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藤井, 聖子 佐々木, 倫子
日本語教育センター第二研究室では、現在、英語、スペイン語、ポルトガル語、フランス語それぞれの言語に関して、日本語との対照研究を進めている。日英対照としては、現時点では、談話・語用論上の対照を押し進めるため、会話スタイルの分析を行っている。日西では、統語現象と意味の問題を取り上げている。日葡対照としては、ブラジル人と日本人との言語接触の局面を、社会言語学的アプローチで調査している。日仏では、音声、特にアクセント、イントネーション、音声言語コミュニケーションに付随するジェスチャーを取り上げ、音声及びパラ言語の領域における対照を進めている。
益岡, 隆志 MASUOKA, Takashi
複文構文プロジェクトの目的は,日本語複文構文研究のさらなる発展の可能性を提示することである。考察対象に連用複文構文と連体複文構文の両方を掲げるとともに,歴史言語学,コーパス言語学,対照言語学などからの広範なアプローチを試みる。本報告では,複文構文プロジェクトの研究成果のなかから,2つの話題を紹介する。1つは連用節と連体節における接続形式の現れ方に関する言語類型の問題であり,もう1つはテ形節の定形性/非定形性の問題をめぐる話題である。
小林, 隆 KOBAYASHI, Takashi
文献国語史と言語地理学の提携により語史を構成するための基礎資料の一つとして,『日本言語地図』(国立国語研究所,昭和41~49年)の関連意味項目の全国方言分布を明らかにしようとした。語史研究は,文献国語史と言語地理学とが提携して進められることが望ましく,その資料として,言語地理学では主に『日本言語地図』が利用されてきた。ところが,『日本言語地図』の解釈を文献国語史と対照すると,両者の間で語の意味が対応しない場合があり,この点について詳しく考えるために,例えば〈眉毛〉に対する〈まつ毛〉など『日本言語地図』の関連意味項目の方言分布をあらたに調査した。項目は主に身体名称の50項目であり,通信調査法により全国1400地点分の資料を収集した。本稿は,この調査の目的と方法について論じたものである。
国立国語研究所は,1988年12月20日(火)に創立40周年をむかえた。それを記念して,同日,「公開シンポジウム『これからの日本語研究』」が国立国語研究所講堂でひらかれた。本稿はそのシンポジウムの記録である。 (ただし,集録にあたっては,本報告集の論文集としての性格を考慮し,あいさつ,司会の発言は省略し,発表内容に関する発言のみを集録した。)ひとくちに「日本語研究」といっても,その研究対象は多様であり,また研究の視点・方法も多様である。そして,近年その多様性はますます拡大する傾向にある。このような状況をふまえ,今回のシンポジウムでは,(1)理論言語学・対照言語学,(2)言語地理学・社会言語学,(3)心理言語学・言語習得,(4)言語情報処理・計算言語学という四つの視点をたて,それぞれの専門家の方に日本語研究の現状と今後の展望を話していただき,それをもとにこれからの日本語研究のあり方について議論するという形をとった。
舩橋, 瑞貴 FUNAHASHI, Mizuki
日本語と韓国語の口頭発表における修復(注釈挿入と言い直し)を取り上げ,修復を実現する際の言語的手段が異なることをみる。助詞の言い直しにおいては,選択される言語的手段が助詞と名詞の膠着度の異なりとかかわっている可能性を示す。さらに,助詞と名詞の膠着度が低い日本語に関しては,言い直しの開始位置と関係があることを示す。従来の対照研究では,言語体系内の要素を対照単位とするアプローチが多くとられるが,日本語教育のための対照研究においては,ある言語行為を行う際の言語的手段の選択というアプローチも必要であることを主張する。
パルデシ, プラシャント 今村, 泰也 PARDESHI, Prashant IMAMURA, Yasunari
述語構造の意味範疇に関わる重要な言語現象の一つが「他動性」である。基幹型プロジェクト「述語構造の意味範疇の普遍性と多様性」では,意味的他動性が,(i)出来事の認識,(ii)その言語表現,(iii)言語習得(日本語学習者による日本語の自動詞と他動詞の習得)にどのように反映するかを解明することを目標に掲げ,日本語と世界諸言語を詳細に比較・検討し,それを通して,日本語などの個別言語の様相の解明だけでなく,言語の多様性と普遍性についての研究に貢献することを目指し,2009年10月から共同研究を進めてきた。さらに,日本語研究の成果を日本語教育に還元する目的で,基本動詞の統語的・意味的な特徴を詳細に記述するハンドブックを作成し,インターネット上で公開することを目指して研究・開発を進めてきた。本稿ではプロジェクトで企画・実施した共同研究の理論的および応用的な成果を概観した。理論的な成果としては,(1)地理類型論的なデータベースである「使役交替言語地図」(WATP),(2)日本語と世界諸言語の対照言語学的・類型論的な研究をまとめた論文集『有対動詞の通言語的研究:日本語と諸言語の対照研究から見えてくるもの』を紹介した。応用的な成果としては日本語教育に役立つ「基本動詞ハンドブック」の見出し執筆の方法とハンドブックのコンテンツについて紹介した。
井上, 文子
方言録音テープ・文字化原稿として残された、文化庁「各地方言収集緊急調査」報告資料を整理・検討し、「全国方言談話資料データベース」として公表するとともに、音声・文字化データを対象として、各地の方言文法の記述と、全国的な比較対照、その分布類型の解明、また、談話テクスト中の方言コードの社会言語学的分析などを行う。
かりまた しげひさ Karimata Shigehisa / 狩俣 繁久
琉球列島全域の言語地理学的な調査の資料を使って、構造的比較言語地理学を基礎にしながら、音韻論、文法論、語彙論等の基礎研究と比較言語学、言語類型論、言語接触論等の応用研究を融合させて、言語系統樹の研究を行なえば、琉球列島に人々が渡来、定着した過程を総合的に解明できる。言語史研究の方法として方言系統地理学を確立することを提案する。
窪薗, 晴夫 KUBOZONO, Haruo
2009年10月に始まった共同研究プロジェクト「日本語レキシコンの音韻特性」の中間報告を行う。このプロジェクトは,促音とアクセントを中心に日本語の音声・音韻構造を考察し,世界の言語の中における日本語の特徴を明らかにしようとするものである。促音については,主に外来語に促音が生起する条件およびその音声学・音韻論的要因を明らかにすることにより,日本語のリズム構造,日本語話者の知覚メカニズムを解明することを目指している。アクセントについては,韓国語,中国語をはじめとする他の言語との比較対照を基調に,日本語諸方言が持つ多様なアクセント体系を世界の声調,アクセント言語の中で位置づけることを目指している。本論文では本プロジェクトが明らかにしようとする問題点と近年の研究成果を総括する。
石原 嘉人 Ishihara Yoshihito
本稿では、石原(1990)の内容に新たな知見を加え,漢字圏からの留学生に照準を合わせた漢字語彙教育の可能性について論じる。彼らにとって日本語の漢字語彙を母語と対照させつつ学ぶことは,東アジア各国の地政学的な位置づけや交流の歴史の認識,近代化の意義などについて再考を促すきっかけになり,学習意欲を高める上で十分な意義が得られる。その一方で,彼らの母語における漢字語彙を有効に活用するためには,母語の干渉による誤用のパターンを認識するだけでなく,それぞれの言語における漢字語彙の分類を明確な自覚を持って再認識する必要がある。
長屋, 尚典 鈴木, 唯 榎本, 恵実 NAGAYA, Naonori SUZUKI, Yui ENOMOTO, Emi
国立国語研究所における移動事象に関する通言語的プロジェクト(Motion Event Descriptions Across Languages,略称:MEDAL)は,移動事象表現の通言語的および個別言語的なバリエーションを研究する共同研究プロジェクトである。このプロジェクトの目的の1つは,ビデオを使った産出実験を行うことで,移動の経路が通言語的にどのようにコード化されているのかを解明することである。本論文では,典型的な経路主要部表示型言語といわれてきたトルコ語を対象にその実験を行った結果を報告する。この論文のもっとも重要な発見のひとつは,トルコ語が経路をコード化するときに経路の種類に応じてコード化のバリエーションを示すことである。経路FROM, TO.OUT, TO.IN, THROUGH, PAST, VIA.UNDER, VIA.BETWEEN, AROUND, ACROSS, UP, DOWNにおいては経路主要部表示型の表現パターンが支配的であるものの,経路ALONG, TO, TOWARDにおいては経路主要部外表示型の表現パターンが優勢である。こうして,本論文は,トルコ語の経路表示のパターンについてより細やかな一般化が必要であると指摘し,経路が違えば経路表示も異なるという事実に注目するべきであると主張する。この論文ではさらにトルコ語と他の言語の対照言語学的な違いについても言及する。
福嶋, 秩子 FUKUSHIMA, Chitsuko
アジアとヨーロッパの言語地理学者による各地の言語地図作成状況と活用方法についての国際シンポジウムでの発表をもとに,世界の言語地理学の現状と課題を概括する。まず,言語地図作成は,方言境界線の画定のため,あるいは地図の分布から歴史を読み取るために行われてきた。さらに言語学の実験や訓練の場という性格もある。地図化にあたり,等語線をひいて境界を示すこともできるが,言語の推移を示すには,記号地図が有用である。また,伝統方言の衰退もあって社会言語学との融合が起き,日本ではグロットグラムのような新しい調査法が生まれた。情報技術の導入により,言語地図作成のためのデータは言語データベースあるいは言語コーパスという性格が強まった。コンピュータを利用した言語地図の作成には,1.電子データ化,2.一定の基準によるデータの選択・地図化,3.他のデータとの比較・総合・重ね合わせ・関連付け,4.言語地図の発表・公開,という4段階がある。最後に,言語地図作成の課題は,言語データの共有・統合,そして成果の公開である。
大西, 拓一郎 ONISHI, Takuichiro
言語地理学は,その学術的展開とともに語形分布の2次元空間的配列関係を基盤とした歴史的解釈に目的を焦点化させるに至ったが,そのような方法では,例えば待遇表現のように地域が持つ社会的特性と言語が関連を持つ事象の分析に十分対処することができない。また,配列関係に基づく解釈においても,その背景にある地理的情報を検討することは必要である。本来,言語地理学は言語外の情報と言語情報を空間的に照合することで,言語=方言と人間の実生活との関係を見ていくことに,そのダイナミズムがあった。そのような出発点に立ち戻るなら,地理情報システム(GIS)は,言語地理学を再生させるための大きなキーとなるものである。
ホイットマン, ジョン WHITMAN, John
本プロジェクト(日本列島と周辺諸言語の類型論的・比較歴史的研究)の目的は,日本語とその周辺の言語を主な対象とし,その統語形態論的・音韻的特徴とその変遷を,言語類型論・統語理論・比較歴史言語学の観点から解明することによって,東北アジアを1つの「言語地域」として位置付けることである。統語形態論の観点からは「名詞化と名詞修飾」に焦点を当て,日本語においても見られる名詞修飾形(連体形)の多様な機能を周辺の言語と比較しながら,その機能と形と歴史的変化を究明する。歴史音韻論の観点からは,日本語周辺諸言語の歴史的再建を試み,東北アジア記述言語学における通時言語学研究を推進する。本稿では,この共同研究プロジェクトを紹介しながら,日本語,厳密にいうと日琉語族がどの言語地域に属するかについて検討する。
ウェイ諸石, 万里子 WEI MOROISHI , Mariko
本稿では,助詞「に」「で」と四つの推量助動詞「ようだ」「そうだ」「らしい」「だろう」の習得における明示的学習条件と暗示的学習条件の効果について考察する。42人のアメリカの大学生の日本語学習者が二つの実験群(明示的グループ,暗示的グループ)と対照群に無作為に分けられ,易しい言語型式(助詞),複雑な言語型式(推量助動詞)についてそれぞれ学習した。明示的学習グループは簡潔で系統だった文法説明を受けた後,聞き取りや読解などの意味中心の教室活動を行った。暗示的学習グループも全く同じ教室活動を行ったが,文法説明は受けなかった。そのかわり視覚的に学習者の注意を目標言語型式に向けさせるように助詞「に」「で」と4つの推量助動詞には全て下線が引かれていた。五種類のテストを用いて事前テスト,直後テスト,遅延テスト(九週間後)を行い,テストのスコアを統計分析した結果,明示的グループは暗示的グループ,統制群をはるかに上回り,その差は統計学的に有意であった。暗示的グループは易しい言語型式においてのみ統制群との差が有意であった。明示的学習条件は助詞「に」「で」や推量助動詞のように意味論的制約を含んだ言語型式の習得の場合その難易度に関わらず有効であったと言える。また手短かな文法説明は意味重視の活動と組み合わされて行われた場合言語習得を促進するようである。まとめとして,どのような指導がどんな言語型式に有効かについて考察し,学習者の気付きを促す言語活動の適切な明示性の度合について論じる。
曹, 大峰 CAO, Dafeng
多言語コーパスに焦点を絞って,まずこれまで多言語コーパスを分類するための基準が不足していたことを指摘する。さらに,多言語コーパスというものにおいては異なる言語がさまざまな関係によって関連付けられていることを示し,その関係を分類するための基準を提案する。その上で,多言語コーパスをどのように選定し,使い分けるべきかについての目安を示す。また,「中日対訳コーパス」の作成と利用経験を踏まえて,訳文データの特性に気付かず原語と対等に使うなどの利用上の問題点を指摘したうえ,筆者が提示した利用モデルを説明し,「可能だ」という可能表現,終助詞「だろう」の意味用法,日中同形語である「基本」の意味用法などに関する日中対照研究の事例を通して,対訳コーパスを適正に利用する方法とその効果を示す。
児玉, 望
筆者は十五年間、ドラヴィダ語学を学んできた。そこでドラヴィダ言語学の立場から、大野説を検討した結果、次のような問題点が明らかとなった。
吉岡, 泰夫
国立国語研究所の方言研究は,「現代の言語生活」を課題として,話しことばをめぐる言語問題をタイムリーに探索し,問題解決のための科学的調査研究を,独自に開発した方法で実施してきた。言語政策の企画立案に資する基礎研究資料を提供するとともに,日本語研究の中枢的機開として学界の発展と充実にも寄与してきた。特に,社会言語学,言語地理学の分野においては,先進的研究の開拓によって,戦後の日本語研究にリーダーシップを発揮してきたところである。
長田, 俊樹
筆者は、主に言語学以外の自然人類学や考古学、そして民族学の立場から、大野教授の「日本語=タミル語同系説」を検討した結果、次のような問題点が明らかとなった。
アンガー, J. マーシャル UNGER, J. Marshall
日本語はこれまで,韓国語や満州語,タミール語などの言語と比較されてきたが,これらの言語と日本語との間の系統関係について説得力のある説はこれまでに提示されていない。このことを,日本語には「同じ系統に属する言語がない」という意味にとらえれば,日本語は孤立言語であるということになる。孤立言語とは,共通祖語から共に発達した他の言語が全て絶滅してしまい,一つだけが生き残ったと考えられる言語のことである。日本語を孤立言語として扱ったとしても,例えば日本語話者の祖先がいつどこからこの地域にやってきたのか,というような,日本語の発達経緯に関するさまざまな疑問を解明することにはならない。だが,日本語と他の言語との系統関係を探り続けることで得られる知識は,たとえ不完全なものであるにしろ,日本語が孤立言語であると結論づけてしまうよりも,言語学的に貢献するところが大きい。多様性に富み規模が大きないくつかの言語族(例えば,インド・ヨーロッパ語族,オーストロネシア語族,中国語族)は,その共通祖語が話されていた年代がいつごろであるかについてかなり正確にわかっているが,これらの言語の存続が五千年を超えるものは一つもない。それゆえに,日本語が厳密な意味での孤立言語であるという主張は,同時に,日本語が非常に古い言語であるということ,また,日本語が発達してきたと考えられるその途方もない長い時間の中で,同じ祖語から派生した日本語以外の全ての言語が絶滅する運命をたどったのだと主張することになる。そのような状況に至った経緯をさまざまに想像するのはたやすいが,本論文において詳しく検証するように,いかなる仮定的状況についても,言語学的あるいは非言語学的側面から立証することは難しい。日本の先史について言えば,関連する言語以外の情報がかなり豊富に存在するので,言語の発達経緯の研究過程で,そのような情報を,言語学的仮説の範疇を特定したり修正してゆくために大いに利用すべきである。
長田, 俊樹
小論の目的はこれまでのムンダ語族の比較言語学研究を概観することである。まず、ムンダ語族の分布と話者人口、およびそれぞれの言語についてのこれまでの研究を紹介する。そして比較言語学研究のうち、さいしょに音韻論について述べる。とくに、母音についてはいろいろと議論されてきたので、母音を中心にみる。次に形態論、統語論、語彙論について述べる。その際、インドの他の語族との関連を中心に論ずる。さいごに、オーストロアジア語族とムンダ諸語について、ドネガンらの研究を中心に述べる。
菊地, 康人 KIKUCHI, Yasuto
サエとデサエの使い分けについて考察する。まず1飾で本稿の課題について略述した後,2節では,サエ/デサエの最も基本的な〈極限提示〉〈類推〉の用法を分析する。3節では,〈意味上のとりたて(対照)の対象〉が〈述語を含む句〉である〈P対照〉の場合と,それが〈名詞句だけ〉である〈N対照〉の場合とを区別する。その上で,4節では《P対照ならサエ,N対照ならデサエ》という使い分けの原理を提示し,5節ではこれが〈極限提示〉〈類推〉用法のガ格・ヲ格のとりたてについて成り立つことを見る。6-7節では,この確認を兼ねて,P対照の文として成り立つ条件,N対照の文として成り立つ条件をそれぞれ詳しく検討するとともに,一種の例外として,高来はN対照のはずの文の〈P対照化〉,その逆の〈N対照化〉に触れる。8節では〈累加〉〈十分条件性の強調〉をあらわす周辺的用法を,9節ではガ格・ヲ格以外のとりたてを見るが,これらの場合も上の原理が基本的に成り立つことが確認できる。10節では,デサエのデは《〈意味的に,直前の語句をとりたてる〉ことを明示する》ものだと結論し,あわせて,とりたての研究の中での本研究の位置にも触れる。
杉戸, 清樹 塚田, 実知代
(1)社会言語学・言語行動研究の領域で敬語や待遇表現の調査研究を進めていると,一般の回答者が,狭義の敬語だけでなく,より幅広い範囲の敬意の表現を意識しているらしいことがしばしば観察される。
金城 克哉 Kinjo Katsuya
本論文は、近年注目を集めているコーパス言語学の概要を示し、同時に言語教育への応用とフリーソフトウェアを用いた分析方法を紹介するものである。コーパス言語学は、コーパスを利用して言語分析を進める研究方法の分野として近年盛んに議論され、様々な論考もすでに多くある。ここでは短いながらもどのような研究分野があるのか、それが日本語教育と英語教育にどのように応用できるのか、また実際の分析はどのようにすればよいのかを論じる。★description追加で→ この論文は「欧米文化論集」(第58号2014年p27-49)に掲載された論文を査読し、「九州地区国立大学教育系・文系研究論文集」Vol.2、 No.1(2014/10)に採択されたものである。
長田, 俊樹
さいきん、インドにおいて、ヒンドゥー・ナショナリズムの高まりのなかで、「アーリヤ人侵入説」に異議が唱えられている。そこで、小論では言語学、インド文献学、考古学の立場から、その「アーリヤ人侵入説」を検討する。
山下, 博司
国語学者大野晋氏の所謂「日本語=タミル語同系説」は、過去十五年来、日本の言語学会やインド研究者たちの間で、センセーショナルな話題を提供してきた。大野氏の所論は、次第に比較言語学的な領域を踏み越え、民俗学や先史考古学の分野をも動員した大がかりなものになりつつある。特に最近では、紀元前数世紀に船でタミル人が渡来したとする説にまで発展し、新たなる論議を呼んでいる。
宇佐美, まゆみ
「談話(discourse)」という用語がよく聞かれるようになってかなりの年月が経つ。「談話研究(discourse studies)」という用語は、1970年代頃でも、言語学のみならず、心理学、哲学、文化人類学などの関連分野でも使われてきたが、最近では、学際的研究のさらなる広がりの影響を受けて、政治科学、言語処理、人工知能研究などにおいても、それぞれの分野における意味を持って使われるようになっている。本稿では、まず、「談話」という用語が言語学に比較的近い分野においてどのように用いられてきたかを、1960年代頃に遡って、7つのアプロ―チに分けて、概観する。また、「談話分析」や「会話分析」と「第二言語習得研究」、「語用論」、「日本語教育」との関係について簡単にまとめる。さらには、1980年代以降のさらなる学際的広がりを受けての「政治科学」や「AI(人工知能)研究」における用語の用いられ方にも触れ、それらの分野との連携の可能性についても触れる。
後藤, 斉 GOTOO, Hitosi
本稿は,コーパス言語学をもっとも発達させたイギリスにおける事情と日本におけるコーパス研究の位置づけとを対比しつつ歴史的に概観して,その発展の違いの要因を探り,あわせて今後に対するなにがしかの見通しを得ようとするものである。イギリスにおいてコーパス言語学が発達したことには,主要因としては言語研究の流れに沿うものであったことが挙げられ,ほかにもいくつかの言語内的および言語外的要因が挙げられる。それに対して,日本では,計算機利用の言語研究の歴史は長いが,コーパスの概念の精緻化には至らず,現在,代表性を備えていて,人文系の研究者が共有できるようなコーパスが存在しない。現在の不十分なコーパスでも意味論の研究などに利用することが可能ではあるが,国立国語研究所が「現代日本語書き言葉均衡コーパス」の構築に着手したことの意義は大きい。ただし,それを十分に生かすためには,利用考の側にも主体的な努力が求められる。
相澤, 正夫 AIZAWA, Masao
2007年10月に中国北京日本学研究センターで開催された国際シンポジウムにおいて,最近の日本語研究の新動向の一つとして,「言語問題への対応を志向する日本語研究」の事例を紹介した。国立国語研究所の「外来語」言い換え提案を取り上げることにより,日本語の体系や構造,あるいは日本語の使用実態に関する調査研究を基盤としながらも,さらにその先に日本語の現実の問題を見据えた総合的・実践的な「福祉言語学」の一領域が既に開拓されていることを示した。
渡辺, 美知子 外山, 翔平 WATANABE, Michiko TOYAMA, Shohei
筆者らは,言い淀み分布の日英語対照研究のために,『日本語話し言葉コーパス(CSJ)』中の模擬講演データに類似した『英語話し言葉コーパス(COPE)』を構築している。本稿では,まず,アメリカ英語話者20名のスピーチからなるこのコーパスの概要を紹介した。次に,その中でのフィラーの分布を日本語のフィラーの分布と比較した予備的考察について述べた。100語あたりのフィラーの頻度は,英語が4回/100語,日本語が6回/100語だった。しかし,単位時間あたりの頻度に有意差はなかった。また,日本語の方が英語よりも,頻度に男女差が大きかった。さらに,文境界と節境界におけるフィラーの出現率を両言語で比較し,それに関係する要因を調べたところ,日本語では性別の影響が最も大きいのに対し,英語では,文頭か非文頭かの要因の影響が最も大きかった。今後も,個人差を考慮して,対照研究を進める予定である。
Miyahira Katsuyuki 宮平 勝行
コミュニケーション学において,言語共同体独自の話しことばの意味を記述・解明することがひとつの研究テーマである。各共同休に特有の「自己像」や「社会」,「ことば」の意味がどのように記号化されるのか,そして文化的に定義されたこれらの意味を独自の発話形式でどのように表明するのかということが問われてきた。その一端として,ことばの民族誌や異文化接触の研究に基づき,多様な文化的シンボルの意味やコミュニケーション行動の形式と規範というものが明らかにされている。本稿では,これらの事例研究をいくつか取り上げ,比較対照することによって,話しことばによる自己表現の文化的な特徴や異文化間での類似点と相違点について考えてみる。「自己」や「社会」は文化のシンボルとして特殊な意味を帯びており,それに伴い「コミュニケーション」,「命令」,「模倣」,「自己表現」等の発話行為も特殊化され,言語共同体独自の意味を含むことになる。こうしたシンボルの意味を言語共同体独自のコミュニケーション儀式や話し方の論理の枠内で捉えると,コミュニケーション行動の一部は常に文化的行為であることがわかる。まとめとして,文化的自己に関するシンボルと発話形式,更に模範的なコミュニケーション行動を「個人」,「他者関係」,「行為」,「共同体」という四種の自己像のフレームにまとめてみた。こうしたメタアナラシスから得られる類似点と相違点が異文化接触にもたらす影響は大きい。
西内, 沙恵 NISHIUCHI, Sae
本稿では多義語が有する複数の意味をどのように確認できるか,言語学的な方法に焦点をあてて検討する。多義語は同一の音形に意味的に何らかの関連を持つ二つ以上の意味が結びついている語と定義される。多義語の語義の粒度は研究の目的や研究者の立場によって異なるため,多義性を認める方法も言語学的なアプローチと心理実験的アプローチからさまざまに考案されてきた。本稿では先行研究で提案されてきた,多義性を認める言語学的な方法を,語彙テスト・文法テスト・論理テストに区分して一覧し,その有効性を検討する。それぞれのテストがどのような仕組みによって成り立っているかを分析し,どの程度の粒度で語義が認められるかという観点から各テストの特徴を論じる。現代日本語の名詞・形容詞・動詞を対象にそれぞれのテストが有効に働く品詞を検討し,その適用範囲を示す。
茂呂, 雄二 小高, 京子 MORO, Yuji ODAKA, Kyoko
本論は2部からなる。第1部では日本語談話研究の現状を展望して,それぞれの研究が指向する方法論の違いを取り出してみた。第2部には日本語談話に関係する研究の文献目録を収めた。日本語談話研究は学際的に展開されており,言語学では言語行動研究および談話分析,社会学からはエスノメソドロジーに基づく会話分析とライフストーリー研究が,心理学・認知科学研究からはプロトコル分析およびインターフェース研究などが,広い意味での日本語談話分析研究を行っている。この研究の広がりからわれわれが取り出した研究指向の違いは以下の通りである。
鈴木, 博之 丹珍曲措
本稿では、中国雲南省徳欽県雲嶺郷で話されるカムチベット語諸方言(sDerong-nJol 方言群雲嶺山脈西部下位方言群)において観察される歯茎破擦音と歯茎摩擦音のゆれについて、佳碧、八里達、査里頂、査里通、永支の5か村で話される変種に認められる音声現象を簡潔に記述し、そこに認められる記述言語学、歴史言語学上の問題を議論する。
宮城 悦生 Miyagi Etsuo
肉豚飼料に動物性油脂(タロー)を7∿10%添加し、 TDN約80%の高エネルギー飼料で後期の栄養率(NR)約7.5の飼料と同程度のエネルギー飼料で蛋白質含量を高くし栄養率を狭くし後期の栄養率(NR)5.8の飼料を用いて豚の産肉性について検討するため1972年5月∿1973年5月までの間に3回の肥育試験を実施したが、 その概要を要約すると次のとおりである。1肥育成績 肥育成績は飼料の高エネルギー化によって総体に改善された。特に1日平均増体量と飼料要求率は試験区がすぐれており、 1日平均増体量は対照区547g、 試験I区617g、 II区627gで対照区と試験区間には1%水準で有意差がみとめられた。また飼料要求率は対照区3.99、試験I区3.61、II区3.58で1%水準で対照区と試験区間に有意差がみとめられ試験区が優れた成績を示した。2と肉成績 枝肉歩留、 背腰長II、 ロース断面積、 ハムの割合等は試験II区が稍々すぐれているが、 統計的な差はみられなかった。しかし、 背部脂肪層の厚さは背部で対照区1.8cm、 試験I区2.4cm、 II区2.2cm、 3部平均は対照区2.9cm、 試験I区3.4cm、 II区3.1cmで、 それぞれ対照区とI区間には1%水準で、 対照区とII区間、 I区とII区間に5%水準で有意差がみとめられ、 対照区が最もうすくI区が最も厚い成績を示した。また大割肉片の赤肉割合は対照区ハム61%、 ショルダー66%、 I区ハム57%、 ショルダー62%、 II区ハム62%、 ショルダー66%、 脂肪の割合は対照区ハム21%、 ショルダー16%、 I区ハム26%、 ショルダー20%、 II区ハム21%、 ショルダー16%で各区間に統計的な差はみられなかったが、 試験II区が赤肉の割合が最も多く脂肪の割合が少ない良好な成績を示した。
朱, 京偉 ZHU, Jingwei
本稿に先立って,筆者は,朱京偉(2011a,2011b)で蘭学資料の三字漢語を考察し,在華宣教師資料の三字語との比較対照を行なった。また,朱京偉(2011c)で蘭学資料の四字漢語を取り上げ,できる限りその全体像を描いてみた。これらに続く作業としては,在華宣教師資料の四字語を検討し,蘭学資料の四字漢語との比較を行なうことである。このような日中対照を通して,19世紀当時の,日本語の四字漢語と中国語の四字語のそれぞれの特徴を明らかにすることによってはじめて,両者間の影響関係を正しくとらえることができると考える。結論からいうと,在華宣教師資料の四字語は,基本的な構成パターンで蘭学資料の四字漢語と大差がないように見えるものの,その中身をくわしく検討すると,語数が全体的に少ない上,語基と語基の結合関係の分布も異なる。こうした語構成上の相違は,多かれ少なかれ日中両言語の四字語の造語力に影響を与えたと思われる。
長嶋, 祐二 原, 大介 堀内, 靖雄 酒向, 慎司 渡辺, 桂子 菊澤, 律子 加藤, 直人 市川, 熹 WATANABE, Keiko KATHO, Naoto
手話は言語であるにもかかわらず、音声言語と比べて言語学、工学を含む関連諸分野での研究が進んでいない。本稿では、各個分野における手話研究および学際研究の推進を目的とした、様々な分野の研究者が共通に利用できる汎用的な日本手話の語彙データベース作成について報告する。言語学者の望むデータ形式と、工学や認知科学の分野で望むデータの形式は異なることが予想される。多分野での利用を可能にするためには、分析や解析内容に応じて手話の多視点の画像、3次元動作データ、深度画像など様々なデータ形式を含むことが望まれる。さらに、時間軸上で同期したこれらのデータを、各分析者が得意とするデータ形式で解析することを可能にする。データベース上の様々な形式データを同期解析できるアノテーション支援システムも開発する予定である。これにより、様々な視点からの同一手話の解析が可能となり、手話言語に関する新たな知見が得られることが期待できる。
ザトラウスキー, ポリー SZATROWSKI, Polly
オノマトペが試食会のコーパスでどのように用いられているのかを考察する。試食会の参加者は 3種類ずつの乳製品を対照しながら最初は見た目で色や触感を描写・評価し,次に匂いから特定しようとし,食べ始めてからは味覚と触覚で味,食感等を描写,評価する。相互作用の中で五感と関連させながら,評価・描写の場合は,複数のオノマトペの候補を繰り出す過程が,特定や評価の場合は,オノマトペによる根拠づけが見られた。オノマトペを含む発話の後,同意,不同意,他のオノマトペの提示等の発話連鎖や言葉(オノマトペ)探しからオノマトペのネットワーク性が明らかになった。オノマトペは,参加者が言語・非言語行動を通じて,変化していく食べ物に対する感覚的体験を,一瞬一瞬共有,モニターしながら精密化するのに重要な役割を果たすと考えられる。
窪薗, 晴夫 KUBOZONO, Haruo
日本語諸方言のアクセント体系が高さ(ピッチ)にもとづく「ピッチアクセント体系」であることは日本語音声研究の中で常識とされていることであるが,日本語以外の言語から見ると必ずしも自明のこととは言えない。実際,「ピッチアクセント体系(言語)」という類型概念そのものを否定する研究者も数多い。本稿は,2010年に本プロジェクトが主催した国際シンポジウムISAT 2010の成果(Lingua 122特集号)の一部を報告する形で,日本語の研究が一般言語学や言語類型論に貢献できる可能性を指摘する。
宇佐美, まゆみ
本稿では,1978/1987年にBrown & Levinsonによって提出されたポライトネス理論と,それが巻き起こした論争などを簡単に振り返り,改めて,1990年以降,「ポライトネス記述研究」と「ポライトネス理論研究」に二極化したポライトネス研究の約40年の動向をまとめる。「ポライトネス記述研究」とは,各個別言語におけるポライトネス,敬語体系や敬語運用の研究,それらの比較文化対照的研究などを指し,「ポライトネス理論研究」とは,言語文化によって多岐・多様に渡るポライトネスの「実現(realization)」の基にある動機によって,異なる言語文化におけるポライトネスの実現を統一的に説明,解釈,予測しようとする「理論(theory, principle)」の構築に重点をおいた研究である。それぞれの意義と役割,問題点などを確認した上で,本稿では,現在,急激に発展している人工知能研究における「対話システム構築」のための対話研究とも関連づけながら,「ディスコース・ポライトネス理論」(宇佐美,2001a,2002,2003,2008,2017)の21世紀の新展開と今後の可能性について論じる。
Kobayashi Masaomi 小林 正臣
本稿はMartha WoodmanseeとMark Osteenが提唱する「新経済批評(The New Economic Criticism)」を検証しながら、文学と経済学の新たな学際性を模索する。社会科学としての経済学は数式を多用した限定的な意味における「科学」を標榜する傾向にあり、人文科学としての文学は経済学-多数の学派に基づく経済学-をマルクス経済学に限定して援用または経済学の専門用語などを誤用する傾向にある。これら問題点を考慮しながら、本稿は両学問の類似性と相違点を認識することの重要性を強調する。例えば、Donald McCloskeyが指摘するように、経済学は数式を用いながらも言語による論証を行うことにおいて修辞的である。またPierre Bourdieuが指摘するように、言語と貨幣は機能的に類似する点が多くあり、それゆえ文学と経済学の「相同関係(homology)」が考えられる。しかし相同関係を発見する一方で、それら学問間の絶えざる緊張関係を維持しながら新たな相互関係を構築する必要があり、その際の媒介を果たすのが新経済批評である。換言すれば、文学は経済学を始めとする諸科学の理論を導入しながら、それら科学に新たな返答をすることが可能な「場」であると認識することで、両学問は相互的な知的活性化を永続できる。かくして本稿は、文学と経済学の学際性の追求は「未知(notknowing)」の探求であると結論する。
宮内, 拓也 プロホロワ, マリア MIYAUCHI, Takuya PROKHOROVA, Maria
『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(の一部のデータ)には,既に英語,イタリア語,インドネシア語,中国語の翻訳データが構築されているが,新たにロシア語の翻訳データを構築した。対象となる起点テキストは『現代日本語書き言葉均衡コーパス』新聞(PN)コアデータ16サンプル(総語数は短単位で全16,657語)とし,ロシア語目標テキストの総語数は13,070語となった。本データの構築にあたっては,日本語からロシア語へ人手による翻訳を行ったが,日本語とロシア語の言語構造の違いや表現の違い等により,翻訳に困難が生じた箇所もあった。本稿では,翻訳データの構築方法,翻訳の際の留意点の詳細を述べる。また,原文の日本語テキストと翻訳先のロシア語テキストは人手で文単位のアライメントを取り,各文にはIDを付与した。その作業方法についても記述する。翻訳データの構築,アライメント作業により,起点テキストと目標テキストは簡易的な日露パラレルコーパスとして利用可能となり,日露対照研究や類型論研究に活用できると考えられる。本稿では,このような活用の可能性を示すために,ケーススタディとして日本語の文末表現を取り上げ,ロシア語と対照させて同異を議論する。
田島, 孝治 TAJIMA, Koji
街路の看板や張り紙に書かれた文字・言語が作り出す景観は言語景観と呼ばれ,言語学分野だけでなく,地理学,社会学など社会科学の諸分野で調査・研究が行われてきた。本稿では,著者が開発した調査用のツールを紹介すると共に,動作検証を目的として行った,神奈川県鎌倉市における「稲村ガ崎」の表記調査結果を報告する。開発したツールはスマートフォン用の調査ツールと,パソコン上で動作するデータ確認用のツールに分かれている。調査の道具としてスマートフォンを使うことで,調査結果の整理を簡単に行えるようになった。一方,ソフトウェアの処理結果は専用フォーマットになる部分を可能な限り少なくすることで,データの共有と再利用が容易になるように設計した。動作検証のための調査は約2時間行い,収集したデータは従来型の調査と比べ遜色ない結果を得られた。また,調査結果の分類作業が大幅に短縮されたためツールの有用性も確認することができた。
Hijirida Kyoko 聖田 京子
ハワイ大学東アジア言語・文学科では2004年秋学期より新講座「沖縄の言語と文化」を開講した。それに先立つ2年間の準備期間中に,担当教員2人(聖田京子,Leon Serafim)が,ハワイ大学及びハワイ地域社会の支援を得て,沖縄へ赴き資料収集を行った。琉球大学等とのネットワークを形成すると共に,豊富な資料・教材を収集することができ,講座開講に向けて,教材作成を中心とするカリキュラムの準備を順調に進めることができた。 コース内容は文化を中心にした楽しい沖縄学と,聞き,話し,読み,書きの4技能の習得及び基本的な言語構造を理解する沖縄語の初級レベルを設定した。言語学習には,まず表記法と,言語と文化の教科書を決めることが重要な課題であったが,琉球大学と沖縄国際大学の関係者の支援により解決することができた。 文化に関するコース内容は,年中行事,諺,歴史上の人物,民話,歌(琉歌を含む)と踊り,料理,ハワイの沖縄コミュニティーなどの領域を取り上げた。特に,沖縄の文化的特徴や価値観などを表すユイマール,イチヤリバチョーデー,かちゃーしーなどは,クラスのプロセスで実践による習得を目指した。 基本的な学習が終わると,学生は各自のテーマで研究し,ペーパーを書き,発表することとし,それによりクラス全員が更に沖縄学の幅と深みを加え,沖縄理解に至ることを目指した。 学生の取り上げた研究テーマは,沖縄の基地問題や平和記念館,平和の礎,ひめゆり部隊,沖縄の祭り,行事,観光,エイサー,歌手,空手,三線,紅型,ムーチー(民話),紅芋など多岐にわたっており,学生の沖縄に対する関心の幅広さがうかがわれた。 当講座の全体の教育目標は以下のように設定した。1)沖縄語の言語研究上の重要性を理解すると共に,基本文法を習得し,初級レベルでのコミュニケーション実践をタスクで学ぶ。2)沖縄文化を理解し,その価値観や考え方をクラスでの実践を通して学ぶ。3)ハワイにおける沖縄県系人コミュニティーの文化活動に気軽に参加し,かつ楽しめるようになる。 当講座は,開講以来,受講希望者がコースの定員を上回る状況であり,当大学の学生の沖縄の言語や文化への関心の高さを示している。かちゃーしーやユイマール,沖縄料理などの文化体験は大変好評で,講座終了後のコース評価では,沖縄語をもっと学びたい,沖縄文化をもっと知りたいという学生からの声が多く寄せられた。
金澤, 裕之 KANAZAWA, Hiroyuki
本稿は,明治期に出版された落語速記の作品と,同じく明治期に録音・販売されたと考えられる落語SPレコードの作品のうち,同一の演者によって行なわれた同一の落語作品を詳細に比較・対照して,その両者における言語内容の実態を明らかにしようとするものである。この両者には,噺の骨格や進め方,更には語彙的な部分においてはかなりの類似性が見られるが,話しことばというパフォーマンス部分から見ると,大きな隔たりがあることが分かった。速記資料における「口語性」を考える場合には,その資料的性格をよく考慮した上で,慎重に判断を加えつつ活用してゆくことが必要であると考えられる。
長田, 俊樹 OSADA, Toshiki
比較言語学の用語である Reconstruction の訳語は,「再構」とも「再建」とも使用されている。服部四郎は1950年代半ばから亡くなるまで「再構」を使ってきたが,2018年に出版された『日本祖語の再建』では「再建」となっている。その補注をおこなった上野善道は「再構」が服部によって導入された訳語との認識を示したが,小論ではそれを検証した。その結果,「再構」の初出はソシュールの翻訳『言語学原論』(1928)で小林英夫が使用したもので,ほぼ同時期に,泉井久之助,新村出など,京都大学出身者によって使用されるようになった。一方,「再建」は新村がイェスペルセンを訳出した1901年が初出であった。また,「再造」「再現出」などの訳語もみられた。
前漢の辞賦作家、思想家、言語学者である揚雄は、後の文学では、名利を離れた賢人として描かれる。しかし、『漢書』揚雄伝などの資料からは、揚雄の姿は一つに収束しない。
小峯, 和明 KOMINE, Kazuaki
今昔物語集の研究で国語学を除き、従来余り試承られていない言語表現そのものの考察を課題とし、作品に特徴的な語彙・語法や慣用表現の分析を通して物語の本質をとらえようとした。
野田, 大志 NODA, Hiroshi
本研究は,現代日本語における動詞「ある」の多義構造について,認知言語学における諸概念を援用することで包括的,体系的に明らかにすることを目的とするものである。
松田, 謙次郎 MATSUDA, Kenjiro
Seifart et al.(2010)およびSeifart(2011)は名詞・代名詞・動詞の談話中における相対頻度数(NTVR)が言語内で,また言語間でも大きな分散を示し,類型論的に興味深い分布を示すものであることを明らかにした。ここでは岡崎敬語調査(国語研1957, 1983, 阿部(編)2010, 西尾他(編)2010, 杉戸2010a, 2010b, 松田他2012, Matsuda 2012, 松田他2013, 井上・金・松田2013)の回答文に形態素解析を施したデータを分析することで,(1)NTVR が回答者の加齢に影響を受けずほぼ一定の値を保っており類型論的指標として信頼しうる安定性のある数値であること;(2)NTVR には性差が見られ男性の値の方が女性の値より高いこと;(3)この性差が敬語補助動詞の使用頻度の性差によるものであると考えられること,の3点を主張する。NTVRは生涯変動を見せない安定した指標であるが,NTVR算出を目的とした談話データの使用に際しては,当該言語の社会言語学的変異にも配慮する必要がある。また,この研究は形態素情報付き岡崎敬語調査発話データの有用性の一端を示すものであり,こうしたデータの活用によって,岡崎敬語調査のデータは計画当初考えられていたものよりも遙かに多くの多種多様な言語学的問題に解答を与えることが期待される。
大西, 拓一郎 ONISHI, Takuichiro
方言の分布は時間の流れの中で変わるものなのだろうか。方言が言語である以上,方言も変化する。そのような言語変化が発生すれば,分布もそれに応じて変化する。その変化は徐々に中央から周辺部に拡大するものと考えられてきた。ところが,実際にとらえられている分布変化は,急速で一気に拡大するものである。その一方で時間を経てもなかなか変化が起こらないこともある。これらは伝達の道具としての言語の性質ゆえのことと考えられる。このように分布変化を追うことで方言の形成という方言学の究極の目標に迫る。
村上 呂里 梶村 光郎 Murakami Rori Kajimura Mitsurou
研究概要:(平成15年度時点)2003年8月20日〜27日、タイグェン師範大学(北部山岳少数民族の拠点師範大学)Nguyen Van Loc学長他2名が琉球大学教育学部を訪問した際、少数民族言語教育が抱える課題(学力問題、バイリンガル教育の方法をめぐる課題、ドイモイ政策以降の言語教育の変化等)についてインタビューを行い、その詳細と考察について、両輪の会『両輪』42号(2004)に報告した。2003年12月下旬、ベトナム国立人文社会科学センター言語学院とタイグェン師範大学を訪問し、第1回調査を行った。12月23日、言語学院研究員Ta Van Thong氏ら2名に、ベトナム語の「国家語」化をめぐる問題、少数民族言語政策の変化と課題等について、インタビュー調査を行った。12月25日、タイグェン省ボーニャイ郡クックドゥオン小学校およびその分校の識字学校を訪問、校長のTran Thi Loan先生や識字学校のUyen Van Thanh先生および学習者にインタビューを行った。12月26日、タイグェン師範大学の少数民族学生にインタビュー調査を行った。2004年2月28日〜3月6日、タイグェン師範大学からLuon Ben語学文学科教授ら3名を「多言語社会における言語教育研究会」のために招聘し、3月2日、村上が「日越比較言語教育のために日本近代言語教育の出立-地域語・民族語を視座に-」を発表、3月4日、Luon Ben教授が「ベトナム少数民族言語教育の歴史と課題」を発表、宮城信勇氏が「『石垣方言辞典』完成への道のりと思い」を発表、各々質疑応答を行った。今年度は第1年目であり、調査報告と関係論文の翻訳・考察に重点をおき、中間報告書を作成した。ベトナム言語教育史の解明とともに、ドイモイ政策以降ベトナム語の社会的機能の高まりを背景とした、多言語社会ベトナムが直面する言語教育の課題が浮かびあがってきた。
Miyahira Katsuyuki 宮平 勝行
民族誌学によるコミュニケーション研究に基づいて,本稿では言語行動にあらわれる文化的シンボルがどのような働きをするのかを考察する。特に,言語行動がどの様に社会変化もしくは文化変容を促すのか,事例研究の比較分析を通して変化構造の一端を解明することが本論の目的である。ウエスタン・アパッチ(米国)とサプラ(イスラエル)の言語行動を事例として挙げ,奥深い意味を持つ文化的シンボルが深層で複雑に相互作用する過程を詳しく調べてみた結果,言語共同体に特有な「話しことば」は社会変化あるいは文化変容の重要な媒体であることがわかった。社会の変化は言語共同体に特有なコミュニケーション行動による第一次テクストと代替テクストの相互作用や,それに基づくアイデンティティーの再認識と創出の繰り返しの中で遂行される。こうしたコミュニケーション行動の具体例としては,コードの切り替え(Code-Switching)や話しことばの儀式(Communicative Rituals)が挙げられる。従って,コードの切り替えや話しことばの儀式に注目してコミュニケーション行動を分析すれば,特定の言語共同体における話しことばの文化的意味を発見する大きな手がかりが得られることを本稿では論証する。
村山 盛一 ウディン モスレム 野瀬 昭博 川満 芳信 Murayama Seiichi Uddin Moslem S.M. Nose Akihiro Kawamitsu Yoshinobu
早植、適性な畦幅、深耕、標肥栽培、補植、堆肥施用、除草、培土、鍬によ地際刈り及びかんがい栽培した場合サトウキビの収量形質にどのような影響を及ぼすかについて検討した。その結果、早植区、深耕区、標肥栽培区、補植区、堆肥施用区および潅水区では発芽率及び単位面積当り分けつ数が対照区(バングラディシュにおける平均的農家の栽培の実状に合わせた試験区)より有意に優れていた。原料茎数の最高値は潅水区において得られ(68、900本/ha)、次いで早植区が多かった。しかし、収量の最高値は標肥栽培区で得られ(54.00t/ha)、対照区より37.80%の増収であった。一方、対照区では最低収量(39.20t/ha)を示した。シュクロース含量は早植区と堆肥施用区の10.90%が最も高かった。また、堆肥施用区では最も高い産糖量(5.83t/ha)を示し、対照区に比べて48.72%の増収であった。以上のように、サトウキビの収量形質は栽培法の違いによって大きな影響を受ける。
今里, 悟之 Imazato, Satoshi
日本の農山漁村集落の小地名については,これまで民俗学・地理学・社会言語学などで研究が蓄積されてきたが,耕地における,より微細なスケールの通称地名である「筆名(ふでな)」については,ほとんど研究が行われてこなかった。本稿では,その基礎的研究として,1960年代の長野県下諏訪町萩倉(はぎくら)(農山村)と京都府伊根町新井(にい)(漁村)を事例に,水田と畑地の筆名における命名の基準と空間単位について検討した。
斎藤, 達哉 新野, 直哉 SAITO, Tatsuya NIINO, Naoya
1985~2000年の『国語年鑑』の雑誌掲載文献の目録情報にもとづいて,分野別の文献数の動向調査を行った。雑誌掲載の文献の採録数は年鑑のデータベース化にともなって1991年に大きく減少したが,1994年以降は緩やかな増加傾向にある。その状況下で,国語学にとっての「中核的領域」の文献数は,近年,横這い状態になっている。そのなかでも,[文法]だけは増加している。いっぽう,国語学にとっての「関連領域」の文献数は,近年,緩やかな増加の傾向にある。とくに,[国語教育]が伸びを示している。また,[コミュニケーション][言語学]には「中核的領域」に含まれる内容の文献も多く,文献数においても上位を維持している。「関連領域」のなかでの大分野となっている[国語教育][コミュニケーション][言語学]については,『国語年鑑』で,それぞれの分野の下位分類を増補・改訂するなど,近年の研究動向に対応が必要な時期に来ているのではないかと思われる。
朝日, 祥之 ASAHI, Yoshiyuki
本稿では,独創・発展型共同研究プロジェクト「接触方言学による『言語変容類型論』の構築」で企画・実施された調査研究の成果を紹介した。最初に,研究目的と実施された調査の設計を述べた。その後,研究期間中に実施された様々な調査のうち,北海道札幌市と釧路市で実施された実時間調査と愛知県岡崎市で実施された敬語と敬語意識調査で取り扱われた「道教え」場面調査の調査結果,ならびに国内4地点における空間参照枠に関する調査結果を取り上げた。また「言語変容類型論」構築の試案を提示し,その提示の方法,試案の有用性,反省点,今後の当該分野に関する展望を行った。
前川, 喜久雄
現代日本語の大規模な自発音声データベースである『日本語話し言葉コーパス』を紹介する。まず話し言葉研究におけるデータベースの必要性を指摘したのち,『日本語話し言葉コーパス』公開版の仕様を紹介する。締めくくりとして,日本語のコーパス言語学について簡単な展望を述べる。
浅原, 正幸
本研究では『現代日本語書き言葉均衡コーパス』に対して付与された,文の読み時間データ『BCCWJ-EyeTrack』と,名詞句の定性などの情報構造アノテーションデータの対照分析を行った。日本語母語話者24 人分のデータを線形混合モデルにより分析した結果,特定性(specificity)・有情性(sentience)・共有性(commonness) が文の読み時間に影響を与え,それぞれ異なったパターンの読み時間の遅延を引き起こすことがわかった。特に共有性においては新情報(hearer-new)・想定可能(bridging) が識別可能なレベルで異なった。このことは,ある名詞句が言語受容者にとって新情報なのか想定可能なのかを読み時間データから推定することができる可能性を示唆しており,文書要約のユーザ適応などの応用に利用することが期待できる。
Onaha Hiroko 小那覇 ひろこ
第2言語習得者の中間言語は習得あるいは学習した言語環境によって質的に異なるという研究報告が近年数多く発表されている。言語(英語)環境の違いは大きく2つに分けられている。第1のグループは,英語教育を受けずに英語が話されているコミュニティーで自然に英語(中間言語)を習得する場合で,第2のグループは,各機関での英語教育によって学習者が英語を学習・習得する場合である。本稿では,琉球大学短大部英語学科に入学した社会人学生(米軍雇用員)の中間言語を被験者が1年次の時,テープ録音したものを文字化し,分析を試みた。米軍雇用者の英語習得は3つに分類される。(1)中・高校の教育歴で,英語習得は職場のアメリカ人との接触による場合,(2)大学か大学院教育をアメリカ合衆国で受けた場合,(3)日本の大学で英語教育を受け,職場でのアメリカ人との接触によって,さらに英語を習得した場合である。被験者の英語教育歴は中学校と高校に限られており,言語習得環境は,第1グループに属し,(1)の分類に入れられると思われる。分析方法は,KrasbenやPica等の研究で用いられたSOC(Supplied in Obligatory Contexts Analysis of Morpheme)の方法で,英語の機能語(Engllsh grammatical morpheme)の習得状況を調査することによって被験者の中間言語の特徴を明らかにするものである。分析の結果,SOCテストによる機能語の習得状況だけでは,第1グループに属する被験者の中間言語の特徴を明らかにすることはできないという結論に達した。被験者の中間言語には第2グループに属する短大英語学科3年次の学生の中間言語には見られない discourse strategy が頻繁に用いられていた。本稿の結果は,被験者が3年次に達した段階で,同様な方法により再度テープ録音された中間言語と比較される予定である。
Yoshii Koichi 吉井 巧一
ドイツ言語学の流れの中で、重要な文法理論の一つとして「依存関係文法」が挙げられる。Helbig/ Schenkel のヴァレンツ理論の華々しい登場、それに続く Engel/ Schumacher 編集のドイツ国語研究所のヴァレンツ・レキシコーンと、70年代ドイツ言語学界を大いに揺るがした本理論も、次の発展への準備段階に入ったと言えようか。小論では、その発展の方向、及び可能性を探るべく、特にドイツ語動詞のヴァレンツを取り上げ、「machen」、「lassen」という二つの動詞の具体例から、問題性が含まれると思われるものに、若干の考察を試みた。
鈴木, 博之
本稿では、チベット系諸言語のうち限られた少数の方言に認められる声門摩擦音に先行する鼻音要素の調音音声学的特徴を記述し、加えて前鼻音と前気音が交替する現象と有気音の気音部分が鼻音化する現象をいかに解釈するかという問題についても検討を加える。
鈴木, 博之
本稿では、チベット・ビルマ諸語のいくつかの言語に認められる、音節核をなす[v̩] という分節音について、それが調音音声学的にあいまいな表記であるため、1) 調音器官の接近性、2) 円唇性、3) 舌位置の3点で精密化する必要性があることを示し、区別されるべき音声とそれをいかに表記するかについて具体例を交えて提案する。
ホサイン モハメド アムザド 松浦 新吾郎 土井 光弘 仲村 一郎 石嶺 行男 Hossain M.d. Amzad Matsuura Singoro Doi Mitsuhiro Nakamura Ichiro Ishimine Yukio
万田31号は、自然災害を含めて作物、野菜、果物の収量と品質を高めることが報告されている。ここでは、万田31号の使用がほうれん草の生育、収量に及ぼす効果を調べるために琉球大学農学部亜熱帯フィールド科学教育研究センターのガラス室において実験を行った。まず万田31号(100ppm)を、葉の枚数が3-5枚になった時から十日間隔で三回散布した。対照区では水だけを散布した。万田31号を施用した区では対照区に比べ葉の色はより濃緑色で葉の老化が緩やかであった。1個体あたりの葉の枚数と面積では万田31号施用区が対照区に比較し有意であった。根の乾物量と収量は万田31号施用区で有意に増加した。以上の実験結果から万田31号はほうれん草の生育、収量を高める効果があると考えられえる。
Yogi Minako 与儀 峰奈子
世界の色々な言語に女性・男性の性差による話し方の違いが存在することは多くの言語学者によって指摘れ、社会言語学的な観点からの研究が盛んに行われている。アメリカ英語におけるその分野の研究はRobinLakoff (1975)の著書Language and Women' s Placeが導火線となった。Lakoffの研究は本人の内省と周囲の人を観察したものに基づいたものだが、その著書の中で「女性の言葉j と「女性に関する言葉」について言及し、性差によって話し方が違うことと、女性は男性と異なった表現をされていることを指摘している。本稿では、Lakffが「女性の言葉」の特徴として指摘した「専門的な色彩ことば(mauve,lavender,a quamarine)のような特殊な語嚢」"Oh,dear!"," Dear me!"," Oh,f udge!"のような弱い虚辞(weaker expletives),'divine'や、'charming','sweet',' adorable'のようなLakoffの言ういわゆるempty adjectives(ほとんど意味のない形容詞),誇張表現としての副詞"so intensive "so")と「女性に関する言葉」について、1 8 5名のアメリカ英語のネイテイブ・スピーカーにアンケー卜を行い、性差による言語使用の違いについて考察した。
池田, 菜採子
アメリカの構造主義言語学者バーナード・ブロック(Bernard Bloch)作成のSpoken Japanese(以下、SJと略す)は、日本語教育関係者のごく一部に知られているに過ぎず、太平洋戦争後の日本語教育に、どのような影響を与えてきたかということは評価がなされないまま今日に至っている。
東条, 佳奈 黒田, 航 相良, かおる 高崎, 智子 西嶋, 佑太郎 麻, 子軒 山崎, 誠 Tojo, Kana Kuroda, Kou Sagara, Kaoru Takasaki, Satoko Nishijima, Yutaro Ma, Tzu-Hsuan Yamazaki, Makoto
医療記録データには、複数の単語が連結された合成語が多く存在する。そのため、自然言語処理を効率的に行うためには、合成語の語構成や、それらの構成要素の意味に着目し、合成語の構造を明らかにする必要がある。しかし、医療記録は非公開という資料的特質のため、言語学的な調査があまり行われてこなかった。また、医療関係者における意味のある言語単位も定まっておらず、整理の必要があった。こうした背景に基づいて作成した言語資源が『実践医療用語_語構成要素語彙試案表 Ver.2.0』である。本試案表は、『実践医療用語辞書ComeJisyoSjis-1』より抽出した合成語より作成した『実践医療用語_語構成要素語彙試案表Ver.1.0』を更新したもので、7,087語の合成語について、それぞれを構成する語構成要素6,633種と、語構成要素に付与した意味ラベル41種を収録している。本発表では、Ver1.0からの変更点と、本言語資源の特徴、意味ラベルに注目した語構成要素について概観を行った。
亀山, 光明
2000年代以降の近代日本宗教史研究において、「宗教 religion」なる概念が新たに西洋からもたらされることで、この列島土着の信念体系が再編成されていったことはもはや共通理解となっている。とくにこの方面の学説を日本に紹介し、リードしてきたのが宗教学者の磯前順一である。人類学者のタラル・アサドの議論を踏まえた磯前によると、近代日本の宗教概念では、「ビリーフ(教義等の言語化した信念体系)」と「プラクティス(儀礼的実践等の非言語的慣習行為)」の分断が生じ、前者がその中核となることで、後者は排除されていったという。そして近代日本仏教研究でも、いわゆるプロテスタント仏教概念と親和性を有するものとして磯前説は広く取り入れられてきたが、近年ではその見直しが唱えられている。
松下, 晶子 丸山, 岳彦 MATSUSHITA, Shoko
現在、「日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアム」により、1950年代以降のテレビドラマの脚本を収集し、それらを体系的に保存・アーカイブ化する活動が進められている。脚本は、「話されることを前提とした書き言葉」という点で特徴的な書き言葉であるが、これまでの言語研究の中で顧みられることは少なかった。収集した脚本をコーパス化して定量的に分析することにより、新たな言語学的利用の可能性が開かれると考えられる。そこで本発表では、脚本のテキスト化・コーパス化を試験的に実施した経緯を述べ、そのデータを使ってどのような言語研究が可能になるかについて論じる。故市川森一氏による、1970年代から2010年代までの脚本、32作品をテキスト化し、パイロットスタディを実施した。このような分析は、近現代における言語の短期的な変化の研究、ある作家の作品に関するコーパス文体論的研究などにつながると考えられる。
朱, 京偉 ZHU, Jingwei
筆者は,先行の小論(朱京偉2015)で蘭学資料の二字漢語を考察した。本稿の目的は,引き続き,宣教師資料の二字語を取り上げ,蘭学資料の二字漢語との比較対照を行なうことにある。主な結論は以下の諸点にまとめられる。
石川, 慎一郎 友永, 達也 大西, 遼平 岡本, 利昭 勝部, 尚樹 川嶋, 久予 岸本, 達也 村中, 礼子 ISHIKAWA, Shin’ichiro TOMONAGA, Tatsuya ONISHI, Ryohei OKAMOTO, Toshiaki KATSUBE, Naoki KAWASHIMA, Hisayo KISHIMOTO, Tatsuya MURANAKA, Reiko
本稿は、「小中高大生による日本語絵描写ストーリーライティングコーパス」(JASWRIC)の構築過程と概要を報告する。JASWRICには、700名の小中高大生による約13.6万語(短単位)のL1日本語作文が収録されている。全データは、ダウンロード版とオンライン版(JASWRIC Online)の2系統で公開される。一般公開されているL1の子どもの作文コーパスがほとんどない中で、JASWRICは、L1日本語の発達過程を調べる有益な資料となるだろう。また、JASWRICのデータは、「多言語母語の日本語学習者横断コーパス」(I-JAS)で採用されたストーリーライティングのプロンプトを使って集められている。このため、JASWRICは、I-JASと併用することで、L1/L2対照研究の参照データとしても使用可能である。
Goya Hideki 呉屋 英樹
近年、文科省の推し進めるアクティブラーニングは多くの研究者や教育関係者の注目を集めている。本研究は外国語として英語を学ぶ日本人大学生の批判的思考能力と言語能力の育成に目標を定めたプロジェクト型学習を行い、両方の能力におけるその教育的効果を調べた。対象となった授業は英語ライティングの入門講座で、1 6週間に渡り、英語母語話者との交流を通じて議論を行いながら、自らで選択したトピックについて調べ、発表し、議論し、そしてエッセとしてまとめた。事前事後テストの結果より、全体的に言語能力の成長が見られ、特に中級程度のレベルの学習者では、上級レベルの学習者では見られなかった言語能力の向上が見られた。その結果をもとに教育的示唆と理論的示唆が示された。
前川, 喜久雄 MAEKAWA, Kikuo
本稿の前半では基幹型研究「コーパスアノテーションの基礎研究」の現状を紹介した。このプロジェクトでは,既存コーパスの利用価値を向上させるために必要とされるさまざまな言語的アノテーションについての研究を進めている。本稿ではそのうち,係り受け構造,拡張モダリティ,時間情報,語義,節境界,形態論情報をとりあげて解説した。本稿の後半ではもうひとつの基幹型研究「コーパス日本語学の創成」を紹介した。このプロジェクトはコーパス日本語学の振興を直接の目的とする戦略的プロジェクトである。振興のための主要な手段として位置付けている「講座日本語コーパス」と「コーパス日本語学ワークショップ」について説明した後,具体的な研究成果の一例として,『日本語話し言葉コーパス』(CSJ)を用いた日本語イントネーション研究の事例を紹介した。PNLPと呼ばれる東京語の韻律特徴は,1959年に発見されて以来現在までその言語的機能が不明のままであった。今回,X-JToBI韻律アノテーションの施されたCSJ-Coreのコンピュータ分析によって,PNLPは原則として1発話に1回だけ生じて発話の頂点を表示するとともに,典型的には発話の次末アクセント句に生じて発話の終端を予告する境界機能をあわせもっていることが判明した。
島村, 直己 SHIMAMURA, Naomi
本稿は,全国の4年制大学の一般教育科目の中で,「文学」「言語学」に関する科目にどのようなものがあり,そして,それらはどのくらいの大学で開設されているか,ということに関して行った調査の報告である。調査対象とした大学の数は,437校であり,この数字は全国の4年制大学の約9割にあたる。そして,これらの大学で学生に科目の受講案内のために配付している印刷物を資料とした。
Yoshimoto Yasushi 吉本 靖
日本語の時制辞は形容詞述語と否定述語が同じパターンを示し、異なるパターンをとる肯定動詞述語と対照的である。沖縄語も日本語と同様の対照性を示す。本稿では、分散形態論の枠組みを用いて両言語におけるこのような時制屈折パターンを分析した。その結果、日本語と沖縄語に見られる述語屈折パターンの表面上の同一性は異なる要因によりもたらされるものであることが明らかになった。<br/>本稿ではまた、日本語の文末に現れる丁寧辞「です」の分布に関する事実を「です」の持つ範疇選択特性をもとに考察した。丁寧辞「です」は TP を範疇選択するように見えるが、実際は T の補部にある範疇(aP、 vP、 NegP など)を選択していると考えられる。このことを説明するために斎藤(2018、 2020)の提唱するラベリングのメカニズムを採用し、さらに日本語の時制辞が弱い主要部であることを提案した。これにより、「です」の分布が正しく説明されることを示した。<br/>最後に、Nishiyama(1999)が提唱する日本語の形容詞述語の分析を考慮に入れ、本稿で提案する形容詞述語や丁寧辞に関する分析を吟味した。Nishiyama は日本語の形容詞述語は主要部 Pred を含むとしているが、その分析を採用した場合でも、いくつかの仮説を採用することにより本稿で提案した分析は維持できることを示した。
田幸 正邦 仲村 実久 永浜 伴紀 Tako Masakuni Nakamura Sanehisa Nagahama Tomonori
Coryneform bacteria strain C-8の生成する多糖を安定剤として含む水羊羹の保水性、 硬さおよび粘着性について調べた。0.5%C-8多糖水溶液の離水率は最も低かった。このことは、 C-8多糖は対照多糖類に比較して保水性が高いことを示している。C-8多糖を含む水羊羹の硬さは対照のグアーガムのそれより高い値を示し、 一方、 粘着性は低い値を示した。これらの結果から、 C-8多糖は食品工業への利用の可能性が示唆された。
相澤, 正夫 AIZAWA, Masao
方言と地域共通語とでは,捉え方の方向性,観点が基本的に反対である。方言が,地域差すなわち変異の観点からみた各地の日本語であり,区画論的に言えば,ある言語的基準に関する差異性をもとに,広い地域から狭い地域へと日本語を地域区分した結果であるのに対して,地域共通語は,個人や地域ごとに多様な日本語を何らかの均一性の観点から見直し,その通用範囲の広がりによって統合していく過程の中に認知されるものである。本稿では,北海道の富良野・札幌における社会言語学的調査の資料にもとづき,主として後者のようなことばの共通性の視点から,両地点における都市化の程度差に注目しつつ,いわゆる北海道共通語の使用状況と,その背後にある話者の言語使用意識との関係について分析・報告する。
米盛 重友 Shigetomo YoneMori
本報は琉球大学農学部附属熱帯農学研究施設において開墾の違いによる植生の経時的な変化について、 開墾後2年間の調査結果である。1. 開墾はレーキドーザーを使用し地形を変えず表土を残した区とブルドーザーで表土を除き平担とした慣行の区を作り、 隣接する自然林を対照区とした。2. 対照区の植生は40科68種で構成され低木層ではヤマヒハツ、 モクタチバナ、 リュウキュウアオキ、 アデク、 ケハダルリミノキ、 リュウキュウガキ、 マンリョウなどが優占種となり草木層ではイリオモテクマタケラン、 センリョウ、 ヒリウシダ、 ツルアダンなどが優占種となっている。3. レーキドーザー区に認められた2年間の植生は14科33種であるが、 その内12種は対照区で認められず、 試験区外から種子が飛来したものと思われる。4. ブルドーザー区に認められた2年間の植生は7科10種でその内5種は対照区内に認められず、 試験区外から飛来したものと思われる。5. レーキドーザー区は2年間において植物の種類では対照区の約50%、 対照区内にある植物のみでは30%であるのに対し、 ブルドーザー区は植物の種類で14%、 対照区内にある植物では7%にすぎない。6. 開墾区の2年間における植生は環境適応性に強い陽性植物が中心をなしており、 対照区の優占率の高い主要な種類はほとんど認められていない。
鑓水, 兼貴 YARIMIZU, Kanetaka
「首都圏の言語」を考えるうえで,関連する概念や用語は多くあるが,類似したものが多く複雑である。そのため本論文では用語整理は志向せず,考察に必要な観点を中心にまとめた。1980年代以降,伝統方言形が衰退し,新しい方言形が注目されるようになると,単純な共通語化モデルから,修正モデルが提唱されるようになった。研究背景として社会言語学の概念の導入や,社会における人口構造の変化などが影響している。東京における言語現象を考える場合,かつての「江戸」である「東京」の中心地域は非常に狭い範囲である。従来の山の手・下町と呼ばれる地域も,隣接地域に拡大している。そのため「東京」よりも「首都圏」と考えるのが適当である。言語的特徴についても東京とその隣接地域は連続的である。移住者の多い首都圏では,人口構成上,伝統方言が継承されにくい。こうした「首都圏の言語」を理解するための観点として,「標準語・共通語」「公的・私的」「方言・俗語」「意識・無意識」「理解・使用」の5つがあげられる。これらの観点をふまえ,新しい方言形を説明する術語として提唱された「新方言」と「ネオ方言」の考えを,「首都圏の言語」に適用することにより,より深く考察することが可能になる。
中川, 奈津子 山田, 真寛 NAKAGAWA, Natsuko YAMADA, Masahiro
本稿は,竹富島に伝わる伝説『星砂の話』の方言絵本制作過程と,絵本に付属する一般読者向けの文法概要の執筆プロセスについて述べる。沖縄県の八重山諸島の一つ竹富島では,琉球諸語広域八重山語竹富方言が話されており,流暢な話者はほとんど70代以上に限られる消滅危機言語である。まず,この絵本制作企画が属する,「言語復興の港」プロジェクトについて概観し,なぜ言語学を専門とする著者らが他分野のプロフェッショナルや地元の人々と協働して絵本(や他の企画では方言グッズなど)を制作しているのかについて概観する。そして,この絵本の想定読者に向けて,絵本の内容を方言で理解できるようになることを目標にした一般読者向けの文法概要の執筆過程について説明する。表記法(そして竹富方言の発音方法),格助詞・係助詞,動詞・形容詞・終助詞の説明など,一般向けにわかりやすく書くことに気をつけるだけでなく,必ずしも言語学的でないが一般読者が疑問に思いがちなこと(e.g., XとYのどちらが「正しい」のか)にも留意して執筆した。また,専門的な文法概要のように必ずしも網羅性には配慮せず,絵本の表現を理解できるようになることを目標に執筆した。このことの利点と欠点に関しても簡単に触れる。最後に,文法概要とそれに含まれる物語本文を収録した。本稿が,今後同様のコンテンツを作ろうとする人々の一助となれば幸いである。
竹内, 孔一 TAKEUCHI, Koichi
含意認識タスクなど言語処理での文間の表現を取り扱う際,名詞の意味的な関係を捉える必要がある。言語学の分析から名詞の中には名詞の意味を補完する外部情報が必要なものが分かっており,生成語彙における特質構造(クオリア構造) として記述することが提案されている。また言語資源ではNomBank に代表されるように名詞の項構造を事例とともに構築されている。本研究では,先行研究で提案された特質構造を利用した名詞の項構造データを基に言語処理の観点からより形式化した構築法を提案する。具体的には名詞の項構造の例文を構築するとともに,項を同定し,述語との関係を項構造を通して結び付ける記述枠組である。述語のデータとして述語項構造シソーラスを利用し,NTCIR のRITE-2 で出現した名詞を対象に項構造の例文および対応する述語と項の関係を記述したデータを構築した。本稿では,記述枠組,および具体的に構築した名詞項構造データの事例を説明すると共に,付与での問題点や現状について記述する。
丸山, 岳彦 田野村, 忠温 MARUYAMA, Takehiko TANOMURA, Tadaharu
現在国立国語研究所において構築が進められている「現代日本語書き言葉均衡コーパス」が2011年に完成し,日本語初の大規模な均衡コーパスを誰もが利用できるようになる。これにより,諸外国,諸外国語に大幅な遅れを取っていた日本語のコーパス言語学的な研究は,新たな段階を迎えるものと期待される。「コーパス日本語学の射程」と題した本特集の巻頭論文として,本稿では日本語研究におけるコーパスの利用の歴史を振り返り,将来の展望やコーパスの利用をめぐって注意すべきいくつかの問題について述べるとともに,特集に収めた各論文について簡単に紹介する。
白井, 聡子 SHIRAI, Satoko
本稿では,ダパ語(チベット=ビルマ語派チァン語支)に見られる多義的な前接語=ta 'ON'について記述とその成立過程に関する考察を行う。=ta 'ON'は,場所名詞語幹から文法化された前接語の一つで,「上」を意味するtha1から文法化されたものと考えられる。しかし,その表す意味は,他の場所名詞由来の前接語と比べて著しく多岐にわたっている。他の同様の前接語は,名詞に後置され,行為の場所,着点,起点を表す場所名詞句を形成する。ところが=ta 'ON'は,それに加えて,被害者的目的語および尊敬を受ける目的語の標示にも用いられ,時を表す副詞句も形成する。さらに,=ta 'ON'は,接続詞としても機能する。接続詞=ta 'ON'は,従属節末尾の動詞に付加される。接続詞=ta 'ON'自体も多義であり,一義的には時を表す従属節を形成するが,継起,条件,逆接を表す従属節をも形成する。意味派生のプロセスを考慮すると,時点から継起へ,さらに継起から条件および逆接へという段階が考えられる。以上のような両機能性と多義性を記述し,さらに,近隣で話される同系のチァン語支言語との対照を試みた。「上」を表す名詞の文法化はチベット=ビルマ語派に散見されるものの,ダパ語に見られるほどの多義性が報告された言語はない。同じチァン語支チァン語群に属するチァン語雅都方言に,「上」から文法化された多義前接語が報告されている。その一方で,ダパ語に最も近い地域で話されるチァン語支ギャロン語群の諸言語には「上」に由来する多機能の機能語が見られない。名詞「上」から前接語'ON'への文法化は,地域的に広がった特徴ではなく,ダパ語とチァン語に共通の祖語の段階で起こり,両言語に受け継がれたものと考えられる。
高田, 智和 小助川, 貞次 TAKADA, Tomokazu KOSUKEGAWA, Teiji
古典籍の原本画像とその翻字テキストを対照表示させるビュアーを作成し,変体仮名習得を目的とする大学授業に利用した。授業利用により指摘された問題点によってビュアーの改善を行った。また,デジタルコンテンツの利用が,初学者の学習意欲の向上など変体仮名学習に一定の効果をもたらすことが指摘された。
太田, 博三 Ota, Hiromitsu
昨今、ディープラーニングを中心とした機械学習の進展が見受けられ、従来の画像処理・音声認識・自然言語処理の3分野での進展、とりわけ、機械翻訳での取り組みにおいて、言語学や社会学からポライトネスや配慮表現が取り込まれることで、技術面での質的向上が図られようとしている。従来のQ&Aのような対話応答から、対人関係を配慮した対話応答の取り組みは、必要不可欠である。ここで、機械学習への配慮表現の適用は、教師ありデータとして準備する必要があり、PJ上、時間を要するものである。そこで、本稿では、ポライトネスもしくは、配慮行動や配慮表現を主とした機械翻訳や対話文生成の基となる小規模なデータベース(またはコーパス)を構築し、先行研究の多様な定義や議論を踏まえて場面別の発話ストラテジーの傾向を簡易なベイズ論的アプローチで試みたものである。既存のコーパスと対話システム・機械翻訳との懸け橋になればと考えている。
杉戸, 清樹 塚田, 実知代 SUGITO, Seiju TSUKADA, Michiyo
言語ないし言語行動について言及する言語表現としてのメタ言語表現は,その内容や形式において広範な広がりをもつ。この中で,表現主体がいま行おうとする(ないし,いま行ったばかりの)言語行動について,その言語行動としての種類や機能を明示的に表現するメタ表現も日常的にしばしば観察される。
狩俣 智
中学生の幾何の論証の問題解決を認知心理学の知見によって考察した。12人の被験者に問題を発語思考で解かせて言語プロトコルを採取した。言語プロトコルは,認知のプロセスモデルACTに照らして分析され,推論の軌跡を表す証明木,スキーマを表す宣言型符号化表現,手続き的知識を表すプロダクション・ルールに表現された。プロトコル分析によってうきぼりになった問題解決者の特徴は次の通りである。幾何の論証に有能に振る舞えた被験者は,後ろ向き推論と前向き推論によって推論をすすめ,両者を途中で行き合わせるという双方向の推論によって問題を解決した。また,彼等は,後ろ向き推論によってサブゴールを導き出して,サブゴール攻略を大局的な目標にしながら前向き推論を収束させた。他方,問題解決に有能に振る舞えない生徒は,サブゴールを導出できず,前向き推論を収束させることができなかった。考察では,これらの振る舞いの違いを認知心理学の知見にもとづいて議論した。
徐 葆光 ジョ ホコウ
徐葆光(じょほこう)は江南の蘇州府長州県の人で、1719年(康熙58)に尚敬王の冊封副使として来琉。これは冊封の顛末をまとめたものである。冊封儀礼の様子や、琉球に滞在中に見聞した琉球の風俗、言語、地理、歴史などを清朝考証学的な体裁で記し、多くの挿絵を挿入している。江戸時代の知識人の琉球に関する知識はこの著に依るところが多い。またアントワーヌ・ゴービル宣教師によってフランス語に抄訳され、ヨーロッパでも紹介されている。第6巻では風俗・産物・言語等についてまとめられている。『那覇市史』資料編第1巻3に原文及び読み下し篇が収録されている。
竹林, 一志 TAKEBAYASHI, Kazushi
本稿では,主題提示「って」の用法・機能について,「は」の主題提示用法と対照しつつ,また主題提示以外の「って」と関連付けて考察する。主題提示「って」の用法を考えるに当たって,まず,「って」で提示される要素(主題)が文脈・場面上,既出か否かという観点から分類を行う。そして,主題提示「は」と対照し,「って」と「は」の,主題提示の仕方の相違を見る。この相違は,助詞「って」「は」が互いに異なる機能を持つことによる。主題提示「って」は,主題提示以外の「って」と同じく,「引用」という機能を有している。
酒井 彩加 Sakai Ayaka
「共感覚的比喩」の「一方向性仮説」(五感内の意味転用にみられる左から右への一方向性)は、これまで人間が生理学的に普遍であること等を論拠に、世界の言語共\n通に認められる「言語普遍性」の現象のひとつとされてきた。しかし研究が行われたのは英語と日本語のみであり、日本語の調査についても不十分なものである。従って、英語と日本語をはじめ他の言語についても本当に言語の違いを越えて共通に認められる現象であるのかどうか、十分に調査し検証する必要がある。酒井(2003)では、現代日本語における共感覚的比喩について多数の実例に基づき検証し、日本語においては比喩の一方向性が認められないという結論を得た。そこで本調査では、この酒井(2003)での結果を踏まえ、7つの言語(中国語、アラビア語、英語、スペイン語、韓国語、タガログ語、ロシア語)を対象とし「各言語の共感覚的比喩体系には、様々な多様性が認められる」という仮説を立て検証した。要点は、以下の5点にまとめられる。1.今回の調査で最も多く一方向性仮説に反する例が認められたのはタガログ語である。しかし、2番目に多い日本語、そして3,4番目の中国語、英語までは数値的に大きな差は無く、日本語だけでなく複数の言語においても多数の反例が存在することが明らかになった。2.「視覚→触覚」表現については、日本語と韓国語が7言語中、最も少ないのに対し、中国語においては多くの反例が存在する可能性がある。しかし「視覚→味覚」および「視覚→嗅覚」表現と比較すると、「視覚→触覚」表現は他の言語においても用例数が少ない可能性がある。3.「視覚→味覚」表現については、日本語が目立って多い。次いでタガログ語、英語、中国語にも比較的多くの反例が存在するが、スペイン語とアラビア語を除く他の言語においても、多くの反例が存在する可能性がある。4.「視覚→嗅覚」表現については、タガログ語および日本語に多く用例数が認められる。英語、中国語、アラビア語、ロシア語、韓国語にも用例が認められるが、スペイン語だけは極端に少ない可能性がある。5.7言語中、「うすい」「こい」「あわい」に相当する語においては、どの言語においても多数の転用例が認められる。一方、「あかるい」「くろい」「うつろな」「くうどうの」「ピンクの」といった語においては、今回の調査ではどの言語にも全く用例が認められなかった。本稿全体の結論として、日本語以外の7つの言語においても数多くの反例が認められる。従って、今後他の言語についてもさらに調査すべき必要性があることが確認できた。なお本調査は、今後予定されている20言語を対象とした言語調査に先立つ予備調査である。
新城 明久 寺田 直樹 菅 大助 砂川 勝徳 Shinjo Akihisa Terada Naoki Suga Daisuke Sunagawa Katsunori
バガスを食物繊維として活用を検討するため、 マウスの成長、 繁殖成績及び消化器官の形態に及ぼす微粉末バガスの影響を調査した。標準飼料を給与したマウス(8頭)を対照区、 標準飼料に微粉末バガスを25%配合したものを給与したマウス(7頭)をバガス区とした。マウスの23日齢から9週間における増体量、 飼料摂取量、 飼料要求率は、 対照区がそれぞれ16.9g、 278g 16.6、バガス区は12.5g、 318g、 25.8で、 対照区に比較しバガス区が飼料の摂取量は多いが、 増体量は低かった。成長試験終了後交配したマウスの分娩率、 産子数および生時体重は対照区がそれぞれ75%、 9.2頭、 1.6gであったが、 バガス区は100%、 8.4頭、 1.6gで、 繁殖率はバガス区がやや高かった。産子数は対照区の方が多い傾向にあるが、 生時体重には両区の差はなかった。分娩後測定した消化器の形態は、 バガス区が大腸が長く、 胃腸重は重かった。しかし、 小腸の長さには両区に差はなかった。以上の結果から、 バガスは食物繊維として利用が可能であることが示唆された。
久貝 晃尋 荷川取 勝永 Kugai Akihiro Nikadori Syoei
(7)かんがい水量が少ない場合はブリックス,枯死茎は対照区と大差はないが,かんがい水量が多くなるにつれて,ブリックスは低く枯死茎を多く生じている。また,かんがい区は鼠害茎は多いが,風折茎は少ない。(8)干害をうけた蔗茎は繊維分や還元糖が多く,純糖率が低いために製糖歩留を悪くしている。(9) かんがいすることによって,メイチュウの加害茎が少なくなっている。(10)かんがい前の土壤含水量の多少によってかんがい水分の保持朋間が異なる。(11)多量降雨による土壤水分の保持期間はかんがい区よりも対照区の万が長い。すなわちかんがい区はかんがいによって土壤構造が多く破壊され水分の保持を低下させているように考えられる。また降雨量が少ない場合は対照区は下層まで充分に滲透せず,かんがい区は下層まで滲透しているがはじめのうちは下層が多く日が経つにつれて逆に上層よりも下層が少なくなっている。水分の保持期間はかんがい区が長い。(12)かんがいによる土壤中の水分滲透はほぼ三角形に近い分布を示し,かんがい水路の直下が最も深く滲透し,水路より遠くなるにつれて浅く滲透している。(13)平均培土前は甘蔗の植生位置が植え溝にあってかんがいは植え溝に行なうのでかんがい水量は少なくてすみ,根の深さ,滲透範囲からみて20mm程度が適当のように考えられる。平均培土後は甘蔗の植生位置が畦と同じ高さか,または高くなり前と反対にかんがい水路の位置がもとの畦の中央になるので根の主要部分に水分を滲透させるのにしてはかなりの距離があるので,30mm以上のかんがい水量を必要とするように考えられる。(14)生育旺盛期,生育後期は長期かんがいによって土壤構造が破壊され吸水量も多いので40~50mm以上のかんがい水量を必要とするように考えられる。(15)かんがいによる根の分布は,対照区に比較して表土に多く,地表面から10cmの附近に最も多いが,対照区は20~30cmの附近に多く心土にもかなり多い。
南部, 智史 朝日, 祥之 相澤, 正夫 NAMBU, Satoshi ASAHI, Yoshiyuki AIZAWA, Masao
本稿では,国立国語研究所が札幌市,富良野市で実施した社会言語学的調査(1986-1988)のデータを利用し,ガ行鼻音の衰退過程とその要因について定量的観点から議論する。分析にはロジスティック回帰を採用し,ガ行鼻音の使用に関わる言語外的・内的要因を統計的に検証した。その結果,東京におけるガ行鼻音の衰退と同様に,札幌市と富良野市でもガ行鼻音の使用率の減少が見られた。また,ガ行鼻音の使用に関わる要因について時系列的な観点から分析を行ったところ,個々の要因の制約に従いながらガ行鼻音が衰退していく過程(「秩序ある異質性」'orderly heterogeneity', Weinreich et al. 1968)が観察された。さらに,Hibiya(1995)が指摘する東京都文京区根津におけるガ行鼻音の衰退現象との比較を行い,札幌と富良野でのガ行鼻音衰退という言語変化の動機について,両地域のガ行鼻音に関わる言語体系とその社会的側面という2つの観点から説明を試みた。1つは,言語機能的に余剰と見られるガ行音の鼻音性が,余剰を解消する方向への変化によって消失した(「下からの変化」,'change from below')と見る立場であり,もう1つは,Hibiya(1995)が指摘する根津におけるガ行鼻音衰退の要因と同様,社会的な意味(威信)を伴って非鼻音のガ行音の獲得が起きた(「上からの変化」,'change from above')と見る立場である。
山口, 昌也 YAMAGUCHI, Masaya
現在,新聞・小説などのテキストデータベースや言語研究用に構築されたコーパスなどの言語資料が利用できるようになっている。しかし,言語資料を検索・閲覧するための手段が提供されることは少なく,言語資料が有効に活用されていないという問題がある。本稿の目的は,言語資料を有効に活用するため,全文検索システム『ひまわり』を用いて,言語資料の検索環境を構築する方法を示すことである。特に,検索環境構築時の実際的な事柄(文字コードなど)にも配慮し,既存の言語資料をどのような形式に整形すれば,どのような検索環境が構築できるのかを,実例に基づいて説明する。本稿では,まず,『ひまわり』の機能概要,および,検索能力を説明したのち,それに基づいて,(1)生テキストに近い言語資料,(2)形態素情報が付与された言語資料,(3)画像データと関連づけられた言語資料,の3種類の言語資料に対する検索環境を構築する。
井上, 史雄 INOUE, Fumio
この論文では,言語の市場価値を計最する手段を,日本語を例にして論じる。言語は現実に世界で売買されており,言語の市場価値を計算することができる。言語が市場価値を持つ適例は,「言語産業」に見られる。辞書・入門書・教科書などの出版物や,会話学校が手がかりになる。また多言語表示も,手がかりになる。戦後の日本語の市場価値上昇の説明に,日本の経済力(国民総生産)発展が指摘されるが,いい相関をみせない。外国の側の条件が,むしろ重要である。多言語活動の隆盛,実用外国語教育の成長,高等教育の普及である。言語の市場価値の基本的メカニズムに関する理論的問題をも論じる。言語の市場価値は特異な性質があって,希少商品とは別の形で決定される。ただ,言語はもう一つ重要な性質を持つ。市場価値の反映たる知的価値以外に,情的価値を持つ。かつ相対的情的価値は知的価値と反比例する。世界の諸言語には格差があり,そこに経済原則が貫徹するように見える。しかし一方で,言語の感情的・情的側面を見逃してはならない。
松田, 陽子 前田, 理佳子 佐藤, 和之 MATSUDA, Yoko MAEDA, Rikako SATO, Kazuyuki
本稿は,日本で大きな災害が起きたとき,日本語に不慣れな外国人住民に,必要な情報をどう提供すべきかについての検討を進めてきた研究成果の一部である。95年に起きた阪神・淡路大震災以来,社会言語学や日本語教育学を専門とする言語研究者が集まり,日本語にも英話にも不慣れな外国人居住者に対して,災害時には「どのような情報を」「どう流すのか」について考えてきた。本稿は,最後の課題である「どういう手段で」について論じたものであり,「簡単な日本語での日常会話ができる程度の外国人にも理解できる日本語を用いた災害情報の表現のしかた」および「その有効性」について記した試論である。今回提案したやさしい日本語の表現を用いて,日本語能力が初級後半から中級前半程度の外国人被験者へ聴解実験を行ったところ,通常のニュース文の理解率は約30%であったが,やさしい日本語を用いたニュースでは90%以上になるなど,理解率の著しく高まることが確認された。
杉戸, 清樹 塚田, 実知代 SUGITO, Seiju TSUKADA, Michiyo
そのつどの言語行動の種類について明示的に言及するメタ言語的な言語表現類型について,杉戸・塚田1991で書きことばの専門的文章を検討したのに引き続き,話しことば,とくに公的なあいさつを対象とした記述分析を行なった。公的あいさつには,表現のあらたまりを目指したと解釈されるレトリカルな言い回し(動詞そのものも文末形式も)によって,くりかえされる場合も含めて一つのあいさつに平均して3~4回,相当のバラエティの言語行動を説明するメタ言語表現が現れる。書きことば資料で優勢であった意志や希望を明示する文末形式は公的あいさつでは少数である一方,文末の敬語要素はあいさつのメタ言語表現には相当豊富である。また,当該の言語行動を直接的に表現する直接表現は,メタ言語表現に比べて少ない。これらの事実は,あいさつのあらたまり性を目指して表現の直接性を避けた結果と解釈される。発話行為論で言う発語内行為が明示的に言語化される実態を記述し,それが語用論で言う言語表現における対人的なあらたまり(丁寧さの一種)と深く関連しているという解釈を,本稿では言語行動研究の観点から指摘した。
福永, 由佳 FUKUNAGA, Yuka
在日パキスタン人は人口規模こそ小さいものの,中古車輸出業をはじめとするエスニック・ビジネスの展開,宗教施設の設立など,自立的な社会活動を展開する活力の高いエスニック集団である。また,彼らは生活のなかで複数の言語を使用する多言語使用者でもある。彼らの多言語使用の実態と言語使用に関わる社会文化的要因をEthnolinguistic Vitality Theoryにもとづき明らかにすることを目指して,本稿では(1)多言語使用に関する諸理論を検討するとともに,(2)参与観察と言語意識調査で得られた定性的データを用いて,Ethnolinguistic Vitality Theoryの適応可能性を検討した。分析の結果,彼らは母国の言語事情や社会構造および日本における社会文化的文脈から形成された言語意識をもとに,複数の言語(日本語,英語,ウルドゥー語,アラビア語,民族語)を使い分けている様相が明らかになった。また,データに見られた言語意識はEthnolinguistic Vitality Theoryの枠組みで説明しうることが示唆された。
李, 勝勲 倉部, 慶太 品川, 大輔 Lee, Seunghun J. Kurabe, Keita Shinagawa, Daisuke
大言語を対象とした様々なデジタルアーカイブに基づく研究が進展する一方で、少数言語を対象としたデジタルアーカイブの構築とその利活用はまだ充分に進んでいるとはいいがたい。本稿では少数言語を中心に著者らが構築したデジタルアーカイブを紹介し、少数言語を対象としたアーカイブ化に関して議論する。一つ目はチベット・ビルマ系の5言語に関する資料を公開するアーカイブサイト 'PhoPhoNO'、もう一つはバントゥ系の5言語の資料をアーカイブ化したサイト 'Bantu Language Digital Archive (BantuDArc)' である。各サイトは言語に関するメタデータ、地図、そして言語資源から構成される。音声資料を含む個別のデータ項目には固有のIDが付与され、申請によってアクセスを認められれば、利用者はそれらデータを研究資源として利活用することができる。
伝, 康晴 小木曽, 智信 小椋, 秀樹 山田, 篤 峯松, 信明 内元, 清貴 小磯, 花絵 DEN, Yasuharu OGISO, Toshinobu OGURA, Hideki YAMADA, Atsushi MINEMATSU, Nobuaki UCHIMOTO, Kiyotaka KOISO, Hanae
コーパス日本語学への応用を指向した形態素解析用電子化辞書UniDicを開発した。大規模コーパスに対する形態論情報付与作業には,計算機を用いた形態素解析システムの利用が不可欠であるが,既存の形態素解析システム用辞書には,コーパス日本語学への応用を考える上でさまざまな不都合がある。1つは,単位の認定がある場合には長く,ある場合には短いといった不揃いがあることであり,もう1つは,異表記や異形態に対して同一の見出しが与えられないということである。言語研究で重要な要件となる,このような単位の斉一性や見出しの同一性への対処といったことを中心に,本電子化辞書の設計方針とそれを実装した辞書データベースシステムについて述べる。さらに,この設計の有用性を示すため,表記や語形の変異に関するコーパス分析の事例を紹介する。
伊藤, 薫 森田, 敏生 Morita, Toshio
ChaKi.NETはコンコーダンサやアノテーションツールを含む多機能なコーパス管理システムである。現行の(ChaKi Legacyでない) ChaKi.NETは2009年(Ver. 1.1, 現在公式サイトで確認できる最古のバージョン)に公開されたものであり、10年以上に渡って機能追加や品質の向上が行われてきた。しかし、可能な処理が増え多機能化が進む一方で、インターフェイスが複雑化しコンコーダンサとしての利用等、簡易な作業にも学習コストが嵩む状態になっている。本研究では、ChaKi.NETの機能のうちコンコーダンサ機能に焦点を絞り、複雑なファイル操作に馴染みのないユーザにも利用しやすいインターフェイスを備えたChaKi.NET liteの開発について述べる。想定するユーザ層としてはCorpus of Contemporary American English(COCA)等のコーパスを使用したことのある言語学者であり、近年自然言語処理分野で開発が盛んである通言語コーパス群Universal Dependencies(UD)コーパスを容易に使用可能にすることを目指している。今回追加した主な機能は、UDコーパス群読み込み操作の簡略化、複数UDコーパスの一括検索機能追加、検索実行および結果表示インターフェイスの改良である。
パルデシ, プラシャント PARDESHI, Prashant
述語構造の意味範疇に関わる重要な言語現象の一つに「他動性」がある。本プロジェクトは意味的他動性が(i)出来事の認識,(ii)その言語表現および(iii)言語習得(日本語学習者による日本語の自動詞と他動詞の習得)にどのように反映されているのかを解明することを目標とする。日本語とアジアの諸言語を含む世界の約40言語を詳細に比較・検討し,それを通して,日本語などの個別言語の様相の解明だけでなく,言語の多様性と普遍性についての研究に貢献することを目指す。
宮田, 剛章 MIYATA, Takeaki
本稿の目的は,中国人・韓国人日本語学習者を対象に敬語動詞における中間言語を数量化し,その結果を基に,第二言語としての敬語動詞の習得状況を量的中間言語という観点から解明することである。概して,日本語学習者は日本語運用能力が日本語母語話者に近づくにつれ,量的中間言語が発達することが確認されたが,それを構成する正用的および誤用的中間言語の発達は学習者の属性により異なる。また,母語の影響については,韓国人学習者の謙譲語の一部に確認されたのみであった。言語的転移以外に心理言語的・社会心理的転移も考えられたが,どの敬語種・対応群でも心理言語的・社会心理的転移の可能性が低いと思われる。
小林, 雄一郎 KOBAYASHI, Yuichiro
コーパスに基づく言語研究の利点は,広範な言語項目を分析対象とすることで,言語データを包括的に記述できることである。しかしながら,複数のデータにおける多数の言語項目を効率的に分析するためには,多変量解析などの統計手法に関する知識が求められる。本稿では,言語研究で活用することができる複数の多変量解析の長所と短所を比較検討し,ヒートマップと階層型クラスター分析を組み合わせて用いることの有効性を論じる。それに加えて,R言語を用いた解析方法と,その解析結果を解釈する方法を提示する。
高嶋, 由布子 TAKASHIMA, Yufuko
危機言語としての言語研究が国際的に行われるようになって以来,手話言語はその枠組みに入れられてきていなかった。2006年,国連の障害者の権利条約で,手話も言語であると定義され,その重要性が認知され,手話研究の重要性は高まっている。これと同時に,重度難聴者への補聴を可能とする人工内耳などの技術も高まっており,手話を第一言語として習得する者が減少してきている。
菊地, 暁 Kikuchi, Akira
従来の「民俗学史」が抱えてきた「柳田中心史観」「東京中心史観」「純粋民俗学中心史観」ともいうべき一連の偏向を打開すべく、筆者は「方法としての京都」を提唱している。その一環として本稿では国民的辞書『広辞苑』の編者・新村出(一八七六―一九六七)を取り上げる。新村は柳田国男と終生親交を結び続けたが、その学史的意義が正面から問われたことはこれまでなかった。その理由の一端は、両者の交流を跡づける資料が見つからなかったことによるが、筆者は、新村出記念財団重山文庫ならびに大阪市立大学新村文庫の資料調査から、柳田が新村に宛てた五〇通あまりの書簡を確認した。これらは便宜的に、a)研究上の応答、b)資料の便宜、c)運動としての民俗学、d)運動としての方言学、e)交友録、に区分できる。これらの書簡からは、明治末年から晩年に至るまで、語彙研究を中心とした意見交換がなされていること、柳田の内閣書記官記録課長時代に新村が資料閲覧の便宜を得ていること、逆に柳田が京大附属図書館長の新村に資料購入の打診をしていたこと、柳田が「山村調査」(一九三四―一九三六)の助成金獲得にあたり、新村に京大関係者への周旋を依頼していること、一九四〇年創立の日本方言学会の運営にあたって、研究会開催、学会誌発行、会長選考、資金繰りなど、さまざまな相談していること、等々が確認される。こうした柳田と新村の関係は、一高以来の「くされ縁」と称するのが最も妥当なように思われるが、その前提として、「生ける言語」への強い意志、飽くなき資料収集、言語の進歩への楽観、といった言語認識の基本的一致があることを忘れてはならない。さらには、二人の関係が媒介となって、京大周辺の研究者と柳田民俗学との交流が促進されたことも注目される。
村杉, 恵子 MURASUGI, Keiko
本稿は,言語獲得の論理的問題を整理した上で,wh島制約に関する研究と「の」の過剰生成に関する研究を紹介する。普遍文法の特性が言語獲得の早期から獲得されている一方で,幼児の「誤用」は,普遍文法の制限の範囲内で起こることを理論的実証的に示す。このことにより,幼児の「正用」も「誤用」も,自然言語の特性が表出した現象であることを示し,人間に備わる生得的な言語知識の実在性を,言語理論と言語獲得研究から裏付ける。
コムリー, バーナード Comrie, Bernard
言語類型論は日本語等の個別言語を通言語的変異に照らして位置づけるための1つの方法を提供してくれる。本論では個々の特徴の生起頻度と複数の特徴の相関関係の強さの両方を検証するために,WALS(『言語構造の世界地図』)を研究手段に用いて言語間変動の問題を考察する。日本語と英語は言語類型論的に非常に異なるものの,通言語的変異を総合的に見ると,どちらの言語も同じ程度に典型的であることが明らかになる。また,日本語が一貫して主要部後続型の語順を取ることは,異なる構成素の語順に見られる強い普遍的相関性の反映であるというよりむしろ,日本語の偶発的な性質であると主張できる。最後に,WALSの守備範囲を超えた現象として,多様な意味関係を一様に表す日本語の名詞修飾構造,および類例がないほど豊かな日本語授与動詞の体系に触れ,それらを世界の他の言語との関係で位置づけることで本稿を締めくくる。
Yuki Masami 結城 正美
本稿は、森崎和江の作品におけるディアスポラ的な言語実践を分析するものである。自己と他者を分け隔てる境界を、両者をつなぐインターフェイスとしてとらえ直そうとする森崎の文学的試みは、具体に根づいた(土着の)言語を称揚するのでも、抽象世界で自己完結している言語を単に批判するのでもなく、異質な言語をつなぐ新たな言語の希求というかたちで展開する。確たる参照点を持たず欠落の意識を手だてとする森崎のディアスポラ的言語探求を、森崎作品における三つの重要なトポス―沖縄/与論、朝鮮、炭坑―に着目し分析する。
林, 直樹 田中, ゆかり
本稿では,異なる研究者によるデータをWeb上で共有・統合することを目的に構築された「日本大学文理学部Web言語地図」の概要を報告する。最初にWeb言語地図の利用方法のうち,言語地図の描画方法を説明する。次に,Web言語地図にデータを追加するために,個人がどのようにデータを管理するのかを述べ,作成したデータをWeb上で管理するための方法を解説する。最後に.Web言語地図の理念である研究資源の共有という試みにおける今後の課題について言及する。
小林, 健二 KOBAYASHI, Kenji
長野市の西光寺・往生寺に伝わる絵解き「苅萱」について、今日伝えられる掛幅絵と語りの内容の二点から分析・吟味し、江戸時代に流布した苅萱を素材とする文芸作品と対照させることにより、御絵伝の製作状況および絵解きの形成の背景と展開について考察する。
前川, 喜久雄
話しことばは書きことばよりも多くの種類の情報を伝達している.音声は論理的な言語情報の他に感性的なパラ言語情報を伝達している.この発表では標準的な日本語を対象として,代表的なパラ言語情報がどのような音声的特徴によって伝達されているかについて報告し,あわせてパラ言語的情報がどの程度正確に伝わるかという問題にも触れる。
森, 大毅 MORI, Hiroki
Fujisaki (1996)は,音声に含まれる情報を言語的情報・パラ言語的情報・非言語的情報の3つに分類した。藤崎の定義では,転記可能性と話者の意識的な制御の有無が分類の要になっている。このため,話者の意識的な制御の有無が明確でない現象に関しては分類上の問題を生ずる可能性がある。特に,感情の扱いはしばしば問題となっていた。本研究では音声によるコミュニケーションの図式を整理し,話し手により意識的に制御された感情表出を適切に位置付けるために,メッセージ性をもって生成された感情表出と不随意的に生成された感情表出とを区別した。また,話者の言語的メッセージおよびパラ言語的メッセージと,聞き手が得る言語的情報およびパラ言語的情報とを区別し,それらの違いを明確に述べた。
狩俣 繁久 Karimata Shigehisa
北琉球語と南琉球語は文法、語彙の面で大きな違いが見られる。南琉球語と北琉球語と九州方言を比較し、(1)南琉球語には南九州琉球祖語に遡る要素が存在すること、(2)南琉球語に存在し北琉球語に見られない要素がかつては北琉球語にも存在したこと、(3)北琉球語と九州方言に共通するが,南琉球語に見られない要素があることを確認した。そのことから、南北琉球語の言語差は九州から琉球列島への人の移動の大きな波が2 回あったことに由来することを主張する。考古学等の研究成果を参考にすれば、南琉球に南九州琉球祖語を保持した人々の移動の時期は、10 世紀から12 世紀である。2 回目の人の移動によって北琉球で貝塚時代が終わり、グスク時代が始まった。南琉球にもグスク文化は伝わったが、その言語体系を大きく変化させるほどのものではなかった。
大山, 浩美 馬場, 良二 和田, 礼子 田川, 恭識 嵐, 洋子 島本, 智美 吉里, さちこ 大庭, 理恵子 OYAMA, Hiromi BABA, Ryoji WADA, Reiko TAGAWA, Yukinori ARASHI, Yoko SHIMAMOTO, Tomomi YOSHISATO, Sachiko OBA, Rieko
言語には様々な異種が存在する。方言(ここでは特に地域方言)はその一つである。同じ日本語であっても様々な方言があり,別の言語であるかと思うほど理解し合えない時もある。「熊本方言を話せなくてもいいから理解できる」ということを目指し,留学生を対象とした熊本方言の特徴を学ぶ教科書『さしより熊本弁』(「さしより」とは共通語では「とりあえず」という意味を持つ熊本方言である)を作成している。その作成の中で,熊本方言話者の会話データを収集し,文字化した。その会話データにおいて方言要素を抽出し,教材作成者(熊本方言話者)が内省を施し使用頻度が高いと思われるものを選んだ。熊本方言といっても各地域によって大きく異なるため,熊本市で使われる方言に限定し,方言の世代差についても,大学生の使用を念頭において選定した。本稿では,熊本方言話者の会話データにおいてどのような方言要素を抽出し,方言タグを付与し,言語資源化したのかについて述べる。
大村, 舞 浅原, 正幸
自然言語処理の分野では多言語かつ言語横断的な言語研究が盛んに取り組まれている。その言語横断的な言語研究の取り組みとしてUniversal Dependencies(UD)がある。UDでは品詞や係り受け構造の標準・スキーマを定め,多言語のコーパスを提供している。本論文では,日本語コーパスである現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)をUDのスキーマへと変換したコーパスについて紹介をする。BCCWJでは日本語における文節単位の係り受け情報がすでに付与されている。この係り受け構造を基にしてUDへと変換するプログラムの開発を行った。しかし,文節単位はUDの単語単位には沿っていない。そのため,BCCWJで提供されている短単位と長単位というふたつの言語単位を単語の単位をして認定したコーパスを構築する。短単位と長単位についてUDのスキーマに当てはめた場合,どのような係り受け構造ができるのかを示す。
奥野, 由紀子 リスダ, ディアンニ OKUNO, Yukiko RISDA, Dianni
本研究は,日本語学習者を対象として収集したストーリー描写の「話す」課題と「書く」課題のデータに違いが見られるか,その要因は何かを探索的に分析するものである。作業課題による中間言語の変異性(variability)は70年代から調査されており,Tarone(1983)は,中間言語の作業課題による共時的な変異の原因は,注意量の差であると主張している。今回使用するデータは,現在進行中の学習者コーパス構築のためのプロジェクトの調査データの一部であり,5コマ漫画の描写を使用する。日本語能力に差のないインドネシア語,英語,タイ語,中国語,ドイツ語を母語とする5か国の学習者15名ずつ計75名を対象として分析する。分析の結果,対象箇所の描写には,大きく以下の4パターンが見られた。(犬に食べ物を)(1)「食べられてしまいました・食べられてしまった」など「受身+しまった」を使うパターン,(2)「食べられました」と受身を使用するパターン,(3)「食べてしまいました」と「動詞+てしまう」を使うパターン,(4)「食べました」と単純過去を使用するパターン。また,「話す」課題と「書く」課題でそれらのパターン使用にどのような違いがあるかを分析し,「書く」課題で「話す」課題よりも複雑なパターンになるケースが多いものの,違いがないケースもほぼ同数存在したこと,また,複雑な形式であるがゆえに正確さが落ちる場合もあること,正確さを高めるためにより単純な形式を使用する場合もあることなどが明らかとなった。これらの事例を通し,課題の違いに見られる中間言語変異性には学習者の言語的知識,自らの運用を客観視するメタ言語的知識,運用に至る構成的処理過程を支える心理言語学的知識という各知識レベルが関与している可能性を指摘する。
西島, 光洋 NISHIJIMA, Mitsuhiro
本研究では、アジア言語母語およびヨーロッパ言語母語の中級日本語学習者(以下それぞれアジア/ヨーロッパ言語母語話者)による各品詞の使用量の差異を調査した。計11母語の日本語学習者それぞれに対して、I-JAS のストーリーライティング(SW)タスクとエッセイ(E)タスクそれぞれにおける、各品詞(大分類・細分類)のトークン数とタイプ数の頻度を計算した。その結果、対象とする母語数を増やすと、先行研究で指摘されていたアジア/ヨーロッパ言語母語話者間の差異が確認されなくなる場合があることが分かった。また、タスクによって、アジア/ヨーロッパ言語母語話者間の差異が確認できる品詞は異なることも分かった。特に、ヨーロッパ言語母語話者はアジア言語母語話者と比べて、SWタスクでは終助詞を多用する一方で、Eタスクでは口語的な助詞を豊富に使用することが判明した。この結果を基に、ヨーロッパ言語母語話者が書く文書には、文書のジャンルに依らない、文体上の共通点が存在する可能性を指摘した。
呉, 佩珣 近藤, 森音 森山, 奈々美 荻原, 亜彩美 加藤, 祥 浅原, 正幸 Wu, Peihsun Kondo, Morine Moriyama, Nanami Ogiwara, Asami
『分類語彙表』の見出し語と『岩波国語辞典第五版タグ付きコーパス2004』に含まれる国語辞典見出し語との対応表を作成した。分類語彙表は統語・意味に基づいて見出し語を分類したシソーラスであるが、その語義を規定する語釈文を含んでいない。そこで、岩波国語辞典の見出し語と対照させることで対応表を構築し、統語・意味分類と語釈文を結びつける作業を行った。作業は、見出し語表記による2部グラフを構成し、対応する見出し語対を抽出することによる。本作業は5人の作業者により平行して進めた。本作業結果により、『現代日本語書き言葉均衡コーパス』に付与された2種類の語義情報(分類語彙表番号・岩波語義タグ)との対照比較ができるようになった。本発表では、情報付与作業の方法と基礎情報を報告する。
井原, 今朝男 Ihara, Kesao
本稿は,長野盆地における大河川の氾濫原・沖積扇状地と山麓丘陵部という対照的な二つの地域における災害と開発の歴史を類型化する試みを提示するとともに,開発勢力に注目して中世社会の災害と開発力の歴史的特質を検討しようとするものである。
大村, 舞 浅原, 正幸
自然言語処理の分野では多言語かつ言語横断的な言語研究が盛んに取り組まれている。その言語横断的な言語研究の取り組みとしてUniversal Dependencies(UD)がある。本論文では、日本語のコーパスであるUD Japanese-BCCWJについて紹介をする。UD Japanese-BCCWJは現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)に付随する係り受け情報などを組み合わせて、UDへと変換、構築したBCCWJのUniversal Dependencieである。これは日本語のUDの中でも1980文章、57,256文、約126万単語を含む最大規模また複数のレジスターを内包したデータセットである。UD Japanese-BCCWJの特徴について説明する。またUD Japanese-BCCWJの構築手順について説明し、現状における問題点について議論する。
石原 嘉人 Ishihara Yoshihito
ベトナム語話者が日本語を学ぶ際の特徴として、母語の漢字語棄(漢越語)の知識が有利に働くことが挙げられるが、その半面で母語の干渉による誤用が生じやすいことも見逃せない。中国語や韓国語も同様の特徴を持つのであるが、これらの言語に比べるとベトナム語は日本ではなじみが薄く、教材や辞書などの学習ツールが不足している。本稿では、ベトナム語話者に対する漢字語彙の指導を効果的に進めるためにいくつかの提言を行う。
岡崎, 敏雄 OKAZAKI, Toshio
外国人年少者に対する日本語教育への本格的取り組みは近年開始されたばかりである。現場の教師は手探りでこれに当たり,その中で言語教育観が形成されつつある。本研究は,形成されつつある教師の言語教育観に焦点を当て,日本語教育が必要な金国の外国人年少者の在籍する公立小・中学校の日本語教育に関わる全教師に対して質問紙による言語教育観の調査を行った。クラスター分析,分散分析の結果,全体として(日本語教育と共に)母語保持を重視する言語教育観が教師によって高く支持され,カナダのイマージョン・プログラムに典型的に見られる継続的二言語併用型の言語教育観が形成されつつあることが示された。しかしながら他方,日本の諸条件を反映して,同時に「少数散在型」「受容型」「滞在エンジョイ型」「短期滞在者への注目型」「現行制度枠内型」という性格を備えたものであることが示され,教育制度の異なるカナダのイマージョン・プログラムでの継続的二言語併行型言語教育との相違も明らかにされた。
仲村 一郎 松浦 新吾郎 ホサイン アムザド 土井 光弘 石嶺 行男 Nakamura Ichiro Matsuura Singoro Hossain Md. Amzad Doi Mitsuhiro Ishimine Yukio
万田31号は、50種類の植物素材を組み合わせ発酵させて作られたもので、作物、野菜、果物の収量と品質を高めることがすでに報告されている。ここでは、施肥量の違いによる万田31号の使用がウコン(Curcuma spp.)の生育、収量に及ぼす効果を知るために2000年4月から2001年2月にかけて、琉球大学農学部附属農場において実験を行った。処理区は(1)1ha当り施肥量(化成肥料N : P : K=9 : 9 : 185)133kgに水を散布した対照区(F-1-W)、(2)施肥量133kgに万田31号を散布した処理区(F-1-M)、(3)1ha当り施肥量200kgに水を散布した対照区(F-2-W)、(4)施肥量200kgに万田31号を散布した処理区(F-2-M)、(5)1ha当り施肥量266kgに水を散布した対照区(F-3-W)、(6)施肥量266kgに万田31号を散布した処理区(F-3-M)、を設け葉面散布を行った。肥料は、ウコンの植付け後60∿75日目から60日間隔で3回施肥し、万田31号(0.01ppm)は植付後60∿75日目から30日間隔で5回施用した。ガラス室での実験では、それぞれの施肥レベルで対照区に比較して万田31号の施用により、ウコンの地上部乾物重と収量は増加した(図1、2)。F-1-M区は、F-2-W区に比べ地上部乾物重と収量が増加した(図1、2)。また、F-1-M区とF-2-M区の地上部乾物重と収量は、F-3-W区と同程度だった(図1、2)。圃場実験では、各々の対照区より万田31号を施用した区で有意に地上部乾物重が増加した(図3、4)。また、F-1-M区とF-2-W区およびF-2-M区とF-3-W区を比較すると、F-1-M区、F-2-M区で各々地上部乾物重及び収量が増加し、有意差が認められた。また、F-2-M区とF-3-M区を比較すると地上部乾物重および収量に差が認められなかった。このことから圃場実験では、肥料を200kg/haと万田31号(F-2-M区)の組合せがウコンの生育および収量の増加に大きな効果を示した。以上の実験結果から、万田31号の施用は肥料の利用効率を高めたことが考えられ、万田31号を施用することにより、化成肥料の施肥量を軽減し、環境調和型農業に寄与し得ると考えられる。
熊谷, 智子 KUMAGAI, Tomoko
同じ目的をもつ言語行動でも,その実現の仕方はさまざまであり得る。本稿では,言語行動の行われ方を記述し,その特徴を多角的にとらえるための分析の観点を提案する。観点の収集にあたっては,大量調査資料を用いて同一場面におけるさまざまな話者の言語行動を分析し,バリエーションがあらわれる諸側面を考察した。そして,その所見をもとに,言語行動一般の特徴分析に有効と思われる以下の観点を抽出した。
親川 志奈子 Oyakawa Shinako
ハワイがルネッサンスに湧く1970年代、琉球では日本を「祖国」と呼ぶ「復帰」運動が起こっていた。「復帰」40年目にあたる2012年現在、琉球諸語はその特徴である豊かな多様性を残しつつも、若い世代への継承が行われておらず、ユネスコの危機言語レッドブックには琉球諸語のうち六つの言語が登録されている。2006年には「しまくとぅばの条例」が制定され、琉球弧各地においてしまくとぅば復興のための草の根の言語復興運動が展開されており、県庁所在地の那覇では「はいさい運動」など行政の取り組みも起こっているが、政府レベルでの言語政策は存在しない。また言語復興の現場には多文化共生というフレームワークが敷かれており、言語とアイデンティティを同時に語らせるが、インディジニティという自己認識に到達させない仕組みが存在する。本稿では日本が国家=民族と定義し教育してきた背景と「復帰」 に至るプロセスとその結果としてディスエンパワメントされた琉球人の民族意識や言語意識に対するトラウマについて、インディジネスの権利回復運動の中で言語復権を強めたハワイと比較し議論する。
孫, 愛維 Sun, Ay-wei
本研究では,第二言語及び外国語として日本語を学ぶ台湾人学習者における現場指示用法の習得について,学習環境が及ぼす影響を質問紙調査により探った。その結果,「独立的現場指示のコ」及び「相対的現場指示の対立型のコ」は,JSLとJFLとの間で習得のされ方に差は見られなかったが,それ以外は,JSLはJFLより現場指示の習得が早く進むことがわかった。JFLはJSLより母語の知識と教室指導に影響されやすく,「誤用のコ」と「誤用のソ」を多く産出した。また,日本語総合能力も併せて検討したところ,JSLにおいては,下位レベルの学習者において既に高い正用率を示しており,上位レベルとの間には有意差が見られなかったが,JFLにおいては,下位レベルの学習者には誤用が多く見られ,完全に習得されるとは言えないことがわかった。以上から,目標言語圏で勉強することは現場指示の習得を促進することが示唆された。
田中, ゆかり 早川, 洋平 冨田, 悠 林, 直樹 TANAKA, Yukari HAYAKAWA, Youhei TOMITA, Haruka HAYASHI, Naoki
言語景観研究に基づく地域類型論の構築を目指した事例研究として,本稿では,外国人来訪客の多い地域でありながらサブカルチャーの街としても知られるJR秋葉原界隈,通称アキバをとりあげ,2010年に行なった調査結果に基づき報告を行なう。調査対象は実店舗の掲示類,並びに店舗運営のWebサイトである。実店舗・Web調査結果からは次の点が明らかになった。(1)「日本語」「英語」以外の言語として,「中国語(簡体字)」への対応が手厚い。一方,「韓国語/朝鮮語」は単言語としても併用言語としても出現頻度が低い。(2)家電系や免税系は多言語傾向が顕著だが,サブカル系は「日本語」単言語が主流。上記結果から,アキバは他地域における“標準タイプ”化と異なる多言語化の状況にある特異性をもつことが確認された。また,この背景には外国人来訪者の傾向性や店舗分野の違いといった,アキバの街を構成する要素が関係していることを指摘した。
鄭, 惠先 JUNG, Hyeseon
本稿では,方言を役割語の一種として定義した上で,日韓両国での方言意識調査を通して,役割語としての両言語方言の共通点と相違点を具現化した。最終的には,日韓・韓日翻訳の上で,両言語方言を役割語として有効活用することが本研究の目的である。考察の結果,以下の4点が明らかになった。1)両言語母語話者の方言正答率から,韓国の方言に比べて日本の方言のほうで役割語度が高いことが予想される。2)「共通語」対「方言」の対比的な役割語スタイルは,両言語母語話者の方言意識の間で共通している。3)「近畿方言」と「慶尚方言」の間には共通する役割語スタイルが見られる一方で,一部のステレオタイプの過剰一般化が役割語度アップを促進していると推測される。4)「東北方言」と「咸鏡・平安方言」の間には共通する役割語スタイルが見られる一方で,「東北方言」に比べて「咸鏡・平安方言」の役割語度がきわめて低い可能性がうかがえる。以上の結果をもとに,両言語方言の役割語としての類似性を巧く生かすことで,より上質の日韓・韓日翻訳が実現できると考える。
崔, 文姫 CHOI, Moonhee
本稿は,日本語学習者(以下,「学習者」)の発話に対する日本語教師(以下,「教師」)と非日本語教師(以下,「非教師」)の評価の因果関係を明らかにすることを目的とし,共分散構造分析の因果モデルによる検証を行う。その結果,教師は『個人的親しみやすさ』『言語能力』『社会的望ましさ』『待遇性』『活動性』『パラ言語能力』,非教師は『個人的親しみやすさ』『言語能力』『社会的望ましさ』『パラ言語能力』『話し手の方略』『活動性』という異なった観点を基に評価を行うことが分かった。また,それぞれの評価の観点は互いに影響し合い,複雑に絡み合い,学習者への印象につながることが確認された。とりわけ,両者ともに,学習者の『言語能力』が『パラ言語能力』と『個人的親しみやすさ』および『活動性』という印象の評価につながり,特に『パラ言語能力』に与える影響が一番大きいことが明らかになった。さらに,その『パラ言語能力』が,母語話者が学習者に対して抱く印象すべてに大きく影響を及ぼすことも,両者に共通している。教師のみに現れた特徴は,学習者の『待遇性』に関わるパスである。『待遇性』が学習者の『パラ言語能力』と『社会的望ましさ』の印象に影響を与え,『言語能力』とは互いに影響し合う関係(正の相関)が現れた。一方,非教師のみに現れた特徴は,学習者の『話し手の方略』に関わるパスである。学習者の『話し手の方略』が,『言語能力』との間で高い負の相関を見せ,学習者の『パラ言語能力』と『社会的望ましさ』や『個人的親しみやすさ』の印象に弱い影響を与えていることが判明した。
狩俣 繁久 Karimata Shigehisa
琉球語は、日本語と同系の言語であり、日本語の歴史の研究に重要な位置を占めることが知られるが、これまでの研究は、奈良期中央語と琉球語の一部の下位方言の比較研究が主であり、琉球語研究の成果が日本語の歴史研究に十分に活かされていなかった。琉球語の下位方言間の変異は、日本語諸方言のそれを超えるほど大きい。その多様性がどのように生成されてきたのかを明らかにすることが求められていた。琉球語、九州方言、八丈方言が日琉祖語からどのように分岐して現在に至ったか、琉球語内部でどのような分岐があったかを明らかにするため、言語地理学の研究成果に照らして検証しながら、音素別、意味分野別、文法項目別等、目的に応じて選定した複数の単語を組み合わせて系統樹を作成する。それぞれの系統特性を解明しながら重層的な変化過程を可視化させるための可能性と課題を提示する。
鑓水, 兼貴 YARIMIZU, Kanetaka
首都圏の言語は,構成員の多様さのため非常に複雑であるとされる。しかし現代の共通語は,東京の言語を基盤としており,東京における言語変化の影響を受けている。そのため東京および周辺地域における言語動態の調査は,共通語形成過程の解明にとって不可欠である。首都圏若年層の言語の地域差を把握するための調査には,大量のデータを必要とする。そのためには授業場面での学生を対象とした調査が実施しやすい。しかし学生の回答意欲の低下や,授業時間の圧迫といった問題が考えられる。本研究では,そうした問題を解決する方法を検討し,携帯メールを用いた「リアルタイム携帯調査(RMS)システム」を開発した。RMSシステムは,首都圏若年層の言語形式の収集に適しており,大量データから,詳細な分布状況を明らかにすることが可能となる。
森, 大毅 藤本, 雅子 浅井, 拓也 前川, 喜久雄 FUJIMOTO, Masako ASAI, Takuya
喉頭音源由来の声質の違いは,話者のパラ言語メッセージならびに心的・認知的状態を伝えるシグナルであり,自発音声コーパスに求められる重要な情報であるが,そのアノテーションは音声学の専門家でなければ難しくコストが大きい。本研究は,機械学習による声質の自動アノテーションの可能性を探ることを目的とする。本研究では,非流暢性にも関連する従来よく用いられてきた発見的な音響特徴量に加え,近年音声からの感情認識で広く用いられるようになった大規模な特徴量セットの効果を検証した結果を報告する。
フォキル, レザウル・カリム FAQUIRE, Razaul Karim
本研究の目的は,四つのパラメータ,即ちi)関係節における名詞化の作用,ii)主節と関係節の連携性,iii)参照的一貫性,iv)名詞句の接近可能性階層,に沿って,関係節における日本語対ベンガル語の対照分析を行い,日本語の関係節に見られる言語固有の特性を明らかにすることである。関係節における日本語固有の特性は,名詞句形成に必要な二つの条件:i)過程的条件として行われる名詞化の処理基準と,ii)実質的条件として満たし得る形態統語論的基準に基づくものである。そのためこの二つの条件は,名詞句の関係節としての解釈を導くものである。また,この条件を軸にした分析から,定形節から二段階の過程を経て名詞化され,定形節の何れかの項からなる名詞句が形成される,そのような名詞句のみが,関係節としての形態統語論的基準を満たすことを示す。つまり,このプロセスを経て形成された名詞句は,関係節としての解釈を受ける。なぜなら関係節の述語動詞が示すギャップの位置に生じ得る要素と主要部名詞が参照的一貫性を共有するからである。
新里 孝和 呉 立潮 西端 統宏 新本 光孝 Shinzato Takakazu Wu Lichao Nishihata Osahiro Aramoto Mitsunori
亜熱帯西表島の森林資源回復に関する二次遷移について、1985年6月に天然林皆伐後、今回13年目における固定プロットの毎木調査の結果を用や宇する。実験林は西表島のやや内陸部、標高60m、緩傾斜面、面積0.869haで、4試験区に分割され、各試験区内のほぼ中央部に10m×10mの固定プロット(計4個)を設定した。4試験区のうち2試験区は対照区、残り2試験区は焼畑区である。生活形別の基底面積、立木本数は樹種の萌芽力に依存し、萌芽力の高いイタジイ、ホルトノキ、タブノキ、エゴノキ、フカノキ、シャリンバイ、シシアクチ、ボチョウジなどの数値が高い。樹高1m以上の個体の出現種で伐採後消滅した樹種は少なく、未発生の樹種はオオシイバモチ、モッコク、オオバルリミノキ、イヌマキなどである。侵入種には落葉性高木種のアカメガシワ、ハマセンダン、カラスザンショウ、イイギリなどがみられるが、これらの発生、成長は低下し、常緑性高木種の優占度が増大している。階層構造は未分化の状態にあるが、基底面積分布は常緑性高木種が上層に、立木本数分布では常緑性の低木種と小高木種が下層に増大し、また胸高直径分布でもややL字型となり、階層構造はやや複雑になりつつある。これら固定プロットにおける二次遷移の結果は、対照区でオキナワウラジロガシが増大し、焼畑区でアカメガシワが多いなど、多少の違いが見られるものの、対照区と焼畑区との間で明瞭な差異はないと考えられた。亜熱帯林における樹種の萌芽更新、雑木林、里山林の再生、利用について考察を加えた。
Shimabukuro Moriyo 島袋 盛世
本稿はアイヌ語、韓国語、日本語の超音節的特徴を類型論的に共時的そして通時的観点から比較分析したものである。アイヌ語、韓国語、日本語は高低音調を分別するピッチアクセント言語であると言われているが、本論文ではそれらの言語の方言がすべてピッチアクセント言語ではなく、音調の高低が分別的機能を持たない方言も存在することを指摘する。さらに、ピッチアクセントではない言語・方言間の超音節的特徴を上げ、アイヌ語、韓国語、日本語間で相違点を比較考察する。
岩本, 通弥 Iwamoto, Michiya
本稿は「民俗の地域差と地域性」に関する方法論的考察であり、文化の受容構造という視角から、新たな解釈モデルの構築を目指すものである。この課題を提示していく上で、これまで同じ「地域性」という言葉の下で行われてきた、幾つかの系統の研究を整理し(文化人類学的地域性論、地理学的地域性論、歴史学的地域性論)、この「地域性」概念の混乱が研究を阻害してきたことを明らかにし、解釈に混乱の余地のない「地域差」から研究をはじめるべきだとした。この地域差とは何か、何故地域差が生ずるのかという命題に関し、それまでの「地域差は時代差を示す」とした柳田民俗学に対する反動として、一九七〇年代以降、その全面否定の下で機能主義的な研究が展開してきたこと(個別分析法や地域民俗学)、しかしそれは全面否定には当たらないことを明らかにし、柳田民俗学の伝播論的成果も含めた、新たな解釈モデルとして、文化の受容構造論を提示した。その際、伝播論を地域性論に組み替えるために、かつての歴史地理学的な民俗学研究や文化領域論の諸理論を再検討するほか、言語地理学や文化地理学などの研究動向や研究方法(資料操作法)も参考にした結果、必然的に自然・社会・文化環境に対する適応という多系進化(特殊進化)論的な傾向をとるに至った。すなわち地域性論としての文化の受容構造論的モデルとは、文化移入を地域社会の受容・適応・変形・収斂・全体的再統合の過程と把握して、その過程と作用の構造を分析するもので、さらに社会文化的統合のレベルという操作概念を用いることによって、近代化・都市化の進行も視野に含めた、一種の文化変化の解釈モデルであるともいえよう。
瀨底 正栄 武田 喜乃恵 浦崎 武 Sesoko Masae Takeda Kinoe Urasaki Takeshi
浦崎ら(2013,2014) は、琉球大学教育学部附属発達支援教育実践センターで、発達障害のある子どもたちや、学校生活等で支援の必要な子どもたちを対象にしたトータル支援教室を実施してきた。トータル支援教室の特徴は、子どもたちが外のものや人へと積極的に関わっていく< 向かう力>を糸口に、子どもも支援者としての大人も<ともに楽しむ場を共有する>ということを大切にし、その<楽しむ場>を通して子どもたちとの関係形成を行ってきた。そこで、今回は、二つの異なるタイプの事例からトータル支援教室の特徴である<向かう力>と<ともに楽しむ場を共有する>ことを大切にした支援についてその変容を考察し、「他者を想定しない多動的な行動を繰り返すA 君」と「他者からの能動的な行動に不安を感じ避ける言動を日常としていたB君」のような対照的な事例からも、トータル支援教室でみられる関係形成を基盤とした支援から、A 君、B君の生活世界の拡がりが確認された。
若林, 健一 茂呂, 雄二 佐藤, 至英 WAKABAYASHI, Ken'ichi MORO, Yuji SATO, Yoshiteru
児童の作文過程を認知科学的に解明し併せて作文過程の改善を目指すために理論的な吟味とそれに基づく調査および実践を行った。1)作文過程を特定の相手に向けた発話過程として見直し,教室における作文過程をより有意味にするための方法として,子供たちに仮想的な他者視点を取らせる「誰かになって書く方法」を提案した。2)この方法に基づいて小学校5年生を対象にした「映画監督になって書く」実践場面をもうけて作文資料を収集し,これを種々の観点から談話分析によって特徴づけして,対照資料と比較しながら「誰かになってみる方法」の有効性を確認した。3)仮想視点を取る方法の有効性をより客観的に明らかにするために作文能力を測るテストを開発し,これを利用しながら,子供たちに読み手を意識化させることがどのような効果をもつのか検討し,「文化人類学者になって調べて書く」実践授業を組んで再度仮想視点を取る方法の有効性を確認した。
Goya Hideki 呉屋 英樹
“formulaic sequences” (定型連鎖)は重要な言語知識であり(Wray、 2002)、 第二言語(外国語)による円滑なコミュニケーションを行うためには必要不可欠な知識である(Pawley & Syder 1983)。その重要性にも関わらず,その能力の発達,特に適切な定型表現の使用を身につけるまでには長い時間を要する(Laufer & Waldman、 2011)が,多くの研究では学習言語のインプットに十分に触れることでformulaic sequencesは熟達すると指摘されている。本研究では,学習言語を教授言語とする教室環境において日本人英語学習者(n = 27)の“lexical bundles” (単語連鎖)の使用とその変化について調査した。調査は参加者の産出したライティングのコーパスを構築し,AntConcを用いて語彙の分布と頻度,およびサイズの異なる単語連鎖を抽出した。分析の結果,参加者は高頻出語彙を多用するようになり,2語からなる単語連鎖 (2-gram lexical bundles)の使用が増加するともに,その他のサイズの単語連鎖の使用は減少した。このことから,学習言語を教授言語とするEFL環境では産出的スキル向上への効果は限定的ではあるが,phraseological competence(定型表現能力)の向上への影響の可能性を示した。
竹田, 晃子 鑓水, 兼貴 TAKEDA, Koko YARIMIZU, Kanetaka
痛みを表す言語表現のうち動詞ウズクの使用実態について,約18万人を対象に行ったアンケート調査「慢性痛とその言語表現に関する全国調査」をもとに,地域差を中心に世代差・用法差を明らかにし,その背景を考察する。
朱, 京偉 ZHU, Jingwei
本稿は,先に発表した小論「蘭学資料の三字漢語についての考察─明治期の三字漢語とのつながりを求めて─」(朱2011)の続編である。現代日中両国語では,三字語の語構成がほぼ同じで,同形語も数多く存在している。その背後に,どのような日中語彙交流の歩みがあったかを解明するのが,先の小論と本稿の目的である。先の小論に続き,中国語側の三字語の状況を明らかにしようと思い,宣教師資料をとりあげたのであるが,日中双方の対照研究がしやすいように,蘭学資料の場合とほぼ同じ調査方法やデータの集計・分類方法を用いた。宣教師資料の三字語については,前部二字語基と後部一字語基に分けてそれぞれの性質を検討した上で,蘭学資料との比較対照を行なった。その結果,中国語では,近代以前から,少なくとも宣教師資料において,2+1型三字語の造語機能がすでに備わっていたこと,蘭学資料の三字語は,語構成パターンの面で中国語からの影響を受けながらも,後部一字語基の機能が強化され,同一語基による系列的・グループ的な三字語の創出へ進化を遂げたことなどを明らかにした。
熊谷, 康雄 KUMAGAI, Yasuo
『日本言語地図』のデータベース化(『日本言語地図』データベース,LAJDB)の概略を説明し,3年間の本プロジェクト期間中に整備を進め,利用可能となった項目(119項目)の一部を利用した計量的な分析の事例として,標準語形の使用数の地理的な分布を示した。これにより,『日本言語地図』がデータベース化されることの意味とこれが生み出す新しい研究の広がりの一端に触れた。
金城 尚美 玉城 あゆみ 中西 朝子 Kinjo Naomi Tamaki Ayumi Nakanishi Asako
杉戸(2005等)は「日常われわれが行っている言語活動の中では『配慮』を常に行っており,その対人的な配慮は『メタ言語行動表現』の明示により示される」(杉戸 1998)と述べている。相手への配慮を示すことがよい対人関係を築くために必要な要素の1つであるとすれば,円滑な対人関係を築いている学習者は相手への配慮を適切に行っていることになる。具体的にはメタ言語行動表現を適切に使用していると考えることができる。そこで本研究では「言語行動における配慮」(杉戸 2001等)という観点から,円滑な人間関係を築いている日本語非母語話者の発話データを基に「メタ言語行動表現」が使用されているかを調査した。その結果,「メタ言語行動表現」の使用実態が明らかになり,また,「意識的配慮」(一二三 1995等)も行っている様子も観察された。これらのことから,「メタ言語行動表現」の使用と「意識的配慮」が日本語非母語話者の印象の良し悪しを決める要素になっている可能性があり,円滑なコミュニケーションの遂行に大きく関わっているのではないかということが示唆された。
宮島, 達夫 小沼, 悦 MIYAZIMA, Tatuo ONUMA, Etu
言語情報処理研究の分野ではシソーラスが活用されているが,それらは特定科学分野の概念間の関係をとりあげることが多い。一般用語のシソーラスは表現辞典の一種として利用されるのが大部分であるが,これも言語研究に役立つ面がある。
春遍, 雀來 HALPERN, Jack
情報交流の国際化に伴い多言語情報の充実は今や喫緊の課題である。特に固有名詞やPOI (points of interest)は膨大な数量に加え頻繁な名称変更にも対応する必要があるため,正確で充実した多言語辞書データ資源が必須だ。そこで,機械翻訳の作業効率と精度を格段に向上させる,超大規模辞書データ資源(Very Large Scale Lexica: VLSL)の構築例として,固有名詞・専門用語等を含む日中韓英辞書データベースや多言語固有名詞辞書データベースを紹介する。VLSLは情報検索・形態素解析・固有表現認識・用語抽出等,自然言語処理の幅広い分野に応用が可能で更なる展開が期待される。
影山, 太郎 Kageyama, Taro
世界諸言語の中で日本語は特殊なのか,特殊でないのか。生成文法や言語類型論の初期には人間言語の普遍性に重点が置かれたため,語順などのマクロパラメータによって日本語は「特殊でない」とされた。しかし個々の言語現象をミクロに見ていくと,日本語独自の「特質」が明らかになってくる。本稿では,世界的に見て日本語に特有ないし特徴的と考えられる複合語(新しいタイプの外心複合語,動作主複合語など)の現象を中国語,韓国語の対応表現とも比較しながら概観する。
フック, ピーター HOOK, Peter Edwin
インド・アーリア語における動詞+動詞の複合(以下,CV)の使用頻度(あるいは「流量」)が500 年以上にわたって増えてきているということを,ここ二十年以上にわたる計量的な調査は証明している。その全般的な増加の結果,CVの中でのvector(語彙的意味の薄れた後部要素)の機能や相対的使用度も拡大してきている。Paul Hopperが提唱する"specialization"(特化)概念にあるように,CVの全体的な使用頻度の増加に伴い,一部のvectorが他のものよりも多く用いられるようになったのである。昨秋の[NINJAL客員教授としての]私の研究では,使用頻度が増加することによって,機能的に見て,あるvectorがより語彙的でなくなり,あるいは意味的に条件づけられるものでなくなり,反面,より抽象的な,あるいは語用論的に条件づけられるものとなるのだということを証明した。このように抽象度が増加することによって,絶えず範囲を拡げる場面に対しての,より広い適用が可能となるのである。したがって,同じ場面を表現する中では,抽象性の低いvector動詞(あるいは「factor(語彙的意味を残した後部要素)」)の使用は減少する。ここで示した研究は,時間を空間へと射影することで,その発展のダイナミクスを描き出している。マラーティー語のようなCVの乏しい言語と,ヒンディー・ウルドゥー語のようなCVの豊富な言語との具体的な対照が,factor動詞{TAKE OUT}がより抽象的なvector動詞{TAKE}に取って代わられることを示している。すなわち,マラーティー語の「探し出す/発見する」といった意味の{探す+ TAKE OUT}は,ヒンディー・ウルドゥー語では同義の{探す+ TAKE}に,ほぼ完全に置き換えられるのである。
狩俣 智
数学の熟練者が自己の専門分野の問題をどのように解決するかについて情報処理心理学の知見に基づいて考察した。大学院で数学を専攻する学生が本研究の被験者になった。被験者に大学の専門課程の問題を発語思考で解かせて被験者の言語プロトコルを採取した。言語プロトコルは,認知のプロセスモデルACTに照らして解析され,推論の軌跡を示す証明木,スキーマを表現する宣言型符号化構造,手続き型知識を表現するプロダクションルールに表現された。プロトコル解析によって明らかになった被験者の問題解決の特徴として,後ろ向き推論を用いてサブゴール系列を作りだして問題を解決したこと,また,推論が行き詰まったときジャンプと呼ばれる直観的な閃き(ひらめき)によって問題を解決したことをあげることができる。考察では,サブゴールの導出がどのような知識に基づいて産出されるのか,また,数学の学習場面に於て,直観的な閃きがどのような知識に基づいて引き起こされるのかについてACT理論に照らして議論した。
中須賀 常雄 山口 本 岸本 司 Nakasuga Tsuneo Yamaguchi Moto Kishimoto Tsukasa
1. 石炭火力発電の産業廃棄物であるクリンカ及び石炭灰がメヒルギ植栽の人工培地として利用可能かどうかについて、 1995年6月∿12月間に琉球大学構内の温室内で実験を行った。2. 人工培地の材料は、 クリンカ、 造粒灰、 バーミキュライト、 ジャーガル及び腐葉土である。3. 処理区は、 クリンカ(A)区、 造粒灰(B)区及び対照区(C)で、 以下のとおりである。A-1区 : クリンカ(100%)、 A-2区 : クリンカ+バーミキュライト+腐葉土(体積比5 : 4 : 1)、 A-3区 : クリンカ+ジャーガル+腐葉土(体積比5 : 4 : 1)、 B-1区 : 造粒灰(100%)、 B-2区 : 造粒灰+バーミキュライト+腐葉土(100%)、 B-3区 : 造粒灰+ジャーガル+腐葉土(体積比5 : 4 : 1)、 対照区 : バーミキュライト+腐葉土(体積比7 : 3)4. メヒルギ苗の生長について、 主軸長、 節間数、 葉緑素含有量、 重量生長、 葉の性質、 根長及び弱さ度の各項目について分析し、 総合的に判定した結果、 クリンカ及び造粒灰のみでは利用不可であるが、 50%の混合比では利用可能で、 ジャーガルと造粒灰との混合区では対照区より生育良好であった。
張, 守祥 ZHANG, Shouxiang
本研究は「残留孤児・残留婦人の里」と呼ばれている中国黒龍江省方正県における言語景観の実態・特徴について考察するものである。方正県の事例によって示されるように,言語景観のすべてが市場経済の原理に従って構成されているわけではなく,行政主導型の言語景観も存在しているのである。現在,日本人の投資者や居住者が存在しない方正県で地方政府の行政命令による日本語を中心とする言語景観が主流なのは何故なのか。それは目先の商業利益としてではなく,むしろイメージアップを目的とした未来志向の日系企業誘致のための宣伝広告なのである。
田中, 卓史 TANAKA, Takushi
日本語のように語順のゆるい言語を形式的に取り扱うための第一段階として,語順を全く持たない言語(集合型言語)を定義し,その言語を計算機上で生成・解析することのできる確定節文法DCSGを提案する。 DCSGを用いると論理プログラミングにおいて陥るある種のループの問題を構文解析の問題に帰着して容易に解決することができる。次にDCSGを集合の変換規則としてとらえ,逆変換のためのオペレータを導入する。このオペレータは確定節文法の下降解析の過程において部分的な上昇解析を可能にする。DCSGはデータ集合の中に構造を見出す種類の問題や事象に従って状態が変化するような問題を一般化された構文解析の問題に帰着して効果的に取り扱うことができる。
鳥谷, 善史 TORITANI, Yoshifumi
近畿中央部の否定形式には「~ン」や「~ヘン」類という2種類の形式が存在する。現在その意味的異なりは若い世代においてはなくなりつつあるという。その中で,大阪府や奈良県の世代差に注目した調査結果から若年層の2拍一段動詞及び変格動詞において,「~ヤン」という否定形式が急速に広がりはじめていることがわかった。これは近畿周縁部である「和歌山県」や「三重県」の若年層から「大阪府」や「奈良県」の若年層への流入であることを言語地理学的調査結果などから確認する。また,その変化要因としては,言語内的には,これまで「~ン」と「~ヘン」の2種類で否定をしてきたがそれらが,意味的異なりを失ったことを契機として,体系的整合性や発話としての経済性を獲得するとともに,関西全域で一つの否定形式として「~ン」のみの方向に向かっているとの見解を調査結果から論究した。ただ,五段動詞以外の2拍語では,これまでの形式との関係から単純に語幹+「ン」のみに変化できず,その変化の一段階として「ミヤヘン」などの「~ヘン」から「ミヤン」といった標準語形とは全く別の地域のアイデンティティーを生かした形式を取り入れたと考えた。この仮説は,標準語等の言語的影響を直接受けずにいる台湾日本語の変化モデルも視野に入れつつ導いたものである。
新井, 庭子
「教科書は知識体系を伝えるためにどのような言語表現を用いており,それらは教育段階に応じてどのように変化するのか」というリサーチクエスチョンをたて,それに答えるために小学校5年生から中学校2年生の理科教科書を実証的に分析した。学校教育で主要な教材である教科書は,ある専門分野の概念体系を理解させることを意図して,しかもそれを可能にするように書かれたテキストと位置付けられている。しかし,教科書の言語表現が実際にどのような様態であるかを知識を伝えるという役割を考慮して実証的に示した研究はない。分析に際して,知識を構成する言語表現という観点から,概念体系の示され方(前提,概念,概念同士の関係)に着目して分析を行った結果,小・中間で概念体系に関する言語表現の構成が大きく異なるとわかった。前提に関する言語表現が中学で激減し,概念や概念同士の関係に関する言語表現が顕著に増加することが観察された。
小池, 淳一 Koike, Junichi
地域の開発に際して文化をどのように位置づけ、利用するか、という問題は実は言語戦略の問題でもある。本稿はそうした地域開発のキャッチフレーズとも標語ともとれる術語についての予備的考察である。ここでとりあげる術語とは〈民話〉である。〈民話〉はしばしば、民俗学の領域に属する語のように思われるが実はそうではない。〈民話〉は民俗研究のなかでは常に一定の留保とともに用いられる術語であり、またそれゆえに広がりを持つ言葉であった。一九五〇年代の日本民俗学において〈民話〉は学術用語としては忌避されていた。それは戦後歴史学のなかで、民話が検討対象となり、民衆の闘いや創造性を示す語として扱われていたことと関連し、民俗学の独立の機運とは裏腹のものであった。そうした留保によって〈民話〉はかえって多くの含意が可能になり、地域社会とも結びつく可能性が残されていった。特に「民話のふるさと」岩手県遠野市では口承文芸というジャンル成立以前の『遠野物語』と重ね合わされることによって〈民話〉が機能した。その結果として、遠野は「〈民話〉のふるさと」となったのである。
田島 利三郎(写) タジマ リサブロウ
田島利三郎が伊波普猷に譲った資料のひとつ。田島は明治26年に沖縄県尋常中学校に教師として赴任した。在任中、安仁屋家本「おもろさうし」からの筆写本が沖縄県庁にあることを知り、明治28年に本書を筆写した。明治36年に伊波普猷が東京帝国大学に入学し言語学を志すことになるころ、田島は伊波に自らが採集した「おもろさうし」をはじめとする研究資料をことごとく譲ったという。(伊波普猷全集巻6所収「校訂おもろさうし序」参照。)第三冊には、巻10「ありき ゑとの おもろ御さうし」、巻11「首里ゑと おもろ御さうし」が収められている。
田島 利三郎(写) タジマ リサブロウ
田島利三郎が伊波普猷に譲った資料のひとつ。田島は明治26年に沖縄県尋常中学校に教師として赴任した。在任中、安仁屋家本「おもろさうし」からの筆写本が沖縄県庁にあることを知り、明治28年に本書を筆写した。明治36年に伊波普猷が東京帝国大学に入学し言語学を志すことになるころ、田島は伊波に自らが採集した「おもろさうし」をはじめとする研究資料をことごとく譲ったという。(伊波普猷全集巻6所収「校訂おもろさうし序」参照。)第四冊には、巻12「いろいろのあすび おもろ御さうし」、巻13「船ゑとのおもろ御さうし」が収められている。
相澤, 正夫 AIZAWA, Masao
東京語で,起伏式アクセントをもつ単純動詞から派生された転成名詞は,原則として起伏式アクセントを保持する。このアクセント規則を,今日生きている規則と呼んでその有用性を唱える説に対し,いくつかの問題点を指摘して検討を加えた。まず,生きている規則と呼ぶための要件として,この派生パターンの生産力の高さを問題にすべきことを論じた。次に,既成の転成名詞でこの規則が守られているかどうか,社会言語学的な観点から変異の実態を把握し,そこに関与している諸要因の分析を行った。対象データは,『東京語アクセント資料 上・下』から採集した。
梶村 光郎 村上 呂里 Kajimura Mitsuro Murakami Rori
研究概要:本研究は、「言葉」、「教育」、「文化」、「地域」、「国家」というキーワードを手がかりにしながら、日本本土とは異なる歴史を歩んできた沖縄の言語教育(国語教育を含む)の歴史を示して、従来の国語政策を背景とする本土中心の国語教育史像の相対化を試みようとするものである。報告書に収録した5本の論文は、いずれも新しい資料を発掘しながら、地域沖縄の言語文化や言語教育の実態を解明するという成果があり、従来の沖縄の言語教育史研究に新しい知見を加えたり、先行研究に訂正を求めるものでもある。5本の論文名は、次のとおり。 1.村上呂里「地域の言語文化と近代学校 -八重山地域における近代学校出立の頃-」 2.梶村光郎「沖縄の標準語教育史」 3.梶村光郎「宮良當壮と『日本の言葉』」 4.梶村光郎「沖縄の作文教育運動 -沖縄作文教育協議会を中心に-」 5.村上呂里「戦後沖縄『学力問題』における『言語問題』 -上村(1978)を中心に-」これらの論文によって、沖縄の言語教育史の全体像への接近が進み、従来の国語政策を背景とした本土中心の国語教育史像の相対化の試みが、今後なされていくであろう。
中渡瀬, 秀一 加藤, 文彦 大向, 一輝
言語資源データの引用情報調査に基づいて、そのデータを活用した研究文献の発見可能性について論じる。このために言語処理学会年次大会発表論文集を対象として「現代日本語書き言葉均衡コーパス」などの引用情報を調査した。本稿ではその結果と今後の課題について報告する。
山崎, 誠 鈴木, 美都代
1.コーパスとは元来,言語分析のために集められた言語資料を意味するが,近年の日本語研究においては,とくに,コンピュータで取り扱うことを前提にした大規模な電子化データをさすようになってきた。
川端, 良子
対話において、相手が知っているかどうか不確かな対象に言及する際、話し手はどのようにその対象を対話に導入するのだろうか。本研究では『日本語地図課題対話コーパス』を用いて、特定の対象が最初に対話に導入される際の言語活動の分析を行った。本稿は、(1)発話機能、(2)相互行為、(3)言語形式の3つの観点からその言語活動の特徴を報告する。
ホサイン モハメド アムザド 松浦 新吾郎 土井 光弘 石嶺 行男 Hossain Md. Amzad Matsuura Singoro Doi Mitsuhiro Ishimine Yukio
万田31号がトウモロコシの地上部および地下部の生育に及ぼす影響を調べるために、琉球大学農学部附属亜熱帯フィールド科学教育研究センターのガラスハウス内で実験を行った。実験は、W-対照区(水のみを散布)、M-10処理区(万田31号10000倍液を散布)、M-5処理区(万田31号5000倍液を散布)とした。葉が2~3枚展開後、15日間隔で万田31号溶液および水を植物全体に十分散布した。M-10およびM-5の両処理区ともW(対照区)に比較して、トウモロコシの茎長、葉面積、葉乾物重が増加した。万田31号溶液を3~5回散布したトウモロコシは、対照区に比較して地上部および地下部の生産が明らかに増大した。初期生育段階において、万田31号溶液を1回散布した場合、地上部および地下部に大きな変化は認められなかった。M-5処理区はM-10処理区に比較して、地上部および地下部ともに乾物生産が増大した。以上の結果より、トウモロコシの地上部および地下部のバイオマス生産を高めるには、万田31号5000倍液を3~5回散布することが有効であることがわかった。
金城 江利子 Kinjo Eriko
本研究では,単元学習として発表された3つの実践事例,単元「あきをみつけたよ」「花だより十二月」「子ども歳時記」の考察をもとに,「言葉への主体的な関わり」を育むための3つの視点(①単元の導入における情動体験の位置づけ,②「内化」と「外化」の往還による学び,③「語義」から「意味」の形成)を踏まえ,単元デザインの構造とその意味について考究した。学び手の言語生活における既有知識・既有経験の掘り起こしによって個人差を埋め,問いやずれによる情動の揺さぶりによって内言思考が活性化される。しかし,それだけでは豊かな表現は生まれない。多様な言語文化との出会いや対話的指導,仲間との対話によって,言葉への認識を深めながら「主体的な『意味』創造の過程」を経て,言葉を自分のものとして「内化」することができる。このように,学習者が「言葉への主体的な関わり」を形成しながら,「語義」を越えた「意味」の世界の学びへと導く単元デザインを提示した。
安元 悠子 Yasumoto Yuko
本研究では、沖縄県のある国語教師へのインタビューデータを事例に、現在消滅の危機に瀕している琉球諸語について、言語イデオロギーという観点から帰納的に捉えることを試みた。インタビューによって個人の明示的な言語イデオロギーを引き出し、それを質的手法によって分析することにより、標準語イデオロギーと地域言語への帰属意識がどのように交差し、矛盾や葛藤を生み出しているのかを明らかにした。
荘司, 響之介 曹, 鋭 白, 静 馬, ブン 新納, 浩幸 Syouji, Kyonosuke Cao, Rui Bai, Jing Ma, Wen
文書分類のタスクを教師あり学習で解く場合、大量のラベル付きデータ(教師データ)が必要であり、このデータの構築コストが高いという問題がある。ただし、英語などのメジャーな言語に対しては、ラベル付けされたデータが既に存在していることも多い。この場合、英語側では分類器を学習できるため、その学習できた知識を、タスクの対象となっている言語側へ転移できれば、ターゲット言語での教師データを利用せずに、分類器を構築することができる。本論文ではそのような転移を行うためにBERTを用いる。具体的には、英語BERTを用いて英語の訓練文書をベクトル化し、それをもとに分類器を学習する。次に、ターゲット領域の文書となる日本語の文書を、日本語BERTを用いてベクトル化する。あらかじめ学習しておいた2言語間のBERTの変換器を用いて日本語の文書ベクトルを英語のベクトル空間に埋め込み、先の分類器によって識別する。これによって、ターゲット言語である日本語の訓練文書を利用せずに、日本語の文書の感情分析が可能となる。
徐 葆光 ジョ ホコウ
徐葆光(じょほこう)は江南の蘇州府長州県の人で、1719年(康熙58)に尚敬王の冊封副使として来琉。これは冊封の顛末をまとめたものである。冊封儀礼の様子や、琉球に滞在中に見聞した琉球の風俗、言語、地理、歴史などを清朝考証学的な体裁で記し、多くの挿絵を挿入している。江戸時代の知識人の琉球に関する知識はこの著に依るところが多い。またアントワーヌ・ゴービル宣教師によってフランス語に抄訳され、ヨーロッパでも紹介されている。『那覇市史』資料編第1巻3に読み下し篇が収録されている。第4巻は、琉球の各地域の地理的特徴や地名、産物について述べられている。
徐 葆光 ジョ ホコウ
徐葆光(じょほこう)は江南の蘇州府長州県の人で、1719年(康熙58)に尚敬王の冊封副使として来琉。これは冊封の顛末をまとめたものである。冊封儀礼の様子や、琉球に滞在中に見聞した琉球の風俗、言語、地理、歴史などを清朝考証学的な体裁で記し、多くの挿絵を挿入している。江戸時代の知識人の琉球に関する知識はこの著に依るところが多い。またアントワーヌ・ゴービル宣教師によってフランス語に抄訳され、ヨーロッパでも紹介されている。第3巻では、歴代の中山王(舜天王から尚敬王まで)について述べられている『那覇市史』資料編第1巻3に原文及び読み下し篇が収録されている。
浅野, 恵子 陳, 森 Asano, Keiko Chen, Sen
同じ音声的及び音響的特徴をもちながら、文化や気候風土によって変化する音声行動があり、無意識に行われているものが少なくない。その一つとして、/m,n/などの有声鼻音の音声特徴は自然発話としては一般的であり、それをさらに上咽頭に響かせる音の「ハミング」がある。日本語では「鼻歌」と呼ばれている。他言語が理解できなくても音声行動としては個別言語の域を超えて普遍的に発せられる声音である。日常の発声時行動様式が文化的・言語別にどのように呼ばれているか、またいつから使われているかを日・中・英・米語の各言語のコーパスを比較し、初めて使用された時期や当時の意味などから推移を分析する。
Yoshii Koichi 吉井 巧一
主としてアメリカのオハイオ・ペンシルバニア両州を中心に、現在およそ十万人程の「アーミッシュ(Amish)」と呼ばれる人々が集団生活をしている。宗教的迫害を避けるため、遠くスイスあるいはドイツから集団で新天地を求めアメリカ大陸に渡ってきた彼等は、現在も聖書の教義を厳守し、自動車やテレビを所有せず、広大な農場を16世紀さながらに馬で耕しながら、厳格なキリスト教徒として質素な生活を営んでいる。そのライフスタイル・価値観・世界観等は、一見正にアナクロニズムそのものに見えるが、我々現代文明人(?)が失いつつある「人間としての生活に必要不可欠なもの」とは何か、という素朴な疑問へのヒントが彼等の生活から窺える。\n彼等は聖書の言語としてドイツ語を、日常コミュニケーション言語としていわゆるペンシルバニア・ダッチ(Pennsylvania Dutch/German)を、更に自分たちのコミュニティー外の人々(Auslaender)とは英語を話す、3言語併用社会を形成している。いわゆる正書法を持たない、話し言葉としての機能中心言語であるペンシルバニア・ダッチを考慮し、当初は音声面の言語調査を意図していたが、予想通り厳格なOld Order Amishのインフォーマントからは録音機器使用の了解を得ることはできなかった。そこでそれぞれの言語をどのように修得し、使い分けているのか、また互いの言語干渉の度合はどの程度のものかを中心課題に、彼等の独特な文化を探りつつ、聞き取り及び筆記による調査方法でのフィールド調査を行った。
迫田, 久美子 SAKODA, Kumiko
第二言語習得研究には,学習者の言語データが不可欠である。「学習者の言語環境と日本語の習得過程に関する研究」のサブプロジェクトでは,日本語学習者の言語コーパス,C-JASを開発した。本稿は,C-JASの特徴とC-JASによって観察された動詞の発達について報告するものである。C-JASの特徴は,中国語母語話者3名,韓国語母語話者3名の3年間の縦断的発話コーパスであり,形態素タグと誤用タグが付与され,システム検索できる点にある。C-JASで動詞「思う」と「食べる」の時期ごとの初出形を分析した結果,日本人幼児の第一言語習得と類似した現象と異なった現象が観察された。前者では,動詞の基となる形(例「思う」)に新たな要素が付加され,新しい形(例「思うから」)が使われること,後者では初出形に日本人幼児は普通体,学習者は丁寧体が多く使用されることがわかった。また,動詞の発達段階で,学習者特有の「動詞普通体+です」(例「思ったです」)の中間言語形が出現し,「動詞普通体+んです」(例「思ったんです」)の過渡的段階の形式であると推測された。
山崎, 誠 YAMAZAKI, Makoto
本発表は,以下の5つのコーパスを用いて,日本語の会話文の多様性をレジスターや位相(話者の性別,年代)の観点から語彙的に分析するものである。使用したコーパスは,『日本語話し言葉コーパス』(CSJ)の学会講演及び摸擬講演,『日常会話コーパス』(CEJC・構築途中のもの),『名大会話コーパス』『女性の言葉・男性の言葉(職場編)』,『現代日本語書き言葉均衡コーパス』中の小説会話文である。分析の単位はいずれも短単位である。分析の方法は,品詞構成比,上位語,対数尤度比による特徴語の比較である。特徴語はコーパス間の比較に加えて,性別と年代による比較も行った。品詞構成比では,名詞,副詞は,CSJ学会講演と日常会話・名大とが対照的な分布を示し,また,終助詞,感動詞-フィラーは,CSJ学会講演・CSJ摸擬講演と日常会話・名大とが対照的な分布を示すことが分かった。特徴語では,コーパス間で感動詞(一般,フィラー),終助詞,人称代名詞の分布に違いが見られた。また,これらの語の使用において,性差の違いのほうが年齢層の違いよりも特徴的な語数が多いことが観察された。
徐 葆光 ジョ ホコウ
徐葆光(じょほこう)は江南の蘇州府長州県の人で、1719年(康熙58)に尚敬王の冊封副使として来琉。これは冊封の顛末をまとめたものである。冊封儀礼の様子や、琉球に滞在中に見聞した琉球の風俗、言語、地理、歴史などを清朝考証学的な体裁で記し、多くの挿絵を挿入している。江戸時代の知識人の琉球に関する知識はこの著に依るところが多い。またアントワーヌ・ゴービル宣教師によってフランス語に抄訳され、ヨーロッパでも紹介されている。第1巻では、琉球の地理的位置や航路、琉球への航海日誌などについて書かれている。『那覇市史』資料編第1巻3に原文及び読み下し篇が収録されている。
徐 葆光 ジョ ホコウ
徐葆光(じょほこう)は江南の蘇州府長州県の人で、1719年(康熙58)に尚敬王の冊封副使として来琉。これは冊封の顛末をまとめたものである。冊封儀礼の様子や、琉球に滞在中に見聞した琉球の風俗、言語、地理、歴史などを清朝考証学的な体裁で記し、多くの挿絵を挿入している。江戸時代の知識人の琉球に関する知識はこの著に依るところが多い。またアントワーヌ・ゴービル宣教師によってフランス語に抄訳され、ヨーロッパでも紹介されている。第5巻では、琉球の公的機関や官僚機構、教育機関、宗教等について述べられている。『那覇市史』資料編第1巻3に原文及び読み下し篇が収録されている。
永田, 良太 NAGATA, Ryota
複文とあいづちをはじめとする聞き手の言語的反応に関しては,文(発話)を産出する話し手と文(発話)を理解する聞き手の観点からそれぞれ研究が行われ,その構文的特徴や談話における機能がこれまで明らかにされてきた。本稿においては,そこでの研究成果に基づきつつ,談話の中で観察することにより,次の2点を明らかにした。Ⅰ.従属節末と主節末とでは聞き手の言語的反応が異なる。Ⅱ.従属節末における聞き手の言語的反応は従属節の従属度と密接に関わる。従属節末に比べて,主節末では情報の充足を前提とした聞き手の言語的反応が多く生起する。また,同じ従属節末でありながら,B類のタラに比べてC類のケドやカラの従属節末には多くのあいづちが見られ,その中でも理解や共感を示すあいづちが特徴的に見られる。これには複文という文の形やC類の従属節が持つ情報の完結性という特徴が関わっており,複文発話に対する聞き手の言語的反応は発話の構文的特徴と密接に関わると考えられる。
新城 直樹 蔡 梅花 金井 勇人 Arashiro Naoki Cai Meihua Kanai Hayato
本稿では中韓母語話者が執筆した日本語作文における比喩表現の特徴を検討し,日本語教育ではどのような点に留意すべきかについて考察した。具体的には「中韓母語話者による逐語訳つき日本語作文コーパス」から抽出した作文データを資料に,指標比喩・結合比喩・文脈比喩という3分類に基づいて,比喩表現について分析した。一般に,比喩は母語に根差した性質を持つと考えられ,他の言語の母語話者にも問題なく理解されるとは限らない。このような理解不可能性を「言語間ハードル」と呼ぶとすると,指標比喩・結合比喩には「言語間ハードル」を乗り越える性質が内在している一方,結合比喩はそうではない,ということを明らかにした。その結合比喩のうち,特に「言語表現は同じだが,概念基盤が異なる」ケースに誤用が起きやすい。したがって他言語で比喩を書く場合には,特に結合比喩に留意すべきである,と本稿では結論した。
福田, アジオ Fukuta, Azio
考古学と民俗学は歴史研究の方法として登場してきた。そのため,歴史研究の中心に位置してきたいわゆる文献史学との関係で絶えず自己の存在を考えてきた。したがって,歴史学,考古学,民俗学の三者は歴史研究の方法として対等な存在であることが原理的には主張され,また文献史学との関係が論じられても,考古学と民俗学の相互の関係については必ずしも明確に議論されることがなかった。考古学と民俗学は近い関係にあるかのような印象を与えているが,その具体的な関係は必ずしも明らかではない。本稿は,一般的に主張されることが多い考古学と民俗学の協業関係の形成を目指して,両者の間についてどのように従来は考えられ,主張されてきたのかを整理して,その問題点を提示しようとするものである。
宇佐美, 洋 USAMI, Yo
日常の社会生活において,他者の言語運用を評価する際,個人が準拠している価値観は人によって千差万別であり,このため同一の言語運用に接した時でも,その評価の結果は大きくばらついている。異なる言語的・文化的背景を持つ者同士が円滑な人間関係を作っていけるようになるためには,自らが準拠する評価価値観のあり方を自覚すると同時に,他者の価値観を尊重できる態度が重要であり,そうした態度を養成するための教育システムの開発が求められている。本論ではそのための基礎研究のひとつとして,日本語母語話者が非母語話者の言語運用を評価するという場面を取り上げ,そこに見られる評価プロセスをモデル化して表現する,という試みを紹介した。
相澤, 正夫 AIZAWA, Masao
『東京語アクセント資料』をアクセント研究に有効に活用するためには,まず第一に,目的に応じた資料評価を十分におこなう必要がある。本稿では,資料評価のあり方とその方法を模索するために,事例として東京語の尾高型アクセントを取り上げ,『東京語アクセント資料』におけるその出現状況を問題とする。具体的には,既刊の4種の辞書のアクセント情報と対照させながら,それらとの異同を詳細に調査し,アクセントの計量的研究における資料面での問題点を指摘する。
バンス, ティモシー・J VANCE, Timothy J.
連濁の全体的な不規則性は一般に知られているが,オノマトペの畳語は一切連濁しない。一方で,オノマトペ以外の和語畳語は,たとえ意味および文法的振る舞いがオノマトペに類似しても,連濁しやすい。そこで,新しく作り出された"準オノマトペ"の畳語が連濁に抵抗することは興味深い。Nishimura(2013)は,"複数・強調の重畳"と"オノマトペ的重畳"を区別し,後者だけが連濁不可と主張する。しかし,その2種類の重畳の意味的対照が必ずしも明瞭であるとは限らない。
田島 利三郎(写) タジマ リサブロウ
田島利三郎が伊波普猷に譲った資料のひとつ。田島は明治26年に沖縄県尋常中学校に教師として赴任した。在任中、安仁屋家本「おもろさうし」からの筆写本が沖縄県庁にあることを知り、明治28年に本書を筆写した。明治36年に伊波普猷が東京帝国大学に入学し言語学を志すことになるころ、田島は伊波に自らが採集した「おもろさうし」をはじめとする研究資料をことごとく譲ったという。(伊波普猷全集巻6所収「校訂おもろさうし序」参照。)第六冊には、巻19「ちゑねん さしき はなくす おもろ御さうし」、巻20「くめすおもろ御さうし」、巻21「くめのこまぎりおもろ御双紙」、巻22「みおやたいりおもろ御双紙」が収められている。
徐 葆光 ジョ ホコウ
徐葆光(じょほこう)は江南の蘇州府長州県の人で、1719年(康熙58)に尚敬王の冊封副使として来琉。これは冊封の顛末をまとめたものである。冊封儀礼の様子や、琉球に滞在中に見聞した琉球の風俗、言語、地理、歴史などを清朝考証学的な体裁で記し、多くの挿絵を挿入している。江戸時代の知識人の琉球に関する知識はこの著に依るところが多い。またアントワーヌ・ゴービル宣教師によってフランス語に抄訳され、ヨーロッパでも紹介されている。第2巻は、琉球に到着してからの様子を、冊封の儀礼や、琉球側からの歓待の宴(冊封七宴)等の項目にわけて記されている。『那覇市史』資料編第1巻3に原文及び読み下し篇が収録されている。
田島 利三郎(写) タジマ リサブロウ
田島利三郎が伊波普猷に譲った資料のひとつ。田島は明治26年に沖縄県尋常中学校に教師として赴任した。在任中、安仁屋家本「おもろさうし」からの筆写本が沖縄県庁にあることを知り、明治28年に本書を筆写した。明治36年に伊波普猷が東京帝国大学に入学し言語学を志すことになるころ、田島は伊波に自らが採集した「おもろさうし」をはじめとする研究資料をことごとく譲ったという。(伊波普猷全集巻6所収「校訂おもろさうし序」参照。)第一冊には、巻1「きこゑ大きみかおもろ 首里王府の御さうし」、巻2「中城越来おもろ 首里王府の御さうし」、巻3「きこゑ大君がなしおもろ御さうし」、巻4「あおりやゑ さすかさの おもろ御双紙」が収められている。
俵, 匠見 TAWARA, Takumi
現代短歌は、字余りでもリズムの乱れを感じにくい場合がある。「名前のみ読み上げられる祝電のしゅうぎいんぎいんさんぎいんぎいん 松村正直」の下の句は8・8だが、リズムに乗って読むことができる。このような字余りの現状や特徴を捉えるため、現代短歌のアンソロジー歌集に収録された約2000首を分析した。また、全国の歌人にアンケートを取り、字余りの感覚を調査した。結果、初句は字余りになりやすいが結句はなりにくい、字余りの場合は二重母音[ai]が句末に現れやすいなど、いくつか顕著な傾向が見られた。これらの現象を説明するためには、言語学の切り口が必要だと考えた。本論文は、現代短歌の字余りを分析することで、日本語のリズムを考察するものである。
簡, 月真 CHIEN, Yuehchen
宜蘭クレオールは台湾で話されている日本語を語彙供給言語とするクレオール語である。台湾東部の宜蘭県においてアタヤル人及びセデック人の第一言語として使われているが,若い世代では華語へシフトしつつあり,消滅の危機に瀕している。本稿は,この言語の格表示に焦点をあて,その特徴を記述するものである。宜蘭クレオールでは,語順及び後置詞を格表示として用いている。具体的には,主語と直接目的語は語順,間接目的語とその他の項は5つの格助詞「ni, de, to, no, kara」によってマークされている。これらの格標識は上層言語である日本語由来のものであるが,そこには異なった用法が存在し,単純化への変化が認められる。また,niの意味用法の拡張なども見られ,独自な格表示のシステムが作り上げられている。
多和田 稔 平田 永哲 Tawata Minoru Hirata Eitetsu
学習障害が疑われる児童6名について、読字・書字指導を小学校通級指導教室で行った。言語性LDの場合、言語能力が低いため本児らの得意とする視覚教材を媒介として言語能力を育てていくことに主眼がおかれた。具体的には教科書の写本や挿し絵、フラッシュカード、絵カードなどを活用した。読む力については、逐次読みでは身に付かないので、文字を常に言葉や単語として意識させ、大意をつかむように指導した。10ヵ月間の指導の結果、指導開始当初と終了時点のITPAの結果は、言語学習年齢で2ヵ月から1歳8ヵ月の伸びが見られ、6名の平均では10.2ヵ月の進歩が認められた。この子達にとって個別指導の場としての通級による指導の有効性が確認された。
向山, 陽子 MUKOUYAMA, Yoko
本研究は学習者の適性として言語分析能力,音韻的短期記憶,ワーキングメモリを取り上げ,それらが第二言語としての日本語学習に与える影響を縦断的に検証することを目的とする。初級から学習を開始した中国人日本語学習者37名を対象として,(1)学習開始前に適性を測定する3つのタスク(2)学習開始後から15ヶ月後までの間に,3ヶ月ごとに計5回,学習成果を測定する文法(筆記産出),読解,聴解テストを実施し,適性と学習成果との関連を相関と重回帰分析によって検討した。分析の結果,音韻的短期記憶は初期に重要,言語分析能力は一貫して重要,ワーキングメモリは学習が進んだ段階で重要であることが示された。また,学習成果の測定方法,測定時期によって異なるが,学習成果は言語分析能力,音韻的短期記憶によって説明された。これらの結果から,学習成果に関与する適性は学習段階,スキルによって異なることが示された。
長野, 泰彦
ギャロン語は中国四川省西北部に話されるチベット・ビルマ系の言語である。
戴, 庆厦 田, 静
土家というエスニックグループの言葉は,危機に瀕している言語である。
吉満 昭宏 浜崎 盛康 Yoshimitsu Akihiro Hamasaki Moriyasu
本稿は、L. ライトの「診断的論証」を紹介し、そこでの非言語的要素について論じる。まずは論点を設定し、背景としての彼の哲学について触れる(第1 節)。次に、彼独自の診断的論証について紹介し(第2 節)、そこでの非言語的要素の扱いについて見ていく(第3 節)。最後に、診断的論証の哲学的意義を考察し、今後の展望を提示して論文を締めくくる(第4 節)。
影山, 太郎 KAGEYAMA, Taro
基幹型共同研究「日本語レキシコンの文法的・意味的・形態的特性」における研究テーマの中から「事象叙述」と「属性叙述」の言語学的な区別に関する成果の一部を略述する。事象叙述とは,「いつどこで誰が何をした」のように時間の流れに沿って展開するデキゴト(動作,変化,状態など)を述べること,属性叙述とは「地球は丸い」のように主語あるいは主題となるモノの恒常的な特性を述べることである。従来は,両者の違いは単に意味解釈あるいは語用論の問題と見なされてきたのに対して,本稿では,属性叙述という意味の現象が実は,統語論・形態論という形の問題と深く関わる文法現象であることを様々な事例で実証的に示す。
Miyahira Katsuyuki 宮平 勝行
1978年の発表以来、ポライトネス理論は様々な論争を巻き起こして発展してきた。本稿ではまずその発展の経緯をたどり、理論の問題点を整理する。さらに、ポライトネス理論を異文化間依頼行動研究に応用する場合に必要だと考えられる修正点を指摘し、新しい理論的枠組みを提示する。ポライトネス理論の中心的な概念であるフェイスは、当初唱えられたように、「承認」と「押し付けからの解放」というふたつの欲求に普遍的に分類できるものではなく、社会から与えられるものであり、その構成要素はそれぞれの文化・共同体に独自の概念である。したがって、特定の言語行為がフェイスを汚すものかどうかは、文化によって解釈が異なってくる。こうした文化依存性を考えると、ポライトネス理論の核心的概念である「フェイスを汚す行為」(FTA)は、その視点を「フェイスを立てる行為」に転換することが望まれる。そうすることにより、異文化コミュニケーション行動は、発話者がお互いのフェイスに適応するプロセスであるととらえることができ、フェイスのコミュニケーション理論に論理的な一貫性が生まれてくる。さらに、フェイスという文化的概念を支える「己」の意識、意味、そして言語シンボルを民族誌学的にとらえることが重要となる。本論ではこのような新しい理論に向けての試みを五つの論点にまとめてみた。
Miyahira Katsuyuki 宮平 勝行
超多様性が日常化する現代社会において、社会言語学の基本的概念である「ことばの共同体(スピーチ・コミュニティ)」をどのように捉えるべきなのか。本稿ではハワイの沖縄ディアスポラ共同体が発信するYouTube ビデオシリーズ“ Yuntaku Live!”のインタビュー談話に注目して考察を行った。スピーチ・コード理論に基づいて、舞台芸術家を対象としたインタビューの談話を分析した結果、沖縄ディアスポラ共同体の個人像、社会的人間関係、そしてコミュニケーション行動の特色について次の点が明<br/>らかになった。舞台芸術家はその演舞を通して自らの内にある混成性(ハイブリディティ)と沖縄との歴史的連続性を重視し、演目に込められた、記憶の断片から想像した祖国の物語を聴衆と共有することで沖縄ディアスポラの社会的人間関係を構築して<br/>いる。舞台芸術に込められたこうした物語は、日常会話において「ユンタク」という固有のコミュニケーション儀式を通して広く共有され、国境を越えて人と人を結ぶ役割を担っている。舞台芸術の演舞とオンラインの仮想空間を媒介としてもたらされる人と人のこうしたネットワークは、超多様性を享受する現代における新出の「ことばの共同体」であり、この共同体創造の基盤をなすのが沖縄語語彙、メタ言語としての沖縄語、そしてそれらを契機として創造される物語である。
野田, 尚史 NODA, Hisashi
このサブプロジェクトは,(i)のような考えから出発している。(i)本当の意味で日本語教育を言語の教育からコミュニケーションの教育に変えるためには,日本語教育のための研究も言語の研究からコミュニケーションの研究に変える必要がある。 日本語教育のためのコミュニケーション研究というのは,具体的には(ii)から(iv)のような研究である。このサブプロジェクトでは,これからこのような研究を進めていく。
大石 太郎 Oishi Taro
この小論では、カナダ東部ノヴァスコシア州におけるフランス語系住民アカディアンの居住分布と言語使用状況を現地調査とカナダ統計局のセンサスに基づいて検討した。その結果、農村地域に古くから存在するアカディアン・コミュニティでは英語への同化に歯止めがかかっているとはいえない一方で、郁市地域であるハリファクスでフランス語を母語とする人口や二言語話者が増加していることが明らかになった。これまで教育制度の整備などの制度的支援の重要性が指摘されてきたが、カナダの場合、農村地域に古くから存在するフランス語系コミュニティには遅きに失したと言わざるをえない。その一方で、都市地域が少数言語集団にとって必ずしも同化されやすい地域ではなくなりつつあることが示唆された。
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