本論文は軟弱地盤において作業を行なう農用車両の走行性に関して, 車輪と土の力学的相互作用の面から究明し, さらに, 耕盤を有する圃場の車両に対する支持力特性について解明し, 農用車両走行部の力学的設計に不可欠な基礎的知見を提示したものである。まず, 車輪と土の力学的作用を把握するため走行車輪下の土の変形計測システムの開発を行なった。本システムにより気乾豊浦標準砂を対象に車輪走行実験を行い, 走行車輪下の土の変形およびけん引力, 接地応力など走行性に関する力学的諸量の計測を行なった。また, 車両の支持力特性について, すべり線法による理論解析を行なった。耕盤を有する圃場の車両に対する支持力問題を, 剛盤上の摩擦性塑性体の二つの近接する荷重に対する支持力問題と理想化した。荷重間隔, 荷重幅および耕盤深さに応じて五つのすべり線場を設定し, これらに基づき支持力の計算を行なった。以下, 各章ごとの総括と結論を述べる。第1章において, 新たに開発した走行車輪下の土の変形計測システムの構造と特徴について論じた。厚さ25μm, 直径5mmのポリエステル製の円形マーカを土槽側壁の内側に設置し, マーカの土に伴う動きを透明な土槽側壁を通し連続写真撮影した。2軸X-Yテーブルと拡大CCDカメラからなる平面位置検出装置により写真からマーカ座標を読取った。これにより土中の変位分布を計測し, さらに有限要素解析における方法を用いて土中ひずみ分布を算定した。計測の不確かさ解析により, 従来の土の変形測定法に比較し, 簡易な方法で, 微小変形から大変形にわたり高精度で計測が可能であることが確認された。また, 新たに開発したマーカは薄いポリエステル製で周辺土壌へ影響を与えることなく, また, 含水比が比較的高い一般の圃場の土に対して使用可能である。第2章では, 土の変形解析システムにより計測した走行車輪下の土の変形解析結果について述べた。車輪は剛性車輪を対象とし, 車輪表面材の摩擦係数による違いを比較するため, 鋼鉄製車輪と鋼鉄製車輪の表面に加硫したクロロプレンゴムを5mm厚さでコーティングしたゴム被覆車輪の2種類を供試した。静的沈下時の土粒子の動きの変位ベクトルは, ゴム被覆車輪および鉄製車輪とも車輪中心を通る鉛直線を中心軸として対称に分布する。車輪が回転すると, 変位ベクトルは車輪前方部で, 前向きの水平成分を持つものと後向きの水平成分を持つものの二つの領域に分けられることがわかった。