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野入, 直美 Noiri, Naomi
本稿では、沖縄に在住する日系ペルー人と日系ブラジル人の来沖類型と、南米居住時代の日系・沖縄系のエスニック・ネットワークについて記述する。焦点となるのは、日系ペルー人と日系ブラジル人のエスニック・ネットワークに対するスタンスの違いである。調査対象となった日系ペルー人のほとんどは、ペルー居住時期に日系あるいは沖縄系で結合する緊密なエスニック・ネットワークに加わり、地元のペルー人との関係よりも親密な関係をエスニック・ネットワークに求めており、その意味で<エスニック・ネットワーク志向>と言える。一方、日系ブラジル人の対象者は、地元のブラジル人との関係に包み込まれており、<ローカル・ネットワーク志向>と言える。
德島, 武 Tokushima, Takeshi 徳島, 武
本論文では、基軸通貨の選択について、様々なネットワーク外部性を仮定した進化ゲームのモデルを用いて分析を展開した。得られた結論は以下の通りである。1.一貫してネットワーク外部性が収穫逓増的である限り、複数基軸通貨制度は、不安定かつ非効率的な制度である。2.一貫してネットワーク外部性が収穫逓増的である限り、単独基軸通貨制度は、安定かつ効率的な制度である。3.一貫してネットワーク外部性が収穫逓増的である限り、通貨価値の暴落による、単独基軸通貨交替あるいは複数基軸通貨制度への移行のシナリオは成立しない。
ISHIMOTO, Yudai Miyazaki, Hidetoshi Ishimoto, Yudai Miyazaki, Hidetoshi
社会ネットワークをはじめとする社会関係資本は,人間のレジリアンスの重要な構成要素の1つであり,環境変動へ対応するための社会的基盤となる。しかし社会関係資本は時間経過とともに変容するため,社会ネットワークを静的なものとしてではなく,変化するものとの前提に立つことが理解のために重要である。そのためには,現在のコミュニティーの歴史を理解し,人々のネットワークが周囲といかに関与するか把握することが求められる。
根川, 幸男
小稿は、小林美登利という一日本人キリスト者の移動・遍歴の足跡を、会津、同志社、ハワイ・米国、ブラジル渡航後、一時帰国期の五期に分けてたどり、グローバルな複数地域を横断する越境史として捉えなおす試みである。小林は、会津でキリスト教に出会い、同志社人脈を通してハワイ・米本土での伝道・留学の機会をつかみ、米国で強力な支援者を得た。またブラジルではマッケンジー大学を通して人脈を構築し、日系移民子弟教育というニーズを背景に聖州義塾という教育機関を設立した。さらに日本に一時帰国した小林は、渋沢栄一の知遇を得、渋沢の呼びかけによって、日本財界から多額の寄付金を獲得、義塾事業拡張を達成するのである。彼はこの過程で、会津という地縁、同志社などの学校縁、キリスト教会という信仰縁、在米・在伯日本人というエスニック縁の活用によって、右記四地域を横断する越境ネットワークを形成した。渋沢の支援も米国内の排日運動への対応と連動しており、小林の越境ネットワークは日本の国益を背景とする彼らのネットワークに接続することによって、広がりを見せ強化されるのであった。そこには、それぞれの〈縁〉を活用し、自前のネットワークをより大きく強固なネットワークに接続していくことによって、連鎖的にネットワークを拡大していくメカニズムが働いている。こうした〈縁〉を通じたネットワークは、ブラジルという異国で小林の事業を展開するための資源として活用され、聖州義塾は小林の「真の意味の伯化」という理念にもとづき、ブラジル日本人移民とその子弟たちの二文化化のエージェントとして排日予防啓発の役割を担うのである。
加藤, 潤三 前村, 奈央佳 Kato, Junzo Maemura, Naoka
本研究は、沖縄に県外より移り住んできた移住者が、沖縄の社会やコミュニティにどのように適応していくのか、その適応プロセスについて、移住者のソーシャルキャピタルの観点から検討していくことを主目的とした。移住者26名に対する面接調査の結果、移住者は、沖縄のコミュニティ内において社会参加したり、ネットワークを形成していくなど、ソーシャルキャピタルを獲得していくことで適応を促進させることが明らかになった。特に、移住者が沖縄において形成するネットワークには機能差があり、ウチナーンチュとのネットワークは、移住者が沖縄の文化に同化したり、沖縄アイデンティティを獲得するために必要なものであるのに対し、本土出身者とのネットワークは、移住者が適応の過程で感じる様々なネガテイプな出来事や感情を緩和させるのに有効であることが示された。
西谷, まり NISHITANI, Mari
本稿では中国長春市における日本語教師ネットワークについて報告する。長春市では中国人教師と日本人教師が共に月例勉強会及びメーリングリストに参加し,情報交換を活発に行っている。この日本語教師ネットワークの成功の理由は(1)勉強会事務局が充実し,参加者それぞれが主体的に関与していること,(2)日本人教師だけでなく中国人教師も能動的に勉強会に参加していること,(3)メーリングリスト,ホームページといったコンピューターネットワークが効果的に利用されていることの3点に求めることができる。
丹治, 涼 大村, 英史 澤田, 隼 桂田, 浩一 TANJI, Ryo SAWADA, Shun
本稿では,rtMRIデータから音響特徴量を生成するための深層学習モデルを提案する。調音器官全体を高解像度で記録できるrtMRIは,調音データから音響特徴量を生成するための元データとして有用であると考えられるが,フレームレートが比較的低いという問題がある。そこで我々は,転置畳み込みネットワークを用いて時間軸方向に超解像処理を行う方法を提案する。標準的な畳み込みニューラルネットワークが畳み込みによって主に画像の近隣情報を圧縮するのに対して,転置畳み込みネットワークではこの逆の操作を行うことにより,画像の解像度を向上させる。本手法ではこの超解像処理をrtMRIデータの時間方向に適用することによって,rtMRIデータの時間解像度を向上させる。メルケプストラム歪みとPESQを評価尺度として用いた実験の結果,転置畳み込みネットワークは正確な音響特徴量の生成に有効であることがわかった。また,超解像処理の倍率を上げることで,PESQのスコアが向上することも確認した。
前川, さおり Maekawa, Saori
本稿は,一地域の博物館職員の視点から見た文化財レスキューネットワーク論である。岩手県遠野市の博物館職員であった筆者には,業務を通じて三陸沿岸市町村の文化財担当者や県内外の博物館学芸員と公的・私的なネットワークがあった。筆者は,東日本大震災の際に地震によって被害を受けた遠野市役所の文化財レスキューを行った後に,三陸沿岸自治体の図書館博物館文化財レスキューを行った。
石本, 雄大 Ishimoto, Yudai
本研究の目的は、ザンビア南部州で暮らすトンガの人々が築く日常のネットワークを明らかにすることである。また、こういった日常の人間関係が形成される状況についても報告する。
山城, 郷士 緒方, 茂樹 Yamashiro, Satoshi Ogata, Shigeki
本研究では、沖縄県でこれまでに行われてきた特別支援教育ネットワーク構築の過程を見直す\nことで現状を把握し、さらにこれまでに生じた様々な課題について整理をする。最終的には、そ\nれらに基づいて今後の沖縄県の特別支援教育の有機的なネットワークを構築していくための手が\nかりと方向性を明確にすることを目的とする。具体的には県内6教育事務所の所管地域における\n特別支援教育ネットワークの異同をまず明らかにし、平成17年度から翌18年度の沖縄県の特別支\n援教育ネットワーク構築の変遷について検討を加えた。地域レベルのネットワークについては、\n教育事務所ごとに設置された地域特別支援連携協議会により、各地域における特別支援教育のた\nめの関係諸機関とのネットワーク構築については、その大枠がほぼできたことが明らかとなった。\n学校内の特別支援教育体制を見てみると、小中学校の教員に関しては年々特別支援教育の理解が\n進んでいる反面、子どもの実態把握が未だに充分とはいえず、校内体制の整備についても今後の\n課題とされた。学校レベルにおいては特別支援教育に関する体制作りは未だなお発展途上の段階\nと言わざるを得ない。これらのことから、平成17年度はいわば「特別支援教育体制推進のための\n準備期間」、一方平成18年度については「特別支援教育体制推進の大枠形成」の時期であったと\nいえる。これら地域や学校レベルの具体的な課題を認識しつつ、今後は県全体を統括する広域特\n別支援連携協議会においてもまた、各地域のニーズに応じた支援を県レベルで指導・推進してい\nくことが重要な課題であるといえよう。
吉田, 亮
海外宣教師の伝道活動は、国家や地域の再編や、複数国家や地域間のヒトの移動によって複数国家や地域にまたがることがある。海外移民伝道は典型例である。移民伝道に従事した宣教師の活動は「一国史」研究の枠を取り払った「越境史」的手法でのみ解明できる。一九世紀末期にアメリカン・ボード日本ミッション宣教師が展開したハワイ日本人移民伝道は、まさに「越境」伝道と呼べるものであった。「越境」伝道は日本ミッションの伝道地を「脱領土化」してハワイにまで広げるだけでなく、国家に付随する一元的な政治的、文化的忠誠心に挑戦し、宣教師のアイデンティティを複合化した。また、移民という「越境」行動はハワイと日本間の宣教師ネットワークと、ハワイとカリフォルニア間の日本人ネットワーク形成の要因となり、複数ネットワークが交錯することで双方を補強した。最後に、「越境」伝道はハワイアン・ボード、日本ミッションおよび日本組合基督教会の伝道史や、その背後にあるハワイおよび日本の政治文化史にも関与した。
武井, 弘一 Takei, Koichi
猿引は、サルに芸をさせて、それを見世物にして金品を貰い受ける。芸能に従事していたことから、近世社会では、彼らは被差別民の立場に置かれていたと理解されている。小稿では、加賀藩を事例にしながら、被差別民である猿引が、近世社会のなかでどのように生きていたのかを明らかにした。加賀藩の猿引は、百姓や武士の厩を祈祷する役割を果たしていた。その結果として、猿引・百姓・武士という三者のあいだで、ウマをとおした社会的なネットワークが形成されていた。眼に見えることのない、このネットワークのなかで、加賀藩の猿引は生きていたのである。
大角, 玉樹
筆者は平成27 年度から平成29 年度まで,異分野融合型の研究として,沖縄感染症研究拠点形成促進事業「動物媒介性感染症対策の沖縄での施策提言とネットワーク形成に関する研究」に共同研究者として参画した。感染症対策における技術イノベーションと政策・施策提言をテーマに取り組み,その成果とネットワークを活用した,新たな研究の展開を模索してきたものの,長らく方向性が定まらなかったが,今回のコロナ禍を受けて,これまでに考えてきた研究課題を再整理することにより,実践的な提言につながる研究を探求していきたい。
緒方, 茂樹 城間, 園子 佐和田, 聡 大城, 由美子 Ogata, Shigeki Shiroma, Sonoko Sawada, Akira Ohshiro, Yumiko
本研究では、従来試行錯誤的に行われてきた関係諸機関との連携と、子どもの支援に関わるアプローチをより効率化することを目的として、特別支援教育におけるネットワークシステムの構築と支援プロセスのモデル化を試みた。まず、特別支援教育における関係諸機関同士のネットワークシステム構築のモデルとして「空間モデル(横断型)」を考えた。このモデルについては、沖縄県内各地で実際にネットワークシステムを構築してきた過程を踏まえながら可能な限り汎用性のあるシンプルなモデルの作成を試みた。さらに具体的な子どもに対する支援システムをいかにして構築するかといういわば「手順(プロセス)」を明確にするために、「時間モデル(縦断型)」を考えた。このモデルでは、教育相談を積み重ねる中で培ってきた経験等を生かしながら支援システム構築のフローチャートの作成を試みた。ここで示したモデルは、文部科学省あるいは県教育委員会等からの「トップダウン的なモデルの提示」というよりはむしろ、実際に地域等で構築してきたネットワークシステムを基にした「ボトムアップ的なモデル\nの提示」であったと考えている。これらの考え方は、システムエ学の考え方を参考にしたものである。本研究は、特別支援教育をシステムとして捉え直すことで、これまでむしろ経験的に行われてきた人的、組織的な繋がりや支援プロセスの流れについて整理し、さらにモデルを提示することで汎用化を図ろうとした。本研究ではこのようなアプローチを当面「システム教育学」と呼びながらその可能性を考えていきたいと考えている。
篠原, 聡子 Shinohara, Satoko
日本住宅公団によって昭和34年から建設がはじまった赤羽台団地(所在地:東京都北区,総戸数:3373戸)は,団地としての様々な試みが実現した記念的な団地ということができる。本稿では,その中に配置された共用空間と居住者ネットワークに着目して,その関係について考察する。
白井, 哲哉 SHIRAI, Tetsuya
本稿は、アーカイブズ学における史料管理論の観点から、地域で展開される被災文化遺産救出態勢の構築のあり方を考察したものである。具体的には、東日本大震災被災地における活動実践の分析を通じ、現地における救出態勢の構築過程を解明するとともに、今後に向けた課題を提出することを目的とした。分析対象として、東日本大震災の被災地である茨城県で被災文化遺産救出活動に従事する茨城文化財・歴史資料救済・保全ネットワーク準備会(茨城史料ネット)を主に取り上げ、同じく福島県で活動に従事するふくしま歴史資料保存ネットワーク(ふくしま史料ネット)を比較対象とした。
安達, 文夫 鈴木, 卓治 宮田, 公佳 Adachi, Fumio Suzuki, Takuji Miyata, Kimiyoshi
国立歴史民俗博物館では,日本の歴史と文化に関する研究の成果を,ネットワークを介して公開してきた.ここ数年は,一般利用者向けの情報提供と,歴史資料の原情報を提供するシステムを構築している。
安達, 文夫 鈴木, 卓治 小島, 道裕 高橋, 一樹 Adachi, Fumio Suzuki, Takuji Kojima, Michihiro Takahashi, Kazuki
人文科学の分野において,様々なデータベースが作成され,多くがネットワークを介して公開されている。これらのデータベースをまとめて検索できるようにすることにより,個別のデータベースの所在やその操作方法を意識することなく検索が可能となる。
德島, 武 Tokushima, Takeshi 徳島, 武
本論文では、基軸通貨の選択について、収穫逓増的ネットワーク外部性を仮定した進化ゲームのモデルを用いて分析を展開した。得られた結論は以下の通りである。1.複数基軸通貨制度は、不安定かつ非効率的な制度である。2.単独基軸通貨制度は、安定かつ効率的な制度である。3.通貨価値の暴落による、単独基軸通貨交替あるいは複数基軸通貨制度への移行のシナリオは成立しない。
城間, 園子 緒方, 茂樹 Shiroma, Sonoko Ogata, Sigeki
特別支援教育がスタートして10年が経過しているが、特別支援教育に関する体制整備は未だ十分であるとは言いがたい。特に関係機関と連携・協働した体制の整備は、お互いを繋ぐ役割を担う特別支援教育コーディネーターなど、個人の専門性や資質に委ねられており、結果的に学校及び地域間の格差を招いている。さらに共生社会の実現のためインクルーシブ教育システムの構築を推し進めていくことが求められることから、学校にはさらなる外部機関との連携と協働を図った取組が要求されている。この連携・協働を推進していくためには、繋ぐという機能の存在が果たす役割は極めて大きい。先に述べたコーディネーターもその一人ではあるが、繋ぐという機能を明確にしていかなければ、支援体制がシステムとして機能していくことは難しくなり、場合によっては構築したネットワークシステムの形骸化を招いてしまうことになりかねない。本稿では関係機関と連携したネットワークシステムを学校及び地域での体制整備の方策を考慮しながら、境界関係システムRelational Interface Sysytem(Ris)の動きと、繋ぐということについて改めて考察をする。Risの存在は、学校・地域における体制整備に大きな影響を与えるものであり、Risの果たす役割を明確にしたネットワークシステムを構築していくことが重要である。さらにRisは人のみならず個別の教育支援計画のように一つのツールが担うこともあり、その役割を明確にした上で活用していくことが特別支援教育のみならずインクルーシブ教育システム構築の促進に繋がると考える。
王, 怡人
デジタル社会において,企業はインターネットを活用した様々なマーケティング活動を行っている。本稿は,製造企業のこのようなマーケティング活動に焦点を当て,統計データおよびネットワーク理論の概念を使って,企業の試みと産業特性とのマッチング度を検証し,さらに製造企業にとって今後の展開の課題を整理した。
福島, 金治 Fukushima, Kaneharu
本稿は、鎌倉中期における漢籍の京都から鎌倉への移入、御家人らへの伝授と相互書写による本の累積、そして地方への拡散のありかたを将軍家や御家人の人的ネットワークとその所領関係から考察したものである。考察の対象は、金沢文庫本の核をなす北条実時本とこれに関わった清原教隆の伝授本を中心にした。
池田, さなえ
本稿は、明治期の政治家を中心として広がる多彩な属性の人的ネットワークを可視化する方法を考案し、それをもとに明治政治史における地方人士「組織」の問題に新たな光を当てるものである。明治期の政治においては、地方人士の中に根強く存在した強固な反政党意識や組織への強い忌避感という条件のもと、議会に基盤を持たない藩閥政府の指導者たちはそのような「組織されたくない人びと」にアプローチせざるをえなかったという固有の困難が存在した。
安達, 文夫 小島, 道裕 高橋, 一樹 Adachi, Fumio Kojima, Michihiro Takahashi, Kazuki
博物館の様々な情報をネットワークを介して公開することが広く行われている。いろいろな公開方法の中で,収蔵資料の画像を用いて,あるテーマに沿って複数の画面により構成するものを電子展示と捉える。テーマを適切に伝えるため,電子展示をどのように構成すべきか,あるいは伝えるべき情報の量をどのように適切にするかを明らかにするには,利用者が電子展示を閲覧する特性を知ることが重要である。そして,これにより電子展示の関心の度合いを評価する手掛かりが得られる。
山口, 昌也 桝田, 直美 YAMAGUCHI, Masaya YANAGIDA, Naomi
我々は,観察支援システムFishWatchr Mini (以後,FWM)を開発し,ディスカッション練習などの協同型の教育活動で,グループでの観察・振り返り活動を実践してきた。本稿では,観察したシーンを振り返り時にビデオで参照できるようFWMを機能拡張した結果を報告する。本拡張では,ビデオ共有時の運用のしさすさと個人情報保護の問題に考慮しつつ,ネットワーク上のビデオの参照を実現した。
北村, 啓子 KITAMURA, Keiko
古書目録DBのようにJIS外字を含む大規模DBを分散環境で多数の人の共同作業で構築することを想定し、ネットワーク環境でウェブ(Javaサーブレット)技術を使ったデータ入力システム開発の例と、全文検索エンジンを使った目録検索システム開発の例を紹介する。それぞれのシステムについて、UNICODEを使ったJIS外字の入出力の実現方法、その場合の問題点と解決方法について説明する。
酒井, 茂幸 Sakai, Shigeyuki
国立歴史民俗博物館蔵田中穣氏旧蔵『広幢集』(以下『広幢集』と略称)は、稿者により近時全文翻刻が公表された新出資料である。その資料的価値は、従来未詳であった、広幢の晩年の伝記的事蹟が明らかになるとともに、『広幢集』に記載のある兼載・心敬・顕天・用林顕材・岩城由隆・兼純との交流関係や相互の人的ネットワークが新たに判明するところに存する。
若狭, 徹 Wakasa, Toru
東国の上毛野地域を軸に据えて,古墳時代の地域開発と社会変容の諸段階について考察した。前期前半は東海西部からの大規模な集団移動によって,東国の低湿地開発が大規模に推し進められるとともに,畿内から関東内陸部まで連続する水上交通ネットワークが構築された。在来弥生集団は再編され,農業生産力の向上を達成した首長層が,大型前方後方墳・前方後円墳を築造した。
本研究では、社会ネットワークによる保険として世帯間のサポートに注目し、日常的サポートと臨時的サポートの2 つに分け分析を行った。日常的サポートのうち、食料生産および食料消費における共同労働メンバーは、①いずれの活動とも近い血縁者が多いこと、②構成員の家屋は物理的に近いこと、③構成員は重複することが多いこと、④畜力利用はメンバー形成に大きな影響を与えることが明らかになった。臨時的サポートのうちモノの贈与は、①頻度および量が農作業の進行状況に伴い変化すること、②季節変化があること、③立地条件によっても傾向が変化することが明らかになった。
遠藤, 光男 Endo, Mitsuo
物体が最初に認識されるカテゴリーレベルを物体認識のエントリーポイントという。一般的な物体においては基礎レベルが最も早く認識され、基礎レベルがエントリーポイントとして機能している。顔などの熟達したパターン認識においては、下位レベルへのアクセス性が促進され、両者が同等になることが知られている。しかし、顔認識過程のエントリーポイントが基礎と下位レベルの両方にあるのか、下位レベルにあるのかについては明らかになっていない。今回は顔認識過程の基礎レベルがエントリーポイントとしての機能を失っている可能性について呼称課題を用いて検討した。もし、顔認識過程の基礎レベルがエントリーポイントとしての機能を失っているならば、通常の上位レベルが意味ネットワークを介してアクセスされるように、基礎レベルへのアクセスは下位レベルから意味ネットワークを介して行われることになる。その場合、人名からの基礎レベルへのアクセスと顔写真からの基礎レベルへのアクセスに正の相関があることが予測されたが、実験の結果、そのような正の相関は得られなかった。したがって、顔認識過程の基礎レベルがエントリーポイントとしての機能を失っている積極的な証拠は得られなかった。
吉原, 大志 YOSHIHARA, Daishi
本稿は、災害時に被災した歴史資料(被災資料)の保全活動と、その担い手を社会のなかに広げるための方法について、阪神・淡路大震災を機に設立されたボランティア団体である歴史資料ネットワーク(史料ネット)の取り組みから考えようとするものである。史料ネットの活動の基礎には、地域の歴史資料そのものを保存するだけではなく、それを実現するための拙い手を、社会のなかに広げようという考えがある。これが、2004年の水害対応をきっかけとして、水損資料の応急処置方法とともに、「どこでも・誰でも・簡単に」資料保全の担い手になることができるという意識の普及を目指す水損資料修復ワークショップの実践へと展開した。
糸洲, 昌隆 遠藤, 聡志 當間, 愛晃 山田, 孝治 赤嶺, 有平 Itosu, Masataka Endo, Satoshi Toma, Naruaki Yamada, Koji
人のコミュニケーションにおける重要な要素は、メラビアンの法則より、ジェスチャーや表情などの視覚情報が半分以上を占めている。笑顔は人に良い印象を与える表情の一つであり、井上らの研究より、多少の年代差と性差はあるが笑顔は共通して評価が高いという結果が出た。また、笑顔表情の形状と印象に関する研究より、顔パーツの形状や位置によって印象の違いが見られるという報告がされている。これらの研究より、表情を印象によって分類することで、さらに細分化できるのではないかと考えた。そこで本研究では、畳み込みニューラルネットワークを使用して印象の良い笑顔と悪い笑顔を学習させることで、笑顔印象の評価の推定するモデルを構築する。
野入, 直美 Noiri, Naomi
本稿は、従来、日本社会におけるマイノリティとして捉えられることの多かった沖縄について、沖縄内部のエスニックな多様性に光をあてようとするものである。沖縄における日系人・定住外国人の主なグループからアメリカ人、台湾人、日系ペルー人、日系ブラジル人の4つのエスニック・グループを対象とし、インタビュー形式の意識調査を行い、国境を越える移動の類型とエスニック・ネットワークを分析する。沖縄を、日系人・定住外国人の受け入れ社会、すなわちホスト社会として捉え、多様な背景をもつ人々が共生する社会に向けての課題を整理する。なお、本稿はその前編であり、アメリカ人と台湾人について記述している。後編では、日系ペルー人と日系ブラジル人について記述し、社会的な課題を述べる。
吉葉, 研司 小林, 稔 Yoshiba, Kenji Kobayashi, Minoru
渡嘉敷村の人口推移や子育ての現状から人口が子育て世帯で上昇していること、人口上昇が村外\n出身者によっておきているため子育て世帯の9割が核家族化していること、したがって孤立化をさ\nけるための子育てネットワークが必要になってきていることを明らかにした。このような現状に対\nする取り組みとして渡嘉敷村立渡嘉敷幼稚園では「ゆんたく」が行われており、これは、教諭が親\nに教えるスタイルをとらず、親が主体の「はなしやすさ」「とりくみやすさ」「つながりやすさ」を\nめざしている。
先に公刊した拙著『士(サムライ)の思想―日本型組織・強さの構造―』は、日本の武家社会の制度や組織の生成と展開を叙述したものであるが、同時に今日の日本社会に特徴的である、いわゆる日本型組織の諸性格を論じたものであった。これに対して平山朝治氏は批判論文を発表された。その批判論点は、日本社会におけるイエの形成のあり方、中世の在地領主ないし武士の自立性の根拠、イエモト型組織と多元的で流動的なネットワーク型組織との関係、土地や農村の文化ではなく日本における成熟した都市文明の伝統、等々に関わるものである。本稿は平山論文への反論であり、右の諸問題についての著者の見解の根拠を明示している。ことに拙著で日本型組織の原型としての位置づけを与えた、徳川時代の大名家(藩)なる組織の性格規定が枢要の問題となるのであり、これが常識的なイエモト型組織でもなく、また平山氏の提示されるネットワーク型組織でもなく、まったく独自の構造をもった統合的な組織であることを詳論する。それはイエを基盤としてイエになぞらえる形で擬制的に拡大されていく組織ではあるが、イエモトのように人々を主―従の関係によって連結的ヒエラルキーに構成していくものではなく、それはむしろ同輩関係にある大名家臣団の成員によって形成される機能的階統制としてあることを明らかにする。
宮村, 春菜 MIYAMURA, Haruna
本研究は,ラオスの人々の生活における飼育動物のありかたを人間-犬関係から明らかにすることを目的とする。予備調査では,犬の飼育実態を調べ,そこから,噛むことと病気,犬の取引,食用としての犬について知見を得た。今後,飼い犬に求める役割,犬取引ネットワーク,噛むことと病気に対する意識の3点について調査を行い,犬と人間がどのような関係を築いているか、また、人びとは犬に対してどのような見方をしているのか、犬の存在が人間に直接的もしくは間接的にどのような影響を及ぼしているのかということを究明していく。
大角, 玉樹 Osumi, Tamaki
本稿では、沖縄感染症研究拠点形成促進事業の一環として実施されているイノベーション・エコシステム形成に向けた研究を紹介し、政策提言に向けた分析を行う。地球温暖化、グローバル化、ヒトやモノの移動の急増により、感染症のリスクが急増しており、実効性の高い政策が求められている。沖縄も、観光客と物流の急増を受けて、感染症対策が急務であり、内外の研究機関や公的機関と連携をとりながら研究開発とネットワーク形成を推進しており、将来的には持続的なイノベーションを創出する感染症研究拠点形成も予定されている。本稿では、その実現に向けたCSV モデルと今後の政策的課題を提示する。
浦崎, 武 武田, 喜乃恵 崎濱, 朋子 Urasaki, Takeshi Takeda, Kinoe Sakihama, Tomoko
琉球大学教育学部附属発達支援教育実践センターは「障害児・者の支援・教育に関わる学生・教員の実践力殻成機能の充実と地域の学校や教育行政機関との協働支援を行う地域拠点の構築」と題する中期計画達成プロジェクトを実施した。プロジェクトの中核となるトータル支援活動を通して、多様な課題がより鮮明になり、今まで以上に障害児・者への支援・教育は乳幼児期から成人期までの生涯におよぶ一貫した具体的な支援・教育とともに、地域の特性に基づいた支援・教育が求められた。また、より一層の福祉、医療、保健、労働等近接領域間の連携・協働による支援・教育体制の整備やネットワークの構築が求められた。
高田, 智和 井手, 順子 虎岩, 千賀子 TAKADA, Tomokazu IDE, Junko TORAIWA, Chikako
さまざまな行政手続をインターネットで行う「電子政府」を構築するためには,氏名,住所,法人名などの固有名に使われる文字をも含め,行政情報処理で必要とされる文字をコンピュータで扱えるような環境を整えなければならない。国立国語研究所・情報処理学会・日本規格協会では,行政情報処理で必要とされる文字の調査研究(汎用電子情報交換環境整備プログラム)を実施している。この調査研究において,住民基本台帳ネットワーク統一文字,戸籍統一文字,登記統一文字を検討し,行政用文字の文字コード規格(JIS X O213,ISO/IEC10646)によるカバー率を明らかにした。また,漢和辞典に掲載されていない文字について,地名資料による文字同定を進めている。
後藤, 雅彦 Goto, Masahiko
東南中国の地域をめぐる考古学研究として、珠江三角州地域をとりあげ、まず、時間軸の設定を再確認し、周辺地域との関わりを時間的推移の中で見直した。また、近年の新しい研究課題として、地域内における遺跡差及び遺跡間の関係をあげることができる。本稿でも、印紋陶や石錘を例にしながら、東南中国という広い地域単位での位置付け、一地域内での遺跡差の両側面から検討を加えた。そして、商代併行期と言う時代の転換期において、外からの殷系文化の南漸と言う外的要因と共に、内的要因として、特定の素材や製品の広がりにみる地域内部のネットワークが強化されていることに着目し、さらに、中核的な遺跡の存在を考えた。
大角, 玉樹 Osumi, Tamaki
1.はじめに 平成24年度沖縄県「産学人材育成ネットワーク形成促進事業において、沖縄県の自立的経済発展及び地域活性化のために必要とされる人材像ならびに新たな産学官連携の在り方が調査検討された。その結果、1.イノベーションを担う人材が不可欠であること、2.そのためには、起業家精神を有する人材の早期育成が必要であり、3.この実現のために、産学官が連携したネットワーク構築と沖縄の地域特性を踏まえたイノベーション・エコシステムの形成の有用性が確認された。起業家育成教育が効果的であることも関係者から指摘されているものの、長期に渡り、起業家教育は会社を設立するための実務教育であると勘違いされ、本来、起業家精神を醸成し、起業家的なものの見方や考え方と行動特性、すなわち、マインド・セットとスキル・セットを習得するための教育であることが忘れられているようである。筆者が座長を務める同事業検討委員会では、他大学の先進的な起業家育成教育ならびにビジネス・プランコンテストの視察、県内ベンチャー企業が実施しているシリコンバレー派遣プログラムの視察、県内教育機関の取組状況に関する調査と意見交換が行われ、何よりも、県内教育機関には、正規のカリキュラムの中に、ベンチャー育成や起業家育成の講座が提供されていない点が指摘された。この状況を打破し、時代や社会が求めている起業家及び起業家精神に溢れる人材の育成を加速するために、まずは県内大学と高等専門学校が連携した実践的なベンチャー講座が開設できないかという提案がなされた。この提案を受けて、琉球大学が過去5年にわたって実施してきた「沖縄学生アイデア・コンテスト」と、平成24年度に実施したビジネス・トライアルコンテストの内容を再検討し、平成25年度より、琉球大学の共通科目として、「ベンチャー起業入門」と「ベンチャー起業実践jが開設されるに至った。本稿では、ベンチャー講座開設の契機となった沖縄学生ビジネス・アイデア・コンテストとビジネス・トライアルコンテストの概要を紹介し、学生アンケートの分析を参考に、今後の改善点と課題について議論している。
真謝, 孝 中村, 哲雄 Majya, Takasi Nakamura, Tetuo
県内知的障害養護学校の卒業生と, 進路指導担当教師及び労働・福祉機関等に対して就労支援に関する調査を行ない, 就労者をとりまく支援の現状と課題を明らかにした。その結果, (1)就労者の多くは家庭と職場に限定されたわずかな支援.しか得られていない(2)就労先の選択・決定において知的障害児本人の関与が少ない(3)施設・作業所など福祉的領域からの就労者への支援は少ないという課題が見いだされた。課題解決を図る方向性として, 今後の進路指導において(1)本人の主体的関与を促すための進路学習を計画的に推進すること(2)「個別の移行支援計画」を作成し, 実践に役立てること(3)地域における就労システムの機能化と就労支援ネットワーク構築などの提案を行なった。
緒方, 茂樹 Ogata, Shigeki
将来的な特別支援教育の充実のために、沖縄県の地域特徴である島嶼地域に焦点を当てながら、地域における関係諸機関のネットワークシステム構築の参考となる資料作成を目的とした。ここでは特に宮古圏域に着目しながら、地域における関係諸機関が復帰後に歩んできた歴史を再確認し、同じ時間軸の上に関連する出来事(イベント)を、教育、医療・保健、福祉、労働等の分野毎に平行に並べながら、いわゆる「年表形式」に纏めた。この年表を元に各分野間を横断的に概観することによって、宮古圏域における障害児に関わる関係諸機関の歩みを多角的かつ総合的に捉えることができる。このことを踏まえて、関係諸機関各々がもつ役割を明確にしながら効率的な役割分担の在り方を探り、さらに関係諸機関の歴史的背景を明らかにしながら過去の様々な経緯を知る。これらのことを通じて、今後の特別支援教育の展開に向けてよりよい連携の在り方を考える手がかりを得ることができると考えられる。
ザトラウスキー, ポリー SZATROWSKI, Polly
オノマトペが試食会のコーパスでどのように用いられているのかを考察する。試食会の参加者は 3種類ずつの乳製品を対照しながら最初は見た目で色や触感を描写・評価し,次に匂いから特定しようとし,食べ始めてからは味覚と触覚で味,食感等を描写,評価する。相互作用の中で五感と関連させながら,評価・描写の場合は,複数のオノマトペの候補を繰り出す過程が,特定や評価の場合は,オノマトペによる根拠づけが見られた。オノマトペを含む発話の後,同意,不同意,他のオノマトペの提示等の発話連鎖や言葉(オノマトペ)探しからオノマトペのネットワーク性が明らかになった。オノマトペは,参加者が言語・非言語行動を通じて,変化していく食べ物に対する感覚的体験を,一瞬一瞬共有,モニターしながら精密化するのに重要な役割を果たすと考えられる。
西谷, 大 Nishitani, Masaru
本稿は中国雲南省紅河哈尼族彝族自治州の金平県で抽出できた,者米谷グループと金平グループの2つの市グループについての特質を明らかにすることを目的としている。これまで金平県でたつ6日ごとの市の考察から,市を成立させる条件として「余剰生産物の現金化と生活必需品の購入」,「徒歩移動における限界性」,「市ネットワークの存在と商人の介在」,「商品作物の処理機能」,「交易品としての食料と食の楽しみ」,「店舗数(市の規模)と来客数の相関」の6つ条件を提示した。さらに市という場としての特質として「小商いの集合による商品数の創出と多様な選択性」や,「生産物の処理の自由度と技術の分担による製品の分業創出」,「市のもつ遊びの楽しみ」などにも目を向ける必要があると論じてきた。
寺嶋, 弘道 板井, 芳江 Terajima, Hiromichi Itai, Yoshie
本研究では、「ライティングにおけるコーパスツール活用モデル(寺嶋・板井, 2021)」を取り入れ、日本語学習者が作文を書く際のコーパスツールの使用実態を調査した。分析の結果、作文においてコーパスツールが使用された回数の中央値は5 回(最大値:14回、最小値:2回)であった。また、作文で使用された表現には、作文前に作成した語彙ネットワークから取り入れられたもの、作文を書いている間に検索されたものがあった。最も多く産出されたのは「名詞+助詞+動詞」のパターンで、中級前半レベルと中級後半レベルの言葉で構成されたコロケーションであった。さらに、その適切さを分析したところ、コロケーション、あるいはコロケーションと共に使用された文法項目が原因で誤用と判断されたもの、コロケーションが使用された節において誤用と判断されたものがあり、「混同」による誤用が多いことがわかった。
後藤, 武俊 Goto, Taketoshi
本稿の目的は、福岡市の「不登校よりそいネット」事業を事例に、多様な主体間のネットワークの形成・維持に寄与した要因を析出し、不登校当事者支援の領域における公私協働のガバナンスヘの示唆を得ることである。「不登校よりそいネット」の構築には、C氏と行政との連携実績、共働事業提案制度の存在、不登校に悩む保護者支援という課題設定、当事者性に根ざした保護者支援人材の育成という4つの要因が見出された。また、その構築過程でC氏が果たした役割・機能は、境界連結者の観点から、「情報プロセッシング機能」「組織間調救機能」「象徴的機能」の3点で捉えることができた。ここから、不登校当事者支援の領域における公私協働のガバナンスにおいては、C氏のような人物が台頭・活躍できる場づくりと、協働の可能性を広げる課題設定が重要になることを指摘した。
大城, 郁寛 Oshiro, Ikuhiro
本稿では、琉球政府が1970年に策定した「長期経済開発計画」の指針となった新全総がどのような地域開発の思想を含んでいたか、それから沖縄が誘致を望んだ臨海工業の特性、業界と官庁との関わりなどを概観したうえで、臨海工業成立の基本的な条件となった政府の資源政策の転換が地域開発に与えた影響を明らかにした。次に、旧全総において開発拠点に指定され急速に工業化を遂げた茨城県鹿島地区(それは琉球政府に1つの開発モデルを提示したが)を取り上げ、臨海工業基地の建設を巡る国の政策や地方公共団体の主体性、そして工業開発が地域経済や地方財政に与えた影響を確認した。最後に、高度経済成長によってもたらされた製造業の構造変化、企業活動の広域化やネットワーク化、世界経済における曰本のプレゼンスの高まりが、琉球政府が望んだ臨海工業基地を沖縄の経済振興に適しないものにしたことを論証した。
栗田, 英彦
大正期に一世を風靡した心身修養法に岡田式静坐法がある。創始者の名は岡田虎二朗(一八七二―一九二〇)という。彼は、静坐実践を通じて内的霊性を発達させることができると述べ、日本の伝統も明治以降の西洋文明輸入政策も否定しつつ、個人の霊性からまったく新たな文化や教育を生み出そうとした。こうした主張が、近代化の矛盾と伝統の桎梏のなかでもがいていた知識人や学生を含む多くの人々を惹きつけることになったようである。これまで、岡田の急逝をきっかけに、このムーブメントは急速に消えていったように記述されることが多かった。しかしながら、実際にはその後もいくつか静坐会は存続しおり、その中の一つに京都の静坐社があった。静坐社は、岡田式静坐法を治療に応用した医師・小林参三郎(一八六三―一九二六)の死後に、妻の信子(一八八六―一九七三)によって設立された。雑誌『静坐』の刊行を主な活動として、全国の静坐会ネットワークを繋ぐセンター的な役割を果たしていた。
ヴォロビヨワ, ガリーナ ヴォロビヨフ, ヴィクトル VOROBEVA, Galina VOROBEV, Victor
本稿では,非漢字系日本語学習者の漢字学習を困難にさせている「膨大な学習対象漢字の量」,「漢字字体の複雑さ」,「漢字を構成する要素の多さ」という阻害要因について検討した。そして「漢字学習能力段階」という概念を定義して,上記の阻害要因を学習者に乗り越えさせるための対処法を提案した。漢字学習の効率化の手段として漢字体系の深い理解を促す漢字学習法が必要である。そのため現常用漢字をカバーする構成要素体系を作成した。漢字の意味を構成要素の意味から推測できるようにすることは重要であり,漢字構成のよりよい理解のために階層構造分解について記した。階層構造分解の際は構成要素だけではなく,構成要素の組み合わせである中間漢字も漢字の要素として扱うことにした。漢字の階層構造分解は漢字を識別する際に重大な役割を果たしている。また学習対象漢字の選択と掲出順序を自由に決められるように「世界観」の漢字意味ネットワークを紹介した。
田中, 将太
本研究は,「住民参加型在宅福祉サービス全国連絡会(以下,住参型全国連絡会)」が実施したアンケート調査のデータから,コロナ過が住民主体による生活支援活動団体の運営に与えた影響について考察した。 コロナ禍において訪問活動や居場所活動,移動支援等の生活支援領域で活動する住民主体の活動団体は,活動継続や再開に向けた感染症対策費用の捻出や拠点の確保,資金や物資の調達,活動再開や中止の判断や活動に対する地域の理解,利用者や活動者の意欲低下などの運営課題に直面しており,その多様な運営主体別にみたとき,運営資源へのアクセス及び支援関係に特徴がみられた。 2025 年を目途に地域の実情に応じた地域包括ケアシステムの構築が図られるなかで,コロナ禍で顕在化した運営主体別にみる運営資源へのアクセスや支援関係の特徴を捉えた行政による生活支援体制整備と合わせ,社会福祉協議会やネットワーク組織等の中間支援機能の発揮による運営資源のプラットフォーム構築とアクセス支援の拡充が重要である。
金, 彦志 方, 貴姫 韓, 智怜 韓, 昌完 Kim, Eon-Ji Bang, Gui-Hee Han, Ji-Young Han, Chang-Wan
障害学生のための文化芸術教育が特殊学校において様々な形で実施されているが、障害学生のための具体的かつ長期的な支援策が設けられていないのが現状である。これにより学校現場での文化芸術教育活性化に困難があると言える。本研究では、障害学生の文化芸術に関する先行研究の考察と特殊学校における障害学生文化芸術教育の実態把握を通じて、今後の学校教育課程における障害学生文化芸術支援の方向に対する政策案を提示した。特殊学校文化芸術教育の実態調査では、韓国の特殊学校153校を対象に実施しており、音楽教科の場合、118校(77.1%)の担当教師181人が回答し、美術教科の場合、98校(64.1%)の担当教師154人が回答している。アンケート調査の結果をもとに、芸術教科担当教師の専門性の確保、芸術教科プログラムの多様性の確保、文化芸術教育環境の改善と専門人材のネットワーク構築など、特殊学校で適用可能なサポートの方向を提示した。
森, 篤嗣 内海, 由美子 MORI, Atsushi UTSUMI, Yumiko
「生活のための日本語:全国調査」における山形県の回答者の中から結婚移住したアジア女性を抽出し,首都圏(新宿・千葉)と全国の同回答者を比較対象に,生活状況と日本語使用について分析した。その結果,首都圏・全国の定住アジア女性に比べて,山形は滞日年数が長く学習の場を持たずに日本語を自然習得している人が多い,「書く」に対する自己評価が低く強い学習ニーズを抱いている等の傾向が見られた。滞日年数に従い日本語でできる言語行動が増える一方,「書く」に対しては不全感を抱いている。また,「地域交流」「幼稚園・学校」場面での言語行動の頻度が高く日本語でできる人が多かった。つまり山形の定住アジア女性にとっては,地域の日本人ネットワークで人間関係を築く・維持するための言語行動の必要性が高い。以上から,地域日本語教育には,「書く」に対する学習支援とともに,高度な言語行動を視野に入れた学習支援が求められていることがわかった。
野入, 直美 Noiri, Naomi
本稿は石垣島の台湾人の生活史の事例から、石垣島における台湾人と沖縄人の民族関係の変容過程をとらえようとする試論の前編である。ここでは、戦前から復帰前までの台湾から石垣島への人の移動と、石垣島における台湾人社会の生成と変容の過程をとりあげる。台湾から石垣島への人の移動は、戦前と戦後を通じて、台湾人実業家が石垣島にもちこんだパイン産業によって形成されてきた。戦前期については、パイン産業の萌芽と台湾人移住の始まり、国家総動員体制下での沖縄人による台湾人排斥を中心に記述を行う。そして戦後期については、パイン産業が石垣島の基幹産業となるなかで台湾人が集住部落を形成し、沖縄人との民族関係が変化していく過程と、復帰前の移行期における台湾人の職業の多様化について記述する。本稿の続編では、復帰後の台湾人社会について、大量の帰化、世代の移行と家族生活の変容、職業の多様化を中心にとりあげ、それらの変化にもかかわらず相互扶助のネットワークが維持されてきた過程について検討する。
水野, 章二 Mizuno, Shoji
平安・鎌倉期の額安寺文書は数段程度の売券類が多数を占めるが、その多くは連券として、鎌倉後期に額安寺に入ったものであり、所在地も周辺に散在して、膝下に集中する傾向は見られない。額安寺が寺領を集積していった鎌倉後期は、春道氏ら周辺に所領を持つ在地の上層クラスが額安寺に入り込んでいく時期であった。額安寺が古代以来の額田部・宗岡氏の氏寺の枠を越え、所領寄進・買得や入寺などを通じて、周辺地域の人々との関わりを深め、地域寺院としての性格を強めていくにつれて、氏寺としての経営は次第に困難性を増し、別当職をめぐる相論も起きる。額安寺が地域寺院化していく際、信仰の地域的ネットワークの重要な要素となったのが文殊信仰であり、それを契機に西大寺流律宗の叡尊・忍性との結びつきが強められていく。春道姓の学春は額安寺に居住し、叡尊・忍性の活躍を支えて、額安寺律宗化の基礎を造った人物であるが、その子信空は叡尊を継いで二代目西大寺長老となる。嘉元元年(一三〇三)の額安寺別当職寄進を待つまでもなく、弘安年間にはすでに西大寺の末寺的色彩が強められていた。
緒方, 茂樹 城間, 園子 津波, 桂和 佐和田, 聡 Ogata, Shigeki Shiroma, Sonoko Tuha, Yoshikazu Sawada, Akira
本研究ではこれまでに提唱してきた「システム教育学」の中核をなす図形モデルの再構築を行なった。まず特別支援教育におけるネットワークシステム構築に関する図形モデルとして「基本モデル」を提案した。従来提案してきた「空間モデル」は結果的にこの基本モデルと同一のものとなった。さらに時間軸に沿った連携のあり方について、基本モデルに時間情報を付加した上で「時間モデル」を再提案した。さらに本稿では、特にコーディネーターの役割に焦点を当て、システム論に基づいて今回再構築したモデルに当てはめを行った。得られた所見から、例えば関係諸機関間の連携については、コーディネーターが境界関係システムとして位置付けられること、その具体的な役割として「つなぐ」ということが主眼とされるべきことなどについて指摘した。さらに境界関係システムに関わる具体的な課題の一つとして、学齢前における保育所(園)、認定こども園におけるコーディネーターの不在などの課題についてもまた明らかにした。認定こども園の設置数増加に見られるような保育制度の改革の中、いわゆる気になる子の早期発見と早期対応についてもまた、時間連携の観点から今後重点的に取り組むべき課題の一つであることを指摘した。
北原, 糸子 Kitahara, Itoko
本稿は,災害情報を近世社会の情報構造のなかに位置づけるための基礎的作業の一環である。先に,災害によって発生した地変を書き留めた絵図を中心に,絵図情報の発信主体,受け手などによって,領主支配層,領内村落支配層,個人,かわら版などの出版業者の四カテゴリーに分け,災害絵図情報の社会的機能を分析した(「災害絵図研究試論」『国立歴史民俗博物館研究報告』81集,1999)。前稿におけるこの情報の四カテゴリーを踏まえ,本論では1840年代後半から50年代にかけて頻発する巨大災害の先駆けを成した善光寺地震の災害情報全般の分析をまず試み,各所に書留として残る資料の大半が被災地域の支配者から幕府に届けられる被害届で占められていることを検証した。また,被災地情報を正規のルートに載せ,広く販売しようとする地震摺物の出版には,それに関わる一群の地方支配層と都市における儒学者や国学者などの知的交流を踏まえたネットワークの存在が不可欠であったことが明らかになった。さらに,被災地を遠く離れた都市では,災害情報に限らず珍事,その他事件を伝える情報を積極的に入手し回覧し合う町人,武士などの身分的制約から解き放たれた同好グループが存在し,彼らの間では善光寺地震の情報が個人的興味に基づく差異を含みながらも,大半が支配層間で交わされる被災届などで占められていたことを明らかにした。
宮内, 久光 Miyauchi, Hisamitsu
本研究では近代期の宇検村を研究対象地域とし、移民の移動パターンと移動要因、移動プロセスなどを概説的に紹介した上で,宇検村からの移民送出の特徴について考察することを目的としている。近代期における奄美大島宇検村からの移民は、移住システム理論の枠組みで説明ができる。すなわち、宇検村の人口圧は極めて高いという内部条件に加えて、戦間期における慢性的に続く経済不況という外部環境による刺激を受け、村民の生活は困窮した。このような地域的な状況に対して、宇検村の人々は移民をすることで対応した。移民先は1920年代までがブラジルへ、1930年代前半は南洋群島へ、そして、1938(昭和13)年以降は満州へと、その時々の国際関係や日本の対外進出といった政治・社会状況に対応して移民先が変わっていた。ブラジル移民の事例では、宇検村出身者はブラジル渡航後に同郷ネットワークにより、居住地域に特徴が見られた。また、チェーンマイグレーションと呼ばれる連鎖移動も認められた。移住システム理論では,マクロ構造とミクロ構造の聞には、多数の「メソ構造」とよばれるような中間的メカニズムを重視する。従来の移民研究では、このメソ構造として、移民会社の役割が強調されてきたが、宇検村では移民送出に行政機関である宇検村役場が積極的に関与して、官民一体となった移民送出システムが構築されていたことが特徴としてあげられる。
野入, 直美 Noiri, Naomi
本稿では、沖縄の本土復帰以降の石垣島における台湾人社会の変容について検討を試みる。沖縄が本土復帰した1972年に、日本は中華人民共和国と国交を回復し、中華民国との国交は途絶えた。この政情不安を背景として、石垣島では台湾人による家族ぐるみの帰化が大量に行われた。ここでは、まず戦後の台湾人の法的地位について整理し、石垣島に生きるひとりひとりの台湾人にとっての帰化の意味と、帰化をめぐる意識について、聞き取りの事例に基づいて考えたい。\nさらに本土復帰後の台湾人社会は、集住地域の解体に直面する。前稿で述べたように、石垣島の台湾人社会は、戦前からのパイン産業を柱として形成されてきた。戦後、パイン産業は石垣島の基幹産業となった。労働力の需要があったために、疎開でいったん台湾へ戻っていた台湾人は石垣島に再移住し、新たに就業機会を求めてやってくる台湾人もいた。しかし復帰後、パイン産業は急速に斜陽化し、パイン缶詰工場で働く下層労働者の多くは石垣島を去った。定住を選んだ人びとも、かつて「台湾人村」と呼ばれたX部落、パインの生産と加工によって栄えた台湾人集住地域を離れ、石垣市の市街地に移動した。この稿では、集住地域の解体と職業生活の多様化にもかかわらず、相互扶助と文化継承のネットワークが維持されていく過程を明らかにしたい。
大角, 玉樹 Osumi, Tamaki
1990年代後半のインターネット揺籃期、成長期を経て、現在、わが国は世界最高水準のネットワークインフラを整備している。情報通信技術(ICT:Information\nand Communications Technology)を21世紀の持続的発展の原動力と位置づけ、それを推進した政策がe-Japan戦略である。さらに2010年までには全国にブロードパンドとユビキタス環境を整備し、情報通信技術の利括用で世界のフロントランナーを目指すu-Japan政策が展開されている。沖縄では、1998年に発表された「沖縄マルチメディアアイランド構想」が、2000年に開催されたG8九州沖縄サミットで採\n択された沖縄IT憲章に後押しされ、IT関連企業の誘致と集積が進められている。\nしかしながら、それがコールセンターに偏っていることから、今後の政策の見直しが迫られている。\n 本稿では、これら情報通信政策を整理し、政策が情報通信技術の普及と啓蒙に果たした役割を明確にし、今後の課題を検討している。また、グローバリゼーションと情報通信技術の急速な進歩により、とりわけビジネスにおけるモジュール化が加速され、また、世界や社会がフラット化しつつある現象が指摘されている。ウェブ自体の進化も、Web2.0という用語に代表されるように、大きな質的変化を遂げて\nいる。\n このような現実を政策に反映するには、情報通信技術へのアクセスが機会を生み出すというデジタル・オポチュニティという考え方よりも、ウェブヘのアクセスと、ウェブとリアル世界のコラボレーションが創造の機会を増幅するという、ウェブ・\nオポチュニティという概念が望ましいのではないだろうか。
緒方, 茂樹 Ogata, shigeki
近年のテクノロジーの進歩に伴って、学校教育におけるICT機器の活用は急速に進められている。これからの学校教員はICT機器の活用に関してこれまでのように一部の専門家に頼るのではなく、教員が自分自身で活用できる基礎的なスキルを身につける必要がある。このことはまた、教員養成系大学において、ICTの活用に関する講義を授業科目として提供することはもちろん、実際に自分の研究や勉強に役立てる実践的かつ応用的なICT機器の活用をゼミなどで積極的に取り入れることが不可欠であることを示している。本稿では主にiPadを活用したゼミの取り組みを中心に、研究室で行っている学生に対する研究や論文指導の実践例を事例として紹介する。紹介する事例は総務省によって全国で展開されてきた「フューチャースクール」の取り組みのように大がかりなものではない。しかし機器設定の工夫により、それと類似した環境設定は不可能ではなかった。特に「学生教育用Wi-Fi環境jを独自に構築することで、教員と学生が「情報の検索と閲覧に関わる内容の共有」を容易に図ることができるようになった。さらに将来的には大学のみならず、教育現場とも協力した「共有情報アーカイプ」作成の可能性もみえてきている。現在研究室で行っている実践は、これから教員になる学生がクラウドコンピューテイングなどの新たなネットワーク環境を学び、将来的に教育現場でICT機器を十分に活用していくためのスキルを身につけるためのひとつの試みであると考えている。
緒方, 茂樹 Ogata, Shigeki
本研究は障害児教育における「音楽を活用した取り組み」をより効果的に行うための実践的、基礎的研究を目指して計画したものであり、本報告はその第二報となる。本報告では全国で数多く行われている「音楽を活用した取り組み」について新たにデータベースシステムの構築をはかった。今回作成したシステムは、いわゆる研究目的で使用するばかりでなく、むしろ現職教員が教育実践の場面で実際に使用することを目的として構築されている。本報告では第一に、「音楽を活用した取り組み」に関して、今回新たに作成したデータベースシステムの構築内容や使用方法などの実際について述べた。第二に、全国で行われている「音楽を活用した取り組み」についてさらに詳細な現状を知るために、今回作成したデータベースに含まれる全国の特殊教育緒学校等に由来する文献のうち、収集可能であった320件全てを対象として個々に内容を検討し、1)「音楽を活用した取り組み」は小学部で数多く行われており、中学部がそれに続いていた。2)教育課程の枠組みについては教科としての音楽科で行われることが多かったが、一方で他の教育課程の枠組みでも幅広く取り入れられていた。3)対象となった子どもの実態はきわめて多様であり、「音楽を活用した取り組み」が様々な障害特徴をもつ子どもを対象として行われていることが改めて明らかとなった。最後にデータベースをめぐる今後の方策と課題について、教育現場との連携の重要性やネットワークへの発展なども考慮しながら考察を加えた。
當間, 愛晃 前堂, 卓也 遠藤, 聡志 山田, 孝治 Toma, Naruaki Maedo, Takuya Endo, Satoshi Yamada, Koji
吉弘, 満美 陳, 延偉 仲尾, 善勝 Yoshihiro, Mami Chen, Yen-Wei Nakao, Zensho
山本, 哲彦 金城, 寛 福本, 功 大松, 繁 Yamamoto, Tetsuhiko Kinjo, Hiroshi Fukumoto, Isao Omatu, Sigeru
Meireles, Gustavo メイレレス, グスターボ
移住者は、ホスト社会に適応する際、エスニック・アイデンティティの保存とコミュニティの継続を促進し、脅威と思われる行動に対して防衛を図る。その過程において、共同体を代表する団体の設立につながる移住者の団結とネットワーク形成が見られる。文化とアイデンティティの維持がエスニック組織の主な役割とされているが、こういった団体はメンバーの定住過程にも大きな影響を与えている。エスニック組織というのは、文化・エスニック・アイデンティティの意識を共有する構成員によって設立されるものである(Sardinha, 2007)。そして、エスニック組織の活動は社会、レジャー、政治、文化、宗教、就労といった、様々な分野に広がる。本稿では、まずブラジルにおける沖縄系エスニック組織の発展過程を分析した。その過程を理解した上で、第6回ウチナーンチュ大会のデータに基づいてそのエスニック組織の実態と将来の展望を検証した。沖縄文化の維持と沖縄県とのつながりに関して、世代的な相違が見られた。若い世代は、日常生活において文化や言語力(うちなーぐちと日本語)の維持に消極的である。さらに、沖縄に関する情報源として、エスニック組織(県人会)よりも、インターネットやソーシャルメディアが多く挙げられた。多くの組織が沖縄県との交流プログラムを通じて若い世代の参加を促そうとしてきたが、その効果はまだ確かではない。本稿で取り上げる事例を見ても、交流プログラムの効果に疑問は残るが、世代交代によって生じる問題の対策として、ブラジルと沖縄に住む若い世代の交流が鍵となる可能性を示唆する。ブラジルの場合は、世代交代が進み、若い世代がブラジル社会に同化する傾向が強く、エスニック組織の維持継続はトランスナショナルなつながりにかかっている。ウチナーンチュ大会や日伯の若い世代の交流プログラムのような施策はブラジルにおける沖縄系エスニック組織の継続を促進する可能性を秘めている。
前原, 武子 Maehara, Takeko
ある人を取り巻く重要な他者(家族,友人,同僚,専門家など)から得られるさまざまな形の援助,すなわちソーシャル・サポート(social suport)が,その人の健康維持・増進に十分な役割を果たすことが注目されている(久田,1987)。\n児童・生徒が示す心理的ストレスもソーシャル・サポートによって軽減されることが,数少ないながら,実証されるようになった。\nFurman & Buhrmester(1985)やReid,Landesman,Treder,and Jaccarrd,(1989)は,小学生が,自分のサポートネットワークをどのようにとらえているか検討した。また,Dubouw and Tisak(1989)は,3-5年生を対象に,ストレス(転居,親の死亡,離婚など)が強いほど問題行動が多いこと,しかし,その関係は子ども自身が報告するサポートの多い群より少ない群で強いことを見出した。\nわが国では,森と堀野(1997)が,小学生を対象として,絶望感がサポートと負の相関関係にあることを報告している。また,岡安・嶋田・坂野(1993)は,中学生を対象に,各種学校ストレッサー(教師,友人,不活動,学業)による各種ストレス反応(不機嫌・怒り,抑うつ・不安,無力感,身体的反応)がサポートによって軽減されることを報告している。興味深いことに,それら両研究は,サポートの有効性がサポートの内容やサポート源によって異なるばかりでなく,サポートを受ける側の属性によっても異なることを見出した。森と堀野(1997)は,ソーシャルサポートが有効に働くための介在要因として達成動機の個人差に注目し,自己充実的達成動機が高い児童がサポートを有効に活用できること,競争的達成動機は介在要因として有効でないことを見出した。また岡安ら(1993)は,男子においては,女子ほど,サポートが有効にはたらかないことを見出し,サポート以外の要因について検討する必要性を指摘した。
与那覇, 賢 遠藤, 聡志 山田, 孝治 Yonaha, Satoru Endo, Satoshi Yamada, Koji
岡, 美穂子 Oka, Mihoko
本稿では,16世紀に記された日本で活動するイエズス会士達の記録を手掛かりに,16世紀後半の九州=畿内間の航路の詳細を検証する。基本的には既刊の翻訳書である松田毅一監訳『イエズス会日本報告集』を情報源とするが,原文の綴りや翻訳内容に疑義のある箇所については原文に遡って,手を加えた。これらの情報の検討の結果,イエズス会士達は主に瀬戸内航路で諸所の港に乗合船で立ち寄りながら移動していたこと,これらの港の一部にはイエズス会士が定宿とするような日本人の家があり,布教の拠点ともなったことが明らかとなる。また,頻繁ではないものの,南海路で移動することもあり,それは主に瀬戸内海の状況が戦争で不安定な時に用いられた。瀬戸内航路,南海路共に海賊は多数おり,海賊との折衝や遭遇の様子も詳細に記される。また彼等を運ぶ船乗り達,船のスペックなどについても詳細な情報がある。特筆すべきは,大友宗麟が大坂出身で塩飽を拠点とする大型船の船頭と直接契約して,宣教師を畿内へと運ばせたという情報である。この情報からも,瀬戸内海の商業航路の関係者が,相当に超領域的な活動を行っていたことが考えられよう。従来のイエズス会史料を用いた南蛮貿易研究では,マカオ=九州間の交易についてのものが多かったが,本研究では,九州より先の日本国内,主に畿内の商人たちの南蛮貿易への関わりに着目した。とりわけ第四節では,小西家のキリシタン入信前後の状況と南蛮貿易に携わる京都商人の動きに着目し,これまでの研究では言及されたことのない血縁ネットワークについても明らかにした。そこからは,京都商人の入信動機には,南蛮貿易での利益のみならず,西洋からもたらされる最先端の知識への探究心もあったことが推察可能である。
西銘, 大喜 遠藤, 聡志 當間, 愛晃 山田, 考治 赤嶺, 有平 Nishime, Taiki Endo, Satoshi Toma, Naruaki Yamada, Koji Akamine, Yuhei
古謝, 安子 宇座, 美代子 小笹, 美子 船附, 美奈子 Koja, Yasuko Uza, Miyoko Ozasa, Yoshiko Funatsuki, Minako
名嘉, 靖 曽, 湘燕 陳, 延偉 仲尾, 善勝 Naka, Yasushi Zeng, Yanien Chen, Yen-Wei Nakao, Zensho
神松, 幸弘 上椙, 英之 木越, 俊介 中本, 真人 KOHMATSU, Yukihiro UESUGI, Hideyuki KIGOSHI, Shunsuke NAKAMOTO, Masato
関根, 健太郎 綱取, 汐音 斎藤, 明莉 諏訪, 竜一 田場, 聡 Sekine, Ken-Taro Tsunatori, Shion Saito, Akari Suwa, Ryuichi Taba, Satoshi
谷川, 惠一 田村, 誠 金, 秀美 舩冨, 卓哉 TANIKAWA, Keiichi TAMURA, Makoto KIM, Sumi HUNATOMI, Takuya
渡邉, 英徳 ユディット, アロカイ 海野, 圭介 宮本, 祐規子 WATANAVE, Hidenori Judit, AROKAY UNNO, Keisuke MIYAMOTO, Yukiko
金城, 宏幸 上里, 賢一 前門, 晃 野入, 直美 鍬塚, 賢太郎 比屋根, 照夫 中村, 完 Kinjo, Hiroyuki Uezato, Kenichi Maekado, Akira Noiri, Naomi Kuwatsuka, Kentaro Hiyane, Teruo Nakamura, Tamotsu
ロバート, キャンベル カラーヌワット, タリン 谷川, 惠一 宮本, 祐規子 Robert, CAMPBELL Tarin, CLANUWAT TANIKAWA, Keiichi MIYAMOTO, Yukiko
岡花, 祈一郎 国吉, 和美 長嶺, 久美子 仲村, 小百合 永山, 勝幸 猶原, 和子 佐藤, 寬子 塚原, 健太
渡部, 泰明 ヘイミッシュ, トッド 大塚, 靖代 馬場, 基 宮本, 祐規子 WATANABE, Yasuaki Hamish, Todd OHTSUKA, Yasuyo BABA, Hajime MIYAMOTO, Yukiko
高田, 時雄 赤間, 亮 前田, 亮 瀧本, 壽史 神松, 幸弘 TAKADA, tokio AKAMA, ryo MAEDA, ryo TAKIMOTO, hisafumi KOHMATSU, Yukihiro
永崎, 研宣 西村, 慎太郎 小荒井, 衛 岡田, 一祐 多田, 蔵人 須原, 祥二 NAGASAKI, kiyonori NISHIMURA, shintaro KOARAI, mamoru OKADA, kazuhiro TADA, kurahito SUHARA, Shouji
ミヒェル, ヴォルフガング ボナベントゥーラ, ルペルティ 山下, 則子 大澤, 留次郎 宮﨑, 将 石上, 阿希 Wolfgang, MICHEL-ZAITSU Bonaventura, RUPERTI YAMASHITA, Noriko OSAWA, Tomejiro MIYAZAKI, Sho ISHIGAMI, Aki
Hijirida, Kyoko 聖田, 京子
ハワイ大学東アジア言語・文学科では2004年秋学期より新講座「沖縄の言語と文化」を開講した。それに先立つ2年間の準備期間中に,担当教員2人(聖田京子,Leon Serafim)が,ハワイ大学及びハワイ地域社会の支援を得て,沖縄へ赴き資料収集を行った。琉球大学等とのネットワークを形成すると共に,豊富な資料・教材を収集することができ,講座開講に向けて,教材作成を中心とするカリキュラムの準備を順調に進めることができた。 コース内容は文化を中心にした楽しい沖縄学と,聞き,話し,読み,書きの4技能の習得及び基本的な言語構造を理解する沖縄語の初級レベルを設定した。言語学習には,まず表記法と,言語と文化の教科書を決めることが重要な課題であったが,琉球大学と沖縄国際大学の関係者の支援により解決することができた。 文化に関するコース内容は,年中行事,諺,歴史上の人物,民話,歌(琉歌を含む)と踊り,料理,ハワイの沖縄コミュニティーなどの領域を取り上げた。特に,沖縄の文化的特徴や価値観などを表すユイマール,イチヤリバチョーデー,かちゃーしーなどは,クラスのプロセスで実践による習得を目指した。 基本的な学習が終わると,学生は各自のテーマで研究し,ペーパーを書き,発表することとし,それによりクラス全員が更に沖縄学の幅と深みを加え,沖縄理解に至ることを目指した。 学生の取り上げた研究テーマは,沖縄の基地問題や平和記念館,平和の礎,ひめゆり部隊,沖縄の祭り,行事,観光,エイサー,歌手,空手,三線,紅型,ムーチー(民話),紅芋など多岐にわたっており,学生の沖縄に対する関心の幅広さがうかがわれた。 当講座の全体の教育目標は以下のように設定した。1)沖縄語の言語研究上の重要性を理解すると共に,基本文法を習得し,初級レベルでのコミュニケーション実践をタスクで学ぶ。2)沖縄文化を理解し,その価値観や考え方をクラスでの実践を通して学ぶ。3)ハワイにおける沖縄県系人コミュニティーの文化活動に気軽に参加し,かつ楽しめるようになる。 当講座は,開講以来,受講希望者がコースの定員を上回る状況であり,当大学の学生の沖縄の言語や文化への関心の高さを示している。かちゃーしーやユイマール,沖縄料理などの文化体験は大変好評で,講座終了後のコース評価では,沖縄語をもっと学びたい,沖縄文化をもっと知りたいという学生からの声が多く寄せられた。
大角, 玉樹 Osumi, Tamaki
沖縄及び琉球大学の戦略的な研究として、「亜熱帯島嶼科学」が提唱され、その推進のため、2005年に、亜熱帯島嶼科学超域研究推進機構が開設されている。過去の外部評価では、学術的な取り組みとしては高く評価されているが、応用研究として、イノベーションや事業化につながる産学官連携を促進することの必要性が喫緊の課題として指摘されている。我が国の経済政策の一つである、「イノベーション25」においても、イノベーションによる持続的成長と豊かな社会の実現が謳われており、辺境に位置し、観光への依存度の高い沖縄が科学技術を活用したイノベーション・アイランドに変貌を遂げていくことが期待されている。世界水準の研究教育を目的とした沖縄科学技術大学院大学の開学は、この期待を一層大きくしている。筆者は、1995年に施行された科学技術基本法以降の、我が国の政策と地域の政策を検討し、国際会議や国際展示会への参加、フィールドワークを通じて、イノベーションを創造する環境や地域特性の調査研究を続けている。過去10数年にわたり、関連研究機関や技術移転に関わる組織、科学技術コーディネータを含め多くの専門家や実務家と意見交換をしてきたが、その大半が、産学官連携によるイノベーション創出の困難性や問題点を指摘する声であり、有効性に疑問を投げかける意見であった。「連携」といいながらも、依然として、お互いの立場や考え方の違いを尊重することが少なく、それぞれが所属組織・機関の目的に従って、個別ばらばらに動いているのが現状であろう。琉球大学における亜熱帯島嶼科学の応用研究の必要性、沖縄21世紀ビジョンに掲げられている沖縄科学技術大学院大学の産学連携やベンチャー創出という政策的方向性を検討する際にも、「連携」ないしネットワーク形成がキーワードの一つになっている。過去の調査研究から、イノベーションを促進・加速するための連携が実現し、地域クラスターがエコシステムに変容を遂げるには、従来の政策ではほとんど考慮されることのなかったソーシャル・ファクターに注目し、そのマネジメントを確立することの必要性を感じている。まだ概念や研究のフレームワークが明確ではないことから、これまでの産学官連携、クラスターに関する主要な研究と近年の経営学における主要な研究トレンドを参考に、予備的考察を試みたものが本稿である。まだ、漠としたイメージしか掴めないものの、ソーシャル・ファクターとツーリズム・キャピタルという概念を取り入れた産学官連携モデルの進化と深化に向けて、理論構築と検証を行っておきたい。
Hsu, Ruth Y. シュー, ルース Y
本稿では、抵抗と解放への可能性を生じさせる「場」としての記憶と歴史に注目しつつ、アジア太平洋地域の反主導権力的文学テクストについて考察する。アジア太平洋地域の異なる地理的場所において、過去数十年の異なる時期に書かれたテクストを分析していくが、特に21 世紀における昨今の動きの中で有利な位置にあるアジア系アメリカ文学・文化が、いかに合衆国の文学研究をさらなる脱中心化へと導く方法として有効かということについて、合衆国の昨今の問題意識のもとに分析していく。その覇権的な作用が多岐にわたる決定論を無効にするひとつの方法は、支配的な歴史的語り^^ナラティヴに埋もれた、場所や人々の物語^^ストーリーを掘り起こすことである。私たちが過去をどのように認知し、その知見とどのように向き合うかは、日常生活的に課せられた現在の責務(例えば、共同体意識や共通の目的のもとに、政治的に機能する社会を築くことなど)と関わっており、私たちが脱植民地化の流れの中で過去や現在を刷新していくことは、そうした共同体形成の作業に影響を与える。必要なのは、個人的な記憶と共同体や国家の集合的記憶の両方を再構築することであり、それによって、歴史の創造過程が、主導権を掌握する勢力との交渉や闘争の場そのものとなるのである。本稿は、スーチェン・クリスティン・リム(シンガポール)、マリア・N. ヌグ(香港マカオ)、R. ザモラ・リンマーク(ハワイ)の著作やラッセル・リオン(ロサンジェルス)の詩などを検証することにより、脱植民地主義的試みにおける記憶や集合的歴史の問題点に迫る。これらの「物語^^ストーリー」は、アジア太平洋地域の人々がどのように西洋の植民地主義と関わってきたかという経験のありようを垣間見せてくれる。また、これらの語りは、実際にある多様な奴隷状態から登場人物たちがどのように自らを解放へと導いていったかについても明らかにする。読者は、フィクションとしてのこれらの語りを、過去を「再追悼」する行為であると認識すると同時に、広大な脱植民地化の動きの中で人々をつなげる反主導権的ネットワークの生じる場所を、時間的・空間的な多面性、その予想不可能性、流動性、順応性といった力を備えた「場」として位置づける。本論ではまた、そのポストモダン的語りによって脱植民地化の文学の中でイコン的な存在となっているテレーサ・ハッキョン・チャの『ディクテ』についても論じ、結びとして、これまで英訳されることのなかった沖縄文学の作品を含む MANOA の沖縄文学特集号についても触れる。
加藤, 潤三 前村, 奈央佳 金城, 宏幸 野入, 直美 酒井, アルベルト 山里, 絹子 グスターボ, メイレレス 石原, 綾華 Kato, Junzo Maemura, Naoka Kinjyo, Hiroyuki Noiri, Naomi Alberto, Sakai Yamazato, Kinuko Gustavo Meireles Ishihara Ayaka
樫永, 真佐夫 Kashinaga, Masao
水田が広がり、高床式の木造家屋がならぶ東南アジア北部内陸部には、衣装も言語もふるまいも異なるたくさんの民族が居住している。この地域では高度別に民族がすみわけていることが古くから知られてきた。この民族のすみ分けの現状とその歴史的背景について考えたい。
手塚, 薫 Tezuka, Kaoru
マンローのアイヌ研究がどのような動機や目的に基づいて実施されたのかについては,これまで,本人の性格や思想を推測して考察することが一般的であった。純粋な知識欲以外にもアカデミズムへの貢献といった名誉欲などの要素を度外視することはできないが,公刊資料からだけでは,動機の解明にいたることは困難である。
大城, 史帆
近年メタンハイドレートなどの海底天然資源の海洋開発の進展により、深海探査が不可欠になっている。深海探査の他にも海洋養殖モニタリングやマリンレジャー等での水中ドローンも利用されており、世界中で自立型無人潜水機(AUV: Autonomous UnderwaterVehicle)の研究・開発が盛んになってきている。AUV の最大の利点はテザーケーブルを使用せずに完全に自立型で行動する無人潜水艦である。これらの研究・開発で必要不可欠となる水中音響通信は問題が多くあるが、その中でも以下の3 つの問題に焦点を当てた。(1) 問題1 : 有線長による探索エリアの制限現在の水中ドローンはほとんどの機種が有線接続で使用されており、探索エリアがワイヤーの長さによって制限されてしまう。有線接続での問題は探索範囲が制限されること以外にも岩場での断線の可能性などもあるため、無線化されたAUV が要求されている。(2) 問題2 : 定期的にAUV を母船へ回収する必要性問題1 でも提示した通り、現在使用されているAUV のほとんどが有線接続のため、テザーケーブルなしで使用するAUV を動作させるにはAUV 本体を定期的に回収し、中に入っているデータを回収する必要がある。(3) 問題3 : 海面や海底の反射波で発生するマルチパス水中で通信を行う際に発する送受信波は、垂直通信の場合、干渉はあまり発生せずに受信できるのだが、水平通信の場合は海面や海底に反射し、マルチパスが発生する。この問題が最も解決が困難とされており、マルチパス対策は必要不可欠となる。本研究はこれら3 つの問題に対して各自解決策を提案し、シミュレーション及び実験を行った。本論文は全6 章で構成されており、第1 章では研究背景と目的を述べる。第2 章では、本研究に使用する技術の基礎概要を述べている。第3 章では、問題1 と問題3 を解決するべくサイクリックプレフィックス(CP : CyclicPrefix)なしSTBC-MIMO OFDM による水平水中通信を提案した。従来、直交周波数分割多重(OFDM : Orthogonal Frequency Division Multiplexing)を使用する際はシンボル間干渉(ISI : Inter Symbol Interference)やキャリア間干渉(ICI : Inter CarrierInterference)を防ぐため、CP をOFDM シンボルの下部から上部に付加して使用する。しかし、CP を付加することでOFDM のデータ容量が減少してしまう。そこで、CP を付加することなく干渉を対策し、OFDM 通信を行う事が可能かどうかを検討した。ISI はLeft Null Space の直交基底を使用して削除できる。ICI は最小平均二乗誤差(MinimumMean Square Error)の重みを使用することで削除する事ができる。実際にMATLAB にて2送信3受信及び2送信4受信のシミュレーションを行い、マルチパスによる遅延を改善する事ができた。第4 章では、先行研究を基にCP なしSTBC-MIMO OFDM による水平水中通信の研究をさらに改良し、斜投影(OB : Oblique Projection)方式を採用した性能向上を提案した。この方式は、最小二乗法(LS 法 : Least Squares Method)及びハウスホルダー変換によるQR 分解ベースのOB 演算子を使用して構造化ノイズを完全に削除することができる。シiiiミュレーションでは2 送信3 受信及び2 送信4 受信で行い、2 マルチパスと多マルチパスの環境で比較を行った。両環境でもマルチパスによる遅延を抑圧する事ができた。実際に静岡県沼津市の内浦湾で行われた海洋実験では、従来通りのCP ありOFDM システム、何も対策していないCP なしOFDM システム、そして提案したCP なしSTBC OFDM システムのこれら3 つの環境で比較実験を行った。従来方式は何も問題なく通信する事が可能であり、何も対策していないCP なしOFDM システムは干渉の影響を最も受け通信が不可能だった。提案したCP なしSTBC OFDM システムでは遅延を抑圧する事ができており、従来方式同様安定した通信を可能とした。第5 章では、問題1 及び問題2 に焦点を当て、32kHz 帯域幅の水中小領域音響ネットワーク(USAAN : Underwater Small Area Acoustic Network)を使用したプロトタイプの無線水中ロボット制御システムを開発した。このテーマは沖縄高等工業専門学校、その他複数の民間企業と共同研究しており、水中ドローンチームとシステム開発チームに分かれて行った。琉球大学が担当したのはシステム開発チームである。時分割複信(TDD :Time Division Duplex)及びドップラー補正を使用したシステム構成となっており、1 つの基地局と複数のユーザー機器(UE : User Equipment)で無線サービスエリアを作成し、基地局は1.0 秒毎のダウンリンク(DL : Down Link)を送信する。そして、空きスロット中にUE の1つがDL 信号と同期し、アップリンク(UL : Up Link)信号を送信する方法である。今回はTDD-USAAN の有効性を確認すべく、CP は付加したまま行った。シミュレーション結果はドップラー補正が働いており、コンスタレーションの乱れは改善した。静岡県沼津市内浦湾のバージで行われた海洋実験では、16QAM のコンスタレーションは正常に確認された。その後、プロトタイプ無線水中ロボットに組み込み、水中ロボットを実際に制御することに成功し、水中ドローンで撮影した240x213 ピクセルの水中写真をリアルタイムでアップロードする事に成功した。第6 章では、問題1 から問題3 の全てに焦点を当て、2 つの先行研究を基にチャネル伝達関数(CTF : Channel Transfer Function)と初期同期を備えたUWA OFDM 通信システムを提案した。データを受信した際、初期伸び縮み係数β1 を検出するため、OFDM 信号の先頭へ2 つの長いチャープ信号を挿入して周波数差を検出する。その後その値を初期値に適用する事でドップラー補正を行う。CTF ではコンティニュアス・パイロットを使用して検出した値と本来の値のずれを計算し、修正したCTF を使用して等化した結果を出力する。シミュレーションでは提案する方式の方が安定して通信できており、コンスタレーションも歪みを改善する事ができた。無反響プールでの実験はCTF 補正ありとなしを比較し、CTF 補正ありの方がコンスタレーションもクリアに受信できた。最後に第7 章では本研究の成果についてまとめ、冒頭で掲げた3 つの問題点に対応した提案の有効性を明らかにする。そして、今後の展望を述べる。
志波, 彩子 SHIBA, Ayako
本研究は,主に高宮(2003,2004,2005)の一連の研究によって明らかにされた間接疑問構文の歴史的な発達について,その痕跡が明治期の日本語にどの程度見られるかを,小説(文学)テクストのコーパスから抽出された用例をもとに,現代語とも対照しながら記述した。間接疑問構文の主節述語は,近代に入っても未だ未決タイプ(「知らない」「分からない」等)が多いが,江戸後期には未発達であった既決タイプ(「分かる」「知っている」等)も1 割を超える割合で現れ,対処タイプ(「考える」「確かめる」等)においても形態的な制約がなくなり,主節述語のヴァリエーションが増えていることが確認された。また,間接疑問節のタイプでは,疑問詞疑問のタイプが非常に優勢であることも明らかになった。
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