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冨田, 千夏
収集した古文献資料の長期的な維持管理のなかで、資料を電子化することは資料保存の目的や利用者の利便性を高める意義もあり、近年多くの資料保存機関がデジタルアーカイブ事業を展開している。デジタルアーカイブを構築・運営していく上で多くの機関が直面している問題は「如何にして長期的に維持するか」であり、その難しさは現在利用ができない「沖縄の歴史情報研究会」の事例が物語っている。本稿では、デジタル化された資料の長期維持に向けた取り組みとして、「人文学に情報学の技法や技術を応用する」学問である人文情報学(Digital Humanities)の手法を取り入れ琉球大学附属図書館の「琉球・沖縄関係貴重資料デジタルアーカイブ」をIIIF (International Image Interoperability Framework)へ対応した事例や「沖縄の歴史情報研究会」にて作成された「琉球家譜」のデータを再利用する試みを紹介する。現在利用ができない状況である「沖縄の歴史情報研究会」テキストデータのうち、CD-ROM版に収録されていた「琉球家譜」のデータについては現在の環境に適したデータの形へ変換することで再度利活用が可能である。「琉球家譜」のデータファイルを現在の環境で利用可能なデータに変換した上でデファクトスタンダードであるTEI(Text Encoding Initiative)に適用する試行的な取組みを通して、デジタル化された資料の長期的な維持について機関側と研究者が出来る事とは何かを検討し、今後のデジタルコンテンツのあり方について課題を共有したい。
島村, 恭則 Shimamura, Takanori
近年,民俗学をとりまく人文・社会科学の世界において,パラダイムの転換が見られるようになっている。それは,たとえば,個人の主体性に重きを置かない構造主義的な人間・社会認識に対する批判と乗り越え,「民族」「文化」「歴史」といった近代西欧に生まれた諸概念の脱構築,他者表象をめぐる政治性や権力構造についての批判的考察の深まりといった動きである。
Kobayashi, Masaomi 小林, 正臣
本稿は、これまで人文科学において広範に実践されてきた「文化的研究(Cultural Studies)」の在り方について検証している。自然科学における実証と異なり、人文科学における論証は、なるほど厳密な客観性を要求されない場合が往々にしてある。したがって、ある社会における文化と別の社会における文化に、あるいは一つの社会における複数の文化の相違に個別性と連続性を見出しつつ、それらの問題を文化の問題として論じることには、それなりの学問的価値はあるだろう。しかし、Bill Readingsが指摘するように、個々の集団間の差異性と連続性の問題を「文化」という観点から総括してしまうことには議論の余地がある。なぜなら、それは否定的な意味における還元主義的な論法となる危険性があるからである。一方、社会科学においても還元主義的な論法は存在する。たとえば、新古典派経済学は、社会における人間の活動を利益の追求または最大化という観点のみから説明する傾向がある。かくして本稿は、人文科学(例えば文学)と社会科学(例えば経済学)の学際性を図る際には、それら学際的研究の個々が「特殊(specific)」であるべきであり、学際性を総括的な概念としてではなく、永続的に追求されるべき概念として捉えることを提唱している。
安達, 文夫 鈴木, 卓治 小島, 道裕 高橋, 一樹 Adachi, Fumio Suzuki, Takuji Kojima, Michihiro Takahashi, Kazuki
人文科学の分野において,様々なデータベースが作成され,多くがネットワークを介して公開されている。これらのデータベースをまとめて検索できるようにすることにより,個別のデータベースの所在やその操作方法を意識することなく検索が可能となる。
大西, 拓一郎 ONISHI, Takuichiro
言語地理学は,その学術的展開とともに語形分布の2次元空間的配列関係を基盤とした歴史的解釈に目的を焦点化させるに至ったが,そのような方法では,例えば待遇表現のように地域が持つ社会的特性と言語が関連を持つ事象の分析に十分対処することができない。また,配列関係に基づく解釈においても,その背景にある地理的情報を検討することは必要である。本来,言語地理学は言語外の情報と言語情報を空間的に照合することで,言語=方言と人間の実生活との関係を見ていくことに,そのダイナミズムがあった。そのような出発点に立ち戻るなら,地理情報システム(GIS)は,言語地理学を再生させるための大きなキーとなるものである。
Kobayashi, Masaomi 小林, 正臣
本稿はMartha WoodmanseeとMark Osteenが提唱する「新経済批評(The New Economic Criticism)」を検証しながら、文学と経済学の新たな学際性を模索する。社会科学としての経済学は数式を多用した限定的な意味における「科学」を標榜する傾向にあり、人文科学としての文学は経済学-多数の学派に基づく経済学-をマルクス経済学に限定して援用または経済学の専門用語などを誤用する傾向にある。これら問題点を考慮しながら、本稿は両学問の類似性と相違点を認識することの重要性を強調する。例えば、Donald McCloskeyが指摘するように、経済学は数式を用いながらも言語による論証を行うことにおいて修辞的である。またPierre Bourdieuが指摘するように、言語と貨幣は機能的に類似する点が多くあり、それゆえ文学と経済学の「相同関係(homology)」が考えられる。しかし相同関係を発見する一方で、それら学問間の絶えざる緊張関係を維持しながら新たな相互関係を構築する必要があり、その際の媒介を果たすのが新経済批評である。換言すれば、文学は経済学を始めとする諸科学の理論を導入しながら、それら科学に新たな返答をすることが可能な「場」であると認識することで、両学問は相互的な知的活性化を永続できる。かくして本稿は、文学と経済学の学際性の追求は「未知(notknowing)」の探求であると結論する。
相田, 満
哲学用語「存在論」に由来する「オントロジ」は、情報学においては「概念間の関係の明確な定義の集まり」として、それを実装する「トピック・マップ」とともに、情報リソースから独立した上位層に位置付けられ、情報を意味的に組織化、検索、ナビゲートするための新しいパラダイムとして注目を集めている。
相田, 満
哲学用語「存在論」に由来する「オントロジ」は、情報学においては「概念間の関係の明確な定義の集まり」として、それを実装する「トピック・マップ」とともに、情報リソースから独立した上位層に位置付けられ、情報を意味的に組織化、検索、ナビゲートするための新しいパラダイムとして注目を集めている。
相田, 満
哲学用語「存在論」に由来する「オントロジ」は、情報学においては「概念間の関係の明確な定義の集まり」として、それを実装する「トピック・マップ」とともに、情報リソースから独立した上位層に位置付けられ、情報を意味的に組織化、検索、ナビゲートするための新しいパラダイムとして注目を集めている。
後藤, 斉 GOTOO, Hitosi
本稿は,コーパス言語学をもっとも発達させたイギリスにおける事情と日本におけるコーパス研究の位置づけとを対比しつつ歴史的に概観して,その発展の違いの要因を探り,あわせて今後に対するなにがしかの見通しを得ようとするものである。イギリスにおいてコーパス言語学が発達したことには,主要因としては言語研究の流れに沿うものであったことが挙げられ,ほかにもいくつかの言語内的および言語外的要因が挙げられる。それに対して,日本では,計算機利用の言語研究の歴史は長いが,コーパスの概念の精緻化には至らず,現在,代表性を備えていて,人文系の研究者が共有できるようなコーパスが存在しない。現在の不十分なコーパスでも意味論の研究などに利用することが可能ではあるが,国立国語研究所が「現代日本語書き言葉均衡コーパス」の構築に着手したことの意義は大きい。ただし,それを十分に生かすためには,利用考の側にも主体的な努力が求められる。
柏野, 和佳子
国語学の領域において,多義語の曖昧性解消過程は十分に解明されていない。他方,日本語処理においては,語の曖昧性を解消するための計算機用の辞書研究が進められている。曖昧性の解消に有効な辞書情報として,格パターン情報が知られていた。しかしながら,格パターン情報だけでは十分とは言えなかった。コロケーションの曖昧性の分析を通じ,曖昧性の解消には,名詞句,格助詞,述語という単純な格パターンだけではなく,連体修飾句,連用修飾句,格表示に関しての詳細な情報を盛り込んだ統語情報が必要であること,さらに,形態や文脈に関する情報も必要になることが分かった。今後,その必要な情報の内容を明らかにするために,多義動詞の曖昧性解消過程を解明する研究を行っていく。
神崎, 享子 KANZAKI, Kyoko
「動詞+動詞」型の複合動詞は,使用頻度の面でも表現力の面でも,日本語に特徴的な語彙であるが,統語的,意味的情報を付与してデータベース化している研究はまだ少ない。そこで,本稿では,語彙的複合動詞の形態的,統語的,意味的情報にとって何が必要かを検討する。まず,研究書や辞書などから収集した約2500語の複合動詞について量的観点から構成をとらえる。次に,情報付与の検討にあたって,既存のデータベースの現状を調査し,どのような情報が不足しているかを探る。そして,現在の言語学の複合動詞研究と,既存の基本動詞辞書の両方の観点から,必要な情報をまとめ整理し,それらの情報を実際に付与するにあたり,どのような基準あるいは知見を参考にするかを述べる。最後に,第一段階で構築中のデータベースの一部を掲載する。
新田, 保秀 仲間, 正浩 沖田, 憲生 Arata, Yasuhide Nakama, Masahiro
本学部における小学校教員養成課程をとりまく情報教育環境を知る目的で、小学課程学生を対象にアンケート調査を行った。その結果、学生はコンピュータに対する関心は非常に高く、教育、趣味等の広い分野において、それを活用したいと思っているが、実際の情報関連科目の履修状況はきわめて低いことが明らかになった。そのギャップを埋め合わせ情報教育の推進を計るためには、教育学部において小学課程の学生を対象に、コンピュータの初歩的利用法、CAIソフトの利用法及び作成、マルチメディアの教育への活用等、学生の要求に沿うような、あるいは興味をそそる様な、魅力ある情報関連科目のクラスを開設する必要があろう。
小島, 美子 Kojima, Tomiko
日本音楽の起源を論じる場合に,他分野では深い関係が指摘されているツングース系諸民族についてその音楽を検討してみなければならない。しかしこれまではモンゴルの音楽についての情報は比較的多かったが,ツングース系諸民族の音楽については,情報がきわめて乏しかった。そのため私は満族文化研究会の共同研究「満族文化の基礎的資料に関する緊急調査研究―とくに民俗学と歴史学の領域において―」(トヨタ財団の研究助成による)に加わり,1990年2月に満族の音楽について調査を行った。本稿はその調査の成果に基づく研究報告である。
福田, 秀一 HUKUDA, HIDEICHI
鎌倉後期乃至未期に成った三つの私撰集,「続現葉集」(現存10巻。もと20巻か。元亨3年成り,同年増補か。撰者は為世か)・「臨永集」(10巻。元徳3年成る。撰者は未詳だが,浄弁が関係するか)・「松花集」(現存4巻余。もと10巻か。これも元徳3年成る。浄弁が関係し,或いは彼の撰か)は,二条派の当代歌人の集として当時の歌壇(観点によっては一部の武家教養屑をも含む)や歌風を探る資料として注意される上,互に関連を有し共通する作者も多いので,かつてこの三集を併せた形の作者索引を公にした(『武蔵大学人文学会雑誌』第三巻第二号,昭46.10)が,その後に発見された巻四・六等によって今回増補し,また気づいた誤を訂した。
富澤, 達三 Tomizawa, Tatsuzo
近年、急速なデジタル社会の到来により、人文系の研究者もパーソナルコンピューター(パソコン)の活用が必須条件となりつつある。多くの研究者が、論文の執筆をパソコン上でワープロソフトを使って執筆しており、今後もさらなるデジタル機器の利用が予想される。本稿では、文化系研究者のワープロソフト以外のパソコン利用の実例として、簡易なデータベースの構築と、近世絵画資料のデジタル化の事例を紹介する。
西川, 賢哉 玉, 栄 前川, 喜久雄 YU, Rong
モンゴル語アクセントの音声学的特徴を把握するために筆者らが設計と実装を進めている単語読み上げ音声データベースについて報告する。CSJ-RDBを参考に,「語」「音節」「音素」「分節音」という,階層関係が認められる4つの単位を設定したうえで,以下のテーブルから構成されるRDB(リレーショナルデータベース)を構築した:(i) 上記の単位ごとに発話中の要素を記述したテーブル[単位テーブル],(ii) 単位間の対応関係を記述したテーブル[関係テーブル],(iii) 音響情報(F0,インテンシティー)を記述したテーブル[音響情報テーブル],(iv) メタ的情報(話者情報など)を記述したテーブル[メタ情報テーブル]。これらのテーブルを相互に関連付けることにより,「母音の持続長を,それが所属する音節の構造/音節の位置ごとに比較する」といった,複数の単位にまたがる分析を容易に行なうことができる。
山田, 嚴子
小川原湖民俗博物館は1961年に渋沢敬三の秘書であった杉本行雄が青森県三沢市に設立した民間博物館であった。2006年に経営が破綻し,建物の老朽化から2015年に廃館となった。筆者は2015年に当該博物館の旧蔵資料の移設に関わり,旧蔵資料の一部を勤務先の弘前大学人文社会科学部で預かり,整理と公開に努めてきた。その結果次のようなことが分かった。
森山, 克子 Moriyama, Katsuko
食育と海洋がコラボレーションする食育情報教材「Q-食マスター」を開発した。そこで、本報は、ゲーム内容と効果の検証のため、実践例を報告することを目的とする。実践校より、児童は「楽しみながら海の食材の学習をしていた」また、学習後「児童がゲームの料理を給食にリクエストし、それを受けて栄養士が生きた教材として、給食で提供した。児童は食べることで再び海洋を学んだ」と報告があった。食育は、給食を生きた教材として海洋教育や情報教育でも活用できることが示唆された。
松田, 陽子 前田, 理佳子 佐藤, 和之 MATSUDA, Yoko MAEDA, Rikako SATO, Kazuyuki
本稿は,日本で大きな災害が起きたとき,日本語に不慣れな外国人住民に,必要な情報をどう提供すべきかについての検討を進めてきた研究成果の一部である。95年に起きた阪神・淡路大震災以来,社会言語学や日本語教育学を専門とする言語研究者が集まり,日本語にも英話にも不慣れな外国人居住者に対して,災害時には「どのような情報を」「どう流すのか」について考えてきた。本稿は,最後の課題である「どういう手段で」について論じたものであり,「簡単な日本語での日常会話ができる程度の外国人にも理解できる日本語を用いた災害情報の表現のしかた」および「その有効性」について記した試論である。今回提案したやさしい日本語の表現を用いて,日本語能力が初級後半から中級前半程度の外国人被験者へ聴解実験を行ったところ,通常のニュース文の理解率は約30%であったが,やさしい日本語を用いたニュースでは90%以上になるなど,理解率の著しく高まることが確認された。
森山, 克子 金城, 千秋 高吉, 裕士 Moriyama, Katsuko Kinjyo, Chiaki Takayoshi, Yuji
平成22年、子供たちが、「食育」から「海洋」を学ぶことができる食育情報教材Q-食マスターを開発した。その効果を検討するために、平成23年11月~3月、沖縄県那覇市立城東小学校の特別支援教室で授業を行った。児童や教諭のアンケートから、本教材は、児童の海洋に関する理解、興味、関心を高めることが可能であるとわかった。また、本教材は、家庭科、道徳、学級活動、給食指導と幅広い教科等で、「食育」から「海洋」を学習する食育情報教材としての期待ができることもわかった。
伊藤, 薫 森田, 敏生
現代において,コーパスは言語研究に欠かせない資源となっている。言語学の分野では検索・閲覧・集計インターフェイスを備えたコーパスの利用が多いが,情報学等の分野で作成されたコーパスには必ずしもインターフェイスが提供されるわけではない。類型論研究での活用が期待されるUniversal Dependencies(UD)ツリーバンクもそのようなコーパスの1つである。そこで本研究では,既存の高機能コーパスツールであるChaKi.NETを情報抽出用に特化し,新規ユーザにも利用しやすい軽量版であるChaKi.NET liteを開発した。ChaKi.NETは高機能であるがゆえに利用者にとっての学習コストが高かったが,ChaKi.NET liteではUDに合わせたインターフェイスを提供し,アノテーション機能を省くことで目的の機能を利用しやすくした。本稿ではChaKi.NET lite開発の背景と機能について紹介する。
清水, 郁郎 SHIMIZU, Ikuro
昨年度おこなわれた「モノと情報」班の第4回ワーキング・セミナーでは、東南アジア大陸部社会に特徴的な事象を人類学的、民族誌的に踏まえたモノ研究の可能性が議論された。この報告書は、そこで議論された諸問題を再度整理し、同地域におけるモノ研究の今後の方向性について検討するものである。
Kobayashi, Masaomi 小林, 正臣
本稿はアメリカ社会における「人格性(personhood)」という問題の在り方の時代変遷を幾つかの文学作品を批評しながら検証している。とくに肥満体の正当化を目的とする運動は、肌の色などの外見による差別への抗議を含んだ公民権運動と同様に、外見の人格性に関する社会的事象として捉えられる。この点を論証するうえで本稿は、肥満体の人物が登場するチャールズ・ブコウスキーとポール・オースターの諸作品に注目する。それらにおける肥満体の描かれ方を分析すると、戦前と戦後、具体的には1930年代と1960年代の2世代における肥満体に対する意識の変遷が理解できる。そして「人物」に関する議論は、「人」であり「物」である法人に関する議論と不可分である。たとえば、リストラによる組織の「縮小化(downsizing)」という用語が示すように、人間の解雇の問題は法人の肥満の問題でもある。かくしてレイモンド・カーヴァーの小説において頻出する失業問題は、現実または社会における「人」と法律または経済における「人」の対立として考察できる。そして、この対立に関する判例は増加傾向にある。したがって本稿は、人格性に関する議論を通じて、人文科学としての文学と社会科学としての法律学や経済学との新たな学際的研究を行うための試論である。
本書は、フィリピンのアクラン州のNew Washington地区やBatan地区の河口域における漁具や漁法を掲載したものです。漁具・漁法の記述とともに、どのようにその漁法が選択されるのか、漁獲生物の生態や行動が漁獲効率にどのように影響を及ぼすのか、漁獲漁業の調査をフィールドでどのように行うのか等について記載されています。また、現地漁民がそれぞれの漁具・漁法を選択するに至った生物学的、社会学的情報についても記載しています。
新谷, 尚紀 Shintani, Takanori
本稿は日本各地の葬送習俗の中に見出される地域差が発信している情報とは何かという問題に取り組んでみたものである。それは長い伝承の過程で起こった変遷の跡を示す歴史情報であると同時にその中にも息長く伝承され継承されている部分が存在するということを示している情報である。柳田國男が創生し提唱した日本民俗学の比較研究法とはその変遷と継承の二つを読み取ろうとしたものであったが,戦後のとくに1980年代以降の民俗学関係者の間ではそれが理解されずむしろ全否定されて個別事例研究が主張される動きがあった。それは柳田が創生した日本民俗学の独創性を否定するものであり,そこからは文化人類学や社会学との差異など学術的な自らの位置を明示できないという懸念すべき状況が生じてきている。日本民俗学の独創性を継承発展させるためには柳田の説いた視点と方法への正確な理解と新たな方法論的な研磨と開拓そして研究実践とが必要不可欠であり,民俗学は名実ともに folklore フォークロアではなく traditionology トラデシショノロジイ(伝承分析学)と名乗るべきである。日本各地の葬送習俗の伝承の中に見出される地域差,たとえば葬送の作業の中心的な担当者が血縁的関係者か地縁的関係者かという点での事例ごとの差異が発信している情報とは何か,それは,古代中世は基本的に血縁的関係者が中心であったが,近世の村落社会の中で形成された相互扶助の社会関係の中で,地縁的関係者が関与協力する方式が形成されてきたという歴史,その変遷の段階差を示す情報と読み取ることができる。本稿1は別稿2とともに今回の共同研究の成果として提出するものであり,1950年代半ばから70年代半ばの高度経済成長期以降の葬儀の変化の中心が葬儀業者の分担部分の増大化にあるとみて現代近未来の葬儀が無縁中心へと動いている変化を確認した。つまり,葬儀担当者の「血縁・地縁・無縁」という歴史的な三波展開論である。そしてそのような長い葬儀の変遷史の中でも変わることなく通貫しているのはいずれの時代にあっても基本的に生の密着関係が同時に死の密着関係へと作用して血縁関係者が葬儀の基本的な担い手とみなされるという事実である。近年の「家族葬」の増加という動向もそれを表わす一つの歴史上の現象としてとらえることができる。
前川, 喜久雄 MAEKAWA, Kikuo
本稿の前半では基幹型研究「コーパスアノテーションの基礎研究」の現状を紹介した。このプロジェクトでは,既存コーパスの利用価値を向上させるために必要とされるさまざまな言語的アノテーションについての研究を進めている。本稿ではそのうち,係り受け構造,拡張モダリティ,時間情報,語義,節境界,形態論情報をとりあげて解説した。本稿の後半ではもうひとつの基幹型研究「コーパス日本語学の創成」を紹介した。このプロジェクトはコーパス日本語学の振興を直接の目的とする戦略的プロジェクトである。振興のための主要な手段として位置付けている「講座日本語コーパス」と「コーパス日本語学ワークショップ」について説明した後,具体的な研究成果の一例として,『日本語話し言葉コーパス』(CSJ)を用いた日本語イントネーション研究の事例を紹介した。PNLPと呼ばれる東京語の韻律特徴は,1959年に発見されて以来現在までその言語的機能が不明のままであった。今回,X-JToBI韻律アノテーションの施されたCSJ-Coreのコンピュータ分析によって,PNLPは原則として1発話に1回だけ生じて発話の頂点を表示するとともに,典型的には発話の次末アクセント句に生じて発話の終端を予告する境界機能をあわせもっていることが判明した。
日地谷=キルシュネライト, イルメラ
世界における日本研究は、当然それぞれの国における学問伝統と深く結びついている。そのため、19世紀末以降のドイツ日本学の発展は、学問的に必須の道具である、辞書、ハンドブック、文献目録などの組織的な編纂と歩みをともにしてきた。そのような歴史の中ではこれまで、和独・独和辞典や語彙集など、1千を超える日独語辞典の存在が確認されている。1998年にその編纂作業が始まった、和英・英和辞典などをも含めた、日本における2か国語辞典編纂史上最大のプロジェクト、包括的な「和独大辞典」全3巻は、今その完成を目前にしている。この辞典編纂の過程は、ここ何十年かの学問に関する技術的・理論的問題にも光を当ててくれると思われるのだが、その問題とは、辞書編纂に関するものだけではなく、例えばディジタル化、メディアの変遷、日本の国際的地位、人文科学と呼ばれる学問に関わる問題でもある。その意味からも、新しいこの「和独大辞典」誕生までの道筋は、「日本研究の過去・現在・未来」について、多くのことを語ってくれるに違いない。
千田, 嘉博 Senda, Yoshihiro
日本における城郭研究は,ようやく基本的な所在や遺跡概要の情報を集積する段階を終え,そうした成果をもとに新しい歴史研究を立ち上げていく新段階に入ったと評価できる。従来の城郭研究は市民研究者によって担われた民間学として,おもに地表面観察をもとにした研究と,行政の研究者による考古学的な研究のそれぞれによって推進された。しかしさまざまな努力にもかかわらず地表面観察と発掘成果を合わせて充分に歴史資料として活かしてきたとはいい難い。
国立国語研究所は,1988年12月20日(火)に創立40周年をむかえた。それを記念して,同日,「公開シンポジウム『これからの日本語研究』」が国立国語研究所講堂でひらかれた。本稿はそのシンポジウムの記録である。 (ただし,集録にあたっては,本報告集の論文集としての性格を考慮し,あいさつ,司会の発言は省略し,発表内容に関する発言のみを集録した。)ひとくちに「日本語研究」といっても,その研究対象は多様であり,また研究の視点・方法も多様である。そして,近年その多様性はますます拡大する傾向にある。このような状況をふまえ,今回のシンポジウムでは,(1)理論言語学・対照言語学,(2)言語地理学・社会言語学,(3)心理言語学・言語習得,(4)言語情報処理・計算言語学という四つの視点をたて,それぞれの専門家の方に日本語研究の現状と今後の展望を話していただき,それをもとにこれからの日本語研究のあり方について議論するという形をとった。
北川, 浩之
日本文化は日本の自然や社会と親密に結びついている。日本文化をより深く理解するには、その歴史的な変遷を明らかにする必要がある。そのためには正確な時間目盛が必要不可欠である。さらにそれは、国際的な比較から日本文化の研究を進める場合、世界的に認知された共通の時間目盛である必要がある。そのような時間目盛の一つに「炭素14年代」がある。炭素14年代は考古学、歴史学、人類学、第四紀学、地質学などの日本文化に深く関係する研究分野に有益な情報を与えてきた。これらの研究分野に炭素14年代を適用する際、年代測定に用いることができる試料の量が限られ、試料の量の不足から年代測定できないことが往々にある。したがって、少量試料の炭素14年代測定法の確立が望まれている。
佐藤, 仁 森, 雅生 高田, 英一 小湊, 卓夫 Sato, Hitoshi Mori, Masao Takata, Eiichi Kominato, Takuo
本稿の目的は、大学評価を通して個々の大学は情報をどのように共有化し、活用してきたのかという点に関し、九州大学大学評価情報室の取組を分析し、その到達点および今後の展望を明らかにすることにある。評価情報室では、大学評価への対応を契機に、教員の教育研究等に関する情報データベースの開発、そして組織情報としてのマネジメント情報の収集を行ってきた。これらの活動を通して収集されたデータや分析された情報を大学活動の改善や意思決定に有効に活用するためにも、情報の共有と立場を超えたコミュニケーションの促進によるデータニーズの明確化とそのための体制作りが必要である。
前川, 喜久雄
話しことばは書きことばよりも多くの種類の情報を伝達している.音声は論理的な言語情報の他に感性的なパラ言語情報を伝達している.この発表では標準的な日本語を対象として,代表的なパラ言語情報がどのような音声的特徴によって伝達されているかについて報告し,あわせてパラ言語的情報がどの程度正確に伝わるかという問題にも触れる。
米谷, 博 Kometani, Hiroshi
江戸時代末期の下総地方における大原幽学の農村指導は、農業技術や日常生活にとどまるものではなく村の伝統的習俗にまで及んでいる。しかし、内容によっては古くからの習慣と対立するものもあり、門人たちの活動はそうしたさまざまな問題を乗り越えて実践されたものだった。そうした習俗改変の形跡は門人たちの墓制にも見ることができる。性学関係者の墓地は各地に設立された教導施設に付随して形成されたが、そこでは在地の墓制とは異なる彼等独自の墓制が行われ、現在まで続いている場所もある。しかし明治期後半以降の性学活動の沈滞化にともなって、各地に残るそれらの墓地も開設当所の意味は薄らぎ、現代的な墓地へと大きく変更されつつあるのが現状である。本稿はそうした性学門人の特徴ある墓制を性学墓として捉え、現状および聞き取り情報も含めて関連する資料をできるだけ紹介することを第一の目的とした。併せてこれまで研究対象とされてこなかった性学墓を、幽学研究の舞台へはじめて登場させようとするものである。
山田, 奨治
六十四種類の「百鬼夜行絵巻」を対象に、その図像の編集過程の復元を試みた。描かれた「鬼」の図像配列の相違に着目し、情報学の編集距離を使って絵巻の系統樹を作成した。その結果、真珠庵本系統の「百鬼夜行絵巻」の祖本に最も近い図像配列を持つのは、日文研B本であるとの推定結果が得られた。また合本系の「百鬼夜行絵巻」についても図像配列を比較し、それらの編集過程の全体像を推定した。
呂, 政慧
本論文は、清朝末期の中国湖北省師範留学生が編纂した音楽教科書『音楽学』(一九〇五年)を取り上げ、近代における曲の越境をめぐる受容と変容の問題を論ずるものである。まず先行研究を参照しつつ、中国・日本・西洋それぞれにおける「唱歌」の概念とその変遷及び中日における唱歌教育の歴史を振り返ったうえ、『音楽学』の編纂者や出版情報の分析に基づき、本書が中日音楽交流史における重要な位置を占めることを明確にした。次に、『音楽学』所収の四十二曲の唱歌が参照した元歌を可能な限り検証し、『音楽学』の唱歌と日本、更に西洋の曲との受容関係を表で示した。最後に、日本の曲に新たに中国語の歌詞が付された唱歌を歌詞の変化の度合いにより「翻訳唱歌」と「翻案唱歌」に分類し、それぞれ元歌との比較分析を行った結果、日本人の民族精神を高揚させる日本の唱歌から中国の民族精神を高揚させる中国の唱歌に変貌をとげたことも指摘できた。
石黒, 圭
日本語教育の目的が学習者による日本語運用力の獲得にあり、日本語教育学の目的がその獲得を支援する日本語習得支援研究であると考えると、日本語教育学では、学習者が日本語という言語をどのように身につけていくのか、その習得過程を記述・分析する基礎資料、すなわち学習者コーパスの構築が必要になる。ところが、新型コロナウィルス感染症の世界的流行により、JFL 環境で学ぶ海外の学習者のもとを訪れての現地調査も、JSL 環境で学ぶ国内の留学生との対面調査も困難になってしまった。そこで、本稿では、現地調査や対面調査を行うかわりに、オンライン環境を活用して収集する作文コーパス、会話コーパス、ゼミ談話コーパスの収集法を紹介した。たとえコロナが終息したとしても、パンデミックの状況下で急速に発展したオンライン・コミュニケーションが今後衰退化することは考えにくく、むしろポストコロナ時代にあっては、オンライン・コミュニケーションにおける学習者の日本語運用のデータ蓄積が重要になる。その意味でも、本稿で示したようなオンライン環境を活用した調査法の試行錯誤と研究者間での情報共有が、日本語教育学の発展のカギとなると見込まれる。
宮田, 公佳 松田, 政行 Miyata, Kimiyoshi Matsuda, Masayuki
博物館は文化財及び歴史資料のみならず,写真,書籍,調査研究報告書,論文等に至るまで,多種多様な資料を有している。後世に永く伝えられるべきこれらの資料は,それ自体が情報であるだけでなく,新たな情報を獲得するための情報資源である。近年では博物館情報資源の多くがデジタル化されており,その有効活用のためには情報機器や各種技術が必要となっている。高性能かつ安価な情報機器と高度な関連技術を用いることによって,従来では実現困難であった博物館情報資源の活用方法が見出されている一方で,技術的に可能なことが適法であるとは限らない状況が生じうる。したがって,博物館情報資源を活用するためには,技術的な課題と法律的な対処方法との両立が求められる。そこで本論文では,両者を比較対比することで相互の関連性について理解を深め,さらに博物館情報資源を機能的に活用する手法について議論する。
スルダノヴィッチ エリャヴェッツ, イレーナ 仁科, 喜久子 SRDANOVIĆ, ERJAVEC Irena NISHINA, Kikuko
近年コーパス構築と利用に関してのさまざまな研究が展開しているが,本稿ではコーパス検索ツールSketch Engineの日本語版作成と利用方法について報告する。標準的なコーパス検索ツールと異なる点は,コンコーダンス機能以外に語に付随する文法とコロケーション情報をWeb上の1頁にまとめる"Word Sketch"機能を持ち,シソーラス情報や意味的に類似する語の共通点と差異を示す"Thesaurus"と"Sketch Difference" 機能を含むことである。現在のSketch Engine 日本語版はJpWaCという4億語の大規模Webコーパスを有しており,他のコーパスを搭載することも可能である。本稿では,Sketch Engineによるコーパス利用の例として日本語学習辞書に焦点を当て,さらに日本語学研究,日本語教育などへの応用の可能性について述べる。
斎藤, 秀紀 SAITO, Hidenori
本稿は,国立国語研究所における機械辞書の歴史的な背景,各種漢宇調査情報と市販の漢和辞書情報の結合によって期待できる利用上の相乗効果,機械辞書のデータベース化と項目内容(見出し漢字:9731字,付加情報:40項目)の検索方法について述べた。また,データベース化された漢宇情報は,調査情報の履歴管理,蓄積デーに対する索引機能,共通インタフェースの多様化と情報接点の拡張,コンピュータ処理費用の軽減にも有効であることを示した。その他,JIS 2バイト系の拡張計画に対し,現在すでに拡張漢字として使用している漢字コードとの間に問題が生じる可能性を指摘した。同様に,市販漢和辞書のCD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory)化は,日本語の外字処理の軽減が期待される反面,字形の相違が情報交換上の問題を広げることについてもふれた。
福嶋, 秩子 FUKUSHIMA, Chitsuko
アジアとヨーロッパの言語地理学者による各地の言語地図作成状況と活用方法についての国際シンポジウムでの発表をもとに,世界の言語地理学の現状と課題を概括する。まず,言語地図作成は,方言境界線の画定のため,あるいは地図の分布から歴史を読み取るために行われてきた。さらに言語学の実験や訓練の場という性格もある。地図化にあたり,等語線をひいて境界を示すこともできるが,言語の推移を示すには,記号地図が有用である。また,伝統方言の衰退もあって社会言語学との融合が起き,日本ではグロットグラムのような新しい調査法が生まれた。情報技術の導入により,言語地図作成のためのデータは言語データベースあるいは言語コーパスという性格が強まった。コンピュータを利用した言語地図の作成には,1.電子データ化,2.一定の基準によるデータの選択・地図化,3.他のデータとの比較・総合・重ね合わせ・関連付け,4.言語地図の発表・公開,という4段階がある。最後に,言語地図作成の課題は,言語データの共有・統合,そして成果の公開である。
加藤, 聖文 KATO, KIYOFUMI
個人情報保護法施行後、各地の現場では個人情報の明確な定義もなされないまま過剰反応ともいえる非開示が行われている。本稿では、岩手県・佐賀県などでの事例を挙げつつ、国の法と地方の条例との大きな相違点とその問題点を検証し、個人情報に対する過剰反応が通常業務に支障を与えることを明らかにする。また、国民に対する説明責任と健全な市民社会育成の観点から個人情報公開の必要性を論じ、最後にアーキビストとして個人情報といかに向き合うべきかについて問題提起を行う。
山中, 延之 YAMANAKA, Nobuyuki
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01885)の助成を受けたものである。
平野, 多恵 HIRANO, Tae
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01879)の助成を受けたものである。
小山, 順子 KOYAMA, Junko
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01886)の助成を受けたものである。
北原, 糸子 Kitahara, Itoko
本稿は,災害情報を近世社会の情報構造のなかに位置づけるための基礎的作業の一環である。先に,災害によって発生した地変を書き留めた絵図を中心に,絵図情報の発信主体,受け手などによって,領主支配層,領内村落支配層,個人,かわら版などの出版業者の四カテゴリーに分け,災害絵図情報の社会的機能を分析した(「災害絵図研究試論」『国立歴史民俗博物館研究報告』81集,1999)。前稿におけるこの情報の四カテゴリーを踏まえ,本論では1840年代後半から50年代にかけて頻発する巨大災害の先駆けを成した善光寺地震の災害情報全般の分析をまず試み,各所に書留として残る資料の大半が被災地域の支配者から幕府に届けられる被害届で占められていることを検証した。また,被災地情報を正規のルートに載せ,広く販売しようとする地震摺物の出版には,それに関わる一群の地方支配層と都市における儒学者や国学者などの知的交流を踏まえたネットワークの存在が不可欠であったことが明らかになった。さらに,被災地を遠く離れた都市では,災害情報に限らず珍事,その他事件を伝える情報を積極的に入手し回覧し合う町人,武士などの身分的制約から解き放たれた同好グループが存在し,彼らの間では善光寺地震の情報が個人的興味に基づく差異を含みながらも,大半が支配層間で交わされる被災届などで占められていたことを明らかにした。
岡﨑, 威生
本稿では、情報科学演習の位置付けを紹介するとともに、共通教育におけるこれからの情報教育の果たすべき役割と実施について論じる。
坂本, 稔 西谷, 大 齋藤, 努 Sakamoto, Minoru Nishitani, Masaru Saito, Tsutomu
縄文土器産地の自然科学的な推定法として,青銅製遺物中の鉛の産地推定に成果をあげている鉛同位体比の適用を試みた。士器胎土に含まれるアルカリ長石は鉛の濃度が高く,その同位体比は初生時の値を保持しているのて,地質学的な情報を反映している。土器の胎土から重液分離法によりアルカリ長石を抽出し,高周波加熱分離―鉛同位体測定法により鉛同位体比を測定した。
北村, 啓子 KITAMURA, Keiko
国文学研究の分野でも、インターネットでの情報発信が急激に増加している。特に電子化された翻刻テキストや原本の影像データなどデジタルアーカイブは研究に利用できる価値ある情報を容易に入手、閲覧することのできる有力な手段である。しかし、インターネット上の膨大な情報の中から必用な情報を見つけ出すことは容易ではないことは誰しも経験しているであろう。インターネット検索システムの現状を報告し、国文学のデジタルアーカイブの所在情報を提供する手段を考案し、その実験の報告をする。また国文学研究者の利用に供するまでの今後の計画を記しておく。
阿尾, あすか AO, Asuka
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01883)の助成を受けたものである。
小林, 一彦 KOBAYASHI, Kazuhiko
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01882)の助成を受けたものである。
山下, 則子 YAMASHITA, Noriko
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01878)の助成を受けたものである。
入口, 敦志 IRIGUCHI, Atsushi
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01877)の助成を受けたものである。
福田, 智子 FUKUDA, Tomoko
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01880)の助成を受けたものである。
石井, 倫子 ISHI, Tomoko
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01884)の助成を受けたものである。
斎藤, 達哉 新野, 直哉 SAITO, Tatsuya NIINO, Naoya
1985~2000年の『国語年鑑』の雑誌掲載文献の目録情報にもとづいて,分野別の文献数の動向調査を行った。雑誌掲載の文献の採録数は年鑑のデータベース化にともなって1991年に大きく減少したが,1994年以降は緩やかな増加傾向にある。その状況下で,国語学にとっての「中核的領域」の文献数は,近年,横這い状態になっている。そのなかでも,[文法]だけは増加している。いっぽう,国語学にとっての「関連領域」の文献数は,近年,緩やかな増加の傾向にある。とくに,[国語教育]が伸びを示している。また,[コミュニケーション][言語学]には「中核的領域」に含まれる内容の文献も多く,文献数においても上位を維持している。「関連領域」のなかでの大分野となっている[国語教育][コミュニケーション][言語学]については,『国語年鑑』で,それぞれの分野の下位分類を増補・改訂するなど,近年の研究動向に対応が必要な時期に来ているのではないかと思われる。
森, 大毅 MORI, Hiroki
Fujisaki (1996)は,音声に含まれる情報を言語的情報・パラ言語的情報・非言語的情報の3つに分類した。藤崎の定義では,転記可能性と話者の意識的な制御の有無が分類の要になっている。このため,話者の意識的な制御の有無が明確でない現象に関しては分類上の問題を生ずる可能性がある。特に,感情の扱いはしばしば問題となっていた。本研究では音声によるコミュニケーションの図式を整理し,話し手により意識的に制御された感情表出を適切に位置付けるために,メッセージ性をもって生成された感情表出と不随意的に生成された感情表出とを区別した。また,話者の言語的メッセージおよびパラ言語的メッセージと,聞き手が得る言語的情報およびパラ言語的情報とを区別し,それらの違いを明確に述べた。
西川, 賢哉
国立国語研究所で構築を進めている『日本語日常会話コーパス』(CEJC)のアノテーション作業(書き起こし・短単位情報付与作業)を支援するために,無償の音声分析ソフトウェアPraatを利用したツールをいくつか開発した:(i)[Praat起動]必要な情報(ファイル名・時刻情報等)が記されたEmacsバッファ,あるいは形態論情報修正ツール「大納言」の検索結果画面からPraatを起動し,転記情報とともに当該箇所を表示するツール,(ii)[転記保存]Praat TextGridEditor上で変更した転記を,CEJC転記ファイル(タブ区切り形式)に上書き保存するツール,(iii)[メモ]TextGridEdior上で選択された区間にある転記情報を,その他必要な情報(ファイル名・時刻情報等)とともにクリップボートにコピーするツール,(iv)[別音声聴取]当該会話に参加している別の話者の音声ファイルを追加で開くツール,など。これらのツールを用いることで,音声聴取をはじめとする,話し言葉コーパス構築に不可欠な作業が簡単な操作で行なえるようになり,作業の効率化および精度の向上が期待できる。
久保木, 秀夫 KUBOKI, Hideo
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01876)の助成を受けたものである。
宮内, 拓也 浅原, 正幸 中川, 奈津子 加藤, 祥 MIYAUCHI, Takuya ASAHARA, Masayuki NAKAGAWA, Natsuko KATO, Sachi
本稿では,『現代日本語書き言葉均衡コーパス』のテキスト(新聞(PN)コアデータ16サンプル)内の名詞句に対し,情報構造に関係する文法情報のラベル(情報状態,共有性,定性,特定性,有生性,有情性,動作主性)をアノテーションした結果を報告する。特に,本稿ではアノテーションの概要と基礎統計について述べる。ラベル間の対応をKappa値で評価した結果,先行研究で既にアノテーションされていた共参照情報を基にした情報状態と定性・特定性の間には中程度の一致(0.41以上)が見られたのに対し,今回新たに付与した共有性と定性・特定性の間にはほとんど完璧な一致(0.81以上)が見られた。冠詞選択に大きな影響を与える定性・特定性のアノテーションは,定性・特定性が話し手側により踏み込んだ概念であることから複雑で難度が高いため,他の文法情報で定性・特定性を推定する方がより容易であると考えられる。評価の結果は,定性・特定性の推定には,共参照情報を基にした情報状態だけでは十分でなく,聞き手/読み手の観点を考慮した共有性が重要であることを意味している。また,日本語では助詞「は」と「が」の使い分けについて,情報構造との関連が指摘されているが,付属語主辞とのラベルの関係を見ると,「が」「を」「に」は新情報が多く,「は」は若干旧情報が多いこと,「は」「の」に定性・特定のものが多く,「を」に不定・不特定のものが多いことがわかった。
淺尾, 仁彦
本研究では,形態素解析辞書『UniDic』への語構成情報の付与について紹介する。語構成情報とは,例えば名詞「招き猫」は,動詞「招く」と名詞「猫」の複合語であるといった情報を指す。日本語について語構成の情報が付与された公開データベースは,複合動詞など特定のカテゴリに限定されたものを別とすれば,管見のかぎり存在しない。このデータベースでは,『UniDic』に対して語構成情報をできるだけ網羅的に付与し,品詞・語種・アクセントなど『UniDic』に元々含まれている情報と組み合わせることにより,「名詞+動詞の複合名詞」,「アクセントが無核の動詞の名詞化で,アクセントが有核のもの」といった複雑な条件での検索を行うことができ,語彙論・音韻論・形態論などの多様な分野で言語資源として活用可能である。合わせて,開発中の検索インタフェースの紹介を行う。
富士ゼロックス京都, CSRグループ・文化推進室 Fuji Xerox Kyoto.Co,Ltd., CSR group, Cultural Promotion Office
本報告書は、国文学研究資料館の歴史的典籍NW 事業・国文研主導型共同研究「青少年に向けた古典籍インターフェースの開発」(研究期間:2015 〜17 年度、研究代表者:2015年度・田中大士、2016 〜17 年度・小山順子)の成果の一環である。なお本共同研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(A))「日本古典籍における表記情報学の発展的研究」(研究期間::2015 年4 月~ 2020 年3 月、代表者:今西祐一郎、課題番号:15H01881)の助成を受けたものである。
安達, 文夫 鈴木, 卓治 宮田, 公佳 Adachi, Fumio Suzuki, Takuji Miyata, Kimiyoshi
国立歴史民俗博物館では,日本の歴史と文化に関する研究の成果を,ネットワークを介して公開してきた.ここ数年は,一般利用者向けの情報提供と,歴史資料の原情報を提供するシステムを構築している。
浅原, 正幸 Asahara, Masayuki
本論文では『分類語彙表増補改訂版データベース』に対する単語親密度推定手法について述べる。分類語彙表に収録されている96,557項目に対する評定情報をYahoo!クラウドソーシングを用いて収集した。1項目あたり最低16人(異なり3,392人)の研究協力者に,内省に基づいて「知っている」「書く」「読む」「話す」「聞く」の評定情報付与を依頼した。研究協力者の評定情報から単語親密度をベイジアン線形混合モデルにより推定した。また,推定された単語親密度と分類語彙表の語義情報との関連性について調査した。
望月, 道浩 天願, 順優 Mochizuki, Michihiro Tengan, Junyu
『保育所保育指針解説』では、家庭との緊密な連携を図りながら養護及び教育を行うことの重要性が指摘されており、そのための情報共有や情報発信がより重要となっている。しかしながら、保育者が抱える業務負担という課題もあり、家庭との緊密な連携を図るための情報共有や情報発信は十分とは言えない状況が指摘されている。本研究では、沖縄県私立保育園連盟に加盟する全231園の私立保育園を調査対象とし、そのうちWebサイトを有していた212園について2020年6月~9月にかけてWebサイト調査を行い、そこで公開されているコンテンツの状況について明らかにした。その結果、園Webサイト基本情報に関する「①所在地情報」(193件、91.0%)、「②連絡先情報」(196件、92.5%)、「③園の概要や沿革」に関するページ(192件、90.6%)、「④園の保育方針や目標」に関するページ(196件、92.5%)、「⑤園の年間行事」に関するページ(193件、91.0%)、の5項目のコンテンツが9割を上回る結果となったものの、家庭との緊密な連携を図ることに関連する「子育て支援」に関する情報共有や情報発信の割合が低く課題であることが明らかとなった。
西川, 賢哉 渡邊, 友香 Watanabe, Yuka
『日本語日常会話コーパス』(CEJC)の短単位情報付与作業では、以下のような作業工程を踏んでいる:(i) 転記をMeCab(解析器)+ UniDic(解析辞書)で自動解析、(ii) 音声を聴取しながら、付加情報の一つである「発音形」のみを人手修正、(iii) 人手修正された発音形を尊重しつつ再び自動解析、(iv) 短単位情報(境界情報、発音形以外の付加情報)を人手修正。この作業工程の妥当性を検証するため、人手修正済みデータを対象に、複数の版の現代話し言葉UniDic(Ver2.2.0, 2.3.0, 3.0.1)で自動解析をしなおし、出力を比較した。その結果、どの版のUniDicを使っても、人手修正された発音形の情報を用いる方が、そうでない場合に比べ、短単位情報の精度向上を見込めることがわかった。特に、古い版のUniDic (Ver2.2.0)ではそれが顕著であった(境界+品詞+語彙素(F値):0.944→0.962)。一方で、最新版のUniDic (Ver3.0.1)では効果は限定的である(同:0.976→0.979)。
安永, 尚志 YASUNAGA, Hisashi
日本古典文学作品の校訂本による本文データベースを作成している。本文データベースは全文(フルテキスト)をデータベースとして定義するものである。全文には校訂に伴う各種情報が付加される。また、作品はそれ自体を記述する本文情報に加え、多くの属性情報を持ち、かつ作品特有の構造を持つ。
田中, 敦士 金城, 祥子 Tanaka, Atsushi Kinjo, Shoko
本研究では、特殊教育諸学校のホームページによる情報発信の現状と今後の課題を明確にし、地域のセンタ-校としての情報発信の在り方を検討していくことを目的とした。全国の盲・聾・養護学校1006校を対象とし、開設している自校のホームベージにアクセスし、どのような内容の情報発信を行っているかを閲覧調査した。ホームページの開設に関しては、盲・聾・養護学校の93.4%の学校で行われており、多くの学校が情報発信を行う手段として、インターネットの有効性を認めていると推測された。しかし、そのホームページで情報提供されている内容に関しては、充実しているとは言い難い。教育相談以外の研修支援、学校見学、教材・教具等に関する案内をホームページ上で行っている学校は極めて少なかった。盲・聾・養護学校が地域のセンター枝として情報提供機能が求められている中、ホームページからの情報提供や案内等を促進することが今後の課題であろう。また、それぞれの学校でホームページの更新を定期的に行ったり、それを管理する係を決めたり等、学校全体での管理体制を整えることによって、ホームページからの情報発信がより充実したものになるのではないかと考えられた。
伝, 康晴 小木曽, 智信 小椋, 秀樹 山田, 篤 峯松, 信明 内元, 清貴 小磯, 花絵 DEN, Yasuharu OGISO, Toshinobu OGURA, Hideki YAMADA, Atsushi MINEMATSU, Nobuaki UCHIMOTO, Kiyotaka KOISO, Hanae
コーパス日本語学への応用を指向した形態素解析用電子化辞書UniDicを開発した。大規模コーパスに対する形態論情報付与作業には,計算機を用いた形態素解析システムの利用が不可欠であるが,既存の形態素解析システム用辞書には,コーパス日本語学への応用を考える上でさまざまな不都合がある。1つは,単位の認定がある場合には長く,ある場合には短いといった不揃いがあることであり,もう1つは,異表記や異形態に対して同一の見出しが与えられないということである。言語研究で重要な要件となる,このような単位の斉一性や見出しの同一性への対処といったことを中心に,本電子化辞書の設計方針とそれを実装した辞書データベースシステムについて述べる。さらに,この設計の有用性を示すため,表記や語形の変異に関するコーパス分析の事例を紹介する。
川添, 裕子 Kawazoe, Hiroko
近代以降の身体観の変化と併行して,美容整形は拡大し続けてきた。美容整形に関する人文社会科学研究では,身体の管理・監視に焦点を当てた分析と,整形経験者の能動性に焦点を当てた分析が対立的な議論を構成してきた。しかしいずれも近代社会とその対極の個人という図式に依拠している点では共通している。近代的身体観と近代的個人の概念に基づいた分析においては,美容整形経験者の身体と自己は,社会に従属するか,あるいは他者と無縁に刷新されるものと描かれる。本稿は,術前から術後に亘る聞き取り調査をもとに,従来の研究では背景に退いていた状況性と関係性および手術後の馴じむ過程に着目して,日本の患者の身体と自己のありようについて検討するものである。
須田, 佳実 SUDA, Yoshimi
本稿は、沖縄県公文書館に所蔵されている『沖縄県史9巻沖縄戦記録1』関連資料群を事例に、オーラルヒストリー・アーカイブズ構築の意義と在り方を論じるものである。アーカイブズ学におけるオーラルヒストリーは、インタビューの場だけでなく、構想段階からインタビューの実地、そして編集の過程を経て刊行されるまでの一連の流れを指し、その過程で作成された記録をコンテクスト情報として残す必要性が訴えられてきた。しかし、そうした議論には現場とのずれがあった。そこで本稿では、コンテクスト情報として作成・捕捉されるべきと言われるのはどのような記録を指しているのか先行研究から概観し、そうした記録がもつ意味を『沖縄県史9巻沖縄戦記録1』関連資料群の中身と照合しながら分析を行った。『沖縄県史9巻沖縄戦記録1』は、現在のようなオーラルヒストリーの価値や方法論が確立する前に行われたオーラルヒストリーの嚆矢として、その画期性や歴史的意義が沖縄現代史やオーラルヒストリー、そして音声記録の保存と公開という点からアーカイブズ学においても注目されてきた。しかし、作成された資料群は、偶発的に残されたが故の課題を抱えていた。そうした課題に対し、不在の記録や語り手の主体という視点からもアーカイブズ構築を考えていくべきだという問題提起を行った。
岡, 照晃
本発表では、形態素解析器『MeCab』用の電子化辞書である短単位自動解析用辞書『UniDic』(『解析用UniDic』)のアペンドデータの公開について紹介を行う。『UniDic』は『MeCab』用の辞書の配布という外部公開形式をとっているが、v2.2からその解析結果中に各短単位のID情報を出力するようになった。この情報を使えば、所外の研究者が自ら拡張した新たなカラムの情報を『UniDic』短単位にひも付く形で配布することができ、研究者間での共有も可能になる。本発表では、短単位のID情報について詳説し、それにひも付け、公開を行なっているアペンドデータ『UniDic非コアデータ』を紹介する。
稲賀, 繁美
本稿は、一八世紀から一九世紀前半を中心として、日本にどのような西洋の知識が書物を介してもたらされ、それがどのように利用されたのかを、簡単に振り返ることを目的とする。眼鏡絵と浮絵の成立とその背景、蘭学の興隆と視覚世界の変貌、解剖学と光学装置が知識に及ぼした影響、腐蝕銅版画の創世とその伝播、浮世絵への舶来知識の応用と、その成果、とりわけそこに発生した原典の換骨奪胎の有様を、先行研究を参照しつつ具体的に検討する。視覚情報と視覚形式とが、狭い意味の美術の枠を越えて、いかに複数の文化の間を往還したのか。こうした観点からは、従来の美術史記述とは異なった文化史を構想することができるだろう。
西川, 賢哉 渡邊, 友香 Watanabe, Yuka
国語研で構築中の『日本語日常会話コーパス』(CEJC)の短単位解析作業について報告する。CEJCにおける短単位情報は、アノテーションの一つであるにとどまらず、(i)発音に関する情報を唯一持つ、(ii)他のアノテーション(長単位・韻律)の初期値作成の際の入力となる、(iii)転記誤りを発見する際の有力な手掛かりとなる、などの点で重要なアノテーションであり、高い精度が求められる。作業は次のように進める。まず、MeCab+UniDicで自動解析したのち、短単位付加情報の一つである「発音形」を、音を聴取しながら人手で修正する。これにより、発音形の精度向上を図る。さらに、修正された発音形を尊重しつつ再び形態素解析を行なうことにより、発音形以外の短単位情報(境界・付加情報)の精度向上をも図る(例:初出店「ショシュツ/テン」→「ハツ/シュッテン」)。その後、短単位解析結果を、形態論情報管理ツール「大納言」で検索・修正できるようにし、引き続き解析誤りを修正していく。修正が進んだ段階で、境界・付加情報に揺れがないかを系統的にチェックする(例:「ミリ/メートル」「ミリ=メートル」)。
森, 大毅 藤本, 雅子 浅井, 拓也 前川, 喜久雄 FUJIMOTO, Masako ASAI, Takuya
喉頭音源由来の声質の違いは,話者のパラ言語メッセージならびに心的・認知的状態を伝えるシグナルであり,自発音声コーパスに求められる重要な情報であるが,そのアノテーションは音声学の専門家でなければ難しくコストが大きい。本研究は,機械学習による声質の自動アノテーションの可能性を探ることを目的とする。本研究では,非流暢性にも関連する従来よく用いられてきた発見的な音響特徴量に加え,近年音声からの感情認識で広く用いられるようになった大規模な特徴量セットの効果を検証した結果を報告する。
王, 怡人 金丸, 輝康
本稿は,中小製造企業の情報発信の実態に関する質問票調査の結果を整理したものである。中小企業は大手広告代理店を利用しないため,メディア利用状況と情報発信の実態は把握されにくい。その実態を把握するために,中小製造企業に焦点を当て,「メディアの利用状況」,「発信される情報の内容」,「消費者や取引相手(顧客)の反応」という 3 つのカテゴリーにわけて質問票調査を行った。調査結果の詳細を以下に記す。
Davis, Christopher クリストファー, デイビス
本論文では琉球諸語で広く使われる焦点化辞「du」の文法的分布と意味上の焦点範疇の関係を、八重山語宮良方言のデータに基づいて論じる。「du」は、文が表す情報を「新情報」と「旧情報」とに分け、新情報を担う構造部分に「焦点」を与えると思われる。しかし、その新情報となる部分をいかに表示するかはまだ不明である。八重山語宮良方言の資料から、「du」が付く要素自体が焦点範疇となる場合があるものの、「du」の統語上の位置と焦点範疇が一致しないこともあることを明らかにする。さらに、後者の状況を精査のうえ、「du」の統語上の位置と焦点範疇の関係についての一般化をまとめ、「du」の分布を説明する理論の構築を試みる。
関川, 雅彦 高田, 智和 SEKIKAWA, Masahiko TAKADA, Tomokazu
学術情報・データのオープン化,共有化の流れを踏まえ,国立国語研究所は研究資料室に収蔵されている調査票や録音テープ等の原資料の外部公開へ向けて,検索手段や利用に関する規則等の整備を行った。その過程で収蔵する資料群の中に個人情報を含む研究資料が全体の3割程度存在することが判明した。これらの個人情報の保護と研究資料の利用をどのように両立させるかが研究資料室収蔵資料公開の大きな鍵となった。本稿では,『公文書等の管理に関する法律』や『独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律』等の関係する法規を検討しつつ,研究資料を利用・公開するための規程整備について述べる。
欧, 陽恵子 田中, 裕隆 曹, 鋭 白, 静 馬, ブン 新納, 浩幸 Ou, Yanghuizi Tanaka, Hirotaka Cao, Rui Bai, Jing Ma, Wen
BERTはTransformerで利用されるMulti-head attentionを12層(あるいは24層)積み重ねたモデルである。各層のMulti-head attentionは、基本的に、入力単語列に対応する単語埋め込み表現列を出力している。BERTの各層では低層から徐々に何からの情報を取り出しながら、その文脈に応じた単語の埋め込み表現を構築していると考えられる。本論文では領域適応で問題となる領域情報に注目し、BERTの出力の各層が持つ領域情報がどのように推移するのかを考察する。
森, 雅生 Mori, Masao
大学評価に関連する大学情報の収集と管理、活用の効率的方法について、既存のデータを再利用する観点から考察する。実践例として、学校基本調査のアーカイブデータをデータベース化した取り組みを紹介し、中規模の大学情報の収集管理について、活用を視野に入れた一般的な方法を論じる。
中野, 真樹 渡辺, 由貴 NAKANO, Maki WATANABE, Yuki
今日,先行研究の検索・参照等のために,様々なリファレンスデータベースが作成されている。国立国語研究所は2011年に「日本語研究・日本語教育文献データベース」を公開した。このデータベースは日本語学・日本語教育研究の文献に特化している。このような特定の専門分野の文献にしぼって作られている「専門特化型」データベースが,独自の観点から情報の収集・選択・整理を行っているという特性を生かし,多分野にわたる文献をナビゲートしている網羅的なデータベースとともに活用されることが,それぞれのリファレンスデータベース,また,各学界の進展に寄与すると期待される。
加藤, 祥 森山, 奈々美 浅原, 正幸 MORIYAMA, Nanami
コーパスに付与されたジャンル情報を用いることにより,ジャンル毎の語彙分布の傾向が確認される。しかし,レジスタによる文体差の影響や,ジャンルの分類基準の問題が考えられる。そこで,本稿は,文章内容情報が付与された文体的な影響の少ないコーパスを用い,品詞分布・語彙分布・語義分布に内容別の傾向が見られることを確認する。具体的には,『現代日本語書き言葉均衡コーパス』の新聞サブコーパス(PN,1,473サンプル)に含まれるサンプルを記事単位(5,585記事)に分割し,記事ごとの内容情報や種別情報を付与した(加藤ほか2020)データを用いる。分類語彙表番号の付与されたBCCWJ-WLSP(加藤ほか2019)と重ね合わせることにより語義分布も調査する。
高田, 智和 井手, 順子 虎岩, 千賀子 TAKADA, Tomokazu IDE, Junko TORAIWA, Chikako
さまざまな行政手続をインターネットで行う「電子政府」を構築するためには,氏名,住所,法人名などの固有名に使われる文字をも含め,行政情報処理で必要とされる文字をコンピュータで扱えるような環境を整えなければならない。国立国語研究所・情報処理学会・日本規格協会では,行政情報処理で必要とされる文字の調査研究(汎用電子情報交換環境整備プログラム)を実施している。この調査研究において,住民基本台帳ネットワーク統一文字,戸籍統一文字,登記統一文字を検討し,行政用文字の文字コード規格(JIS X O213,ISO/IEC10646)によるカバー率を明らかにした。また,漢和辞典に掲載されていない文字について,地名資料による文字同定を進めている。
浅原, 正幸 南部, 智史 佐野, 真一郎
本稿では日本語の二重目的語構文の基本語順について予測する統計モデルについて議論する。『現代日本語書き言葉均衡コーパス』コアデータに係り受け構造・述語項構造・共参照情報を悉皆付与したデータから、二重目的語構文を抽出し、格要素と述語要素に分類語彙表番号を付与したうえで、ベイジアン線形混合モデルにより分析を行った。結果、名詞句の情報構造の効果として知られている旧情報が新情報よりも先行する現象と、モーラ数が多いものが少ないものに先行する現象が確認された。分類語彙表番号による効果は、今回の分析では確認されなかった。
島田, 泰子 芝原, 暁彦 SHIMADA, Yasuko SHIBAHARA, Akihiko
方言分布形成の解明にとって重要な参照事項である地形情報ならびに各種地理情報を,正確かつ直感的に参照できる方法として,精密立体投影(HiRP = Highly Realistic Projection Mapping)という手法の導入を提言する。DEM(数値標高モデル)に基づく三次元造形物である精密立体地形模型を作成し,その表面に,プロジェクターによる光学投影(プロジェクションマッピング)を行い各種の地理情報を重ね合わせることで,地形・河川の流路・交通網などといった複数の地理情報を,同時に照合することが可能となる。言語地図における言語外地理情報の照合作業は,従来,特殊な鍛錬なしには困難を伴うものであったが,この精密立体投影(HiRP)により,その精度が飛躍的に向上する。本稿では,精密立体投影(HiRP)の技術や装置の詳細を紹介するとともに,具体的な分析事例として,長野県伊那諏訪地方における「ぬすびとはぎ(ひっつき虫)」の分布データにおける経年変化を取り上げ,これを検証する。
青柳, 明佳 篠原, 泰彦 AOYAGI, Sayaka SHINOHARA, Yasuhiko
Web上で検索できるデータベースは、様々な調査・研究を行い、論文を執筆するために、もはや必須のツールと言っても過言ではない。だが、データベースを構築・運用するにあたり、作成者の意図と利用者の目的や使用方法が必ずしも一致するとは限らない。また、一度稼働し始めたデータベースは、それを止めて作り直す、あるいは修正を行うことが難しい。そこで、本研究では、2019年10月時点で64.92%のシェアを誇るブラウザ「Google Chrome」の拡張機能を使用し、既存の人文科学系論文データベースであるCiNii Articles、NDL ONLINE、国文学論文目録データベース、日本語研究・日本語教育文献データベースを例に、既存のデータベースの運用を止めることなく、表示方法や操作方法を変えながら「データベースにおけるユーザビリティ」を検証していく。また、この方法を通して得られた「どのような点に留意してデータベースの構築・運営を行うべきか」の知見を提示したい。
加藤, 祥 森山, 奈々美 浅原, 正幸 KATO, Sachi MORIYAMA, Nanami ASAHARA, Masayuki
本研究では『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(BCCWJ)の書籍全サンプル22,058サンプル(PB(出版)10,117サンプル・LB(図書館)10,551サンプル・OB(ベストセラー)1,390サンプル)に付与された日本十進分類法(NDC)分類記号の補助分類を拡張した。作業は,国立国会図書館サーチのNDC情報を参照し,人手によって分類の確認と追加を行った。また,開発当時NDC分類記号が付与されていなかったサンプル(「分類なし」)などの見直しもあわせて行った。本作業結果により,たとえば形式区分を利用し,ジャンルの分散する「随筆(-049)」「理論(-01)」「教科書(-078)」などのカテゴリでBCCWJサンプルを分類することが可能となった。このほか,時代情報や小項目が追加されたサンプルもあり,今まで以上に詳細な分類が可能となった。本研究では,情報付与作業の方法と基礎情報を報告し,分類例を示す。本データを用いた研究事例として,NDC情報を用いた随筆の抽出と随筆の文体調査結果を報告する。本データは「中納言」の検索で利用できる。
アンガー, J. マーシャル UNGER, J. Marshall
日本語はこれまで,韓国語や満州語,タミール語などの言語と比較されてきたが,これらの言語と日本語との間の系統関係について説得力のある説はこれまでに提示されていない。このことを,日本語には「同じ系統に属する言語がない」という意味にとらえれば,日本語は孤立言語であるということになる。孤立言語とは,共通祖語から共に発達した他の言語が全て絶滅してしまい,一つだけが生き残ったと考えられる言語のことである。日本語を孤立言語として扱ったとしても,例えば日本語話者の祖先がいつどこからこの地域にやってきたのか,というような,日本語の発達経緯に関するさまざまな疑問を解明することにはならない。だが,日本語と他の言語との系統関係を探り続けることで得られる知識は,たとえ不完全なものであるにしろ,日本語が孤立言語であると結論づけてしまうよりも,言語学的に貢献するところが大きい。多様性に富み規模が大きないくつかの言語族(例えば,インド・ヨーロッパ語族,オーストロネシア語族,中国語族)は,その共通祖語が話されていた年代がいつごろであるかについてかなり正確にわかっているが,これらの言語の存続が五千年を超えるものは一つもない。それゆえに,日本語が厳密な意味での孤立言語であるという主張は,同時に,日本語が非常に古い言語であるということ,また,日本語が発達してきたと考えられるその途方もない長い時間の中で,同じ祖語から派生した日本語以外の全ての言語が絶滅する運命をたどったのだと主張することになる。そのような状況に至った経緯をさまざまに想像するのはたやすいが,本論文において詳しく検証するように,いかなる仮定的状況についても,言語学的あるいは非言語学的側面から立証することは難しい。日本の先史について言えば,関連する言語以外の情報がかなり豊富に存在するので,言語の発達経緯の研究過程で,そのような情報を,言語学的仮説の範疇を特定したり修正してゆくために大いに利用すべきである。
小田, 寛貴 Oda, Hirotaka
14C年代測定というと,縄文時代・弥生時代の資料が対象という印象が強いが,加速器質量分析法(AMS)の登場と較正曲線の整備とにより,古文書や古経典など歴史時代の和紙資料についても,14C年代測定を行うことが原理的に可能なものとなるに至った。しかしながら,古文書に限らず,考古学資料や歴史学資料について14C年代測定を行う本来の目的は,その資料が何らかの役割を持った道具として歴史の中に登場した年代を探究するところにあるはずである。14C年代測定によって得られる結果は,歴史学的に意味のある年代そのものではない。この自然科学的年代が,歴史学的年代を明らかにするための情報となりうるかが問題なのである。そこで本研究においては,まずは,書風や奥書・記述内容などから書写年代が判明している古文書・古経典・版本などについて14C年代測定を行った。奈良時代から江戸時代にかけての年代既知資料の測定結果から,和紙はいわゆるold wood effectによる年代のずれが小さく,古文書・古経典の書写年代を判定する上でAMS14C年代が有益な情報の一つとなることが示された。その上で,書写年代の明らかにされていない和紙資料についても14C年代測定を行った。特に古筆切とよばれる古写本の断簡についての測定である。平安・鎌倉時代に書写された物語や家集の写本で,完本の形で現存しているものは極めて稀であるが,こうした断簡の形ではかなりの量が現在まで伝わっている。古筆切は,稀少な写本の内容や筆跡を一部分ながらも伝えるものであり,大変高い史料的価値を有するものである。しかし,古筆切の中には,その美しい筆跡を手本とした後世の臨書や,掛け軸などにするために作製された偽物なども多く含まれている。それゆえ,こうした問題を有する古筆切に焦点をあて,書風・字形・筆勢など書跡史学的な視点に,AMS14C年代測定法という自然科学的視点を加え,書写年代の吟味を行った。
加藤, 祥 KATO, Sachi
テキストの示す対象物を認識するために,どのような内容を記述することが有用か。本稿では,動物を例にした3種類の実験に基づく考察結果を報告する。複数辞書に共通して記載のある語釈,辞書の語釈に不足しているとされた情報を追加したテキスト,コーパス(現代日本語書き言葉均衡コーパス・Google日本語n-gram)から取得した用例を用い,それぞれのテキストから対象物を同定する実験を行った。どの実験結果でも正答率は半数程度にとどまり,テキストのみからの対象物認識は困難であった。また,対象物の認識に求められた情報は,主に読み手の経験や知識を喚起する情報と,提示された情報によって設定したカテゴリにおける他メンバーとの差異に関する情報であった。我々が実際目にするテキスト(コーパス)からは,個別的一般的な経験や知識は取得しやすく,予め読み手の保有している知識と合致した場合には有用な情報となる。しかし,対象物に関する知識が読み手に不足している場合,対象物の認識には親カテゴリのプロトタイプとの差異を記述することが有用であり,あるいは誤認を避けるために他メンバーとの差別化が可能な記述を行うことが有用であるとわかった。
朝日, 祥之 吉岡, 泰夫 相澤, 正夫
行政から提供される情報には,外来語・略語・専門用語が増加し,自治体は住民に対して分かりやすい行政情報を提供することが求められている。国立国語研究所では,行政情報の発信者である自治体職員と受信者である住民とのコミュニケーションに関する意識調査を実施した。その結果,語彙的特徴やパラ言語的特徴,非言語的特徴よりも,方言と共通語の使い分けに関する意識に地域差が認められることが明らかとなった。
米盛, 徳市 玉那覇, 清 Yonemori, Tokuichi
企業におけるOA化が進展するなか、商業高等学校の情報教育(商業教育)は、啓蒙・開発・試行の段階から本格的な実施段階に突入し、文部省は教育現場に新たな教育内容への転換を要求している。沖縄県の具志川商業高等学校が、実践的商業教育の新しい試みとして「事務実務」を平成2年4月に開設した。本科目で商業教育の集大成を図り、中途退学に歯止めを掛けることである。新たな模索は、生徒自身が実会社「具商デパート」を設立し、実運営することで、企業の機構や活動の厳しさを学ばせ、「理論から実践」、いわば「座学(机上)学習から本物志向の実践学習」への脱皮を図った。著者らが開発した「実践デパート・レジシステム」は「本物志向の実践学習」を支援するシステムで、実務面ではパソコン数台による取扱商品約1万品目、1日当り売上金額1千万円程度の多角的な会計処理、かつ教育面ではCAI技法、特にKR情報の音声出力、電光掲示板的な表示等を駆使した。公開授業(平成4年9月25日)やリサイクル祭&販売実習(平成4年11月29日)の実務実践で数多くの示唆を得ることができた。
三好, 伸芳 MIYOSHI, Nobuyoshi
本稿では,統語情報付きコーパスであるNPCMJを用いて,日本語の非制限的連体修飾構造に見られるテキストジャンル間の分布の差異を明らかにする。形態的情報に基づく従来のコーパスでは,任意の統語的環境を指定して連体修飾構造を量的に検索することは困難であった。一方で,統語・意味情報付きコーパスであるNPCMJを用いれば,主節環境や被修飾名詞の語彙的性質を指定したうえで連体修飾構造を検索することが可能になる。本研究の調査の結果,新聞などのいわゆる説明的文章においては「主名詞に対する情報付加」を行う非制限的連体修飾節が多く見られる一方で,小説などのいわゆる文学的文章においては,「主節に対する情報付加」を行う非制限的連体修飾節が相対的に多く見られた。このような分布は,新出の固有名詞が頻出するという説明的文章のテキストジャンル的特徴によって説明することが可能になると考えられる。
小西, 光 中村, 壮範 田中, 弥生 間淵, 洋子 浅原, 正幸 立花, 幸子 加藤, 祥 今田, 水穂 山口, 昌也 前川, 喜久雄 小木曽, 智信 山崎, 誠 丸山, 岳彦 KONISHI, Hikari NAKAMURA, Takenori TANAKA, Yayoi MABUCHI, Yoko ASAHARA, Masayuki TACHIBANA, Sachiko KATO, Sachi IMADA, Mizuho YAMAGUCHI, Masaya MAEKAWA, Kikuo OGISO, Toshinobu YAMAZAKI, Makoto MARUYAMA, Takehiko
『現代日本語書き言葉均衡コーパス』第1.0版(Maekawa et al. 2014)(以下BCCWJ)には「文境界」の情報がアノテーションされているが,その認定基準の妥当性について従来から様々な指摘がある(小西ほか2014,長谷川2014,田野村2014)。この問題に対処するために,国立国語研究所コーパス開発センターでは2013年から2014年にかけて,BCCWJの修正を行った。本稿ではその修正作業について報告する。第1.0版におけるBCCWJ 文境界情報の問題は,コーパス構築の過程において文境界を含む文書構造タグの整備と形態素列レベルの情報の整備とを並行して行ったために,文字情報を用いる文境界処理にとどまったことに由来する。今回,形態論情報に基づいた文境界基準を策定し,問題の解消を試みた。文境界修正の指針を示すとともに,文境界修正に用いた作業環境と,修正件数について報告する。
安永, 尚志 YASUNAGA, Hisashi
本報告は、現在国文学研究資料館において進められている原文献資料データベースの開発報告である。すなわち、開発の目的、概要、研究経緯、研究成果、及び今後の見通し等をまとめたものである。原本等のいわゆる0次情報は、情報処理システムにおいては画像としての情報形態で取り扱うことが,最も適切な方式である。ここではマイクロフィルム資料を原本資料と見なし、これを検討対象とする。本文では、国文学研究に必要な画像データの入力、管理、利用方法について述べる。また、開発の目標は幾つかあるが、主として、オンライン情報検索環境下で所望の本を探し、請求し、かつ入手することを可能とするシステム、即ち原文献資料流通システム(試行版)について報告する。
赤尾, 健一 Farzin, Y. Hossein
経済主体や政府の合理的選択の結果、資源、枯渇が生じることがある。それは、持続可能な資源利用が可能であり、また、資源の利用者が十分な生態学的知識を持ち、さらに将来起きることを十分に予見できるとしてでもある。この研究では、非持続的資源利用が最適計画となる条件を明らかにする。それは、将来の便益を割り引く害IJ引率、社会制度や生態系の不安定さ、自然成長関数の非凸性、雇用の社会的心理的価値、そして資源利用者間の戦略的依存関係の存在に関係する。これらの条件を明らかにすることは、持続的資源利用を実現するための政策をデザインする上で、有用な情報を提供する。
湯浅, 隆 Yuasa, Takashi
本稿では、近世都市江戸を事例として、当地の人びとへの周知を意図した情報が発信された場所について検討していく。このための分析対象として、開帳予告の建札およびその設置場所を取りあげる。この分析をとおし、江戸における情報メディアの発信地および受信地としての〝広場〟機能をもった場所や地域を明らかにしようとする。
小木曽, 智信 岡, 照晃 中村, 壮範 八木, 豊 NAKAMURA, Takenori YAGI, Yutaka
日本語史研究の基礎資料は,残された文献に見られる用例である。用例の原文は今日一般に用いられる表記とは大幅に異なる形である場合が少なくない。例えば,『万葉集』は万葉仮名で,キリシタン資料は当時のポルトガル語のローマ字で表記されている。こうした資料をコーパスとして形態論情報を付与し,現代人に読みやすいものとするためには,原文を校訂して漢字平仮名交じりにした読み下し本文を用意する必要がある。一方で,読み下し本文では失われてしまう情報も少なくないため,用例には原文を併せて表示することが求められる。『日本語歴史コーパス』では従来,原文情報を保持しつつ必要な修正を行った上で形態論情報を付与して公開してきたが,原文情報の提供は限定的だった。今回新たに,コーパス検索アプリケーション「中納言」上で,原文の前後文脈付きで検索結果を表示できる機能を実装した。本発表ではこの原文KWIC表示機能について述べる。
井伊, 菜穂子 II, Nahoko
本稿は,人文科学論文で使用された接続詞を対象に,接続詞の出現位置と,接続詞が意味的に結びつける文脈の範囲である連接領域の広さとの関係を論じたものである。分析の結果,以下の三つのことが明らかになった。第一に,接続詞に共通する基本的な特徴として,接続詞が形式段落の冒頭で使用された場合のほうが,内部や末尾で使用された場合よりも,連接領域が広い傾向があること。第二に,前後を対称的に結びつける並列・対比の接続詞は,前後の連接領域が広い場合は段落冒頭で,連接領域が狭い場合は段落内部あるいは末尾で使用される傾向があり,出現位置による連接領域の広狭が二極化していること。第三に,前後が非対称的な構造になる順接・逆接・換言・結論の接続詞は,段落冒頭だけでなく段落末尾で使用された場合も前件の連接領域が広い傾向があることである。
Kobayashi, Masaomi 小林, 正臣
本稿はアメリカ諸文学における作品(具体的には、John Steinbeck、Bernard Malamud、Leslie Marmon Silko、Kurt Vonnegutの作品)を批評しながら、様々な環境における存在の在り方を議論している。たとえば、自然環境における人間は、その環境の一員であり、この意味において他の生物―「生」きる「物」としての「生物(living things)」―とは「共者(another)」の関係と捉えることが出来る。とすれば、生物学において人間は「ヒト」と呼称されるように、それら生物をヒトと類比した存在と捉えることは、あながち人間中心主義的ではなく、互いを共者として再定義することを可能にする。この「ヒト」という概念は、社会という環境においても適用できる。たとえば「法人(legal person)」という人物は、主体としての「人」であり、客体としての「物」でもある「人物(person)」であり、少なくとも法律における扱いは「自然人(natural person)」と類比的な存在である。この認識を基盤とすれば、アメリカ資本主義社会における人間と法人の関係は、必ずしも対立関係ではなく、共者同士の関係として再解釈できる。そして法人の活動は、いまや環境に対する責任能力を求められている。すなわち「企業の社気的責任(corporate social responsibility)」という問題は、「企業の市民性(corporate citizenship)」という問題と不可分である。法人が「市民(citizen)」としての地位を獲得することの是非は、環境における存在の在り方を問ううえで重要である。かくして本稿は、以上のような人文科学としての文学研究における発想および課題を提示する。
加藤, 祥 KATO, Sachi
テキストに記された対象物を読み手が適切に認識するとき,どのような情報がどのような順序で提示されているのか。
中渡瀬, 秀一 加藤, 文彦 大向, 一輝
言語資源データの引用情報調査に基づいて、そのデータを活用した研究文献の発見可能性について論じる。このために言語処理学会年次大会発表論文集を対象として「現代日本語書き言葉均衡コーパス」などの引用情報を調査した。本稿ではその結果と今後の課題について報告する。
前田, 裕一朗 遠藤, 聡志 山田, 孝治 當間, 愛晃 赤嶺, 有平 Maeda, Yuichiro Endo, Satoshi Yamada, Koji Toma, Naruaki Akamine, Yuhei
ショッピングサイトのレビューは商品の評判を知るために有益な情報の集合である。しかし、全てのレビューに目を通すには膨大である。本研究では、レビューから評価の視点となっている属性語を抽出してレビュー全体の俯瞰を行う。属性語の抽出には様々なアプローチがあるが、Xu(Liu)らの提案するDoubleEmbedding-CNNでは、一般的なコーパスから学習した単語埋め込みとドメインに注目した単語埋め込みの二重埋め込みを使うことで高い精度の抽出を行った。しかし、この手法は属性語の抽出でよく用いられる品詞情報を加味していない。そこで、品詞情報を3つ目の埋め込みとして与えることで精度の向上を図る。
上野, 善道 UWANO, Zendo
岩手県と青森県の,旧南部・津軽両藩の6地点で約千項目からなる動詞のアクセント調査をした報告を行なう。今回はその(1)として,2~3拍動詞の603語を対象とする。アクセント情報と並んで,その語音情報および必要に応じて意味に応じた語形の違いを付け加える。
青木, 睦 AOKI, Mutsumi
本稿では、国文学研究資料館が関わった大津波被害の歴史文化情報資源のレスキューの事例を中心に報告する。加えて、文化庁「東北地方太平洋沖地震被災文化財等救援事業(文化財レスキュー事業)」や全国的規模での大学・研究機関、博物館・図書館・アーカイブズ、文化財関係行政機関等が連携してどのように歴史・文化等の情報資源を救助・復旧活動を行ってきたか、また、研究教育文化行政、公文書管理行政の課題や全国規模で人間文化研究に関わる歴史・文化等の情報資源をどのように蓄積・保存すべきかについて検討する。
春遍, 雀來 HALPERN, Jack
情報交流の国際化に伴い多言語情報の充実は今や喫緊の課題である。特に固有名詞やPOI (points of interest)は膨大な数量に加え頻繁な名称変更にも対応する必要があるため,正確で充実した多言語辞書データ資源が必須だ。そこで,機械翻訳の作業効率と精度を格段に向上させる,超大規模辞書データ資源(Very Large Scale Lexica: VLSL)の構築例として,固有名詞・専門用語等を含む日中韓英辞書データベースや多言語固有名詞辞書データベースを紹介する。VLSLは情報検索・形態素解析・固有表現認識・用語抽出等,自然言語処理の幅広い分野に応用が可能で更なる展開が期待される。
宗前, 清貞 Somae, Kiyosada
記述的な政策決定過程においては、アクター分析を中心とした権力論アプローチが主流であったが、本稿では、権力の源泉となっている政策情報の「重み」に着目して決定要因の分析を試みた。具体的には公立(県営)病院の改革に取り組んだ二例を素材に、どのような条件でどのように異なった決定が出るのかを再現する。県営病院の配置は自治体によって大きく異なり一定のパターンが存在しないために、自治体の決定の自律性は相対的に高い。病院運営主体の課題設定は、(狭義の)財政・医療経済・医療供給・(広義の)社会保障・地域間格差などの複雑な論点が混在しているために、その政策決定過程は本質的にダイナミックなものとならざるをえない。そうした複雑な論点を所有しながらも一定の結論を導き出す以上、決定過程を通じて基盤となる論点(を規定する要因)が存在する。従来、政策過程における情報は「情報の非対称性」として与件と考えられてきた。本稿では、その論点の抽出を行うことで、政策情報の偏在がなぜ生じるのか、また政策情報の強度はどの程度変化を説明しうるのかについて分析を試みている。
前川, 喜久雄 西川, 賢哉
『日本語話し言葉コーパス』コア中の母音に、声質研究用に各種音響特徴量を付与する試みについて報告する。母音の無声化等によって測定不可能な母音を除いたすべての母音を対象に、F0, インテンシティ, F1, F2の平均値、jitter, shimmer, signal to noise ratio, H1*-H2*, H1*-A2, H1*-A3*等の声質関連情報、さらに発話中の位置に関するメタ情報などを付与し、RDBで検索可能とした。この情報の応用上の可能性を示すために、主要な音響特徴量が発話中の位置に応じてどのような変化を示すかを検討した。F0やインテンシティだけでなく、H1関連指標などにも発話末において一定の値に収束する傾向が認められた。
加藤, 久美子 ヤーナターン, イサラー KATO, Kumiko YANATAN, Isra
聞き取り調査で得た情報をもとに、ドンクワーイ村の人口変化と稲作の変化の傾向を示し、考察した。その内容は以下のようである。
村山, 実和子
本研究は『日本語歴史コーパス』に出現する合成語に対し,その内部構造に関する情報を新たに追加することで,日本語の語形成研究に使用可能なデータの構築をめざすものである。その方法として,各種コーパスに紐付いた解析用辞書「UniDic」の見出し語に対して,構成語情報を付与することを試みる。その設計方針と有用性を述べるとともに,現状の課題について報告する。
加藤, 祥 森山, 奈々美 浅原, 正幸 Moriyama, Nanami
『現代日本語書き言葉均衡コーパス』の書籍サンプル(PB(出版)10,117サンプル・LB(図書館)10,551サンプル・OB(ベストセラー)1,390サンプル)に付与された日本十進分類法(NDC)分類記号の補助分類を拡張した。また、開発当時NDC分類記号が付与されていなかったサンプル(「分類なし」)などの見直しもあわせて行った。作業は、国立国会図書館のNDC情報を参照し、人手によって分類の確認と追加を進めた。本作業結果により、たとえば形式区分を利用し、ジャンルの分散する「随筆(-049)」「理論(-01)」「研究法(-07)」などのカテゴリでBCCWJサンプルを分類することが可能となった。このほか、時代情報や小項目が追加されたサンプルもあり、今まで以上に詳細な分類が可能となった。本発表では、情報付与作業の方法と基礎情報を報告し、分類例を示す。本作業結果データは「中納言」の検索結果として利用可能となる。
大角, 玉樹
本稿では、コロナ禍を契機に急速に展開されている大学教育のDX(デジタル・トランスフォーメーション)において、注目度が高くなっているメタバースiの利活用について、教育的意義と導入時の課題を整理する。また、筆者自身の過去3年間の琉球大学「教育改善等支援経費」採択事業の成果と国立情報学研究所が主催する「大学等におけるオンライン教育とデジタル変革に関するサイバーシンポジウム」iiで紹介された最新事例等を踏まえて、大学教育におけるメタバースの導入にあたっての課題を探る。現在のところ、メタバースを積極的に利用しているのは理工医学系と語学系にとどまっており、文系や文理融合分野での活用に対する期待にも触れる。
大角, 玉樹 Osumi, Tamaki
1990年代後半のインターネット揺籃期、成長期を経て、現在、わが国は世界最高水準のネットワークインフラを整備している。情報通信技術(ICT:Information\nand Communications Technology)を21世紀の持続的発展の原動力と位置づけ、それを推進した政策がe-Japan戦略である。さらに2010年までには全国にブロードパンドとユビキタス環境を整備し、情報通信技術の利括用で世界のフロントランナーを目指すu-Japan政策が展開されている。沖縄では、1998年に発表された「沖縄マルチメディアアイランド構想」が、2000年に開催されたG8九州沖縄サミットで採\n択された沖縄IT憲章に後押しされ、IT関連企業の誘致と集積が進められている。\nしかしながら、それがコールセンターに偏っていることから、今後の政策の見直しが迫られている。\n 本稿では、これら情報通信政策を整理し、政策が情報通信技術の普及と啓蒙に果たした役割を明確にし、今後の課題を検討している。また、グローバリゼーションと情報通信技術の急速な進歩により、とりわけビジネスにおけるモジュール化が加速され、また、世界や社会がフラット化しつつある現象が指摘されている。ウェブ自体の進化も、Web2.0という用語に代表されるように、大きな質的変化を遂げて\nいる。\n このような現実を政策に反映するには、情報通信技術へのアクセスが機会を生み出すというデジタル・オポチュニティという考え方よりも、ウェブヘのアクセスと、ウェブとリアル世界のコラボレーションが創造の機会を増幅するという、ウェブ・\nオポチュニティという概念が望ましいのではないだろうか。
市村, 太郎 村山, 実和子 ICHIMURA, Taro MURAYAMA, Miwako
筆者らは,現在,国立国語研究所で開発が進められている『日本語歴史コーパス』の一部として,近世洒落本を対象とするコーパスを開発しており,その試作版を『ひまわり版「洒落本コーパス」Ver. 0.5』(2015年10月28日公開)として公開した。本コーパス構築にあたっては,他の『日本語歴史コーパス』所収のコーパス同様,文書構造に関する情報や形態論情報を付与するとともに,新たに所蔵版本への画像リンクや,詳細な話者情報を付与する試みを行った。これにより,近世資料の持つ地域差・位相差にも配慮した近世語コーパスのモデルを示すことができた。
深田, 淳 FUKADA, Atsushi
本稿は,日本語コーパスからコロケーション情報を拍出することを主眼に設計・開発された,ウェブ上で簡便に利用できるアプリケーション『茶漉』を紹介する。ウェブ上のアプリケーションであるので,ブラウザでアクセスするだけで利用でき,ソフトウェアのインストール,サーバの設定のような導入手続きは一切必要としない。コロケーション情報を調べる以外にkwic形式による用例検索も可能である。当システムの公開が,コーパスを用いた日本語研究の発展の一助となることを願う。
加藤, 祥 浅原, 正幸
国立国語研究所報告57『比喩表現の理論と分類』データの電子化を行った。主に同書における指標比喩用例と結合比喩リストのデータを検索や参照が容易な形式に整備した。また,同データに対して,比喩分類,喩辞・被喩辞,『分類語彙表』に基づく意味分類,指標(指標比喩のみ),結合,印象評定などの追加情報の付与を行った。付与情報により,新たな観点の調査や確認が可能となった。
仲間, 正浩 加藤, 道浩 Nakama, Masahiro
安全な登はん活動をするためには最新の岩場の情報を的確に把握し、その場所にある登はんルートを登るのに十分な技術を持つ必要がある。しかし、従来のメディアでは、岩場の情報と登はん技術教材が別々に提供されきた為に、両者の関連を把握することが難しかった。本研究では、これらを統合したデータベースを構築することでこの問題を克服する試みを行ってきた。また、書籍やビデオ等の既存のメディアを利用する場合に出てくる様々な問題点を分析し、それをコンピュータを利用して解決する方法を検討してきた。本稿では、岩場の情報と登はん技術教材をデータベースとして統合する手法について述べ、次いで、マルチメディアを効果的に利用したユーザインタフェースの概要を示す。
鶴谷, 千春 TSURUTANI, Chiharu
日本語学習者の増加に伴い,初級以上のレベルでの円滑なコミュニケーションがより必要になってきている。学習者は,日本語の基本的な単語の高低アクセントを学んだあと,それをどうつなぐと母語話者の抑揚に近づけることができるのか,またイントネーションによってどう意図が変わるかという情報は,あまり与えられていない。初期段階のコミュニケーションでは,まず「失礼にならないように話したい」というのが優先される課題であると考え,本稿では学習者が初級段階から使っている丁寧表現「です・ます」に焦点をあてて,その韻律的特徴を考察した。まず,場面別の「です」「ます」表現を使い,東京在住の日本語母語話者に「です・ます」表現の同じ文を丁寧に話す必要がある場面とそうでない場面で発話してもらい,それを別の母語話者に聞かせ,丁寧度の評価点をつけ,音響分析の結果と照らし合わせた。丁寧であるかどうかの判断は,パラ言語情報や,状況などに左右されることから,イントネーションは重視されてこなかったが,母語話者間で丁寧だととられるイントネーションには共通のパターンがあることがわかった。
福田, アジオ Fukuta, Azio
考古学と民俗学は歴史研究の方法として登場してきた。そのため,歴史研究の中心に位置してきたいわゆる文献史学との関係で絶えず自己の存在を考えてきた。したがって,歴史学,考古学,民俗学の三者は歴史研究の方法として対等な存在であることが原理的には主張され,また文献史学との関係が論じられても,考古学と民俗学の相互の関係については必ずしも明確に議論されることがなかった。考古学と民俗学は近い関係にあるかのような印象を与えているが,その具体的な関係は必ずしも明らかではない。本稿は,一般的に主張されることが多い考古学と民俗学の協業関係の形成を目指して,両者の間についてどのように従来は考えられ,主張されてきたのかを整理して,その問題点を提示しようとするものである。
浅原, 正幸
本研究では『現代日本語書き言葉均衡コーパス』に対して付与された,文の読み時間データ『BCCWJ-EyeTrack』と,名詞句の定性などの情報構造アノテーションデータの対照分析を行った。日本語母語話者24 人分のデータを線形混合モデルにより分析した結果,特定性(specificity)・有情性(sentience)・共有性(commonness) が文の読み時間に影響を与え,それぞれ異なったパターンの読み時間の遅延を引き起こすことがわかった。特に共有性においては新情報(hearer-new)・想定可能(bridging) が識別可能なレベルで異なった。このことは,ある名詞句が言語受容者にとって新情報なのか想定可能なのかを読み時間データから推定することができる可能性を示唆しており,文書要約のユーザ適応などの応用に利用することが期待できる。
上村, 幸雄 Uemura, Yukio
筆者がこれまでに係わった日本の方言学と言語地理学について概観する。
渡邊, 友香 西川, 賢哉 WATANABE, Yuka
『日本語日常会話コーパス』(CEJC)の短単位情報付与作業では、次の4段階の作業工程、(i)転記をMeCab(解析器)+UniDic(解析辞書)で自動解析、(ii)音声を聴取しながら、付加情報の一つである「発音形」のみを人手修正、(iii)人手修正された発音形を尊重しつつ再び自動解析、(iv)短単位情報(境界情報、発音形以外の付加情報)を人手修正、を踏んでいる。今後の(iv)人手修正作業の参考とするため、人手修正済みデータを対象に、複数の版の現代話し言葉UniDic(Ver2.2.0, 2.3.0, 3.0.1, 3.1.0)を用いて(i)-(iii)を自動で実施し、その出力と人手修正結果とを比較した。その結果、UniDicの版が新しくなるにつれて誤解析の頻度が低下し、向上が見られたものの、誤りやすい個所がなお残っていることがわかった。特に、品詞が 「記号」「代名詞」「接続詞」「名詞-助動詞語幹」「名詞-固有名詞-人名-一般」「名詞-固有名詞-一般」となるべき語は、UniDicの版が新しくなっても別の品詞として解析される、短単位境界を誤るなど、誤解析が起こりやすい。
馬場, 俊臣
BCCWJ図書館サブコーパス収録のサンプル内の語彙素すべてに付与した文体に関する情報。
大久保, 純一 Okubo, Jun'ichi
安政2年10月2日に関東南部を襲った大地震は,江戸の下町を中心に甚大な被害を与えることとなった。この安政の江戸大地震に関しては,地震の被災状況を簡略な絵図と文字情報で周知した瓦版類,地震の被害や被災者の逸話などをまとめた冊子,地震の原因であると信じられていた地中の大鯰をテーマとした一種の戯画・諷刺画である鯰絵など,多様な出版物が売り出された。これらは災害史や民俗学の分野で注目を集めつつあるが,一部に精細な被災の光景を描く図を含みながらも,絵画史の領域での検討はかならずしも十分ではなかった。本稿では,安政江戸地震を機に盛んとなった出版物における災害表象を,主に風景表現の視点から検討する。
長田, 俊樹
筆者は、主に言語学以外の自然人類学や考古学、そして民族学の立場から、大野教授の「日本語=タミル語同系説」を検討した結果、次のような問題点が明らかとなった。
藤本, 灯 韓, 一 高田, 智和 FUJIMOTO, Akari HAN, Yi TAKADA, Tomokazu
古代の日本の辞書には,様々な構造を持つものがあり,各辞書の構成や仕様を理解していなければ解読が困難な面があった。また注文から必要な情報を抽出するためには,隈なく目視で捜索する必要があった。順不同に入り組んだ注文の情報から,効率的に目的の情報に到達するためには,注文に存在する要素の属性が,それぞれ可能な限り定義づけられているべきである。本稿では,平安時代の代表的な漢和辞書である『和名類聚抄』を例として,いかにその構造を記述することが可能か,検討し,『和名類聚抄』の内容に適したタグを設計した。
米盛, 徳市 Yonemori, Tokuichi
北大東小学校を実践校,都市地区の浦添市立前田小学校を研究協力校として,平成8年度から10年度にかけ,文部省による「へき地学校高度情報通信設備(マルチメディア)活用方法研究開発事業」に関わってきた。研究の主題は,衛星通信による情報通信設備(マルチメディアテレビ会議システム)を用いた双方向遠隔協同学習の活用方法に関する検証・研究である。本稿では,この事業に参加して得られた貴重な体験を論じることにした。
山口, 英男 Yamaguchi, Hideo
正倉院文書は、官司の現用書類が不要となり廃棄されたものである。この点で、多くの古文書とは異なる特徴を有しており、文書の機能情報を抽出・解析する上でも、これに対応した手法・手順が求められる。正倉院文書の解析は、業務の解析に他ならない。そのためには、書類からの情報抽出において、書類の作成から利用・保管・廃棄に至る履歴を明らかにすること、その際、書類の用いられる場の変化に着目することが重要である。
森本, 修馬
昨今の計算機技術の発達により、データベースの記憶容量も大幅に増大した。大量のデータを必要とする統計分析を行う際にも、データベース化は必要不可欠である。しかし、大量のデータ入力にはコストがかかる。計算機技術の発達に比べて、データ入力における計算機の利用法の開発は不十分である。データ入力に計算機の利用が最大限に行われている分野もあるが、歴史資料を扱う分野では、そもそも研究の目的と資料作成の目的とが一致していないこともあり、なかなか困難である場合が多い。筆者は、近世の史料である宗門人別改帳を用いた人口学研究を目的としたデータ入力のインターフェイスの開発により、情報量の豊富な汎用性のあるデータベース構築を行い、研究のレベルの向上をはかっている。
熊谷, 康雄 KUMAGAI, Yasuo
1989年度より,国語年鑑と図書館のシステム化を目的とした作業を開始した。このシステムは研究所における文献情報の収集,整理,2次情報の作成に関しての計算機によるシステム化を目指したものである。それまでは手作業で行われていた作業を機械化し,作業の効率化と機械可読データの蓄積によるデータの有効利用によって,研究所における継続的な文献データベース作成のためのシステムの基礎作りを目指したものである。1994年度までに,国語年鑑に関する機械化を目指した範囲の全体をおおうことができた。この報告では,これまでの経過をまとめつつ,文献情報のデータベース化と目録作成のシステム化のために行った作業のうち,特にこの国語年鑑の機械化に関わる部分について報告した。システムはパーソナルコンピュータ上に構築した。
稲村, 務 Inamura, Tsutomu
柳田国男が自らの学問を民俗学と認めるのは彼が日本民俗学会会長になった1949年の4月1日であり、それ以前は日本文化を研究対象とした民族学(文化人類学)もしくは民間伝承学(民伝学)を目指していた。柳田が確立しようとした民俗学は自分以外の人々に担われるべきものであり、柳田自身を含んでいなかった。本稿ではこのことを検証するために、それ以前のテキストととともに、1948年9月に行われた座談会「民俗学の過去と将来Jを中心に検討する。柳田国男は本質的に民族学者である。
今村, 峯雄 坂本, 稔 齋藤, 努 西谷, 大 Imamura, Mineo Sakamoto, Minoru Saito, Tsutomu Nishitani, Masaru
縄文土器の型式には共通性と地域性が混在しており,これらは縄文時代の人の交流の程度を反映するものと考えられる。地域間の共通性は,文化(技術)の伝播と土器そのものの移動を反映したものと考えることができる。一方土器産地に関する情報は,土器の移動,あるいは土器胎土の原料となった粘土の動きを反映するはずである。したがって土器産地を知ることは,縄文の人とものの交流を識別して明らかにしていくうえでの重要な情報といえる。土器産地の情報はしばしば胎土中の鉱物や元素組成など自然科学的な情報にもとづいて得ることができるといわれる。しかしながら,縄文土器についての成功例は極めて少ないのが現状である。本論文では,粘土鉱物に親和性を持つ元素ベリリウム同位体を用いる新しい産地推定法を提案し,九州・南西諸島における縄文前期土器に関して本法を応用して得られた結果について,特に方法の有効性の観点から報告する。
松平, 好人
本研究は、大阪市よる中小企業イノベーション(新規事業)促進政策の効果を明らかにし、仮説の構築を目的とする。分析対象は「大阪トップランナー育成事業(TR 事業)」とし、研究方法に事例分析を用いる。効果を明らかにするため、「市場志向」及び「情報的資源」という2 つの変数を採用した。仮説構築のため、2 社の事例分析の結果を総合し、仮説を精緻化した。インタビューと質問票調査に基づく2 社事例の総合から、次の2 点を明らかにした。第一に、TR 事業の支援によって、中小企業を市場志向的組織へと変化を促し、組織文化として根づかせた。その上で伴走支援による情報的資源の提供により、最終成果につながるとの効果を明らかにした。第二に、「支援が最終成果につながるためには、市場志向と情報的資源の一方の条件だけでは不十分で、市場志向の醸成が必要条件、情報的資源の獲得が十分条件となり、最終成果にプラスに影響する」との仮説の構造を示した。
二神, 廉太郎 澁谷, 長史 Futagami, Rentaro Shibuya, Takeshi
国立歴史民俗博物館では,同館が所蔵する野村コレクションのデジタルアーカイブ化が既に行われ,小袖屛風の画像データとその資料情報をコンピュータ上で簡便に扱うことが可能となった。しかしその主要なコンテンツである画像データそのものに基づいた解析機能は実装されておらず,各画像の視覚的な類似度とその資料情報との相関を測るといった用途には利用ができない現状である。
王, 怡人 金丸, 輝康
本稿は,消費者の中小製造企業に対するネット口コミ状況に関する質問票調査の結果を整理したものである。調査では,ネット口コミを「自発的情報発信」と「情報拡散」に分け,「企業への態度」,「企業や商品の利用経験」,「メディアの種類」,「ネット口コミの動機」のという 4 つの変数を用いて質問票を構築した。その結果の詳細を以下に記す。
遠藤, 聡志 岡﨑, 威生 當間, 愛晃
本稿では知能情報コースで実施した学習サポート事業の概要を紹介するとともに、利用実態とその影響について報告する。利用者追跡調査からはおおよそ平均GPAの継続した改善がみられ、一定の効果を確認することができた。
神部, 尚武 KAMBE, Naotake
読みの眼球運動において,熟練した読み手が,一つの停留中にどのくらいの範囲から情報を受けとっているかをしらべるために実験をおこなった。被験者が,視野を制限するスリットを手にもって,それを自分で文章の上にすべらせながら読みすすめる場合と,スリットをもたずに普通に読む場合の眼球運動を比較した。この結果から,一つの注視点に停留している間に情報が収集される範囲は,被験者によって個人差があるが,9文字から12文字の範囲であることが明らかになった。注視点の平均的な移動距離は,3文字から5文字の間である。このことは,読みの過程において,一つの注視点に停留している間に,つぎに注視点が移動する場所からも何らかの情報をまえもって受けとっていることを示している。
山口, 昌也
本発表では,『日本語日常会話コーパス』を活用するための環境構築について述べる。『日本語日常会話コーパス』は動画・音声,転記テキストを含み,転記テキストには形態素解析結果などの言語学的な情報がアノテーションされている。本発表で提案する活用環境は,全文検索システム『ひまわり』と観察支援システムFishWatchrを統合することにより実現した。本環境を用いることにより,次のことが可能になる。(1)『ひまわり』で転記テキストを全文・単語検索し,当該位置の映像をFishWatchrで閲覧すること,(2)FishWatchr上で動画再生位置に簡易なアノテーション(二つのユーザ定義ラベル,自由テキストを記述可能)を付与すること,(3)FishWatchr上で転記テキストを表形式で表示し,選択した転記テキスト位置の動画を再生すること。また,動画の再生と同期させて転記テキストをスクロール表示すること。
山田, 奨治
本論文では認知科学、美術史、文学史、芸道論、知的財産法などをてがかりに、類似性の科学への糸口と社会的要請・意義、情報伝達と創造性の観点からみた模倣の情報文化論の可能性について述べる。類似は人間の学習・認識過程の根底に深くかかわるものであり、模倣は人と人の間あるいは文化と文化の間の情報伝達、さらには創造性の問題に直結する課題を内包している。一九八〇年以降急速に発達した認知科学は、類似とは何かについての基礎を与えてくれるだろう。絵画・陶芸・産業技術史を振り返れば、模倣が円滑な情報伝達と文化のダイナミズムを生み出してきたことがわかる。また模倣と創造性は密接に関連している。日本の芸道では集団的共同体的なものを基盤としながら、その上に繊細で微妙な個性を追加して内面を引き出す感性がみいだされる。その個性は「風」とよばれる。現代のわれわれは、形の模倣の下にある「風」の創造性を感じ取る能力を退化させてしまったように思う。類似性と模倣をめぐる今日的な課題は、知的財産法とりわけ著作権法の諸問題である。著作権法は文化的創作活動の結果を経済財に転換し、経済原理のなかで文化的活動をして富を生み出さしめる効果をもっている。また著作権法ではオリジナリティという近代の幻想を前提としている。類似性と模倣をめぐる考察は、現代の情報文化が取り残しつつある何かを思い起こさせてくれるだろう。
中嶋, 英介 NAKAJIMA, Eisuke
本論文は廣瀬豊編纂『山鹿素行全集思想篇』(岩波書店、一九四〇~四二)の翻刻方針や書誌情報を見直したものである。
加藤, 祥 浅原, 正幸
『現代日本語書き言葉均衡コーパス』の書籍サンプルにはNDC情報が付与されており,構築当時に情報のなかった書籍などへの増補も行われた(加藤ほか2021)。また,コーパスに付与されたNDCを利用することで,ジャンル別の特徴語の抽出などが試みられてきた(内田・藤井2015)。しかし,一般動詞など,多義的あるいは補助的に使用される語は,語義情報なしでは語彙としての分布傾向が見られにくく,ジャンル横断的な分布となる。そこで,本稿は,増補したNDC(加藤ほか前掲)を用いてジャンルの語彙分布を再確認するとともに,分類語彙表番号の付与されたBCCWJ-WLSP(加藤ほか2019)と重ね合わせることにより,語義分布に内容別の傾向が見られることを確認する。
かりまた, しげひさ Karimata, Shigehisa / 狩俣, 繁久
琉球列島全域の言語地理学的な調査の資料を使って、構造的比較言語地理学を基礎にしながら、音韻論、文法論、語彙論等の基礎研究と比較言語学、言語類型論、言語接触論等の応用研究を融合させて、言語系統樹の研究を行なえば、琉球列島に人々が渡来、定着した過程を総合的に解明できる。言語史研究の方法として方言系統地理学を確立することを提案する。
衣畑, 智秀 KINUHATA, Tomohide
日本語の「逆接」の研究においては,個々の形式がどのように対立しているかを捉えるための,理論的枠組みについての考察が十分ではなかった。本稿では,関連性理論を援用し,話し手の知識や対話における情報の処理についての理論的考察を行い,これを踏まえることで,ノニ,ケド,テモといった「逆接」の接続助詞が適切に記述できることを示した。一般に「逆接」では,何らかの含意関係が否定されていると言えるが,この含意関係が,ノニは,話し手の「知識」という特殊なものであり,ケド,テモは,「文脈」という発話解釈に一般的な情報である。主節の制約やニュアンスなどのノニの特殊性は,この否定される含意関係の特殊さから説明することができる。一方,ケドとテモは,「文脈」が否定される中で,前者が前件と後件がそれぞれ独立した情報として扱われているのに対し,後者は前件と後件が合わさって一つの情報として処理される,という対立を成している。
山口, 昌也 YAMAGUCHI, Masaya
本稿は,『国会会議録検索システム』に収録されている国会会議録のテキストデータに基づき,全文検索システム『ひまわり』用の『国会会議録』パッケージを構築する方法,および,構築結果を報告する。本パッケージには,1947(第1回)~ 2012年(第182回)に開催された衆議院・参議院の本会議,および,予算委員会の会議録11106件(約4.49億字)を収録している。本パッケージは言語表現の経年変化分析を行うために設計され,会議情報,発言者情報,会議録の構造情報がXMLで付与されている。本稿では,まず,XMLタグを設計するとともに,原資料の表記上の手がかりを使って,設計したタグを会議録に自動的にアノテーションする方法を示す。次に,考案した手法に基づいて『国会会議録』パッケージを構築する。また,構築したパッケージに収録した会議録の基礎情報を示す。最後に,『国会会議録』パッケージを使って,(a)経年変化が大きい表現を抽出する方法,(b)抽出された表現に対する経年変化要因を調査する方法を示すことにより,『国会会議録』パッケージの有用性を示す。
賀茂, 道子
本稿は,占領期に実施された言語改革の政治的側面を検討するものである。連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)は,複雑な日本語表記システムが民主化のための情報アクセスへの障害になると考え,言語改革を推し進めようとした。とりわけGHQによる民主化のための情報発信を日本人が理解できないことが問題視された。そのため,GHQが想定したリテラシーとは,新聞や憲法などを読んで理解できる能力であった。しかしながら,占領体制が安定し民主主義が浸透するなか,民主化のための情報発信も減少したことで,言語改革はローマ字化といった抜本的なものではなく,部分的な改革に終わった。同様に,リテラシーを測るための「日本人の読み書き能力調査」は,社会生活を送るうえでの最低限の能力を測るものへと変節した。しかしながら,漢字の削減などの言語簡易化によって民衆の情報アクセスは容易になっただけでなく,GHQの意向を斟酌した日本側の自主的な動きによって天皇の言葉や法律が口語化したことにより,民主化の動きを加速させたと考えられる。
山田, 篤 安達, 文夫 小町, 祐史 Yamada, Atsushi Adachi, Fumio Komachi, Yushi
本稿では,博物館資料情報の高度な検索の一手法として,既存の資料名称から語を取り出し,それらの間の関連度を用いて,一般的な語彙から専門的な語彙にたどり着く発見的な検索手法を提案し有用性を検証する。
服部, 伊久男 Hattori, Ikuo
古代荘園図と総称される史料群の一例である「額田寺伽藍並条里図」の分析を通じて,8世紀後半の額田寺の構造と寺辺の景観を明らかにすると同時に,寺院景観論の深化を図ることを目的とする。官寺や国分寺については多くの先行研究があるが,史料の少ない氏寺などの私寺の構造と景観については,古代寺院の大部分を占めるものの十分な研究がなされてこなかった。氏寺の寺院景観の一端を明らかにし,多様な寺院研究の方法を提起するために額田寺図を検討する。近年の古代荘園図研究の動向を受けて,考古学的に検討する場合の分析視角を提示し,寺院空間論などの領域論的,空間論的視点を軸として,寺院組織や寺院経済をめぐる文献史学上の論点を援用しつつ,額田寺の構造と景観に言及する。額田寺伽藍並条里図は多様な情報を有する史料体であり,寺領図という性格に拘泥せず様々な課題設定が可能である。本稿では,社会経済史的視点を援用し,本図を一枚の経済地図として読むことも試みる。額田寺をめぐる寺院景観の中では,とりわけ,院地,寺領,墓(古墳),条里をめぐる諸問題について検討する。さらに,近年の考古学的成果を受けて,古代寺院の周辺で検出されている掘立柱建物群について,畿内外の諸例(池田寺遺跡,海会寺遺跡,市道遺跡など)を中心に検討を行う。小規模な氏寺をめぐる景観をこれほどまでに豊富に描き出している史料はなく,その分析結果が今後の古代寺院研究に与える影響は大きい。考古学的に検討するには方法論的にも,また,現地の調査の進捗状況からも限られたものとなるが,考古資料の解釈や理解に演繹的に活用するべきである。とりわけ,これまであまり重要視されてこなかった院地の分析に有効に作用することが確認された。また,近年の末端官衙論とも関係することが明らかとなった。今後,寺領をめぐる課題についても考古学から取り組む必要も強調したい。
伊波, ひとみ Iha, Hitomi
2008年2月21日(木)に開催された「九州地区機関リポジトリ・ワークショップ:文系研究成果の情報発信に向けて」における事例発表のスライド。
藤原, 幸男 Fujiwara, Yukio
他大学教育学部または教育大学における教育学と心理学を統合した学校教育学科では,教育学の専門科目は理論ばかりでおもしろくない,という批判が学生にあり,そのために,専修に分化するときに心理学専修を選ぶ者が多いと聞く。教育学について一面的な理解しかないにしても,学生の批判はあたっているところもある。学生の批判を受けとめ,教育学の専門科目の授業を教育内容・方法面において再編成し,魅力あるものにしていく必要がある。今年の夏,「教育方法学」の集中講義をF教育大学で試みた。理論と実践の結合を意識して,実践事例を多く紹介したプリント資料とビデオ教材を準備したために,学生の隠れた教育学批判に結果的に応えることができた。現実の教育問題への関心の喚起,教育方法学の理論の実感的理解,教育像・授業像・教師像の変化,教育方法学観の変化などについて刺激を与えることができた。「教育方法学」集中講義の講義内容・方法を概観し,実践的試みを実施したあとでの学生の感想を中心にして,上記事項などでの影響について報告する。
浦崎, 直光
令和元年度大学教育改善等経費により,工学科電気システム工学コースならびに電子情報通信コースで実施した学習サポートルーム事業の成果について報告する。
山崎, 誠 YAMAZAKI, Makoto
1 いわゆる引用の助詞とされる「って」には,大きく分けて引用・伝聞・提題・強調の4つの用法がある。(ここでは,前2者をあつかう)2 引用の「って」は,発話・思考を提示するものがもっぱらであり,「と」にくらべると用法は限定されている。3 伝聞の「って」は,「って」が単独で用いられるものと,「(ん)だって」「(ん)ですって」のように複合辞的に用いられるものとがある。4 「(ん)だって」「(ん)ですって」は,いわゆる伝聞(情報伝達)と伝聞の確認(情報確認)の2つの用いられ方をする。これらは,それぞれ情報伝達および情報確認における流れを乱さないように用いられる。いわゆる「伝聞」は,伝聞だけを表すのでなく,伝達・確認というはたらきも合わせ持っている。5 一方,よく似たかたちで,「(ん)だって」「(ん)ですって」という複合辞が存在する。これには,意外・驚きを表すものと,発話をそのまま提示するものとがある。それぞれ,引用・伝聞両方の特徴を持っているが,前者は伝聞的な性質が強く,後者は引用的な性質が強い。
櫻井, 芽衣子
換言の接続表現「つまり」は、先行部を具体的に説明したり、要点をまとめたり、分かりやすく言い換えたりすることを示す。「つまり」による換言の様相を『現代日本語書き言葉均衡コーパス』で見ると、先行部と後続部の結びつきが百科事典的知識に基づいてるため文脈から切り離しても換言が成立するものと、文脈から独立させると換言が成立しているかどうか判断できないものとがある。先行部と後続部の結びつき自体に文脈の影響があるといえる。また、文脈より換言の内容に関わる情報を得ることもあれば、換言の観点に関わる情報を得ることもある。異なるレベルで文脈が関与しており、特に、読み手の理解を促す換言のための情報提示という文脈の影響は、文章の一貫性を分析する上で重要な観点となると考えられる。
池田, 理恵子 辻野, 都喜江
国立国語研究所では,創立直後の1949年から現在にいたるまで,ことばに関連する内容の新聞記事を収集し,『新開所載国語関係記事切抜集』(『切抜集』)として保存している(総数約11万件)。『切抜集』は戦後の日本語及び日本人の言語生活の変遷の一端を物語る貴重な資料であるが,収録記事数が多い上,体系的な記事目録がないため,そのままの形では研究資料として活用することは困難であった。国立国語研究所情報資料研究部では,この蓄積記事について,掲載日,掲載紙名,見出し等を収録し,記事検索に有用な情報を付加した『国立国語研究所新聞記事データベース』(『データベース』)を作成してきた。現在までに,蓄積記事のすべてについて,記事検索情報の付与がほぼ完了した。
本書の原著は,東海大学海洋学部の学生実験を主な対象とした「魚類学実験テキスト」として日本語で出版されました。今回,対象読者としてアジア・アフリカ域等の学部学生を念頭に,汎用性のある章を選んで翻訳出版いたしました。本出版は,総合地球環境学研究所エリアケイパビリティープロジェクトおよび東海大学海洋学部の助成を受けて行いました。
本書の原著は,東海大学海洋学部の学生実験を主な対象とした「魚類学実験テキスト」として日本語で出版されました。今回,対象読者としてアジア・アフリカ域等の学部学生を念頭に,汎用性のある章を選んで翻訳出版いたしました。本出版は,総合地球環境学研究所エリアケイパビリティープロジェクトおよび東海大学海洋学部の助成を受けて行いました。
本書の原著は,東海大学海洋学部の学生実験を主な対象とした「魚類学実験テキスト」として日本語で出版されました。今回,対象読者としてアジア・アフリカ域等の学部学生を念頭に,汎用性のある章を選んで翻訳出版いたしました。本出版は,総合地球環境学研究所エリアケイパビリティープロジェクトおよび東海大学海洋学部の助成を受けて行いました。
本書の原著は,東海大学海洋学部の学生実験を主な対象とした「魚類学実験テキスト」として日本語で出版されました。今回,対象読者としてアジア・アフリカ域等の学部学生を念頭に,汎用性のある章を選んで翻訳出版いたしました。本出版は,総合地球環境学研究所エリアケイパビリティープロジェクトおよび東海大学海洋学部の助成を受けて行いました。
本書の原著は,東海大学海洋学部の学生実験を主な対象とした「魚類学実験テキスト」として日本語で出版されました。今回,対象読者としてアジア・アフリカ域等の学部学生を念頭に,汎用性のある章を選んで翻訳出版いたしました。本出版は,総合地球環境学研究所エリアケイパビリティープロジェクトおよび東海大学海洋学部の助成を受けて行いました。
林, 正之 Hayashi, Masayuki
柳田國男著作中の考古学に関する箇所の集成をもとに、柳田の考古学に対する考え方の変遷を、五つの画期に整理した。
張, 平星
2022 年6 月12 日(日),日文研共同研究「日本文化の地質学的特質」の初めての巡検を,京都の名石・白川石をテーマに,その産出と加工,産地の北白川地域の土地変遷と石の景観,日本庭園の中の白川砂の造形・意匠・維持管理に焦点を当てて実施した。地質学,考古学,歴史学,宗教学,哲学,文学など多分野の視点から活発な現地検討が行われ,比叡花崗岩の地質から生まれた白川石の石材文化の全体像を確認できた。
沓脱, 小枝子
目的:本研究は染色体構造異常のある子どもをもつ母親が、情報の少ない中で育児を行うプロセスを探ることを目的に実施した。
山崎, 誠 柏野, 和佳子 宮嵜, 由美
本稿では「現代日本語書き言葉均衡コーパス」の図書館サブコーパスに含まれる小説(NDCで913, 923など)のサンプルにおける会話文に話者情報を付与した結果とそれを用いた分析について紹介する。付与したサンプル数は2,663サンプルである。付与した話者情報は「話者名、性別、年齢層」(これらは必須)のほか、「話者の社会的属性(職業など)、会話相手の情報、会話モード(電話での会話、方言での会話、外国人の会話等)」なども全てのサンプルにではないが付けている。「話者名、性別、年齢層」については、「中納言」の検索結果に表示することを計画している。また、その他の話者情報は、中納言のサイトからBCCWJ所有者に限りダウンロードできるようにする予定である。分析から分かったこととして以下の4点を挙げる。(1)小説の全センテンスの約4割が会話文であること。(2)性別では女性の会話文が全体の約3割であること。(3)年齢層では約75%が成年層の会話であり,若年層は約20%,老年層は約5%であること。(4)会話モードでは、電話による会話が全体の約4%程度あること。また、方言による会話文が約5,000あり、その多くは大阪を中心とした関西の方言であること。
ケリ, 綾子 Kelly, Ayako
日本語を習得する上で,日本を理解し学習意欲を向上させるために,日本事情のテーマとしてふさわしいものは何か,そしてどのようにして授業を進めていくのが効果的なのかを,アンケート結果をもとに考察しカリキュラムを構成し実践した。その結果,特に実習,体験学習,見学を通して学ぶことに留学生は意義を見い出していることがわかった。また留学生の発表する活動については,教室外での学習を促すことになり,自ら取り組み理解を深めることができた様子がうかがえた。つまり,日本事情のカリキュラムの組み立てや内容を考えるにあたっては,情報を与えるに留まらず,能動的な活動を取り入れる必要性があると言える。さらに異文化を理解し,受け入れ,また自国文化との相違点や共通点などを考え,意見を述べることが出来るようなテーマを選ぶ必要があると考えられる。
児玉, 望
筆者は十五年間、ドラヴィダ語学を学んできた。そこでドラヴィダ言語学の立場から、大野説を検討した結果、次のような問題点が明らかとなった。
山村, 奨
本論文は、日本の明治期に陽明学を研究した人物が、同時代や大塩の乱のことを視野に入れつつ、陽明学を変容させたことを明らかにする。そのために、井上哲次郎と教え子の高瀬武次郎の陽明学理解を考察する。
長田, 俊樹
さいきん、インドにおいて、ヒンドゥー・ナショナリズムの高まりのなかで、「アーリヤ人侵入説」に異議が唱えられている。そこで、小論では言語学、インド文献学、考古学の立場から、その「アーリヤ人侵入説」を検討する。
呉, 佩珣 近藤, 森音 森山, 奈々美 荻原, 亜彩美 加藤, 祥 浅原, 正幸 Wu, Peihsun Kondo, Morine Moriyama, Nanami Ogiwara, Asami
『分類語彙表』の見出し語と『岩波国語辞典第五版タグ付きコーパス2004』に含まれる国語辞典見出し語との対応表を作成した。分類語彙表は統語・意味に基づいて見出し語を分類したシソーラスであるが、その語義を規定する語釈文を含んでいない。そこで、岩波国語辞典の見出し語と対照させることで対応表を構築し、統語・意味分類と語釈文を結びつける作業を行った。作業は、見出し語表記による2部グラフを構成し、対応する見出し語対を抽出することによる。本作業は5人の作業者により平行して進めた。本作業結果により、『現代日本語書き言葉均衡コーパス』に付与された2種類の語義情報(分類語彙表番号・岩波語義タグ)との対照比較ができるようになった。本発表では、情報付与作業の方法と基礎情報を報告する。
生越, 直樹 OGOSHI, Naoki
本稿は,朝鮮語と日本語のテンス・アスペクトに関わる諸形態のうち,特に朝鮮語の했다haissda形,해 있다hai 'issda形・하고 있다hago'issda形と日本語のシタ形,シテイル形について論じたものである。上記の諸形態の用法を調べてみると,多くの場合,朝鮮語の했다haissda形に対して日本語のシタ形,해 있다hai'issda形・하고 있다hago'issda形に対してシテイル形が対応する。ところが,現在の状態に対する発話においては,했다haissda形とシテイル形が対応する場合がある。本稿では,このような日朝両語間の対応関係のずれがどのような要因によるのかを明らかにした。考察の結果,①朝鮮語では,変化の成立と変化結果の持続性,つまり変化の完了が話者にとって重要な情報であるとき했다haissda形が使われ,変化の完了が重要な情報でないときには,해 있다hai'issda形 が使われること,②ただし,했다haissda形の文の中にも変化の成立そのものが重要な場合と,変化の結果状態の持続が重要な場合があること,③一方日本語では,話者が直接獲得した情報に過去と現在で差がある場合にはシタ形,過去の情報を持たないか無視する場合にはシテイル形が使われることがわかった。
松田, 謙次郎 MATSUDA, Kenjiro
Seifart et al.(2010)およびSeifart(2011)は名詞・代名詞・動詞の談話中における相対頻度数(NTVR)が言語内で,また言語間でも大きな分散を示し,類型論的に興味深い分布を示すものであることを明らかにした。ここでは岡崎敬語調査(国語研1957, 1983, 阿部(編)2010, 西尾他(編)2010, 杉戸2010a, 2010b, 松田他2012, Matsuda 2012, 松田他2013, 井上・金・松田2013)の回答文に形態素解析を施したデータを分析することで,(1)NTVR が回答者の加齢に影響を受けずほぼ一定の値を保っており類型論的指標として信頼しうる安定性のある数値であること;(2)NTVR には性差が見られ男性の値の方が女性の値より高いこと;(3)この性差が敬語補助動詞の使用頻度の性差によるものであると考えられること,の3点を主張する。NTVRは生涯変動を見せない安定した指標であるが,NTVR算出を目的とした談話データの使用に際しては,当該言語の社会言語学的変異にも配慮する必要がある。また,この研究は形態素情報付き岡崎敬語調査発話データの有用性の一端を示すものであり,こうしたデータの活用によって,岡崎敬語調査のデータは計画当初考えられていたものよりも遙かに多くの多種多様な言語学的問題に解答を与えることが期待される。
大西, 拓一郎
文法は,体系的性質を強く持つ。したがって,ひとつひとつのことがらの背景にはそれを支える構造の存在を考えることが必要である。『方言文法全国地図』を見るにあたってもこの観点は,不可欠で,1枚の地図から読み取ることができる情報は少なくないものの,それだけでは多くの場合,ある程度のレベルでの推測をまじえた判断しか下せないことが多い。関連する項目の持つ構報を総合的に整理し,その中から分析することが求められる。その一方で,総含的観点から分析しようとしても,実際上,調査項目に盛り込まれていない限りは,必要な情報が得られないという,はがゆい事実がまちかまえている。新たな情報の収集が求められるわけである。このようなことがらについてサ変動詞「する」の東北地方における分布とその解釈をめぐって考察する。
窪田, 悠介 KUBOTA, Yusuke
国語研NPCMJコーパスは,(ゼロ代名詞や関係節空所などを含む) きめ細かな統語構造を付与したツリーバンクとして日本初のものであり,特に統語論や意味論など,今までコーパス利用があまりなされてこなかった分野でのコーパス活用を活性化させることが期待できる。一方で,木構造を検索し,そこから必要な情報を取り出す作業の (一見したところの) 複雑さのため,言語研究への活用は未だ模索段階を出ていない。本発表では,UNIX系OSでの基本スキルである単純なコマンドを数珠つなぎにしてデータを加工する手法と,ツリー検索・加工に特化されたスクリプト言語の合わせ技によって,NPCMJを用いて実際の言語研究に役立つ情報抽出が可能になることを示す。「(ガ/ノ交替の) ノ格でマークされた主語と共起する述語の頻度表を作る」というタスクを例に,コーパスからの情報抽出の具体的な手順を説明する。
鄒, 双双 野田, 敦子
本稿は、林芙美子における戦前から戦時の中国での翻訳状況を、全体的に調査し叙述したものである。翻訳作品の特徴などの他、看過されてきた翻訳者と編集者との交流、全集年譜の検討すべき点を提示した。調査をするにあたり、中国のデータベース「全國報刊索引」と「大成老舊刊全文數據庫」を主に用いた。その検索結果の一点一点を中国語から日本語にし、原作とその初出を照査して「翻訳作品一覧表」にまとめた。また掲載雑誌に関する詳細な情報も「訳文掲載誌の基本情報一覧表」にまとめている。これらに基づき、時間の流れに沿って叙述した。
赤嶺, 有平 岡崎, 威生 遠藤, 聡志
本稿では知能情報コースで実施した学習サポート事業の実施状況を報告するとともに、利用記録の取得及びサポート担当学生の負担平準化を目的として2021年度に構築した学習サポートを管理するためのwebシステムについて紹介する。同システムの導入により、利用状況の詳細な記録を得ることができた。
熊谷, 康雄 礒部, よし子
国立国語研究所は1948年の設立以来、日本語および日本人の言語生活に関する科学的な各種の調査研究を行って来た。それらの資料・研究成果や現在進行中の研究・事業による資料・研究成果の蓄積と利用を組織的に行うための仕組みを構築し、運用することが目的である。ここでは、(1)物理的な資料の保存と管理、(2)電子媒体による資料の保存と管理、(3)資料に関する情報の作成と管理、(4)資料の利用と利用管理の各側面が問題になる。これらを過去から現在、そして将来に向けて整えていくことが課題である。「国立国語研究所研究情報資料データベース」(仮称)の構築に向けて現在進めている仕事を通して、現状と問題点および目指しているところの概略を本稿と当日のデモンストレーションを通して示す。
太田, 富康 OTA, Tomiyasu
明治12(1879)年から大正15(1926)年の間、府県と町村の中間に置かれた地方行政機関である郡役所のなかには、「郡報」「郡公報」「郡時報」等の名称の定期刊行物(以下「郡報」と総称)を発行するものが少なくなかった。明治30年代までの郡報は、郡制施行を契機とする公布公告のための「公報誌」で、官報や府県公報誌同様のスタイルをとった。このスタイルのものも、「彙報」により様々な行政情報、地域情報を伝達する機能を有していたが、明治40年代から大正期に創刊された郡報は、公布式による公布公告機能を離れ、広報的機能を大きく拡充させたものに移行していく。
石田, 一之 Ishida, Kazuyuki
ドイツ国内において、数多くの機会において、国民による自国の経済システムに対する評価が減退していることが示され、ドイツ国内ではそのような情報には多くの注目が集められた。ドイツ連邦経済技術省(現経済エネルギー省)科学諮問委員会は、この問題を重要な政策課題として認識し、経済システムに対する評価の問題を受容問題(Akzeptanzprobleme)という形で提起し、その取り組み内容は、2009年9月の所見(Gutachten)にまとめられた。その後、ドイツ社会政策学会(Verein für Socialpolitik)においても、市場経済の受容問題が取り上げられ、2013年に論集にまとまられている。2009年の「秩序経済学へのフライブルグ学派シンポジウム」の市場経済と社会的正義にかかわるセッションの中でも取り上げられている。経済システムに対する受容の問題は、一般的な市場経済システムの受容の問題と、経済システムにおける公正や正義に関する受容の問題との2つの項目に大別できる。
中俣, 尚己 麻, 子軒 NAKAMATA, Naoki MA, Tzuhsuan
『日本語会話話題別コーパス:J-TOCC』の語彙表を公開する。表は2種類で、15ある話題間での特徴度を比較するための粗頻度ならびにLLRの表と、各話題ごとに、240名の調査協力者がそれぞれ何度その語を使用したかというデータを収めた表である。前者の表はどの話題に特徴的かという偏りを表し、後者の表は、ある話題を与えられた時に母語話者の何%がその語を使用するかという「使用者割合」を取り出せる。本プロジェクトの最終目標は日本語教育に役立つ「話題—語彙情報サイト」の構築であるが、現場に役立つ形で情報を整理するにはこの2種類の情報が必要であることを主張する。語の使用者の幅を見る指標としてはtf-idfなども存在するが、検討の結果、本データでは使用総頻度の影響が大きすぎることがわかった。一方で、LLRは語の特徴語を効率よく抽出できるが、多義語など、他の話題の影響で値が低くなることもある。使用者割合はその点をカバーすることができる。
安達, 文夫 小島, 道裕 高橋, 一樹 Adachi, Fumio Kojima, Michihiro Takahashi, Kazuki
博物館の様々な情報をネットワークを介して公開することが広く行われている。いろいろな公開方法の中で,収蔵資料の画像を用いて,あるテーマに沿って複数の画面により構成するものを電子展示と捉える。テーマを適切に伝えるため,電子展示をどのように構成すべきか,あるいは伝えるべき情報の量をどのように適切にするかを明らかにするには,利用者が電子展示を閲覧する特性を知ることが重要である。そして,これにより電子展示の関心の度合いを評価する手掛かりが得られる。
正保, 勇 SHOHO, Isamu
Sidney Greenbaum によれば,先行文脈に対して付加的な情報を追加したり,或は,先行文脈での言説を補強する役目を持つ一群の付加語(adjuncts)を認めることができるという。そして,これには,追加付加詞と追加接合詞の二種類があるという。追加接合詞の代表的なものは,furthermore,moreover,equally,similarlyであり,追加付加詞の代表的なものは,also,too,である。本論では,日本語とインドネシア語においてこの英語の追加付加詞と付加接合詞に相当する語句に関して,主として,次の観点から比較研究を行おうとするものである。イ)追加付加詞・追加接合詞の占める文中での位置とそれによって焦点化される要素。ロ)夫々の言語内における,追加付加詞相互間,或は,追加接合詞相互間の交換可能性。ハ)追加付加詞により焦点化される要素と,新情報・旧情報の区別。
夏目, 和子 刀山, 将大 佐藤, 理史 NATSUME, Kazuko TACHIYAMA, Masahiro
発話文の自動生成の実現基盤となる日本語表現文型辞書を作成した。この辞書は,依頼や勧誘といった発話の目的(発話意図)に対して,それを伝達する際に使用する複数の言語形式(表現文型)を整理したもので,現在,50 の発話意図に対して,のべ675 件の表現文型が収録されている。たとえば,発話意図【依頼-実行】には,表現文型「V-てくださらない?」,「V-てくれんか?」,「お願い,V-て」などの31 種類の表現文型が収録されている。この辞書の特徴は,それぞれの表現文型に,話し方の特徴を表す情報が付与されている点にある。たとえば,「V-てくださらない?」には,「女性的-2,大人っぽい-1,婉曲的-2,丁寧-1」という情報が付与されている。これらの情報を利用することにより,話者の特徴に応じた表現文型の選択が可能となる。
金子, 馨 KANEKO, Kaoru
国文学研究資料館に所蔵される「古筆手鑑」(ラ3-38)を影印・紹介する。本手鑑は平成十四年(二〇〇二)に収蔵された資料で、もとは久曽神昇氏の旧蔵資料である。所収される古筆切のうち、重要と見なされたものについては、久曽神昇『古筆切影印解説久曽神コレクションⅠ~Ⅳ』(風間書房、一九九五~二〇一〇年)、『私撰集残簡集成』(汲古書院、一九九九年)や『和漢朗詠集切集成』(汲古書院、一九八六年)などに収載される。手鑑に収載される古筆切の概要は、当館OPACにも一部記載されるが、詳細を示した細目などは附されておらず、利用の便がよいとは言えない状態にある。全体の画像についても、ウェブサイト上に掲載されていないため、本稿において手鑑の影印を掲載し、全容を紹介したい。なお、本稿では古筆切個々の画像データを利用する際の補助情報として、同手鑑に押された古筆切の書写内容を一覧とした。各古筆切に関する解説は、前掲書に掲載されるため、「参考」として一覧にて紐付た。なお、資料情報の提示を主としたため、伝称筆者の伝記やツレに関する情報については省略した。それらについては、当館の「古筆切所収情報データベース」を併せてご利用願いたい。
岡田, 浩樹 Okada, Hiroki
この論文の目的は,近年盛んになりつつあるかのように見える「老人の民俗学」という問題設定に対する一つの疑問を提示することにある。はたして「老人の民俗(文化)」という対象化が有効なのかを,比較民俗学(人類学)の立場から検討する。その際に韓国の事例を取り上げることにより,老人の民俗学の問題点を明らかにする方法をとる。
安達, 文夫 Adachi, Fumio
人文系の博物館や研究機関において,デジタル化された画像や映像,音響資料の利用が進み,今後ますます多様化し増大すると考えられる。これを広く利用できるようにするためには,デジタル資料の情報を適切に記述することが重要であり,そのための記述法を確立する必要がある。
緒方, 茂樹 Ogata, shigeki
近年のテクノロジーの進歩に伴って、学校教育におけるICT機器の活用は急速に進められている。これからの学校教員はICT機器の活用に関してこれまでのように一部の専門家に頼るのではなく、教員が自分自身で活用できる基礎的なスキルを身につける必要がある。このことはまた、教員養成系大学において、ICTの活用に関する講義を授業科目として提供することはもちろん、実際に自分の研究や勉強に役立てる実践的かつ応用的なICT機器の活用をゼミなどで積極的に取り入れることが不可欠であることを示している。本稿では主にiPadを活用したゼミの取り組みを中心に、研究室で行っている学生に対する研究や論文指導の実践例を事例として紹介する。紹介する事例は総務省によって全国で展開されてきた「フューチャースクール」の取り組みのように大がかりなものではない。しかし機器設定の工夫により、それと類似した環境設定は不可能ではなかった。特に「学生教育用Wi-Fi環境jを独自に構築することで、教員と学生が「情報の検索と閲覧に関わる内容の共有」を容易に図ることができるようになった。さらに将来的には大学のみならず、教育現場とも協力した「共有情報アーカイプ」作成の可能性もみえてきている。現在研究室で行っている実践は、これから教員になる学生がクラウドコンピューテイングなどの新たなネットワーク環境を学び、将来的に教育現場でICT機器を十分に活用していくためのスキルを身につけるためのひとつの試みであると考えている。
尾本, 惠市
本論文は、北海道のアイヌ集団の起源に関する人類学的研究の現況を、とくに最近の分子人類学の発展という見地から検討するもので、次の3章から成る。
クレインス, 桂子
本稿では、近世初期の堺の商人で、朱印船貿易家として知られる木屋弥三右衛門について、日蘭英史料にみられる情報から、その活動と人物像を掘り起こした。
粟津, 賢太 Awazu, Kenta
戦没者の記念追悼施設やその分析には大まかにいって二つの流れがある。ひとつは歴史学的研究であり、もうひとつは社会学的研究である。もちろん、これらの基礎をなす、死者の追悼や時間に関する哲学的研究や、それらが公共の場において問題化される政治学的な研究も存在するが、こうした研究のすべてを網羅するのは本稿の目的ではない。
岡村, 秀典 Okamura, Hidenori
漢鏡は,年代を測る尺度として大いに活用され,中国考古学と日本考古学との接点のひとつとなっている。本稿は,中国考古学の立場から,前漢鏡研究の続編として,後漢代の方格規矩四神鏡,獣帯鏡,盤龍鏡,内行花文鏡の4つの鏡式をとりあげ,型式学的研究法にもとついた編年を試みるものである。
福田, 航平 投野, 由紀夫 Fukuda, Kohei Tono, Yukio
外国語学習において、語彙を運用する力を学習者が身につけるためには語彙リストで単語を個別に記憶するだけでなく、使用頻度の高いフレーズで提示するのが重要である。近年、コーパス準拠英語語彙・フレーズリストが発表されているが、対象学習者レベル、受容・産出語彙の区別は明確ではない。本研究では、CEFR準拠英語学習語彙表CEFR-J Wordlistの活用度を上げ、学習に資するコロケーション選択をするための資料となるコロケーション・データセットを整備する。1億語のイギリス英語均衡コーパスであるBritish National CorpusからUniversal Dependenciesに基づいた構文解析を行い、共起フレーム別(例:動詞+名詞、形容詞+名詞)に共起語セットを抽出した。教育的に有用なコロケーションを教師や学習者が選定するための情報源として、単純共起頻度以外に検索語-共起語ペアについて、各語のCEFR-J Wordlistに基づいたCEFRレベル情報、共起統計(MI, MI2, MI3, t-score, z-score ,logDice, log-likelihood, chi-squared)と散布度指標(DP)の情報を付与した。
近藤, 明日子 田中, 牧郎 KONDO, Asuko TANAKA, Makiro
日本語の大規模コーパスへの網羅的・体系的な語義情報付与を目的として,語義の体系的な分類を示す大規模な現代日本語のシソーラス『分類語彙表増補改訂版データベース』の見出しと,各種大規模コーパスの構築に利用されている電子化辞書UniDicの見出し(語彙素)との同語関係による対応を表す表形式データの構築を行った。同語判別の作業は分類語彙表・UniDic両者の見出しの表記・読み・類の対応に基づいて人手により行い,その結果,『分類語彙表』の64,759見出しとUniDicの50,795語彙素との同語関係による多対多の対応を表す「分類語彙表番号-UniDic語彙素番号対応表」を構築した。本対応表を活用して大規模コーパスへの網羅的な語義情報付与作業が始まっており,また,形態素解析結果に分類語彙表番号を付与する機能を実装した形態素解析ツールも開発された。一方で,本格的な大規模コーパスへの語義情報の網羅的付与に向けて,対応表の拡張や多義語の語義選択といった課題への対処も必要である。
吉田, 安規良 藏滿, 逸司 田中, 洋 山田, 美都雄 Yoshida, Akira Kuramitsu, Itsushi Tanaka, Hiroshi Yamada, Mitsuo
琉球大学の教職大学院に,特別支援学校教諭専修免許取得用科目「特別支援教育の教育課程・授業特論演習」を開設する際の教材資料を想定し,特別支援教育の教育課程及び障害特性の理解と指羽・支援に役立つ授業論に関連して,①特別支援学校.特別支援学級と通級による指羽についての教育課程と学級編制.②個別の教育支援計画,個別の指羽計画と個人情報保護,③教育実践上の留意事項と教員及び幼児・児童• 生徒集団の文化という教育社会学的視点の3点について,学修者である教職志望者及び現職教員に意識させる事項を具体的方法とあわせて学修内容として整理した。①として.指羽要録を教材にしながら,障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るための教育課程が編制されるため,各教科の目標及び内容についての差が存在し,その指羽について障害の状態や特性及び心身の発達の段階等を十分考慮するとともに,障害の状況に応じた配慮が求められていること.及び学級編制基準との関係性の理解が挙げられる。②として.「個別の教育支援計画」,「個別の指導計画」の具体的な様式や記入例,活用事例を示したり,実際に作成させたりしながら,その意味の違いを理解し,個人情報の保護という視点から学修を深めることが挙げられる。③として,「診断名(障害名)に囚われすぎないこと」と「作成した計画を指導に生かす」ことに留意し,文化的側面についても意識的に配慮し,適宜対応を図る姿勢が求められることが挙げられる。
荒木, 和憲 Araki, Kazunori
本稿は、中世日本の往復外交文書の事例を集積することをとおして、その様式論を構築しようとするものである。従来、日本古文書学においては研究が手薄であったが、様式論を構築することで、日本古文書学、そして「東アジア古文書学」のなかに中世日本の往復外交文書を位置づけようとする試みである。
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