する。2、切線断面の早材部と放射断面の晩材部は弾性領域では放射組織に接する仮道管壁にのみSlip planeを生じ、 塑性領域ではその他の仮道管壁にもSlip planeが認められた。3、Slip planeはいずれの荷重レベルでも放射断面よりも切線断面に多く発生した。4、単壁型のSlip planeは両壁型のSlip planeよりも低い荷重レベルで発生した。5、Slip planeの発生の位置は断面や材部によって同一荷重レベルでも異なる。
Takara Tetsuo Higashihirachi Seiji 高良 鉄夫 東平地 清二
本報文は琉球(旧沖縄県)産カイガラムシ上科の種類並びに分布の記録をまとめ、且つ寄主及び分布上新たに得た知見を附記したものである。本文には5科35属63種をあげたが、標本の入手できないものもあるのでProvisional listとして公表する。1)Caroplastes pseudoceriferus ツノロウカイガラムシは琉球新記録である。2)Drosicha sp. ワラジカイガラムシの一種、Aulacaspis yabunikkei ヤブニツケイマルカイガラムシ、Phenacaspis cockerell ミヤコシロマルカイガラムシ、Diaspidiotus makii マキマルカイガラムシ、Microparlatoria itabicola イタビヒメマルカイガラムシ、Parlatoria camelliae ツバキヒメマルカイガラムシ、Pinnaspis aspidistrae ハランナガカイガラムシ、Aonidiella sotetsu ソテツマルカイガラムシの8種は沖縄島新産種であり、Aulacaspis distylii イスノキマルカイガラムシ、Chionaspis sp. リユキユウウシロカイガラムシの2種は宮古島新産種である。3)Icerya pulchasi等8種には新寄主を追加した。
村吉 優子 白尾 裕志 村上 呂里 Murayoshi Yuko Shirao Hiroshi Murakami Rori
教職大学院では教科領域の学修の充実が求められている。教科領域での学修が課題解決実習を充実させ,理論と実践の往還を実現する過程を実践者の大学院での取組から明らかにする。実践者が理論及び実践における先行研究を理論的に把握し,実践化するための応用力を駆使して,子どもの豊かな読みの世界につながる子どもの認識と表現を実践的に示した。
王 恰人 Yi Jen Wang
日本の中小製造企業が展開するマーケティング活動と業績の関係を探るために質問票調査を行った。本稿は回収したデータに基づいて統計分析を行った結果をまとめたものである。「直近3年間の平均業績」との線型的相関関係に統計的有意差があらわれたのは、「産業景気」、「製品独自性」、「製造技術独自性」、「マーケティング費用の削減」、「生産工程の見直しゃ簡素化」、「効率的な新生産技術の導入や開発」、「社会貢献によるブランドイメージの向上」、「川上交渉力」、「新技術開発度」、「新取引相手開発度」といった10項目である。それに対して、統計的有意差が得られなかったのは「低コスト原材料供給者の探索」、「代替原材料の探索」、「OJTによる従業員の作業効率の向上」、「事務業流れの見直し」、「取引の電子化」、「SNSの利用」、「SNSでポジティプな話題の発信」、「顧客クチコミへの重視度」、「価格優位性」、「新製品開発度」の10項目である。
藤沢, 敦 Fujisawa, Atsushi
古墳時代から飛鳥時代,奈良時代にかけての,東北地方日本海側の考古資料について,全体を俯瞰して検討する。弥生時代後期の様相,南東北での古墳の築造動向,北東北を中心とする続縄文文化の様相,7世紀以降に北東北に展開する「末期古墳」を概観した。さらに,城柵遺跡の概要と,「蝦夷」の領域について文献史学の研究成果を確認した。その上で,日本海側の特質を太平洋側の様相と比較しつつ,考古資料の変移と文献史料に見える「蝦夷」の領域との関係を検討し,律令国家の領域認識について考察した。
松田, 謙次郎 MATSUDA, Kenjiro
旧字体と新字体の混在するテキストは,形態素解析において誤解析の原因となることが多く,その対策としては形態素解析辞書の記載に異体字を加える方法,そして予め漢字を新字体に置換しておく方法,また複数の辞書を使い分けるといった方法が考えられる。本稿では字体置換6通りと,辞書の使い分け3通りを掛け合わせた18組の組み合わせで國/国,會/会,關/関3対の旧/新字体の対を含んだテキストの形態素解析を行うことで,目的とする漢字を含む形態素がどれほど正確に切り出せるのかを検討した。データとして第1~10回までの国会会議録を用いた。結果は,漢字置換で隣接する漢字が旧字体の場合に旧字体に置換し,隣接しない場合は新字体とするという置換法(デフォルトを新字体とする日和見置換)と,すべてについて近代文語UniDicを用いるか,1949年の当用漢字字体表告示を境として,それ以前では近代文語UniDicを用い,それ以後では現代語書き言葉UniDicを用いる方法が,もっとも正確に当該漢字を含む短単位形態素を切り出せるというものであった。形態素解析辞書の記載に異体字を加える方法には,異体字が記載されていない形態素が出現した場合に対応ができないという欠点があるのに対して,漢字置換と辞書の使い分けを活用する方法は,そうした場合にも柔軟に対応が可能であるという利点があることを主張した。
小峯, 和明 KOMINE, Kazuaki
先号で紹介、検討した中世仏伝の新出資料、真福寺大須文庫蔵『釈迦如来八相次第』の全文翻刻。
武田 喜乃恵 浦崎 武 Takeda Kinoe Urasaki Takeshi
「トータル支援」における幼稚園の幼児への応用、幼児教育の方法の確立をめざし、支援教育の企画の具体的な実践を通して幼稚園での取り組みへの応用について考察した。さらに幼稚園での実施に向けて幼稚園教育要領への位置づけとして、「健康」、「環境」、「人間関係」、「言葉」、「表現」の5領域の各領域への応用を検討した。その結果、幼児期から学童期を対象にしてきた「トータル支援」の実践を幼稚園教育の5領域において位置づけて実践することが可能であり、その成果が生じると考えられた。幼・小の一貫した移行期の教育への有効性を確認することができた。
Davis Christopher クリストファー デイビス
本論文では琉球諸語で広く使われる焦点化辞「du」の文法的分布と意味上の焦点範疇の関係を、八重山語宮良方言のデータに基づいて論じる。「du」は、文が表す情報を「新情報」と「旧情報」とに分け、新情報を担う構造部分に「焦点」を与えると思われる。しかし、その新情報となる部分をいかに表示するかはまだ不明である。八重山語宮良方言の資料から、「du」が付く要素自体が焦点範疇となる場合があるものの、「du」の統語上の位置と焦点範疇が一致しないこともあることを明らかにする。さらに、後者の状況を精査のうえ、「du」の統語上の位置と焦点範疇の関係についての一般化をまとめ、「du」の分布を説明する理論の構築を試みる。
武田 喜乃恵 Takeda Kinoe
今回は、幼稚園で行ったトータル支援の要素を活かした教育実践から、幼稚園教育要領の5領域に照らし合わせて、どのような子どもたちの姿がみられたか記録をもとに整理し、5領域への活用の有効性を考察した。幼稚園教育要領には「遊びを通しての指導を中心としてねらいが総合的に達成されるようにすること」とあり、エピソード1、エピソード2、表1に示した具体的な子どもたちの姿を整理することからトータル支援の要素を活かした紙ひこうき遊びによる教育実践が、「健康」、「人間関係J、「環境」、「言葉」、「表現」の5領域の内容を総合的に達成できる要素を有しており、有効であることがわかった。本研究における教育実践を5領域に照らし合わせて考えることで、トータル支援の要素を取り入れた教育実践が小学校の教育実践の基礎となる豊かな育ちと学びの基盤を有していると考えらえた。幼・小の一貫した教育実践を実現していくためにも幼稚園での実践のみならず、「遊び」を活用した教科教育の実践を小学校で、も積み上げていくことが今後の課題である。
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「お新下り(おあらおり)」は最高神女である聞得大君が初めてその領地である知念間切に行き、斎場御嶽に参詣すること。即位式にあたる。首里の王城から斎場御嶽までの道程や行列の次第、途中に置かれた仮屋(かりや:宿もしくは休息所)の様子などが記されている。行列の途次に歌われる道グエーナ2首も収められている。本書は1840年の「お新下り」のときの記録。大里間切に保管されていた原本で公印(くさり印)がある。伊波が入手した経緯は不明。だが、「沖縄研究資料4 聞得大君加那志様御新下日記」(法政大学沖縄文化研究所発行 1984年)で、同系統と思われる御新下日記の写本(赤木文庫所蔵)の翻刻が収録されている。琉球大学学報121号に池宮政治による本書の解説がある。
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「お新下り(おあらおり)」は最高神女である聞得大君が初めてその領地である知念間切に行き、斎場御嶽に参詣すること。即位式にあたる。首里の王城から斎場御嶽までの道程や行列の次第、途中に置かれた仮屋(かりや:宿もしくは休息所)の様子などが記されている。行列の途次に歌われる道グエーナ2首も収められている。本書は1840年の「お新下り」のときの記録。大里間切に保管されていた原本で公印(くさり印)がある。伊波が入手した経緯は不明。だが、「沖縄研究資料5 聞得大君加那志様御新下日記」(法政大学沖縄文化研究所発行 1984年)で、同系統と思われる御新下日記の写本(赤木文庫所蔵)の翻刻が収録されている。琉球大学学報121号に池宮政治による本書の解説がある。
下條 太貴 廣瀬 等 Shimojo Taiki Hirose Hitoshi
本研究は,児童の規範意識の発達について,学校・家庭・地域での活動が規範意識に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。調査では,小学生5~6年生を対象とし,規範についてはTurielの領域特殊理論に基づき,規範を「道徳」「社会的慣習」「個人」の3領域に分けて詳細に検討した。因子分析の結果から,規範意識については「道徳・慣習」「個人」の2領域に分かれた。また各因子との相関分析や分散分析を行った結果,学校や家庭,地域での活動が児童の規範意識,行動の発達に関連があることが明らかになり,さらに,学年や性別の規範意識の発達についても明らかになった。
東 清二 Azuma Seizi
(1)南大東島の昆虫について、従来の報告及び採集標本にもとずいて目録を作製し、昆虫相に関する若干の考察を行った。(2)昆虫目録では363種を取り扱った。そのうち83種は今回の調査で確認された新記録種である。目別にみると鞘翅目は貧弱で、鱗翅、半翅、直翅、トンボの各目は沖縄全体と比較して種類数割合が高かった。(3)固有種は9種が確認されたが、その比率は低く、貧弱だと考えられた。しかし、ダイトウウミコオロギ、ダイトウサルハムシ、ダイトウゾウムシは珍しい種類である。(4)琉球列島で南大東島(及び北大東島)のみに分布する種類が7種確認された。その比率も低いが、コフキオオメトンボとウミアカトンボは稀な種類である。(5)新記録種のうちテンサイトビハムシは琉球列島新記録種で、他は全て普通種であった。
Ishihara Masahide 石原 昌英
本稿では、複合語形成と接辞添加は表示(representation)が異なるというInkelas(1989)等の仮説に着目し、日本語動詞の分節音規則の適用に見られる接辞語と複合語の違いの説明を試みる。例えば、過去を表す接尾詞(-ta)の接辞が起こると、二つの子音が隣接するという環境で様々な規則が適用されて音の変化が起こる。しかし、似たような環境を造りだすと思われる複合語では、接辞語に見られるような音の変化が起こらない。これには、二つの異なる要因がある。まず、接辞語と複合語では造りだされる(音韻規則が適用する)領域の数が異なるという形態型表示の違いがある。つまり、接辞語は一つの領域を持ち、複合語は二つの領域を有する。次に、問題の音韻規則が一つの領域内で隣接する二つの子音にのみ適用されるという規則の特質がある。つまり、子音の隣接という条件は、領域を一つしか持たない接辞語でのみ満たされる。複合語内で隣接すると見られる二つの子音は、厳密の意味では(規則適用の観点からは)隣接していない。従って、問題の規則は接辞語でのみ効力を発し、複合語では適用されない。本稿ではまた、この問題に関する語彙的音韻論(Lexical Phonology)的な説明の問題点を指摘して適当ではないことを論ずる。
斎藤, 達哉 新野, 直哉 SAITO, Tatsuya NIINO, Naoya
1985~2000年の『国語年鑑』の雑誌掲載文献の目録情報にもとづいて,分野別の文献数の動向調査を行った。雑誌掲載の文献の採録数は年鑑のデータベース化にともなって1991年に大きく減少したが,1994年以降は緩やかな増加傾向にある。その状況下で,国語学にとっての「中核的領域」の文献数は,近年,横這い状態になっている。そのなかでも,[文法]だけは増加している。いっぽう,国語学にとっての「関連領域」の文献数は,近年,緩やかな増加の傾向にある。とくに,[国語教育]が伸びを示している。また,[コミュニケーション][言語学]には「中核的領域」に含まれる内容の文献も多く,文献数においても上位を維持している。「関連領域」のなかでの大分野となっている[国語教育][コミュニケーション][言語学]については,『国語年鑑』で,それぞれの分野の下位分類を増補・改訂するなど,近年の研究動向に対応が必要な時期に来ているのではないかと思われる。
後藤 雅彦 Goto Masahiko
東南中国において、新石器時代後期以降、紡錘車が普遍的に出土するようになる。しかし、これらの遺物は紡錘車としての事実報告がなされていても、それ以上、その時間的な変遷や分布について、あまり研究の俎上にあがることがなかったのが現状である。しかし、各遺跡に共通する要素として、また時間的にも継続する要素として重要な考古資料であると考えられる。そこで本稿では、紡錘車の集成的研究の前提として、出土状況の明らかな閩江下流域の紡錘車をとりあげ、紡錘車研究にあたっての問題点を整理する。同地域では、新石器時代後期に紡錘車は普遍的な遺物となり、新石器時代後期から殷代併行期にかけて、土器破片利用品が減少、定形的な断面台形紡錘車が出現し、器形の定形化の一方で紋様を施し、個体の識別が強化されるという時間的変遷を辿る。
国文学研究資料館 National, Institute of Japanese Literature
1985(昭60)年11月1日~15日開催の「新収資料展――昭和57~59年度期」の展示資料解説目録。出展全55点を解説。
岡, 雅彦 OKA, Masahiko
梅川重高著「新畸人伝」は文政八、九年ごろに纒められた京都住の人物の伝である。そこに登場する人物達の大半は無名の人々であるが、その当時の京都を知るうえで貴重な資料であろう。カリフォルニア大学バークレー校所蔵の旧三井文庫蔵写本二冊を翻刻紹介する。
小倉 剛 岩橋 浩輔 泉 れい 大城 まどか 石橋 治 仲村 敏 川島 由次 砂川 勝徳 Ogura Go Ishibashi Osamu Kawashima Yoshitsugu
沖縄島の在来豚アグーの形態学的研究の一環として、死産子および死亡新生子の外部形態、椎骨数および臓器重量について検討した。外部形態計測値については、0日齢の体重はばらつきが大きかったが平均すると約800gで、正常出産子の8割程度であった。これらの傾向は、体重以外の計測値においても同様であった。死産子および死亡新生子にみられる異常は奇形だけではなく、外部形態の矮小化にも及んでいることが推察された。平均乳頭数は平均11.9個であった。胸椎数はほとんどの個体で14個であり、イノシシや中国の在来豚よりも多く、胸腰椎骨の構成の観点からも、アグーは既報の通り主にバークシャー種による改良が反映された形態を維持していると考えられた。しかし逆に、アグーは洋種豚にみられるほど胸腰椎が増加していないことも確認され、由来となった中国在来豚に近い品種として確立できる可能性が示された。臓器重量では、肝臓が絶対重量と相対重量ともに最も大きかった。消化管長は小腸が大腸の約4倍の長さで、成長とともに相対消化管長も伸びる傾向が伺えた。今後も継続して正常新生子、死産子および死亡新生子の臓器重量や病理解剖学的な知見が蓄積できれば、近交退化によると思われる様々な形態的変化を遺伝学的な側面を加味して解析でき、これらの結果が育種・改良計画の一助となることが期待される。
廣瀬, 浩二郎
大本教の出口王仁三郎は,日本の新宗教の源に位置する思想家である。彼の人類愛善主義を芸術・武道・農業・エスペラントなどへの取り組みを中心に,「文化史」の立場から分析するのが本稿の課題である。王仁三郎の主著『霊界物語』は従来の学問的な研究では注目されてこなかったが,その中から現代社会にも通用する「脱近代」性,宗教の枠を超えた人間解放論の意義を明らかにしたい。併せて,大本教弾圧の意味や新宗教運動と近代日本史の関係についても多角的に考える。
要 匡 成富 研二 柳 久美子 Kaname Tadashi Naritomi Kenji Yanagi Kumiko
研究概要:<多様なミニ染色体ベクターの作製>ミニ染色体上のテロメア側、セントロメア内、中間領域での遺伝子発現および染色体の安定性を検討するため、それぞれの領域にゲノム遺伝子(BAC)を導入できるミニ染色体を個別に作製し、検討した。ミニ染色体の改変は、DT40細胞内で行った。1)ミニ染色体改変用プラスミドベクターの構築ヒトX染色体由来ミニ染色体(IKNFA3)の各部位へ、相同組換えにより変異型lox71を挿入するためのプラスミドベクターを作製した。変異型 lox71挿入用ベクターは、blasticidin R発現カセット(CAG lox71 bsr)を用いて作製した。また、ミニ染色体テロメア側の薬剤耐性遺伝子(neoR)をZeocinR遺伝子へ変更するためのtelomere- targeting vectorも新たに作製した。2)ミニ染色体の改変上記挿入用ベクターを用い、ミニ染色体の各部位へCAG lox71 bsrをそれぞれ挿入した改変ミニ染色体を作製した。同時に、テロメア側(短腕側)をZerocinR遺伝子へ変更した。3)改変ミニ染色体へのBAC導入上記改変ミニ染色体へ、遺伝子発現ユニットをもつBAC(HPRT-66、 F9-66)をCre/変異lox系を用いて導入した。導入効率は、約70~75%であった。<BAC導入ミニ染色体における遺伝子発現と安定性>改変ミニ染色体のテロメア側、セントロメア側、中間領域のそれぞれの領域に挿入されたBAC内遺伝子(HPRT)の発現について検討した。定量PCRによる発現比較では、テロメア側にBACを挿入したクローンのヒトHPRT遺伝子発現を100とすると、セントロメア側挿入クローンでは83、中間領域挿入クローンでは122であった。細胞核あたりのコピー数は、1コピー(約70%)または2コピー(約30%)がほとんどであった。また、内在性Hprt遺伝子発現量に対し、ヒトHPRT遺伝子発現量は約15%であった。これは、宿主細胞の種の違いによると考えられた。長期培養による遺伝子発現は、テロメア側、中間領域挿入クローンで大きな変化はなかった。
新城 俊也 宮城 調勝 永吉 功治 Shinjyo Toshiya Miyagi Norikatsu Nagayoshi Koji
琉球石灰岩中の砂礫のせん断に伴う粒子破砕とひずみの関係を調べるために琉球石灰岩の砕石を用いて圧密排水せん断試験を実施した。主な結果を以下に示す。(1)粒子破砕は、軸ひずみの増加に伴い破砕がほとんど生じない領域から破砕が顕著に生じる領域そして破砕量の増加割合が徐々に減少する領域へと変化する傾向にある。(2)粒子破砕は、側圧の増加に関わらず軸ひずみ3%付近から10%付近の間で顕著に生じる。(3)表面積は軸ひずみの増加に伴い増大するが、その増加割合は軸ひずみの増加とともに徐々に減少する。(4)せん断中に加えられた消散エネルギーは、軸ひずみの増加にともない増大し、その後消散エネルギーの増加割合は徐々に減少する傾向にある。(5)表面積の増加は粒子破砕に消費される消散エネルギーの増加と関係づけられる。
浅田, 徹 ASADA, Toru
藤原定家の下官集は定家仮名遣の基本資料として多くの研究があるが、書誌的な検討がまだ進んでいないように思われる。また、仮名遣史研究と和歌研究との二つの領域の情報交流も十分ではない。本稿は研究史を整理・評価しつつ、下官集諸本として知り得たものを書誌的に記述していくことで、二つの領域の相互交流のための基盤を整備する。また、善本の翻刻を付載して今後の研究に役立てることとする。
- 2021/9/8 16:10
新たに墓所を仕立てる場所「自分之新敷場」を中心として、パノラマ状に周辺を描いた絵地図で、家相図のように何本もの方位線が引かれている。墓地の風水の見取り図を示したものと思われる。風水思想が反映された土地の比喩的表現など、興味深い資料である。この図に付随する文 書が発見されていないため、自家の現在の墓所「自分當分墓所」をやや南側の「自分之新敷場」に移設する理由など、詳細は不明であるが、19世紀中半から後 半にかけて作成されたものと推測されている。
- 2009/6/5 16:46
新たに墓所を仕立てる場所「自分之新敷場」を中心として、パノラマ状に周辺を描いた絵地図で、家相図のように何本もの方位線が引かれている。墓地の風水の見取り図を示したものと思われる。風水思想が反映された土地の比喩的表現など、興味深い資料である。この図に付随する文 書が発見されていないため、自家の現在の墓所「自分當分墓所」をやや南側の「自分之新敷場」に移設する理由など、詳細は不明であるが、19世紀中半から後 半にかけて作成されたものと推測されている。
頼, 衍宏
法隆寺金堂に珍蔵されている「銅像薬師如来坐像」という国宝の光背銘は、日本の国語学ないし古典文学の領域で重要な位置を占めている。その文体について、現代の有力説では和文とされている。一方で、「正格の漢文」という波戸岡旭の説もある。ここでは、この少数説を支持して、訓詁・音韻・修辞という三つの側面から検証した。
韓 昌完 矢野 夏樹 米水 桜子 Han Changwan Yano Natsuki Yonemizu Sakurako
本稿は、インクルーシブ教育評価尺度(IEAT)の構造と特徴や評価方法、活用可能性について解説するとともに、これまでの開発過程を報告したものである。IEATは、インクルーシブ教育システムを評価する尺度である。IEATの構造は、権利の保障、人的・物的環境整備、教育課程の改善の3領域11項目から構成されている。インクルーシブ教育システムについて評価するため、11項目についてインクルーシブ教育システム構築の達成度に合わせ評価者が1~5で段階的に評価する。IEATは、領域別評価を行うことで、インクルーシブ教育システム構築の進捗状況に合った目標設定の手助けになると考えられる。また、研究者及び教育現場による研究及び実践の領域において具体的な目標を立てる際に活用することも考えられる。今後、IEATを科学的に検証し、実際に使用することで、インクルーシブ教育システムの現在の問題と今後の課題を明らかにすることができるであろう。
比嘉 善一 鈴木 雅夫 宜保 美恵子 平田 哲也 幸地 ヒロ子 Higa Zenichi Suzuki Masao Gibo Mieko Hirata Tetuya Kouchi Hiroko
沖縄県における技術科教育の今後の方向性を把握し,指導計画作成の資料を得る目的で,技術・家庭科の教員,父母及び大学生を対象にアンケート調査を実施した。その結果を要約すると次の通りである。\n1)技術科を学習することによって役立つことについては,全体的に「技術に関する教養が身につく」,「頭,心,手の全面的発達」をあげている。特に教員男性は高率である。これに対し教員女性及び学生の女性は「家庭機器などの保守や修理」の実用的な面をかなり重視している。\n2)技術科へのイメージについては,役に立つ必要な教科であり,楽しいが範囲が広いとのイメージをもっている。\n3)技術科の履修方法については,全体的には「改めたほうがよい」と「現状のままでよい」が相半ばしている。父母と教員男性は現状肯定が多いが,教員女性と学生の女性は改善を望んでいる。\n4)技術科の設置のあり方については,各項目とも4割以下の支持率であり,明確な傾向は得られなかった。\n5)技術科の学習形態については,内容によっては「一部共学,一部別学」が圧倒的である。\n6)技術科教育の目標については,約7割が「生活に必要な基礎的知識・技能」の習得をとくに重視している。また内容については「電気」,「情報」領域がとくに重視されている。\n7)技術科の6領域についての内容別重点のおきかたは次の通りであった。\n(1)木材加工領域:「木材を使った物の製作ができること」が90%以上で高い。\n(2)金属加工領域:属性により若干異なった傾向がみられるが「金属の特徴と加工法を知ること」と「金属の利用と生活について考えること」が重視されている。\n(3)機械領域:「機械の仕組みを知ること」,「エンジンの仕組みを知ること」に対する関心は高いが「簡単な機構模型を作ること」への関心は低い。\n(4)電気領域:「電気の安全な取扱いができること」と「電気機器(蛍光灯やアイロン)の保守・点検すること」は重視するが「電気器具(蛍光灯など)の製作をすること」と「増幅回路を用いた装置(インターホンやラジオ)を製作すること」などの製作的内容については関心が低い。\n(5)栽培領域:いずれの内容もほぼ同様に重視されている。\n(6)情報領域:「コンピュータを操作すること」と「市販のソフトを使えること」への関心が高い。\nこのように技術科の内容についての重点のおきかたをみると全体的な傾向として,知識理解に関する内容への関心が高い。また製作的内容よりも保守・点検・整備・操作などに関する内容への関心が高くなっている。\n以上の結果から本県の技術科教育に対する社会的要請の特徴として,次の事項が挙げられる。\n1 技術科教育の学習では「生活に必要な基礎的知識・技能の習得」に重点をおいてほしいとの要請が高い。\n2 技術科教育の内容では「電気領域」,「情報領域」の内容に重点をおいてほしいとの要請が高い。また製作的な内容よりも保守・点検・操作的な内容への要請が高い。
新納, 浩幸 古宮, 嘉那子 佐々木, 稔 SHINNOU, Hiroyuki KOMIYA, Kanako SASAKI, Minoru
nwjc2vec は国語研日本語ウェブコーパス(NWJC)から構築された分散表現データである。NWJC が超巨大コーパスであるため,nwjc2vec の品質はかなり高いと考えられる。ただし分散表現データを実際の自然言語処理システムに利用する際には,そのシステムが対象とする領域に依存した分散表現データの方が望ましい。これは領域適応の問題である。ここでは処理対象を新聞記事として,新聞記事7年分から構築した分散表現データと nwjc2vec を比較することでこの点を確認する。またこの問題の対処として nwjc2vec に対して少量の新聞記事を利用してfine-tuning を行い,その効果を確認する。
權 偕珍 太田 麻美子 韓 昌完 Kwon Haejin Ota Mamiko Han Changwan
近年、インクルーシブ教育を推進していく上で、特別支援学級の役割が重要視されてきている。しかしながら、特別支援学級の教育課程については、通常の小・中学校に準ずることが表記されているのみである。また、特別支援学級においては、様々な授業実践がなされているものの、インクルーシブ教育の現合、を取り入れた特別支援学級の教育課程の編成に関する研究は見当たらない。そこで本研究では、インクルーシブ、教育制面指標(lEAI)を用い、インクルーシブ教育の観点から、日本の特別支援学級における制度・政策の分析を行った。また、特別支援学級で行われている実践事例を分析し、インクルーシプ教育の観点に基づ、いた日本の特別支援学級における教育課程編成の課題を明らかにすることを目的とする。IEAIの領域と実践事例を対応分析した結果、IEAIの観点である「権利の保障」領域においては、「教科外活動の保障」や「公平性の確保」、「人的・物的環境整備J領域においては、「共に学ぶ場の設定」や「多職種及び保護者との連携」、「教育課程の改善」領域においては、「地域社会への参加促進」や「障害理解の促進」、「リーダー育成」の観点を踏まえ、教育課程を編成する必要がある事が明らかになった。
韓 昌完 小原 愛子 矢野 夏樹 Han Changwan Kohara Aiko Yano Natsuki
ノーマライゼーションの理念が提唱されてから長い年月が経ち、障害者福祉の領域で使用されていた理念だったものが、現在では医療や教育等様々な領域で用いられている。しかし、領域によってその定義は異なっており、また学者によっても異なった定義で使用される。そこでここでは、これまで曖昧なままであった「ノーマライゼーション」の概念を、1.ノーマライゼーション概念の変遷、2.ノーマライゼーション概念の定義に関する研究、3.ノーマライゼーション概念の定義に関する現状、の3点から整理することによって、今までの学問・研究の成果と社会の変化を反映した概念として、ノーマライゼーションを再定義することを目的とする。ノーマライゼーション概念の変遷と定義に関する研究・現状を考察し、筆者はノーマライゼーション概念を「人種・年齢・性別・障害の有無・身体的な条件に関わらず、地域社会の中で住居・医療・福祉・教育・労働・余暇などに関する権利を保障し、実現しようとする理念」として再定義した。
横山, 詔一 米田, 純子 YOKOYAMA, Shoichi YONEDA, Junko
本研究では,漢字と仮名にノイズを重畳して文字認知成績に生じる影響を究明した。一般に,漢字は仮名よりも文字領域の比率が高く,黒い部分の面積が広い。このことから,黒いノイズを重畳すると,背景領域の広い仮名の方が大きな影響を受け,読み取り成績が劣ると考えられる。この予想を検証するため実験を行った結果,人間と光学式文字読み取り装置(OCR)の読み取り成績はいずれも漢字が仮名を大きく上回ることが明らかになり,仮説が支持された。これらの結果に関して,文字の有するパターン性の観点から考察を行った。
藤尾, 慎一郎 FUJIO, Shin’ichiro
本稿は,二次利用された青銅器片が石器にわずかに伴う九州北部の弥生早期〜弥生前期後半段階が,森岡秀人のいう「新石器弥生時代」に相当するのかどうかについて考えたものである。
宮崎, 修多 MIYAZAKI, Shuta
享保の学藝界を領導した室鳩巣の書翰を随見随録に二十余通、かれの俗文の書翰を中心に編みなおして成った『鳩巣小説』『可観小説』『兼山麗沢秘策』『浚新秘策』などに逸したものの落穂拾いである。
酒井, 茂幸 Sakai, Shigeyuki
本稿は、貞享年間から正徳・享保年間に至るまでの、霊元院の禁裏・仙洞における歌書の書写史・蔵書史を、公家の古記録や古歌書目録類に基づき叙述し、霊元院の歌書書写の動機や具体相を追究したものである。まず、近時明らかになった貞享二年(一六八五)四月・五月の冷泉家本の大規模な書写活動が特筆される。その後、本来は、東山天皇の禁裏文庫に譲渡されるはずであった霊元院所蔵の歌書は、霊元院仙洞に留まったため、膨大な蔵書量となった。さらに、宝永末年頃から正徳初めに企画された『新類題和歌集』編纂事業は、霊元院の歌書の収集・書写活動を必然的に活発化させた。歌書が貞享二年四月五月から享保末年の『新類題和歌集』成立までに、霊元院が集めた個別の歌書の書写、及び『新類題和歌集』編纂のための抜書や清書本作成に当たった公家衆の廷臣は、和歌の家の冷泉・藤谷・飛鳥井・三条西・中院、及び能書の家の清水谷・持明院が中核であった。それらの家業の公家に加えて、押小路・桑原・久世・武者小路・烏丸らが「書写御用」のメンバーであった。こうした公家衆により禁裏本・仙洞御所本の書写や『新類題和歌集』編纂のための工房が形成されていたと思量される。すなわち、常連の公家衆が典籍の書写の御用のみならず、『新類題和歌集』の編纂に当たって伺候し、並行して選歌資料を探求していたのである。転写本を作成するため歌書を献上させたり借出させたりする先としては、無論冷泉家が多かったであろうが、時期が下るにつれ、中院家・日野家・烏丸家等が所持する歌書にも関心を寄せ、献上・書写させていたことが当時の公家の記録から窺える。一方、歌書を所持する歌道家の人物は、院の廷臣として他の家業の公家衆とも交じり、歌書や記録といったジャンルを超え、時には他家の歌書の書写に関わっていたのである。
宜保 清一 井上 英将 周 亜明 中村 真也 Gibo Seiichi Inoue Hidemasa Zhou Yaming Nakamura Shinya
移動量の大きい浅層すべりと深層すべりの再発生時安定解析に残留強度および回復強度を適用し、 以下の知見を得た。(1)薛城鎮の三次すべりは層厚が8m∿10mの浅層すべりである。再発生時の安定解析に残留強度のみを適用した場合、 安全率がF_s=0.91となり、 斜面の安定度が過小に評価された。残留強度に加え、 すべり面の低い土かぶり圧領域に回復強度を適用することによって安定度が合理的に評価できた。(2)亀の瀬地すべりの峠地区は峠ブロックと稲葉ブロックからなり、層厚が40m∿70mの深層すべりである。安定解析では、 高い土かぶり圧領域の全体に占める割合が極端に大きいため、 高い土かぶり圧領域の全体に占める割合が極端に大きいため、 残留強度のみによる安定解析を行い、合理的な結果を得た。峠ブロックは安全率はF_s=0.84となり、 稲葉ブロックによる抑止効果が約16%の安全率に相当していることが明らかになった。
岸本, 道昭 Kishimoto, Michiaki
400年間も続いた古墳築造社会から律令体制への時代転換にあたって,新たに導入された地方支配方式の史的画期を追究する。『播磨国風土記』をひも解き,郡里領域を比定しながら,古墳や寺院の地域的実態と比較する。検討の俎上に載せた地域とは,播磨国揖保郡18里である。
福田 典子 Fukuda Noriko
本研究では,家庭科衣生活領域の指導内容のうち,被服材料・被服整理を中心として,小・中・高の一貫性を考えた体系的な指導を目的として,指導内容の配列を検討した。まず,衣生活領域の最も重要な指導内容として,「衣服の着方」「衣服の購入」「衣服の手入れ」を挙げ,それぞれを幾つかの指導内容に分類した。次に,小学校5学年家庭科から高等学校被服までを6段階に分類し,それぞれの発達段階において,履修がふさわしい内容を配列した。中学校1学年家庭生活を履修し終えるまでに,衣生活に関する基礎的事項についての知識や技能を,中学2学年以上では応用的な事項についての知識や技能を身につける必要があると考えられる。
井原, 今朝男 Ihara, Kesao
本稿は、あらたに発見された長野市の守田神社所蔵の新史料『鉄炮之大事』とセットで伝来した『南蛮流秘伝一流』の史料を翻刻・紹介するとともに、中世における技術と呪術の相関関係を考察したものである。
井上, 史雄 金, 順任 松田, 謙次郎 INOUE, Fumio KIM, Soonim MATSUDA, Kenjiro
この稿では,対人関係調節のための新表現が実時間の100年間でどのように増加したかを論じる。具体的には,敬語に関わる新表現「ていただく」における進行中の言語変化をみる。岡崎市の55年にわたる計1000人規模の大規模社会言語学的調査に基づき,年齢という見かけの時間を利用する。間隔の異なる3回の調査結果を,時間軸を忠実に反映できるグラフ技法によって提示したところ,「てもらう」「ていただく」が着実に普及しつつあることを,確認できた。これは日本語の補助動詞の発達,授受表現の普及と一致し,岡崎という東海地方の都市の変化が日本語史全体と深く結びついていることが分かった。この背景には敬語変化の普遍性がある。ヨーロッパの二人称代名詞の用法における「力関係から連帯関係へ(from power to solidarity)」と並行的な変化が,現代日本語の敬語でも起こりつつある。つまり地位の上下による使い分けから,親疎による使い分けに変化しつつある。コミュニケーションの民主化・平等化が進んだと考えられる。また,場面による使われ方の違いをみると,依頼表現に伴って多用されるようになった。つまりかつての身分,地位による敬語の使い方と異なった基準が導入され,場面ごとの心理的負担や親疎関係がからむ。このメカニズムも,敬語の民主化・平等化として解釈できる。新表現が個人の一生の間にいかに獲得されるかをみると,若い世代が最初に採用するわけではない。対人関係にかかわる現象に関しては,社会的活躍層が使いはじめる。ポライトネスや敬語などで,30代以上の壮年層が最初に新表現を採用する例,成人後採用の実例が認められた。
林 弘也 垂内 朋美 Hayashi Hiroya Tareuchi Tomomi
木材の膨潤乾縮に関する報告は多いが、 木材の主軸方向の膨潤乾縮に関する報告は比較的少ない。しかし、 主軸方向の膨潤乾縮も他の軸方向の膨潤乾縮と関連させて総合的に理解することが必要であろう。広葉樹散孔材5樹種について切線方向と主軸方向の膨潤乾縮量と含水率、 気乾比重、 要素の構成割合との関連性を検討した。両方向とも膨潤乾縮量と含水率とは非線形の関係を示し、 含水率8%以下の低い含水率領域でも膨潤乾縮量が認められた。しかし、 吸湿過程で収縮する含水率領域と脱湿過程で膨張する含水率領域がイスノキ、 ヤブニッケイに認められた。切線方向の膨潤乾縮量は気乾比重、 放射組織、 柔組織との相関が認められたが、 主軸方向の膨潤乾縮量は比重、 構成割合ともに相関を示さなかった。要素の構成割合と膨潤乾縮量との相関が認められないことから、 なんらかの他の因子が膨潤乾縮に影響しているものと推測される。膨潤乾縮は、 定性的には、 切線方向は主に比重に影響され、 主軸方向は切線方向の膨潤乾縮に間接的に影響されていると考えられる。
高田, 信敬 TAKADA, NOBUTAKA
従来二葉のみ知られていた伝後光厳院筆竹取物語に、今回さらに二葉の新出資料を追加、物語断簡の投げかける諸問題についてその一端を明らかにしたい。なお鎌倉後期l南北朝写と思われる延べ書き「富士山記」もあわせ紹介。
浅原, 正幸
本研究では『現代日本語書き言葉均衡コーパス』に対して付与された,文の読み時間データ『BCCWJ-EyeTrack』と,名詞句の定性などの情報構造アノテーションデータの対照分析を行った。日本語母語話者24 人分のデータを線形混合モデルにより分析した結果,特定性(specificity)・有情性(sentience)・共有性(commonness) が文の読み時間に影響を与え,それぞれ異なったパターンの読み時間の遅延を引き起こすことがわかった。特に共有性においては新情報(hearer-new)・想定可能(bridging) が識別可能なレベルで異なった。このことは,ある名詞句が言語受容者にとって新情報なのか想定可能なのかを読み時間データから推定することができる可能性を示唆しており,文書要約のユーザ適応などの応用に利用することが期待できる。
斉藤 正敏 押川 渡 Saitou Masatoshi Oshikawa Wataru
研究概要:15年度の研究成果。 1.界面における電荷移動反応に関して (1)ナイキスト表示においてインダクティブループは、存在せず、反応は、多段階である。 (2)Ni^<2+>イオンの結晶化は2段階反応で進行すると推定され、Ni^<2+>+e^- →Ni^+_<ads>が反応全体を律速する。 (3)指数α及びβの値が0.5に近い値:界面での電子の交換は、電解液内のヘルムホルツ外面で行われる。 2.界面反応の基礎的物性に関して界面反応の基礎物性として重要な電気二重層の電気容量、反応速度定数と拡散係数、電流交換密度を求めるためのマルチステップ法を提案し、解析方法を開発した。 16年度の研究業績 1.界面反応の基礎的物性に関して我々が開発したマルチステップ法が汎用性を持つことを示すためにAgの電析過程に適用し、界面反応の基礎物性として重要な電気二重層の電気容量、反応速度定数と拡散係数、電流交換密度を求めることができることを示した。解析のより得られた基礎物性量の結果は、交換電流密度:7.8±0.2mA/cm^2、電気2重相の容量:52.1±6.5μFcm^<-2>、反応速度と反応速度定数の比:_<k1>√<D>は、一定値である 2.界面での核形成・成長過程に関して nsecの立ち上がりを持つ微小電流の印加に対する電極間のポテンシャル応答の測定と解析から (1)ポテンシャル応答は、3つの領域からなり、初期の領域は、2段階ステップによるニッケルイオンの原子化過程に対応し、第2の領域は、それら原子ニッケルが幾つかのステップに組み込まれる過程、第3は、多くのステップが活動し、原子を組み込む過程に対応していること。 (2)第一の領域における反応の活性化エネルギーは、実験値と一致する。 (3)第3の領域におけるニッケルイオンが原子化し、ステップに組み込まれるのに必要なエネルギーは、0.12から0.13eVであることを明らかにした。
杉戸, 清樹 塚田, 実知代
(1)社会言語学・言語行動研究の領域で敬語や待遇表現の調査研究を進めていると,一般の回答者が,狭義の敬語だけでなく,より幅広い範囲の敬意の表現を意識しているらしいことがしばしば観察される。
権藤, 愛順
本稿では、明治期のわが国における感情移入美学の受容とその展開について、文学の場から論じることを目標とする。明治三一年(一八九八)~明治三二年(一八九九)に森鷗外によって翻訳されたフォルケルト(Johannes Volkelt 1848-1930)の『審美新説』は、その後の文壇の様々な分野に多大な影響を与えている。また、世紀転換期のドイツに留学した島村抱月が、明治三九年(一九〇六)すぐに日本の文壇に紹介したのも、リップス(Theodor Lipps 1851-1914)やフォルケルトの感情移入美学を理論的根拠の一つとした「新自然主義」であった。西洋では、象徴主義と深い関わりをもつ感情移入美学であるが、わが国では、自然主義の中で多様なひろがりをみせるというところに特徴がある。本論では、島村抱月を中心に、「新自然主義」の議論を追うことで、いかに、感情移入美学が機能しているのかを検討した。
河合, 洋尚
ここ10数年間,英語圏の食研究ではフードスケープという概念が注目を集めるようになっている。フードスケープ研究は当初,食文化研究の新たな関心として,複数の学問領域に跨って展開してきた。だが,フードスケープの研究が多岐に展開しすぎた結果,今この概念を使うことの意義が曖昧となる結果を招いている。こうした状況に鑑みて,本稿は特に物質的側面に着目し,文化人類学とその隣接領域におけるフードスケープ研究の動向を紹介する。それにより,これまで体系的に論じられることが少なかった「食の景観」(または「食景観」)という新たな研究分野を模索することを目的としている。
平川, 南 Hirakawa, Minami
古代日本の地方社会を領域支配する行政機構として、国・郡・里(のちに郷)制が 施行された。小論は、近年の各地の発掘調査による出土文字資料を用いた検討を中心 に、郡家と里・郷の運用実態を明らかにすることとした。
長谷川 裕 Hasegawa Yutaka
研究概要:(平成18年度時点)本研究の目的は、一方で(ア)教育における「能力主義」とはいかなるものなのかを、改めて原理的に社会理論的に考察すること、他方で(イ)今日の教育の実態の中では、能力主義の原理がどのような顕れ方をしているかを社会調査の方法によって把握すること、である。昨年度は、これらのうちとりわけ、教育における能力主義の原理論である(ア)に関わる作業に専心したが、今年度も、一方でこの作業を継続して行った。昨年度はその研究成果の一部として、日本の教育研究における能力主義論の重要な論者の一人である黒崎勲の諸説を検討する論考を執筆したが、今年度は特に、その黒崎が依拠する政治哲学者J・ロールズをはじめとするリベラリズムの理論・思想と、それに対抗する諸潮流の理論・思想との検討作業を行った。 (イ)は、教育における能力主義の実態論である。本研究ではとりわけ、子ども・若者の意識・行動が、教育における能力主義によって、教育領域外のそれとも絡み合いながら、どのように規定されているかを、主として調査票調査の方法によって、実証的に明らかにすることを計画している。本年度は、その調査を実施する準備として必要な文献・資料(類似したテーマに関する調査の報告書など)を収集し読み込み、それを踏まえて調査票を作成する作業を行った。年度当初は、そのようにしていったん仕上がった調査票を用いてプリテストを行う計画であったが、そこまでは到達できなかった。新年度は、その作業から開始する予定である。
渡久山 清美 Maedomari-Tokuyama Kiyomi
本論は米国主要新聞2 紙(ワシントン・ポストとニューヨーク・タイムズ)による2015 年の在沖米軍基地関連報道に焦点をあてた論考である。2015 年の両紙の報道は、普天間基地移設に伴う辺野古沖埋め立てをめぐる沖縄県と国の対立や、沖縄の住民や新基地建設に抗議する人々の声、沖縄における反新基地建設運動に対する安倍政権の強行的対応などのニュース・フレームが中心となった。2012 年から2014 年の報道にもみられたように、2015 年も沖縄の政治的窮状を伝える社説や沖縄の人々の声を反映する報道が顕著であったため、その傾向要因を分析した。しかし依然、地位協定、思いやり予算、環境問題、沖縄の経済そのものに関する情報が不足しており、沖縄の実情に関する米国の読者の理解促進には、より掘り下げた取材や網羅的な情報が必須であることを指摘した。
相川, 陽一 Aikawa, Yoichi
成田空港の計画・建設・稼働・拡張をめぐって長期にわたって展開されてきた三里塚闘争は,学問分野を問わず,運動が興隆した時期の研究蓄積が薄く,本格的な学術研究は1980年代に開始され,未開拓の領域を多く残している。
照屋 晴奈 TERUYA Haruna 宮城 明奈 MIYAGI Akina 下條 満代 SHIMOJO Mitsuyo 權 偕珍 KWON Haejin 矢野 夏樹 YANO Natsuki
文部科学省(2019)は,「児童生徒にとって,障害のある教師等が身近にいることの教育効果が期待され,教育委員会における障害者雇用を積極的に義務付け,取組を推進することが適当。」と述べている。しかしながら,厚生労働省(2022)令和4年障害者雇用状況の集計結果の発表によると,公的機関において雇用障害者数,実雇用率ともに対前年で上回る結果となったが,市町村と教育委員会のみ未達成となり,実用雇用率は2.27%(法定雇用率2.5%)と,依然不十分な結果となっている。学校教育の現場における障害者雇用に関する雇用の現状の改善の取組に関しては,2019年度以降からであり,現時点ではどこに課題があるのか等,ほとんど明らかにされていない,と下條ら(2020)が指摘している。障害のある教員の雇用を促進していくためには,学校現場における障害のある教員が必要な配慮や課題がどこにあるのかを,客観的に評価するための指標や尺度が必要だと考えた。そこで本研究は,QOL向上の観点を踏まえた障害のある教員の雇用推進のための評価指標の開発のために,先行研究を基に指標の領域及び項目の検討を行う。抽出の観点として,教育分野のQOLに関する先行研究及び職業準備性ピラミッドを基に検討を行った。その結果として「障害のある教員の雇用推進評価指標」は,「心身の健康」,「職場環境」,「職業適性」の3領域36項目が抽出された。しかし「職業適性」領域に課題が残り,今後は,本研究で抽出された領域・項目の内容的妥当性の検証を行い,評価指標の内容,言葉の表記が妥当であるかを検証する必要がある。
山下, 裕作 Yamashita, Yusaku
筑波研究学園都市は昭和55年に概成した計画都市である。43の国立試験・研究・教育機関とその勤務者,及び家族が移転・移住した。これほど大規模な計画都市は,筑波以前には無く,現在まで類を見ない。近年はつくばエキスプレスの開通に伴う民間ベースの都市開発により,洗練された郊外型都市に変貌しつつある。本報告はこの計画都市が最も計画都市らしかった時代(概成期)における自然と生活について検討する。筑波研究学園都市の「自然」は,周辺農村の二次的自然とは異なり,人工の緑地である。生産活動に利用されることは無く,当時植栽されたばかりの「自然」も人とのつきあいの経験が無い。それでも,学園都市の住民たちは,そうした「自然」を活用し,深い愛着を抱いてきた。特に移住者の子弟達にはそうした傾向が見られる。この移住者達は「新住民」と呼ばれていたが,その中身は一様ではない。移住時期によってタイプに分かたれ,それぞれ性格づけられていた。しかし,子供達は懸命に新たな同級生や環境に折り合いを付けつつ一様に筑波を故郷ととして開発しようとしていた。また,元々周辺農村に暮らしてきた住民達は,この新住民達,また学園都市そのものと対立することもあったが,徐々に気むずかしく見える新住民達や,人工的な自然にも慣れ親しむようになる。そして学園都市中心部で開催される「まつりつくば」は,これら旧農村部の住民達によって担われる。その一方で現在「新住民」たちの姿は見えない。彼等は「つくばスタイル」という都市開発のスローガンのもと,「知的環境」を担う要素となりつつある。また,概成後30年が経過し,人工緑地は著しく伸長した。もはやかつての子供達が遊びほうけてきた「故郷の自然」では無くなってきている。開発者の「ふるさと」は消滅しつつある。同様なことは,大規模団地で生活した多くの子供たちにも言えることであろう。ひとり筑波研究学園都市だけの問題ではない。
須永, 哲矢 堤, 智昭 SUNAGA, Tetsuya TSUTSUMI, Tomoaki
国立国語研究所で計画されている『日本語歴史コーパス』の構築にあたっては活字書籍化された古典資料のコーパス化を基本とし,その際には国内規格JIS X0213文字集合を用いて活字を電子化することが予定されている。本稿ではJIS X0213を古典資料の活字書籍に適用した場合の効果を検証するため,小学館新全集『今昔物語集』での漢字活字を調査し,のべ字数にして99.86%の活字がJIS X0213でカバーできることを明らかにし,JIS X0213の有効性を確認した。また,JIS X0213では表現できない活字に関しては,コーパスとしての利便性を鑑み,「〓」表示せずJIS X0213の範囲内の別字で代用しつつ,原資料での字形の情報を保持する方針を考案した。別字代用によりほぼ9割の外字は解消されるが,「〓」表示を完全になくすためには,文字レベルではなく,語の表記というレベルでの代用を考えなければならなくなる。末尾には小学館新全集『今昔物語集』で代用処理の対象となる特殊活字の一覧を付した。
赤澤, 真理 AKAZAWA, Mari
本稿は、「境界をめぐる文学」の共同研究のなかで、建築空間の境界に着目する。平安時代から江戸時代における上層住宅に存在した境界において、女性の領域を外部に示した打出の装束をとりあげる。打出は、二つの領域を分割させ「覗かせる」作為のある境界とされている。本稿では、宮内庁書陵部蔵『女房装束打出押出事』に導かれながら打出の用法を整理した。打出の用法と領域は、①妻戸に設置する(使者のための明示など)、②儀礼の空間を装飾する、③女性の座を示す機能がある。従来絵巻等では、外部の簀子や庭に向かって装飾された打出が表現されることが多いが、内部空間に出されている事例を確認できる。打出の意匠は、制約のなかでも多種多様な選択がある。特に『兵範記』仁平二年(一一五二)三月七日条 鳥羽天皇五十算賀における女院の女房達の打出は、四色に限定しながらも、一人ひとりがすこしずつ色彩が異なるなどの院政期の趣向がみられる。女房装束の打出は、室町後期以降、王朝主題の絵画にも示されなくなるが、本史料から、江戸末期の学者に関心が復活したことを窺うことができる。現実に江戸後期に復原されなかったのは、あくまでも私的な装束と考えられたことが予見され、今後の課題としたい。
丹野 清彦 Tanno Kiyohiko
本稿では,竹内常一の生活指導のケア的転回をうけ,『新・生活指導の理論』で掲載されている鈴木和夫の実践記録をもとに,ケア的アプローチと子どもの言葉を読み解くことの重要さを問い,沖縄の実践を聞いた教師たちの感想と指導のあり方を関連付け,子どもとの関係性について考察したものである。
中島 裕美子 前川 秀彰 行弘 研司 伊藤 雅信 伴野 豊 梶浦 善太 日下部 宜宏 佐原 健 Nakajima Yumiko Maekawa Hideaki Yukuhiro Kenji Itoh Masanobu Banno Yutaka Kajiura Zenta Kusakabe Takahiro Sahara Ken
研究概要(和文):1)韓国、中国、日本に生息しているクワコや野蚕について、カイコとも比較しつつ、いくつかの多型マーカー領域を解析し、集団の遺伝的なバックグラウンドを検討した。水平伝播型転移因子mariner様配列(MLE)において、韓国と中国のクワコからの配列集団は多様であったの対し、日本のクワコからの配列は相同性の高いひとつのグループを形成した。カイコBmTNML相当の領域をクワコで解析した結果、韓国のクワコにおいてCecropia-ITR- MLEに活性型転移因子Bmamatlが挿入されているユニットが単離された。日本産クワコ、およびカイコのOg遺伝子領域を比較、系統解析を行った結果、カイコでは少なくとも5つの有意に分科したハプログループが確認されたが、日本のクワコでは仮想的転写開始点近傍の2種類の由来の異なる挿入の有無により大きく2つのグループに分類されるとともに、個々のグループに帰属する配列間にも延期間差異が確認された。ミトコンドリアCoxl遺伝子領域に関しては、日本のクワコがカイコ、および中国クワコとは系統的に離れた位置に収束した。2つのALP-m、Alp-s遺伝子およびその介在配列についての比較から、他の結果と同様、日本のクワコは中国のクワコ、カイコとは異なる集団である可能性が示唆された。ビテロジェニン遺伝子については、野蚕であるサクサン、シンジュサン、ヤママユガの配列はカイコの配列より遠く、クワコは地域に関係なく(日本、中国)ひとつの多様なグループを構成し、野蚕の配列よりもカイコに近かった。2)野蚕おけるGISHを行いWZ染色体対の同定を行い、更にクワコにおけるカイコBACを用いたFISHにより日本クワコのM染色体に対応するカイコ染色体を特定した。しかし、カイコBACを用いたFISHはクワコ以下の他種野蚕には適応できないことが明らかとなった。3)台湾クワコの染色体数がn=28であることを確認した。
Kuniyoshi Seiji 国吉 清治
軸方向に直流磁化をもつフェライトが、充鎮されている同軸線路内を伝播していく電磁界の伝播特性を示す超越方程式を導き、その計算値と同軸線路に沿って分布する定在波の波長測定より得られる実験値との比較検討を行った。先づ理論的取扱いは、Epsteinの導いたように、フェライトの透磁率を逆テンソルにとり、これに基ずいてフェライト内の電磁界の満足すべき基礎方程式(1)から、その解として得られる同軸線路内の電磁界の表現式(5)を得た。更にこの式に同軸線路の内壁及び外壁上での境界条件を適用して、線路内を伝播する電磁界の満足すべき特性式(8)を導いた。これは各元素が第1種及び第2種のBessel函数で与えられる4行4列の行列式で、この式に含まれているパラメータk及びτは、いづれも電磁界の伝播定数とフェライトの磁化の程度を示す非等方性係数μ_aの函数として与えられる。この特性方程式の解は、IBMデジタル電子計算機650号を使用して数値計算され、伝播定数と非等方性係数との関係を示す結果が第2図に示された。尚、行列式の計算値は、第1図に示されるように、μ_aの或る値で無限大を示す結果が得られたが、これは行列式の絶対値を計算している事から、式(9)の根は、その無限大を示す値に対する伝播定数がその解となると考えられる。計算結果は第2図に示されるように、フェライト磁化が進むにつれて、伝播定数は減少していく事を示す。実験的基礎は、フェライトの誘電率、伝播定数及び挿入損失の測定に基づく。薄いフェライト板を同軸線路内に入れ、定在波測定法により得られる反射係数と管内波長との関係から、フェライトの誘電率56を得た。挿入損失の測定で、小直流磁化フェライトの場合には、伝播に履歴現象が見られ、遮断領域を越して再び伝播する領域のある事がわかった。伝播定数は探針をフェライトの充った線路に沿って移動させ、その定在波を探針位置の函数として測定し、その定在波の波形より減衰定数を直流磁場の値を変えて測定した。又定在波形から得られる管内波長より位相定数が計算され、これと直流磁場との関係は第10図に示され、伝播特性に遮断領域のある事がわかった。尚、第2章で数値計算されて得られた伝播定数は、この遮断領域の前の伝播領域に於ける伝播特性を表わす事が実験からわかった。
渡辺, 浩一 WATANABE, Koichi
天明期連続複合災害への対応として、徳川幕府は1792年に江戸町会所を設置した。本稿は、この新組織が実行する救貧政策について、幕府内部においてどのような方法で合意形成がなされていたのかを明らかにする。江戸町会所は、勘定奉行(財政担当)と江戸町奉行(江戸市政担当)の両方を上司とするという点で幕府の諸組織のなかでは特異な性格を持つ。そのため、江戸町会所が救貧政策を行う場合には、両方の上司の承認を得る必要があった。双方の上司は別々の場所で執務をしていたため、上申書は3ないし4人の奉行の間で回覧された。徳川幕府においては、それ以前には上申書は付箋を付ける形で承認されていた。しかし、この新組織の場合は、上申書の宛先の名前の上に小さな印判を捺すことにより、承認ないし確認の意思を表現した。この変化の理由は、新組織立ち上げに伴って業務が繁多となり、そのために手続きを簡略化するためと推測している。この方法は江戸町会所については完全に定着したが、徳川幕府の他の部局で用いられることは少なかったと推測する。その理由は、身分社会のなかでは業務効率性の追求には限界があったからであろうと思われる。この技法は、近代の稟議制における文書の処理方法と形態上は類似する。しかし、身分社会では文書上でも身分差を表現しなければならないとすれば、この技法を近代稟議制の直接的な淵源と判断するにはなお慎重な検討が必要と考える。
吉岡, 亮
演劇というジャンルが編成されていく過程を新たな形で見直していくために、本論では、明治一〇年代の演劇と、文明論、社会改良論、自由民権論といった、同時代の様々な領域の議論の交錯の具体的な様相と、それを可能にしていた図式の存在を明らかにした。
新城 喬之 Shinjo Takayuki
近年の全国学力・学習状況調査や沖縄県学力到達度調査の結果から,本県の小学校算数科・中学校数学科の図形領域において「図形の構成要素や性質に着目して,論理的に考察し数学的に表現する力」に課題があることが明らかとなった。そこで,本研究では令和2・3年度,小学校第6学年の児童に「中学校のかけ橋」小単元「図形」(全3時間)の学習を通して,中学校数学の幾何学的作図の素地的な学習を体験させる授業を行った。その結果,児童の授業中の発言やノート記述,授業後の振り返りから,小学校6年間で学習した図形の定義や性質,作図の方法を振り返りながら,論理的に考察し表現する児童の様相が見られた。このような児童の変容から,本県の小学校算数科の図形領域において「4つの授業改善の方向性」が明らかとなった。
後藤 武俊 Goto Taketoshi
本稿の目的は、福岡市の「不登校よりそいネット」事業を事例に、多様な主体間のネットワークの形成・維持に寄与した要因を析出し、不登校当事者支援の領域における公私協働のガバナンスヘの示唆を得ることである。「不登校よりそいネット」の構築には、C氏と行政との連携実績、共働事業提案制度の存在、不登校に悩む保護者支援という課題設定、当事者性に根ざした保護者支援人材の育成という4つの要因が見出された。また、その構築過程でC氏が果たした役割・機能は、境界連結者の観点から、「情報プロセッシング機能」「組織間調救機能」「象徴的機能」の3点で捉えることができた。ここから、不登校当事者支援の領域における公私協働のガバナンスにおいては、C氏のような人物が台頭・活躍できる場づくりと、協働の可能性を広げる課題設定が重要になることを指摘した。
陳, 藝婕
本論文では、画家であり、地質学者でもある高島北海(1850年~ 1931年)の画論『写山要訣』(1903年)がどのように中国で受容されてきたのかを検討する。とりわけ中国の画家傅抱石(1904年~1965年)の翻訳・紹介活動に焦点を当てる。彼は『写山要法』(1957年)という新タイトルをつけて、中国語訳本を出版した。
宜保 清一 Gibo Seiichi
ピーク強度(τ_f)は垂直応力(σ)の関数であるばかりでなく過圧密比(n_P)の関数でもある。すなわち次式が成り立つ。τ_f=b+T・σ^n・n_P上式においてnpを先行圧密荷重(P_0)で置き換えると、 τ_f=b+T・σ^<n-1>・P_0ここにb、 T、 nは土性によって決まる定数である。これはP_0の一次関数であると同時に、 P_0を一定にした場合のτ_f∿σ関係すなわち過圧密領域のセン断強度特性を示す。したがって、 強度定数を求めるためには、 問題にしている過圧密領域のτ_f∿σ関係の湾曲部を直線で置き換えて限定包絡線とする。このように、 任意の粘土に対しある限られた範囲のτ_f∿n_P関係を実験的に求めることによってその定数が決まるので、 P_0が変化した場合のτ_f∿σの特性と強度定数を推定できる。
下條 太貴 廣瀬 等 Shimojo Taiki Hirose Hitoshi
本研究は,児童の規範意識の発達について,学校・家庭・地域での活動が規範意識に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。調査では,小学生5ー6年生を対象とし,規範についてはTurielの領域特殊理論に基づき,規範を「道徳」「社会的慣習」「個人」の3領域に分けて詳細に検討した。下條・廣瀬(2015) の結果に基づき,その結果を実践的な場面において検討するため,家庭や地域が関わる,小学校における行事(運動会)を取り上げた。そして,家庭や学校,地域での活動の影響により,児童の規範意識の高まりの結果としての規範行動が行事(運動会)の前後でどのように変化するかを明らかにし,小学校における行事(運動会(5学年については組み体操、 6学年についてはエイサー))に関わる学校や家庭,地域での活動が規範行動に与える効果を検討し,明らかにした。
- 2009/6/5 16:50
旧慣存続期の八重山における開発申請1件書類綴り。 その主たる開発対象地域は石垣島名蔵村の通称・名蔵野であり, 申請者の主体は他府県出身者および沖縄本島出身者が占めている。 当時の県庁八重山島役所長は伊王野蔵介。 申請者は申請書類に添付して開発区域の図面(概念図)を添えており, 当時の文書形式を知ることができる。 地元の意向と新時代の開発動向の調整・矛盾を考察するうえで貴重なもの。
- 2009/6/5 16:48
本史料は八重山諸島の地図であり、八重山諸島の中心である石垣島と竹富島(たけとみじま)・黒島(くろしま)・新城島(あらぐすくむら)・小浜島(こはまじま)・波照間島(はてるまじま)といった周辺離島と、西表島(いりおもてじま)の一部が描かれている。また各島の面積が記されており、石垣島には面積とともに津口名(つぐちめい)も記載されている。
- 2021/9/8 16:09
本史料は八重山諸島の地図であり、八重山諸島の中心である石垣島と竹富島(たけとみじま)・黒島(くろしま)・新城島(あらぐすくむら)・小浜島(こはまじま)・波照間島(はてるまじま)といった周辺離島と、西表島(いりおもてじま)の一部が描かれている。また各島の面積が記されており、石垣島には面積とともに津口名(つぐちめい)も記載されている。
- 2021/9/8 16:10
旧慣存続期の八重山における開発申請1件書類綴り。 その主たる開発対象地域は石垣島名蔵村の通称・名蔵野であり, 申請者の主体は他府県出身者および沖縄本島出身者が占めている。 当時の県庁八重山島役所長は伊王野蔵介。 申請者は申請書類に添付して開発区域の図面(概念図)を添えており, 当時の文書形式を知ることができる。 地元の意向と新時代の開発動向の調整・矛盾を考察するうえで貴重なもの。
園田, 英弘
華族は、明治の政治と社会が抱え込んだ矛盾の結節点に誕生した。それは、世襲の特権をどのように見なすかという問題と、深くかかわりを持っている。周知のように、明治維新新政府は武士の身分的特権を廃止し、四民平等の社会を作った。その明治政府が、日本の貴族である華族を形成したのである。そこには、特別の理由がなくてはならない。
李, 応寿
川上音二郎(一八六四~一九一一)の新派の活動については、四回にわたる洋行と、それに伴う西洋の新技法の取り入れが、広く知られている。しかし、実のところ、川上音二郎は、西洋にばかり交流を求めていたのではない。日清戦争の最中の一八九四年の一〇月、彼は玄界灘を渡り、戦場の韓半島(朝鮮半島)で取材をし、添えを自分の演劇に反映している。
岡, 雅彦 OKA, Masahiko
元祿期の咄本二種、『噺かのこ』と『都名物露休しかた咄」を翻刻紹介する。両書とも端本ではあるが、『噺かのこ』は従来書名さへ知られていなかった新出資料であり、『都名物露休しかた咄』は「上方芸能」の40 41号に宮尾与男氏の翻刻が備るものの、掲載誌の性格上閲読に便を欠くので、これも端本ながら敢て翻刻することとした。
小沢, 洋 Ozawa, Hiroshi
古墳時代の上総南西部には2つの強大な政治領域が存在していた。一つは小櫃川流域の馬来田国であり,もう一つは小糸川流域の須恵国である。この両地域では古墳時代のほとんどの期間を通じて継起的に大形古墳の築造が認められ,房総の諸首長層の中でも,とりわけ安定した勢力を維持していたことが窺われる。
長部 悦弘 Osabe Yoshihiro
北魏孝文帝代は、北魏史上国家体制の一大転換点とみなすことができよう。476年に始まる文明太后馮氏の臨朝聴政下では、484年に班禄制を立て、485年に均田法を頒布し、486年に三長制を敷いた。490年の文明太后馮氏の亡き後、孝文帝親政下で491年に第1次、499年に第2次官制改革を各々遂行し、493年には洛陽遷都を敢行し、496年は姓族詳定を推進した。なかでも493年の平城から洛陽への遷都は、北魏史上領域支配体制の中心たる王都を『農業-遊牧境界地帯』から『農業地域』に移した一大事業であったと言える。小論では、493年9月に孝文帝が洛陽において遷都を宣言した後、494年12月~495年8月までの間「平城尚書省・洛陽尚書省並立体制」を支えていた孝文帝集団の構成員が洛陽遷都・領域支配体制の理念を巡り、賛成・反対二派に分かれた原因について論じた。
松茂氏當親(筆写) 2021/9/8 16:08
本史料は、1860(咸豊10)年にまとめられた刑法集で、「琉球科律」(りゅうきゅうかりつ)と「琉球新集科律」(りゅうきゅうしんしゅうかりつ)からそれぞれ一部を抜粋して制定されたものである。また、史料の末尾に「右法条/御調部之上申渡候条、諸士并田舎・諸嶋末々迄具ニ可奉拝承者也」とあり、この法条の周知徹底が指示されていたことが分かる。
後藤 雅彦 Goto Masahiko
紀元前4千年紀の福建沿岸の殻坵頭遺跡は、閩江下流域における新石器文化の形成を辿る上で重要であるばかりか、出土遺物から同時期の南中国沿岸の人の移動と文化の交流を示す上で重要である。本稿では殻坵頭遺跡と長江下流域の杭州湾南岸の土器文化として多角口縁釜に着目し、紀元前4千年紀の南中国沿岸地域における地域間交流をめぐる問題を明らかにする。
松茂氏當親(筆写) 2009/6/5 16:45
本史料は、1860(咸豊10)年にまとめられた刑法集で、「琉球科律」(りゅうきゅうかりつ)と「琉球新集科律」(りゅうきゅうしんしゅうかりつ)からそれぞれ一部を抜粋して制定されたものである。また、史料の末尾に「右法条/御調部之上申渡候条、諸士并田舎・諸嶋末々迄具ニ可奉拝承者也」とあり、この法条の周知徹底が指示されていたことが分かる。
酒井, 茂幸 Sakai, Shigeyuki
国立歴史民俗博物館蔵田中穣氏旧蔵『広幢集』(以下『広幢集』と略称)は、稿者により近時全文翻刻が公表された新出資料である。その資料的価値は、従来未詳であった、広幢の晩年の伝記的事蹟が明らかになるとともに、『広幢集』に記載のある兼載・心敬・顕天・用林顕材・岩城由隆・兼純との交流関係や相互の人的ネットワークが新たに判明するところに存する。
山田, 慶兒
ひとは物を分類し、認識する。しかし、どのような分類法を使っても、うまく分類できない物、複数の領域に分類される物、いいかえれば両義的な物が存在する。このような両義的な存在は、存在の不確かさのゆえに、独自の意味の世界を構成する。ここでは牡蠣と雷斧という二つの両義的存在をとりあげ、その意味の世界と象徴作用を分析する。
樋口, 雄彦 Higuchi, Takehiko
近代化を目指し幕府によって進められた軍制改革は維新により頓挫するが、ある部分については後身である静岡藩に継承された。士官教育のための学校設立という課題が、沼津兵学校として静岡藩で結実したのは、まさに幕府軍制改革の延長上に生まれた成果であった。その一方、軍制のみならず家臣団そのものの大規模な再編を伴った新藩の誕生は、幕府が最後まで解決できなかった大きな矛盾である寄合・小普請という無役の旗本・御家人の整理を前提になされなければならなかった。静岡藩の当初の目論見は、家臣数を五〇〇〇人程度にスリム化し、なおかつ兵士は土着・自活させるというものであった。しかし、必要な人材だけを精選し家臣として残すという、新藩にとってのみ都合のよい改革は不可能であった。実際には無禄覚悟の移住希望者が多く、家臣数を抑えることはできなかった。移住者全員に最低限の扶持米を支給することとし、勤番組という名の新たな無役者集団が編成されたのである。
森 厳 Mori Iwao
キレート環錯化合物は安定な五員環、六員環化合物に比べて七員環化合物は非常に数すくな\nい。特にbiphenyl体を配位子とした踏化合物は2~3しか報告がない。\n著者は3-nitro-4-aminotolueneを出発物質として2、2"-diamino-4、4'-dimethyl biphenylを合成\nし、その新化合物である銅錯体を合成した。
東, 晴美
近代の歌舞伎研究については、明治以降に新作された作品、得に局外者と呼ばれる文学者が手がけた新歌舞伎に注目されることが多い。しかし、前近代に初演された純歌舞伎狂言も、近代を経て現代に伝えられている。本稿では、江戸時代に初演され、現代においても中学生や高校生の歌舞伎鑑賞教室などでも上演される機会の多い「鳴神」をとりあげる。
小原 愛子 韓 昌完 Kohara Aiko Han Changwan
重度・重複障害児の増加、インクルーシブ教育理念の導入、QOL向上のための教育等、特別支援教育を取り巻く環境は大きく変化しているにも関わらず、重度・重複障害児の教育システムを、インクルーシブ教育やQOLの観点から教育システムを分析した研究は見当たらない。そこで、本稿では、インクルーシブ教育の観点から重度・重複障害児の教育課程について対応分析し、QOLの観点から重度・重複障害児の指導法について分析した。分析の結果、指導法についてはQOLのいずれかの領域に該当したが、重度・重複障害児の教育課程においてはインクルーシブ教育の領域に該当しないものが多く、インクルーシブ教育の理念を反映したものとは言い難い結果となった。教育システムをつくる際には、何を基準とし、どのような要素を用いるかということを念頭に検討する必要性があるが、現在そのような研究は見当たらない。今後、特別支援教育の分野では、インクルーシブ教育やQOLの観点から教育システムを構築することが必要だろう。
田村, 美由紀
本稿は、口述筆記創作における〈男性作家―女性筆記者〉というジェンダー構成に着目し、近代作家を取り巻くケア労働の問題の一端を明らかにするものである。公的領域における自律した主体概念と密接に絡みつく形で周縁化されるケア労働の問題は、作家の有名性の陰でシャドウワークとして扱われてきた女性筆記者の不可視化の構造とも通底している。
真鍋, 祐子 Manabe, Yuko
本稿の目的は,政治的事件を発端としたある〈巡礼〉の誕生と生成過程を追うなかで,民俗文化研究の一領域をなしてきた巡礼という現象がかならずしもア・プリオリな宗教的事象ではないことを示し,その政治性を指摘することにある。ここではそうした同時代性をあらわす好例として,韓国の光州事件(1980年)とそれにともなう巡礼現象を取り上げる。
林部, 均 Hayashibe, Hitoshi
郡山遺跡は宮城県仙台市に位置する飛鳥時代中ごろから奈良時代前半の地方官衙遺跡である。多賀城は宮城県多賀城市に所在する奈良時代から平安時代にかけての地方官衙遺跡である。郡山遺跡は仙台平野の中央,多賀城は仙台平野の北端に位置している。ともにヤマト王権,もしくは律令国家の支配に従わない蝦夷の領域に接する,いわば国家の最前線に置かれた地方官衙であった。
Taira Katsuaki 平良 勝明
Virginia Woolf の Mrs. Dalloway において時間や叙述的視点の概念は大幅に伝統的概念から逸脱するものであることは殆どの批評家が認めるところである。この論文では主に narrative における中心的な voice に焦点を置き、いかに物語を絶え間なく流れ貫く consciousness がその narrative space の領域で自由自在に、そしてあたかも独立した存在であるかのように、それぞれの individual existence を統合、ないしは様々な角度から投影するか、というその過程を考察する。
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琉球の古謡である、「クェーナ(くわいにや・こゑな)」と「ヤラシイ」を収録したもの。本書には「大城こゑにや」「兼城こゑにや」「うりづみこゑにや」「あがりゆう(国王の知念間切への行幸の際に謡われた)」、また聞得大君(きこえおおぎみ)の御新下り(おあらおり:即位儀礼)の際の歌等の10編のクェ-ナとヤラシイ1編が収録されている。筆写の年代は不明。原稿用紙の欄外には語句の解説が付されている。
久須美, 雅昭 Kusumi, Masaaki
研究資料のデジタル化は,とりわけ人文系研究の領域において,新たな方法論の開拓や,これまでにない共同研究スタイルの確立などにつながる大きな可能性を秘めている。その反面,デジタル資料への依存は原本の喪失という危険な側面も併せ持っている。デジタルであることはすなわち,デジタルを解読するハードウェア,ソフトウェアに依存することであり,このようなハード,ソフトは市場の原理で極めて移ろい易いものだからである。
長谷川 裕 Hasegawa Yutaka
本稿は、生活指導・集団づくりを中心に研究を行ってきた日本の著名な教育学者である竹内常一が最近の著書『新・生活指導の理論―ケアと自治/学びと参加』(2016 年)の中で提起している、「集団づくりのケア的転回」について詳細に解釈・検討を行い、それを通じて、教育という営みの中に「ケア」をどのように位置づけるべきかを考えることをテーマとしたものである。
長部 悦弘 Osabe Yoshihiro
北魏孝明帝代に勃発した六鎮の乱により混乱に陥った政局の中で、爾朱氏軍閥集団は山西地域(太行山脈以西)の中部に并州(晋陽)及び肆州を中核として覇府地区を建設し、これを根拠地とした上で、孝明帝の没後南下して孝荘帝を擁立した上で河陰の変を引き起こして王都洛陽を占拠し、孝荘帝代には中央政府を支配した。王都洛陽の中央政府を支配した方法は、尚書省・門下省の要職に人員を配置して行政を握るとともに、王都内外の軍事を掌管する、近衛軍をはじめとする高級武官の多くを占めて、洛陽の軍事を牛耳った。そして、首領である爾朱栄が代表する并州(晋陽)設置の覇府と連絡しながら、爾朱氏軍閥集団の下に王都洛陽の中央政府を置く、王都-覇府体制を構築した。北魏国家の領域内部の交通路線でみると、爾朱氏軍閥集団の王都-覇府体制を支えた中軸線は、覇府地区と王都洛陽を結ぶ太行山脈西麓東方線である。同路線を基軸に、太行山脈西麓西方線、太行山脈東麓線をはじめ、各地に構成員を送り、北魏国家の領域支配体制を建てようと試みた。
堤, 良一 TSUTSUMI, Ryoichi
本稿では,間投詞アノ(ー)・ソノ(ー)について談話管理理論的観点からの考察を行った。両者は言語編集に関わる心的操作標識であるが,アノが話者が言いたいコト・モノ(P)から表現形式(L)を編集中であることを表す標識であるのに対して,ソノは(L)から別の表現形式(L’)を複数作成中であることを表す標識である。このような作業は,拍象的な話題を扱う際に典型的に現れることを調査によって示した。抽象的な話題では,話者は誤解を避けたり,より洗練された語を用いたりしようとするためにこのような作業が必要であると考えられる。このように考えることで,ソノ(ー)が持つ発話効果も説明することができる。また,アノ・ソノが指示詞由来の間投詞であることから,アノ(ー)での編集作業が田窪・金水(1996)のD-領域,ソノ(ー)での編集作業がⅠ-領域で行われると考えると,これらが指示詞の理論の中で分析可能であることを示唆した。
宇佐美, まゆみ 張, 未未
日常生活に頻繁に生じる笑いは,ポライトネスにもかかわり,対人コミュニケーション上,極めて重要である。本研究では,『BTSJ日本語自然会話コーパス(2020年版)』を用いて,日中接触場面の初対面・友人同士の雑談における「バランスをとるための笑い」(早川,2000a)を,母語話者と非母語話者で比較した。その結果,(1)「バランスをとるための笑い」は,初対面会話では,母語話者のほうが多く,友人同士の会話では,非母語話者のほうが多い。(2)母語話者は,友人との会話より初対面会話において,「バランスをとるための笑い」が多いが,非母語話者は,友人との会話のほうに多い。(3)母語話者は,初対面会話において「自分の領域に属する内容」に言及する際,笑いが共起することが多いが,非母語話者は,初対面・友人同士いずれの場面においても,「相手領域に踏み込む際」に「バランスをとるための笑い」を共起させてポジティブ・ポライトネスを表していることなどが明らかになった。
新城 俊也 Shinjo Toshiya
本研究において地盤の水平に対し種々の軸方向を有する不撹乱の島尻層泥岩供試体を切り出し、 一軸圧縮試験および圧密圧25kg/(cm)^2までの圧密非排水三軸圧縮試験を行い、 強度、 間ゲキ水圧、 強度定数および変形係数への方向性の影響について明らかにした。本研究の応力範囲内で得られた結果をまとめると次のようになる。1.低圧密圧においてセン断によるダイレイタンシーは破壊に先行して生じる。特に水平供試体において先行する度合が大きい。しかし、 圧密圧が増大するとダイレイタンシーは破壊と同時に生じるようになる。2.強度は供試体の軸方向によって異なる。鉛直方向供試体の強度を基準にすると、 β=30°、 45°において約10%の強度減少、 水平軸供試体において約10%の強度増加を示す。3.間ゲキ水圧は方向性の影響を受けて、 セン断に伴う発生間ゲキ水圧は同一圧密圧に対して鉛直供試体で最大、 水平供試体で最小値を生じる。4.間ゲキ水圧の異方性により、 全応力による強度定数C_<cu>、 φ_<cu>も方向性を示す。同様に有効応力径路も方向性の影響を受けるが、 有効応力による強度定数C'、 φ'は方向性の影響をあまり受けない。5.変形係数と強度の比は圧密圧25kg/(cm)^2の範囲の平均値で示すと、 β=90°、 60°に対し120 : 1、β=45°で150 : 1、β=30°、 0°で170 : 1である。以上の結果は圧密圧25kg/(cm)^2までであり、 過圧密領域にある。この泥岩を正規圧密圧領域に移行させるにはさらに大きな圧密圧を必要とするので、 正規圧密圧領域を含めた応力範囲で実験を行うことにより、 セン断特性におよぼす異方性の影響はより明らかになると考えられる。
吉海, 直人 YOSHIKAI, Naoto
「百人一首幽斎抄」と「百人一首新抄」の版本二点を初めて翻刻し、その簡単な解題を付けた。幽斎抄(細川幽斎著)は二条流の伝統的な注釈を集大成したものであり、新抄(石原正明著)は本居宣長門流の平易な口語訳によるまさに新しい注釈である。両書を比較すれば、新旧の相違は一目瞭然であろう。解題では両書の出版の経緯や内容的な特徴を指摘し、更に異版の存在を図版によって示している。
小橋川 久光 玉城 昭子 上原 廣子 Kobashigawa Hisamitsu Tamaki Akiko
本研究は、中学生を対象にし、体育における選択制、男女共習、たて割り学習を実施することに対する反応を調査し、性別、学年別の意識の違いを明らかにしようとするものである。特に今回の目的は、体育における体操を除く6領域に対する反応の違いを明らかにすることにある。この結果は、選択制、男女共習、たて割り学習を実施する上での基礎資料を提供することになろう。
金子 美芽 道田 泰司 Kaneko Mika Michita Yasushi
本研究の目的は,小学校国語科において,「書くこと」の領域における交流を通して言語活動の充実を図ることについて考察を行うことである。そのためにまず,現行学習指導要領に示されている「書くこと」の交流に関する指導事項に,どのような系統性が想定されているのかについて考え,「交流」に関する指導事項が,国語科教科書でどのように教材化されているか検討し,交流に重点を置いた実践についていくつかを検討した。その結果,小学校の「交流」の指導事項は,「感想を伝え合う」から「意見を述べ合う」さらに「助言し合う」のように活動が提示されていること,書く領域における交流を重点教材化している教科書教材は,今回調査対象とした1,4,6学年で見る限り,多くはないこと,交流に重点を置いた先行実践からみると,ブレーンストーミングやイメージマップのようなツールや型を使うことも有効であること,交流の観点や交流の目的を具体的に提示することが重要になってくることが見いだされた。そのような実践を毎学年,系統的に取り組むことで,児童は交流の有効性や意義を実感し,書き手であると同時に読み手の立場を意識して言葉を綴り,書くことにつながる,ということについて考察を行った。
上野, 和男 Ueno, Kazuo
本稿は最近における日本の社会文化の地域性研究の学史的考察である。日本の地域性研究を時期的に区分して,1950年代から1960年代にかけて各分野で地域性研究が活発に行われた時期を第1期とすれば,最近の地域性研究は第2期を形成しているといえる。第2期における地域性研究の特徴は,第1期に展開された地域性論の精緻化にくわえて,新たな地域性論としての「文化領域論」の登場と,考古学,歴史学などにおける地域性研究の活発化である。1980年以降の地域性研究の展開にあらわれた変化は次の3点に要約することができる。まず第一は,従来の地域性研究が家族・村落などの社会組織を中心としていたのに対して,幅広い文化項目を視野にいれて地域性研究がおこなわれるようになったことである。地域性研究は「日本社会の地域性」の研究から「日本文化の地域性」の研究へと展開したのである。第二は,これまでの地域性研究が現代日本の社会構造の理解に中心があったのに対して,日本文化の起源や動態を理解するための地域性研究が登場したことである。とくに文化人類学や歴史学・考古学のあらたな地域性論は,このことがとりわけ強調されているものが多い。第三は,これまでの地域性研究が社会組織のさまざまな類型をまず設定し,その地帯的構造を明らかにしてきたのに対して,1980年以降の地域性論では,文化要素の分布状況から東と西,南と北,沿岸と内陸などの地域区分を設定することに関心が集中するようになったことである。つまり「類型論」にくわえて「領域論」があらたな地域性論として登場したことである。本稿では地域性研究における類型論と領域論の差異に注目しながら,これまでの地域性研究を整理し,その問題点と今後の課題,とくに学際的な地域性研究の必要性と可能性について考察した。
長谷川, 強 HASEGAWA, Tsuyoshi
京都の書肆八文字屋八左衛門は初代八文字自笑の時代に役者評判記・浮世草子の出版に一時期を画した。しかしその強引な商策は必ずしも後代の繁栄につながらず、孫の三代自笑(八文舎自笑)の晩年には閉店に至る。本稿は三代自笑の当主の時期に重点をおき、浮世草子の衰退、大火罹災と大坂移転、新方面の開拓が資本力、本屋仲間の制約で思うようにならぬ反面、有利な方面での同業者の攻勢、後継者不在から没落に至る経緯を跡付ける。
荒川, 章二 Arakawa, Shoji
一九九〇年代半ば以降、全国の戦争博物館・平和資料館の展示が、「政治的」(広義の)注目を浴びた。一方で、アジアの平和・協同体制を積極的にどう進めるべきか、そのための障害をどう克服していくかという観点から、他方で、国際的安全保障体制への日本の関与のあり方、派兵問題、憲法改正課題などとの関わりから、日本人の戦中・戦後体験を通じて形成された国民の平和観・戦争観とどう向き合い、対応するかが焦点となったからである。従来、国民の平和観・戦争観の領域では、中学校・高校の教科書の内容に注目が集まっていたのだが、より広く、当時各地に普及しつつあった戦争・平和資料館にも視野が及びつつあった。
津田 正之 Tsuda Masayuki
新学力観の提唱をひとつの契機として,音楽科においても,教師主導から子ども主体の授業への転換が強調されてきた。だが,必ずしも実効があがっていないのが現状である。本稿では,実際の音楽の授業プランをもとに検討することで,そこに内在する問題点を一定明らかにした。\nさらに,子どもたちの音楽についての疑問調査を素材に,子どもたちの発想を生かした子ども主体の音楽授業のあり方について私見を提示したものである。
道田 泰司 Michita Yasushi
教員免許状更新講習・必修領域「子どもの変化についての理解」のうち,細目「子どもの発達に関する課題」では,「子どもの発達に関する脳科学、心理学等における最新の知見(特別支援教育に関するものを含む。)」について教授することになっている。筆者は過去9年間この細目を担当する中で,特別支援教育を意識し,応用行動分析の基本的な知見について,実践例を交えながら講じてきた。その概要を紹介するとともに,それに対する受講生の反応を検討することで,免許状を更新する現職教員が,どのような学びを必要としているのかについて考察を行った。
比嘉 善一 国頭 正二 国吉 栄治 Higa Zenichi Kunigami Masaji Kuniyoshi Eiji
「情報基礎」領域の新設に対する技術科教師の受けとめ方やカリキュラム編成、現職教員の研修等の基礎的資料を得る目的で、調査を行った。その結果次のことが明らかになった。\n1)技術教師の情報教育に対する関心は非常に高く、関心が「ない」と明確に答えたのはわずか1割である。また8割以上が「情報基礎」領域を新設する必要があると回答している。\n2)「情報基礎」では情報教養や情報知識を養うために内容としては「コンピュータの基本的なしくみと機能」、「コンピュータの機能と生活」、「プログラミングの基礎」などを取り入れた方がよいとの意見が多い。\n3)技術科教師の約5割がパソコンの使用経験があるが、ほとんどが事務的な仕事の処理であり、自分でソフトを作ったことのある教師は約1割にすぎない。\n4)技術科教師の約4割がパソコン研修会に参加したことがあり、今後も研修会があれば参加したいとの希望が多い。\n5)研修したい内容については,6割以上の教師が「コンピュータのしくみと働き」,「プログラミングの基礎」,「コンピュータの操作」を挙げている。
Kobayashi Masaomi 小林 正臣
本稿はMartha WoodmanseeとMark Osteenが提唱する「新経済批評(The New Economic Criticism)」を検証しながら、文学と経済学の新たな学際性を模索する。社会科学としての経済学は数式を多用した限定的な意味における「科学」を標榜する傾向にあり、人文科学としての文学は経済学-多数の学派に基づく経済学-をマルクス経済学に限定して援用または経済学の専門用語などを誤用する傾向にある。これら問題点を考慮しながら、本稿は両学問の類似性と相違点を認識することの重要性を強調する。例えば、Donald McCloskeyが指摘するように、経済学は数式を用いながらも言語による論証を行うことにおいて修辞的である。またPierre Bourdieuが指摘するように、言語と貨幣は機能的に類似する点が多くあり、それゆえ文学と経済学の「相同関係(homology)」が考えられる。しかし相同関係を発見する一方で、それら学問間の絶えざる緊張関係を維持しながら新たな相互関係を構築する必要があり、その際の媒介を果たすのが新経済批評である。換言すれば、文学は経済学を始めとする諸科学の理論を導入しながら、それら科学に新たな返答をすることが可能な「場」であると認識することで、両学問は相互的な知的活性化を永続できる。かくして本稿は、文学と経済学の学際性の追求は「未知(notknowing)」の探求であると結論する。
山下, 博司
国語学者大野晋氏の所謂「日本語=タミル語同系説」は、過去十五年来、日本の言語学会やインド研究者たちの間で、センセーショナルな話題を提供してきた。大野氏の所論は、次第に比較言語学的な領域を踏み越え、民俗学や先史考古学の分野をも動員した大がかりなものになりつつある。特に最近では、紀元前数世紀に船でタミル人が渡来したとする説にまで発展し、新たなる論議を呼んでいる。
真境名 朝賢(写) マジキナ チョウケン
沖縄本島及び周辺離島で歌われた儀礼歌謡の歌詞を集めたもの。建築祝い、旅の祝い、国王の東方巡幸、聞得大君の御新下りなどの 儀礼の際に歌われた歌謡が、全部で17首収められている。表紙には「くゑな集」とのみあるが、クェーナだけでなくウムイやウスデーク歌も集録 されている。明治32年に恩河朝祐によって編纂された『クワイナ・ヤラシイ・オモヒ集』(石垣市喜舎場孫正氏蔵)から書写されたものと思われるが、 書写年及び書写者は不明である。
千田, 嘉博 Senda, Yoshihiro
日本における城郭研究は,ようやく基本的な所在や遺跡概要の情報を集積する段階を終え,そうした成果をもとに新しい歴史研究を立ち上げていく新段階に入ったと評価できる。従来の城郭研究は市民研究者によって担われた民間学として,おもに地表面観察をもとにした研究と,行政の研究者による考古学的な研究のそれぞれによって推進された。しかしさまざまな努力にもかかわらず地表面観察と発掘成果を合わせて充分に歴史資料として活かしてきたとはいい難い。
前田 士郎 Maeda Shiro
ゲノムワイド関連解析(GWAS)は、ありふれた病気の疾患感受性を規定しているのは、ありふれた個人差であるという仮説、いわゆるcommon disease-common variant仮説に立脚している。事実、GWASで同定された領域は単独での関与の弱いcommon variantに限定されている。common disease-common variant仮説、マーカーとしての一塩基多型、連鎖不平衡マッピング、DWAS、日本人における2型糖尿病GWAS、遺伝学的に独特な集団を用いた解析の有用性について述べた。
小川 千里 Ogawa Olivia C.
才能教育下にある大学生アスリートは,幼少期からライフスタイルと家族らとの関係が限定的であるという点で特異性がある。この特異性が,彼らの心の発達に影響し,心理的依存が生じる可能性が高い。本研究は,幼少期から才能教育下にある大学生アスリートを対象とし,その心理的依存と自立に対する支援について,関連する研究の動向についての検討することを目的とする。このため、スポーツ選手の心理的問題とその支援に関する先行研究について、主としてスポーツ心理学領域,臨床スポーツ心理学領域から概観した。競技力向上を主眼とした研究では,自己形成を支援しようとしていても,競技力向上とのバランスの難しく,選手の心の成長に欠かせない家族・家族的立場にある人(監督・コーチなどの指導者ら)との関係性が明らかになりづらかった。しかし,臨床心理学的観点から選手の内的世界を検討した小川(2013)の研究から,才能教育下にある大学生アスリートの依存と家族・家族的関係の関連性,心の発達の未熟さが鮮明になっていた。最後に才能教育下のアスリートの心の発達,研究の将来性,隣接分野への適用について議論した。
野底 武浩 Nosoko Takehiro
研究概要:鉛直面を流下する液膜のガス吸収の表面波による促進の機構を明らかにし、そのモデルを構築するため、任意の周波数の二次元および三次元の表面波を形成させ得る手法を開発し、実験的研究を行った。著者らのものを含めた最近の研究によれば、液膜表面波内には渦が生じ、その渦度は波の速度と単調増加の関係にあること、およびこの渦がガス吸収促進に重要な役割を演じていることが知られている。そのため、本研究では主として、二次元および三次元表面波の運動特性を詳細に調べ、以下の知見を得た。二次元波においては、波数の増加に伴い、波の速度は初め減少し、最小値を取った後、単調に増加する。波の速度が減少する領域では、重力により駆動される液膜流れの慣性力が波の運動において支配的となり、波の内部に大きな渦を生じさせる。波数の大きな領域では、表面張力の作用が支配的となり、それが波の振幅を小さくし、内部の渦運動を減少・消滅させる。三次元波は、流れの慣性力が支配的な波数の小さな領域でのみ生成し、その内部に渦運動を保持する。速度すなわち渦度の小さい波は、ゆるやかな曲率の正弦波の形状を取り、一方、速度すなわち渦度の大きな波は、馬蹄の形状を取り、流下と共に馬蹄の形状が伸長する。また、この伸長の過程で、波全体としては減速する。この様な馬蹄形表面波は、一様流中の固体壁の速度境界層において、層流から乱流への遷移の初期に観察される∧渦、あるいは発達した乱流境界層中の粘性層流底層から生じる馬蹄形渦とほぼ同様な形状をしており、それらの運動に関する相似性についても議論した。本研究で得られた、流下液膜の二次元および三次元の表面波(すなわち渦)の運動に関する知見は、ガス吸収促進の機構解明およびモデル化に不可欠な基礎資料となるものである。
永岡, 崇
本稿は、異なる立場の人びとが「知の協働制作者」(Johannes Fabian)として直接的に接触・交渉しあいながら宗教の歴史を描いていく営みを協働表象と名づけ、具体的な事例を検討しながらその意義を明らかにしようとするものである。その事例は、一九六〇年代に行われた『大本七十年史』編纂事業である。近代日本の代表的な新宗教として知られる大本が、歴史学者・宗教学者らとともに作りあげた『七十年史』は、協働表象の困難さと可能性を際立った形で提示している。
渡部, 鮎美 Watanabe, Ayumi
本論文は日本の稲作技術が機械化されていった1960年代後半から1970年代前半にかけての転換期において,人々がいかに技術を選択していったのかを論じるものである。一般に,転換期は在地の多様な稲作技術が機械化され,全国一律の技術に画一化していった時期であると考えられている。ところが,転換期には各地の農家が様々な新技術を開発してもいた。こうした稲作技術の多様化はどのようにしておこったのであろうか。
青木, 睦 加藤, 聖文 西村, 慎太郎 渡辺, 浩一 荒木, 仁朗 高科, 真紀 早川, 和宏 マシュー, デービス 澤井, 一彰 堀地, 明 菅原, 未宇 AOKI, Mutsumi KATO, Kiyofumi NISHIMURA, Shintaro WATANABE, Koichi ARAKI, Jiro TAKASHINA, Maki HAYAKAWA, Kazuhiro DAVIES, Matthew SAWAI, Kazuhiro HORICHI, Akira SUGAWARA, Miu
人間文化研究機構広領域連携型基幹研究「日本列島における地域社会変貌・災害からの地域文化の再構築」のなかの国文学研究資料館ユニット「人命環境アーカイブズの過去・現在・未来に関する双方向的研究」は、国文学研究資料館基幹研究「アーカイブズと地域持続に関する研究」と緊密な連携をはかりつつ、調査・研究活動を進めている。今年度の活動を、①民間資料、②公文書、③災害資料・災害史の対比、の三つに分けて、ここで簡単に紹介しておきたい。詳しくは本文を参照されたい。なお本書の編集は堀内暢行(本研究プロジェクト研究員)が担当した。記して感謝したい。
中村 衛 Nakamura Mamoru
研究概要(和文):琉球海溝に固着域が存在するか否かを明らかにするため、中部琉球海溝で海底地殻変動観測を開始し、琉球海溝付近前孤側でのプレート間カップリングを検出する試みをおこなった。2年間の観測から、海底局群が沖縄本島に対して北西方向に7cm/yrで移動したことが明らかにった。予想される固着域の幅は約30-50kmである。このように琉球海溝の海溝軸付近には固着域が存在しプレート間カップリング領域が形成されていることが明らかになった。
金城 満 Kinjo Mitsuru
この実践は筆者の中学校美術教師としての発見や思考を絵画制作と作文を組み合わせた、家族をテーマにしたものである。実践例は中学生美術を学校教育の教科の一つとしての範囲だけで捉えさせるのではなく、生涯を通して自己や社会を見つめ、表現するための手段と位置づけて行った。表現を介在させる事で促される美術的思考力により、「家族」を見つめさせて、「最近接発達領域」の学習理論のモデルを借りて本実践を振り返った。
富士栄 登美子 Fujie Tomiko
私たちが目指している幸福は、地球に住む全ての人たちと同じである。そして、それは家族が単位なのである。“家族とは何か”この基本的で重要な課題に取り組みながら、そのプロセスの中で、人間が生きていく上での大切なものを具体的に生徒たちに理解させたいと考えた。家族と家庭生活にかかわる領域の授業の中で、生徒の関心を高めるための教材として、落語、映画、新聞などを使って現代の家族の問題を探ろうとした。
東, 潮 Azuma, Ushio
高句麗・百済・新羅・加耶における横穴式石室墳の出現とその発展過程を時間的・地域的に通観するなかで,諸国間の政治的領域関係などの問題の一端を解明した。その基礎的作業として,朝鮮半島全域に分布する横穴式石室の型式学的編年をおこない,高句麗では平壌型石室,百済では宋山里型・陵山里型,新羅では忠孝里型石室を設定した。そして,これらの石室が石室構造・分布関係などの把握を通じて政治的性格をもっていることを明らかにした。
寺田, 匡宏 Terada, Masahiro
本稿の課題は,現代のミュージアムとメモリアルにおける過去想起にともなう感情操作のあり方の特徴を明らかにすることである。過去想起といってもその領域は多岐に渡るが,本稿では,事例として第2次大戦中におけるナチス・ドイツが行ったユダヤ人迫害(ホロコースト,ショアー)に焦点を絞る。その理由は,この問題に関してヨーロッパにおいてさまざまな試みが見られ,標記の課題に多くの論点を提供しているからである。
市川, 隆之 Ichikawa, Takayuki
長野県北部にある善光寺平には条里型地割が認められる地点がいくつかある。そのひとつ更埴条里遺跡において初めて埋没条里型水田が確認されたが,その後,石川条里遺跡や川田条里遺跡でも同時期の埋没条里型水田跡や古代の水田跡の存在が明らかにされた。何れも千曲川沿岸の後背低地に立地する遺跡であるが,近年,これらの遺跡が高速道路・新幹線建設に伴って大規模に発掘調査されたことから新たな知見がもたらされた。本稿ではこれらの発掘調査成果を中心に善光寺平南部の古代水田の様相を紹介するものである。
押川 渡 Oshikawa Wataru
研究概要:島嶼地域における社会資本の維持管理のために,実際の大型鋼構造物の部位別腐食環境評価をACMセンサを用いて行った。センサ出力と腐食量の関係は,1 ヶ月の短期間の測定においては,センサ出力が低い領域で,従来の結果よりも腐食速度が大きくなっていた。1 年間にわたり継続して計測したセンサ出力と腐食量の関係は,降雨がかからない内桁では屋内の関係式と一致しており,外桁では屋外の関係式で表されることが判明した。
新藤, 協三 SINDO, Kyozo
藤原公任編纂『三十六人撰』に端を発する「三十六人歌合」は、単に和歌文学史上にのみ享受されるばかりでなく、絵巻など絵画の分野に素材を供給し、また、書道の世界でも手本として受容されるなど、幅広い領域に伝播する。本稿では、特に入木道(書道)の分野に於いて、三十六人歌合が如何に受容、享受されるのか、管見した諸資料に基づいて、可能な限り具体的にその跡づけを行い、併せて、該書が入木道に受容されることの意味をも考えてみたい。
石井, 久雄 ISII, Hisao
現代語のある表現・意味を,古代語ではどのように表現していたか。その問題にかかわる研究領域は,表現史として設定されうるであろう。そうして,その研究の成果の集約として,現代語=古代語辞典の編集を想定しながら,どのような作業がかんがえられるかを,のべる。(1)語彙研究の成果を検討する,(2)古代語作品の現代語訳を検索する,(3)古辞書を利用する,(4)古語辞典の記述を参照する,というような作業である。
竹村, 民郎
大連勧業博覧会(以下大連勧業博と略す)が一九二五年八月十日に、大連市で幕をあけた。これは博覧会と植民地主義との結合というものの輪郭をしめすのに大きく寄与した。博覧会が開催された時期は、大連市で新市制が施行された年(一九二五年)である。さらに言うならば中国上海市における五・三〇事件勃発及び満州における国際資本戦が激化し始めた時代でもある。この帝国の危機は合理的な満蒙政策と結びついた「文化主義的支配」と称されているものへの転換を導いていくこととなる。
佐藤 茂俊 新城 長有 Sato Shigetoshi Shinjo Choyu
3種の遺伝子(pgl、 Rf_1およびfgl)からなる連鎖地図がShinjo^<18)>により報告されたが、 同連鎖群に染色体的基礎を与える目的で、 第7染色体を含む6種の相互転座系統を用いて、 3遺伝子それぞれについて連鎖分析を行った。その結果を摘録すると以下の如くである。1)3遺伝子はいずれも第7染色体に座位することが明らかとなった。2)3遺伝子と第7染色体を含む6転座点の配列は、 pgl-7-8b-Rf_1-fgl-7-11-6-7-3-7-7-9-7-8aと推定された。3)Nagao and Takahashi^<10)>の連鎖群は第7染色体とは関連がなかったことから、 本連鎖群は併合して欠員となったものにかわる新連鎖群であると考えられる。
冨井, 眞 Tomii, Makoto
遺跡や竪穴住居等の遺構の少ない近畿・中国地方における縄文時代の集団動態論は,遺跡を列記していく空間軸と,土器型式ないし相対的な時期表現の目盛りからなる時間軸とで構成される,<遺跡の消長>と呼ばれる図表を作成しながら,個別データを解釈する形で進められてきた。50年以上前にその手法によって研究が進められたときには,定着性を帯びた定住的狩猟採集民,という前提的な認識のもとで,①遺物がわずかでも出土していればその時期の人間活動を認め,②その時期を細別型式で示し,③同一型式内でも時間差を設け得ることを認め,④全貌が知られている遺跡(群)を対象にする,といった方法的・論理的な特性がうかがえた。その後は,人間活動の質や量に対する評価基準が定まらないままに,考古資料の増加によって,遺跡の数も遺跡内での活動時期の数も増加してきている。しかし,集団が定着的なことを前提とする以上は,遺跡数が増加すれば集団の領域は狭くなり,遺物や遺構の数の少なさと相まって,必然的に,<小規模集団が狭い領域で拡大を控えて活動していた>という解釈に向かう。あるいは,活動時期が増加すれば,定着性の高い集団による固定的な領域の占有という認識も強化される。また,基礎データ不足のところでは,その前提の適用や典型的地域の成果援用によって,典型地域と同質な状況にあると想定されがちで,画一的な復元像が形成されやすい。このように,検証されることのない前提に縛られ,人間活動の質・量の判断基準や表現が不十分なままに資料が増加していく状況では,推論も資料操作も特定の解釈へ誘導的になり,<小規模集団が小規模空間を固定的に保持しながら,拡大することなく継続的に活動を続けた>という復元像が各地で画一的に生み出されていく。今後は,豊富な資料から縄文社会の多様性を読み解くための,個別事象をたゆまず精査し仮説を前提化せずに検証する方法と論理が期待される。
塩月, 亮子 Shiotsuki, Ryoko
本稿では,従来の静態的社会人類学とは異なる,動態的な観点から災因論を研究することが重要であるという立場から,沖縄における災因論の歴史的変遷を明らかにすることを試みた。その結果,沖縄においてユタ(シャーマン)の唱える災因は,近年,生霊や死霊から祖先霊へと次第に変化・収束していることが明らかとなった。その要因のひとつには,近代的「個(自己)」の確立との関連性があげられる。すなわち,災因は,死霊や生霊という自己とは関係のない外在的要因から,徐々に自己と関連する内在的要因に集約されていきつつあるのである。それは,いわゆる「新・新宗教」が,病気や不幸の原因を自己の責任に還元することと類似しており,沖縄だけに限られないグローバルな動きとみなすことができる。だが,完全に自己の行為に災因を還元するのではなく,自分とは繋がってはいるが,やはり先祖という他者の知らせ(あるいは崇り)のせいとする災因論が人々の支持を得るのは,人々がかつての琉球王朝時代における士族のイデオロギーを取り入れ,シジ(系譜)の正統性を自らのアイデンティティの拠り所として探求し始めたことと関連する。このような「系譜によるアイデンティティ確立」への指向性は,例えば女性が始祖であるなど,系譜が士族のイデオロギーに反していていれば不幸になるという観念を生じさせることとなった。
宜保 清一 Gibo Seiichi
(1)国頭礫層土壌と泥灰岩土壌のスレーキングは乾燥過程によって著しく影響され、 PF5.5∿PF6.5の水分状態で高い崩壊率を示し、 その経時変化も顕著である。石灰岩土壌は耐水性であり乾燥過程の影響もほとんど受けない。(2)高含水領域からPF4.5まではスレーキング現象がほとんどみられない。(3)PF6.5∿PF7.0では外皮様薄層が形成されるため崩壊に幾分時間的遅れがあり、 量的にもやや少ない。(4)3試料は、 その主要粘土鉱物組成や理化学的性質を反映し、 スレーキングの形態を異にする。(5)島尻泥灰岩土壌は、 母岩(泥岩)の工学的性質(6、8)を反映し、 他2試料に比して膨張・収縮挙動が顕著である。以上のように、 スレーキング試験は、 雨滴の衝撃作用による供試土崩壊試験(4)の場合と比較して、 低PFと高PF領域において量的に多少異なるものの、 ほぼ同様な崩壊現象を示した。また国頭礫層土壌は、 スレーキングの結果からも高い受食性土壌であることが明らかになった。なお本研究は昭和49年度文部省科学研究費の補助を受けたものの一部である。終りに、 実険にあたって終始協力して下さった専攻生の上運天英夫(現沖縄県土地調査局勤務)と又吉盛正(現沖縄県農林水産部勤務)の両氏に謝意を表したい。
Okihiro Gary Y. オキヒロ ゲーリー Y
本論考は、流動するフィールドとして沖縄研究を記述することにより、島々を主題とする沖縄研究が大陸という神話に抗して叙述を行うことを争点化する。地域的隔たりをまたぐ場所としてのこの領域は地域と地域研究の双方を歴史化する。さらには日本とアメリカ合衆国の周縁である沖縄は国民/民族および均質性についての語りを再想像する場である。まとめて言うならば、沖縄研究とはこれら根本的(foundational)とされてきた空間的・社会的カテゴリーおよび人間の生活条件に関する複数のとらえ方を疑問に付すものである。
橋本, 裕之 Hashimoto, Hiroyuki
本稿は後世の人々が古墳をいかなるものとして解釈してきたのかという関心に立脚しながら,装飾古墳にまつわる各種の伝承をとりあげることによって,装飾古墳における民俗的想像力の性質に接近するものである。そもそも古墳は築造年代をすぎても,その存在理由を更新しながら生き続けるものであると考えられる。古墳は多くのばあい,今日でも地域社会における多種多様な信仰の対象として存在しているのである。といっても,こうした位相に対する関心は考古学の領域にとって,あくまでも周辺的かつ副次的なものであった。
宗前 清貞 Somae Kiyosada
本稿では、我が国で初めて県レベルで条例に基づく行政評価制度を導入した宮城県を事例に、行政評価という新しい行政改革がいかなる要因によって進展したかを分析する。宮城県では前知事の任期中の逮捕と新知事就任まもなく発覚した公費不正支出問題というふたつのスキャンダルを経験した。また、行政評価制度の導入という点では先進自治体ではなかった同県が、いかにして条例制定に進んだかという経緯を明らかにする。その上で、行政評価制度それ自体の透明性を高めるためには、情報公開の延長としての特質が必要であることを明確にする。
佐藤, 一樹
日本人にとって、修辞、典故を踏まえた正統的漢文を書くのは、実際のところ、容易なことではなく、明治初年代、中等教育から漢作文を排除する井上毅の方針は、教育関係者にすんなりと受け入れられた。しかしながら、長年にわたり文体ヒエラルキーの頂点に君臨していた漢文が、単なる教育課程の再編だけで、文化的、社会的役割が一挙に変化するわけでもない。本稿では、政府が力を入れた正史編纂事業の成果である『稿本国史眼』、および漢文体著作の最後のベストセラーである漢文戯作『東京新繁昌記』を取り上げ、明治前・中期の退潮期に、漢文体著作がどう変貌していったかを検証する。
川崎, 衿子
大正デモクラシーが華やかに進行する時期に、住宅設計・住宅建設に関してプロテスタンティズムの立場から同じような背景をもって活動した三人の人物が存在した。一九〇九(明治四二)年に「あめりか屋」を設立した橋口信助、一九〇七(明治四〇)年に「近江ミッション」を設立したW・M・ヴォーリズ、建築設計を始めた後一九二一(大正一〇)年、「文化学院」を創設した西村伊作らは、共通して伝承的な日本住宅や住まい方を因習と指摘した。そして新時代に相応しい人間形成を望むには住宅の変革を優先課題にすべきであるとして、そのモデルをアメリカの住宅の中に見出した。
小野, 芳彦
文化系の研究にコンピューターを有効に用いる例として、近来議論されている衆議院小選挙区制の都道府県別定数配分案の各種を、表計算型言語を用いてシミュレートするものを取り上げる。表計算型言語が本来持つ特質としてプログラミングとデータの設定が簡単であることからばかりでなく、詳細な検討のためのグラフが手軽に表示できることなどから、コンピューターに不慣れな研究者でも利用が容易であることを、実例に基づいて説明する。さらに、例として用いた配分法の検討から、新しい配分法を創案するに至る過程を述べる。この新配分法は、一票の平等性を既知の配分法よりもより良く満たすものである。
浅原, 正幸 南部, 智史 佐野, 真一郎
本稿では日本語の二重目的語構文の基本語順について予測する統計モデルについて議論する。『現代日本語書き言葉均衡コーパス』コアデータに係り受け構造・述語項構造・共参照情報を悉皆付与したデータから、二重目的語構文を抽出し、格要素と述語要素に分類語彙表番号を付与したうえで、ベイジアン線形混合モデルにより分析を行った。結果、名詞句の情報構造の効果として知られている旧情報が新情報よりも先行する現象と、モーラ数が多いものが少ないものに先行する現象が確認された。分類語彙表番号による効果は、今回の分析では確認されなかった。
呉屋, 淳子 Goya, Junko
近年,学校教育のなかで民俗芸能が積極的に行われている。学校教育で教えられている民俗芸能を見てみると,その在りようは,年々多様化している。特に,2006(平成18)年の教育基本法改訂に伴い,『新学習指導要領』のなかで「伝統の継承」に関する文言が明記され,正規の教育課程でも「伝統と文化」に関わる教科・科目の導入が顕著となってきている。本稿で取り上げる沖縄県八重山諸島石垣島に所在する3つの高等学校で導入された八重山芸能も,『高等学校学習指導要領』改訂に伴う教育課程の再編成によって実施されている。
陳 麗婷 森 浩平 田中 敦士 張 瑋容 Chen Liting Mori Kohei Tanaka Atsushi Chang Weijung
日本における高等学校での特別支援教育については、校内委員会やコーディネーターの設置といった基礎的な体制整備は徐々に進んできてはいるがまだ不十分であり、実際には機能していない場合もあり、量的な体制の確立だけでなく支援の質の担保が望まれる。それに対して、台湾では高等学校のうち、普通教育を主とする普通科高校や、職業教育を主とする専門高校でも特別支援教育が可能となるよう配慮がなされている。こうした台湾での教育システムが、日本における今後の特別支援教育体制の強制を考える上で少なからず参考になると考えられる。本稿では、台湾の普通科高校と専門高校における特別支援教育についての現状及び専門高校における新学習指導要領を紹介し、本要領の意義と課題を紹介した。
Ishihara Masahide 石原 昌英
Kiparsky(1982)による「語彙音韻論」の提唱以来、“ungrammaticality”のような複雑な構造をした語の文法性は1980年代の音韻論の中心テーマの一つとして多くの研究がなされた。その理由は、語彙音韻論の観点から、この例のように実際に存在する語が非文法的とされるので、いわゆる、プラケティング・パラドクスの問題を解決し、このような語の文法性を明確にする必要が生じたからである。しかしながら、本稿に示されるように、先行研究の多くが何らかの問題を含んでいる。本稿では、先行研究にみられる問題を克服し、プラケティング・パラドクスの問題の解決を試みる。\nInkelas(1989)が「語彙音韻論」から発展させて確立した「韻律語彙音韻論」によると形態表示と音韻表示はそれぞれ独立した構成素を持つ。言い換えると、形態規則が適用される領域と音韻規則が適用される領域はそれぞれ独立していて、重なり合うものではない。この形態表示と音韻表示の分離は、接辞の形態的下位範疇指定と音韻的下位範疇指定を可能にする。本稿では接辞の二重範疇指定を利用してブラケティング・パラドクスの問題の解決を提唱する。この解決法に基づくと、“ungrammaticality”のような語はブラケティング・パラドクスを含まない文法的な語として分析される。また、韻律音韻論にもとづいた解決法では、先行研究の解決法で生成することができた非文法的な語(例えば“inantireligious”)も確実に排除できる。
松森, 晶子 MATSUMORI, Akiko
琉球諸語の先行研究では,宮古島の与那覇方言は「ごく区別のしにくい」2つの種類の音調から成り立っており,そのためこの方言は型の「曖昧化」の一途をたどっている,と記述されてきた。これに対し本稿では,この与那覇方言の2つの種類の型は,特定の条件を満たした文節の中で非常に明瞭に区別でき,それには「3モーラがひとつの単位となってフットを形成し,H音調はそのフットに実現する」という制約が関与していることを論じる。さらに本稿では,この方言のアクセントが,これまで記述されてきたような「2型体系」なのではなく,れっきとした「3型体系」であることを,特にその「複合語のアクセント」に焦点を当てて示す。また,その3種の音調型のすべてが明らかになるためには,少なくとも「3つ」の音調領域が並ぶ必要がある,ということも提案する。さらに,このような「フットの成立が型の区別とかかわる」ことや「3つの音調領域が並んだ場合に,はじめて3つの型の区別が出現する」といった与那覇方言の特徴は,他の宮古諸島の方言にも共通して見られる特性である可能性を示唆し,このようなことを前提とした新たな観察法や着眼点によって,今後も宮古島に3型体系が発見される可能性があることも,あわせて論じる。
藤井, 聖子 佐々木, 倫子
日本語教育センター第二研究室では、現在、英語、スペイン語、ポルトガル語、フランス語それぞれの言語に関して、日本語との対照研究を進めている。日英対照としては、現時点では、談話・語用論上の対照を押し進めるため、会話スタイルの分析を行っている。日西では、統語現象と意味の問題を取り上げている。日葡対照としては、ブラジル人と日本人との言語接触の局面を、社会言語学的アプローチで調査している。日仏では、音声、特にアクセント、イントネーション、音声言語コミュニケーションに付随するジェスチャーを取り上げ、音声及びパラ言語の領域における対照を進めている。
白尾 裕志 Shirao Hiroshi
「自由研究」は1947年3月20日に公示された「学習指導要領一般編(試案)」 で「教科課程」の1教科として創設された。しかし1951年の学習指導要領で廃止され、「教科以外の活動」及び「教育課程」が成立した。本稿では自由研究の廃止過程の経過と当時の文部省で自由研究の推進と1951年の学習指導要領における幕引きにあたった「木宮乾峰」による教育課程概念の特徴を明らかにしていく。自由研究は、教科課程における位置づけや運用方法において混乱や停滞が生じた。文部省は、自由研究の実践が困難に陥った状態をふまえて、自由研究の運用解釈を変化させていき、1951年6月の教育課程審議会答申での「自由研究廃止」となった。しかし1949年の教育課程審議会では、木宮らが中心となった自由研究と「内容はかわらない」とされた「選擇学習」の両構想があったとされる。「教科の学習の発展」として独自の目的をもった領域を教育課程の中に位置づける方向性が模索されていたその構想は実現しなかったが、教科の学習の発展にかかわる領域の教育課程への位置付けがなくなったことは、教科自体の知識の総合化のための時間や単元がない状況で、教科の学習の発展が困難になっていったことにつながった。その結果、教科による総合性という実践展開の可能性を狭めていったのである。
渡部, 育子 Watanabe, Ikuko
近年、古代東北史研究は北海道や東北アジア地域との交流を視野に入れたことによって大きな進展をみせた。とくに、それらの地域と直接的な関係をもつ出羽国研究の重要性が増す。ただし、出羽国とはいっても現在の山形・秋田二県にまたがる領域のなかの各地域の特質には異なる部分がある。庄内と秋田は同じ日本海沿岸の一地域であるが、律令制下において異なる位置づけをされる部分があった。本稿は、秋田を中心に、この二つの地域的特質の差異を明瞭にすることによって、律令国家の出羽経営の意義を明らかにするものである。
Hijirida Kyoko 聖田 京子
ハワイ大学東アジア言語・文学科では2004年秋学期より新講座「沖縄の言語と文化」を開講した。それに先立つ2年間の準備期間中に,担当教員2人(聖田京子,Leon Serafim)が,ハワイ大学及びハワイ地域社会の支援を得て,沖縄へ赴き資料収集を行った。琉球大学等とのネットワークを形成すると共に,豊富な資料・教材を収集することができ,講座開講に向けて,教材作成を中心とするカリキュラムの準備を順調に進めることができた。 コース内容は文化を中心にした楽しい沖縄学と,聞き,話し,読み,書きの4技能の習得及び基本的な言語構造を理解する沖縄語の初級レベルを設定した。言語学習には,まず表記法と,言語と文化の教科書を決めることが重要な課題であったが,琉球大学と沖縄国際大学の関係者の支援により解決することができた。 文化に関するコース内容は,年中行事,諺,歴史上の人物,民話,歌(琉歌を含む)と踊り,料理,ハワイの沖縄コミュニティーなどの領域を取り上げた。特に,沖縄の文化的特徴や価値観などを表すユイマール,イチヤリバチョーデー,かちゃーしーなどは,クラスのプロセスで実践による習得を目指した。 基本的な学習が終わると,学生は各自のテーマで研究し,ペーパーを書き,発表することとし,それによりクラス全員が更に沖縄学の幅と深みを加え,沖縄理解に至ることを目指した。 学生の取り上げた研究テーマは,沖縄の基地問題や平和記念館,平和の礎,ひめゆり部隊,沖縄の祭り,行事,観光,エイサー,歌手,空手,三線,紅型,ムーチー(民話),紅芋など多岐にわたっており,学生の沖縄に対する関心の幅広さがうかがわれた。 当講座の全体の教育目標は以下のように設定した。1)沖縄語の言語研究上の重要性を理解すると共に,基本文法を習得し,初級レベルでのコミュニケーション実践をタスクで学ぶ。2)沖縄文化を理解し,その価値観や考え方をクラスでの実践を通して学ぶ。3)ハワイにおける沖縄県系人コミュニティーの文化活動に気軽に参加し,かつ楽しめるようになる。 当講座は,開講以来,受講希望者がコースの定員を上回る状況であり,当大学の学生の沖縄の言語や文化への関心の高さを示している。かちゃーしーやユイマール,沖縄料理などの文化体験は大変好評で,講座終了後のコース評価では,沖縄語をもっと学びたい,沖縄文化をもっと知りたいという学生からの声が多く寄せられた。
Takara Tetsuo 高良 鉄夫
本文は琉球(旧沖縄県)産ウンカ Delphacidae の種類,分布,寄主組物,発生時期等について収録したものである。12属14種を掲げたが,そのうち,クロコブウンカ Tropidocephala nigra,ホソミドリウンカ Saccharosydne procerus は琉球から今回はじめて記録されるものであり,タロイモウンカ Tarophagus proser pina は沖縄島を新産地として記録した。被害の著しいものはセジロウンカ Sogata furcifera,トウモロコシウンカ Peregrinus maidis,タロイモウンカの3種で,セジロウンカは8月~9月にかけて特に山間地の水田に多く発生する。タロイモウンカは5月~6月にかけて局地的に発生し,そのため若いミズイモは枯死するものがある。トウモロコシウンカは特に新開地のトウモロコシに多く発生し,幼植物を枯死させる。なおその他に若干の未同定種があるが,これらについては他日報告したい。
森 力 兼本 清寿 Mori Chikara Kanemoto Kiyohisa
新学習指導要領の小学校算数科の目標に「数学的に考える資質・能力を育成する」ことが示され,その実現に向けた授業改善が求められている。そこで,「問題解決」に視点を当て,算数科における「概念や方略」を明示する授業実践を試みた。その結果,「板書で算数用語や式,数直線等を明示すること」や、奈須(2015)の示した「オーセンティックな学習と明示的な指導の適切な組み合わせ」は,問題解決力を高めるには有効であることが見えてきた。本稿では,2つの単元の授業実践を通して,明示的な指導の効果と今後の算数科の授業改善について,考察を中心に報告するものである。
岡本 牧子 Okamoto Makiko
本研究では、本学で行われている基礎製図の講義の一部として、3DCAD と3D プリンターを活用した協働学習を行った。その結果、協働製作物などの課題の与え方によって、完成品の評価だけにとどまらず、製作過程における、学習者同士による意見交換を通じたお互いを高め合うまなび、すなわち協働学習が可能であることが確認できた。また、3D デジタル機器は中学校技術科での各領域における体系的な授業づくりと、「最適化」の効果的な学習に有効であり、その条件として小学校におけるプログラミング教育などの情報関連教育との連携が重要である。
澤田, 淳 SAWADA, Jun
現代共通語の「やる/くれる」は,「方向性」,ないしは,「視点」の制約を有する直示授与動詞である。一方,古代中央語では,「くれる」(古代語では下二「くる」)は,求心的方向への授与,非求心的(遠心的)方向への授与のどちらでも使われる非直示授与動詞であり,「やる」は,授与動詞ではなく,「おこす」と対立をなす非求心的な直示移送動詞であったことが知られている。本稿では,主に,「くれる」が求心的授与の方向に意味領域を縮小させ,受け手寄りの視点制約を成立させた要因・背景について考察を行う。
小島, 美子 Kojima, Tomiko
日本音楽の起源を論じる場合に,他分野では深い関係が指摘されているツングース系諸民族についてその音楽を検討してみなければならない。しかしこれまではモンゴルの音楽についての情報は比較的多かったが,ツングース系諸民族の音楽については,情報がきわめて乏しかった。そのため私は満族文化研究会の共同研究「満族文化の基礎的資料に関する緊急調査研究―とくに民俗学と歴史学の領域において―」(トヨタ財団の研究助成による)に加わり,1990年2月に満族の音楽について調査を行った。本稿はその調査の成果に基づく研究報告である。
四方 正義 Shikata Masayoshi
桑新系統「R1」は、 土質が悪い上に肥培管理が必ずしも十分でなくて、 気温が20℃以下に下がる冬期(12月-2月)を経過する場合でも、 その交雑親木の両品種よりも生長が旺盛であった。さらにR1は季節風の強い冬期を越した時期でもシマグワに似て新葉に混じって古い葉を付着している。赤渋病のり病性はどの桑品種も一般に新葉が最もかかり易いようであるが、 R1は冬期でもかかり易い新葉が存在するためシマグワに比較して被害が顕著に見られることがある。以上の結果、 R1は冬期でも良く生長し、 季節風の強い時期でもシマグワに似て落葉が少ないので、 八重山における冬期の飼育にも供用出来て、 周年飼育の目的に合う桑品種と言えるであろう。ただ、 冬期に生長することは、 赤渋病にり病し易い状態にある訳で十分に注意することが必要であろう。
桑原 浩 Kuwabara Hiroshi
本研究の目的は、デステイネーションマーケティングの視点から、各観光地における観光客の飲食庖体験の特徴を把握する新手法を、試行し提案することであった。具体的には、観光地における食の地域性の肯定的知覚を成果指標として、それに影響する飲食庖体験の属性を線形重回帰モデルによって確認し、その属性情報によって観光地の特徴を把握するという手法である。本手法の有効性を検討するために、北海道と京都府への観光客から得たデータにこの手法を適用した結果と、地域毎の体験属性の直接測定結果とを比較した。その結果、前者の結果が後者の結果以上に、DMOの意志決定に貢献できる明瞭な情報をもたらすという事例が示された。
岩佐, 光広 金田, 英子 ポングホングサ, ティエンカム ブッパ, ブンニョン 門司, 和彦
以下の報告はラオス・サバナケット県・ソンコン郡・ラハナム地区6 村において実施した、村の現状と過去20 年の変化の状況についての簡易聞取り調査の結果である。聞取りに用いた質問紙はCODE: Community- Oriented Development Ecology Project (Moji et al., 1998; Ohtsuka et al., 2002) に使用されたものであり、少数の村人に集まってもらい地区の様々な側面について現在の状況と過去20 年の変化を聞きだすものである。村の概要を把握するのに有効であり、そこから問題の所在が見えてきて研究を深化させるべき課題を発想する助けともなる。また、長期に滞在していても個人の興味は偏っているため、多くの新発見をすることができる。
奈倉, 哲三 Nagura, Tetsuzo
戊辰戦争期に江戸で生活していた多くの市民・民衆は、東征軍による江戸駐留に対して拒否的な反応を示していた。「新政府」は江戸民衆のそうした政治意識を圧殺・再編せざるを得ず、両者の間で激しい抗争が展開される。この抗争は、新旧両権力間で展開している戊辰戦争とは異なる、もう一つの戊辰戦争である。本稿は、このもう一つの戊辰戦争を、民衆思想史の視点から解明したものである。ただし、本稿は正月十二日慶喜東帰から四月二十一日大総督宮入城までに限定し、その間に江戸民衆の眼前で生起した事象を分析し、江戸民衆の意識・思想をめぐる抗争の特質を解明した。
浦崎 武 武田 喜乃恵 崎濱 朋子 Urasaki Takeshi Takeda Kinoe Sakihama Tomoko
琉球大学教育学部附属発達支援教育実践センターは「障害児・者の支援・教育に関わる学生・教員の実践力殻成機能の充実と地域の学校や教育行政機関との協働支援を行う地域拠点の構築」と題する中期計画達成プロジェクトを実施した。プロジェクトの中核となるトータル支援活動を通して、多様な課題がより鮮明になり、今まで以上に障害児・者への支援・教育は乳幼児期から成人期までの生涯におよぶ一貫した具体的な支援・教育とともに、地域の特性に基づいた支援・教育が求められた。また、より一層の福祉、医療、保健、労働等近接領域間の連携・協働による支援・教育体制の整備やネットワークの構築が求められた。
齋藤, 努 Saito, Tsutomu
新しく開発された「高周波加熱分離―鉛同位体比測定法」によって,奈良三彩,平安緑釉陶器の鉛釉を対象として鉛同位体比測定を行った。産地,年代を明確におさえることができる窯跡出土資料を中心とした。ただし奈良三彩などについては考察に十分な数の窯跡の資料を得るのが困難であるため,消費地の資料を含めた。その結果,ほとんど全てのデータがきわめて狭い領域に集中する値を示した。これは,山口県美東町の長登銅山跡,平原遺跡から出土した鉛製錬関係資料や銅鉱石の数値とよく一致しており,この地域から一括して原料が供給された可能性が高い。
古宮, 嘉那子 田邊, 絢 新納, 浩幸 KOMIYA, Kanako TANABE, Aya SHINNOU, Hiroyuki
語義タグ付きコーパスを用いた現代日本語の語義曖昧性解消の研究は数多い。しかし,入手可能なタグ付きコーパスが少ないため,日本語の古典語の語義曖昧性解消を高性能に行うことは難しい。そのため,現代日本語文を用いて通時的な領域適応を行うことは,古典語の語義曖昧性解消の性能を高めるひとつの解決方法であると考えられる。本研究では,日本語の古典語の語義曖昧性解消において,領域適応手法のひとつである,分散表現のfine-tuningの効果について調べる。現代文の分散表現であるNWJC2vecの古典語によるfine-tuningや,古典語によって作成した分散表現の現代文によるfine-tuningなど,様々なfine-tuningのシナリオを検証した。さらに,NWJC2vecを古典語でfine-tuningする際には,時代順に段階的に分散表現をfine-tuningする手法についても試した。語義曖昧性解消の対象語の前後二語ずつの単語の分散表現を素性とし,Support Vector Machineの分類器に用いて分類を行った。シナリオは(1)現代文のコーパスの全用例と古典語のコーパスの用例8割を訓練事例とし,残りの2割の古典語の用例をテストとして利用する場合,(2)古典語の用例だけを利用して五分割交差検定を行った場合,(3)現代文のコーパスの全用例を訓練事例とし,古典語全用例をテストする場合の三通りを比較した。最高の精度となったのは,(2)古典語の用例だけを利用したシナリオで,古典語によって作成した分散表現に現代文によるfine-tuningを行った場合であった。
後藤 雅彦 Goto Masahiko
水と人間の関係に関しては多岐にわたるが、考古学的に水利用に関わる遺構ということになると、人工構築物である井戸は大きな存在であり、日本においては弥生時代以降、稲作文化複合として社会的な要求として井戸掘削が行われたとされる。中国における稲作先進地域である長江下流域では新石器時代から井戸を伴う遺跡が多く、稲作が南へ拡散する時期である紀元前2000年以降の馬橋文化においても素掘り井戸が継続して掘削される。本稿では、この馬橋文化にいたる長江下流域における井戸掘削の流れと周辺への広がりについて検討し、水と人間との関係として井戸掘削の背景について若干の考察を加えた。
知念 秀明 Chinen Hideaki 中尾 達馬 Nakao Tatsuma
本研究の目的は,高校生827名(高校1年生289名,2年生277名,3年生261名)を対象に,1学期のはじめ(4月)と2学期のはじめ(9月)に行われる実力テストの際に,キャリア意識尺度を実施し,⒜ 学年や性別によるキャリア意識の違い,⒝ 全体,学年別,男女別にキャリア意識と学力との関連性を明らかにすることであった。調査の結果,以下の5点が示された。すなわち,⒜ 女子は,男子に比べて,キャリア意識の4領域全ての得点が有意に高かった。⒝ 高校1年生や3年生は,2年生に比べて,キャリア意識の4領域全ての得点が有意に高かった。⒞ 人間関係形成,将来設計,意思決定については,1年生においてのみ,第1回調査(4月)に比べて,第2回調査(9月)の方が得点は有意に低かった。⒟ 人間関係形成と意思決定は,第1回調査時点では,高校1年生と3年生の得点間に有意差はなかったが,第2回調査時点では,高校3年生は,高校1年生に比べて,得点が有意に高かった。⒠ 実力テスト合計点は,情報活用,将来設計,意思決定と有意な弱い正の相関があった。本研究の学術的貢献は,⒜ 学年進行に伴うキャリア意識のU字型の変化は,1年生の1学期にはじまることを実証したこと,⒝ 「学力とキャリア意識は連動しているというよりは,むしろ,関連性が弱く,それぞれが独立したものとして存在している可能性が高い」という知念・中尾(2018)の主張を全学年において確認したことである。
比嘉 俊 川上 一 森 力 Higa Takashi Kawakami Hajime Mori Chikara
国立大学法人琉球大学は2016年4月に教職大学院を開院したことにより,教育学研究科には従来の修士課程と合わせて二課程の大学院を持っている。これらの大学院への新入院生は,彼ら彼女らの目的に応じて教職大学院と修士課程の課程を選択していると思われる。そこで,両課程の2016年4月入学の院生へ大学院進学への動機などを調査し,その相違を検討した。教職大学院入学生は大学院へ「教員としての実践力」を望んでおり,修士課程の方は「学術的研究」を求めている。両課程に共通している部分としては,両課程の現職教員は大学院に学術的な科目内容を期待している。この理由として,教育現場では,学術的な研鑽を積む時間やその人材に触れる機会がかなり少ないと考える。両課程の院生の入学目的に違いがあることから,今後,琉球大学は院生の志望動機に応\nじた科目の提供などの地域への貢献が求められる。
西谷, 大 Nishitani, Masaru
中国東南部は,およそ淅江・湖南・江西・広東という広範囲の地域を指す。この地域は,漢書によれば「交阯より会稽に至る七,八千里,百越雑処す,各種姓有り」とあり,いわゆる印紋陶が分布する地域に重なって,「百越」と表現されるさまざまな諸族が居住していたと思われる。さらに,春秋戦国期には,呉・越が,秦から前漢期には,南海貿易を支配した南越国が出現し,中原と争う程の勢力を持つようになる。このように,春秋戦国期以降,中国東南部は歴史学上,政治的,文化的に一定の発展を遂げているが,それ以前,先史時代からのつながりの中で,一体どのような歴史的経過をたどってきたのだろうか。本稿では,東南中国でも遺跡数が多く,時間的な連続性のたどれる,特に江南デルタ以南から珠江デルタにかけての沿岸地域に注目し,新石器時代中期から晩期をとりあげ,歴史的な動向とその内在的変化の要因について考察する。
山本, 陽史 YAMAMOTO, Haruhumi
天明三年四月二十五日に江戸で開催された宝合会と、その記録として出版された『狂文宝合記』について、『宝合記』に狂文を出している狂歌師・戯作者の所属グループの調査結果を報告し、最近紹介された宝合への参加を慫慂する「報條摺物」の新資料を援用し、また当時開かれた他の催しや出版物との比較を行い、この催しの実態とその意義を探るのをはじめ、周辺の諸問題にも言及した。この催しが元木網グループ、特に万象亭森島中良を中心として、安永の宝合の再現を目指して企画されたことが確認できた。また戯作者と狂歌師との交流が本格的に行われていることで、山東京伝はじめ、天明文壇に影響を与えていったことにも触れている。
小畑, 弘己 真邉, 彩 Obata, Hiroki Manabe, Aya
縄文時代に植物栽培が行われたことは,すべての人が認めるものではないが,今日的な研究成果をみれば,栽培の規模の大小や形態は別として,ほぼ揺るぎないことと思われる。今日の実証的研究の成果によると,縄文時代に栽培されていた植物は,農学や地理学で提唱された照葉樹林文化論や縄文農耕論で想定されていたような作物ではなく,我が国に起源をもつダイズやアズキなどのマメ類やヒエであった。この意味でも,縄文文化は狩猟採集だけを生業にした文化ではなく,植物栽培も取り込んだ多角的な生業戦略を行っていた文化といえる。この点では,朝鮮半島の新石器文化にも相通じる部分がある。
樋口, 雄彦 Higuchi, Takehiko
維新後、旧幕臣は、徳川家に従い静岡へ移住するか、新政府に仕え朝臣となるか、帰農・帰商するかという選択を迫られた。一方、脱走・抗戦という第四の選択肢を選んだ者もいた。箱館五稜郭で官軍に降伏するまで戦った彼らの中には、洋学系の人材が豊富に含まれていた。榎本武揚ら幹部数名を除き、大多数の箱館戦争降伏人は明治三年(一八七〇)までには謹慎処分を解かれ、静岡藩に帰参する。一部の有能な降伏人は静岡・沼津の藩校等に採用されたが、「人減らし」を余儀なくされていた藩の内情では、ほとんどの者は一代限りの藩士身分と三人扶持という最低の扶持米を保障されることが精一杯であった。
大年 邦雄 安元 純 藤原 拓 Ohtoshi Kunio Yasumoto Jun Fujiwara Taku
本研究では、多層地盤からなる海岸不圧帯水層において、Wenner法を用いた電気探査と観測井戸における電気伝導度(EC)の鉛直分布測定とを併せた現地調査を行うことによって、電気探査が推定する塩水侵入深とその深さにおけるECおよび塩分濃度との対応を検証した。その結果、Wenner法を用いた電気探査より推定される塩水侵入深は、ECが3mS/cmに相当する深さ、塩化物イオン濃度では450mg/l程度の深さに対応していることが示された。推定された塩水侵入深は、淡塩境界の混合領域上端付近であり、電気探査は塩水侵入のモニタリング手法として有効であることが示唆された。
吉田 安規良 岩切 宏友 照屋 俊明 伊藤 彰英 Yoshida Akira Iwakiri Hirotomo Teruya Toshiaki Itoh Akihide
琉球大学教育学部と那覇市教育委員会との協定による連携協力事業の一環として那覇市の小学校で理科出前授業を依頼された。筆者らが講師となり2つの小学校で5,6年生を対象に物理・化学領域に関する実験教室を実施した。児童による事後評価の結果から,児童の期待以上の満足度が得られたと評価できる。しかし,実験そのものが失敗したり,児童の理解力を超えたレベルの内容で行ったり,疑問に十分に応えないなど説明が不十分だったりすることが原因となり不満に感じる児童がいた。また,普段と異なる年齢層と対応する際の筆者らの話術や説明内容・方法には工夫の余地がある。
廣瀬, 覚 Hirose, Satoru
本稿では,朝鮮半島南西部の栄山江流域で出土する円筒埴輪の展開過程について,近年の新出資料を踏まえて再検討し,現段階での私見を述べた。具体的には,霊巌・チャラボン古墳,咸平・金山里方台形古墳およびそれと密接な関係にある老迪遺跡から出土した埴輪について,観察所見を踏まえて形態・製作技術の特徴を詳細に検討した。その結果,チャラボン古墳の埴輪は,この地域において一般的である倒立成形技法を用いる円筒埴輪の一群に属すものであることが確認できた。その一方で,金山里古墳・老迪遺跡の埴輪は,日本列島の埴輪と同様に正立成形技法で形作られ,かつ突帯製作に割付技法や押圧技法を用いており,従来,栄山江流域では知られていなかった技術系譜に属すことが明らかとなった。
江口 幸典 嘉陽 進 Eguchi Yukinori Kayo Susumu
研究概要(和文):キジ亜科間の系統関係については、形態学的研究を初め、卵白リゾチーム、DNAハイブリダイゼーション法及びミトコンドリアの塩基配列を基に解析が行われているが、その結果は異なった系統樹を示してきた。そこで生命維持に不可欠なヘモグロビンの配列を決定し、先の結果と比較検討する事を試みた。最初の計画では、血液の入手が困難であることも考慮しPCRを多用する予定であったが、幸いにも血液が入手できたので、今までのデータの蓄積等を考慮し、まずアミノ酸配列の決定を行い、キジ亜科間の系統関係を明らかにした。その結果、ミトコンドリアの塩基配列とは似ているが、アメリカウズラ亜科とホロホロ鳥亜科の関係が逆転している系統樹を得ることができた。この分子系統樹の結果は、現在得られている化石のデータとも一致しているが、残念な事に、アメリカウズラ亜科の分岐に関する化石は発見されていない。今回得られた系統樹をより確信できるよう、若干のアメリカウズラ亜科の種を加え再検討すべきであると考えている。また、これらの解析等と平行して、稀少種への対応の為に羽よりPCR反応ができないかについて検討を重ねてきた。これまでの抽出方法では、DNAの抽出効率が悪いためミトコンドリアDNAの様な多コピー性の領域は、比較的簡単に増幅することが可能であった。しかしミトコンドリア以外の領域を増幅する為には多少問題があるため。DNA抽出方法を改良し、効率よく抽出できるようになった。そこでこれまでに得られたキジ亜科の羽よりDNAを抽出し、PCR反応により増幅する事が可能になり、塩基配列の決定までを行えるようになった。
野中, 健一 池口, 明子 NONAKA, Kenichi IKEGUCHI, Akiko
ビエンチャン平野では、さまざまな種類の小動物が利用されてきた。この研究ではとくに魚介類および昆虫類の利用をその種類と獲得方法、生活空間との結び付きに着目して明らかにした。採集場は集落およびその周辺から、水田、氾濫原、水路、河川・池、林、森など、バリエーションに富んで構成される村落領域の広くにわたっていること、そして自然資源を得るのに、自然環境の卓越した場所だけでなく、農耕空間や集落や道路など人工的な場所が重要な資源獲得の空間となっている。今後、需要の増加と、土地利用や農耕の変化による生息量の減少や採集場所の減少、採集者の増加による競合など資源と採集場所を巡る相克が生じる可能性が考えられる。
辻 瑞樹 佐藤 大樹 Tsuji Mizuki Sato Hiroki
研究概要:アリをモデル生物に、社会性昆虫の赤の女王説の理論を実証的に検討した。主な成果は以下の通り。(1)トビイロケアリの女王において、巣創設時に既存の同種コロニーの巣材を利用させると、死亡率が上がることが判明した。主な原因は様々な昆虫寄生性病原糸状菌であった。感染による死亡率は、後胸側板腺の操作や、女王を世話するワーカーの存在によって影響を受けなかった。この結果は、なぜ多くのアリにおいて、新女王が母巣を継承せず独立するのかを説明できる。(1)トビイロケアリのワーカーを、自巣の巣材および他巣の巣材の中で飼育すると、両者で死亡率に差が出た。前者で死亡率が下がることが多いが、逆の場合もあった。この説明として、寄主遺伝子型×病原体遺伝子型の相互作用、特異的記憶性免疫の存在、他巣の匂いに曝されたことによるストレスがあげられた。さらに、土壌を、オートプレーブで滅菌したもの、ガンマー線により滅菌処理したものを用い、無滅菌のコントロールと比較した。ガンマー線滅菌はオートクレープ滅菌より非破壊的であるため、匂い成分の変化が少なく、ストレス原因説が正しければ本処理区でも無滅菌処理区と似た結果がでると期待された。結果、生存日数に関して無滅菌処理区でのみアリのコロニーの由来と土壌の由来の間に有意な相互作用が見られ、匂いストレスではなく菌との相互作用の関与を主張する仮説を一部示唆する結果が得られた。(3)大きなコロニーほど菌の感染のリスクが高いため、病原菌存在下では小さなコロニーが進化するとの仮説を実験的に検証した。しかし、感染死亡率には予測したようなコロニーサイズ処理区間の差異は認められず、低濃度暴露で死亡率が下がるという予想外の結果が得られた。(4)野外において様々な昆虫寄生性菌類が新発見された。
鈴木, 三男 能城, 修一 田中, 孝尚 小林, 和貴 王, 勇 劉, 建全 鄭, 雲飛 Suzuki, Mitsuo Noshiro, Shuichi Tanaka, Takahisa Kobayashi, Kazutaka Wang, Yong Liu, Jianquan Zheng, Yunfei
ウルシToxicodendron vernicifluum(ウルシ科)は東アジアに固有の落葉高木で,幹からとれる漆液は古くから接着材及び塗料として利用されてきた。日本及び中国の新石器時代遺跡から様々な漆製品が出土しており,新石器時代における植物利用文化を明らかにする上で重要な植物の一つであるとともに日本の縄文文化を特徴づけるものの一つでもある。本研究では現在におけるウルシの分布を明らかにし,ウルシ種内の遺伝的変異を解析した。そして化石証拠に基づいてウルシの最終氷期以降の時空分布について検討した。その結果,ウルシは日本,韓国,中国に分布するが,日本及び韓国のウルシは栽培されているものかあるいはそれが野生化したものであり,中国には野生のものと栽培のものの両方があることが明らかとなった。それらの葉緑体DNAには遺伝的変異があり,中国黄河~揚子江の中流域の湖北型(V),浙江省と山東省に見られる浙江型(VII),日本,韓国,中国遼寧省と山東省に見られる日本型(VI)の3つのハプロタイプ(遺伝子型)が検出された。中国大陸に日本と同じハプロタイプの野生のウルシが存在することは,日本のウルシが中国大陸から渡来したものだとすれば山東省がその由来地として可能性があることを示唆していると考えられた。一方,化石証拠からは日本列島には縄文時代早期末以降,東日本を中心にウルシが生育していたことが明らかとなった。さらに福井県鳥浜貝塚遺跡からは縄文時代草創期(約12600年前)にウルシがあったことが確かめられた。このような日本列島に縄文時代草創期に既にウルシが存在していたことは,ウルシが大陸からの渡来なのか,元々日本列島に自生していたものなのかについての再検討を促していると考えられた。
宇佐美, まゆみ
本稿では,1978/1987年にBrown & Levinsonによって提出されたポライトネス理論と,それが巻き起こした論争などを簡単に振り返り,改めて,1990年以降,「ポライトネス記述研究」と「ポライトネス理論研究」に二極化したポライトネス研究の約40年の動向をまとめる。「ポライトネス記述研究」とは,各個別言語におけるポライトネス,敬語体系や敬語運用の研究,それらの比較文化対照的研究などを指し,「ポライトネス理論研究」とは,言語文化によって多岐・多様に渡るポライトネスの「実現(realization)」の基にある動機によって,異なる言語文化におけるポライトネスの実現を統一的に説明,解釈,予測しようとする「理論(theory, principle)」の構築に重点をおいた研究である。それぞれの意義と役割,問題点などを確認した上で,本稿では,現在,急激に発展している人工知能研究における「対話システム構築」のための対話研究とも関連づけながら,「ディスコース・ポライトネス理論」(宇佐美,2001a,2002,2003,2008,2017)の21世紀の新展開と今後の可能性について論じる。
金城 昇 池原 あさみ Kinjo Noboru Ikehara Asami
今回の学習指導要領は、学級活動での養護教諭の保健指導への参加をうたっている。しかしながら、養護教諭の役割は、個別指導、集団指導、学級担任・保健担当教諭への支援など多領域にわたる。また、各学校では、学級活動などにおける保健指導が必ずしも実践されているわけではない。一方、それぞれの学校における子ども達の健康現実を把握した時、早急な集団指導が必要かつ重要な場合もある。そのような中、筆者らは学級活動や道徳、その他の時間での保健指導への活用を目的に教材づくりを進めている。本稿では、今問題となっている「エイズ教育」の実践を通して、その教材化といくつかの問題について検討した。
Samimi Sayed Abdul Basir Ando Tetsuya Kawish Khojesta サミミ サイード アブドゥル バシール 安藤 徹哉 カウィッシュ コジャスタ
ヘラートはアフガニスタン西部に位置するシルクロード時代から続く古都で、多くの文化遺産に恵まれている。しかし近年、急速な人口増加に伴い、ヘラート市内は大きな開発庄力に晒されている。本論文は、ヘラート1日市街の西南部に位置し、現在も比較的、アドベ造でドーム屋根を持つ伝統住居が残っているモマンダ地区を対象として、住居及び居住者の変化の実態を明らかにすることを目的としている。現地調査の結果、この地区は便利な立地の割に不動産価格が比較的安いため、特にここ10 年の間に地区外から多くの新住民が流入し、近代的な素材や構法を用いて住宅の建て替えや改修を行っていることが分かった。またその結呆、モマンダ地区の伝統的最観は急速に変化しつつあり、保全のための対策が急務であることも明らかとなった。
上里 健次 山本 ひろみ Uesato Kenji Yamamoto Hiromi
日長によって開花が調節される秋ギクの品種新希望を対象に、日長と温度条件を組み合わせたときの発育への影響について、比較検討を行った。その結果の概要は次の通りである。1)日昼―夜間温度の28-23,24-19,20-15℃区は発育の様相がほぼ同じで、中,短日区は発雷までの日数、到花日数も同様であった。2)これら3試験区の長日下では、13時間日長へ切り替え後の花成への移行も含めて、ほぼ同様の発育を示したが、高温度区では葉数が多く、茎長は長くなった。3)日中32―夜間27度の高温は生育に不適当で、9時間の短日下においても発雷までに約2倍の数を要した。その結果として栄養生長の期間が伸び、葉数が多く、茎長が長くなった。
岡本 牧子 仲間 伸恵 前村 佳幸 福田 英昭 片岡 淳 西 恵 Okamoto Makiko Nakama Nobue Maemura Yoshiyuki Hukuda Hideaki Kataoka Jun Nishi Megumi
日本の手漉き和紙技術は、ユネスコの無形文化遺産に登録されるなど世界に発信できる日本独自の文化である。特に南西諸島及び台湾に生息するアオガンピ(青雁皮)を原料とする琉球紙の製造技術は、沖縄県独自のテーマとして特色のある教材となるが、原料の調達が困難なため持続可能な教材として未だに確立していない。本研究では、学校現場での原料調達を可能にするべく、中学校技術科の生物育成領域の学習教材として取り扱えるよう、アオガンピの栽培方法やコスト、学習指導計画等を提案し、沖縄県独自の和紙製造技術を教材化することを目的としている。その事前調査として、現在までに明らかになっているアオガンピの特徴や栽培の流れについて調査したので報告する。
INAGA, Shigemi
学術としての「美術史学」は全球化(globalize)できるか。この話題に関して、2005年にアイルランドのコークで国際会議が開かれ、報告書が2007年に刊行された。筆者は日本から唯一この企画への参加を求められ、コメントを提出した。本稿はこれを日本語に翻訳し、必要な増補を加えたものである。すでに原典刊行から8年を経過し、「全球化」は日本にも浸透をみせている話題である。だがなぜか日本での議論は希薄であり、また従来と同じく、一時の流行として処理され、日本美術史などの専門領域からは、問題意識が共有されるには至っていない。そうした状況に鑑み、本稿を研究ノートとして日本語でも読めるかたちで提供する。
大久保, 純一 Okubo, Jun'ichi
安政2年10月2日に関東南部を襲った大地震は,江戸の下町を中心に甚大な被害を与えることとなった。この安政の江戸大地震に関しては,地震の被災状況を簡略な絵図と文字情報で周知した瓦版類,地震の被害や被災者の逸話などをまとめた冊子,地震の原因であると信じられていた地中の大鯰をテーマとした一種の戯画・諷刺画である鯰絵など,多様な出版物が売り出された。これらは災害史や民俗学の分野で注目を集めつつあるが,一部に精細な被災の光景を描く図を含みながらも,絵画史の領域での検討はかならずしも十分ではなかった。本稿では,安政江戸地震を機に盛んとなった出版物における災害表象を,主に風景表現の視点から検討する。
サワトゥキェビッチ ミハウ マテウシュ Salatkiewicz Michal Mateusz
本稿は本格的なフィールドワークに先立って、琉球弧の「ユタ研究」を知識人類学という観点からレヴューを行い、その問題点を明確にした。「ユタ研究」の先行研究を文化人類学史のパラダイム転換に即して理解しなおすと、「ユタ」という語自体も知識の評価であり、その他「職能」として捉えられてきたムヌスー、ヤブー…といった語もまた知識の評価にすぎない。つまり、こうした語は主として女性の霊力・霊威に対する、学術、民間を問わず、知識の評価であるという観点が欠落していたのである。ゆえに、今後は間主観的にこうしたカテゴリーが構築されることに留意したフィールドワークを参与観察とIT 空間の領域で行っていきたい。
小波本 直忠 大城 直子 Kobamoto Naotada Oshiro Naoko
膜で隔てた外室に電子受容体として塩化第二鉄を含む酢酸緩衝液(0.2M)中での全トランス-レチナール脂質二重膜は、 内室へのL-システインの添加により、 光電位の変化を示した。pH値が4.9以下では増強効果が認められ、 4.8において最高となり、 一方、 4.9より高い領域では減少効果が認められた。前者の増強効果は、 光電位発生の主荷電体、 ホール、 に対するL-システインの酸化還元作用として説明された。後者の減少効果は、 界面における全トランス-レチニルチアゾリジン-4-カルボン酸形成の分光学的影響として説明された。この膜系は、 昆虫の視覚に作用する食料起源の農薬の作用機構の理解と共に、 L-システインと同様に作用する視覚阻害剤のスクリーニングにも利用できることが示された。
太田 麻美子 矢野 夏樹 井口 佳子 小原 愛子 Ota Mamiko Yano Natsuki Iguchi Kako Kohara Aiko
近年、知的障害児者に対する特別支援教育の術要は高まり続けているが、実態把握や環境整備を含めた指羽・支援が的確でないことが指摘されている。そこで本研究では、自立や社会参加、QOLの観点から教育成果を評価することのできるSNEAT(Special Needs Education Assessment Tool)に基づいて、知的障害のある児童生徒を対象とした指羽・支援方法を分析することで、日本における知的障害児者に対する指導法の特徴を考察することを目的とする。分析の結果、日本における知的障害児の指蒋法の特徴としては、「心の健康」に関する指羽が多く、「体の健康」に関する観点を取り上げた指羽が少ないことが明らかになった。また、各領域の指羽法の特徴として、「体の健康」領域では、自身の体の状態を理解するための指導が多く行われており、「心の健康」では、学習への集中力や意欲を高めるために、写真や絵カードなどの視覚情報を用いたエ夫が多く行われていること、強化子を用いた指羽が多く行われていた。また、「社会生活機能」では、カードの使用やマカトンサインを用いた言語的コミュニケーション以外の方法も用いたコミュニケーション手段を用いる指導法が多いといった特徴があった。本研究の限界として、研究論文を中心とした指導・支援を対象としたため、教育現場での指導案や実践報告集などの分析には至っていない。今後の研究課題としては、それらの実践報告集に加え、海外論文を分析し国際比較を行うことでさらに知的障害児への効果的指羽法を考察する必要がある。また、現在の知的障害の定義は、適応機能に焦点を当てたものになっているため、適応機能の観点から指導法を考案・検証していく必要もあろう。
真謝 孝 中村 哲雄 Majya Takasi Nakamura Tetuo
県内知的障害養護学校の卒業生と、 進路指導担当教師及び労働・福祉機関等に対して就労支援に関する調査を行ない、 就労者をとりまく支援の現状と課題を明らかにした。その結果、 (1)就労者の多くは家庭と職場に限定されたわずかな支援.しか得られていない(2)就労先の選択・決定において知的障害児本人の関与が少ない(3)施設・作業所など福祉的領域からの就労者への支援は少ないという課題が見いだされた。課題解決を図る方向性として、 今後の進路指導において(1)本人の主体的関与を促すための進路学習を計画的に推進すること(2)「個別の移行支援計画」を作成し、 実践に役立てること(3)地域における就労システムの機能化と就労支援ネットワーク構築などの提案を行なった。
當山 奈那 Toyama Nana
本稿では平安座方言を対象に名詞の格の分析・記述を行った。uti格とNzi格はどちらも空間名詞にあらわれ〈動きや状態がなりたつ場所〉を表現するが、話し手から遠ざかる場所を示すときに用いられる傾向がみられた。これは、格助辞NziはNzi(行って)から文法化した格形式であるためである。また、ni格とnaka格とNkai格の名詞があらわす意味における共通点と差異点をみていった。ni格の名詞は面接調査においてはほとんどみられず、時間名詞に限定される。naka格とNkai格の名詞は〈ありか〉や〈あい手〉をあらわす共通点をもつが、naka格の名詞はNkai格の名詞のように〈ゆきさき〉をあらわすことができない。naka格の表現する領域をNkai格が表現するようになりつつある。
姜, 竣 Kang, Jun
これまで筆者は,紙芝居という素材を民俗学の研究対象にする上で,いくつかの困難にぶつかってきた。それは,紙芝居が風俗であって民俗ではないとか,定本柳田集の索引にその項目はあるかとかいうような難儀をぶつけられたことである。理由は,紙芝居という実践が変化しやすく,いわゆる民俗社会とは馴染みのうすい領域だからだろう。民俗学が変化という事象を捉えられないのは,歴史の同一性(伝承)の把握を学の使命としてきたからであり,また,柳田の分類を再生産(記述)するなかで民俗という事象は実体視されてきた。しかし,柳田がトラディションの訳語を伝統ではなく伝承としたのは,対象の変化しつつ構造化する側面を重視するための工夫であった。
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琉球の最高神女職=聞得大君による儀礼の概要を記した文書である。内容は次のとおり。第一は聞得大君の御殿(うどぅん:邸宅)において執行される正月元日、2月・5月の御祭りや麦初種子の儀式、琉球国中の各家庭での火災予防の立願儀礼(2月)等の執行について。第二は簡略ながら聞得大君の就任儀礼である「御新下り(おあらおり)」について。第三は「御城御規式の次第」=首里城内での聞得大君の儀礼について。第四は神話上の五穀伝来と久高島との関わりについて。第五は、聞得大君が神へ祈願する際の言葉である「御たかへ」について。第六は首里城正殿前の御庭で執行された中国・日本・両先島へ渡航する使者・役人らの渡海安全儀礼について。聞得大君の儀礼を把握する上で重要な文書である。
小倉, 慈司 Ogura, Shigeji
近世前期に諸善本の副本作成事業や古写本収集を行なった後西天皇の収集書について、それが霊元天皇を経て、中御門天皇と有栖川宮職仁親王に引き継がれていく過程を明らかにする。寛文六年に後水尾法皇の命を承けて後西上皇が霊元天皇に諸記録新写本を七〇合進上したが、その中には古写本や文学書は含まれておらず、上皇の手許に残された。それらも含めた後西上皇蔵書は、貞享二年の上皇崩御後に霊元天皇が接収し、さらに再整理を行なって自らの蔵書中に組み込んだ。なお、後西上皇は蔵書の一部を皇子幸仁親王や近衛基煕に賜与している。後西天皇が禁裏本の副本作成作業を行なった理由について、従来は、禁裏の火災に備えるためと考えられていたが、実際には、譲位後も自分の手許に置くことができる蔵書を増やすためであったと考えられ、霊元天皇に進上した以外の書物については、最終的には一部を除いて幸仁親王(もしくは八条宮尚仁親王)に譲るつもりであったと考えられる。霊元天皇は後西上皇旧蔵書を接収した後、史書については分類して寛文六年後西上皇進上本に加える作業を行なったが、完全にその作業が完了しないまま、譲位後五年を経て東山天皇に譲った(未整理部分は手許に残す)。しかしその後も必要に応じて禁裏より箱を戻して書物を取り返すこともあった。一方、文学書は譲位後もそのまま仙洞にて管理していた。霊元法皇崩御後には、中御門天皇へは、後西上皇旧蔵書中より分置された分や霊元天皇新収書も含めてかなりの量の史書・文学書が贈られているが、それらの中には他の皇子女に一旦形見分けされた後に中御門天皇に献上されたものも含まれていた。有栖川宮職仁親王に対しては、享保12~14年頃と崩御後の二度にわたって書籍が賜与されている。これらの書籍の中には霊元法皇が意図的に選別して職仁親王に贈ったものと、崩御後、偶然的要素によって職仁親王の手に渡ることになったものとがあった。
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