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寺村, 裕史
本論文では,人文社会科学の研究で重視される文化資源(資料)情報というものを,方法論や技術論の視座から整理し,実例をふまえつつ検討する。特に,考古学や文化財科学分野における文化資源に焦点を当て,それらの分野で情報がどのように扱われているかを概観し,考古資料情報の多様なデジタル化手法について整理する。 文化資源としての文化財・文化遺産は,人類の様々な文化的活動による有形・無形の痕跡と捉えることができる。しかし,現状では,そこから取得したデータの共有化の問題や,それらを用いた領域横断的な研究の難しさが存在する。そのため,文化財の情報化の方法論や,デジタル化の意義を再検討する必要があると考える。そこで特に,資料の3 次元モデル化に焦点を当て,デジタルによるモデル化の有効性や課題を検討しながら,その応用事例を通じて文化資源情報の活用方法を考察する。
丸井 貴史 山本 秀樹 小川 剛生 新美 哲彦 神作 研一 川崎 剛志 竹内 洪介 長福 香菜 田中 大士 東城 敏毅 内池 英樹 尾崎 名津子 平田 良行 野澤 真樹
就実大学人文科学部と国文学研究資料館の共同制作品です。
冨田, 千夏
収集した古文献資料の長期的な維持管理のなかで、資料を電子化することは資料保存の目的や利用者の利便性を高める意義もあり、近年多くの資料保存機関がデジタルアーカイブ事業を展開している。デジタルアーカイブを構築・運営していく上で多くの機関が直面している問題は「如何にして長期的に維持するか」であり、その難しさは現在利用ができない「沖縄の歴史情報研究会」の事例が物語っている。本稿では、デジタル化された資料の長期維持に向けた取り組みとして、「人文学に情報学の技法や技術を応用する」学問である人文情報学(Digital Humanities)の手法を取り入れ琉球大学附属図書館の「琉球・沖縄関係貴重資料デジタルアーカイブ」をIIIF (International Image Interoperability Framework)へ対応した事例や「沖縄の歴史情報研究会」にて作成された「琉球家譜」のデータを再利用する試みを紹介する。現在利用ができない状況である「沖縄の歴史情報研究会」テキストデータのうち、CD-ROM版に収録されていた「琉球家譜」のデータについては現在の環境に適したデータの形へ変換することで再度利活用が可能である。「琉球家譜」のデータファイルを現在の環境で利用可能なデータに変換した上でデファクトスタンダードであるTEI(Text Encoding Initiative)に適用する試行的な取組みを通して、デジタル化された資料の長期的な維持について機関側と研究者が出来る事とは何かを検討し、今後のデジタルコンテンツのあり方について課題を共有したい。
Kobayashi, Masaomi 小林, 正臣
本稿は、これまで人文科学において広範に実践されてきた「文化的研究(Cultural Studies)」の在り方について検証している。自然科学における実証と異なり、人文科学における論証は、なるほど厳密な客観性を要求されない場合が往々にしてある。したがって、ある社会における文化と別の社会における文化に、あるいは一つの社会における複数の文化の相違に個別性と連続性を見出しつつ、それらの問題を文化の問題として論じることには、それなりの学問的価値はあるだろう。しかし、Bill Readingsが指摘するように、個々の集団間の差異性と連続性の問題を「文化」という観点から総括してしまうことには議論の余地がある。なぜなら、それは否定的な意味における還元主義的な論法となる危険性があるからである。一方、社会科学においても還元主義的な論法は存在する。たとえば、新古典派経済学は、社会における人間の活動を利益の追求または最大化という観点のみから説明する傾向がある。かくして本稿は、人文科学(例えば文学)と社会科学(例えば経済学)の学際性を図る際には、それら学際的研究の個々が「特殊(specific)」であるべきであり、学際性を総括的な概念としてではなく、永続的に追求されるべき概念として捉えることを提唱している。
則竹, 理人
学際性を有するアーカイブズ学において、その対象である「記録」には「情報」の要素がある点、さらには情報技術の発展に伴い同要素の重大さが増している点から、同学問領域が一般的に情報学との結びつきを強めていることが指摘されうる。なかでもイベロアメリカと呼ばれる地域では、情報学において情報の記録的、証拠的側面がより重視される特徴があり、またアーカイブズ分野を含めた、情報関連分野の実務の強い連携が一部の国々でみられる事実も相まって、2 つの学問領域の親和性がより高いことが示唆される。そこで本稿では、イベロアメリカにおけるアーカイブズ学と情報学の関連性に着目し、複数の時期を基点に調査した実在のアーカイブズ学教育課程を分析し、傾向の把握を試みた。その結果、経緯や形式、程度は様々なものの、多くの国や地域の事例から情報学とのかかわりが見出された。アーカイブズ学が情報学の構成要素として扱われる課程もあれば、情報学の課程の途中でアーカイブズ学専門コースに分岐する場合もあった。また、学部レベルにアーカイブズ学専門課程、大学院レベルに情報学の課程が置かれ、進学によって補完される事例もみられたが、一方で情報学が先に教育される補完の形態もあった。このような多様性によって、数多の実践的な例を示していることが、同地域以外で、情報学との関連性を強化したアーカイブズ学教育を検討するうえでも有益である可能性を提示した。
小風, 尚樹 後藤, 真
本論文では,『延喜式』の本文情報のデジタル化と流通の手法について検討を行った。とりわけTEI(Text Encoding Initiative)という,国際標準を適用し作成したデータについての説明を行い,さらにより広く日本の歴史資料のテクストデータ共有のありようについても述べた。なお,本研究についての具体的な内容については,すでにいくつかの国際会議等でも発表を行うとともに,論文化も予定されている。そのため,本論文では,これらの技術的側面には詳細に触れることなく,より歴史学の立場からの意義について検討を行った。筆者らはテクストデータの国際的流通と研究での高度活用を目指し,延喜式のTEIマークアップを行うこととした。TEI(Text Encoding Initiative)とは,人文学に関するテクスト資料を国際的に流通・共有・活用することを目指したプロジェクトであり,そこで作られた規格のことも呼称する。TEIは人文情報学研究の一つの手法として作られているため,歴史資料をどのように理解し,データを加えたかなどの情報をエレメント(タグ付の要素)によって記録することができる点が大きな利点である。このようなメリットに鑑み,筆者らはTEIによるデータ化を提案した。特に『延喜式』の量的なデータについてTEIによるマークアップをほどこし,トランザクショノグラフィの手法を用い,全体像を解析する可能性について,踏み込んだ検討を行ったほか,合わせてこれらのマークアップ手法を基盤データとして用いるためのマニュアルの作り方について検討を加えた。日本史研究の活性化という観点からは,このような歴史資料や研究手法の可視化は欠かすことができない。人文学や歴史学が「危機」と呼ばれる現在であるからこそ,基盤データを構築し,自由に流通し,様々な可能性を開く研究を検討することが求められる。
浜本, 満
本論文の目的は,人類学の自然化の可能性を,人類学の過去に遡って再考することにある。人類学には過去に二回自然化の問題に直面した歴史がある。一回目は人類学が自然科学たりうるかどうかを巡ってなされた1950 年代から1960年代にかけての論争であり,二回目は1970 年代から1980 年代にかけての社会生物学を巡る相互の無理解に終始した論争だった。いずれにおいても文化人類学者の大多数は自然化を退ける選択をしたように見えた。一見正しいものに見えたこの選択は,大きな理論的な袋小路につながる危険が潜んでいた。本論文では,人文・社会科学全体がかかわった一回目の論争を中心に,人類学にとっての自然化の障害となりうる核心を明らかにするとともに,自然科学における経験主義的・実証主義的因果概念の限界を指摘すると同時に,生物学の領域でのダーウィニズムのロジックによって,この両者の懸隔を乗り越える可能性を示したい。
島村, 恭則 Shimamura, Takanori
近年,民俗学をとりまく人文・社会科学の世界において,パラダイムの転換が見られるようになっている。それは,たとえば,個人の主体性に重きを置かない構造主義的な人間・社会認識に対する批判と乗り越え,「民族」「文化」「歴史」といった近代西欧に生まれた諸概念の脱構築,他者表象をめぐる政治性や権力構造についての批判的考察の深まりといった動きである。民俗学も,人間を対象に「民族」「文化」を問題としてきた学問であり,こうした動きとは無関係でいられないはずである。しかしながら現実には,このような動向は民俗学において参照されることがほとんどなく,自己完結的な閉じられた言説空間において,個々の研究者が自らの狭いテーマの研究に明け暮れてきたというのが一般的な状況である。本稿では,こうした現状を打破し,新たな民俗学パラダイムの構築へ向けての試論を展開する。具体的には,「標本」としての「民俗」の形式ばかりを問題にし,また論理的,実証的な反省の手続きを伴わずに「民族文化」や「日本文化」といったイデオロギー的言説の生産に向かってきた従来の民俗学に対して,「生身の人間が,自らをとりまく世界に存在するさまざまなものごとを資源として選択,運用しながら自らの生活を構築してゆく方法」としての〈生きる方法〉に注目した新しい民俗学を提唱し,その大要を提示する。民俗学は,「標本」研究を目的とするのでもなければ,「民族文化」や「日本文化」といったイデオロギーの構築に向かうのでもなく,人々の〈生きる方法〉を,現実に生きている人々のあいだにおいて問う学として再生させられるべきであり,この新しい民俗学では,人々の〈生きる方法〉を明らかにすることによって,人間の生のあり方の多様性や,人間の生と環境や社会との関わりについて,従来の人文・社会科学で行なわれてきたものとは異なる解釈を提供することが可能になるものと予測されるものである。
安達, 文夫 Adachi, Fumio
人文系の博物館や研究機関において,デジタル化された画像や映像,音響資料の利用が進み,今後ますます多様化し増大すると考えられる。これを広く利用できるようにするためには,デジタル資料の情報を適切に記述することが重要であり,そのための記述法を確立する必要がある。デジタル資料には,複製や改変が容易で,そのために制作に幾つかの過程を経ることがあり,形態も多様であるという従来のアナログ形の資料にはない特質を有する。しかし,何らかを写し取っているという点では,アナログ資料と同等である。そして,この二つを管理上区別できない状況も生まれている。そこで,これらを転写資料と捉え,両者を連続的に扱うことのできる記述モデルについて,国立歴史民俗博物館の共同研究の中で検討を進めた。転写資料の記述の視点として,ファイルや記録媒体であるフィルムから書き起こすのではなく,利用者に見える/聴こえる姿から記述できるものとし,転写資料の制作過程やデジタル資料に特有な複合形態を持つ資料の構成を記述できることを要件とした。写し取られているものが何かを明示するため原資料の情報を記述すること,転写資料を作成する直接の元となる資料を転写元として明示すること,そして転写資料と記録媒体は切り離すことを基本としている。転写資料自身の情報を主情報,作成情報,表現情報,格納情報に区分することにより,多様な転写資料の情報を見通しよく記述できる。このモデルの特徴は転写元を明示する点にある。これにより,制作過程を同時に記録できる。そして,これが複合形態の転写資料の構成の簡潔な記述になることが,既存のモデルやメタデータにない特長である。
Kobayashi, Masaomi 小林, 正臣
本稿はMartha WoodmanseeとMark Osteenが提唱する「新経済批評(The New Economic Criticism)」を検証しながら、文学と経済学の新たな学際性を模索する。社会科学としての経済学は数式を多用した限定的な意味における「科学」を標榜する傾向にあり、人文科学としての文学は経済学-多数の学派に基づく経済学-をマルクス経済学に限定して援用または経済学の専門用語などを誤用する傾向にある。これら問題点を考慮しながら、本稿は両学問の類似性と相違点を認識することの重要性を強調する。例えば、Donald McCloskeyが指摘するように、経済学は数式を用いながらも言語による論証を行うことにおいて修辞的である。またPierre Bourdieuが指摘するように、言語と貨幣は機能的に類似する点が多くあり、それゆえ文学と経済学の「相同関係(homology)」が考えられる。しかし相同関係を発見する一方で、それら学問間の絶えざる緊張関係を維持しながら新たな相互関係を構築する必要があり、その際の媒介を果たすのが新経済批評である。換言すれば、文学は経済学を始めとする諸科学の理論を導入しながら、それら科学に新たな返答をすることが可能な「場」であると認識することで、両学問は相互的な知的活性化を永続できる。かくして本稿は、文学と経済学の学際性の追求は「未知(notknowing)」の探求であると結論する。
大西, 拓一郎 ONISHI, Takuichiro
言語地理学は,その学術的展開とともに語形分布の2次元空間的配列関係を基盤とした歴史的解釈に目的を焦点化させるに至ったが,そのような方法では,例えば待遇表現のように地域が持つ社会的特性と言語が関連を持つ事象の分析に十分対処することができない。また,配列関係に基づく解釈においても,その背景にある地理的情報を検討することは必要である。本来,言語地理学は言語外の情報と言語情報を空間的に照合することで,言語=方言と人間の実生活との関係を見ていくことに,そのダイナミズムがあった。そのような出発点に立ち戻るなら,地理情報システム(GIS)は,言語地理学を再生させるための大きなキーとなるものである。
後藤, 斉 GOTOO, Hitosi
本稿は,コーパス言語学をもっとも発達させたイギリスにおける事情と日本におけるコーパス研究の位置づけとを対比しつつ歴史的に概観して,その発展の違いの要因を探り,あわせて今後に対するなにがしかの見通しを得ようとするものである。イギリスにおいてコーパス言語学が発達したことには,主要因としては言語研究の流れに沿うものであったことが挙げられ,ほかにもいくつかの言語内的および言語外的要因が挙げられる。それに対して,日本では,計算機利用の言語研究の歴史は長いが,コーパスの概念の精緻化には至らず,現在,代表性を備えていて,人文系の研究者が共有できるようなコーパスが存在しない。現在の不十分なコーパスでも意味論の研究などに利用することが可能ではあるが,国立国語研究所が「現代日本語書き言葉均衡コーパス」の構築に着手したことの意義は大きい。ただし,それを十分に生かすためには,利用考の側にも主体的な努力が求められる。
鍾, 以江 南谷, 覺正
本論は、この二十年間、日本のみならず世界全体に深甚な変化を及ぼしてきたグローバリゼーションという世界史的潮流の中で、それまである意味で政治的、国家的利害に拘束されてきた日本研究が、今後グローバルな知識生産の体系の一つとして脱皮し、新しい意義を持つ可能性を探ったものである。 最初に、日本の内外におけるこれまでの日本研究を、十八世紀のヨーロッパに起源を持つ人文学の伝統を汲む近代的知識生産の一部として位置づけ、その人文的伝統の中に、二つのテンション――人文―国家のネクサス(連鎖)と、フマニタス―アントロポスの対立構図――が内在していたことを指摘し、それらを批判的に考察した。両者とも誕生の時から、世界に伝播する歴史的ダイナミズムを持つ人文的知識生産を伴っていた。 第一のテンションは、人間全般についての普遍的な学問としての人文学と、国民国家に仕える性格の人文学の間のものである。普遍的人間性の理想は、世界各地での近代的知識生産を可能にしたが、同時にそれは、固有性を主張する排他的な国民国家の枠組みのなかで遂行されてきた。普遍的な人文学と国民国家は相互依存関係にあった。 第二のテンションにおいても、知る主体、知識生産の主体としての西洋のフマニタス的自己認識と、知られるべき他者としての非西洋のアントロポス的認識は相互依存関係にある。フマニタス―アントロポスの対立構図は、ヨーロッパによる世界の植民地化と手に手を携えて進んだ近代の知識生産の一つの構造的な認識原理となる。 しかしグローバリゼーションが進むにつれ、近代の人文的知識生産の二つのテンションを支えてきた歴史的条件は幾つかの面において変わりつつある。グローバリゼーションが起こってきた一つの理由は非西洋世界の台頭にあるが、それによって西洋―非西洋の認識論的・文化的境界が崩されるようになり、それまで強固に根を張っていた分離と差別の形式が緩み始めている(また違った形の不平等と区別が生まれつつあるのだが……)。このような歴史変化を起こしているグローバリゼーションの諸力を深く認識する上で、世界中の人文学を閉塞させてきたフマニタス―アントロポス、および国民国家の枠組みを問題化できるのではないか。 われわれの思考と想像力の地平を限ってきた二つの枠組みは、おそらくそれを完全に解体することは難しいが、その呪縛を幾分でも解消することができれば、国民国家が相対化される中に新しい人文学研究のヴィジョンが生まれてくるだろう。大学教育・学界が世界的に繫がりを強めつつある今日の潮流の中で、日本研究も同様にトランスナショナルな変貌を遂げつつあり、そこから新しい意識が芽生えてくる可能性がある。それは、世界史的なグローバリゼーションの流れのなかに自己を定位し、その流れをどの方向に向けるべきかを考えながら、自己の限られた力を賢明に使おうとする意識である。日本研究についても、ある種のグローバルな人文学研究を想定し、そのなかで「日本」を主体に、客体に、あるいは背景的知識にしながら研究を遂行し、新しい人文学研究の創成に資するのが望ましい姿ではなかろうか。
林, 正之 Hayashi, Masayuki
柳田國男著作中の考古学に関する箇所の集成をもとに、柳田の考古学に対する考え方の変遷を、五つの画期に整理した。画期(一)(一八九五〜):日本社会の歴史への広い関心から考古学・人類学に参与し、山人や塚等、村落とその境界の問題を探求する。土器・石器や古墳の偏重に反発して次第に考古学から離れ、『郷土研究』誌上で独自の歴史研究を行う。画期(二)(一九一七〜):南洋研究や渡欧を通じて人類学の動向を知り、日本での国際水準の人類学創設を図る。出土人骨研究の独走や「有史以前」ブームを批判し、人類学内での人文系・自然科学系の提携、近現代に及ぶ「有史以外」究明の為の考古学との協力を模索する。画期(三)(一九二九〜):人類学の総合を留保し、一国民俗学確立に傾注する中、考古学の発展を認め、考古学との対照によって、現代の文化複合の比較から民族の文化の変遷過程を抽出する方法論を確立する。戦時下、各植民地の民俗学の提携を唱えるも、考古遺物の分布等から民族間の歴史的連続を安易に想起する傾向を排し、各民族単位の内面生活に即した固有文化の究明を説く。画期(四)(一九四六〜):敗戦原因を解明し、批判力のある国民を創るべく、近現代重視の歴史教育構築に尽力する。登呂遺跡ブームが中世以降の地域史への関心を逸らすことを警戒し、身近な物質文化の変遷から社会分析の基礎を養う教育課程を構想するも挫折する。画期(五)(一九五二〜):自身の学問の挽回を賭け、島の社会環境や大陸の貨幣経済を踏まえた移住動機の総合的モデルに基づき、稲作を核とする集団が、琉球経由で海路日本列島へ渡来したとの説を掲げて、弥生時代の朝鮮半島からの稲作伝来という考古学の通説と対決する。しかし考古学側の知見に十分な反証を出せず、議論は閉塞する。柳田は、生涯に亘って考古学を意識し、批判的に参照する中で、研究の方向を模索した。考古学は、柳田の思想の全貌を照射する対立軸といえる。
富澤, 達三 Tomizawa, Tatsuzo
近年、急速なデジタル社会の到来により、人文系の研究者もパーソナルコンピューター(パソコン)の活用が必須条件となりつつある。多くの研究者が、論文の執筆をパソコン上でワープロソフトを使って執筆しており、今後もさらなるデジタル機器の利用が予想される。本稿では、文化系研究者のワープロソフト以外のパソコン利用の実例として、簡易なデータベースの構築と、近世絵画資料のデジタル化の事例を紹介する。簡易データベースの例として、カード型データベース作成用ソフト・ファイルメーカープロを使った、錦絵の情報整理方法を紹介する。また、写真・絵図などを、フォトCD・スキャナー・デジタルカメラ・カラーマイクロフィルムを使ってデジタル化する方法について概略を述べる近世絵図資料のデジタル化については、単に写真画像をパソコンに取り込むのではなく、描線をデジタルトレースする方法を紹介する。その実例として、アドビ社のドローソフト・イラストレーターを使用した、近世村絵図のトレース作業の概略を紹介する。これらの手法は個人研究のみならず、博物館展示・資料整理への活用が期待される。
久須美, 雅昭 Kusumi, Masaaki
研究資料のデジタル化は,とりわけ人文系研究の領域において,新たな方法論の開拓や,これまでにない共同研究スタイルの確立などにつながる大きな可能性を秘めている。その反面,デジタル資料への依存は原本の喪失という危険な側面も併せ持っている。デジタルであることはすなわち,デジタルを解読するハードウェア,ソフトウェアに依存することであり,このようなハード,ソフトは市場の原理で極めて移ろい易いものだからである。まさに資料デジタル化を始めた世代の責任として,1000年先の世代に研究資料を引き継ぐという観点からデジタル資料の特質を理解し,その妥当な扱い方を検討する必要がある。それには文書資料における書誌学を下敷きにすることが有効であろう。ここでは,仮にそれをデジタル書誌学と名づけ,デジタル資料の多面的な定義,あるいはハード,ソフトへの依存性を考察する。また,動画映像資料のデジタル化に先立つべき,映像書誌学の必要性にもふれる。最後に,デジタル化の実作業の場としてのデータベースについてトヨタ財団の例に基づき考察し,デジタル資料の扱いにかかわる様々なヒューマン・エラーの可能性を明らかにする。また,データベースの延長上にWEBアーカイビングと呼ばれる最近のデジタル資料生成の方向性も検討する。付録として,筆者が開発した画像データベース構築のためのツールについて紹介する。
柏野, 和佳子
国語学の領域において,多義語の曖昧性解消過程は十分に解明されていない。他方,日本語処理においては,語の曖昧性を解消するための計算機用の辞書研究が進められている。曖昧性の解消に有効な辞書情報として,格パターン情報が知られていた。しかしながら,格パターン情報だけでは十分とは言えなかった。コロケーションの曖昧性の分析を通じ,曖昧性の解消には,名詞句,格助詞,述語という単純な格パターンだけではなく,連体修飾句,連用修飾句,格表示に関しての詳細な情報を盛り込んだ統語情報が必要であること,さらに,形態や文脈に関する情報も必要になることが分かった。今後,その必要な情報の内容を明らかにするために,多義動詞の曖昧性解消過程を解明する研究を行っていく。
日地谷=キルシュネライト, イルメラ
世界における日本研究は、当然それぞれの国における学問伝統と深く結びついている。そのため、19世紀末以降のドイツ日本学の発展は、学問的に必須の道具である、辞書、ハンドブック、文献目録などの組織的な編纂と歩みをともにしてきた。そのような歴史の中ではこれまで、和独・独和辞典や語彙集など、1千を超える日独語辞典の存在が確認されている。1998年にその編纂作業が始まった、和英・英和辞典などをも含めた、日本における2か国語辞典編纂史上最大のプロジェクト、包括的な「和独大辞典」全3巻は、今その完成を目前にしている。この辞典編纂の過程は、ここ何十年かの学問に関する技術的・理論的問題にも光を当ててくれると思われるのだが、その問題とは、辞書編纂に関するものだけではなく、例えばディジタル化、メディアの変遷、日本の国際的地位、人文科学と呼ばれる学問に関わる問題でもある。その意味からも、新しいこの「和独大辞典」誕生までの道筋は、「日本研究の過去・現在・未来」について、多くのことを語ってくれるに違いない。
福田, 秀一 HUKUDA, HIDEICHI
鎌倉後期乃至未期に成った三つの私撰集,「続現葉集」(現存10巻。もと20巻か。元亨3年成り,同年増補か。撰者は為世か)・「臨永集」(10巻。元徳3年成る。撰者は未詳だが,浄弁が関係するか)・「松花集」(現存4巻余。もと10巻か。これも元徳3年成る。浄弁が関係し,或いは彼の撰か)は,二条派の当代歌人の集として当時の歌壇(観点によっては一部の武家教養屑をも含む)や歌風を探る資料として注意される上,互に関連を有し共通する作者も多いので,かつてこの三集を併せた形の作者索引を公にした(『武蔵大学人文学会雑誌』第三巻第二号,昭46.10)が,その後に発見された巻四・六等によって今回増補し,また気づいた誤を訂した。
神崎, 享子 KANZAKI, Kyoko
「動詞+動詞」型の複合動詞は,使用頻度の面でも表現力の面でも,日本語に特徴的な語彙であるが,統語的,意味的情報を付与してデータベース化している研究はまだ少ない。そこで,本稿では,語彙的複合動詞の形態的,統語的,意味的情報にとって何が必要かを検討する。まず,研究書や辞書などから収集した約2500語の複合動詞について量的観点から構成をとらえる。次に,情報付与の検討にあたって,既存のデータベースの現状を調査し,どのような情報が不足しているかを探る。そして,現在の言語学の複合動詞研究と,既存の基本動詞辞書の両方の観点から,必要な情報をまとめ整理し,それらの情報を実際に付与するにあたり,どのような基準あるいは知見を参考にするかを述べる。最後に,第一段階で構築中のデータベースの一部を掲載する。
新田, 保秀 仲間, 正浩 沖田, 憲生 Arata, Yasuhide Nakama, Masahiro
本学部における小学校教員養成課程をとりまく情報教育環境を知る目的で、小学課程学生を対象にアンケート調査を行った。その結果、学生はコンピュータに対する関心は非常に高く、教育、趣味等の広い分野において、それを活用したいと思っているが、実際の情報関連科目の履修状況はきわめて低いことが明らかになった。そのギャップを埋め合わせ情報教育の推進を計るためには、教育学部において小学課程の学生を対象に、コンピュータの初歩的利用法、CAIソフトの利用法及び作成、マルチメディアの教育への活用等、学生の要求に沿うような、あるいは興味をそそる様な、魅力ある情報関連科目のクラスを開設する必要があろう。
新谷, 尚紀 Shintani, Takanori
本稿は日本各地の葬送習俗の中に見出される地域差が発信している情報とは何かという問題に取り組んでみたものである。それは長い伝承の過程で起こった変遷の跡を示す歴史情報であると同時にその中にも息長く伝承され継承されている部分が存在するということを示している情報である。柳田國男が創生し提唱した日本民俗学の比較研究法とはその変遷と継承の二つを読み取ろうとしたものであったが,戦後のとくに1980年代以降の民俗学関係者の間ではそれが理解されずむしろ全否定されて個別事例研究が主張される動きがあった。それは柳田が創生した日本民俗学の独創性を否定するものであり,そこからは文化人類学や社会学との差異など学術的な自らの位置を明示できないという懸念すべき状況が生じてきている。日本民俗学の独創性を継承発展させるためには柳田の説いた視点と方法への正確な理解と新たな方法論的な研磨と開拓そして研究実践とが必要不可欠であり,民俗学は名実ともに folklore フォークロアではなく traditionology トラデシショノロジイ(伝承分析学)と名乗るべきである。日本各地の葬送習俗の伝承の中に見出される地域差,たとえば葬送の作業の中心的な担当者が血縁的関係者か地縁的関係者かという点での事例ごとの差異が発信している情報とは何か,それは,古代中世は基本的に血縁的関係者が中心であったが,近世の村落社会の中で形成された相互扶助の社会関係の中で,地縁的関係者が関与協力する方式が形成されてきたという歴史,その変遷の段階差を示す情報と読み取ることができる。本稿1は別稿2とともに今回の共同研究の成果として提出するものであり,1950年代半ばから70年代半ばの高度経済成長期以降の葬儀の変化の中心が葬儀業者の分担部分の増大化にあるとみて現代近未来の葬儀が無縁中心へと動いている変化を確認した。つまり,葬儀担当者の「血縁・地縁・無縁」という歴史的な三波展開論である。そしてそのような長い葬儀の変遷史の中でも変わることなく通貫しているのはいずれの時代にあっても基本的に生の密着関係が同時に死の密着関係へと作用して血縁関係者が葬儀の基本的な担い手とみなされるという事実である。近年の「家族葬」の増加という動向もそれを表わす一つの歴史上の現象としてとらえることができる。
西川, 賢哉 玉, 栄 前川, 喜久雄 YU, Rong
モンゴル語アクセントの音声学的特徴を把握するために筆者らが設計と実装を進めている単語読み上げ音声データベースについて報告する。CSJ-RDBを参考に,「語」「音節」「音素」「分節音」という,階層関係が認められる4つの単位を設定したうえで,以下のテーブルから構成されるRDB(リレーショナルデータベース)を構築した:(i) 上記の単位ごとに発話中の要素を記述したテーブル[単位テーブル],(ii) 単位間の対応関係を記述したテーブル[関係テーブル],(iii) 音響情報(F0,インテンシティー)を記述したテーブル[音響情報テーブル],(iv) メタ的情報(話者情報など)を記述したテーブル[メタ情報テーブル]。これらのテーブルを相互に関連付けることにより,「母音の持続長を,それが所属する音節の構造/音節の位置ごとに比較する」といった,複数の単位にまたがる分析を容易に行なうことができる。
主税, 英德 後藤, 雅彦
本報告は、地域に貢献する人材の育成を目的とした考古学関係授業の取り組みを紹介するものである。また、コロナ禍において、仲間とともに遺跡を実地調査(巡検の意味を含む、以下、「実地調査」と表現する)を行うことで、考古学専攻生が何を学び考えたかについても報告する。本取り組みでは、読谷村・恩納村をフィールドとして、学生主体で、遺跡の概要や見学スケジュールなどを調べ、実際に現地に赴き、かつ、遺跡保護に携わる文化財専門員の方と情報交換などを実施した。その結果、参加した学生たちは、遺跡と地域の関係や博物館をはじめとする文化財の普及啓発のあり方、現地でしかわからない遺跡の情報など、実地調査を行うことで得る学びを習得することができた。新型コロナウィルスの影響により対面でのコミュニケーションが難しい現在、考古学教育において、遺物・遺構の実測や発掘調査などの技術的方法だけではなく、「遺跡を現地で知る」機会を与えることも、今後の文化財保護を担う人材を育成するにあたっては必要であることを再認識することができた。
Kobayashi, Masaomi 小林, 正臣
本稿はアメリカ社会における「人格性(personhood)」という問題の在り方の時代変遷を幾つかの文学作品を批評しながら検証している。とくに肥満体の正当化を目的とする運動は、肌の色などの外見による差別への抗議を含んだ公民権運動と同様に、外見の人格性に関する社会的事象として捉えられる。この点を論証するうえで本稿は、肥満体の人物が登場するチャールズ・ブコウスキーとポール・オースターの諸作品に注目する。それらにおける肥満体の描かれ方を分析すると、戦前と戦後、具体的には1930年代と1960年代の2世代における肥満体に対する意識の変遷が理解できる。そして「人物」に関する議論は、「人」であり「物」である法人に関する議論と不可分である。たとえば、リストラによる組織の「縮小化(downsizing)」という用語が示すように、人間の解雇の問題は法人の肥満の問題でもある。かくしてレイモンド・カーヴァーの小説において頻出する失業問題は、現実または社会における「人」と法律または経済における「人」の対立として考察できる。そして、この対立に関する判例は増加傾向にある。したがって本稿は、人格性に関する議論を通じて、人文科学としての文学と社会科学としての法律学や経済学との新たな学際的研究を行うための試論である。
福田, 秀一 HUKUDA, Hideichi
鎌倉末期、元徳三年頃の成立と考えられる「松花和歌集」は、為世門の四天王の二人で鎮西に下った浄弁の撰かとも言われ、ほぼ同じ頃に成った「続現葉」・「臨永」の両集と共に、恐らくは当時の二条派の現存歌人の集として、種々な意味で注目されるが、従来は巻一(春)・五(恋上)の両巻と巻三(秋)・四(冬)の各冒頭を含む若干の断簡計一三○余首が知られているに過ぎなかった。ところが先般、巻四の全文とおぼしき一本が出現し、当館に入ったので、ここにその本文を忠実に翻刻し、初二句索引と若干の書誌的解説とを付した。なお、筆者はさきに、右に述べたような観点から「続現葉・臨永・松花三集作者索引」を編んで公にした(『武蔵大学人文学会雑誌』第三巻第二号、昭四六・九)が、近く、今回新出の巻四に見える歌六六首に関してそれを増補した上、若干の誤記誤植等をも訂したものを、公表するつもりである。
松田, 陽子 前田, 理佳子 佐藤, 和之 MATSUDA, Yoko MAEDA, Rikako SATO, Kazuyuki
本稿は,日本で大きな災害が起きたとき,日本語に不慣れな外国人住民に,必要な情報をどう提供すべきかについての検討を進めてきた研究成果の一部である。95年に起きた阪神・淡路大震災以来,社会言語学や日本語教育学を専門とする言語研究者が集まり,日本語にも英話にも不慣れな外国人居住者に対して,災害時には「どのような情報を」「どう流すのか」について考えてきた。本稿は,最後の課題である「どういう手段で」について論じたものであり,「簡単な日本語での日常会話ができる程度の外国人にも理解できる日本語を用いた災害情報の表現のしかた」および「その有効性」について記した試論である。今回提案したやさしい日本語の表現を用いて,日本語能力が初級後半から中級前半程度の外国人被験者へ聴解実験を行ったところ,通常のニュース文の理解率は約30%であったが,やさしい日本語を用いたニュースでは90%以上になるなど,理解率の著しく高まることが確認された。
森山, 克子 Moriyama, Katsuko
食育と海洋がコラボレーションする食育情報教材「Q-食マスター」を開発した。そこで、本報は、ゲーム内容と効果の検証のため、実践例を報告することを目的とする。実践校より、児童は「楽しみながら海の食材の学習をしていた」また、学習後「児童がゲームの料理を給食にリクエストし、それを受けて栄養士が生きた教材として、給食で提供した。児童は食べることで再び海洋を学んだ」と報告があった。食育は、給食を生きた教材として海洋教育や情報教育でも活用できることが示唆された。
山田, 嚴子
小川原湖民俗博物館は1961年に渋沢敬三の秘書であった杉本行雄が青森県三沢市に設立した民間博物館であった。2006年に経営が破綻し,建物の老朽化から2015年に廃館となった。筆者は2015年に当該博物館の旧蔵資料の移設に関わり,旧蔵資料の一部を勤務先の弘前大学人文社会科学部で預かり,整理と公開に努めてきた。その結果次のようなことが分かった。渋沢にはこの博物館を「小川原湖を中心とした自然,人文を広く含むものとする構想」があり,杉本には「十和田湖と小川原湖を結ぶ大規模な観光計画」があった。当初総合博物館として構想された博物館が「小川原湖民俗博物館」と改称されたのは,中道等による精力的な民具蒐集の結果であった。中道には,上北地方をアイヌ民族をはじめとした少数民族と和人が交流した場であったことを生活文化から証明したいという意図があり,博物館の旧蔵資料の中には土器も含まれている。旧蔵資料からはまた,小川原湖民俗博物館と宮本馨太郎の関わりを看取できる。旧蔵資料の中に「昭和35年 立教大学民俗資料室」と書かれた「民俗資料整理台帳」が残っている。当時立教大学教授であった馨太郎が小川原湖民俗博物館に送ったものであろう。馨太郎は,1962年に「日本在来民具の民族学的研究」で科学研究補助金を得て,その研究分担者の中に中道等の名前がある。また,岩手県在住であった森口多里もまた研究分担者になっているが,小川原湖民俗博物館には森口からの寄贈品があったことが「台帳」から読み取れる。小川原湖民俗博物館は,宮本馨太郎には,「気心の知れた」相手のコレクションで,民具分類・整理のための試案を重ねる場として機能していたと考えることができる。中央の研究者,郷土史家,実業家が,お互いの役割に深く立ち入らない形でそれぞれのなすべきことをするという協同のあり方が,地方民間博物館を可能にしたといえる。
森山, 克子 金城, 千秋 高吉, 裕士 Moriyama, Katsuko Kinjyo, Chiaki Takayoshi, Yuji
平成22年、子供たちが、「食育」から「海洋」を学ぶことができる食育情報教材Q-食マスターを開発した。その効果を検討するために、平成23年11月~3月、沖縄県那覇市立城東小学校の特別支援教室で授業を行った。児童や教諭のアンケートから、本教材は、児童の海洋に関する理解、興味、関心を高めることが可能であるとわかった。また、本教材は、家庭科、道徳、学級活動、給食指導と幅広い教科等で、「食育」から「海洋」を学習する食育情報教材としての期待ができることもわかった。
Han, Min
本研究ノートは,ある中国人キリスト教徒が1940 年代中国内戦の間に綴った,1946 年1 月8 日から1948 年5 月31 日までの149 日分の中国語日記及びその日本語訳全文を紹介し,日記資料に基づいて,一人の市民,キリスト教徒の目から見た当時のアメリカ北長老会所属の安徽省宿州キリスト教会およびその教会直轄の「農業科学試験部」の活動,戦時下の国民党軍隊と市民及び教会との関わりを整理し,資料の人類学的な背景について若干の考察を与えたものである。 日記は2008 年に筆者が安徽省宿州市において収集し,現在,国立民族学博物館に研究資料として収蔵されている。日記は中国人キリスト教徒の目から当時のアメリカ北長老会所属の安徽省宿州キリスト教会の活動,戦時下の国民党軍隊と市民及び教会との関わり方などの貴重な情報を詳細に記述したので,そこから当時の公式な文書や新聞,書籍等の出版物とは異なる情報を得ることができる。こうした種類の資料を今後,人類学的な歴史研究にどのように活用していく可能性があるかということも含めた試論を提示する。
伊藤, 薫 森田, 敏生
現代において,コーパスは言語研究に欠かせない資源となっている。言語学の分野では検索・閲覧・集計インターフェイスを備えたコーパスの利用が多いが,情報学等の分野で作成されたコーパスには必ずしもインターフェイスが提供されるわけではない。類型論研究での活用が期待されるUniversal Dependencies(UD)ツリーバンクもそのようなコーパスの1つである。そこで本研究では,既存の高機能コーパスツールであるChaKi.NETを情報抽出用に特化し,新規ユーザにも利用しやすい軽量版であるChaKi.NET liteを開発した。ChaKi.NETは高機能であるがゆえに利用者にとっての学習コストが高かったが,ChaKi.NET liteではUDに合わせたインターフェイスを提供し,アノテーション機能を省くことで目的の機能を利用しやすくした。本稿ではChaKi.NET lite開発の背景と機能について紹介する。
清水, 郁郎 SHIMIZU, Ikuro
昨年度おこなわれた「モノと情報」班の第4回ワーキング・セミナーでは、東南アジア大陸部社会に特徴的な事象を人類学的、民族誌的に踏まえたモノ研究の可能性が議論された。この報告書は、そこで議論された諸問題を再度整理し、同地域におけるモノ研究の今後の方向性について検討するものである。
山田, 奨治
六十四種類の「百鬼夜行絵巻」を対象に、その図像の編集過程の復元を試みた。描かれた「鬼」の図像配列の相違に着目し、情報学の編集距離を使って絵巻の系統樹を作成した。その結果、真珠庵本系統の「百鬼夜行絵巻」の祖本に最も近い図像配列を持つのは、日文研B本であるとの推定結果が得られた。また合本系の「百鬼夜行絵巻」についても図像配列を比較し、それらの編集過程の全体像を推定した。
山崎, 誠 Yamazaki, Makoto
2000年代に入って,『日本語話し言葉コーパス』(以下,CSJ),『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(以下,BCCWJ),『日本語歴史コーパス』(以下,CHJ)など,本格的な研究に利用できるコーパスが着々とリリースされ,コーパスの利用は人文系の日本語研究において一般的なものとなっている.コーパスの利用を大いに促進したものの一つがWeb検索ツール「中納言」1である.それまでは,多くのデータを扱う研究はプログラミングの技術が必須であったが,用意されたツールを使うことで一気にコーパスを利用するハードルが低くなったからである.中納言はコンコーダンサーの1 つで,検索結果として,キーとなる検索語を中心に前後文脈が表示されるというものである。
前川, 喜久雄 MAEKAWA, Kikuo
本稿の前半では基幹型研究「コーパスアノテーションの基礎研究」の現状を紹介した。このプロジェクトでは,既存コーパスの利用価値を向上させるために必要とされるさまざまな言語的アノテーションについての研究を進めている。本稿ではそのうち,係り受け構造,拡張モダリティ,時間情報,語義,節境界,形態論情報をとりあげて解説した。本稿の後半ではもうひとつの基幹型研究「コーパス日本語学の創成」を紹介した。このプロジェクトはコーパス日本語学の振興を直接の目的とする戦略的プロジェクトである。振興のための主要な手段として位置付けている「講座日本語コーパス」と「コーパス日本語学ワークショップ」について説明した後,具体的な研究成果の一例として,『日本語話し言葉コーパス』(CSJ)を用いた日本語イントネーション研究の事例を紹介した。PNLPと呼ばれる東京語の韻律特徴は,1959年に発見されて以来現在までその言語的機能が不明のままであった。今回,X-JToBI韻律アノテーションの施されたCSJ-Coreのコンピュータ分析によって,PNLPは原則として1発話に1回だけ生じて発話の頂点を表示するとともに,典型的には発話の次末アクセント句に生じて発話の終端を予告する境界機能をあわせもっていることが判明した。
本書は、フィリピンのアクラン州のNew Washington地区やBatan地区の河口域における漁具や漁法を掲載したものです。漁具・漁法の記述とともに、どのようにその漁法が選択されるのか、漁獲生物の生態や行動が漁獲効率にどのように影響を及ぼすのか、漁獲漁業の調査をフィールドでどのように行うのか等について記載されています。また、現地漁民がそれぞれの漁具・漁法を選択するに至った生物学的、社会学的情報についても記載しています。
山本, 和明 YAMAMOTO, Kazuaki
DOI(ディー・オー・アイ)って何:Digital Object Identifier の略。恒久的にデジタル情報を特定できる、国際的な識別子、それがDOIです。対象は、書籍や論文にとどまらず、研究データ、さらに映画やテレビ番組などの情報資産にも、広がり続けています。インターネット上にあるデジタルコンテンツの所在情報は、一般的にURLによって示されています。しかしページやコンテンツの場所などが変わるたびにURLも変更になり、わずか数年で、対象のサイトに行き着けないということがしばしば。そこで、デジタルコンテンツへの永続的なアクセスを実現するため考案されたのが、DOIです。日本では、大学図書館や国立情報学研究所、国立国会図書館が古典籍のデジタル画像へのDOI付与に先進的に取り組んでいます。国立国会図書館では、博士論文(14万件)等への付与に加えて、2015年2月から、約9万件の古典籍画像にもDOIが付与されました。DOIは、いま研究者が知っておくべき識別子なのです。
山口, 英男 Yamaguchi, Hideo
正倉院文書は、官司の現用書類が不要となり廃棄されたものである。この点で、多くの古文書とは異なる特徴を有しており、文書の機能情報を抽出・解析する上でも、これに対応した手法・手順が求められる。正倉院文書の解析は、業務の解析に他ならない。そのためには、書類からの情報抽出において、書類の作成から利用・保管・廃棄に至る履歴を明らかにすること、その際、書類の用いられる場の変化に着目することが重要である。この点で、古文書学における文献史料(文字資料)の三分類(文書・典籍・記録)や、近年指摘されているその見直しの議論に注目できるが、その方向性には疑問もある。文字資料は「文字を用いて情報を何らかの媒体に定着させたもの」であり、情報の受け手に何らかの影響(働きかけ)を及ぼす。ただし、単なる情報の移動と、意識的な情報の伝達とは区別されなくてはならない。情報の伝達においては、正確性、確実性が求められることから、文書様式・書札礼等を含め、様々な「仕掛け」が施される。「仕掛け」の有無には機能上明確な差異が存在し、業務解析においては、そうした「仕掛け」に着目することで様々な知見を抽出することができる。以上の観点から、某者宣を書き留めた受命の書面、経巻奉請に関する書面を取り上げ、命令や依頼の内容を書き留めただけの書面の存在と、その業務進行上の役割を検討することで、口頭伝達と書面伝達とが併存する具体的な様相を明らかにし、伝達のための「仕掛け」を持たない書面が場を移動しながら利用されることの意味を論ずる。
安永, 尚志 YASUNAGA, Hisashi
国文学に関する学術情報データベースの形成、管理、利用について、国文学研究推進のためのコンピュータ利用の観点からまとめた。国文学データベースの概念と特徴を示し、その組織化の実際をまとめた。国文学データベースの形成、管理は、国文学研究資料館の事業と密接な関連を持っているので、本文は国文学研究資料館における国文学研究推進のための支援システムに焦点を当て述べている。各種国文学データベース、及び国文学研究のためのコンピュータの利用は、主として以下の4点から述べた。(1)資料(伝本)の検索、(2)文献(論文等)の検索、(3)主要語彙の検索、(4)定本の作成(校定本文)へのアプローチ。なお、本研究は主に文部省科学研究費補助金によっている。
国立国語研究所は,1988年12月20日(火)に創立40周年をむかえた。それを記念して,同日,「公開シンポジウム『これからの日本語研究』」が国立国語研究所講堂でひらかれた。本稿はそのシンポジウムの記録である。 (ただし,集録にあたっては,本報告集の論文集としての性格を考慮し,あいさつ,司会の発言は省略し,発表内容に関する発言のみを集録した。)ひとくちに「日本語研究」といっても,その研究対象は多様であり,また研究の視点・方法も多様である。そして,近年その多様性はますます拡大する傾向にある。このような状況をふまえ,今回のシンポジウムでは,(1)理論言語学・対照言語学,(2)言語地理学・社会言語学,(3)心理言語学・言語習得,(4)言語情報処理・計算言語学という四つの視点をたて,それぞれの専門家の方に日本語研究の現状と今後の展望を話していただき,それをもとにこれからの日本語研究のあり方について議論するという形をとった。
川添, 裕子 Kawazoe, Hiroko
近代以降の身体観の変化と併行して,美容整形は拡大し続けてきた。美容整形に関する人文社会科学研究では,身体の管理・監視に焦点を当てた分析と,整形経験者の能動性に焦点を当てた分析が対立的な議論を構成してきた。しかしいずれも近代社会とその対極の個人という図式に依拠している点では共通している。近代的身体観と近代的個人の概念に基づいた分析においては,美容整形経験者の身体と自己は,社会に従属するか,あるいは他者と無縁に刷新されるものと描かれる。本稿は,術前から術後に亘る聞き取り調査をもとに,従来の研究では背景に退いていた状況性と関係性および手術後の馴じむ過程に着目して,日本の患者の身体と自己のありようについて検討するものである。手術前,患者たちの身体と自己の感覚は画像情報的で,普通でないというようなスティグマ化された身体形態に固定化している。この日常生活全体に暗い影を落とすほどリアリティを持つ身体は,手術後は意外に早く忘れさられていく。固定化していた身体と自己の感覚は,手術を契機に流動的に変化しうる。しかし単に手術が技術的に成功すればいいだけではない。日本では,美容整形の周縁性・境界性がとりわけ顕著である。相対的に普通が強調される中で,ほとんどの患者はタブー視される美容整形を秘密にする。患者たちは痛みや違和感の残る身体に馴染むと同時に,その身体で他の身体の前に出てともにいることに馴染んでゆく過程で,手術前とは微妙に異なる身体と自己の感覚や他者の反応や新たな関わり方を少しずつ自分の身体に染み込ませてゆく。この一連の経験の中でそれまでの価値観や他者との関係を捉え直す患者もいるし,しばらくしてまた画像情報的な身体形態の追求に向う患者もいる。本稿の分析結果からは,身体と自己の感覚と認識は,そのつどの状況性と関係性の中で立ち現れる流動的で相互作用的なものであることが示唆される。
千田, 嘉博 Senda, Yoshihiro
日本における城郭研究は,ようやく基本的な所在や遺跡概要の情報を集積する段階を終え,そうした成果をもとに新しい歴史研究を立ち上げていく新段階に入ったと評価できる。従来の城郭研究は市民研究者によって担われた民間学として,おもに地表面観察をもとにした研究と,行政の研究者による考古学的な研究のそれぞれによって推進された。しかしさまざまな努力にもかかわらず地表面観察と発掘成果を合わせて充分に歴史資料として活かしてきたとはいい難い。城郭跡を資料とした研究を推進するためには,地表面観察から城郭の軍事性を歴史資料化することと,発掘成果から城郭の内部構造を歴史資料化することを一貫して行い,分析することが必要である。そして発掘成果によって改めて中世城郭の実像をとらえ直すことが大切である。そこで本稿では,発掘で内部構造が判明した中・小規模の城郭遺構を軸に,地表面観察,文字史料をも合わせた学融合的検討を行った。検討の対象は,築城祭祀,塁線構築技法,陣城,包囲陣,中小規模の山城の内部構成,兵舎など多岐におよぶ。いずれも城郭跡から歴史を読み取っていくのに基本になる視点といえる。地表面観察でわかる情報から発掘成果まで学融合的に一貫して検討することで,城郭跡のもつ資料性をさらに高めることができる。本稿はそうした新しい研究方向を指向した試みである。
安達, 文夫 鈴木, 卓治 小島, 道裕 高橋, 一樹 Adachi, Fumio Suzuki, Takuji Kojima, Michihiro Takahashi, Kazuki
人文科学の分野において,様々なデータベースが作成され,多くがネットワークを介して公開されている。これらのデータベースをまとめて検索できるようにすることにより,個別のデータベースの所在やその操作方法を意識することなく検索が可能となる。総合研究大学院大学の文化科学系の基盤機関と幾つかの大学とが共同し,各々の機関が有するデータベースを統合的に検索できるシステムの研究を進めている。この統合的な検索を実現するための一種の共通の窓としてDublin Coreと呼ばれるメタデータを選択している。これに,国立歴史民俗博物館の「館蔵資料データベース」と「館蔵中世古文書データベース」のデータ項目をマッピングする方法について検討し,実証システムにより評価を行った。ネットワーク上の資源の記述を本来の目的としたメタデータであるDublin Coreに,資料の目録情報からなるデータ項目を一応の根拠をもって対応付けができる。しかし,資料の形状,状態,材質といった実際のものが持つ属性では,その意味の捉え方によって,対応付ける先にゆれが残る。また,ユーザインタフェース上,エレメントの名称を直接的に検索語の入力欄に表記したのでは,実際に対応付けられているデータの内容とかけ離れる場合が生ずる。エレメントの定義や名称を適正化する必要があることが,実証実験により確認された。検索結果の表示方法の評価から,表示するデータ項目や名称の表示方法の検討が必要であり,統合検索と個別検索の役割の整理が重要な課題であることが示された。また,多数のデータベースを対象とすることから,検索結果の表示と絞り込みに関するユーザインタフェースの面で新たな考慮が求められることが明らかとなった。
Ito, Atsunori
本稿は,筆者がこれまで行ってきた,民族誌資料の制作者名遡及調査の結果をまとめたものである。対象としたのは,国立民族学博物館が所蔵する米国南西部先住民「ホピ(Hopi)製」木彫人形資料273 点で,比較のために広島県福山市の日本郷土玩具博物館所蔵資料(324 点)と愛知県犬山市の野外民族博物館リトルワールド所蔵資料(83 点)を用いた。木彫人形が作られ利用されるホピ社会における文化的文脈や歴史性を踏まえつつ,人形の底面に記載された制作者もしくは収集者のサインを既存の管理情報と照合しながら,資料受入時の資料情報の文書化(ドキュメンテーション)過程を分析し,制作者名の遡及を実施した。
呂, 政慧
本論文は、清朝末期の中国湖北省師範留学生が編纂した音楽教科書『音楽学』(一九〇五年)を取り上げ、近代における曲の越境をめぐる受容と変容の問題を論ずるものである。まず先行研究を参照しつつ、中国・日本・西洋それぞれにおける「唱歌」の概念とその変遷及び中日における唱歌教育の歴史を振り返ったうえ、『音楽学』の編纂者や出版情報の分析に基づき、本書が中日音楽交流史における重要な位置を占めることを明確にした。次に、『音楽学』所収の四十二曲の唱歌が参照した元歌を可能な限り検証し、『音楽学』の唱歌と日本、更に西洋の曲との受容関係を表で示した。最後に、日本の曲に新たに中国語の歌詞が付された唱歌を歌詞の変化の度合いにより「翻訳唱歌」と「翻案唱歌」に分類し、それぞれ元歌との比較分析を行った結果、日本人の民族精神を高揚させる日本の唱歌から中国の民族精神を高揚させる中国の唱歌に変貌をとげたことも指摘できた。
青柳, 明佳 篠原, 泰彦 AOYAGI, Sayaka SHINOHARA, Yasuhiko
Web上で検索できるデータベースは、様々な調査・研究を行い、論文を執筆するために、もはや必須のツールと言っても過言ではない。だが、データベースを構築・運用するにあたり、作成者の意図と利用者の目的や使用方法が必ずしも一致するとは限らない。また、一度稼働し始めたデータベースは、それを止めて作り直す、あるいは修正を行うことが難しい。そこで、本研究では、2019年10月時点で64.92%のシェアを誇るブラウザ「Google Chrome」の拡張機能を使用し、既存の人文科学系論文データベースであるCiNii Articles、NDL ONLINE、国文学論文目録データベース、日本語研究・日本語教育文献データベースを例に、既存のデータベースの運用を止めることなく、表示方法や操作方法を変えながら「データベースにおけるユーザビリティ」を検証していく。また、この方法を通して得られた「どのような点に留意してデータベースの構築・運営を行うべきか」の知見を提示したい。
井伊, 菜穂子 II, Nahoko
本稿は,人文科学論文で使用された接続詞を対象に,接続詞の出現位置と,接続詞が意味的に結びつける文脈の範囲である連接領域の広さとの関係を論じたものである。分析の結果,以下の三つのことが明らかになった。第一に,接続詞に共通する基本的な特徴として,接続詞が形式段落の冒頭で使用された場合のほうが,内部や末尾で使用された場合よりも,連接領域が広い傾向があること。第二に,前後を対称的に結びつける並列・対比の接続詞は,前後の連接領域が広い場合は段落冒頭で,連接領域が狭い場合は段落内部あるいは末尾で使用される傾向があり,出現位置による連接領域の広狭が二極化していること。第三に,前後が非対称的な構造になる順接・逆接・換言・結論の接続詞は,段落冒頭だけでなく段落末尾で使用された場合も前件の連接領域が広い傾向があることである。
Iida, Taku
本稿では,人類学の分野で別個に扱われることの多かったアフォーダンス理論(生態心理学,道具技法論)と関連性理論(記号論,コミュニケーション理論)を統合するための基礎的作業として,ふたつの理論の共通性を考察する。まず,両理論は互いに排除しあうものではない。アフォーダンス理論は記号現象を対象としにくいという制約があるが,関連性理論をはじめとするコミュニケーション理論は物理的環境のなかでの行為も記号現象も等しく対象としうる。そのいっぽう,いずれの理論も,主体をとりまく環境に散在するさまざまな情報を探索しながら選びだし,それをもとにして状況を認知する点で共通する。これは,脳内に精密な表象を構成することで状況を認知するという考えかたとは大きく隔たる。ふたつの理論は,その適用対象を違えながらも同じ立場に立っており,統合することも不可能ではないのである。このことを意識していれば,心理学者ならぬ門外漢の民族誌家でも,他者の「心理」にもとづきつつ,フィールドで直面することがらを記述できる可能性がある。本稿は,そうした「限界心理学」を始めるための準備作業である。
有坂, 道子 Arisaka, Michiko
地域蘭学の展開を考えるにあたり、これまでの在村蘭学研究において都市域を扱った研究が少なかった点をふまえ、本稿では、江戸時代中・後期に大坂で活躍した町人知識人である木村蒹葭堂を取り上げ、蘭学者との交友内容を明らかにすることを通じて、いわゆる「蘭学者」ではない蒹葭堂の、蘭学との関わり方について考察した。蒹葭堂は、造り酒屋を営む商人であったが、文人、蔵書家、文物収集家、本草・博物学者として著名で、きわめて広い交友関係を持っており、交遊の様子は彼の残した日記や取り交わされた書状から読みとることができる。蒹葭堂は当時の大坂を代表する知識人であるとともに、多方面にわたる活動の中に蘭学知識の影響が見られ、蘭学者や蘭学関係者とも交流している。ここでは、大槻玄沢と宇田川玄随が蒹葭堂に宛てて出した書状を素材に、彼らの間でどのような知識や情報が求められたのか、互いをどのように位置づけていたのかについて検討を加えた。大槻玄沢が蒹葭堂に宛てた書状からは、蒹葭堂が玄沢に西洋物産に関する情報やオランダ語を始めとする外国語の訳述を依頼していたこと、一方の玄沢は蒹葭堂の本草・博物学者としての知識を求めていたことが知られる。また、宇田川玄随の書状では、蒹葭堂の卓論や新説に対する期待が示され、蘭学者である彼らに有益な知識を与えうる人物として蒹葭堂を評価していたことが分かる。蒹葭堂は蘭学者としてではなく、博物学者としての求知心を持って蘭学的知識を積極的に吸収しようとし、蘭学者の側も、蒹葭堂のような蘭学に対する学問的好奇心を持つ人々から影響を受けていたと言える。それぞれが得意とする分野の知識を交換することで、知的刺激を受けていたのである。蒹葭堂と同様に、蘭学知識や情報を求める人々は多く存在しており、彼らを含んで蘭学の広がりを考えていく必要がある。
スルダノヴィッチ エリャヴェッツ, イレーナ 仁科, 喜久子 SRDANOVIĆ, ERJAVEC Irena NISHINA, Kikuko
近年コーパス構築と利用に関してのさまざまな研究が展開しているが,本稿ではコーパス検索ツールSketch Engineの日本語版作成と利用方法について報告する。標準的なコーパス検索ツールと異なる点は,コンコーダンス機能以外に語に付随する文法とコロケーション情報をWeb上の1頁にまとめる"Word Sketch"機能を持ち,シソーラス情報や意味的に類似する語の共通点と差異を示す"Thesaurus"と"Sketch Difference" 機能を含むことである。現在のSketch Engine 日本語版はJpWaCという4億語の大規模Webコーパスを有しており,他のコーパスを搭載することも可能である。本稿では,Sketch Engineによるコーパス利用の例として日本語学習辞書に焦点を当て,さらに日本語学研究,日本語教育などへの応用の可能性について述べる。
関沢, まゆみ Sekizawa, Mayumi
本稿は,近年の戦後民俗学の認識論批判を受けて,柳田國男が構想していた民俗学の基本であっ た民俗の変遷論への再注目から,柳田の提唱した比較研究法の活用の実践例を提出するものであ る。第一に,戦後の民俗学が民俗の変遷論を無視した点で柳田が構想した民俗学とは別の硬直化し たものとなったという岩本通弥の指摘の要点を再確認するとともに,第二に,岩本と福田アジオと の論争点の一つでもあった両墓制の分布をめぐる問題を明確化した。第三に,岩本が柳田の民俗の 変遷論への論及にとどまり,肝心の比較研究法の実践例を示すまでには至っていなかったのに対し て,本稿ではその柳田の比較研究法の実践例を,盆行事を例として具体的に提示し柳田の視点と方 法の有効性について論じた。その要点は以下のとおりである。(1)日本列島の広がりの上からみる と,先祖・新仏・餓鬼仏の三種類の霊魂の性格とそれらをまつる場所とを屋内外に明確に区別して まつるタイプ(第3 類型)が列島中央部の近畿地方に顕著にみられる,それらを区別しないで屋外 の棚などでまつるタイプ(第2 類型)が中国,四国,それに東海,関東などの中間地帯に多い,また, 区別せずにしかも墓地に行ってそこに棚を設けたり飲食するなどして死者や先祖の霊魂との交流を 行なうことを特徴とするタイプ(第1 類型)が東北,九州などの外縁部にみられる,という傾向性 を指摘できる。(2)第1 類型の習俗は,現代の民俗の分布の上からも古代の文献記録の情報からも, 古代の8 世紀から9 世紀の日本では各地に広くみられたことが推定できる。(3)第3 類型の習俗は, その後の京都を中心とする摂関貴族の觸穢思想の影響など霊魂観念の変遷と展開の結果生まれてき た新たな習俗と考えられる。(4)第3 類型と第2 類型の分布上の事実から,第3 類型の習俗に先行 して生じていたのが第2 類型の習俗であったと推定できる。(5)このように民俗情報を歴史情報と して読み解くための方法論の研磨によって,文献だけでは明らかにできない微細な生活文化の立体 的な変遷史を明らかにしていける可能性がある。
佐藤, 仁 森, 雅生 高田, 英一 小湊, 卓夫 Sato, Hitoshi Mori, Masao Takata, Eiichi Kominato, Takuo
本稿の目的は、大学評価を通して個々の大学は情報をどのように共有化し、活用してきたのかという点に関し、九州大学大学評価情報室の取組を分析し、その到達点および今後の展望を明らかにすることにある。評価情報室では、大学評価への対応を契機に、教員の教育研究等に関する情報データベースの開発、そして組織情報としてのマネジメント情報の収集を行ってきた。これらの活動を通して収集されたデータや分析された情報を大学活動の改善や意思決定に有効に活用するためにも、情報の共有と立場を超えたコミュニケーションの促進によるデータニーズの明確化とそのための体制作りが必要である。
福嶋, 秩子 FUKUSHIMA, Chitsuko
アジアとヨーロッパの言語地理学者による各地の言語地図作成状況と活用方法についての国際シンポジウムでの発表をもとに,世界の言語地理学の現状と課題を概括する。まず,言語地図作成は,方言境界線の画定のため,あるいは地図の分布から歴史を読み取るために行われてきた。さらに言語学の実験や訓練の場という性格もある。地図化にあたり,等語線をひいて境界を示すこともできるが,言語の推移を示すには,記号地図が有用である。また,伝統方言の衰退もあって社会言語学との融合が起き,日本ではグロットグラムのような新しい調査法が生まれた。情報技術の導入により,言語地図作成のためのデータは言語データベースあるいは言語コーパスという性格が強まった。コンピュータを利用した言語地図の作成には,1.電子データ化,2.一定の基準によるデータの選択・地図化,3.他のデータとの比較・総合・重ね合わせ・関連付け,4.言語地図の発表・公開,という4段階がある。最後に,言語地図作成の課題は,言語データの共有・統合,そして成果の公開である。
石黒, 圭
日本語教育の目的が学習者による日本語運用力の獲得にあり、日本語教育学の目的がその獲得を支援する日本語習得支援研究であると考えると、日本語教育学では、学習者が日本語という言語をどのように身につけていくのか、その習得過程を記述・分析する基礎資料、すなわち学習者コーパスの構築が必要になる。ところが、新型コロナウィルス感染症の世界的流行により、JFL 環境で学ぶ海外の学習者のもとを訪れての現地調査も、JSL 環境で学ぶ国内の留学生との対面調査も困難になってしまった。そこで、本稿では、現地調査や対面調査を行うかわりに、オンライン環境を活用して収集する作文コーパス、会話コーパス、ゼミ談話コーパスの収集法を紹介した。たとえコロナが終息したとしても、パンデミックの状況下で急速に発展したオンライン・コミュニケーションが今後衰退化することは考えにくく、むしろポストコロナ時代にあっては、オンライン・コミュニケーションにおける学習者の日本語運用のデータ蓄積が重要になる。その意味でも、本稿で示したようなオンライン環境を活用した調査法の試行錯誤と研究者間での情報共有が、日本語教育学の発展のカギとなると見込まれる。
北川, 浩之
日本文化は日本の自然や社会と親密に結びついている。日本文化をより深く理解するには、その歴史的な変遷を明らかにする必要がある。そのためには正確な時間目盛が必要不可欠である。さらにそれは、国際的な比較から日本文化の研究を進める場合、世界的に認知された共通の時間目盛である必要がある。そのような時間目盛の一つに「炭素14年代」がある。炭素14年代は考古学、歴史学、人類学、第四紀学、地質学などの日本文化に深く関係する研究分野に有益な情報を与えてきた。これらの研究分野に炭素14年代を適用する際、年代測定に用いることができる試料の量が限られ、試料の量の不足から年代測定できないことが往々にある。したがって、少量試料の炭素14年代測定法の確立が望まれている。 最近、少量試料の炭素14年代測定に適した加速器質量分析計を用いた新しい炭素14年代測定法が考案され、従来の方法の1/1000以下の試料においても精度良い年代決定が可能となった。本稿では、この方法を用いて行なった実験の結果をもとに、少量試料の炭素14年代測定に関係する諸問題について検討する。
安江, 範泰 YASUE, Norihiro
本論文は、国重要文化財「京都府行政文書」を検討素材として、地方自治体が残す歴史的行政文書の史料学的な分析方法を提起する。 まず、京都府行政文書を個別文書別・時代別・事務別に分節化し、観点ごとにその構成を把握した。次いで、各府県が保有する同様の文書群との比較を通じて、明治期文書や農林・商工関係文書の構成比が小さい、残存する郡役所文書が少ない、昭和戦前期の文書の残存状況が良好、といった特徴が照射された。その上で、明治から太平洋戦争敗戦に至る京都府における行政活動や行政文書の蓄積・廃棄の歴史的経験を参照すると、以上にみた、京都府行政文書の構成上の諸特徴が形成される経緯を特定することがある程度まで可能であることが判明した。また各府県の事例の比較から、文書管理上の経験の共通性と差異、そしてそれが各府県の行政文書の現状にどのような影響を与えたのかも示唆された。 こうした検討事例を踏まえ、文書の内容構成の分析結果、文書の伝来に関する歴史的情報、文書間の比較から判明する情報を有機的かつ効果的に組み合わせるという方法をとることが、当該歴史的行政文書に対する史料学的理解を深め、従来の見解を乗り越える上で必要であることを問題提起する。
相田, 満
哲学用語「存在論」に由来する「オントロジ」は、情報学においては「概念間の関係の明確な定義の集まり」として、それを実装する「トピック・マップ」とともに、情報リソースから独立した上位層に位置付けられ、情報を意味的に組織化、検索、ナビゲートするための新しいパラダイムとして注目を集めている。しかしこれはまた、有史以来、日本や中国で幾度も編纂された、類概念(分類概念語曇)によってまとめられた古典的な辞書・辞典(=類書)が、きわめて継承性の強い、良質な「オントロジ(知識概念木)」の宝庫となっているように、伝統的な発想にのっとったものでもある。古典的類書に使用される分類概念語錘の1/4は、現代日本でも使用され、自然景物・年中行事・人事関係の語彙に集中している。そこで、本研究では、我々研究グループが蓄積する40タイトル約10万件の、このような特性を持つ古典的な典籍に取材したオントロジを整理・分析するための「分析型データベースシステム」を構築することにより、次の3点の目標を設定し、古典と現代とを文化的・理念的に接合することに取り組みたい。
相田, 満
哲学用語「存在論」に由来する「オントロジ」は、情報学においては「概念間の関係の明確な定義の集まり」として、それを実装する「トピック・マップ」とともに、情報リソースから独立した上位層に位置付けられ、情報を意味的に組織化、検索、ナビゲートするための新しいパラダイムとして注目を集めている。しかしこれはまた、有史以来、日本や中国で幾度も編纂された、類概念(分類概念語曇)によってまとめられた古典的な辞書・辞典(=類書)が、きわめて継承性の強い、良質な「オントロジ(知識概念木)」の宝庫となっているように、伝統的な発想にのっとったものでもある。古典的類書に使用される分類概念語錘の1/4は、現代日本でも使用され、自然景物・年中行事・人事関係の語彙に集中している。そこで、本研究では、我々研究グループが蓄積する40タイトル約10万件の、このような特性を持つ古典的な典籍に取材したオントロジを整理・分析するための「分析型データベースシステム」を構築することにより、次の3点の目標を設定し、古典と現代とを文化的・理念的に接合することに取り組みたい。
相田, 満
哲学用語「存在論」に由来する「オントロジ」は、情報学においては「概念間の関係の明確な定義の集まり」として、それを実装する「トピック・マップ」とともに、情報リソースから独立した上位層に位置付けられ、情報を意味的に組織化、検索、ナビゲートするための新しいパラダイムとして注目を集めている。しかしこれはまた、有史以来、日本や中国で幾度も編纂された、類概念(分類概念語曇)によってまとめられた古典的な辞書・辞典(=類書)が、きわめて継承性の強い、良質な「オントロジ(知識概念木)」の宝庫となっているように、伝統的な発想にのっとったものでもある。古典的類書に使用される分類概念語錘の1/4は、現代日本でも使用され、自然景物・年中行事・人事関係の語彙に集中している。そこで、本研究では、我々研究グループが蓄積する40タイトル約10万件の、このような特性を持つ古典的な典籍に取材したオントロジを整理・分析するための「分析型データベースシステム」を構築することにより、次の3点の目標を設定し、古典と現代とを文化的・理念的に接合することに取り組みたい。
斎藤, 達哉 新野, 直哉 SAITO, Tatsuya NIINO, Naoya
1985~2000年の『国語年鑑』の雑誌掲載文献の目録情報にもとづいて,分野別の文献数の動向調査を行った。雑誌掲載の文献の採録数は年鑑のデータベース化にともなって1991年に大きく減少したが,1994年以降は緩やかな増加傾向にある。その状況下で,国語学にとっての「中核的領域」の文献数は,近年,横這い状態になっている。そのなかでも,[文法]だけは増加している。いっぽう,国語学にとっての「関連領域」の文献数は,近年,緩やかな増加の傾向にある。とくに,[国語教育]が伸びを示している。また,[コミュニケーション][言語学]には「中核的領域」に含まれる内容の文献も多く,文献数においても上位を維持している。「関連領域」のなかでの大分野となっている[国語教育][コミュニケーション][言語学]については,『国語年鑑』で,それぞれの分野の下位分類を増補・改訂するなど,近年の研究動向に対応が必要な時期に来ているのではないかと思われる。
小島, 美子 Kojima, Tomiko
日本音楽の起源を論じる場合に,他分野では深い関係が指摘されているツングース系諸民族についてその音楽を検討してみなければならない。しかしこれまではモンゴルの音楽についての情報は比較的多かったが,ツングース系諸民族の音楽については,情報がきわめて乏しかった。そのため私は満族文化研究会の共同研究「満族文化の基礎的資料に関する緊急調査研究―とくに民俗学と歴史学の領域において―」(トヨタ財団の研究助成による)に加わり,1990年2月に満族の音楽について調査を行った。本稿はその調査の成果に基づく研究報告である。この調査では調査地が北京に限定されていたため,満族とエヴェンキ族の音楽について多少の情報を集めることができたに過ぎず,とりあえずこの2つの民族の音楽に,参考資料として一部モンゴルの音楽の情報を加えて報告する。まず満族の音楽については,主としてビデオ資料によってシャマンの音楽を調査した。ツングースの文化にとってはシャマニズムは,きわめて重要な位置を占める。シャマンが用いる1枚皮の太鼓,ベルトなどにつけている多くの鈴などは,他のツングース系諸民族のシャマンと共通しており,また日本の少数民族であるアイヌ・ギリヤーク・オロッコのシャマンとも共通である。そしてこれは日本古代の有力なシャマンや朝鮮韓国の現在につながるシャマンとは明らかに別系である。また満族シャマンの歌は,テトラコード支配の強い民謡音階によっており,日本と共通するところが多い。エヴェンキ族の民謡について,現段階ではもっとも信頼のおける民謡集で調べたところ,エヴェンキ民謡は,モンゴル民謡と同じく拍節的タイプと無拍のタイプに分かれるが,後者は15%程度で意外に少ない。前者も2拍子系の曲と3拍子系の曲,変拍子や途中で拍子の変わるものが,それぞれ大体25%程度を占めており,韓国朝鮮の民謡のリズムに近い。また音階は民謡音階と律音階と呂音階にほぼ3等分されるが,テトラコードの支配はそれほど強くなく,むしろモンゴル民謡の方が日本民謡に近い。またメロディの装飾的な動きは,エヴェンキ族の民謡の方が日本民謡に近い。
池田, 理恵子 辻野, 都喜江
国立国語研究所では,創立直後の1949年から現在にいたるまで,ことばに関連する内容の新聞記事を収集し,『新開所載国語関係記事切抜集』(『切抜集』)として保存している(総数約11万件)。『切抜集』は戦後の日本語及び日本人の言語生活の変遷の一端を物語る貴重な資料であるが,収録記事数が多い上,体系的な記事目録がないため,そのままの形では研究資料として活用することは困難であった。国立国語研究所情報資料研究部では,この蓄積記事について,掲載日,掲載紙名,見出し等を収録し,記事検索に有用な情報を付加した『国立国語研究所新聞記事データベース』(『データベース』)を作成してきた。現在までに,蓄積記事のすべてについて,記事検索情報の付与がほぼ完了した。本報告では,『データベース』について,データの概要を示し,次いで,過去約50年を対象として,年別件数と分野別件数の推移,記事の執筆者の属性別件数について概観する。戦後の日本人のことばに対する関心のあり方や,日本語あるいはことばに対する価値観を探る社会言語学的な史的研究に対して,研究の視点や手がかりを提示する。
加藤, 祥 KATO, Sachi
テキストに記された対象物を読み手が適切に認識するとき,どのような情報がどのような順序で提示されているのか。本稿は,実験協力者に順序を変えて対象物の特徴的情報を提示し,さまざまな条件でテキストに記述された対象物を同定する実験を行った。動物5種類計600通りのテキストを調査対象とし,クラウドソーシングを用いてのべ6,000人の実験協力者を得た。この実験の結果から,同じ情報の提示順序が異なることで読み手の対象物同定率が変化する場合,どのような情報が読み手の認識を促進もしくは阻害するのか調査した。また,情報増加と正答率の関係,誤答に至った情報提示順の分析を行うことで,提示した情報のカテゴリとプロトタイプが認識に及ぼす影響についても考察した。これらに基づき,テキストから対象物を認識するにあたって有用な情報とその効果的な提示順を提案する。
山下, 則子 YAMASHITA, Noriko
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01878)の助成を受けたものである。
阿尾, あすか AO, Asuka
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01883)の助成を受けたものである。
石井, 倫子 ISHI, Tomoko
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01884)の助成を受けたものである。
小山, 順子 KOYAMA, Junko
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01875)の助成を受けたものである。
小山, 順子 KOYAMA, Junko
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01886)の助成を受けたものである。
山中, 延之 YAMANAKA, Nobuyuki
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01885)の助成を受けたものである。
福田, 智子 FUKUDA, Tomoko
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01880)の助成を受けたものである。
平野, 多恵 HIRANO, Tae
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01879)の助成を受けたものである。
入口, 敦志 IRIGUCHI, Atsushi
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01877)の助成を受けたものである。
小林, 一彦 KOBAYASHI, Kazuhiko
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01882)の助成を受けたものである。
斎藤, 秀紀 SAITO, Hidenori
本稿は,国立国語研究所における機械辞書の歴史的な背景,各種漢宇調査情報と市販の漢和辞書情報の結合によって期待できる利用上の相乗効果,機械辞書のデータベース化と項目内容(見出し漢字:9731字,付加情報:40項目)の検索方法について述べた。また,データベース化された漢宇情報は,調査情報の履歴管理,蓄積デーに対する索引機能,共通インタフェースの多様化と情報接点の拡張,コンピュータ処理費用の軽減にも有効であることを示した。その他,JIS 2バイト系の拡張計画に対し,現在すでに拡張漢字として使用している漢字コードとの間に問題が生じる可能性を指摘した。同様に,市販漢和辞書のCD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory)化は,日本語の外字処理の軽減が期待される反面,字形の相違が情報交換上の問題を広げることについてもふれた。
前川, 喜久雄
話しことばは書きことばよりも多くの種類の情報を伝達している.音声は論理的な言語情報の他に感性的なパラ言語情報を伝達している.この発表では標準的な日本語を対象として,代表的なパラ言語情報がどのような音声的特徴によって伝達されているかについて報告し,あわせてパラ言語的情報がどの程度正確に伝わるかという問題にも触れる。3名の話し手の資料を分析したところ,ピッチ・発話全体の持続時間長・発話の構成要素の持続時間長・母音の音質・声質のすべてにパラ言語情報と関連した顕著な変動が観察されることが判明した.分析した資料の一部を知覚実験にかけた結果,今回分析した話し手に関する限り話し手が意図したパラ言語情報は80%以上の正確さで知覚されることがわかった。
須田, 佳実 SUDA, Yoshimi
本稿は、沖縄県公文書館に所蔵されている『沖縄県史9巻沖縄戦記録1』関連資料群を事例に、オーラルヒストリー・アーカイブズ構築の意義と在り方を論じるものである。アーカイブズ学におけるオーラルヒストリーは、インタビューの場だけでなく、構想段階からインタビューの実地、そして編集の過程を経て刊行されるまでの一連の流れを指し、その過程で作成された記録をコンテクスト情報として残す必要性が訴えられてきた。しかし、そうした議論には現場とのずれがあった。そこで本稿では、コンテクスト情報として作成・捕捉されるべきと言われるのはどのような記録を指しているのか先行研究から概観し、そうした記録がもつ意味を『沖縄県史9巻沖縄戦記録1』関連資料群の中身と照合しながら分析を行った。『沖縄県史9巻沖縄戦記録1』は、現在のようなオーラルヒストリーの価値や方法論が確立する前に行われたオーラルヒストリーの嚆矢として、その画期性や歴史的意義が沖縄現代史やオーラルヒストリー、そして音声記録の保存と公開という点からアーカイブズ学においても注目されてきた。しかし、作成された資料群は、偶発的に残されたが故の課題を抱えていた。そうした課題に対し、不在の記録や語り手の主体という視点からもアーカイブズ構築を考えていくべきだという問題提起を行った。
安永, 尚志 YASUNAGA, Hisashi
日本古典文学作品の校訂本による本文データベースを作成している。本文データベースは全文(フルテキスト)をデータベースとして定義するものである。全文には校訂に伴う各種情報が付加される。また、作品はそれ自体を記述する本文情報に加え、多くの属性情報を持ち、かつ作品特有の構造を持つ。文学研究には、本文とそれに関わる種々の情報が同時に参照出来るデータベースが必要である。作品本文の全文を単にコンピュータに蓄積しただけではあまり役立たない。全文と各種付属情報の総合的なデータベースを校訂本文データベースと言う。即ち、校訂本文データベースでは、データベースを構成する各種実体の記述とそれらの関連が表現できなければならない。研究者が必要とする多様な活用に応え得るデータモデルが必要である。また、システムは実現可能でなければならない。一方、日本語処理可能なパソコン等の普及により、国文学者自らがデータを作成する環境が整い始め、専門領域の本文データ作成が進められてきている。既に相当の蓄積がなされてきている。しかしながら、おおむねシステム、文字コード、外字処理、データの形式や構造等に関しての仕様が研究者個人に依存し,蓄積した資源の流通を意識していない。従って、データ入力の共通基盤の確立と適切な標準化が必要である。これをデータ記述文法または言語と呼んでいる。さらに、データを流通するためには異なったシステム間での通信規則(プロトコル)が必要である。国文学研究資料館はこの様な標準化の一端を担う機関であるので、ここでの本文データベースはデータ流通を前提としたデータベースでなければならない。また、本文データベースは国文学研究を推進するための国文学研究支援システムの中核を成すものと位置づけている(1)~(3)。本稿では国文学研究資料館における本文データベースの概要を述べ、データ記述文法について解説する。
宮田, 公佳 Miyata, Kimiyoshi
博物館等に収蔵されている資料のみならず,撮影された資料画像あるいは調査研究の成果である報告書等もまた情報資源であり,これらの情報資源から抽出された情報が展示や新たな研究へと活用されている。情報資源を有効活用するためには,情報の抽出,処理,利用に関する手段が必要であり,画像情報や文字情報を個別対象とした先行研究が行われている。画像と文字は情報種別としては異なるが,果たすべき役割には共通点が存在するため,両者の特徴を融合することで相乗効果を発揮し,情報資源をより有効活用することができると考えられる。膨大な情報を有効活用する手段として,データベースが広く用いられている。一般的に,データベースは検索語の入力によって検索が行われるため,検索語に関する事前知識が必要となる。博物館等が提供するデータベースには専門的な用語が多く入力されているため,必然的に利用者には専門知識が要求されることになり,結果として専門家のためのデータベースとなりやすい。そこで本研究では,画像情報と文字情報とを融合させることで,専門的な事前知識の有無に影響を受けにくい情報活用手段としてのデータベース構築について議論する。対象資料は洛中洛外図屏風歴博甲本であり,描かれている人物に関して抽出された文字情報と,デジタル化された資料画像とをデータベースという形式で融合する手法を検討する。博物館展示では,資料解説等の役割を担うデジタルコンテンツが運用されることがあるが,本研究ではデータベースをデジタルコンテンツ化することで,利用者に対してデータベースであることを意識させないインタフェイス設計についても検討を行った。本論文における対象資料は一点のみであるが,情報活用手段を入力,処理,出力の三要素に分解することで一般化を試みており,類似資料の活用においても本論文におけるデータベース構築手法は応用可能である。
Yamanaka, Yuriko
国立民族学博物館では開館30 年を機に,「国立民族学博物館における展示基本構想2007」に基づいて,本館展示の大幅なリニューアル(新構築)が10 年間かけて行われ,2017 年3 月に完了した。新しい展示構想では,モノが作りだされた文化的文脈を提示することの重要性と,国内外に開かれた「フォーラム」としての博物館の機能が説かれた。この構想のもとに展示場における解説メディアが増やされ,さらにその内容を非日本語話者にも伝えるため基本的な情報の日英併記が始まった。 筆者は,全体のデザインや表現・用語にある程度の統一感を保たせるために設けられた「新構築総括チーム」の一員として,主に解説パネルやキャプションの内容(和文・英文)の監修にたずさわってきた。本稿では比較文学という筆者の専門領域から,展示場におけるモノの名付けの過程と多言語化の実践を翻訳理論に照らし合わせて分析し,文学作品などの一方向的な翻訳とは異なる,民族学博物館という場における多言語表記特有の問題点と,物質文化を「翻訳」するという行為の多重性と多方向性を明らかにする。
北村, 啓子 KITAMURA, Keiko
古典資料(歴史的な研究資料)のデジタル画像を展示する場合の資料の形状・見せ方などから錦絵・巻子・書写本・検索のタイプに分類し、それぞれの共通する見せ方を分析して、汎用性の高いデジタル展示のソフトウェア開発を行った。これにより、毎回新たに開発することなく、展示原本を撮影したデジタル画像(・翻刻データ・調査研究データなど)を準備するだけでデジタル展示が完成することを可能にした。これは展示企画者である人文系研究者やキュレータなどコンピュータの非専門家が、プログラミングすることなく直接デジタル展示を作成することができることを意味する。これらの汎用的なソフトウェアを使って、国文学研究資料館の展示において、これまで作成してきたデジタル展示の紹介を行う。最後に、開発したデジタル展示の評価と、最近進化が著しいタブレット環境にフォーカスを当て、今後のテーマについて述べる。
宮田, 公佳 松田, 政行 Miyata, Kimiyoshi Matsuda, Masayuki
博物館は文化財及び歴史資料のみならず,写真,書籍,調査研究報告書,論文等に至るまで,多種多様な資料を有している。後世に永く伝えられるべきこれらの資料は,それ自体が情報であるだけでなく,新たな情報を獲得するための情報資源である。近年では博物館情報資源の多くがデジタル化されており,その有効活用のためには情報機器や各種技術が必要となっている。高性能かつ安価な情報機器と高度な関連技術を用いることによって,従来では実現困難であった博物館情報資源の活用方法が見出されている一方で,技術的に可能なことが適法であるとは限らない状況が生じうる。したがって,博物館情報資源を活用するためには,技術的な課題と法律的な対処方法との両立が求められる。そこで本論文では,両者を比較対比することで相互の関連性について理解を深め,さらに博物館情報資源を機能的に活用する手法について議論する。本論文では,画像技術と著作権法に着目し,博物館情報資源の活用における具体例を提示しながら議論を進める。画像情報の果たす役割は多岐に及び,その実現手段は多様となるが,入力,処理,出力という三要素と,その連携である保存・活用の段階に分類することで情報資源の活用手段を構造化することは有用である。デジタル情報の活用においてはコピーの作製が重要であり,コピーと改変に関し著作者の権利として定めている著作権法の理解が不可欠である。博物館情報資源活用の具体例を通して,技術と著作権に関する個別問題に対処するだけでなく,技術と著作権法の構造的理解を踏まえた総合的判断力の醸成に寄与するための考察を行う。
加藤, 聖文 KATO, KIYOFUMI
個人情報保護法施行後、各地の現場では個人情報の明確な定義もなされないまま過剰反応ともいえる非開示が行われている。本稿では、岩手県・佐賀県などでの事例を挙げつつ、国の法と地方の条例との大きな相違点とその問題点を検証し、個人情報に対する過剰反応が通常業務に支障を与えることを明らかにする。また、国民に対する説明責任と健全な市民社会育成の観点から個人情報公開の必要性を論じ、最後にアーキビストとして個人情報といかに向き合うべきかについて問題提起を行う。
久保木, 秀夫 KUBOKI, Hideo
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01876)の助成を受けたものである。
富士ゼロックス京都, CSRグループ・文化推進室 Fuji Xerox Kyoto.Co,Ltd., CSR group, Cultural Promotion Office
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01881)の助成を受けたものである。
稲賀, 繁美
本稿は、一八世紀から一九世紀前半を中心として、日本にどのような西洋の知識が書物を介してもたらされ、それがどのように利用されたのかを、簡単に振り返ることを目的とする。眼鏡絵と浮絵の成立とその背景、蘭学の興隆と視覚世界の変貌、解剖学と光学装置が知識に及ぼした影響、腐蝕銅版画の創世とその伝播、浮世絵への舶来知識の応用と、その成果、とりわけそこに発生した原典の換骨奪胎の有様を、先行研究を参照しつつ具体的に検討する。視覚情報と視覚形式とが、狭い意味の美術の枠を越えて、いかに複数の文化の間を往還したのか。こうした観点からは、従来の美術史記述とは異なった文化史を構想することができるだろう。
北村, 啓子 KITAMURA, Keiko
国文学研究の分野でも、インターネットでの情報発信が急激に増加している。特に電子化された翻刻テキストや原本の影像データなどデジタルアーカイブは研究に利用できる価値ある情報を容易に入手、閲覧することのできる有力な手段である。しかし、インターネット上の膨大な情報の中から必用な情報を見つけ出すことは容易ではないことは誰しも経験しているであろう。インターネット検索システムの現状を報告し、国文学のデジタルアーカイブの所在情報を提供する手段を考案し、その実験の報告をする。また国文学研究者の利用に供するまでの今後の計画を記しておく。
伝, 康晴 小木曽, 智信 小椋, 秀樹 山田, 篤 峯松, 信明 内元, 清貴 小磯, 花絵 DEN, Yasuharu OGISO, Toshinobu OGURA, Hideki YAMADA, Atsushi MINEMATSU, Nobuaki UCHIMOTO, Kiyotaka KOISO, Hanae
コーパス日本語学への応用を指向した形態素解析用電子化辞書UniDicを開発した。大規模コーパスに対する形態論情報付与作業には,計算機を用いた形態素解析システムの利用が不可欠であるが,既存の形態素解析システム用辞書には,コーパス日本語学への応用を考える上でさまざまな不都合がある。1つは,単位の認定がある場合には長く,ある場合には短いといった不揃いがあることであり,もう1つは,異表記や異形態に対して同一の見出しが与えられないということである。言語研究で重要な要件となる,このような単位の斉一性や見出しの同一性への対処といったことを中心に,本電子化辞書の設計方針とそれを実装した辞書データベースシステムについて述べる。さらに,この設計の有用性を示すため,表記や語形の変異に関するコーパス分析の事例を紹介する。
森, 大毅 MORI, Hiroki
Fujisaki (1996)は,音声に含まれる情報を言語的情報・パラ言語的情報・非言語的情報の3つに分類した。藤崎の定義では,転記可能性と話者の意識的な制御の有無が分類の要になっている。このため,話者の意識的な制御の有無が明確でない現象に関しては分類上の問題を生ずる可能性がある。特に,感情の扱いはしばしば問題となっていた。本研究では音声によるコミュニケーションの図式を整理し,話し手により意識的に制御された感情表出を適切に位置付けるために,メッセージ性をもって生成された感情表出と不随意的に生成された感情表出とを区別した。また,話者の言語的メッセージおよびパラ言語的メッセージと,聞き手が得る言語的情報およびパラ言語的情報とを区別し,それらの違いを明確に述べた。
西川, 賢哉
国立国語研究所で構築を進めている『日本語日常会話コーパス』(CEJC)のアノテーション作業(書き起こし・短単位情報付与作業)を支援するために,無償の音声分析ソフトウェアPraatを利用したツールをいくつか開発した:(i)[Praat起動]必要な情報(ファイル名・時刻情報等)が記されたEmacsバッファ,あるいは形態論情報修正ツール「大納言」の検索結果画面からPraatを起動し,転記情報とともに当該箇所を表示するツール,(ii)[転記保存]Praat TextGridEditor上で変更した転記を,CEJC転記ファイル(タブ区切り形式)に上書き保存するツール,(iii)[メモ]TextGridEdior上で選択された区間にある転記情報を,その他必要な情報(ファイル名・時刻情報等)とともにクリップボートにコピーするツール,(iv)[別音声聴取]当該会話に参加している別の話者の音声ファイルを追加で開くツール,など。これらのツールを用いることで,音声聴取をはじめとする,話し言葉コーパス構築に不可欠な作業が簡単な操作で行なえるようになり,作業の効率化および精度の向上が期待できる。
森, 大毅 藤本, 雅子 浅井, 拓也 前川, 喜久雄 FUJIMOTO, Masako ASAI, Takuya
喉頭音源由来の声質の違いは,話者のパラ言語メッセージならびに心的・認知的状態を伝えるシグナルであり,自発音声コーパスに求められる重要な情報であるが,そのアノテーションは音声学の専門家でなければ難しくコストが大きい。本研究は,機械学習による声質の自動アノテーションの可能性を探ることを目的とする。本研究では,非流暢性にも関連する従来よく用いられてきた発見的な音響特徴量に加え,近年音声からの感情認識で広く用いられるようになった大規模な特徴量セットの効果を検証した結果を報告する。
北原, 糸子 Kitahara, Itoko
本稿は,災害情報を近世社会の情報構造のなかに位置づけるための基礎的作業の一環である。先に,災害によって発生した地変を書き留めた絵図を中心に,絵図情報の発信主体,受け手などによって,領主支配層,領内村落支配層,個人,かわら版などの出版業者の四カテゴリーに分け,災害絵図情報の社会的機能を分析した(「災害絵図研究試論」『国立歴史民俗博物館研究報告』81集,1999)。前稿におけるこの情報の四カテゴリーを踏まえ,本論では1840年代後半から50年代にかけて頻発する巨大災害の先駆けを成した善光寺地震の災害情報全般の分析をまず試み,各所に書留として残る資料の大半が被災地域の支配者から幕府に届けられる被害届で占められていることを検証した。また,被災地情報を正規のルートに載せ,広く販売しようとする地震摺物の出版には,それに関わる一群の地方支配層と都市における儒学者や国学者などの知的交流を踏まえたネットワークの存在が不可欠であったことが明らかになった。さらに,被災地を遠く離れた都市では,災害情報に限らず珍事,その他事件を伝える情報を積極的に入手し回覧し合う町人,武士などの身分的制約から解き放たれた同好グループが存在し,彼らの間では善光寺地震の情報が個人的興味に基づく差異を含みながらも,大半が支配層間で交わされる被災届などで占められていたことを明らかにした。善光寺地震,安政元年(1854)地震津波,安政二年(1855)江戸地震では,災害情報は量的にも質的にもピークに達するが,これに重なってペリー来航後の風説留が全国的に展開する。災害情報は,幕末に向かって高まる階層横断的な政治的関心の昂揚,拡大,それらを書き留める風説留の膨大な蓄積の先駆けを成したとすることができる。
加藤, 祥 浅原, 正幸
我々は『現代日本語書き言葉均衡コーパス』の書籍サンプルに含まれるすべての小説サンプルについて,小説の内容に関するジャンルや舞台設定等の分類情報(「推理」「SF」「アドベンチャー」「ロマンス」など)を付与した。分類情報の策定にあたっては,小説サンプルの取得された各書籍について,書店や出版社の分類情報をはじめ,小説の内容を表すと複数作業者が判断した特徴語句を広く収集し,結果を整理した。各小説サンプルには様々な分類項目を重複して付与した。本稿の作業により,これまで分類されていなかった小説の分類情報が付与された。新たに付与された分類情報により,分類別の語彙分布や文体特徴が確認できるようになった。本稿では,作業手順と情報付与結果を報告する。
宮内, 拓也 浅原, 正幸 中川, 奈津子 加藤, 祥 MIYAUCHI, Takuya ASAHARA, Masayuki NAKAGAWA, Natsuko KATO, Sachi
本稿では,『現代日本語書き言葉均衡コーパス』のテキスト(新聞(PN)コアデータ16サンプル)内の名詞句に対し,情報構造に関係する文法情報のラベル(情報状態,共有性,定性,特定性,有生性,有情性,動作主性)をアノテーションした結果を報告する。特に,本稿ではアノテーションの概要と基礎統計について述べる。ラベル間の対応をKappa値で評価した結果,先行研究で既にアノテーションされていた共参照情報を基にした情報状態と定性・特定性の間には中程度の一致(0.41以上)が見られたのに対し,今回新たに付与した共有性と定性・特定性の間にはほとんど完璧な一致(0.81以上)が見られた。冠詞選択に大きな影響を与える定性・特定性のアノテーションは,定性・特定性が話し手側により踏み込んだ概念であることから複雑で難度が高いため,他の文法情報で定性・特定性を推定する方がより容易であると考えられる。評価の結果は,定性・特定性の推定には,共参照情報を基にした情報状態だけでは十分でなく,聞き手/読み手の観点を考慮した共有性が重要であることを意味している。また,日本語では助詞「は」と「が」の使い分けについて,情報構造との関連が指摘されているが,付属語主辞とのラベルの関係を見ると,「が」「を」「に」は新情報が多く,「は」は若干旧情報が多いこと,「は」「の」に定性・特定のものが多く,「を」に不定・不特定のものが多いことがわかった。
光谷, 拓実 Mitsutani, Takumi
わが国では,歴史学研究者の多くが長年にわたって待ち望んでいた年輪年代法が1985年に奈良文化財研究所によって実用化された。年輪年代法に適用できる主要樹種はヒノキ,スギ,コウヤマキ,ヒバの4樹種である。年代を割り出す際に準備されている暦年標準パターンは,ヒノキが紀元前912年まで,スギが紀元前1313年までのものが作成されており,各種の木質古文化財の年代測定に威力を発揮している。考古学においては,1996年に,大阪府池上曽根遺跡の大型建物に使われていた柱根の伐採年代が紀元前52年と判明し,従来の年代観より100年古いことから考古学研究者に大きな衝撃を与えた。これ以降も,弥生前期・中期の広島県黄幡1号遺跡や古墳中期の京都府宇治市街遺跡などからの出土木材の年輪年代を明らかにし,弥生~古墳時代にかけての土器編年に貴重な年代情報を提供した。また,古建築については法隆寺金堂,五重塔,中門をはじめ,唐招提寺金堂,正倉院正倉などに応用し,成果を確実なものにしてきた。とくに正倉院正倉部材の年輪年代調査は,長年の論争に終止符を打つ結果となり,その成果は大きい。
小林, 忠雄 Kobayashi, Tadao
近代以降の都市には都市の環境がつくり出した新たな民俗がある。これをとりあえず「都市の生活技術伝承」と仮称すると,例えば金沢などではワリイケ(割り井戸)とかタイナイクグリといった事例がある。都市民俗学が問題とするのは,都市の住民の移動や稼業の盛衰が著しいために,ムラ社会と違って伝承母体が分立しているために年中行事や民間信仰,俗信といった民俗が個々に展開している。従って,都市が経済の修羅場で,市場の論理を貫く所であるとするならば,人より先んじた情報や世間話が重要となる。1970年代からE.F.シューマッハが唱えた,近代の巨大技術では捉えきれない「もう一つの技術」がヨーロッパのコンセプトを支配した。これを都市民俗学にあてはめると,地方都市における独自のライフスタイル(生活技術)の在り方が模索されるであろう。単なる町起こしには問題があるが,例えば,かつて各地で生活の合理化によって失われた町名を復活しようという運動においても,町名を科学する姿勢がなければ問題であり,そこには民俗の変容をさぐる意味での都市民俗学の在り方が考えられる。最近の新聞情報によると,都市や近郊農村の家族事件として親の子殺し,登校拒否,家庭内暴力等々があげられるが,そこには俗信や新興宗教のトラブルによる原因のものが数多くみられる。さらに,老人の「ぽっくり死」願望などの流行現象においても,その背景には巨大技術社会への混乱と,社会の抑圧に抗しきれない弱者の精神的破綻,あるいは共同体社会の崩壊といった要因が見え隠れしているように思える。柳田國男が意図した経世済民の学として,今日の民俗学がどれほど役にたっているかは疑問だが,都市が人工的になればなるほど,人々はよりナチュラルな環境や生活リズムを求めるもので,そのような社会的要求に,常に民俗学は答えるべきであろう。
岡﨑, 威生
本稿では、情報科学演習の位置付けを紹介するとともに、共通教育におけるこれからの情報教育の果たすべき役割と実施について論じる。
安達, 文夫 鈴木, 卓治 宮田, 公佳 Adachi, Fumio Suzuki, Takuji Miyata, Kimiyoshi
国立歴史民俗博物館では,日本の歴史と文化に関する研究の成果を,ネットワークを介して公開してきた.ここ数年は,一般利用者向けの情報提供と,歴史資料の原情報を提供するシステムを構築している。本稿では,その情報提供方法の考え方を示し,情報システムの利用状況の分析結果を述べる.文献資料は,文字による基本的な情報に画像情報を併記する形態での提供が有効である。全文のテキストがあるときには,画像情報と併せて,高度な提示が考えられる。多数の資料のディジタル画像を中心に構成するディジタルコレクションでは,利用者が望みの資料を分かりやすく見つけるために,資料の適切な分類に基づく階層構造と,階層内および階層間のリンク設定方法が重要となる。超精細ディジタル資料は,歴史資料の細部まで読み取れるようディジタル化したもので,表示する画像を連続的に移動しながら倍率を変えて閲覧できる。直感的な操作インターフェースとしたことにより,実物を扱う印象を生みだす。資料の比較研究に有効である。その役割はレプリカに近い。歴博のホームページへのアクセス数は,1.9倍/年の伸びを示し,資料を公開するページにも確実なアクセスがある。日本の歴史と文化に関わる情報提供の必要性と,情報通信手段による公開の有効性が認められる。展示資料の案内を行うシステムの利用状況より,資料を探す意図を持っての利用があることが認められるとともに,目的とする情報に早くたどり着くことができる構成とする必要があることが分かる。歴史研究に関する情報を早く公開してゆくためには,画像を主とする形態が有効である。ディジタル資料が有用であるためには,充分な情報量を持つことが必須であり,展示に利用する上でも重要である。システムの操作方法に関して,使いやすく分かりやすいインターフェースが必要とされる。
Kobayashi, Masaomi 小林, 正臣
本稿はアメリカ諸文学における作品(具体的には、John Steinbeck、Bernard Malamud、Leslie Marmon Silko、Kurt Vonnegutの作品)を批評しながら、様々な環境における存在の在り方を議論している。たとえば、自然環境における人間は、その環境の一員であり、この意味において他の生物―「生」きる「物」としての「生物(living things)」―とは「共者(another)」の関係と捉えることが出来る。とすれば、生物学において人間は「ヒト」と呼称されるように、それら生物をヒトと類比した存在と捉えることは、あながち人間中心主義的ではなく、互いを共者として再定義することを可能にする。この「ヒト」という概念は、社会という環境においても適用できる。たとえば「法人(legal person)」という人物は、主体としての「人」であり、客体としての「物」でもある「人物(person)」であり、少なくとも法律における扱いは「自然人(natural person)」と類比的な存在である。この認識を基盤とすれば、アメリカ資本主義社会における人間と法人の関係は、必ずしも対立関係ではなく、共者同士の関係として再解釈できる。そして法人の活動は、いまや環境に対する責任能力を求められている。すなわち「企業の社気的責任(corporate social responsibility)」という問題は、「企業の市民性(corporate citizenship)」という問題と不可分である。法人が「市民(citizen)」としての地位を獲得することの是非は、環境における存在の在り方を問ううえで重要である。かくして本稿は、以上のような人文科学としての文学研究における発想および課題を提示する。
淺尾, 仁彦
本研究では,形態素解析辞書『UniDic』への語構成情報の付与について紹介する。語構成情報とは,例えば名詞「招き猫」は,動詞「招く」と名詞「猫」の複合語であるといった情報を指す。日本語について語構成の情報が付与された公開データベースは,複合動詞など特定のカテゴリに限定されたものを別とすれば,管見のかぎり存在しない。このデータベースでは,『UniDic』に対して語構成情報をできるだけ網羅的に付与し,品詞・語種・アクセントなど『UniDic』に元々含まれている情報と組み合わせることにより,「名詞+動詞の複合名詞」,「アクセントが無核の動詞の名詞化で,アクセントが有核のもの」といった複雑な条件での検索を行うことができ,語彙論・音韻論・形態論などの多様な分野で言語資源として活用可能である。合わせて,開発中の検索インタフェースの紹介を行う。
田中, 敦士 金城, 祥子 Tanaka, Atsushi Kinjo, Shoko
本研究では、特殊教育諸学校のホームページによる情報発信の現状と今後の課題を明確にし、地域のセンタ-校としての情報発信の在り方を検討していくことを目的とした。全国の盲・聾・養護学校1006校を対象とし、開設している自校のホームベージにアクセスし、どのような内容の情報発信を行っているかを閲覧調査した。ホームページの開設に関しては、盲・聾・養護学校の93.4%の学校で行われており、多くの学校が情報発信を行う手段として、インターネットの有効性を認めていると推測された。しかし、そのホームページで情報提供されている内容に関しては、充実しているとは言い難い。教育相談以外の研修支援、学校見学、教材・教具等に関する案内をホームページ上で行っている学校は極めて少なかった。盲・聾・養護学校が地域のセンター枝として情報提供機能が求められている中、ホームページからの情報提供や案内等を促進することが今後の課題であろう。また、それぞれの学校でホームページの更新を定期的に行ったり、それを管理する係を決めたり等、学校全体での管理体制を整えることによって、ホームページからの情報発信がより充実したものになるのではないかと考えられた。
望月, 道浩 天願, 順優 Mochizuki, Michihiro Tengan, Junyu
『保育所保育指針解説』では、家庭との緊密な連携を図りながら養護及び教育を行うことの重要性が指摘されており、そのための情報共有や情報発信がより重要となっている。しかしながら、保育者が抱える業務負担という課題もあり、家庭との緊密な連携を図るための情報共有や情報発信は十分とは言えない状況が指摘されている。本研究では、沖縄県私立保育園連盟に加盟する全231園の私立保育園を調査対象とし、そのうちWebサイトを有していた212園について2020年6月~9月にかけてWebサイト調査を行い、そこで公開されているコンテンツの状況について明らかにした。その結果、園Webサイト基本情報に関する「①所在地情報」(193件、91.0%)、「②連絡先情報」(196件、92.5%)、「③園の概要や沿革」に関するページ(192件、90.6%)、「④園の保育方針や目標」に関するページ(196件、92.5%)、「⑤園の年間行事」に関するページ(193件、91.0%)、の5項目のコンテンツが9割を上回る結果となったものの、家庭との緊密な連携を図ることに関連する「子育て支援」に関する情報共有や情報発信の割合が低く課題であることが明らかとなった。
中野, 真樹 渡辺, 由貴 NAKANO, Maki WATANABE, Yuki
今日,先行研究の検索・参照等のために,様々なリファレンスデータベースが作成されている。国立国語研究所は2011年に「日本語研究・日本語教育文献データベース」を公開した。このデータベースは日本語学・日本語教育研究の文献に特化している。このような特定の専門分野の文献にしぼって作られている「専門特化型」データベースが,独自の観点から情報の収集・選択・整理を行っているという特性を生かし,多分野にわたる文献をナビゲートしている網羅的なデータベースとともに活用されることが,それぞれのリファレンスデータベース,また,各学界の進展に寄与すると期待される。
アンガー, J. マーシャル UNGER, J. Marshall
日本語はこれまで,韓国語や満州語,タミール語などの言語と比較されてきたが,これらの言語と日本語との間の系統関係について説得力のある説はこれまでに提示されていない。このことを,日本語には「同じ系統に属する言語がない」という意味にとらえれば,日本語は孤立言語であるということになる。孤立言語とは,共通祖語から共に発達した他の言語が全て絶滅してしまい,一つだけが生き残ったと考えられる言語のことである。日本語を孤立言語として扱ったとしても,例えば日本語話者の祖先がいつどこからこの地域にやってきたのか,というような,日本語の発達経緯に関するさまざまな疑問を解明することにはならない。だが,日本語と他の言語との系統関係を探り続けることで得られる知識は,たとえ不完全なものであるにしろ,日本語が孤立言語であると結論づけてしまうよりも,言語学的に貢献するところが大きい。多様性に富み規模が大きないくつかの言語族(例えば,インド・ヨーロッパ語族,オーストロネシア語族,中国語族)は,その共通祖語が話されていた年代がいつごろであるかについてかなり正確にわかっているが,これらの言語の存続が五千年を超えるものは一つもない。それゆえに,日本語が厳密な意味での孤立言語であるという主張は,同時に,日本語が非常に古い言語であるということ,また,日本語が発達してきたと考えられるその途方もない長い時間の中で,同じ祖語から派生した日本語以外の全ての言語が絶滅する運命をたどったのだと主張することになる。そのような状況に至った経緯をさまざまに想像するのはたやすいが,本論文において詳しく検証するように,いかなる仮定的状況についても,言語学的あるいは非言語学的側面から立証することは難しい。日本の先史について言えば,関連する言語以外の情報がかなり豊富に存在するので,言語の発達経緯の研究過程で,そのような情報を,言語学的仮説の範疇を特定したり修正してゆくために大いに利用すべきである。
小田, 寛貴 Oda, Hirotaka
14C年代測定というと,縄文時代・弥生時代の資料が対象という印象が強いが,加速器質量分析法(AMS)の登場と較正曲線の整備とにより,古文書や古経典など歴史時代の和紙資料についても,14C年代測定を行うことが原理的に可能なものとなるに至った。しかしながら,古文書に限らず,考古学資料や歴史学資料について14C年代測定を行う本来の目的は,その資料が何らかの役割を持った道具として歴史の中に登場した年代を探究するところにあるはずである。14C年代測定によって得られる結果は,歴史学的に意味のある年代そのものではない。この自然科学的年代が,歴史学的年代を明らかにするための情報となりうるかが問題なのである。そこで本研究においては,まずは,書風や奥書・記述内容などから書写年代が判明している古文書・古経典・版本などについて14C年代測定を行った。奈良時代から江戸時代にかけての年代既知資料の測定結果から,和紙はいわゆるold wood effectによる年代のずれが小さく,古文書・古経典の書写年代を判定する上でAMS14C年代が有益な情報の一つとなることが示された。その上で,書写年代の明らかにされていない和紙資料についても14C年代測定を行った。特に古筆切とよばれる古写本の断簡についての測定である。平安・鎌倉時代に書写された物語や家集の写本で,完本の形で現存しているものは極めて稀であるが,こうした断簡の形ではかなりの量が現在まで伝わっている。古筆切は,稀少な写本の内容や筆跡を一部分ながらも伝えるものであり,大変高い史料的価値を有するものである。しかし,古筆切の中には,その美しい筆跡を手本とした後世の臨書や,掛け軸などにするために作製された偽物なども多く含まれている。それゆえ,こうした問題を有する古筆切に焦点をあて,書風・字形・筆勢など書跡史学的な視点に,AMS14C年代測定法という自然科学的視点を加え,書写年代の吟味を行った。
浅原, 正幸 Asahara, Masayuki
本論文では『分類語彙表増補改訂版データベース』に対する単語親密度推定手法について述べる。分類語彙表に収録されている96,557項目に対する評定情報をYahoo!クラウドソーシングを用いて収集した。1項目あたり最低16人(異なり3,392人)の研究協力者に,内省に基づいて「知っている」「書く」「読む」「話す」「聞く」の評定情報付与を依頼した。研究協力者の評定情報から単語親密度をベイジアン線形混合モデルにより推定した。また,推定された単語親密度と分類語彙表の語義情報との関連性について調査した。
米盛, 徳市 玉那覇, 清 Yonemori, Tokuichi
企業におけるOA化が進展するなか、商業高等学校の情報教育(商業教育)は、啓蒙・開発・試行の段階から本格的な実施段階に突入し、文部省は教育現場に新たな教育内容への転換を要求している。沖縄県の具志川商業高等学校が、実践的商業教育の新しい試みとして「事務実務」を平成2年4月に開設した。本科目で商業教育の集大成を図り、中途退学に歯止めを掛けることである。新たな模索は、生徒自身が実会社「具商デパート」を設立し、実運営することで、企業の機構や活動の厳しさを学ばせ、「理論から実践」、いわば「座学(机上)学習から本物志向の実践学習」への脱皮を図った。著者らが開発した「実践デパート・レジシステム」は「本物志向の実践学習」を支援するシステムで、実務面ではパソコン数台による取扱商品約1万品目、1日当り売上金額1千万円程度の多角的な会計処理、かつ教育面ではCAI技法、特にKR情報の音声出力、電光掲示板的な表示等を駆使した。公開授業(平成4年9月25日)やリサイクル祭&販売実習(平成4年11月29日)の実務実践で数多くの示唆を得ることができた。
西川, 賢哉 渡邊, 友香 Watanabe, Yuka
『日本語日常会話コーパス』(CEJC)の短単位情報付与作業では、以下のような作業工程を踏んでいる:(i) 転記をMeCab(解析器)+ UniDic(解析辞書)で自動解析、(ii) 音声を聴取しながら、付加情報の一つである「発音形」のみを人手修正、(iii) 人手修正された発音形を尊重しつつ再び自動解析、(iv) 短単位情報(境界情報、発音形以外の付加情報)を人手修正。この作業工程の妥当性を検証するため、人手修正済みデータを対象に、複数の版の現代話し言葉UniDic(Ver2.2.0, 2.3.0, 3.0.1)で自動解析をしなおし、出力を比較した。その結果、どの版のUniDicを使っても、人手修正された発音形の情報を用いる方が、そうでない場合に比べ、短単位情報の精度向上を見込めることがわかった。特に、古い版のUniDic (Ver2.2.0)ではそれが顕著であった(境界+品詞+語彙素(F値):0.944→0.962)。一方で、最新版のUniDic (Ver3.0.1)では効果は限定的である(同:0.976→0.979)。
松田, 睦彦
小稿は,これまでおもに考古学的見地から進められてきた中世から近世にかけての花崗岩採掘技術や労働体制等の解明に,民俗学的手法によって寄与することを目指すものである。花崗岩採掘にかかわる知識や技術は,現在の職人にも保有されている。しかしながら,従来の研究は,それが十分に参照されないまま遺構や遺物の解釈が進められてきた傾向にある。そこで小稿では,現役の石材採掘職人から聞き取った花崗岩採掘の基本的な技術を提示するとともに,この石材採掘職人をともなって行なった小豆島の大坂城石垣石切丁場跡の調査で得られた職人の所感を紹介した。花崗岩採掘の基本的な技術については,①花崗岩の異方性,②キズの見きわめと対処,③石を割る位置,④矢の大きさと打ち込む間隔,⑤矢穴の形状,⑥矢穴の列と方向,の六点に整理して提示した。また,大坂城石垣石切丁場跡に対しては,割りたい石の大小等に関係なく,大きな矢穴が狭い間隔で掘られている点,矢穴底の短辺が長いことに合理性が見いだせない点,完成度の高い矢穴と低い矢穴が見られることから,熟練の職人と非熟練の労働者が混在していた点等が指摘された。現役の職人から得られたこれらの情報は,花崗岩採掘にともなう遺構や遺物の分析・解釈に資するものである。さらに,こうした試み自体が,民俗学と考古学との新たな協業関係を構築するものである。
岡, 照晃
本発表では、形態素解析器『MeCab』用の電子化辞書である短単位自動解析用辞書『UniDic』(『解析用UniDic』)のアペンドデータの公開について紹介を行う。『UniDic』は『MeCab』用の辞書の配布という外部公開形式をとっているが、v2.2からその解析結果中に各短単位のID情報を出力するようになった。この情報を使えば、所外の研究者が自ら拡張した新たなカラムの情報を『UniDic』短単位にひも付く形で配布することができ、研究者間での共有も可能になる。本発表では、短単位のID情報について詳説し、それにひも付け、公開を行なっているアペンドデータ『UniDic非コアデータ』を紹介する。
武田, 和哉
中華世界においては,権力者や貴族など有力者の墓に,墓誌と呼ばれる石刻物を埋納する文化が存在した。墓誌が出土すると,被葬者や墓の築造年代の特定が可能となるので,歴史学・考古学分野においては極めて重要な副葬品と認識されてきた。 墓誌は石に文字を刻むという意味で貴重な史料であり,当時の記載情報が直接現在に伝えられる情報媒体としても重要な存在である。 墓誌の起源は漢代とされ,当初は被葬者の姓名や生前の職位を石材に簡略に記していた。時代の経過とともに,墓中に埋納される形態となり,生前の事績を詳細に記し,末尾には故人を哀悼する韻文「銘」も付されるようになった。また,墓誌の形状や文体は北魏時代頃には定型化した。唐時代には墓誌文化は盛行して,大きさも巨大化し,文化的に定着した。契丹(遼)時代には,被葬者の地位と墓誌の大きさには明確な相関関係が見られ,また契丹文字を記した墓誌は,皇帝の親族などのごく一部の被葬者に限られるなどの特徴があった。 墓誌は封印された墓の中に埋納される。そのため,この墓誌の文とはいったい誰に向けて編まれた内容であるのか,という疑問は残る。筆者は,被葬者の哀悼という目的とともに,葬送者自身の自己認識のための目的も想定した。そもそも,墓誌の文化が進展した北魏・唐・契丹(遼)時代は,中華世界においては周辺の諸民族が社会に進出する時代に該当しており,そうした時代的背景と関係がある可能性を考察した。
赤尾, 健一 Farzin, Y. Hossein
経済主体や政府の合理的選択の結果、資源、枯渇が生じることがある。それは、持続可能な資源利用が可能であり、また、資源の利用者が十分な生態学的知識を持ち、さらに将来起きることを十分に予見できるとしてでもある。この研究では、非持続的資源利用が最適計画となる条件を明らかにする。それは、将来の便益を割り引く害IJ引率、社会制度や生態系の不安定さ、自然成長関数の非凸性、雇用の社会的心理的価値、そして資源利用者間の戦略的依存関係の存在に関係する。これらの条件を明らかにすることは、持続的資源利用を実現するための政策をデザインする上で、有用な情報を提供する。
西川, 賢哉 渡邊, 友香 Watanabe, Yuka
国語研で構築中の『日本語日常会話コーパス』(CEJC)の短単位解析作業について報告する。CEJCにおける短単位情報は、アノテーションの一つであるにとどまらず、(i)発音に関する情報を唯一持つ、(ii)他のアノテーション(長単位・韻律)の初期値作成の際の入力となる、(iii)転記誤りを発見する際の有力な手掛かりとなる、などの点で重要なアノテーションであり、高い精度が求められる。作業は次のように進める。まず、MeCab+UniDicで自動解析したのち、短単位付加情報の一つである「発音形」を、音を聴取しながら人手で修正する。これにより、発音形の精度向上を図る。さらに、修正された発音形を尊重しつつ再び形態素解析を行なうことにより、発音形以外の短単位情報(境界・付加情報)の精度向上をも図る(例:初出店「ショシュツ/テン」→「ハツ/シュッテン」)。その後、短単位解析結果を、形態論情報管理ツール「大納言」で検索・修正できるようにし、引き続き解析誤りを修正していく。修正が進んだ段階で、境界・付加情報に揺れがないかを系統的にチェックする(例:「ミリ/メートル」「ミリ=メートル」)。
王, 怡人 金丸, 輝康
本稿は,中小製造企業の情報発信の実態に関する質問票調査の結果を整理したものである。中小企業は大手広告代理店を利用しないため,メディア利用状況と情報発信の実態は把握されにくい。その実態を把握するために,中小製造企業に焦点を当て,「メディアの利用状況」,「発信される情報の内容」,「消費者や取引相手(顧客)の反応」という 3 つのカテゴリーにわけて質問票調査を行った。調査結果の詳細を以下に記す。
太田, 富康 OTA, Tomiyasu
明治12(1879)年から大正15(1926)年の間、府県と町村の中間に置かれた地方行政機関である郡役所のなかには、「郡報」「郡公報」「郡時報」等の名称の定期刊行物(以下「郡報」と総称)を発行するものが少なくなかった。明治30年代までの郡報は、郡制施行を契機とする公布公告のための「公報誌」で、官報や府県公報誌同様のスタイルをとった。このスタイルのものも、「彙報」により様々な行政情報、地域情報を伝達する機能を有していたが、明治40年代から大正期に創刊された郡報は、公布式による公布公告機能を離れ、広報的機能を大きく拡充させたものに移行していく。これは、明治41年の戊申詔書発布以降に本格化した地方改良運動(後継としての民力涵養運動を含め)推進を目的とするものであったといえる。上意下達の指揮監督に留まらず、住民や団体の自発的な活動を促そうとする「運動」であったがゆえに、必要な情報が積極的に郡内を環流する必要があったからである。近代日本にアーカイブズ制度は導入されず、公文書が公開されることは基本的にはなかった。しかし、これを原議文書に限定せず、行政記録全般に拡げ、行政情報の統制と周知という情報施策を考えるとき、それだけで済ませることはできない。民間新聞の奨励から規制への転換にみられるように、国策遂行に沿わない情報が統制された一方で、必要な情報は積極的に周知伝達される必要があった。中央集権国家建設期にその必要性は高く、そのためのメディアとして早々に『太政官日誌』が生まれ、自由民権運動に対抗するように『官報』が創刊された。明治後期には地方でも府県公報誌が拡がった。これに対し、地方改良運動は町村を対象単位とする政策であり、このレベルまでの情報の周知伝達と理解受容が求められた。ここにおいて、郡役所までが独自の行政情報伝達メディアを保持するに至る。そこには、そのメディア的性格を「公報」から「広報」へと転換させるという、行政情報史上の画期ともいうべきものがあった。
加藤, 祥 森山, 奈々美 浅原, 正幸 MORIYAMA, Nanami
コーパスに付与されたジャンル情報を用いることにより,ジャンル毎の語彙分布の傾向が確認される。しかし,レジスタによる文体差の影響や,ジャンルの分類基準の問題が考えられる。そこで,本稿は,文章内容情報が付与された文体的な影響の少ないコーパスを用い,品詞分布・語彙分布・語義分布に内容別の傾向が見られることを確認する。具体的には,『現代日本語書き言葉均衡コーパス』の新聞サブコーパス(PN,1,473サンプル)に含まれるサンプルを記事単位(5,585記事)に分割し,記事ごとの内容情報や種別情報を付与した(加藤ほか2020)データを用いる。分類語彙表番号の付与されたBCCWJ-WLSP(加藤ほか2019)と重ね合わせることにより語義分布も調査する。
関川, 雅彦 高田, 智和 SEKIKAWA, Masahiko TAKADA, Tomokazu
学術情報・データのオープン化,共有化の流れを踏まえ,国立国語研究所は研究資料室に収蔵されている調査票や録音テープ等の原資料の外部公開へ向けて,検索手段や利用に関する規則等の整備を行った。その過程で収蔵する資料群の中に個人情報を含む研究資料が全体の3割程度存在することが判明した。これらの個人情報の保護と研究資料の利用をどのように両立させるかが研究資料室収蔵資料公開の大きな鍵となった。本稿では,『公文書等の管理に関する法律』や『独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律』等の関係する法規を検討しつつ,研究資料を利用・公開するための規程整備について述べる。
森, 雅生 Mori, Masao
大学評価に関連する大学情報の収集と管理、活用の効率的方法について、既存のデータを再利用する観点から考察する。実践例として、学校基本調査のアーカイブデータをデータベース化した取り組みを紹介し、中規模の大学情報の収集管理について、活用を視野に入れた一般的な方法を論じる。
浅原, 正幸 南部, 智史 佐野, 真一郎
本稿では日本語の二重目的語構文の基本語順について予測する統計モデルについて議論する。『現代日本語書き言葉均衡コーパス』コアデータに係り受け構造・述語項構造・共参照情報を悉皆付与したデータから、二重目的語構文を抽出し、格要素と述語要素に分類語彙表番号を付与したうえで、ベイジアン線形混合モデルにより分析を行った。結果、名詞句の情報構造の効果として知られている旧情報が新情報よりも先行する現象と、モーラ数が多いものが少ないものに先行する現象が確認された。分類語彙表番号による効果は、今回の分析では確認されなかった。
島田, 泰子 芝原, 暁彦 SHIMADA, Yasuko SHIBAHARA, Akihiko
方言分布形成の解明にとって重要な参照事項である地形情報ならびに各種地理情報を,正確かつ直感的に参照できる方法として,精密立体投影(HiRP = Highly Realistic Projection Mapping)という手法の導入を提言する。DEM(数値標高モデル)に基づく三次元造形物である精密立体地形模型を作成し,その表面に,プロジェクターによる光学投影(プロジェクションマッピング)を行い各種の地理情報を重ね合わせることで,地形・河川の流路・交通網などといった複数の地理情報を,同時に照合することが可能となる。言語地図における言語外地理情報の照合作業は,従来,特殊な鍛錬なしには困難を伴うものであったが,この精密立体投影(HiRP)により,その精度が飛躍的に向上する。本稿では,精密立体投影(HiRP)の技術や装置の詳細を紹介するとともに,具体的な分析事例として,長野県伊那諏訪地方における「ぬすびとはぎ(ひっつき虫)」の分布データにおける経年変化を取り上げ,これを検証する。
加藤, 祥 森山, 奈々美 浅原, 正幸 KATO, Sachi MORIYAMA, Nanami ASAHARA, Masayuki
本研究では『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(BCCWJ)の書籍全サンプル22,058サンプル(PB(出版)10,117サンプル・LB(図書館)10,551サンプル・OB(ベストセラー)1,390サンプル)に付与された日本十進分類法(NDC)分類記号の補助分類を拡張した。作業は,国立国会図書館サーチのNDC情報を参照し,人手によって分類の確認と追加を行った。また,開発当時NDC分類記号が付与されていなかったサンプル(「分類なし」)などの見直しもあわせて行った。本作業結果により,たとえば形式区分を利用し,ジャンルの分散する「随筆(-049)」「理論(-01)」「教科書(-078)」などのカテゴリでBCCWJサンプルを分類することが可能となった。このほか,時代情報や小項目が追加されたサンプルもあり,今まで以上に詳細な分類が可能となった。本研究では,情報付与作業の方法と基礎情報を報告し,分類例を示す。本データを用いた研究事例として,NDC情報を用いた随筆の抽出と随筆の文体調査結果を報告する。本データは「中納言」の検索で利用できる。
大角, 玉樹
本稿では、コロナ禍を契機に急速に展開されている大学教育のDX(デジタル・トランスフォーメーション)において、注目度が高くなっているメタバースiの利活用について、教育的意義と導入時の課題を整理する。また、筆者自身の過去3年間の琉球大学「教育改善等支援経費」採択事業の成果と国立情報学研究所が主催する「大学等におけるオンライン教育とデジタル変革に関するサイバーシンポジウム」iiで紹介された最新事例等を踏まえて、大学教育におけるメタバースの導入にあたっての課題を探る。現在のところ、メタバースを積極的に利用しているのは理工医学系と語学系にとどまっており、文系や文理融合分野での活用に対する期待にも触れる。
坂本, 稔 西谷, 大 齋藤, 努 Sakamoto, Minoru Nishitani, Masaru Saito, Tsutomu
縄文土器産地の自然科学的な推定法として,青銅製遺物中の鉛の産地推定に成果をあげている鉛同位体比の適用を試みた。士器胎土に含まれるアルカリ長石は鉛の濃度が高く,その同位体比は初生時の値を保持しているのて,地質学的な情報を反映している。土器の胎土から重液分離法によりアルカリ長石を抽出し,高周波加熱分離―鉛同位体測定法により鉛同位体比を測定した。九州・南西諸島で出土した縄文時代前期の土器計39点を用いた。分析結果は土器型式との相関を示さなかったが,出土地との間には緩やかな相関が見られた。轟貝塚(熊本)出土の土器と沖縄本島出土の土器とは,鉛同位体比から明瞭にグルーピングすることができた。他方,南西諸島の島々から出土した土器はグループを形成しなかった。有力な粘土層を持たない島では島外から胎土や土器の流入を受け,種々の地質学的性質を有した土器が出土した結果と考えることができる。
鶴谷, 千春 TSURUTANI, Chiharu
日本語学習者の増加に伴い,初級以上のレベルでの円滑なコミュニケーションがより必要になってきている。学習者は,日本語の基本的な単語の高低アクセントを学んだあと,それをどうつなぐと母語話者の抑揚に近づけることができるのか,またイントネーションによってどう意図が変わるかという情報は,あまり与えられていない。初期段階のコミュニケーションでは,まず「失礼にならないように話したい」というのが優先される課題であると考え,本稿では学習者が初級段階から使っている丁寧表現「です・ます」に焦点をあてて,その韻律的特徴を考察した。まず,場面別の「です」「ます」表現を使い,東京在住の日本語母語話者に「です・ます」表現の同じ文を丁寧に話す必要がある場面とそうでない場面で発話してもらい,それを別の母語話者に聞かせ,丁寧度の評価点をつけ,音響分析の結果と照らし合わせた。丁寧であるかどうかの判断は,パラ言語情報や,状況などに左右されることから,イントネーションは重視されてこなかったが,母語話者間で丁寧だととられるイントネーションには共通のパターンがあることがわかった。
鈴木, 卓治 Suzuki, Takuji
本稿は,人間文化研究機構国立歴史民俗博物館共同研究「デジタル化された博物館資料に関する情報記述法の研究」(代表:安達文夫,平成19~21年度)の成果として公表した,「転写資料記述のための概念モデル(以下,本モデルと略記)」の設計についての論考である。本モデルの出発点として,デジタルデータを資源化する最も簡易な方法としての「データを段ボールに収めてラベルを貼る」という考え,および博物館で作られるデータを「転写資料」とみなすこと,の2つのアイデアを提示し,ラベルの記述をイコール転写資料の定義とみなすことで,アイデアを融合させることができることを導いた。転写情報の具体的な記述法について考察し,その一例を提示した。転写資料の記述は,ラベルと転写資料の1対1対応を表すIDならびに主情報,原資料情報,作成情報,表現情報,格納情報の5種類の情報から構成される。これらはそれぞれ,・その転写資料がどういうもので,・そのおおもとの資料は何で,・転写元はどれで,・どういう内部構造をもっていて,・どこにしまわれているか,を表わしている。この記述法にもとづく転写資料記述の例として,歴博で作成した江戸図屏風(六曲一双)のデジタルコンテンツを作成するために派生したデータとその関係を表わす記述例を示した。複雑な作成過程を経て作られるデジタルコンテンツの,作成の各段階で派生して作られるデータの内部構造や格納場所に関する情報について,ラベルの集まりの形で適切に書き表すことができることを示した。
高田, 智和 井手, 順子 虎岩, 千賀子 TAKADA, Tomokazu IDE, Junko TORAIWA, Chikako
さまざまな行政手続をインターネットで行う「電子政府」を構築するためには,氏名,住所,法人名などの固有名に使われる文字をも含め,行政情報処理で必要とされる文字をコンピュータで扱えるような環境を整えなければならない。国立国語研究所・情報処理学会・日本規格協会では,行政情報処理で必要とされる文字の調査研究(汎用電子情報交換環境整備プログラム)を実施している。この調査研究において,住民基本台帳ネットワーク統一文字,戸籍統一文字,登記統一文字を検討し,行政用文字の文字コード規格(JIS X O213,ISO/IEC10646)によるカバー率を明らかにした。また,漢和辞典に掲載されていない文字について,地名資料による文字同定を進めている。
吉田, 広
『聆濤閣集古帖』鋒帖所収の弥生時代武器形品について,関連近世史料と近現代の考古学研究成果から詳細を検討し,各資料の来歴と考古資料としての特徴を明らかにした。『聆濤閣集古帖』所収にあたっては,考古資料自体ないし拓本,あるいは写本・刊本といった記録・図からの書写といった多様な媒体を通して資料の収集が図られていること,かつ書写の精粗や情報の変化・遺漏・混同等の生じていた状況を指摘した。さらに,近世における好古・集古盛行について,以後の継承も含めた歴史的変遷・系譜について概略整理を行い,『聆濤閣集古帖』は,18世紀末寛政期に吉田道可が藤貞幹と密接な関係をもって進めた好古・集古の成果,その嚆矢の一つと位置付けた。
欧, 陽恵子 田中, 裕隆 曹, 鋭 白, 静 馬, ブン 新納, 浩幸 Ou, Yanghuizi Tanaka, Hirotaka Cao, Rui Bai, Jing Ma, Wen
BERTはTransformerで利用されるMulti-head attentionを12層(あるいは24層)積み重ねたモデルである。各層のMulti-head attentionは、基本的に、入力単語列に対応する単語埋め込み表現列を出力している。BERTの各層では低層から徐々に何からの情報を取り出しながら、その文脈に応じた単語の埋め込み表現を構築していると考えられる。本論文では領域適応で問題となる領域情報に注目し、BERTの出力の各層が持つ領域情報がどのように推移するのかを考察する。
吉田, 安規良 和氣, 則江 Yoshida, Akira Wake, Norie
琉球大学医学部保健学科における養護教諭養成カリキュラム改善の資料の1つとするため,平成26〜28年度の「教職実践演習(養護教諭)」の履修者12名が「まだ足りていないところ」と自己評価した点を整理し,教職に対する意識や自己課題を確認した。「まだ足りていないところ」として,「学校現場での経験」や「一人で保健室経営をする自信」,「他の教職員や保護者との関わり」,「学校現場で即応的に対応するための専門的知識」,「個々の子どもにあった方法や対応」や「表出していない子どもの情報をつかむ」が指摘された。救急処置のように知識や基本的技術は習得していても実際に現場で対応できるかどうかという部分での不安は見られたものの,特定の知識や技術が「不足している」という解答は見られなかった。一方,「満たしている・できている」こととして,「子どもの側に立つ姿勢」,「子どもへの情報提供」,「問題に向き合う姿勢」に関する記述が見られた。教職に就く者として場数を踏むことと常に自省することの大切さを養護教諭養成に関する講義の中でくり返し強調してきたことで,学びつづける姿勢が身に付いていることを確認できた。「養護実習以外の学校現場体験を,養護教諭となるための専門科目群の学びとどのように融合させて提供するのか」ということの具体化や,「身に付けた専門的知識を場面に応じて教育職員として協同(協働)しながら適切に用いていく能力育成を志向した場面設定」が今後の養護教諭養成カリキュラムの改善に向けて示唆された。
三好, 伸芳 MIYOSHI, Nobuyoshi
本稿では,統語情報付きコーパスであるNPCMJを用いて,日本語の非制限的連体修飾構造に見られるテキストジャンル間の分布の差異を明らかにする。形態的情報に基づく従来のコーパスでは,任意の統語的環境を指定して連体修飾構造を量的に検索することは困難であった。一方で,統語・意味情報付きコーパスであるNPCMJを用いれば,主節環境や被修飾名詞の語彙的性質を指定したうえで連体修飾構造を検索することが可能になる。本研究の調査の結果,新聞などのいわゆる説明的文章においては「主名詞に対する情報付加」を行う非制限的連体修飾節が多く見られる一方で,小説などのいわゆる文学的文章においては,「主節に対する情報付加」を行う非制限的連体修飾節が相対的に多く見られた。このような分布は,新出の固有名詞が頻出するという説明的文章のテキストジャンル的特徴によって説明することが可能になると考えられる。
松山, 利夫
この短い報告では,1965 年に読売新聞社が主催して東京で開催されたアボリジナル美術展「オーストラリア原始美術」展の資料を紹介する。この展覧会は大陸北部アーネムランドやキンバリーの樹皮画と彫刻を主とするドロシィ・ベネット・コレクションによって構成された。それがアボリジナルとのジョイント展であったという意味で,オーストラリア国外での最初のアボリジナル美術展であった。ここでは同展の『図録』を中心に,この展覧会にかかわる資料の紹介を試みる。 オーストラリア先住民に関する情報がほとんどなく,海外調査が困難であった当時,彼らの芸術に直接触れることのできたこの展覧会は,日本の民族学・人類学だけでなく,当時のオーストラリアの状況を色濃く反映したものであり,それゆえにまた日本の研究者の注目するところとなった。それが展覧会4 年後にランス・ベネット(ドロシィの息子)著,泉靖一編,原ひろこ訳『オーストラリアの未開美術』という大著を刊行させたのである。 しかし,その後しばらくは,日本においてアボリジナル美術の展覧会が開催されることはなかった。これが再開されたのは1986 年の神戸市立博物館と,1992 年の国立民族学博物館の特別展および同じ年の京都と東京の国立近代美術館の展覧会であった。現在では日本の博物館や美術館も,自らの研究にもとづいてアボリジナル美術を収蔵している。その先駆けをなしたのが,1965 年の「オーストラリア原始美術」展であった。
濱上, 知樹
近年の情報技術の進展に伴い,文化財のデジタルアーカイブ化が急速に進んでいる。また,その技術や利活用について多くの研究が行われている。デジタルアーカイブの研究は,人文系研究者の研究資料として重要な意味をもつことはもちろん,高度な展示技術への応用も期待されている。本研究においても,国立歴史民俗博物館が所蔵する小袖屛風を対象としたデジタルアーカイブ化と,これを利用した展示システムの構築を進めている。その中で,実物を鑑賞した際に得られる感動や印象の再現を目的とし,インタラクティブ展示を提案する。インタラクティブ展示とは展示インタフェースと観察者との位置関係に応じて出力が変化する展示方式である。頭の移動による試料の見え方の変化が光沢感の知覚を増大させるという結果が出ている。普段人間が質感を観察する際に,複数の角度から同じ対象を眺め,確認していることからもわかるように,インタラクションを再現することは実際に物を見るという行為の再現につながるといえる。本研究ではタブレット端末を対象とし傾きセンサを利用したインタラクティブ展示システムの開発を行ってきたため今回大型ディスプレイにおける全形のインタラクティブ展示システムの開発を目的とする。インタラクティブ展示のレンダリングにおいては,ある程度平面の対象物を前提とし,様々な角度から光源を当て取得した画像群の線形補間により出力を行っている。しかし,データ取得のために多くの時間とコストがかかる点が問題である。今後アーカイブされる対象の増加を踏まえると,簡便な方法で,サンプル画像群を取得する必要がある。そこで本研究では,手持ち光源により自由に光源を当て撮影した動画から,サンプル光源方向に紐づく画像群の抽出を行う。その際光源の方向を推定するため鏡面球をマーカとして同時に撮影し,正射影を仮定することで画像座標のみから簡単な計算により推定を行う。そして,全形を復元するため試料の部分領域ごと得られたサンプル画像群をイメージモザイクにより結合する。イメージモザイク処理ではあらかじめ結合ずれが小さいと仮定し,Pyramid Blendingとグラフカットを用いたブレンディングを行う。実験ではサンプルする光源間隔に対して誤差率約8%の精度で光源方向を取得することが可能であった。またグラフカットとピラミッドブレンディングを用いたイメージモザイク処理により従来に比べ大型ディスプレイによるインタラクティブ展示が可能となった。
朝日, 祥之 吉岡, 泰夫 相澤, 正夫
行政から提供される情報には,外来語・略語・専門用語が増加し,自治体は住民に対して分かりやすい行政情報を提供することが求められている。国立国語研究所では,行政情報の発信者である自治体職員と受信者である住民とのコミュニケーションに関する意識調査を実施した。その結果,語彙的特徴やパラ言語的特徴,非言語的特徴よりも,方言と共通語の使い分けに関する意識に地域差が認められることが明らかとなった。
加藤, 祥 KATO, Sachi
テキストの示す対象物を認識するために,どのような内容を記述することが有用か。本稿では,動物を例にした3種類の実験に基づく考察結果を報告する。複数辞書に共通して記載のある語釈,辞書の語釈に不足しているとされた情報を追加したテキスト,コーパス(現代日本語書き言葉均衡コーパス・Google日本語n-gram)から取得した用例を用い,それぞれのテキストから対象物を同定する実験を行った。どの実験結果でも正答率は半数程度にとどまり,テキストのみからの対象物認識は困難であった。また,対象物の認識に求められた情報は,主に読み手の経験や知識を喚起する情報と,提示された情報によって設定したカテゴリにおける他メンバーとの差異に関する情報であった。我々が実際目にするテキスト(コーパス)からは,個別的一般的な経験や知識は取得しやすく,予め読み手の保有している知識と合致した場合には有用な情報となる。しかし,対象物に関する知識が読み手に不足している場合,対象物の認識には親カテゴリのプロトタイプとの差異を記述することが有用であり,あるいは誤認を避けるために他メンバーとの差別化が可能な記述を行うことが有用であるとわかった。
小木曽, 智信 岡, 照晃 中村, 壮範 八木, 豊 NAKAMURA, Takenori YAGI, Yutaka
日本語史研究の基礎資料は,残された文献に見られる用例である。用例の原文は今日一般に用いられる表記とは大幅に異なる形である場合が少なくない。例えば,『万葉集』は万葉仮名で,キリシタン資料は当時のポルトガル語のローマ字で表記されている。こうした資料をコーパスとして形態論情報を付与し,現代人に読みやすいものとするためには,原文を校訂して漢字平仮名交じりにした読み下し本文を用意する必要がある。一方で,読み下し本文では失われてしまう情報も少なくないため,用例には原文を併せて表示することが求められる。『日本語歴史コーパス』では従来,原文情報を保持しつつ必要な修正を行った上で形態論情報を付与して公開してきたが,原文情報の提供は限定的だった。今回新たに,コーパス検索アプリケーション「中納言」上で,原文の前後文脈付きで検索結果を表示できる機能を実装した。本発表ではこの原文KWIC表示機能について述べる。
川村, 清志
本論は,日記資料のデジタルアーカイブ化の手続きにおいて生起した課題と,そこで醸成された民俗学の外延の拡張と更新の可能性について論じる。本論の最終的な目的は,大きく二つに分けることができる。一つは,特定の学問分野(ここでは民俗学)が扱う資料を一般化することで共有度を高め,関心を異にする民俗研究者はもちろん,他分野の研究者や一次資料に関心をもつ一般の人びとにも利用可能な形態を構築することである。もう一つは,一次資料の綿密な検証と分析から,既存の学問の外延と内包を再考し,当該研究分野のバージョンアップを図ることを目的としている。ここで対象とする資料とは,東日本大震災で被災した昭和初期の日記資料である。この資料からは民俗学的な視点では収まりきらない,当時の社会状況や文化的背景を垣間見ることができる。資料が示す多様な情報をできるだけ十全に抽出し,分類し,デジタルアーカイブ化するという非常に地道な作業から,上記で示した研究領域の再編を促す糸口をたどり直したいと考える。そこで,本論では,まず,日記と文字資料を巡る民俗学とその周辺領域での研究成果を概観し,研究上のテーマを設定する。次に本稿の具体的な分析対象となる日記資料の概要について説明する。その上で資料のデジタル化,データベース化の過程で生じた課題とそれらへの対処の過程で明らかになった分類枠の検証を行う。この分類枠は,日記のデジタル化を進めていくなかで累積的に変化していった。具体的な事例との往復作業のなかで,どのような変更が必要になったのかを確認していく。ここで抽出された分類カテゴリーを,既存の民俗学の外延と比較し,両者のズレを検証した。これらの作業を通してこれまでの民俗学の分類枠組みを批判的に相対化する作業を行い,近代化に関わる諸制度の浸透や新たなメディア網,交通網といった人々の生活文化を把握するために必要なカテゴリーを確認していった。
服部, 伊久男 Hattori, Ikuo
古代荘園図と総称される史料群の一例である「額田寺伽藍並条里図」の分析を通じて,8世紀後半の額田寺の構造と寺辺の景観を明らかにすると同時に,寺院景観論の深化を図ることを目的とする。官寺や国分寺については多くの先行研究があるが,史料の少ない氏寺などの私寺の構造と景観については,古代寺院の大部分を占めるものの十分な研究がなされてこなかった。氏寺の寺院景観の一端を明らかにし,多様な寺院研究の方法を提起するために額田寺図を検討する。近年の古代荘園図研究の動向を受けて,考古学的に検討する場合の分析視角を提示し,寺院空間論などの領域論的,空間論的視点を軸として,寺院組織や寺院経済をめぐる文献史学上の論点を援用しつつ,額田寺の構造と景観に言及する。額田寺伽藍並条里図は多様な情報を有する史料体であり,寺領図という性格に拘泥せず様々な課題設定が可能である。本稿では,社会経済史的視点を援用し,本図を一枚の経済地図として読むことも試みる。額田寺をめぐる寺院景観の中では,とりわけ,院地,寺領,墓(古墳),条里をめぐる諸問題について検討する。さらに,近年の考古学的成果を受けて,古代寺院の周辺で検出されている掘立柱建物群について,畿内外の諸例(池田寺遺跡,海会寺遺跡,市道遺跡など)を中心に検討を行う。小規模な氏寺をめぐる景観をこれほどまでに豊富に描き出している史料はなく,その分析結果が今後の古代寺院研究に与える影響は大きい。考古学的に検討するには方法論的にも,また,現地の調査の進捗状況からも限られたものとなるが,考古資料の解釈や理解に演繹的に活用するべきである。とりわけ,これまであまり重要視されてこなかった院地の分析に有効に作用することが確認された。また,近年の末端官衙論とも関係することが明らかとなった。今後,寺領をめぐる課題についても考古学から取り組む必要も強調したい。
小西, 光 中村, 壮範 田中, 弥生 間淵, 洋子 浅原, 正幸 立花, 幸子 加藤, 祥 今田, 水穂 山口, 昌也 前川, 喜久雄 小木曽, 智信 山崎, 誠 丸山, 岳彦 KONISHI, Hikari NAKAMURA, Takenori TANAKA, Yayoi MABUCHI, Yoko ASAHARA, Masayuki TACHIBANA, Sachiko KATO, Sachi IMADA, Mizuho YAMAGUCHI, Masaya MAEKAWA, Kikuo OGISO, Toshinobu YAMAZAKI, Makoto MARUYAMA, Takehiko
『現代日本語書き言葉均衡コーパス』第1.0版(Maekawa et al. 2014)(以下BCCWJ)には「文境界」の情報がアノテーションされているが,その認定基準の妥当性について従来から様々な指摘がある(小西ほか2014,長谷川2014,田野村2014)。この問題に対処するために,国立国語研究所コーパス開発センターでは2013年から2014年にかけて,BCCWJの修正を行った。本稿ではその修正作業について報告する。第1.0版におけるBCCWJ 文境界情報の問題は,コーパス構築の過程において文境界を含む文書構造タグの整備と形態素列レベルの情報の整備とを並行して行ったために,文字情報を用いる文境界処理にとどまったことに由来する。今回,形態論情報に基づいた文境界基準を策定し,問題の解消を試みた。文境界修正の指針を示すとともに,文境界修正に用いた作業環境と,修正件数について報告する。
将基面, 貴巳
現在、欧米のみならず日本でも学会を揺るがせている問題のひとつに「人文学の危機」がある。ネオ・リベラリズムの席巻に伴い、人文学のような、国民経済に直接的に貢献しない学問は「役に立たない」という議論が横行するようになっている。その結果、人文学系学部・学科は各国政府やメディアからの攻撃にさらされつつある。いわゆる「日本研究」の分野に属する研究の多くは人文学的なものである以上、「人文学の危機」という問題を傍観視するわけにはゆかないであろう。実際、日本国内外を問わず、人文学系の研究者たちは、人文学の意義について積極的に発言するようになっている。しかし、そうした発言の多くは、ネオ・リベラル的潮流への批判であり、人文学の自己弁護に終始し、人文学的研究と教育の現状を再検討する視点が総じて欠落している。 本稿は、こうした現状認識に基づき日本研究の今後を考える上で、人文学的な専門研究が陥りがちな「落とし穴」を指摘することにより、人文学としての日本研究が、時代の逆風にもかかわらず、存立していく上での必要条件のひとつを考察するものである。 その「落とし穴」とは、「学問のプライベート化」とでも称すべき事態であろう。すなわち、人文学の専門的研究が、もっぱら研究者の個人的興味・関心に矮小化する結果、現代社会や文化の諸問題との関連性がもはや研究者によって自覚されない事態である。そうした状況の背後にあるのは、19世紀以降における歴史主義の圧倒的な影響力であろう。歴史主義が空気のように当たり前の存在となり、全ての事象が個性的かつ一回的なものと認識され、あらゆる価値が相対化される時、極めて専門化の進んだ歴史的研究が現代において主張しうる意義とは何か。この問いへの答えは必ずしも自明ではなくなっている。本稿は、この難問への手短な回答を試みる。
Davis, Christopher クリストファー, デイビス
本論文では琉球諸語で広く使われる焦点化辞「du」の文法的分布と意味上の焦点範疇の関係を、八重山語宮良方言のデータに基づいて論じる。「du」は、文が表す情報を「新情報」と「旧情報」とに分け、新情報を担う構造部分に「焦点」を与えると思われる。しかし、その新情報となる部分をいかに表示するかはまだ不明である。八重山語宮良方言の資料から、「du」が付く要素自体が焦点範疇となる場合があるものの、「du」の統語上の位置と焦点範疇が一致しないこともあることを明らかにする。さらに、後者の状況を精査のうえ、「du」の統語上の位置と焦点範疇の関係についての一般化をまとめ、「du」の分布を説明する理論の構築を試みる。
寒川, 仁衣菜 フラストニク, ヤン フメリャク寒川, クリスティナ
強弱アクセントの言語を母語とする学習者にとって、日本語の高低アクセントの認識と発声は難しい。高低差が聞き取れない学習者にとって、目に見えるアクセント情報の表示が正しい発音の助けになると考え、日本語・スロベニア語辞典の改訂にあたって、アクセント情報も付与することにした。そこで、「日本語教育語彙」から入手したアクセント情報を見出し語に付与したが、数字などの記号によるアクセント情報は学習者にとって分かりにくいと判断し、辞典の見出し語を初級日本語学習者にも読みやすいローマ字に変換し、高低アクセントを大文字と小文字、上付き文字、色分けなどで表した。本発表では、その過程を説明し、パイロット版の資料を利用した学習者の反応を紹介する。
藤尾, 慎一郎 Fujio, Shin'ichiro
本稿は西日本における縄文時代後・晩期から弥生時代前期にかけて,植物質食糧獲得の手段がどのように変化するか検討したものである。後・晩期には雑穀・穀物を対象とした栽培の存在が主張されてきたが,考古学的にも自然科学的にも決め手にかける状況が続いている。原因はこの時期にみられる考古学的な変化が,水稲栽培が始まるときにみられる変化ほど直接的でないことにあるので,後・晩期における考古学的な変化が縄文文化の枠内だけで説明できるのか,説明できないのか調べる必要がある。そこで土器と石器を中心に考古学的な変化を再整理し,変化を引き起こした社会背景を検討した結果,従来からいわれているような東日本縄文文化の伝播による内的発展だけでは説明できない部分のあることがわかり,朝鮮畑作文化の影響を受けている可能性が考えられた。東日本からの文化伝播は集団的・組織的な人の移動を伴うので道具・技術・精神文化の面において考古学的な変化を把握できる。しかし後者にはそのような変化がみられない。それは朝鮮畑作文化が前期から続いている大陸と縄文社会との情報交流の中で伝わったため,道具・技術・精神文化が体系的に伝わらなかったことと,母体となった朝鮮畑作文化自身が網羅的な混合農耕だったこともあって,縄文時代の特定の生業に偏らない網羅的な食糧獲得システムとうまく適合したからと考えられる。道具は在来のものがわずかに変容する程度で新しい道具の出現や組成の変化というかたちではあらわれにくかったのである。それに対して水稲栽培を中心に位置づける水稲農耕文化の伝播は組織的・集団的な人の移動を伴ったものだったので,道具や石器組成,精神文化の面も含めて大きな考古学的な変化として捉えられるのである。縄文時代に穀物栽培は存在しても生産基盤の中心に位置づけられることはないが,弥生時代は水稲栽培が特定の生業として選択され生産基盤の中心となる。縄文から弥生への転換は栽培を含む網羅的な生業体系から穀物栽培を中心とする選択的な生業体系への変化に特徴づけられるのである。
宗前, 清貞 Somae, Kiyosada
記述的な政策決定過程においては、アクター分析を中心とした権力論アプローチが主流であったが、本稿では、権力の源泉となっている政策情報の「重み」に着目して決定要因の分析を試みた。具体的には公立(県営)病院の改革に取り組んだ二例を素材に、どのような条件でどのように異なった決定が出るのかを再現する。県営病院の配置は自治体によって大きく異なり一定のパターンが存在しないために、自治体の決定の自律性は相対的に高い。病院運営主体の課題設定は、(狭義の)財政・医療経済・医療供給・(広義の)社会保障・地域間格差などの複雑な論点が混在しているために、その政策決定過程は本質的にダイナミックなものとならざるをえない。そうした複雑な論点を所有しながらも一定の結論を導き出す以上、決定過程を通じて基盤となる論点(を規定する要因)が存在する。従来、政策過程における情報は「情報の非対称性」として与件と考えられてきた。本稿では、その論点の抽出を行うことで、政策情報の偏在がなぜ生じるのか、また政策情報の強度はどの程度変化を説明しうるのかについて分析を試みている。
森本, 修馬
昨今の計算機技術の発達により、データベースの記憶容量も大幅に増大した。大量のデータを必要とする統計分析を行う際にも、データベース化は必要不可欠である。しかし、大量のデータ入力にはコストがかかる。計算機技術の発達に比べて、データ入力における計算機の利用法の開発は不十分である。データ入力に計算機の利用が最大限に行われている分野もあるが、歴史資料を扱う分野では、そもそも研究の目的と資料作成の目的とが一致していないこともあり、なかなか困難である場合が多い。筆者は、近世の史料である宗門人別改帳を用いた人口学研究を目的としたデータ入力のインターフェイスの開発により、情報量の豊富な汎用性のあるデータベース構築を行い、研究のレベルの向上をはかっている。
安永, 尚志 YASUNAGA, Hisashi
本報告は、現在国文学研究資料館において進められている原文献資料データベースの開発報告である。すなわち、開発の目的、概要、研究経緯、研究成果、及び今後の見通し等をまとめたものである。原本等のいわゆる0次情報は、情報処理システムにおいては画像としての情報形態で取り扱うことが,最も適切な方式である。ここではマイクロフィルム資料を原本資料と見なし、これを検討対象とする。本文では、国文学研究に必要な画像データの入力、管理、利用方法について述べる。また、開発の目標は幾つかあるが、主として、オンライン情報検索環境下で所望の本を探し、請求し、かつ入手することを可能とするシステム、即ち原文献資料流通システム(試行版)について報告する。なお、本研究は主に文部省科学研究費補助金によっている。
Iida, Taku
国立民族学博物館(民博)では,全国の研究者から応募を受けつけ,フィルム写真をデジタル化したりデジタル化済み写真をデータベースに登録したりする研究支援をおこなってきた。応募できるのは,日本学術振興会が採択した科研費プロジェクトの研究代表者と研究分担者である。われわれ支援側の関係者がDiPLAS と呼ぶこの事業は,2021 年度でひとまず終了するが,さまざまな意義を有している。本特集では,異なる立場の関係者がその意義を論じる。 事業の背景としては,館外研究者の写真資料に応用できるデータベース構築のノウハウを民博が蓄積してきたことがある。また,情報通信技術の進展や学術資料公開の動き,博物館活動における資料の由来地の人びと(ソースコミュニティ)との協業の重視など,社会的状況も無視できない。しかし,写真のデータベース登録と基本情報の入力を支援者側がおこない,写真撮影状況をふまえながら被支援者が時間をかけて写真の内容を自由記述するという役割分担が確定するまでには,さまざまな議論や試行錯誤があった。この序論では,そうしたプロセスの一端を示すため,DiPLAS に関連するシンポジウム(2019 年度)と公開セミナー(2020 年度)のようすを紹介する。今後,さまざまな関係者がこのデータベースを共有財産として「育て」られるよう,支援者側は運営体制を整えることが求められる。
大友, 一雄 OHTOMO, Kazuo
江戸幕府という、当時にあって最も整備された巨大組織において、組織運営に関する知識や技術は如何に継承されたのであろうか。組織は自らの維持発展に関わり、知識や技術を後進に伝えるための仕組みを内包することになるが、その仕組みについて、従来注目されることはほとんど無かった。また、この仕組みは基本的に組織のあり方に規定されると考えられるが、組織のあり方そのものに関しても充分な研究があるとはいえない。アーカイブズ学においては、記録を発生させた組織について、その理解を深めることが欠かせない。本報告はそうした取り組みの一つである。具体的には幕府寺社奉行を事例に、新任の者が如何に体制を整えていくのか、従来ほとんど検討されてこなかった「師範」という存在に注目して、その方法を明らかにしたものである。なお、新任への情報の伝授は、各役職がそれまで貯えた知識や技術がもっとも体系化されて行われるため、継承すべき情報の全体像を把握する上でもっとも有効な場面といえる。また、その場面は、組織のあり方、その性格がもっとも露出する場とすることもできよう。残された課題は多いが、組織における知識や技術の伝達に関わる一端が明らかにされたといえる。
加藤, 祥 森山, 奈々美 浅原, 正幸 Moriyama, Nanami
『現代日本語書き言葉均衡コーパス』の書籍サンプル(PB(出版)10,117サンプル・LB(図書館)10,551サンプル・OB(ベストセラー)1,390サンプル)に付与された日本十進分類法(NDC)分類記号の補助分類を拡張した。また、開発当時NDC分類記号が付与されていなかったサンプル(「分類なし」)などの見直しもあわせて行った。作業は、国立国会図書館のNDC情報を参照し、人手によって分類の確認と追加を進めた。本作業結果により、たとえば形式区分を利用し、ジャンルの分散する「随筆(-049)」「理論(-01)」「研究法(-07)」などのカテゴリでBCCWJサンプルを分類することが可能となった。このほか、時代情報や小項目が追加されたサンプルもあり、今まで以上に詳細な分類が可能となった。本発表では、情報付与作業の方法と基礎情報を報告し、分類例を示す。本作業結果データは「中納言」の検索結果として利用可能となる。
前田, 裕一朗 遠藤, 聡志 山田, 孝治 當間, 愛晃 赤嶺, 有平 Maeda, Yuichiro Endo, Satoshi Yamada, Koji Toma, Naruaki Akamine, Yuhei
ショッピングサイトのレビューは商品の評判を知るために有益な情報の集合である。しかし、全てのレビューに目を通すには膨大である。本研究では、レビューから評価の視点となっている属性語を抽出してレビュー全体の俯瞰を行う。属性語の抽出には様々なアプローチがあるが、Xu(Liu)らの提案するDoubleEmbedding-CNNでは、一般的なコーパスから学習した単語埋め込みとドメインに注目した単語埋め込みの二重埋め込みを使うことで高い精度の抽出を行った。しかし、この手法は属性語の抽出でよく用いられる品詞情報を加味していない。そこで、品詞情報を3つ目の埋め込みとして与えることで精度の向上を図る。
渡辺, 滋 Watanabe, Shigeru
古代社会で発生した揚名官職(肩書だけで権限・給与が与えられない官職)をめぐっては、有職学(儀式・官職などに関する先例研究)の一環として、また『源氏物語』に見える「揚名介」の実態をめぐって、前近代社会のなかで長期に渡り様々な人々による検討がなされてきた。ところが先行研究では、一部の上級貴族をめぐる個別的・断片的な事例を除き、その展開過程について十分な分析がなされないまま放置されている。そこで本稿では、関連資料が豊富に現存する広橋家の事例を中心として、中世貴族社会における関連研究の展開を解明した。具体的に取り上げたのは、おもに広橋兼秀(一五〇六~一五六七)による諸研究である。国立歴史民俗博物館に所蔵される広橋家旧蔵本から、兼秀によって作成された関連資料を検出・分析することで、従来未解明だった広橋家における情報蓄積や研究展開の諸過程を解明した。その結果、彼の集積した諸情報は家伝のものだけでなく、周辺の諸家からもたらされたものも少なくないことが判明した。そこで中世の広橋家における有職研究の過程で蓄積された情報や、それに基づく研究成果を相対化するため、同家の周辺に位置する一条家・三条西家などにおける研究の展開も検討した。このように中世貴族社会における関連研究の展開過程も分析した結果、諸家における研究が相互に有機的関連を持っていたことや、とくに広橋兼秀の場合、一条家における研究成果から大きな影響を受けていた実態が判明した。以上のような展開のすえ、最終的に近世の後水尾上皇などへと発展的に継承される解釈が、基本的には中世社会のこうした営みのなかで形成されたことが確認された。
藤村, 涼子 FUJIMURA, RYOKO
近年、デジタルアーカイブ構築の動きが活発化している。背景の一つとして、東日本大震災以降、身の回りにあるものが記憶を伝える記録資料となりうることが広く認識されるようになったことが挙げられよう。また、以前より博物館・美術館、図書館、文書館等ではデジタルアーカイブ事業が個々に取り組まれていたが、今やデジタルアーカイブ同士の連携が求められる段階に入った。今後は多様な文化資産情報の集約と一元検索の実現を目指すにあたり、アーカイブズ情報共有の促進が課題になると考えられる。本稿では、デジタルアーカイブに関わる二つの潮流―オープンデータとオープンサイエンスについて概観しつつ、機関リポジトリを利用したデジタルアーカイブ構築の有用性を実際の資料を用いて検討する。一橋大学が所蔵する日本・旧満州鉄鋼業資料のメタデータ・マッピング作業を通して、アーカイブズ情報共有における利点と課題を明らかにすることが目的である。その上で今後のアーカイブズ情報共有のあり方についての展望を示したい。
上野, 善道 UWANO, Zendo
岩手県と青森県の,旧南部・津軽両藩の6地点で約千項目からなる動詞のアクセント調査をした報告を行なう。今回はその(1)として,2~3拍動詞の603語を対象とする。アクセント情報と並んで,その語音情報および必要に応じて意味に応じた語形の違いを付け加える。
村山, 実和子
本研究は『日本語歴史コーパス』に出現する合成語に対し,その内部構造に関する情報を新たに追加することで,日本語の語形成研究に使用可能なデータの構築をめざすものである。その方法として,各種コーパスに紐付いた解析用辞書「UniDic」の見出し語に対して,構成語情報を付与することを試みる。その設計方針と有用性を述べるとともに,現状の課題について報告する。
大角, 玉樹 Osumi, Tamaki
1990年代後半のインターネット揺籃期、成長期を経て、現在、わが国は世界最高水準のネットワークインフラを整備している。情報通信技術(ICT:Information\nand Communications Technology)を21世紀の持続的発展の原動力と位置づけ、それを推進した政策がe-Japan戦略である。さらに2010年までには全国にブロードパンドとユビキタス環境を整備し、情報通信技術の利括用で世界のフロントランナーを目指すu-Japan政策が展開されている。沖縄では、1998年に発表された「沖縄マルチメディアアイランド構想」が、2000年に開催されたG8九州沖縄サミットで採\n択された沖縄IT憲章に後押しされ、IT関連企業の誘致と集積が進められている。\nしかしながら、それがコールセンターに偏っていることから、今後の政策の見直しが迫られている。\n 本稿では、これら情報通信政策を整理し、政策が情報通信技術の普及と啓蒙に果たした役割を明確にし、今後の課題を検討している。また、グローバリゼーションと情報通信技術の急速な進歩により、とりわけビジネスにおけるモジュール化が加速され、また、世界や社会がフラット化しつつある現象が指摘されている。ウェブ自体の進化も、Web2.0という用語に代表されるように、大きな質的変化を遂げて\nいる。\n このような現実を政策に反映するには、情報通信技術へのアクセスが機会を生み出すというデジタル・オポチュニティという考え方よりも、ウェブヘのアクセスと、ウェブとリアル世界のコラボレーションが創造の機会を増幅するという、ウェブ・\nオポチュニティという概念が望ましいのではないだろうか。
クレインス, フレデリック 宮田, 昌明
江戸時代に日本に対するヨーロッパのイメージをめぐる研究はこれまで、先行する16世紀のイエズス会士による書簡や、18世紀初頭のケンペル『日本誌』以降のプロテスタントの著作を主たる対象として行われてきた。17世紀に関しては、カロンのようなオランダ東インド会社員による報告を除き、ヨーロッパに新たな情報がほとんどもたらされなかった時代として捉えられていたのである。 とはいえ、17世紀には、日本を直接訪れたことのない著者による、日本に関する多くの著作が出版されていた。本稿は、シモン・デ・フリース『東西インド奇事詳解』(ユトレヒト、一六八二年)における日本文化に関する記事を検討している。同書は、当時のオランダの中流階層において広く読まれた博物書であった。 同書における日本に関する様々な記事には、日本社会の様々な側面に関する、最新の情報を含む多くの情報が含まれている。デ・フリースはそれらの情報を、エラスムス・フランシシの博学書に依拠しており、さらにフランシシの著作は、主としてヴァレニウスやモンターヌスの著作に依拠したものであった。モンターヌスの情報源は、オランダ出島商館の日誌であり、モンターヌスは、日本社会に関する最新の情報を与える一六六六年までの日誌を利用できた。 デ・フリースの博物書を分析することによって、17世紀後半オランダの上流・中流階層の間で、「日本」が広範な関心を呼ぶ対象であったことが判明する。そうした関心の存在が、のちのケンペルの日本に対する探求心に何らかの影響を与えたことも、十分に考えられるのである。
中井, 俊一 Nakai, Shunichi
同位体を用いた考古学資料の産地推定はこれまで主に金属資料やガラス資料に対して応用されてきた。今回の歴史民俗博物館での共同研究「同位体を用いた産地決定法の研究」では,鉛同位体比を用いて土器の産地推定が可能であるかについて,坂本達を中心に初期的な調査が行われた。ここではその原理について簡単に紹介する。産地推定が可能になるためには(1)同位体比が鉱床の形成した場所の地質学的な違いを反映して鉱床毎に異なるということと,(2)鉱物がウラン・トリウムを含まず鉛に富むことと,鉱物の形成後鉛に関して閉鎖系に保たれ,鉱物の鉛同位体比が形成後変化しないということが必要である。この条件が土器の原料である粘土鉱物に対して成り立っているかについてこれまでの報告から検討する。土器資料の産地推定は金属器資料に比べ,困難な点が数多くあると思われるが,大きな地域間の区別は可能性がある。さらに鉛の局所同位体比分析技術により,微小部分に残されたより本質的な情報を得られる可能性があり,今後の進展に期待が持てる。
中渡瀬, 秀一 加藤, 文彦 大向, 一輝
言語資源データの引用情報調査に基づいて、そのデータを活用した研究文献の発見可能性について論じる。このために言語処理学会年次大会発表論文集を対象として「現代日本語書き言葉均衡コーパス」などの引用情報を調査した。本稿ではその結果と今後の課題について報告する。
山口, 昌也
本発表では,『日本語日常会話コーパス』を活用するための環境構築について述べる。『日本語日常会話コーパス』は動画・音声,転記テキストを含み,転記テキストには形態素解析結果などの言語学的な情報がアノテーションされている。本発表で提案する活用環境は,全文検索システム『ひまわり』と観察支援システムFishWatchrを統合することにより実現した。本環境を用いることにより,次のことが可能になる。(1)『ひまわり』で転記テキストを全文・単語検索し,当該位置の映像をFishWatchrで閲覧すること,(2)FishWatchr上で動画再生位置に簡易なアノテーション(二つのユーザ定義ラベル,自由テキストを記述可能)を付与すること,(3)FishWatchr上で転記テキストを表形式で表示し,選択した転記テキスト位置の動画を再生すること。また,動画の再生と同期させて転記テキストをスクロール表示すること。
加藤, 祥 浅原, 正幸
国立国語研究所報告57『比喩表現の理論と分類』データの電子化を行った。主に同書における指標比喩用例と結合比喩リストのデータを検索や参照が容易な形式に整備した。また,同データに対して,比喩分類,喩辞・被喩辞,『分類語彙表』に基づく意味分類,指標(指標比喩のみ),結合,印象評定などの追加情報の付与を行った。付与情報により,新たな観点の調査や確認が可能となった。
深田, 淳 FUKADA, Atsushi
本稿は,日本語コーパスからコロケーション情報を拍出することを主眼に設計・開発された,ウェブ上で簡便に利用できるアプリケーション『茶漉』を紹介する。ウェブ上のアプリケーションであるので,ブラウザでアクセスするだけで利用でき,ソフトウェアのインストール,サーバの設定のような導入手続きは一切必要としない。コロケーション情報を調べる以外にkwic形式による用例検索も可能である。当システムの公開が,コーパスを用いた日本語研究の発展の一助となることを願う。
米谷, 博 Kometani, Hiroshi
江戸時代末期の下総地方における大原幽学の農村指導は、農業技術や日常生活にとどまるものではなく村の伝統的習俗にまで及んでいる。しかし、内容によっては古くからの習慣と対立するものもあり、門人たちの活動はそうしたさまざまな問題を乗り越えて実践されたものだった。そうした習俗改変の形跡は門人たちの墓制にも見ることができる。性学関係者の墓地は各地に設立された教導施設に付随して形成されたが、そこでは在地の墓制とは異なる彼等独自の墓制が行われ、現在まで続いている場所もある。しかし明治期後半以降の性学活動の沈滞化にともなって、各地に残るそれらの墓地も開設当所の意味は薄らぎ、現代的な墓地へと大きく変更されつつあるのが現状である。本稿はそうした性学門人の特徴ある墓制を性学墓として捉え、現状および聞き取り情報も含めて関連する資料をできるだけ紹介することを第一の目的とした。併せてこれまで研究対象とされてこなかった性学墓を、幽学研究の舞台へはじめて登場させようとするものである。今回紹介した性学墓の事例は、下総地方だけではなく近江や箱根にまで及んでいるが、こうした広がりは性学門人の活動範囲が明治初期に広まったことと対応しており、そういった意味では関係地域にまだ確認されていない墓地が存在している可能性もある。しかし今回確認し得た十件の事例を見ただけでも、性学墓の特徴として頂上を尖らせた墓石、材質は安山岩製、男女別墓域の使用、墓域の土塁囲み、被葬者一人で一基の墓石を建てる、などといった点を見出すことができた。また、近江地方の性学墓では遠隔地でさえも下総と同様の墓制を貫き、あくまでも性学墓にこだわろうとした性学教団の強いこだわりを見ることができた。こうした性学墓の基盤は幽学の時代に始まりを確認できるものの、厳格なまでに規律化されたのは、性学活動が精神修行的側面を強めた二代目、三代目の教主の時代のことだった。
鎌田, 奈菜子
本稿は久保田藩苗字衆の各家に残る文書群を対象として、「史料空間」という作業概念を用いながら、文書群の特徴に鑑みて藩主・本藩下達文書と苗字衆によって共有された文書の作成授受の過程、およびその過程における「場」での機能について明らかにすることを目的としている。大名家一門を対象とする研究は主に歴史学の分野で近年活発に行われている。しかし、史料学・アーカイブズ学の視点からの分析は目録の解題による概説的なものにとどまっており、先行研究の蓄積は未だ少ないのが現状である。そこで、久保田藩の大名家一門である苗字衆の各家に残る文書群を対象として、本藩から伝達された法令や苗字衆各家で共有された書状類の作成授受過程について考察を加えた。主に対象とした年代は、藩内が政治的・経済的に混乱し藩主交代が続いていた宝暦- 明和期である。考察の結果、藩の最高法令「御条目」の伝達における家臣団の行為や座列には身分秩序が顕著に現れており、家臣団の秩序の維持・強化として機能していたことが明らかになった。また、苗字衆家内部では本藩への伺や評議を経て法令がより実務に即した形に転化し、家中・組下に共有された。そして苗字衆間で共有された文書の分析により、情報蓄積と文書授受には、藩主不在時には在所から久保田に出府し城下で藩政補佐を行う、という苗字衆独自の政治的役割が関係していることを述べた。
前川, 喜久雄 西川, 賢哉
『日本語話し言葉コーパス』コア中の母音に、声質研究用に各種音響特徴量を付与する試みについて報告する。母音の無声化等によって測定不可能な母音を除いたすべての母音を対象に、F0, インテンシティ, F1, F2の平均値、jitter, shimmer, signal to noise ratio, H1*-H2*, H1*-A2, H1*-A3*等の声質関連情報、さらに発話中の位置に関するメタ情報などを付与し、RDBで検索可能とした。この情報の応用上の可能性を示すために、主要な音響特徴量が発話中の位置に応じてどのような変化を示すかを検討した。F0やインテンシティだけでなく、H1関連指標などにも発話末において一定の値に収束する傾向が認められた。
仲間, 正浩 加藤, 道浩 Nakama, Masahiro
安全な登はん活動をするためには最新の岩場の情報を的確に把握し、その場所にある登はんルートを登るのに十分な技術を持つ必要がある。しかし、従来のメディアでは、岩場の情報と登はん技術教材が別々に提供されきた為に、両者の関連を把握することが難しかった。本研究では、これらを統合したデータベースを構築することでこの問題を克服する試みを行ってきた。また、書籍やビデオ等の既存のメディアを利用する場合に出てくる様々な問題点を分析し、それをコンピュータを利用して解決する方法を検討してきた。本稿では、岩場の情報と登はん技術教材をデータベースとして統合する手法について述べ、次いで、マルチメディアを効果的に利用したユーザインタフェースの概要を示す。
渡邊, 友香 西川, 賢哉 WATANABE, Yuka
『日本語日常会話コーパス』(CEJC)の短単位情報付与作業では、次の4段階の作業工程、(i)転記をMeCab(解析器)+UniDic(解析辞書)で自動解析、(ii)音声を聴取しながら、付加情報の一つである「発音形」のみを人手修正、(iii)人手修正された発音形を尊重しつつ再び自動解析、(iv)短単位情報(境界情報、発音形以外の付加情報)を人手修正、を踏んでいる。今後の(iv)人手修正作業の参考とするため、人手修正済みデータを対象に、複数の版の現代話し言葉UniDic(Ver2.2.0, 2.3.0, 3.0.1, 3.1.0)を用いて(i)-(iii)を自動で実施し、その出力と人手修正結果とを比較した。その結果、UniDicの版が新しくなるにつれて誤解析の頻度が低下し、向上が見られたものの、誤りやすい個所がなお残っていることがわかった。特に、品詞が 「記号」「代名詞」「接続詞」「名詞-助動詞語幹」「名詞-固有名詞-人名-一般」「名詞-固有名詞-一般」となるべき語は、UniDicの版が新しくなっても別の品詞として解析される、短単位境界を誤るなど、誤解析が起こりやすい。
春遍, 雀來 HALPERN, Jack
情報交流の国際化に伴い多言語情報の充実は今や喫緊の課題である。特に固有名詞やPOI (points of interest)は膨大な数量に加え頻繁な名称変更にも対応する必要があるため,正確で充実した多言語辞書データ資源が必須だ。そこで,機械翻訳の作業効率と精度を格段に向上させる,超大規模辞書データ資源(Very Large Scale Lexica: VLSL)の構築例として,固有名詞・専門用語等を含む日中韓英辞書データベースや多言語固有名詞辞書データベースを紹介する。VLSLは情報検索・形態素解析・固有表現認識・用語抽出等,自然言語処理の幅広い分野に応用が可能で更なる展開が期待される。
市村, 太郎 村山, 実和子 ICHIMURA, Taro MURAYAMA, Miwako
筆者らは,現在,国立国語研究所で開発が進められている『日本語歴史コーパス』の一部として,近世洒落本を対象とするコーパスを開発しており,その試作版を『ひまわり版「洒落本コーパス」Ver. 0.5』(2015年10月28日公開)として公開した。本コーパス構築にあたっては,他の『日本語歴史コーパス』所収のコーパス同様,文書構造に関する情報や形態論情報を付与するとともに,新たに所蔵版本への画像リンクや,詳細な話者情報を付与する試みを行った。これにより,近世資料の持つ地域差・位相差にも配慮した近世語コーパスのモデルを示すことができた。
浅原, 正幸
本研究では『現代日本語書き言葉均衡コーパス』に対して付与された,文の読み時間データ『BCCWJ-EyeTrack』と,名詞句の定性などの情報構造アノテーションデータの対照分析を行った。日本語母語話者24 人分のデータを線形混合モデルにより分析した結果,特定性(specificity)・有情性(sentience)・共有性(commonness) が文の読み時間に影響を与え,それぞれ異なったパターンの読み時間の遅延を引き起こすことがわかった。特に共有性においては新情報(hearer-new)・想定可能(bridging) が識別可能なレベルで異なった。このことは,ある名詞句が言語受容者にとって新情報なのか想定可能なのかを読み時間データから推定することができる可能性を示唆しており,文書要約のユーザ適応などの応用に利用することが期待できる。
衣畑, 智秀 KINUHATA, Tomohide
日本語の「逆接」の研究においては,個々の形式がどのように対立しているかを捉えるための,理論的枠組みについての考察が十分ではなかった。本稿では,関連性理論を援用し,話し手の知識や対話における情報の処理についての理論的考察を行い,これを踏まえることで,ノニ,ケド,テモといった「逆接」の接続助詞が適切に記述できることを示した。一般に「逆接」では,何らかの含意関係が否定されていると言えるが,この含意関係が,ノニは,話し手の「知識」という特殊なものであり,ケド,テモは,「文脈」という発話解釈に一般的な情報である。主節の制約やニュアンスなどのノニの特殊性は,この否定される含意関係の特殊さから説明することができる。一方,ケドとテモは,「文脈」が否定される中で,前者が前件と後件がそれぞれ独立した情報として扱われているのに対し,後者は前件と後件が合わさって一つの情報として処理される,という対立を成している。
小椋, 純一 Ogura, Jun'ichi
2011年3月に発生した福島第一原発事故は,東日本大震災を引き金にして起きたものであったが,その原発事故により広大な国土が放射能に汚染され,国土の一部は長く人が住むこともできない大地となり,また今後長期にわたり多くの人々への健康被害が懸念されるなど,大災害となった。その大災害に至った1つの大きな要因として,メディアによる原発の必要性や安全性などを訴える広告などの情報が,原発の問題を指摘する情報よりもはるかに多大であったこともあるが,その一方で,本来伝えられるべきであったと思われる原発関係の情報が十分伝えられてこなかったということがあると思われる。そうした情報の中で,本稿では,福島での原発事故が起きるまでは最悪の原発事故であった旧ソビエトのチェルノブイリ原発事故後による食品汚染についての情報について検討した。1986年に起きたその原発事故により,タイやフィリピンなどでは大きな放射能汚染食品騒ぎがあったが,少なくとも関西地方ではほとんど伝えられなかった。それらのニュースの内容をタイなどの地元紙の記事などから確認し,それらが実際にあまり報道されるべき価値のないものであったのかどうか検討した。また,それらのニュースが日本国内で実際にどの程度報道されたのかについて,国内の強力な新聞記事等のデータベースである「日経テレコン」により確認した。一方,福島第一原発事故から5年以上を経て,放射能汚染食品や放射線による健康被害など,また原発関連の報道が十分になされない部分が出てきている。その近年の状況についても,データベース利用などにより確認し考えてみた。メディアの編集者が放射能汚染食品や人々の健康被害に関する情報を制限する背景として,社会的不安などが生じることへの配慮もあると思われるが,正しい情報が伝えられないことにより,福島での原発事故の忘却が早められ,しっかりと原発について考えようとする流れが弱められている。
熊谷, 康雄 KUMAGAI, Yasuo
1989年度より,国語年鑑と図書館のシステム化を目的とした作業を開始した。このシステムは研究所における文献情報の収集,整理,2次情報の作成に関しての計算機によるシステム化を目指したものである。それまでは手作業で行われていた作業を機械化し,作業の効率化と機械可読データの蓄積によるデータの有効利用によって,研究所における継続的な文献データベース作成のためのシステムの基礎作りを目指したものである。1994年度までに,国語年鑑に関する機械化を目指した範囲の全体をおおうことができた。この報告では,これまでの経過をまとめつつ,文献情報のデータベース化と目録作成のシステム化のために行った作業のうち,特にこの国語年鑑の機械化に関わる部分について報告した。システムはパーソナルコンピュータ上に構築した。
藤本, 灯 韓, 一 高田, 智和 FUJIMOTO, Akari HAN, Yi TAKADA, Tomokazu
古代の日本の辞書には,様々な構造を持つものがあり,各辞書の構成や仕様を理解していなければ解読が困難な面があった。また注文から必要な情報を抽出するためには,隈なく目視で捜索する必要があった。順不同に入り組んだ注文の情報から,効率的に目的の情報に到達するためには,注文に存在する要素の属性が,それぞれ可能な限り定義づけられているべきである。本稿では,平安時代の代表的な漢和辞書である『和名類聚抄』を例として,いかにその構造を記述することが可能か,検討し,『和名類聚抄』の内容に適したタグを設計した。
松平, 好人
本研究は、大阪市よる中小企業イノベーション(新規事業)促進政策の効果を明らかにし、仮説の構築を目的とする。分析対象は「大阪トップランナー育成事業(TR 事業)」とし、研究方法に事例分析を用いる。効果を明らかにするため、「市場志向」及び「情報的資源」という2 つの変数を採用した。仮説構築のため、2 社の事例分析の結果を総合し、仮説を精緻化した。インタビューと質問票調査に基づく2 社事例の総合から、次の2 点を明らかにした。第一に、TR 事業の支援によって、中小企業を市場志向的組織へと変化を促し、組織文化として根づかせた。その上で伴走支援による情報的資源の提供により、最終成果につながるとの効果を明らかにした。第二に、「支援が最終成果につながるためには、市場志向と情報的資源の一方の条件だけでは不十分で、市場志向の醸成が必要条件、情報的資源の獲得が十分条件となり、最終成果にプラスに影響する」との仮説の構造を示した。
米盛, 徳市 Yonemori, Tokuichi
北大東小学校を実践校,都市地区の浦添市立前田小学校を研究協力校として,平成8年度から10年度にかけ,文部省による「へき地学校高度情報通信設備(マルチメディア)活用方法研究開発事業」に関わってきた。研究の主題は,衛星通信による情報通信設備(マルチメディアテレビ会議システム)を用いた双方向遠隔協同学習の活用方法に関する検証・研究である。本稿では,この事業に参加して得られた貴重な体験を論じることにした。
ケリ, 綾子 Kelly, Ayako
日本語を習得する上で,日本を理解し学習意欲を向上させるために,日本事情のテーマとしてふさわしいものは何か,そしてどのようにして授業を進めていくのが効果的なのかを,アンケート結果をもとに考察しカリキュラムを構成し実践した。その結果,特に実習,体験学習,見学を通して学ぶことに留学生は意義を見い出していることがわかった。また留学生の発表する活動については,教室外での学習を促すことになり,自ら取り組み理解を深めることができた様子がうかがえた。つまり,日本事情のカリキュラムの組み立てや内容を考えるにあたっては,情報を与えるに留まらず,能動的な活動を取り入れる必要性があると言える。さらに異文化を理解し,受け入れ,また自国文化との相違点や共通点などを考え,意見を述べることが出来るようなテーマを選ぶ必要があると考えられる。
門田, 岳久 Kadota, Takehisa
本論文は消費の民俗学的研究の観点から、沖縄県南部に位置する斎場御嶽の観光地化、「聖性」の商品化の動態を民族誌的に論じたものである。二〇〇〇(平成一二)年に世界遺産登録されたこの御嶽は、近年急激な訪問者の増加と域内の荒廃が指摘されており、入場制限や管理強化が進んでいるが、関係主体の増加によって御嶽への意味づけや関わり方もまた錯綜している。例えば現場管理者側は琉球王国に繋がる沖縄の信仰上の中心性をこの御嶽に象徴させようとする一方、訪問者は従来の門中や地域住民、民間宗教者に加え、国内外の観光客、修学旅行客、現場管理者の言うところの「スピリチュアルな人」など、極めて多様化しており、それぞれがそれぞれの仕方で「聖」を消費する多元的な状況になっている。メディアにおける聖地表象の影響を多分に受け、非伝統的な文脈で「聖」を体験しようとする「スピリチュアルな人」という、いわゆるポスト世俗化社会を象徴するような新たなカテゴリーの出現は、従来のように「観光か信仰か」という単純な二分法では解釈できない様々な状況を引き起こす。例えばある時期以来斎場御嶽に入るには二〇〇円を支払うことが必要となり、「拝みの人」は申請に基づいて半額にする策が採られたが、新たなカテゴリーの人々をどう識別するかは現場管理者の難題であるとともに、この二〇〇円という金額が何に対する対価なのかという問いを突きつける。古典的な枠組みにおいて消費の民俗学的研究は、伝統社会における生活必需品の交易と日常での使い方に関してもっぱら議論されてきたため、情報と産業によって欲求を喚起されるような高度消費社会的な消費実践にはほとんど未対応の分野であったと言える。しかし斎場御嶽に明らかなように、信仰・儀礼を含む既存の民俗学的対象のあらゆる領域が「商品」という形式を介して人々に経験される時代において、伝統社会から「離床」した経済現象としてこれを扱うことは、現代民俗学の重要な課題となっている。
山田, 奨治
本論文では認知科学、美術史、文学史、芸道論、知的財産法などをてがかりに、類似性の科学への糸口と社会的要請・意義、情報伝達と創造性の観点からみた模倣の情報文化論の可能性について述べる。類似は人間の学習・認識過程の根底に深くかかわるものであり、模倣は人と人の間あるいは文化と文化の間の情報伝達、さらには創造性の問題に直結する課題を内包している。一九八〇年以降急速に発達した認知科学は、類似とは何かについての基礎を与えてくれるだろう。絵画・陶芸・産業技術史を振り返れば、模倣が円滑な情報伝達と文化のダイナミズムを生み出してきたことがわかる。また模倣と創造性は密接に関連している。日本の芸道では集団的共同体的なものを基盤としながら、その上に繊細で微妙な個性を追加して内面を引き出す感性がみいだされる。その個性は「風」とよばれる。現代のわれわれは、形の模倣の下にある「風」の創造性を感じ取る能力を退化させてしまったように思う。類似性と模倣をめぐる今日的な課題は、知的財産法とりわけ著作権法の諸問題である。著作権法は文化的創作活動の結果を経済財に転換し、経済原理のなかで文化的活動をして富を生み出さしめる効果をもっている。また著作権法ではオリジナリティという近代の幻想を前提としている。類似性と模倣をめぐる考察は、現代の情報文化が取り残しつつある何かを思い起こさせてくれるだろう。
神部, 尚武 KAMBE, Naotake
読みの眼球運動において,熟練した読み手が,一つの停留中にどのくらいの範囲から情報を受けとっているかをしらべるために実験をおこなった。被験者が,視野を制限するスリットを手にもって,それを自分で文章の上にすべらせながら読みすすめる場合と,スリットをもたずに普通に読む場合の眼球運動を比較した。この結果から,一つの注視点に停留している間に情報が収集される範囲は,被験者によって個人差があるが,9文字から12文字の範囲であることが明らかになった。注視点の平均的な移動距離は,3文字から5文字の間である。このことは,読みの過程において,一つの注視点に停留している間に,つぎに注視点が移動する場所からも何らかの情報をまえもって受けとっていることを示している。
王, 怡人 金丸, 輝康
本稿は,消費者の中小製造企業に対するネット口コミ状況に関する質問票調査の結果を整理したものである。調査では,ネット口コミを「自発的情報発信」と「情報拡散」に分け,「企業への態度」,「企業や商品の利用経験」,「メディアの種類」,「ネット口コミの動機」のという 4 つの変数を用いて質問票を構築した。その結果の詳細を以下に記す。
水澤, 幸一
本論文では,越後国奥山荘研究の全体を俯瞰する試みを提示した。まず,中世における奥山荘の立地を当時の地理的状況を整理して提示し,奥山荘がおかれていた新潟平野の状況を明らかにした。その結果,阿賀北地域で最も重要だったのは,阿賀野川の水運であり,湿地帯を縦横にめぐる水路網が荘園の存立基盤であったことがわかった。奥山荘は,東国では珍しく鎌倉時代以来の古文書を多数遺しており,鎌倉期の荘園絵図も2葉現存していることから,早くから研究が行われ,1984年の史跡「奥山荘城館遺跡」の指定とその後の調査,『中条町史』の刊行などを研究史抄としてまとめた。次いで,文献からみた奥山荘研究として,『中条町史』等によって城氏から三浦和田家の動向をまとめ,奥山荘の村々,境界,政所条の所在検討,城館,信仰と寺社,その他の風景,「越後過去名簿」からみた奥山荘といったテーマごとに概観し,現状をまとめた。そして考古学からみた奥山荘研究として,平成の約30年間に発掘調査された遺跡群について地域ごとに総覧し,それらの意義付けを行った。特に奥山荘中条の中心地と目される政所条遺跡群についての調査成果は,荘園の中心地の調査として注目される。また,中世石造物の分布等からの検討も実施した。以上のとおり,一荘園の調査法として,文献と考古学を両輪として活用し,研究の現状をまとめ,日本史における地域史研究の重要性について論述した。今後とも年々更新されていく考古学データを付加しつつ,地元からの情報発信を継続していく必要がある。
加藤, 祥 浅原, 正幸
『現代日本語書き言葉均衡コーパス』の書籍サンプルにはNDC情報が付与されており,構築当時に情報のなかった書籍などへの増補も行われた(加藤ほか2021)。また,コーパスに付与されたNDCを利用することで,ジャンル別の特徴語の抽出などが試みられてきた(内田・藤井2015)。しかし,一般動詞など,多義的あるいは補助的に使用される語は,語義情報なしでは語彙としての分布傾向が見られにくく,ジャンル横断的な分布となる。そこで,本稿は,増補したNDC(加藤ほか前掲)を用いてジャンルの語彙分布を再確認するとともに,分類語彙表番号の付与されたBCCWJ-WLSP(加藤ほか2019)と重ね合わせることにより,語義分布に内容別の傾向が見られることを確認する。
山口, 昌也 YAMAGUCHI, Masaya
本稿は,『国会会議録検索システム』に収録されている国会会議録のテキストデータに基づき,全文検索システム『ひまわり』用の『国会会議録』パッケージを構築する方法,および,構築結果を報告する。本パッケージには,1947(第1回)~ 2012年(第182回)に開催された衆議院・参議院の本会議,および,予算委員会の会議録11106件(約4.49億字)を収録している。本パッケージは言語表現の経年変化分析を行うために設計され,会議情報,発言者情報,会議録の構造情報がXMLで付与されている。本稿では,まず,XMLタグを設計するとともに,原資料の表記上の手がかりを使って,設計したタグを会議録に自動的にアノテーションする方法を示す。次に,考案した手法に基づいて『国会会議録』パッケージを構築する。また,構築したパッケージに収録した会議録の基礎情報を示す。最後に,『国会会議録』パッケージを使って,(a)経年変化が大きい表現を抽出する方法,(b)抽出された表現に対する経年変化要因を調査する方法を示すことにより,『国会会議録』パッケージの有用性を示す。
賀茂, 道子
本稿は,占領期に実施された言語改革の政治的側面を検討するものである。連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)は,複雑な日本語表記システムが民主化のための情報アクセスへの障害になると考え,言語改革を推し進めようとした。とりわけGHQによる民主化のための情報発信を日本人が理解できないことが問題視された。そのため,GHQが想定したリテラシーとは,新聞や憲法などを読んで理解できる能力であった。しかしながら,占領体制が安定し民主主義が浸透するなか,民主化のための情報発信も減少したことで,言語改革はローマ字化といった抜本的なものではなく,部分的な改革に終わった。同様に,リテラシーを測るための「日本人の読み書き能力調査」は,社会生活を送るうえでの最低限の能力を測るものへと変節した。しかしながら,漢字の削減などの言語簡易化によって民衆の情報アクセスは容易になっただけでなく,GHQの意向を斟酌した日本側の自主的な動きによって天皇の言葉や法律が口語化したことにより,民主化の動きを加速させたと考えられる。
松田, 謙次郎 MATSUDA, Kenjiro
Seifart et al.(2010)およびSeifart(2011)は名詞・代名詞・動詞の談話中における相対頻度数(NTVR)が言語内で,また言語間でも大きな分散を示し,類型論的に興味深い分布を示すものであることを明らかにした。ここでは岡崎敬語調査(国語研1957, 1983, 阿部(編)2010, 西尾他(編)2010, 杉戸2010a, 2010b, 松田他2012, Matsuda 2012, 松田他2013, 井上・金・松田2013)の回答文に形態素解析を施したデータを分析することで,(1)NTVR が回答者の加齢に影響を受けずほぼ一定の値を保っており類型論的指標として信頼しうる安定性のある数値であること;(2)NTVR には性差が見られ男性の値の方が女性の値より高いこと;(3)この性差が敬語補助動詞の使用頻度の性差によるものであると考えられること,の3点を主張する。NTVRは生涯変動を見せない安定した指標であるが,NTVR算出を目的とした談話データの使用に際しては,当該言語の社会言語学的変異にも配慮する必要がある。また,この研究は形態素情報付き岡崎敬語調査発話データの有用性の一端を示すものであり,こうしたデータの活用によって,岡崎敬語調査のデータは計画当初考えられていたものよりも遙かに多くの多種多様な言語学的問題に解答を与えることが期待される。
宮田, 公佳 Miyata, Kimiyoshi
撮影画像から被写体の分析を行う画像解析の手法を文化財へ応用するための基礎検討を行った。画像解析を行うためには専用の装置が必要となることも多いが,近年では高性能化した画像機器を測定器として活用できる可能性が高くなったことで,画像解析に対するハードルは低くなっている。本研究では,科学的あるいは化学的な分析手法との連携を視野に入れ,一般的な写真撮影技術を基本とした簡便な手法によって資料分析に有用な情報を抽出することを目指している。そのための基礎検討として,画像撮影時に使用する光源とフィルタによって,画像化に寄与する光の波長を選択する手法に着目した。対象資料として,研究用資料である火縄銃と錦絵を用いている.本研究は基礎検討の段階であるため,抽出された資料情報が分析上有意であると結論づけるのは困難である。しかしながら,画像解析の有用性の検証には事例の積み重ねが必要であり,本研究による結果もその一例として位置付けられる。本研究で使用した波長選択が可能な光源,あるいは画像処理技術との組み合わせによる画像解析事例を収集し,有効性を継続検討する必要がある。画像の中には多くの情報が含まれているが故に,解析に必要となる情報が隠蔽されている可能性がある。波長選択という手段は,そのような膨大な画像情報の中から解析に必要な情報を抽出する手段の一つとなる.本稿で述べた波長選択手段は,個別に適用するだけでなく,互いに組み合わせることでより解析の精度を高めることが可能であるが,どのように組み合わせることが有機的な方法なのか,また画像解析と科学的あるいは化学的分析手法との連携方法を構築することが今後の研究課題である。
緒方, 茂樹 Ogata, shigeki
近年のテクノロジーの進歩に伴って、学校教育におけるICT機器の活用は急速に進められている。これからの学校教員はICT機器の活用に関してこれまでのように一部の専門家に頼るのではなく、教員が自分自身で活用できる基礎的なスキルを身につける必要がある。このことはまた、教員養成系大学において、ICTの活用に関する講義を授業科目として提供することはもちろん、実際に自分の研究や勉強に役立てる実践的かつ応用的なICT機器の活用をゼミなどで積極的に取り入れることが不可欠であることを示している。本稿では主にiPadを活用したゼミの取り組みを中心に、研究室で行っている学生に対する研究や論文指導の実践例を事例として紹介する。紹介する事例は総務省によって全国で展開されてきた「フューチャースクール」の取り組みのように大がかりなものではない。しかし機器設定の工夫により、それと類似した環境設定は不可能ではなかった。特に「学生教育用Wi-Fi環境jを独自に構築することで、教員と学生が「情報の検索と閲覧に関わる内容の共有」を容易に図ることができるようになった。さらに将来的には大学のみならず、教育現場とも協力した「共有情報アーカイプ」作成の可能性もみえてきている。現在研究室で行っている実践は、これから教員になる学生がクラウドコンピューテイングなどの新たなネットワーク環境を学び、将来的に教育現場でICT機器を十分に活用していくためのスキルを身につけるためのひとつの試みであると考えている。
クレインス, フレデリック
本稿では、幕末の日本に滞在したオランダ軍医ポンペ・ファン・メールデルフォールトの著作『日本滞在見聞記』を取り上げ、その中の日本史に関する記述を注釈を付けて和訳した上で、典拠などと照らし合わせて分析し、ケンペル、ティチング、シーボルトの日本研究の系統を受け継いだポンペの日本史観がいかなる特殊性を有するものかについて論じた。 分析の結果、ポンペの日本史観には次の三つの特徴があることを指摘した。 一つ目は、ポンペが先達の日本史研究を拠り所にしながらも、幕府の成立したその過程において重要な役割を果たした源頼朝、豊臣秀吉、徳川家康という人物について当時の読者に対して多くの新しい情報と詳細な分析を提供していることである。この点においては、ポンペは従来の文献研究から離れて、日本史について直接日本人から情報収集を行っていたとの結論に至った。 二つ目は、ポンペが西洋の日本史関係著者の中で初めて政治形態を基準にして、日本史の動きの大勢を的確に捉えられる明瞭な時代区分を行ったことである。この点においては、ポンペの視点はケンペルのキリスト教的史観やシーボルトの民族学的史観のような従来の西洋的視点と異なることを指摘した。 三つ目は、ポンペがオールコックをはじめとする同時代の他の西洋人の日本関係著者と異なり、天皇を日本の真の主権者として位置づけて、天皇と将軍との関係史を通じて幕末の政治的事情を解明しようとしていることである。この背景に天皇の復古主義の影響が見受けられることを指摘した。
石田, 一之 Ishida, Kazuyuki
ドイツ国内において、数多くの機会において、国民による自国の経済システムに対する評価が減退していることが示され、ドイツ国内ではそのような情報には多くの注目が集められた。ドイツ連邦経済技術省(現経済エネルギー省)科学諮問委員会は、この問題を重要な政策課題として認識し、経済システムに対する評価の問題を受容問題(Akzeptanzprobleme)という形で提起し、その取り組み内容は、2009年9月の所見(Gutachten)にまとめられた。その後、ドイツ社会政策学会(Verein für Socialpolitik)においても、市場経済の受容問題が取り上げられ、2013年に論集にまとまられている。2009年の「秩序経済学へのフライブルグ学派シンポジウム」の市場経済と社会的正義にかかわるセッションの中でも取り上げられている。経済システムに対する受容の問題は、一般的な市場経済システムの受容の問題と、経済システムにおける公正や正義に関する受容の問題との2つの項目に大別できる。
福田, アジオ Fukuta, Azio
考古学と民俗学は歴史研究の方法として登場してきた。そのため,歴史研究の中心に位置してきたいわゆる文献史学との関係で絶えず自己の存在を考えてきた。したがって,歴史学,考古学,民俗学の三者は歴史研究の方法として対等な存在であることが原理的には主張され,また文献史学との関係が論じられても,考古学と民俗学の相互の関係については必ずしも明確に議論されることがなかった。考古学と民俗学は近い関係にあるかのような印象を与えているが,その具体的な関係は必ずしも明らかではない。本稿は,一般的に主張されることが多い考古学と民俗学の協業関係の形成を目指して,両者の間についてどのように従来は考えられ,主張されてきたのかを整理して,その問題点を提示しようとするものである。柳田國男は民俗学と考古学の関係について大きな期待を抱いていた。しかし,その前提として考古学の問題点を指摘することに厳しかった。考古学の弱点あるいは欠点を指摘し,それを補って新しい研究を展開するのが民俗学であるという論法であった。したがって,柳田の主張は考古学の内容に踏み込んだものであり,彼以降の民俗学研究者の見解が表面的な対等性を言うのに比較して注目される点である。多くの民俗学研究者は,考古学と民俗学の対等な存在を言うばかりで,具体的な協業関係形成の試みはしてこなかった。その点で,柳田を除けば,民俗学研究者は考古学に対して冷淡であったと言える。それに対して,考古学研究者ははやくから考古学の研究にとって民俗学あるいは民俗資料が役に立つことを主張してきた。具体的な研究に裏付けられた民俗学との協業や民俗資料の利用の提言も少なくない。しかし,それは考古学が民俗学や民俗資料を参照することであり,考古学の内容を豊かにするための方策であった。その点で,両者の真の協業は,二つの学問を前提にしつつも,互いに参照する関係ではなく,二つの学問とは異なる第三の方法を形成しなければならない。
遠藤, 聡志 岡﨑, 威生 當間, 愛晃
本稿では知能情報コースで実施した学習サポート事業の概要を紹介するとともに、利用実態とその影響について報告する。利用者追跡調査からはおおよそ平均GPAの継続した改善がみられ、一定の効果を確認することができた。
山崎, 誠 YAMAZAKI, Makoto
1 いわゆる引用の助詞とされる「って」には,大きく分けて引用・伝聞・提題・強調の4つの用法がある。(ここでは,前2者をあつかう)2 引用の「って」は,発話・思考を提示するものがもっぱらであり,「と」にくらべると用法は限定されている。3 伝聞の「って」は,「って」が単独で用いられるものと,「(ん)だって」「(ん)ですって」のように複合辞的に用いられるものとがある。4 「(ん)だって」「(ん)ですって」は,いわゆる伝聞(情報伝達)と伝聞の確認(情報確認)の2つの用いられ方をする。これらは,それぞれ情報伝達および情報確認における流れを乱さないように用いられる。いわゆる「伝聞」は,伝聞だけを表すのでなく,伝達・確認というはたらきも合わせ持っている。5 一方,よく似たかたちで,「(ん)だって」「(ん)ですって」という複合辞が存在する。これには,意外・驚きを表すものと,発話をそのまま提示するものとがある。それぞれ,引用・伝聞両方の特徴を持っているが,前者は伝聞的な性質が強く,後者は引用的な性質が強い。
山崎, 誠 柏野, 和佳子 宮嵜, 由美
本稿では「現代日本語書き言葉均衡コーパス」の図書館サブコーパスに含まれる小説(NDCで913, 923など)のサンプルにおける会話文に話者情報を付与した結果とそれを用いた分析について紹介する。付与したサンプル数は2,663サンプルである。付与した話者情報は「話者名、性別、年齢層」(これらは必須)のほか、「話者の社会的属性(職業など)、会話相手の情報、会話モード(電話での会話、方言での会話、外国人の会話等)」なども全てのサンプルにではないが付けている。「話者名、性別、年齢層」については、「中納言」の検索結果に表示することを計画している。また、その他の話者情報は、中納言のサイトからBCCWJ所有者に限りダウンロードできるようにする予定である。分析から分かったこととして以下の4点を挙げる。(1)小説の全センテンスの約4割が会話文であること。(2)性別では女性の会話文が全体の約3割であること。(3)年齢層では約75%が成年層の会話であり,若年層は約20%,老年層は約5%であること。(4)会話モードでは、電話による会話が全体の約4%程度あること。また、方言による会話文が約5,000あり、その多くは大阪を中心とした関西の方言であること。
櫻井, 芽衣子
換言の接続表現「つまり」は、先行部を具体的に説明したり、要点をまとめたり、分かりやすく言い換えたりすることを示す。「つまり」による換言の様相を『現代日本語書き言葉均衡コーパス』で見ると、先行部と後続部の結びつきが百科事典的知識に基づいてるため文脈から切り離しても換言が成立するものと、文脈から独立させると換言が成立しているかどうか判断できないものとがある。先行部と後続部の結びつき自体に文脈の影響があるといえる。また、文脈より換言の内容に関わる情報を得ることもあれば、換言の観点に関わる情報を得ることもある。異なるレベルで文脈が関与しており、特に、読み手の理解を促す換言のための情報提示という文脈の影響は、文章の一貫性を分析する上で重要な観点となると考えられる。
青木, 睦 AOKI, MUTSUMI
本稿は、東日本大震災の被災を受けた岩手県、宮城県県内における基礎自治体の組織アーカイブズの発災時の消滅状況や発災後の取り組み、救助・復旧を検証し、今後に向けた課題を提示することを目的とした。東日本大震災の被災地を分析対象とし、筆者の実施組織である国文学研究資料館の事例とともに、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、国立公文書館・群馬県立文書館、被災庁舎を調査した調査報告等を取り上げて整理した。各組織の活動実践を分析した結果、被災前の文書管理の組織体制や情報システムの状況が震災によりどのような被害をうけ、救助の経過とともに、それらがどのように復旧、再生に向けて動いていったか、今後の大規模災害に備えた必要な対策がどうあるべきかということを再検討する。最後に、被災アーカイブズの保存の課題、今後の被災資料の復旧支援とその課題をまとめて提案したい。
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